説明

金属表面をリン酸塩処理するための電解法及びそれによりリン酸塩処理された金属層

本発明は、少なくとも亜鉛イオンとリン酸塩イオンとを含有する酸性水溶液から、同時に直流を用いて電着させることによって金属層をリン酸塩処理するための方法に関する。リン酸塩処理層の堆積と同時に亜鉛の電着を同一の電解質中で生じさせる。この場合、電流密度は>−5A/dmの範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、請求項1の上位概念に記載の、金属表面をリン酸塩処理するための電解法に関する。本発明は該方法を用いて製造されたリン酸塩処理された金属層にも関する。
【0002】
先行技術
亜鉛のリン酸塩処理は低合金鋼の腐食防止のための広く知られた方法である。この場合、pH調節された沈殿反応において、リン酸亜鉛結晶(ホープアイト)が構造部材表面上に堆積される。リン酸塩層を堆積させるためには、リン酸亜鉛の溶解度積を越えなければならない。これは卑金属に対する攻撃(腐食)により行われる(例えばFe→Fe2++2e−)。この際に遊離する電子はプロトン還元に利用される。pHは中性から塩基性の方向にシフトし、溶解度積を超える。この場合通常2〜3μm厚の層が形成され、該層は約90〜95%の被覆度を有する。腐食防止は生じる薄くかつ多孔質の層によって制限されるため、通常は別の被覆、例えば腐食防止油又はKTLと組み合わせられる。更なる研究は、そのような付加的な被覆を省きながら腐食防止の向上を目的としている。
【0003】
より厚い層を達成するための出発点は、電解電流の使用である。電解反応によって、影響を受けやすいpHシフト及びそれに伴う層成長の調節が生じる。
【0004】
JP−A−85/211080は、腐食防止層を金属表面上に亜鉛−リン酸塩処理溶液を用いてカソード電流を一時的に適用して製造するための方法に関する。この場合、特に処理すべき金属表面の縁部でも耐腐食性の保護層が生じる。
【0005】
類似の方法がEP−A−0171790に開示されている。この場合、金属表面は、慣用の亜鉛−リン酸塩処理に引き続いて、亜鉛イオン、リン酸塩イオン及び塩素イオンを含有する酸性水溶液で処理され、その際、アノード接続された金属表面上に同時に直流が印加される。
【0006】
DE−4111186A1から、金属表面、有利に電解めっき又は融解めっきされた鋼ストリップ表面を、酸性のリン酸塩処理水溶液を用いた浸漬又は吹付け浸漬で処理することによりリン酸塩処理するための方法が公知であり、その際、同時に未完成製品がカソードで直流で処理される。この場合、以下の成分を含有するリン酸塩処理溶液で処理される:Zn2+カチオン0.1〜5g/lの範囲内;PO3−アニオン5〜50g/lの範囲内;NOアニオン0.1〜50g/lの範囲内;及びNi2+カチオン0.1〜5g/lの範囲内及び/又はCo2+カチオン0.1〜5g/lの範囲内。リン酸塩処理溶液のpH値はこの場合1.5〜4.5の範囲内にあり、リン酸塩処理溶液の温度は10〜80℃の範囲内である。未完成製品をリン酸塩処理の間にカソード処理する直流の電流密度は0.01〜100mA/cmである。
【0007】
慣用のリン酸塩処理法の欠点は、該リン酸塩処理法が、低合金鋼、並びにZn及びAlに制限され、かつ生じた層がリン酸亜鉛結晶から成るという事実に基づき、カソードでの腐食防止が不可能であるという点にある。更に、大抵の場合、前接続された活性化が必要である。
【0008】
発明の利点
金属表面をリン酸塩処理するための本発明による方法は、先行技術に対して、厚さがほぼ任意に調節可能である密な層が形成されるという利点を有する。
【0009】
他の利点は、生じた層が明らかにより高い耐腐食性を有するという点にある。
【0010】
更に、リン酸塩処理を活性化なしに行うことができることが有利である。
【0011】
本発明の有利な実施態様は、従属請求項に記載された措置から明らかである。
【0012】
例えば、電気分解を定電圧又は定電流で、もしくは双方の分を混合して実施することができる。
【0013】
図面の簡単な説明
本発明の実施例は図に示されており、以下の説明において詳説される。図は本発明による製造法の原則的な概略を示す。
【0014】
実施例
本発明の目的は、金属表面のリン酸塩処理のための電解被覆法の研究であり、その際、リン酸塩層中の細孔が金属亜鉛又は亜鉛合金により充填される。本発明による方法の場合、亜鉛−又は亜鉛合金の電着はリン酸亜鉛結晶形成と同時に同一の電解質中で行われる。本発明による方法は、清浄化ないし腐食の後に未完成製品をリン酸チタン懸濁液中に(pH〜9で約60秒間)浸漬させる慣用のリン酸塩処理とは異なり、前接続された活性化プロセスなしでうまく実施することができる。層形成速度は、電流密度j=−10〜−50A/dmで約3〜20μm/分で極めて迅速である。従来用いられてきた慣用の方法の場合、約1μm/分で堆積されるに過ぎなかった。前記の方法の場合、低合金鋼に加え、ステンレス鋼並びに他の高価な、及び高価でない材料、例えばAl、Al合金、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金等を直接被覆することもできる。それに対して、無通電の方法の場合、腐食攻撃を許容する材料上にのみ堆積させることができ、それというのも、さもなければ上記の必要なpHシフトを生じさせることができないためである。電気分解はこの場合定電圧又は定電流で制御することができ、又は双方の分を混合して実施することができる。
