説明

金属調シート、金属調成形体およびその製造方法

【課題】 真空成形またはインサート成形によって深絞りの金属調成形体を製造した場合でも、金属層にクラックが発生せず、良好な金属光沢を付与できる金属調シート;および金属層にクラックが発生せず、良好な金属光沢を有する金属調成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂フィルムからなる基材層11と、樹脂アンカー層12と、樹脂アンカー層12の一部に金属が分散してなる複合層13と、複合層13に接する金属層14とを有し、複合層13および金属層14が、樹脂アンカー層12の表面に金属を物理的に蒸着させて形成された層であり、蒸着時における樹脂アンカー層12のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paであり、蒸着時における蒸発した金属の粒子エネルギーが、1eV以上である金属調シート1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調シート、これを用いた金属調成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムからなる基材層表面にアルミニウム等の金属層を設けた金属調シートを、金型のキャビティ内に配置し、これに溶融樹脂を射出して金属調シートと溶融樹脂とを融着、一体化させて、成形体本体表面に金属調の装飾を施す、いわゆるインサート成型が知られている。また、金属調シートを真空成形等により成形して金属調成形体を製造することが知られている。しかし、深絞り成形体の場合、金属層の延伸性が悪いため、基材層の伸びに金属層が追随できず、金属層表面に微細なひび割れ(マイクロクラック)が生じて白化し、金属光沢が減少する問題がある。また、基材層と金属層とを密着させるために樹脂アンカー層が設けられることがあるが、樹脂アンカー層は硬く、割れやすいため、樹脂アンカー層の割れに伴って金属層がマイクロクラックを起こすという問題がある。
【0003】
これらの問題を改善する金属調シートとして、柔軟性を有する基体シート上に、柔軟な透明樹脂アンカー層と、インジウムからなる金属薄膜層とが形成された成形同時絵付シート(特許文献1)、プラスチックフィルムの片面に、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂からなる離型層を設け、該離型層上に樹脂アンカー層を設け、該樹脂アンカー層上に金属薄膜層を設け、該金属薄膜層上に接着剤層を設けた成型同時転写用シート(特許文献2)が提案されている。
【0004】
しかし、これらシートにおける樹脂アンカー層と金属層との密着性はいまだ不充分であり、真空成形、インサート成形等によって複雑な形状の深絞り成形体を製造した場合、樹脂アンカー層と金属層の界面でマイクロクラックが発生して金属層の光沢が低下し、さらに、シートの伸びの大きい場所と小さい場所との間で光沢に差が生じ、金属層の光沢が不均質となる問題がある。
【特許文献1】特許第2943800号公報
【特許文献2】特許第3264917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明の目的は、真空成形またはインサート成形によって深絞りの金属調成形体を製造した場合でも、金属層にクラックが発生しにくく、メッキ加工または塗装により金属調の装飾が施された金属調成形体と同等、かつ均一な金属光沢を付与できる金属調シート;金属層にクラックが少なく、メッキ加工または塗装により金属調の装飾が施された金属調成形体と同等、かつ均一な金属光沢を有する金属調成形体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属調シートは、樹脂フィルムからなる基材層と、樹脂アンカー層と、樹脂アンカー層の一部に金属が分散してなる複合層と、複合層に接する金属層とを有する金属調シートであり、複合層および金属層が、樹脂アンカー層の表面に金属を物理的に蒸着させて形成された層であり、蒸着時における樹脂アンカー層のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paであり、蒸着時における蒸発した金属の粒子エネルギーが、1eV以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明の金属調シートは、さらに、基材層と樹脂アンカー層との間に離型層を有していてもよい。
本発明の金属調シートは、さらに、離型層と樹脂アンカー層との間に絵柄層を有していてもよい。
本発明の金属調シートは、さらに、接着剤層を有していてもよい。
本発明の金属調成形体は、本発明の金属調シートに、樹脂バッカー層を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明の金属調成形体の製造方法は、本発明の金属調シートを金型のキャビティ内に配置し、これに溶融樹脂を導入することによって金属調シートと溶融樹脂とを融着、一体化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属調シートによれば、真空成形またはインサート成形によって深絞りの金属調成形体を製造した場合でも、金属層にクラックが発生しにくく、メッキ加工または塗装により金属調の装飾が施された金属調成形体と同等、かつ均一な金属光沢を付与できる。
本発明の金属調成形体の製造方法によれば、金属層にクラックが少なく、メッキ加工または塗装により金属調の装飾が施された金属調成形体と同等、かつ均一な金属光沢を有する金属調成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<金属調シート>
