説明

金属製品の付着樹脂の除去方法

【課題】樹脂が付着した金属製品を、従来よりも劣化させることなく、樹脂を金属製品から作業性よく安全かつ容易に除去可能な金属製品の付着樹脂の除去方法を提供する。
【解決手段】融点が600℃以下の塩素を含まない樹脂が付着した金属製品を、容器10内のアルカリ剤を主体とする溶液に浸漬し、容器10を加熱炉11に装入して、加熱炉11内を樹脂の融点以上に昇温し、金属製品を間接的に加熱処理して樹脂を除去するので、樹脂が付着した金属製品を、従来よりも劣化させることなく、樹脂を金属製品から作業性よく安全かつ容易に除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品(例えば、樹脂の加工機器)に付着した樹脂の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂製品の製造は、例えば、金属製のダイス又は攪拌機のような機器を使用して行っている(例えば、特許文献1参照)。樹脂製品の製造に際して機器を長時間使用する場合、機器に樹脂が付着して固結したり、またフィルターに目詰まりが生じ、機器の処理能力の低下(更には稼働不可)、又は異物混入の問題が生じるため、樹脂製品の製造を一時停止し、例えば、加熱炉又はバーナで機器を加熱して分解し、各々の部品を交換している。
回収した金属製部品の処理は、各部品に付着した樹脂を、例えば、加熱炉又はバーナの炎で焼き、更に残存付着する樹脂をサンダー又はやすりで削り取ったり、また有機溶媒に浸漬することにより、部品を直接的に長時間加熱処理することなく樹脂を剥がしている。そして、このように、種々の物理的又は化学的な処理を施した部品は保管され、使用によって機器に樹脂が付着した場合に、この部品と交換して再利用される。
【0003】
【特許文献1】特開平5−204241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような高温条件下での部品の加熱処理は、部品を劣化させたり、また破壊を発生させ易い。特に、樹脂の付着した部品を加熱炉又はバーナで直接焼き、樹脂を分解ガス化処理する方法では、樹脂自体が着火し、急激に高温(例えば、700℃以上1000℃以下程度)で燃焼するため、部品の加熱温度制御が不能になり、部品が高温劣化し、更には破壊する。また、上記した方法では、残存付着する樹脂を削り取ったり、有機溶媒で除去する必要があるため作業性が悪い。
なお、樹脂除去方法として、有機溶媒と超音波処理を組み合わせた方法もあるが、樹脂の種類に応じた最適な条件設定が必要であり、また溶媒の沸点(例えば、o−ジクロロベンゼン:179.0℃、キシレン:129℃以上141℃以下、四塩化エチレン:120.8℃、トルエン:110.8℃、トリクレン:87.0℃、四塩化炭素:76.8℃)が低い。ここで、付着樹脂を溶媒で短時間に完全除去するには、樹脂の沸点以上の溶媒加熱が必須条件であり、しかも溶媒揮発蒸気の引火爆発の恐れがあることから、多量に付着した樹脂を安全に完全除去することは不可能であった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、樹脂が付着した金属製品を、従来よりも劣化させることなく、樹脂を金属製品から作業性よく安全かつ容易に除去可能な金属製品の付着樹脂の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る金属製品の付着樹脂の除去方法は、融点が600℃以下の塩素を含まない樹脂が付着した金属製品を、容器内のアルカリ剤を主体とする溶液に浸漬し、該容器を加熱炉に装入して、該加熱炉内を前記樹脂の融点以上に昇温し、前記金属製品を間接的に加熱処理して前記樹脂を除去する。
【0007】
本発明に係る金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記加熱炉はガスを熱源として使用し、前記ガスに、前記加熱処理の際に発生する前記樹脂成分を含むガスを使用することが好ましい。
本発明に係る金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記加熱炉は電気及び可燃物のいずれか1を熱源として使用し、前記加熱処理の際に発生する前記樹脂成分を含むガスは、燃焼炉で焼却処理が行われ、更に水洗塔で冷却処理が行われた後、大気へ放出されることが好ましい。