【0015】
本発明による方法の場合、密な層が形成され、該層は、リン酸亜鉛結晶間の空間が金属堆積された亜鉛又は亜鉛合金から成るネットワークにより充填されることを特徴とする。導電性亜鉛ないし亜鉛合金の同時の形成により、電気分解により誘導されるpHシフトを生じさせることができ、即ち、電子が外部から供給され、亜鉛(亜鉛合金)/リン酸亜鉛層のほぼ任意の層厚成長が亜鉛表面上でのHの還元により達成される。
【0016】
図は、本発明による被覆法の原則的な概略を示す。この場合、相応する卑金属から成る作業電極11と対向電極12とを有する慣用の電解セル10において、電解質13により、亜鉛/リン酸亜鉛層14が卑金属11上に堆積される。既に示唆したように、標準的なリン酸塩処理とは異なり、ここで、pHシフトのために必要な電子は、低合金鋼からの鉄腐食(卑金属に対する腐食攻撃)ではなく、外部電源15に由来する。この保護電流は特に卑金属11を腐食させないためにも用意される。
【0017】
本発明による方法を用いて、閉じた、即ち十分に非多孔質の混合層(金属、例えば亜鉛、亜鉛/ニッケル、遊離卑金属なしの充填されたリン酸塩層)を約3μm〜約500μm実質的に制限なく堆積させることができる。慣用的に製造された層が、塩噴霧試験において赤錆形成まで約5時間の耐久性を有するのに対して、20〜30μmの亜鉛/リン酸亜鉛混合層を用いた場合、塩噴霧試験における1000時間を上回る耐久性を達成することができた。既に30秒間のリン酸塩処理時間の後で、耐腐食性は420時間を上回る。
【0018】
本発明の方法による被覆法は、一般に慣用の電解セルにおいて実施することができる。対向電極はこの場合貴金属薄板、例えば白金、Pt/Ti又は金からのみならず、高価でない犠牲アノード、例えばZn、Ni、Feから成っていてもよく、これは金属イオンへの連続的な後輸送を引き起こす。上に層が堆積される作業電極(卑金属)として、ステンレス鋼並びに青銅、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金等を使用することができる。電解質は本質的に、外部無通電リン酸塩処理の際に使用されるような電解質である。電解質はこの場合例えば以下:
Zn2+ 5〜50g/l
PO 5〜80g/l
を含有する。
【0019】
これに関連して、亜鉛含量が5g/lを上回るいわゆる高亜鉛浴を使用するのが重要であるが、その一方で、通常の慣用の低亜鉛浴内では亜鉛含量がたった約1〜5g/lであり、その際、リン酸塩結晶の間に元素状の亜鉛−ないし亜鉛合金の堆積は生じない。
【0020】
付加的に、電解質は、亜鉛と合金を形成し得る元素のイオンを含有することができるため、リン酸塩処理層の堆積の際に同時に亜鉛合金の堆積が生じる。ナノ粒子及び有機分子の添加も考え得る。層の変性のための他の可能な浴添加物は、ポリリン酸塩、ホウ酸塩、有機ポリヒドロキシ化合物、リン酸グリセリン及びフッ化物である。付加的なイオンは例えば二価の金属Mのイオンであってよく、その際、他の二価の金属Mは、Ni、Fe、Co、Cu、Mn等から成る群から選択されている。
【0021】
反応は、促進剤を添加して、又は添加せずに実施することができる。促進剤として、例えば尿素、硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、過酸化水素、オゾン、有機ニトロ体、ペルオキシ化合物、ヒドロキシルアミン又はその混合物が該当する。0〜20g/lの範囲内の硝酸塩イオンは促進剤として有利である。浴のpH値は1.5〜4、有利に2.5〜3.5である。Zn塩、Ni塩、Co塩、Fe塩又はMn塩の添加により、二元、三元又は多元合金を堆積させることができる。金属イオンを電解質にアノード溶解により供給することもできる。
【0022】
電気分解条件に関して、電解質はプロセスの間に静止しているか又は動いていてよい。電流密度は>−1A/dmであり、有利におおよそj=−1〜おおよそj=−100A/dmの範囲内で変動する。−5〜−50A/dmの範囲内の電流密度は特に有利である。電解質の温度は>40℃であり、有利に40〜80℃の範囲内、特に有利に60〜70℃の範囲内である。
【0023】
既に述べたように、電解プロセスを定電圧又は定電流で制御することができ、その際、直流又はパルス化された直流を適用することができる。局所電流密度の制御により、即ちアノードと未完成製品の間の造形及び/又は電流遮断により、層厚分布を調節することができる。このようにして、幾何学的に要求の多い部分を被覆することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による製造法の原則的な概略を示す図。
【符号の説明】
【0025】
