説明

金属表面の粒間腐食を抑制する方法

本発明では、アルキンジオールとポリアルキレンポリアミンの反応生成物を用いて、生産加工システムにおいて噴霧水ミスト又は凝縮によって生じる金属表面の粒間腐食を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキンジオールとポリアルキレンポリアミン化合物の反応生成物を使用して、工業用水及び加工処理システムにおいて、噴霧水又は凝縮水と接する金属表面の粒間腐食を抑制することに関する。
【背景技術】
【0002】
金属及び合金の微細組織は、粒界により分離された粒子によって構成される。粒間腐食は粒界に沿った、又は粒界に直接隣接した局部的な攻撃と定義することができる。かかる析出により、直接近隣した部分に耐食性の低下した区域が生じ得る。
【0003】
粒間腐食の一例はステンレス鋼の感作又は溶接腐食である。クロムに富んだ粒界析出は、これらの析出部に隣接してCrの局部的な枯渇を導き、その結果これらの領域が腐食性の攻撃を受け易くなる。
【0004】
剥離腐食は粒間腐食の特別の一形態である。剥離又は層割れは、表面に沿った粒界に従って現れる層内の金属の損失として起こる。例えば、キャスター内の剥離は、直接噴霧水との接触が起こらない下部の濡れてない構造体で起こる。鋼は、表面が噴霧水ミスト又は凝縮水によってのみ濡らされる高温の多湿環境に晒される。腐食は鋼表面に沿って急速に伝播し、その結果二次支持構造体の構造的一体性が失われる。
【0005】
剥離腐食の作用機構は噴霧水中の塩化物の存在に関連している。噴霧水システム内で使用するとき、ミスト(蒸気)は蒸気室全体に広がり、鋼表面上で凝縮する。熱と湿気により、鋼表面から水が気化し、濃縮された塩化物イオンが残る。この過程が続き、剥離が起こるまで塩化物イオンがさらに濃縮される。
【0006】
クーポン分析により、腐食の作用機構が以下のように明らかになった。すなわち、金属表面上に付着した塩化物イオンが、生成した腐食生成物/付着物の脆性層を通って移行する。この付着物の下に、過渡期の塩化鉄塩が生成する。この塩は吸湿性(湿気を吸収する性質)であり、加水分解を受け、酸塩化物条件を作り出す。酸性腐食最前線が金属表面中をより深く進むにつれて追加の酸化鉄腐食生成物がその後に残される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、産業界では、生産加工システムに存在する剥離腐食に対処する技術と抑制剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生産加工システム、例えば、蒸気及び冷却水システムにおいて、噴霧水又は凝縮水と接する金属表面の粒間腐食を抑制するために、十分な腐食抑制量のアルキンジオールとポリアルキレンポリアミンの反応生成物を噴霧水に添加することを含んでなる方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
反応生成物が形成される条件は米国特許第3211667号(その内容は全体が援用により本明細書の内容の一部をなす)に記載されている。
【0010】
この反応生成物を製造するのに有効であると教示されているアルキンジオール及びアルケンジオールは炭素原子数4〜12のものである。アルキンジオールは炭素原子数4のものが好ましい。代表的なアルキンジオールはブチンジオールである。
【0011】
反応生成物を製造するのに有効であると教示されているポリアルキレンポリアミン化合物は2〜10個のアミン基、好ましく、3〜7個のアミン基を含有するものである。これらのアミン基は置換でも非置換でもよく、各々炭素原子数1〜6、好ましくは2〜4のアルキレン基で隔てられている。代表的なポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ペンタプロピレンヘキサミン、トリヘプチレンジアミンなどがある。
【0012】
反応体の重量比はそれぞれの成分間の完全な反応を達成するようなものであり、例えばアミン対ジオールの重量比が4:1〜1:1であり、3:1が好ましい。この反応には酢酸銅のような銅のイオン化可能な化合物を触媒量で使用する。
【0013】
本発明の反応生成物は、金属表面の腐食を抑制するのに十分な量で噴霧水に添加すればよい。反応生成物は供給ライン中に存在する水百万部当たり0.5〜約500部の範囲の量で供給ラインに添加するとよい。好ましくは、水百万部当たり約1〜100部添加し、水百万部当たり約5〜10部が特に好ましい。
【0014】
本発明の反応生成物は溶媒に溶かして、又は純粋な形態で供給ラインに添加する。好ましくは、反応生成物を水性溶媒に溶かして添加し、その一例は水である。反応生成物は消泡剤、腐食抑制剤などの他の適切な成分と共に噴霧水に添加することができる。噴霧水は通例、処理しようとするシステム内で約110〜180°Fの温度である。
【実施例】
【0015】
以下に示すデータは本発明によって得られる予想外の結果を例証する。以下の実施例は本発明を例示するものであり、その範囲を制限するものではない。
【0016】
実施例
金属表面で腐食の作用機構が生起するのを抑制するために、成膜性物質を添加して水と塩化物から表面を隔離することを仮定した。2−ブチン−1,4−ジオール−ポリエチレンポリアミン(生成物A)を添加すると、鋼の腐食速度が大きく低下した(表1と2に示す通り)。すべての試験で、噴霧室内に各種の腐食クーポンを入れるためにクーポンツリーを作成した。溶液はキャスタースプレーに通じる供給ライン中に注入した。こうすることにより、物質が噴霧室全体に分配された。
【0017】
【表1】

