説明

金属部材の肉厚変化検出方法、および金属部材の肉厚変化検出装置

【課題】検出対象である金属部材の表面に対して非接触の状態で金属部材中の肉厚の変化を検出することが可能な金属部材の肉厚変化検出方法を提供する。
【解決手段】検出対象である金属部材Mに、当該金属部材Mの材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加する電流印加工程と、前記金属部材の表面を磁気検知手段20で走査し、当該金属部材Mから発生する磁界を検知する検知工程と、前記磁界の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材Mの肉厚変化の発生状況を特定する特定工程とを包含する金属部材の肉厚変化検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ガス配管、上下水道管、ガスタンク等のユーティリティ供給設備についての検査に用いる金属部材の肉厚変化検出方法、および当該方法を実行するための金属部材の肉厚変化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材の肉厚変化を検出する方法として、金属部材の表面から超音波パルスを入射し、当該超音波パルスが裏面で反射して戻ってくる時間から、その金属部材の肉厚変化を検出する超音波反射法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1の板厚測定方法では、コーティングをした板材に超音波パルスを入射し、板材の一側面と他側面との間で超音波パルスが反射を繰り返す場合において、ある反射波の立ち上がり時間と、その次の反射波の立ち上がり時間との時間差を測定し、当該時間差から板材の肉厚を求めている。
【0003】
また、金属部材に電流を流し、金属部材中の健全部と欠陥部との電位分布の違いを比較することにより、その金属部材の肉厚変化を検出する電位差法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
特許文献2の電位差法による非破壊検査方法では、直流電位差法を用いて検査対象物表面の電位差分布を表す電位差曲線を求め、これを予め作成しておいた種々の較正曲線と比較することにより、検査対象物に埋没している亀裂や検査対象物の裏面に存在する亀裂を識別している。
【0004】
さらに、励磁コイルを用いて金属部材に渦電流を発生させ、欠陥部の存在による渦電流の変化に起因して発生する磁気の乱れを磁気センサで検知することにより、その金属部材の肉厚変化を検出する渦電流探傷法も知られている(例えば、特許文献3を参照)。
特許文献3の減肉厚検出方法では、渦電流探傷用の検出コイルを用いて検出対象である金属部材に対して渦電流探傷試験を実行し、その試験によって得られた金属部材の位置に対する磁界強度の関係をプロットしたグラフから、金属部材中の健全部から欠陥部への肉厚の減少量を求めている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−39732号公報
【特許文献2】特開平2−245649号公報
【特許文献3】特開平10−221306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1〜3において示される従来技術においては、以下のような問題点が存在している。
【0007】
特許文献1の板厚測定方法は、板材(金属部材)の表面近傍から超音波パルスを入射させる必要がある。このため、板材に保温材等が被覆されている場合や、板材が超音波パルスの発射位置から相当離れている場合等においては、十分な強度の超音波パルスを板材中に入射させることができなかった。
【0008】
特許文献2の電位差法による非破壊検査方法は、検査対象物表面の電位差分布を表す電位差曲線を求める際に、電極を検査対象物に直接取り付ける必要がある。従って、この方法においても、検査対象物に保温材等が被覆されている場合や、検査対象物が手の届かない位置にある場合等では、検査を行うことができなかった。
【0009】
特許文献3の減肉厚検出方法は、渦電流探傷用の励磁コイル(検出コイル)を使用するが、このような励磁コイルに対して、インダクタンスより抵抗が大きくなる10Hz以下の低い周波数の交流電流を使用することは困難である。従って、金属部材に浸透深さの深い渦電流を発生させることができず、肉厚が大きい金属部材(実質的に3mm以上)について確実な肉厚変化の検出を行うことはできなかった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、検査対象である金属部材の表面に対して非接触の状態で金属部材中の肉厚の変化を検出することが可能な金属部材の肉厚変化検出方法、および当該方法を実行するための金属部材の肉厚変化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法の特徴構成は、検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加する電流印加工程と、前記金属部材の表面を磁気検知手段で走査し、当該金属部材から発生する磁界を検知する検知工程と、前記磁界の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する特定工程とを包含することにある。
【0012】
検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加すると、金属部材から磁界が発生する。このとき、金属部材中に欠陥等による肉厚変化(例えば、減肉部)が生じていると、金属部材の健全部と減肉部とにおいて強度の異なる磁界が発生する。
そこで、本構成の金属部材の肉厚変化検出方法では、健全部から減肉部にかけての磁界強度の変化を磁気検知手段で検知することにより、金属部材の肉厚変化の発生状況、すなわち、減肉部の有無および減肉部の発生箇所を特定することが可能となる。
