説明

金属触媒及び金属触媒の製造方法

【解決課題】 金属の担持量を従来と同程度又は少量としても十分耐久性、活性に優れる触媒、及び、その製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、触媒粒子として1種以上の金属を多孔質体よりなる担体上に担持してなる金属触媒であって、1種以上の金属塩と有機物の溶液を担体に吸着させ、加熱及び焼成することにより得られる1種以上の金属からなるクラスターサイズ1〜10nmの触媒粒子が担体上に担持された金属触媒である。このとき前記有機物は、一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールのモノマー、ダイマー、トリマー、ポリマー、水溶性高分子化合物、単糖類、二糖類、多糖類、炭水化物、カルボン酸類及びその塩、界面活性剤といった水溶性有機化合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種以上の金属が多孔質担体に担持された金属触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属触媒は多くの分野で使用されており、化合物合成反応、燃料電池反応等の反応促進の他、自動車排ガスの浄化等広く各種の分野で使用されている。これまで使用されている触媒は、多くは酸化物、カーボン等からなる多孔質体を担体とし、これに白金、パラジウム、ロジウム等の金属を中心として担持したものである。また、最近では、活性の向上を目的として複数の金属が担持された多元系金属触媒も一般的になりつつある。
【0003】
金属触媒は、担持する1以上の金属の塩(化合物)の水溶液を作成し、これに担体を混合して金属イオンを担体上に吸着させた後、乾燥・焼成して製造される。
【特許文献1】特公平6−75675号公報
【特許文献2】特開昭59−49844号公報
【特許文献3】特許第3314897号公報
【0004】
近年、触媒が適用される環境はより厳しくなってきており、これまでより高い活性、耐久性を発揮することが要求されている。例えば、排ガス浄化触媒では、近年の地球環境保護の観点から、排ガス規制の強化により排ガス触媒の設置位置をよりエンジンに近づけてマニホールド直下に設置することがある。この場合、自動車の高速走行時において排ガス温度が800℃以上と従来より高くなるため、従来の触媒では比較的短期に劣化が生じることがある。また、環境問題を背景として開発されたリーンバーンエンジンでは、二酸化炭素の排出量を低減するために、酸素過剰の混合気を供給するものでありかかる雰囲気で800℃以上の高温にさらされた触媒は活性に劣ることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような使用環境の変化に対して、触媒の耐久性向上又は活性向上を図る方法としては、担持する金属の量を増加させることが第1に考えられる。しかし、金属量の増加は触媒のコストを増大させることとなり、また、資源の枯渇の問題も生じる。
【0006】
そこで、本発明は、金属の担持量を従来と同程度又は少量としても十分耐久性、活性に優れる触媒、及び、その製造方法を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
触媒において、活性が低下する要因としては、高温環境の下で担体上の触媒粒子が凝集(シンタリング)して粗大な触媒粒子を形成する結果、触媒金属の表面積が小さくなり、これにより活性が低下することが考えられる。かかる触媒粒子の凝集は、触媒粒子が担体上を容易に移動することにより生じるものであるが、この触媒粒子の移動のし易さは、その融点により左右されやすい。そして、従来の触媒では、触媒粒子は原子状・分子状金属であるため極めて粒径が微小で融点も低い。
【0008】
そこで、担持する触媒金属の量を増加させることなく活性等の特性向上を図る手段としては、触媒粒子の粒径を適度な範囲とし、容易に担体上を移動できないようにすることが考えられる。本発明者等によれば、触媒粒子の適度な粒径は1〜10nmの範囲にあり、この範囲で金属が集合したクラスター状の触媒粒子が好ましい。そして、本発明者等は、かかる好ましい状態の触媒粒子が分散した触媒の製造プロセスを検討した結果、所定の方法により形成された触媒粒子が前記範囲で金属が集合した状態にあり、触媒特性において優れることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、触媒粒子として1種以上の金属を多孔質体よりなる担体上に担持してなる金属触媒であって、1種以上の金属塩と有機物の溶液を担体に吸着させ、加熱及び焼成することにより得られる1種以上の金属からなるクラスターサイズ1〜10nmの触媒粒子が担体上に担持された金属触媒である。
【0010】
本発明における触媒粒子は、以下のようなプロセスで形成される。有機物溶液と金属塩とを混合すると、金属イオンが数個単位で集合した状態で有機物中に分散し、金属イオンの周囲を有機物が取り囲むこととなる。また、この有機物により金属イオンの分散が維持される。そして、この混合溶液に担体となる多孔質体を加えると、有機物に包囲された金属イオンの集合体は、有機物に取り囲まれたまま多孔質体表面に吸着することとなる。そして、この状態の有機物を加熱及び乾燥する過程で有機物は消失し、有機物中の金属イオンの集合体は、担体上にそのままの形態で残留し、更に分解されてクラスターサイズ1〜10nmの金属原子となる。
【0011】
以上のプロセスにより、本発明に係る触媒は、クラスターサイズ1〜10nmの金属からなる触媒粒子を担体上に備えるものとなる。本発明者等によれば、この触媒粒子の構造については必ずしも明確ではないが、TEM分析の結果等から、従来法により形成される1nm未満の触媒粒子とは明らかに異なる大きさを有することが確認されている。そして、本発明によれば、従来と同様又は少量の金属担持量としてもその特性を従来以上のものとすることができる。