10 電解セル、 11 作業電極(卑金属)、 12 対向電極、 13 電解質、 14 亜鉛/リン酸亜鉛層、 15 外部電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも亜鉛イオンとリン酸塩イオンとを含有する酸性水溶液から、同時に直流を用いて電着させることによって金属層をリン酸塩処理するための方法において、リン酸塩処理層の堆積と同時に亜鉛の電着を同一の電解質中で生じさせ、その際、電流密度は−5A/dmより大きいことを特徴とする方法。
【請求項2】
電流密度が−5〜−50A/dmの範囲内である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
温度が>40℃の範囲内であり、有利に40〜80℃、特に60〜70℃である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
電解質が、>5g/lの範囲内、特に5〜50g/lの範囲内の亜鉛イオン、及び、>10g/lの範囲内、特に10〜80g/lの範囲内のリン酸塩イオンを含有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
酸性水溶液が付加的に亜鉛と合金を形成し得る元素のイオンを含有するため、リン酸塩処理層の堆積の際に同時に亜鉛及び/又は亜鉛合金の堆積を行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
イオンの代わりにナノ粒子又は有機分子を使用する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
付加的なイオンが二価の金属Mのイオンである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
他の二価の金属Mを、Ni、Fe、Co、Cu、Mn等から成る群から選択する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
金属層を、ステンレス鋼、青銅、Al、Al合金、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金等から成る群から選択する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
電解質のpH値が約1.5〜約4、有利に約2.5〜約3.5である、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
電解質に促進剤を添加する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
促進剤を、尿素、硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、過酸化水素、オゾン、有機ニトロ体、ペルオキシ化合物、ヒドロキシルアミン又はその混合物から成る群から選択する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
二価の金属Mの金属イオンを電解質のアノード溶解により供給する、請求項7記載の方法。
【請求項14】
電解質に付加的にZn塩、Ni塩、Co塩及び/又はMn塩を添加する、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
電解質が以下の組成:
・Zn2+ 5〜40g/l;
・Mn2+ 0.5〜10g/l;
・HPO 10〜40g/l;及び
・NO 1〜10g/l;
を有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
電気分解を定電圧又は定電流で、もしくは双方の分を混合して実施する、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
金属層上での層厚分布を局所電流密度により調節する、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
直流をパルス化する、請求項1から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
層形成速度が約3〜約20μm/分の範囲内である、請求項1から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
上に堆積された多孔質のリン酸亜鉛層を有する金属層において、リン酸亜鉛層の細孔が金属亜鉛及び/又は亜鉛合金で充填されていることを特徴とする金属層。

【公表番号】特表2007−508457(P2007−508457A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534745(P2006−534745)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052269
【国際公開番号】WO2005/038095
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】