【0018】
鉄のレベルは付着物中で顕著に低下した。
【0019】
【表2】

【0020】
この結果が示しているように、塩化物濃度は非処理側(5%)と処理側(6%)で同様であるが、他の成分は劇的に異なっていた。非処理側の鉄のレベルは88%であり、剥離のレベルもかなりのものであった。 処理側では、鉄のレベルはわずかに23%であり、剥離は存在しなかった。処理側のカルシウムは52%であり、腐食の抑制を示していた。
【0021】
追加の試験で、腐食クーポンを生成物A中に浸漬し、処理及び非処理ストランド内の非処理クーポンに近接して配置した。非処理ストランドでは、浸漬したクーポンはほとんど腐食が見られなかったが、非処理クーポンは剥離した。処理ストランドでは、非浸漬クーポンに対して腐食の抑制の点で顕著な改善が見られた。
【0022】
本発明の別の試験で、別のクーポンツリーを作成した。試験したクーポンには、軟鋼、ステンレス鋼、銅及び被覆軟鋼が含まれていた。
【0023】
8日後初期検査として一組の軟鋼クーポンを取り出した。クーポンの結果を下記表3に示す。ストランド#2のクーポンは剥離の徴候を示したが、ストランド#1のクーポンは全体的な腐食作用機構を示しただけだった。
【0024】
【表3】

【0025】
さらに下記表4に示すように、生成物Aを注入したストランド#1の腐食クーポンツリーでは腐食の速度が大きく低下した。生成物Aはシステム全体に15ppm供給した。軟鋼の腐食速度はほとんどの位置で約50〜80%低下した。上に示したように、ストランド#2のクーポンは剥離の徴候を示したが、ストランド#1のクーポンは全体的な腐食作用機構を示しただけだった(剥離はなかった)。
【0026】
【表4】

【0027】
残りのクーポンはすべてステンレス鋼か被覆クーポンであったことに注意されたい。これらのクーポンではいずれも有意義な腐食は見られなかった。加えて、本発明の処理は噴霧水システムのノズル性能に悪影響を与えることがなかった。
【0028】
特定の実施形態に関して本発明を説明して来たが、当業者には本発明の他の様々な形態と修正が明らかであろう。特許請求の範囲及び本発明は、本発明の思想と範囲内に入るかかる自明の形態及び修正をすべて含むものと了解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産加工システムにおいて噴霧水と接する金属表面の粒間腐食を抑制する方法であって、十分な腐食抑制量のアルキンジオールとポリアルキレンポリアミンの反応生成物を噴霧水に添加することを含んでなる方法。
【請求項2】
前記粒間腐食が剥離腐食である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属表面が連続キャスター表面である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記剥離腐食が噴霧水ミスト又は凝縮により濡れた金属表面上で起こる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記アルキンジオールが、炭素原子数約4〜12のアルキン基を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記アルキンジオールがブチンジオールである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ポリアルキレンポリアミンが2〜10個のアミン基を含んでおり、各アミン基が炭素原子数1〜6のアルキレン基で互いに隔てられている、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ポリアルキレンポリアミンがペンタエチレンヘキサミンである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記反応生成物を、水百万部当たり0.5〜約500部の範囲の量で噴霧水に添加する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記噴霧水が約110〜約180°Fの温度である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記反応生成物を水性溶媒中で噴霧水に添加する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記金属表面が鉄含有金属表面である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記反応生成物を、水百万部当たり1〜約100部の範囲の量で噴霧水に添加する、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記反応生成物を、水百万部当たり5〜約10部の範囲の量で噴霧水に添加する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記生産加工システムが蒸気及び冷却水システムを含んでなる、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2006−504870(P2006−504870A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549947(P2004−549947)
【出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/028266
【国際公開番号】WO2004/042115
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(397042322)ジーイー・ベッツ・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】GE Betz,Inc.
【Fターム(参考)】