また、本構成の金属部材の肉厚変化検出方法は、金属部材から発生する磁界の強度を検知するものであるがゆえに、磁気検知手段を金属部材の表面に対して非接触の状態にして行うことができるので、例えば、金属部材に保温材等が被覆されている場合や、金属部材が手の届かない位置にある場合等においても、肉厚変化を確実に検出することができる。
【0013】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法では、前記電流印加工程において、前記電流の前記金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、前記測定周波数を設定することが好ましい。
【0014】
本発明における「浸透深さ」とは、実際に電流が流れている部位の深さをいう。金属部材に電流を流す場合、例えば、高周波数の電流は金属部材の表面付近のみ流れるが、低周波数の電流は金属部材の内部にまで流れる。金属部材を流れる電流は、当該金属部材の肉厚の影響を受けるため、電流から発生する磁界は金属部材の肉厚に関する情報を含んでいる。従って、金属部材における電流の浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、電流の測定周波数を設定することが好ましいのである。このように設定すれば、金属部材の断面全体に十分な電流を流すことができるので、金属部材の裏側に減肉部が存在する場合や、肉厚変化が微細な場合であっても、それらを確実に検出することができる。
【0015】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法の特徴構成は、検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された少なくとも2通りの測定周波数を夫々有する電流を印加する電流印加工程と、前記金属部材の表面を磁気検知手段で走査し、当該金属部材から発生する少なくとも2通りの磁界を夫々検知する検知工程と、前記少なくとも2通りの磁界の夫々の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する特定工程とを包含することにある。
【0016】
本構成の金属部材の肉厚変化検出方法は、前記肉厚変化検出方法と同様に、金属部材の肉厚変化の発生状況、すなわち、減肉部の有無および減肉部の発生箇所を特定することが可能となる。
また、本構成の金属部材の肉厚変化検出方法では、検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された少なくとも2通りの測定周波数を夫々有する電流を印加しているので、最終的に、少なくとも2通りの磁界の夫々の強度変化を認識することができる。この場合、印加する電流が有する測定周波数として、例えば、金属部材の肉厚変化の影響を比較的受け易い低周波数と、比較的受け難い高周波数とを設定すれば、金属部材の材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を補正することができる。従って、金属部材の肉厚変化のみに起因する磁界強度変化を検出することが可能となり、検出精度が向上する。
また、本構成の金属部材の肉厚変化検出方法は、前記肉厚変化検出方法と同様に、金属部材から発生する磁界の強度を検知するものであるがゆえに、磁気検知手段を金属部材の表面に対して非接触の状態にして行うことができるので、例えば、金属部材に保温材等が被覆されている場合や、金属部材が手の届かない位置にある場合等においても、肉厚変化を確実に検出することができる。
【0017】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法では、前記電流印加工程において、前記電流の前記金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、前記少なくとも2通りの測定周波数のうちの一つが設定され、当該一つの測定周波数は前記金属部材の肉厚の影響を有意に受ける周波数であり、その他の測定周波数は前記金属部材の肉厚の影響を無視できる周波数であることが好ましい。
【0018】
本構成の金属部材の肉厚変化検出方法においては、金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された少なくとも2通りの測定周波数のうちの一つが、電流の金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように設定される。この一つの測定周波数は金属部材の肉厚の影響を有意に受ける周波数(低周波数)である。また、その他の測定周波数を金属部材の肉厚の影響を無視できる周波数(高周波数)とする。これにより、金属部材の断面全体に電流を流すことを確保しつつ、種々の測定周波数で肉厚変化の検出を行うことができる。従って、金属部材の裏側に減肉部が存在する場合や、肉厚変化が微細な場合であっても、それらを確実に検出することができる。
【0019】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法では、前記その他の測定周波数のうちの最大測定周波数が、前記一つの測定周波数の10倍以上に設定することも可能である。
【0020】
本構成の金属部材の肉厚変化検出方法においては、少なくとも2通りの測定周波数のうちの最大測定周波数を、最小測定周波数である前記一つの測定周波数の10倍以上に設定することにより、夫々の電流を金属部材に印加したときの浸透深さを約3倍以上異ならせることができる。これにより、金属部材の材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を補正することができ、金属部材の肉厚変化のみに起因する磁界強度変化を検出することが容易となり、検出精度が向上する。
【0021】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法では、前記特定工程において、夫々の認識結果を所定の重み付け値で重み付けし、それらの差分を求めて前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定することが好ましい。
【0022】