【0008】
本発明に係る金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記樹脂は、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、全芳香族ポリエステル、及び熱可塑性ポリイミドのいずれか1又は2以上であることが好ましい。
本発明に係る金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記金属製品は、前記樹脂の製造工程で使用する機器の部品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜5記載の金属製品の付着樹脂の除去方法は、アルカリ剤を主体とする溶液に金属製品を浸漬させて間接的に加熱処理することにより、例えば、従来のように、樹脂を燃焼発火させることなく、金属製品の損傷を小さくして、樹脂を短時間に作業性よく安全に除去できる。
特に、請求項2記載の金属製品の付着樹脂の除去方法は、加熱処理の際に発生する樹脂成分を含むガスを、加熱炉の炉内温度上昇のための熱源として使用するので、熱源を節約でき、しかも環境に優しい。
【0010】
請求項3記載の金属製品の付着樹脂の除去方法は、加熱処理の際に発生する樹脂成分を含むガスを、焼却処理して冷却処理するので、安全に無害化処理できる。
請求項5記載の金属製品の付着樹脂の除去方法は、樹脂の製造工程で使用する機器の部品に付着した樹脂の除去を行うことにより、従来よりも部品の損傷を低減できるので、部品交換に要する費用を低減でき経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る金属製品の付着樹脂の除去方法の説明図、図2は同金属製品の付着樹脂の除去方法で使用する加熱炉の炉内温度パターンを示すグラフである。
【0012】
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る金属製品の付着樹脂の除去方法は、融点が600℃以下の塩素を含まない樹脂が付着した金属製品を、容器10内のアルカリ剤を主体とする溶液に浸漬して、金属製品を容器10ごと加熱炉11に装入して、加熱炉11内を樹脂の融点以上に昇温し、金属製品を間接的に加熱処理して樹脂を除去する方法である。以下、詳しく説明する。
【0013】
金属製品とは、樹脂の製造工程で使用する機器の部品であり、例えば、各種フィルター(網目プレート、ポロフィルター、又は焼結金属フィルター)、ポンプ、撹拌羽根(クロムめっき処理の有無は問わない)、ノズル(紡糸ノズル)、ロール、又は金型(ペレット製造用、ロープ繊維用、又は溶融用)がある。なお、これらを構成する素材としては、例えば、鉄、ステンレス、銅、黄銅、及びニッケルクロム系合金のいずれか1又は2以上である。
また、これらの機器の部品に付着する樹脂は、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、全芳香族ポリエステル、及び熱可塑性ポリイミドのいずれか1又は2以上であり、融点が600℃以下(好ましくは500℃以下、更に好ましくは450℃以下)の塩素を含まない熱可塑性樹脂である。なお、樹脂の融点の下限値については規定していないが、例えば、200℃未満の低融点の樹脂は他の除去方法でも対応可能であるため、融点が200℃以上(好ましくは250℃以上)の樹脂を対象とすることが好ましい。
【0014】
この金属製品を、容器10に入れたアルカリ剤を主体(例えば、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上)とする溶液に浸漬する。なお、金属製品の浸漬状態は、金属製品の一部(例えば、上部)が溶液の上方に出ていてもよいが、金属製品の全部が溶液に浸漬していることが好ましい。
使用する容器10は、金属製品が入る大きさを備えていればよく、耐熱性及び耐アルカリ性を備える鉄材又はステンレス材(例えば、厚みが4mm以上)で構成されている。
この容器10に入れる溶液は、アルカリ剤であるNaOHを使用したNaOH水溶液(例えば、水溶液中のNaOHの下限が20質量%、好ましくは40質量%、上限が100質量%、好ましくは80質量%)を使用することが好ましいが、KOH水溶液を使用することも可能である。なお、常温の溶液を使用する場合、樹脂の付着した金属製品を溶液に浸す準備作業を、安全に実施できる。