図1は、本発明の金属調シートの一例を示す概略断面図である。この金属調シート1は、樹脂フィルムからなる基材層11と、樹脂アンカー層12と、樹脂アンカー層12の一部に金属が分散してなる複合層13と、複合層13に接する金属層14とを有する積層シートである。
【0011】
(基材層)
基材層11を構成する樹脂フィルムの材質としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、これらの変性物、混合物、共重合物等が挙げられる。これらのうち、難燃性、耐熱性が必要とされる場合、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマーが好ましい。
【0012】
樹脂フィルムは、数種類のフィルムを積層した積層フィルムであってもよい。また、樹脂フィルムには、補強フィラー、難燃剤、難燃助剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、可塑剤、滑剤、耐熱性向上剤等が添加されていてもよい。
基材層11の厚さは、ハンドリングの観点からは、25〜200μmが好ましい。
【0013】
(樹脂アンカー層)
樹脂アンカー層12を構成する樹脂としては、後述の蒸着時における樹脂アンカー層12のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paとなる樹脂が用いられる。樹脂アンカー層12のせん断弾性率が5.0×106 未満では、樹脂アンカー層12の形状を保持できず、また、樹脂アンカー層12に分散された金属が凝集しやすくなる。樹脂アンカー層12のせん断弾性率が5.0×108 Paを超えると、金属が樹脂アンカー層12に分散できず、複合層13が形成されい。
【0014】
樹脂アンカー層12を構成する樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、フェノール、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート樹脂等の樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム、ブチル系ゴム;エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム;これらの変性物、混合物、共重合物等のうち、蒸着時における樹脂アンカー層12のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paとなるような樹脂が選択される。なお、室温(25℃)においてせん断弾性率が5.0×108 Paを超えるような樹脂であっても、加熱によってせん断弾性率が5.0×106 〜5.0×108 Paとなる樹脂であれば、蒸着時に樹脂アンカー層を加熱することにより用いることができる。
【0015】
樹脂アンカー層12を構成する樹脂としては、蒸着時に低いせん断弾性率であり、蒸着後に架橋してせん断弾性率を上げることができる硬化性樹脂が好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、エネルギー線(紫外線、電子線)硬化性樹脂が挙げられる。
本発明におけるせん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した値である。
【0016】
樹脂アンカー層12には、補強フィラー、難燃剤、難燃助剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、可塑剤、滑剤、耐熱向上剤等が添加されていてもよい。なお、硬質な添加剤を配合すると、金属の蒸着時に金属が添加剤に衝突し、充分な分散が行われないことがあるので、注意が必要である。
また、複合層13中で金属が安定化するように、樹脂アンカー層12中にシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、極性樹脂オリゴマー等を添加してもよい。このような添加剤を添加することにより、金属の酸化防止のほか、金属が凝集して均質膜となり、複合層13中に分散している金属が減少することを抑えることができる。
樹脂アンカー層12の厚さは、後述の複合層13を形成できる厚さであればよく、0.3〜3.0μmが好ましい。
【0017】
(複合層・金属層)
複合層13および金属層14は、樹脂アンカー層12の表面に金属を物理的に蒸着させて形成された層である。
図2に示すように、複合層13は、樹脂アンカー層12の一部に金属原子15が分散してなる層であり、金属層14は、複合層13に連続して形成された金属のみからなる層である。複合層13中の金属が、「くさび」としての役割を果たすことにより、金属層14と樹脂アンカー層12とは、複合層13を介して強固に密着している。
【0018】
蒸着時における樹脂アンカー層12のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paであれば、蒸着の初期では、金属の衝突によって樹脂アンカー層12の樹脂の分子が振動、運動し、金属と樹脂との局部的なミキシングが生じて、金属原子15は樹脂アンカー層12の表面から最大で0.3μm程度まで進入し、複合層13となる。さらに蒸着を続けると、複合層13表面で金属が結晶化して堆積し、金属のみからなる金属層14が形成される。
【0019】