【0012】
以下、本発明に係る触媒につき、その製造方法を踏まえつつ詳細に説明する。本発明に係る触媒は、その製造方法からわかるように、従来の製造方法に対して金属イオンと担体に更に有機物を添加して得られる混合系から製造されることを特徴とする。この有機物としては、触媒製造時に液体状態であることが必要であり、好ましい有機物は、一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールのモノマー、ダイマー、トリマー、ポリマー、水溶性高分子化合物、単糖類、二糖類、多糖類、カルボン酸類及びその塩、タンパク質、ペプチド、脂肪酸、界面活性剤といった水溶性有機化合物である。
【0013】
一価アルコールとしては、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、モノエタノールアミン、ターピネオールの他、炭素数が10以下のアルキルアルコール、アミノアルキルアルコール及びその異性体や誘導体が適用できる。
【0014】
多価アルコールのモノマーとしては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1、5−ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルの他、炭素数が10以下の多価アルコールが適用できる。多価アルコールのダイマーとしては、ジエチレングリコール、エチレンプロピレングリコール、それらの誘導体及びその他の二価アルコールが縮合したダイマーが例示される。多価アルコールのトリマーとしては、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、それらの誘導体及びその他の2価アルコールが縮合したトリマーが適用できる。
【0015】
水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、セルロース及びその誘導体などが適用できる。
【0016】
単糖類、二糖類、多糖類、炭水化物としては、ソルビトール、デキストリン、澱粉、カラギナン、グアガム、グリコーゲン、ペントース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、サッカロース、ラクトース、マンノースなどが適用できる。またカルボン酸類及びその塩としては、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、マンノン酸、及びこれらの塩が適用できる。
【0017】
界面活性剤としては、アルキレンオキサイド系、ポリエーテル系、ポリエステル系の非イオン性界面活性剤、脂肪酸系、アルファスルホ脂肪酸エステル塩系、直鎖アルキルベンゼン系、アルキルベンゼンスルホン酸塩系、高級アルコール系、硫酸アルキル塩系、硫酸アルキルポリオキシエチレン塩系、モノアルキルリン酸エステル塩系、α−オレフィン系、α−オレフィンスルホン酸塩系の陰イオン性界面活性剤、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウムのクロライド又はアセテートからなる陽イオン性界面活性剤が適用できる。
【0018】
触媒粒子を構成する金属としては、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、レニウムの少なくとも1種を適用するのが好ましい。そして、有機物と混合する金属塩としては、これらの金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、無機塩、カルボン酸塩、有機塩を用いることができる。
【0019】
ここで、金属塩と有機化合物との混合比は、有機化合物/金属の比で0.001〜1000とするのが好ましく、0.01〜100とするのがより好ましい。0.001未満であると有機物が少なすぎて、好適なクラスター粒径の触媒粒子を形成させることができず、また、1000を超えると有機物が多すぎて焼成が困難となるからである。
【0020】
担体となる多孔質体としては、公知の多孔質酸化物粉末、炭素粉末が適用できる。酸化物粉末としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、及びこれらの混合物が適用可能である。また、近年、排ガス雰囲気の雰囲気変動を緩和するために、酸素吸蔵放出能を持つセリア、セリア−ジルコニアからなる担体が知られており、これら酸化物も適用できる。この担体の混合の時期は、金属塩と有機物との混合と同時に行っても良いが、まず金属塩と有機物とを混合した後に担体を添加しても良い。
【0021】
尚、金属塩、有機物、担体を含む溶液系には水が存在していても良い。例えば、複数種の金属塩水溶液を混合した後、又は、水に複数種の金属塩を溶解させた後に有機物及び担体を混合しても良く、更には、水、金属塩、有機物を同時に混合しても良い。
【0022】
金属塩、有機物、担体を含む系を加熱することで、有機物(及び水分)の大部分が蒸発除去される。この加熱の条件としては、30〜250℃とするのが好ましい。
【0023】
そして、加熱により残留する担体を回収し、これを焼成することで、担体表面の金属の集合体を取り囲んでいた有機物は燃焼・除去され、担体上には金属の集合体がクラスターサイズ1〜10nmの触媒粒子として残留する。この際の焼成の条件としては、有機物が除去可能となる温度により異なるが、250〜1200℃とするのが好ましい。
【0024】