【0015】
この金属製品を入れた容器10を加熱炉11に装入して、金属製品の加熱処理を行う。
この加熱炉11は、電気及び可燃物のいずれか1を熱源として使用するものである。なお、可燃物とは、例えば、重油、灯油、又はガスである。
この加熱処理に際しては、加熱炉11内を樹脂の融点(Tm)以上、例えば、Tm+50℃以上、好ましくはTm+100℃以上、更に好ましくはTm+150℃以上に徐々に昇温する。なお、この温度は、樹脂の種類に応じて設定することが好ましく、例えば、200℃以上800℃以下の範囲内である。
このように、容器10に入ったアルカリ液を介して、金属製品を間接的に加熱処理するので、付着した樹脂を燃焼させることなく、金属製品の加熱処理の際の温度調整が容易になり、樹脂を溶解しながら金属製品から剥がすことができる。
【0016】
図2に示すように、加熱炉11内の温度が目標温度(ここでは350℃程度)に達した後、その温度を、金属製品から樹脂がほほ完全に剥がれるまで(例えば、1時間以上3時間以下程度)維持することにより、金属製品から剥がれ溶融した樹脂を溶液の液面側へ浮上させ、分解を促進して可燃性のガスにする。
この加熱処理の際に発生する樹脂成分を含むガスは、加熱炉11に接続されたダクト(図示しない)を介して、加熱炉11の下流側に配置したバーナを備える燃焼炉12で焼却処理される。これによって、ガス中の樹脂成分は完全燃焼され、脱臭塔(例えば活性炭を使用)で無害化処理されて、更に、水洗塔13で冷却処理を行って大気へ放出される。なお、水洗塔13では、燃焼ガス中に含まれる塵埃も除去できる。
【0017】
また、完全燃焼させる際に放出されるエネルギーは、例えば、ボイラーの熱源として再利用することも可能である。
なお、樹脂の処理量が増大にするに伴い、樹脂を分解した可燃性ガス量も相乗的に大容量になるため、このガス(樹脂成分を含むガス)を加熱炉11の熱源の一部又は全部に使用することもできる。
このように、加熱炉11内から発生したガスは、無害化処理され、更には資源化される。
【0018】
樹脂が金属製品から剥がれたことを確認した後、加熱炉11の炉内温度を徐々に低下させ、溶液を自然冷却する。なお、この間も、加熱炉11内のガスに対し、引き続き前記した無害化処理を行う。
そして、溶液の温度が十分に低下(例えば、50℃以下程度)したことを確認して、加熱炉11内から溶液に浸漬した金属製品を取り出す。この取り出した金属製品は、その表面に付着したアルカリを酸で中和処理(好ましくは、大量の水でアルカリを洗い流した後に中和処理)した後、表面状態を観察し、問題が無ければ、また、樹脂の残存付着がなければ、再利用される。なお、金属製品の表面に樹脂が残存付着している場合は、再度上記した処理を繰り返し行って再利用する。
このように、樹脂が付着した金属製品を、従来よりも劣化させることなく、樹脂を金属製品から作業性よく安全かつ容易に除去できる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例1、2について説明する。
(実施例1)
まず、金属(鉄)製のダイスからポリアミド樹脂(融点:200℃以上220℃以下程度又は250℃以上260℃以下程度)を除去した実施例1について説明する。
ポリアミド樹脂が付着したダイスを、NaOH水溶液が入った容器に入れ、これをプロパンガスコンロを備えた加熱炉に装入した。そして、プロパンガスコンロの火力を調整しながら、炉内(溶液)を常温から400℃以上になるまで徐々に昇温した。
【0020】
炉内を400℃まで昇温させた後、この温度を2時間維持することで、ダイスに付着したポリアミド樹脂をNaOH水溶液に完全に溶かし、ダイスからポリアミド樹脂を除去した。このとき、付着樹脂が分解して発生したガスを、ブロワーで燃焼炉に、更には水洗塔に吸引した。
ダイスからポリアミド樹脂が除去されたことを確認した後、プロパンガスコンロのガスの供給を停止し、NaOH水溶液を自然冷却してその液温を50℃以下にし、ダイスを取り出して中和処理した。
処理済みのダイスの表面観察を行ったところ、損傷及び残存樹脂もなく、良好な状態に処理できた。
【0021】
(実施例2)
次に、ステンレス製のダイスからポリエチレン樹脂(融点:135℃以上145℃以下程度)を除去した実施例2について説明する。