複合層13においては、図3の高分解能透過型電子顕微鏡像のように、物理的に蒸着された金属は、均質膜を形成することなく、原子状態で樹脂アンカー層12中に分散している。複合層13は、非常に小さな結晶として数Å間隔の金属原子が配列された結晶格子が観察される部分と、非常に小さい範囲で金属が存在しない樹脂のみが観察される部分と、金属原子が結晶化せず樹脂中に分散して観察される部分からなっている。すなわち、金属が明瞭な結晶構造を有する微粒子として存在を示す粒界は観察されず、ナノオーダーで金属と樹脂とが一体化した複雑なヘテロ構造(不均質・不斉構造)を有しているものと考えられる。
【0020】
複合層13の厚さは、5〜300nmが好ましい。複合層5の厚さを5nm以上とすることにより、金属層14と樹脂アンカー層12との密着性が充分となる。複合層13の厚さは、金属原子15が侵入した樹脂アンカー層12の表面からの最大深度であり、高分解能透過型電子顕微鏡により金属調シート1の断面を観察することにより測定される。
【0021】
金属層14の材質としては、インジウム、アルミニウム、銀、銅、金、白金、クロム、スズ、亜鉛、ビスマス、ニッケル、鉄、マグネシウム、チタン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を含有する合金として用いてもよい。これらのうち、インジウムおよびインジウム合金は、融点が低く、延伸性がよいので特に好ましい。
【0022】
金属層14の厚さは、20〜120nmが好ましい。20nmより薄いと樹脂アンカー層12、基材層11が透けてしまい、金属光沢が得られにくく、特に延伸された場合には、60度鏡面光沢度が200゜を下回ってしまう。120nmより厚い場合は、延伸性が悪くなる。金属層14の厚さは、高分解能透過型電子顕微鏡により金属調シート1の断面を観察することにより測定される。
【0023】
<金属調シートの製造方法>
金属調シート1は、樹脂フィルム上に樹脂アンカー層12を形成し、該樹脂アンカー層12の表面に金属を物理的に蒸着し、複合層13および金属層14を形成することにより製造される。
【0024】
樹脂アンカー層12は、樹脂フィルム上に樹脂を押出ラミネートする方法、樹脂フィルム上に樹脂を塗布する方法、シート状またはフィルム状の樹脂アンカー層と樹脂フィルムとを接着剤、粘着剤等によって貼り合わせる方法等により行うことができる。
樹脂の塗布は、グラビア、スクリーン等の印刷方法、グラビア、リバース、ダイ、コンマ等のコーティング方法等が挙げられる。
【0025】
物理的蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられる。真空蒸着法は、真空中で蒸着材料を加熱蒸発させ、蒸着対象物の界面でそれを凝固させる方法である。スパッタリング法は、真空に近いアルゴンガス中でグロー放電を行い、グロー放電でアルゴンイオンを生成し、生成したアルゴンイオンを加速して蒸着原料に衝突させ、蒸着原料を飛散させて蒸着対象物にその飛散原料を付着させる方法である。イオンプレーティング法は、真空に近い低圧のアルゴンガス中で蒸着原料を蒸発させ、その蒸着原料の原子・分子をグロー放電領域中に通過させ、イオン化させて励起させ、その中性状態の粒子とともにマイナスの高電圧をかけた蒸着対象物に析出させるという方法である。
【0026】
複合層13の形成後は、蒸着速度、イオンエネルギー、照射量等をコントロールすることで金属層14を形成する。
複合層13の形成時に樹脂と金属とのミキシング効果を充分に発現させるためには、蒸発した金属が1.0eV以上の粒子エネルギーを持つようにする必要がある。このため、物理的蒸着法の中でも、高い粒子エネルギーが得られるイオンプレーティグ法、スパッタリング法が好ましい。真空蒸着法は、1.0eV以上の高い粒子エネルギーが得られず、アンカー樹脂層12への「くさび」効果が得られにくい。
【0027】
蒸着原料(ターゲット)としては、上述の金属層14の材質と同様のものが挙げられる。
金属の蒸着質量は、膜厚換算で20〜120nmが好ましい。蒸着質量は、ガラス、シリコン等の硬質基体上に同条件で金属を蒸着し、堆積した厚さを測定し、平均することによって求められる。
【0028】
以上説明した金属調シート1にあっては、蒸着時における樹脂アンカー層12のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paであるため、樹脂アンカー層12の表面に金属を物理的に蒸着させて形成される複合層13においては、樹脂アンカー層12の一部に金属が分散した状態となる。そして、複合層13中の金属が「くさび」としての役割を果たすことにより、複合層13に連続して形成された金属層14は、樹脂アンカー層12に強固に密着する。結果、真空成形またはインサート成形によって深絞りの金属調成形体を製造した場合でも、金属層14にクラックが発生しにくく、メッキ加工または塗装により金属調の装飾が施された金属調成形体と同等、かつ均一な金属光沢を金属調成形体に付与できる。具体的には、JIS 7105に準拠して測定した60度鏡面光沢度が、200°以上の金属調成形体を得ることができる。
【0029】
<金属調シートの他の例>
本発明の金属調シートは、図1の金属調シートに限定はされず、さらに他の層を有するものであってもよい。
【0030】
(離型層)
図4は、本発明の金属調シートの他の例を示す概略断面図である。この金属調シート2は、基材層11と樹脂アンカー層12との間に離型層16を有するものである。
離型層16としては、オレフィン系樹脂、ウレア系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0031】
離型層16を設けることにより、樹脂アンカー層12と離型層16との界面で剥離させ、樹脂アンカー層12、複合層13および金属層14からなるシートを金属調シートとして用いることができる。該金属層シートの金属層14表面に必要に応じて後述の接着剤層を設け、後述の樹脂バッカー層に積層して金属調成形体を得てもよい。