以上のプロセスにより、本発明に係る触媒が製造される。本発明に係る触媒は、金属がクラスターサイズ1〜10nmのレベルの触媒粒子が担持されており、最も好ましい
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。
【0026】
第1実施形態:ジニトロアンミン白金0.53gとジニトロアンミンパラジウム0.12gとポリアクリル酸0.075gを、水30mLに混合溶解し、これに更にγ−アルミナ粉末3gを添加し攪拌、混合した。そして、この溶液を60℃で3時間加熱して蒸発・乾固し、残留物を450℃で2時間焼成した。これにより、白金パラジウム/アルミナ触媒を製造した。この際の、金属の担持量は、担体に対して1.0重量%である。
【0027】
比較例1:ジニトロアンミン白金0.53gとジニトロアンミンパラジウム0.12gを、水30mLに混合溶解し、これにγ−アルミナ粉末3gを添加し攪拌、混合した。そして、この溶液を60℃で3時間加熱して蒸発・乾固し、残留物を450℃で2時間焼成した。これにより、白金パラジウム/アルミナ触媒を製造した。この際の、金属の担持量は、第1実施形態と同様、1.0重量%である。
【0028】
第2実施形態:塩化白金酸カリウム0.42gと多糖類(カラギナン)0.50gを水150mLに溶解させ、更に、0.5M水酸化ナトリウム4.0mL、硝酸ロジウム0.12gを添加して60℃で10時間加温後、ランタン−ジルコニア酸化物3gを添加し、溶液を80℃で2時間加熱して蒸発・乾固し、残留物を900℃で5時間焼成した。これにより、白金ロジウム/ランタン−ジルコニア触媒を製造した。この際の、金属の担持量は、担体に対して1.0重量%である。
【0029】
比較例2:ジニトロアンミン白金0.42gと硝酸ロジウム0.12gを水150mLに溶解しこれを60℃で10時間加温後、ランタン−ジルコニア酸化物3gを添加し、溶液を80℃で2時間加熱して蒸発・乾固し、残留物を900℃で5時間焼成した。これにより、白金ロジウム/ランタン−ジルコニア触媒を製造した。この際の、金属の担持量は、第2実施形態と同様、1.0重量%である。
【0030】
以上製造した金属触媒について、プロピレン酸化反応試験を行い、その際の50%転化温度を求めて評価した。反応試験は固定床流通反応装置を用い、以下の条件にて行った。そして、その結果を表1に示す。
【0031】
反応試験条件
・プロピレン濃度:640ppm
・酸素濃度:2.5%(窒素バランス)
・触媒量(W/F):2g−cat・min/L
【0032】
【表1】

【0033】
表1からわかるように、本実施形態で製造した触媒はいずれも、担持量が同じ比較例の触媒よりも転化温度が低く、より高活性であることが確認された。
【0034】
次に、第1実施形態、比較例1に係る触媒について、800℃で5時間加熱する耐久試験を行った。試験前後の各触媒について、TEM分析を行い、触媒粒子の状態を検討した。図1は、その結果を示す。図1から、比較例の触媒では、初期(試験前)の貴金属粒子は1nm以下であるが、耐久試験後において凝集(シンタリング)が生じており、その結果として触媒の活性が低下したものと考えられる。これは、耐久試験の高温下において急激な融点降下減少が生じたためと考えられる。一方、実施形態の触媒では、貴金属粒子は初期状態で数十nmの大きさがあり、耐久試験では多少のシンタリングは生じるものの、比較例のような顕著な活性低下はみられない。これは、貴金属粒子の粒径を適正なものとしたことにより、融点効果現象が生じにくくなっていることによると考えられる。そして、これにより実施形態の触媒は耐熱性に優れることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態及び比較例1で製造した触媒の耐久試験前後におけるTEM像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子として1種以上の金属を多孔質体よりなる担体上に担持してなる金属触媒であって、
1種以上の金属塩と有機物の溶液を担体に吸着させ、加熱及び焼成することにより得られる1種以上の金属からなるクラスターサイズ1〜10nmの触媒粒子が担体上に担持された金属触媒。
【請求項2】
有機物は、一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールのモノマー、ダイマー、トリマー、ポリマー、水溶性高分子化合物、単糖類、二糖類、多糖類、炭水化物、カルボン酸類及びその塩、界面活性剤の水溶性有機化合物である請求項1記載の金属触媒。
【請求項3】
金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、レニウムの少なくともいずれか1種である請求項1又は請求項2記載の金属触媒。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の金属触媒の製造方法であって、
1種以上の金属塩と、溶液状態の有機物と、担体となる多孔質体とを含む混合溶液を製造する工程と、
前記混合溶液を加熱して有機物を蒸発させる工程と、
残留物を焼成する工程と、
からなる金属触媒の製造方法。
【請求項5】
混合溶液を加熱する工程は、30〜250℃で加熱する請求項4記載の金属触媒の製造方法。
【請求項6】
焼成工程は、250〜1200℃で焼成する請求項4又は請求項5記載の金属触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−212464(P2006−212464A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24725(P2005−24725)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】