ポリエチレン樹脂が付着したダイスを、NaOH水溶液が入った容器に入れ、これをガスを熱源とする加熱炉に装入し、密閉状態で加熱処理した。そして、加熱炉の燃焼ガス温度を制御して、炉内温度(溶液温度)を調整した。
【0022】
炉内温度が250℃以上になると、ダイスに付着していたポリエチレン樹脂がNaOH水溶液に溶解して分解しガスが発生した。この発生したガスを燃焼処理し、水洗塔で冷却した後、環境に安全なガスとして大気へ排出した。
ダイスからポリエチレン樹脂が除去されたことを確認した後、ガスの供給を停止し、NaOH水溶液を自然冷却してその液温を50℃以下にし、加熱炉からダイスを取り出して中和処理した。
処理済みのダイスの表面観察を行ったところ、損傷及び残存樹脂もなく、良好な状態に処理できた。
【0023】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の金属製品の付着樹脂の除去方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、樹脂の製造工程で使用する機器の部品に、樹脂が付着したものについて説明したが、樹脂を使用した金属製品、例えば、銅線の銅を被覆した樹脂を除去することもできる。
そして、前記実施の形態においては、アルカリ剤を主体とする溶液として、NaOHを使用したNaOH水溶液を使用した場合について説明したが、低融点(例えば、200℃以上500℃以下程度、好ましくは200℃以上400℃以下程度)のアルカリ剤を主体とする溶液(又はアルカリ剤)であれば、これに限定されるものではなく、例えば、複数のアルカリ剤を混合した溶液を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る金属製品の付着樹脂の除去方法の説明図である。
【図2】同金属製品の付着樹脂の除去方法で使用する加熱炉の炉内温度パターンを示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
10:容器、11:加熱炉、12:燃焼炉、13:水洗塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が600℃以下の塩素を含まない樹脂が付着した金属製品を、容器内のアルカリ剤を主体とする溶液に浸漬し、該容器を加熱炉に装入して、該加熱炉内を前記樹脂の融点以上に昇温し、前記金属製品を間接的に加熱処理して前記樹脂を除去することを特徴とする金属製品の付着樹脂の除去方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記加熱炉はガスを熱源として使用し、前記ガスに、前記加熱処理の際に発生する前記樹脂成分を含むガスを使用することを特徴とする金属製品の付着樹脂の除去方法。
【請求項3】
請求項1記載の金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記加熱炉は電気及び可燃物のいずれか1を熱源として使用し、前記加熱処理の際に発生する前記樹脂成分を含むガスは、燃焼炉で焼却処理が行われ、更に水洗塔で冷却処理が行われた後、大気へ放出されることを特徴とする金属製品の付着樹脂の除去方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記樹脂は、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、全芳香族ポリエステル、及び熱可塑性ポリイミドのいずれか1又は2以上であることを特徴とする金属製品の付着樹脂の除去方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属製品の付着樹脂の除去方法において、前記金属製品は、前記樹脂の製造工程で使用する機器の部品であることを特徴とする金属製品の付着樹脂の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−90269(P2007−90269A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284761(P2005−284761)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(505365688)株式会社佐藤商店 (1)
【Fターム(参考)】