【0032】
(絵柄層)
図5は、本発明の金属調シートの他の例を示す概略断面図である。この金属調シート3は、離型層16と樹脂アンカー層12との間に絵柄層17を有するものである。
絵柄層17は、例えば、公知の印刷インキを用い、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等によって形成することができる。
【0033】
この金属調シート3においても、絵柄層17と離型層16との界面で剥離させ、絵柄層17、樹脂アンカー層12、複合層13および金属層14からなるシートを金属調シートとして用いることができる。また、剥離後に表面に露出した絵柄層17を保護するために、絵柄層17の表面に透明樹脂層を設けてもよい。
透明樹脂層の材質としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、透明樹脂層として、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の硬化性樹脂を用いると、擦り傷、引っかき傷等から意匠性を保護することができるため、より好ましい。
【0034】
(接着剤層)
本発明の金属調シートは、後述の樹脂バッカー層との貼り合わせ等のために、少なくともその片面に接着剤層を有していてもよい。
接着剤としては、熱可塑性接着剤、熱硬化性接着剤等が挙げられる。真空成形またはインサート成形時に、マイクロクラック、白化等の発生を抑えるために、樹脂アンカー層12のせん断弾性率より低い接着剤が好ましい。このような接着剤としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、フェノキシ樹脂、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0035】
接着剤層の厚さは、1〜10μmが好ましい。接着剤層の厚さが1μm未満では、充分な接着強度が得られない場合があり、10μmを超えると、成形性が低下し、また、金属調シートが厚くなりすぎる。
接着剤層は、例えば、金属調シートの片面または両面に、コーティング法、ラミネート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の方法で設けることができる。
【0036】
<金属調成形体>
本発明の金属調成形体としては、(i)本発明の金属調シートと樹脂バッカー層(成形体本体)とを一体化したもの、(ii)本発明の金属調シートを成形したものが挙げられる。
【0037】
(i)の金属調成形体は、例えば、金型内に金属調シートをインサートし、これに溶融樹脂を導入し、金属調シートと溶融樹脂とを融着、一体化させて、図6に示すように、樹脂バッカー層21の表面に金属調シート1による装飾を施した金属調成形体20である。
樹脂バッカー層21の材質としては、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0038】
樹脂バッカー層と金属調シート1とを、接着剤層を介して熱ラミネートすることにより貼り合わせてもよい。
熱ラミネートは、例えば、特許第3186335号公報に記載された、所定の間隙を置いて対向配置された一対の加熱ロールと一対の冷却ロールが一定の間隔を置いて並行に配置され、それぞれ同一側の加熱ロールと冷却ロールとに外面が鏡面仕上げされた無端ステンレスベルトが掛回されると共に、その二組のベルトの対向する外面が所望間隙を保持するように配置され、その間隙保持部に、シール部と加圧室をもち圧力媒体により対向する両ベルトを近付けるように押圧することができる一対のハウジングが各ベルトの内側に対向状に取付けられたダブルベルト式連続熱プレス装置を用いて行うことができる。
【0039】
該ダブルベルト式プレス装置を用いた熱ラミネートにおいては、加熱ロールにより加熱されたベルトの実温が樹脂バッカー層および透明樹脂層のガラス転移点以上であり、冷却ロール側(出口)で樹脂バッカー層および透明樹脂層が60℃以下に冷却されることが好ましい。このような装置を用いて、線圧ではなく、面圧で熱ラミネートすることにより、樹脂バッカー層と金属調シート1との界面、および透明樹脂層と金属調シート1との界面の応力が緩和され、延伸性に優れた金属調シートを得ることができる。
【0040】
(ii)の金属調成形体は、例えば、金属調シートを真空成形等によって直接成形したモノである。
以上説明した本発明の金属調成形体にあっては、金属層と基材層との密着性に優れた本発明の金属調シートを用いているため、金属層にクラックが発生少なく、メッキ加工または塗装により金属調の装飾が施された金属調成形体と同等、かつ均一な金属光沢を有する金属調成形体となる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示す。
(評価)
断面観察:
日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いた。
密着性:
JIS K 5400に準拠した基盤目試験を実施した。
鏡面光沢度:
村上色彩技術研究所製 PORTABLE GLOSS METER GMX−202を用い、JIS K 7105に準拠して60度鏡面光沢度を測定した。
外観:
金属調フィルムの表面を観察し、マイクロクラックが発生しないものを○、マイクロクラックが認められたものを×と評価した。
【0042】
(実施例1)
ポリエステルポリウレタンポリオール樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、LX−500)100質量部に、硬化剤として芳香族ポリイソシアネート(大日本インキ化学工業(株)製、KW−75)8質量部を添加した後、125μm厚のアクリルフィルム(住友化学(株)製、S001)上に塗布し、硬化前における25℃のせん断弾性率が5×106 Paの樹脂アンカー層を形成した。樹脂アンカー層の表面に、膜厚換算で60nmのインジウムを、マグネトロンスパッタリング法により、樹脂アンカー層の温度を25℃に保ち、かつ蒸発粒子が5.0eVの粒子エネルギーを持つようにバイアス電圧を印可しつつ、物理的に蒸着させ、複合層および金属層を形成した。この後、100℃、30分で樹脂アンカー層を硬化させた。次いで、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤を用いて金属層の表面に2μmの接着剤層を設けた。
【0043】
得られた金属調シートの一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリッシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により断面を観察した。断面観察結果を図4に示す。複合層の厚さは30nmであった。
得られた金属調シートについて、密着性、鏡面光沢度、外観の評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
得られた金属調シートを所定の大きさにカットした後に、金型のキャビティ内に配置した。キャビティ内に溶融樹脂を射出することにより、金属調シートと溶融樹脂とを融着、一体化して金属調成形体を得た。金属調成形体のキャビティ部は200%延伸されていた。200%延伸された部分の表面の鏡面光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2)
ポリエステルポリウレタン樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、LX−903)100質量部に、硬化剤として脂肪族ポリイソシアネート(大日本インキ化学工業(株)製、KL−75)5質量部を添加した後、125μm厚のアクリルフィルム(住友化学(株)製、S001)上に塗布し、硬化前における25℃のせん断弾性率が1×107 Paの樹脂アンカー層を形成した。樹脂アンカー層の表面に、膜厚換算で40nmのスズを、マグネトロンスパッタリング法により、樹脂アンカー層の温度を25℃に保ち、かつ蒸発粒子が3.0eVの粒子エネルギーを持つようにバイアス電圧を印可しつつ、物理的に蒸着させ、複合層および金属層を形成した。この後、100℃、30分で樹脂アンカー層を硬化させた。次いで、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤を用いて金属層の表面に2μmの接着剤層を設けた。
【0046】
得られた金属調シートの一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリッシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により断面を観察した。複合層の厚さは10nmであった。
得られた金属調シートについて、密着性、鏡面光沢度、外観の評価を行った。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして金属調成形体を得て、200%延伸された部分の表面の鏡面光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(25℃におけるせん断弾性率:5.0×109 Pa)の表面に、膜厚換算で60nmのインジウムを、マグネトロンスパッタリング法により、フィルムの温度を25℃に保ち、かつ蒸発粒子が5.0eVの粒子エネルギーを持つようにバイアス電圧を印可しつつ、物理的に蒸着させ、金属層を形成した。次いで、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤を用いて金属層の表面に2μmの接着剤層を設けた。
【0048】
得られた金属調シートの一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリッシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により断面を観察した。複合層は形成されていなかった。
得られた金属調シートについて、密着性、鏡面光沢度、外観の評価を行った。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして金属調成形体を得て、200%延伸された部分の表面の鏡面光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828)100質量部に、硬化剤としてイミダゾール2質量部を添加した後、25μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、膜厚が1μmとなるように塗布し、120℃、5分で硬化させ、硬化後における25℃のせん断弾性率が1.0×109 Paの樹脂アンカー層を形成した。樹脂アンカー層の表面に、膜厚換算で40nmのスズを、イオンプレーティング法により、樹脂アンカー層の温度を25℃に保ち、かつ蒸発粒子が3.0eVの粒子エネルギーを持つようにバイアス電圧を印可しつつ、物理的に蒸着させ、金属層を形成した。次いで、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤を用いて金属層の表面に2μmの接着剤層を設けた。
【0050】
得られた金属調シートの一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリッシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により断面を観察した。複合層は形成されていなかった。
得られた金属調シートについて、密着性、鏡面光沢度、外観の評価を行った。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして金属調成形体を得て、200%延伸された部分の表面の鏡面光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(比較例3)
実施例1と同様にして樹脂アンカー層を形成した。樹脂アンカー層の表面に、膜厚換算で60nmのインジウムを、真空蒸着法により、樹脂アンカー層の温度を25℃に保ちつつ、0.5eV以下の低い粒子エネルギーで物理的に蒸着させ、金属層を形成した。その後、100℃、30分で樹脂アンカー層を硬化させた。次いで、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤を用いて、金属層の表面に2μmの接着剤層を設けた。
【0052】
得られた金属調シートの一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリッシャーを施し、高分解能透過型電子顕微鏡により断面を観察した。複合層は形成されていなかった。
得られた金属調シートについて、密着性、鏡面光沢度、外観の評価を行った。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして金属調成形体を得て、200%延伸された部分の表面の鏡面光沢度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から、実施例1、2の金属調成形体については、200%延伸された部分の鏡面光沢度は200゜以上であり、マイクロクラックも確認されなかった。比較例1〜3の金属調成形体については、200%延伸された部分では、金属調シートに複合層が形成されていないため、マイクロクラックが発生し、その影響により鏡面光沢度も200゜以下となり、意匠性が低下した。また、実施例1、2の金属調成形体については、複合層による効果で、密着性が優れていたが、比較例1〜3の金属調成形体については、200%延伸された部分で剥離が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の金属調シートによれば、真空成形またはインサート成形によって製造される深絞りの金属調成形体に、メッキ加工または塗装と同等の金属光沢を付与でき、工業的利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の金属調シートの一例を示す概略断面図である。
【図2】図1の金属調シートの複合層の近傍のを示す模式図である。
【図3】本発明の金属調シートの断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図4】本発明の金属調シートの他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の金属調シートの他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の金属調成形体の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 金属調シート
2 金属調シート
3 金属調シート
11 基材層
12 樹脂アンカー層
13 複合層
14 金属層
15 金属原子
16 離型層
17 絵柄層
20 金属調成形体
21 樹脂バッカー層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムからなる基材層と、
樹脂アンカー層と、
樹脂アンカー層の一部に金属が分散してなる複合層と、
複合層に接する金属層と
を有する金属調シートであり、
複合層および金属層が、樹脂アンカー層の表面に金属を物理的に蒸着させて形成された層であり、
蒸着時における樹脂アンカー層のせん断弾性率が、5.0×106 〜5.0×108 Paであり、
蒸着時における蒸発した金属の粒子エネルギーが、1eV以上であることを特徴とする金属調シート。
【請求項2】
基材層と樹脂アンカー層との間に離型層を有することを特徴とする請求項1に記載の金属調シート。
【請求項3】
離型層と樹脂アンカー層との間に絵柄層を有することを特徴とする請求項2に記載の金属調シート。
【請求項4】
さらに、接着剤層を有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の金属調シート。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載の金属調シートに、樹脂バッカー層を設けたことを特徴とする金属調成形体。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一項に記載の金属調シートを金型のキャビティ内に配置し、これに溶融樹脂を導入することによって金属調シートと溶融樹脂とを融着、一体化させることを特徴とする金属調成形体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−272658(P2006−272658A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92772(P2005−92772)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】