本構成の金属部材の肉厚変化検出方法においては、金属部材の肉厚変化の発生状況を特定するに際して、少なくとも2通りの測定周波数を有する電流を金属部材に印加することで得られた夫々の認識結果を所定の重み付け値で重み付けし、それらの差分を求める演算を行っている。この演算により、金属部材の材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を容易に分離することが可能となり、検出精度が向上する。
【0023】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出方法では、前記検知工程において、前記金属部材の肉厚方向に直交し、且つ前記電流の方向に直交する方向における磁界の強度変化を認識することが好ましい。
【0024】
検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加すると、その電流の周りに同心円状の磁界が当該電流の流れる方向に直交して形成される。この場合、金属部材から発生する磁界の強度は、理論上、金属部材に印加した電流が流れる方向に直交する方向において最も大きくなる。
そこで、本構成の金属部材の肉厚変化検出方法では、磁気検知手段によって、金属部材の肉厚方向に直交し、且つ電流の方向に直交する方向における磁界の強度変化を認識することにより、肉厚変化を確実に検出することができる。また、磁界強度が大きい方向の磁界を測定するので、磁気検知手段の走査姿勢が多少変動しても、磁気の検出に大きく影響することはない。
【0025】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出装置の特徴構成は、検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加する電流印加手段と、前記金属部材の表面を走査して、当該金属部材から発生する磁界を検知する磁気検知手段と、前記磁界の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する特定手段とを備えたことにある。
【0026】
本構成の金属部材の肉厚変化検出装置は、特定手段によって、金属部材の肉厚変化の発生状況、すなわち、減肉部の有無および減肉部の発生箇所を特定することが可能となる。
また、本構成の金属部材の肉厚変化検出装置では、金属部材から発生する磁界の強度を検知するものであるがゆえに、磁気検知手段を金属部材の表面に対して非接触の状態にして行うことができるので、例えば、金属部材に保温材等が被覆されている場合や、金属部材が手の届かない位置にある場合等においても、肉厚変化を確実に検出することができる。
【0027】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出装置では、前記電流印加手段は、前記電流の前記金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、前記測定周波数を設定する測定周波数設定部を有することが好ましい。
【0028】
本構成の金属部材の肉厚変化検出装置は、電流印加手段が有する測定周波数設定部が、金属部材に印加する電流の周波数を、電流の金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように設定することで、金属部材の断面全体に十分な電流を流すことができる。従って、金属部材の裏側に減肉部が存在する場合や、肉厚変化が微細な場合であっても、それらを確実に検出することができる。
【0029】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出装置では、前記測定周波数設定部は少なくとも2通りの測定周波数を設定し、当該少なくとも2通りの測定周波数のうちの一つは前記金属部材の肉厚の影響を有意に受ける、前記浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなる周波数であり、その他の測定周波数は前記金属部材の肉厚の影響を無視できる周波数であることが好ましい。
【0030】
本構成の金属部材の肉厚変化検出装置では、測定周波数設定部が少なくとも2通りの測定周波数を設定することにより、最終的に、少なくとも2通りの磁界の夫々の強度変化を認識することができる。この場合、電流の測定周波数として、一つの周波数を金属部材の肉厚の影響を有意に受ける、浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなる周波数(低周波数)に設定し、その他の測定周波数を金属部材の肉厚の影響を無視できる周波数(高周波数)に設定する。これにより、金属部材の断面全体に電流を流すことを確保しつつ、種々の測定周波数で肉厚変化の検出を行うことができる。従って、金属部材の裏側に減肉部が存在する場合や、肉厚変化が微細な場合であっても、それらを確実に検出することができる。
【0031】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出装置では、前記測定周波数設定部は、前記その他の測定周波数のうちの最大測定周波数を、前記一つの測定周波数の10倍以上に設定することが好ましい。
【0032】
本構成の金属部材の肉厚変化検出装置においては、測定周波数設定部が、少なくとも2通りの測定周波数のうちの最大測定周波数を、最小測定周波数である前記一つの測定周波数の10倍以上に設定することにより、夫々の電流を金属部材に印加したときの浸透深さを約3倍以上異ならせることができる。これにより、金属部材の材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を補正することができ、金属部材の肉厚変化のみに起因する磁界強度変化を検出することが容易となり、検出精度が向上する。
【0033】
本発明に係る金属部材の肉厚変化検出装置では、前記特定手段は、前記少なくとも2通りの測定周波数に夫々対応する前記磁界の強度変化の認識結果を所定の重み付け値で重み付けし、それらの差分を求める演算部を有することも可能である。
【0034】
本構成の金属部材の肉厚変化検出装置においては、金属部材の肉厚変化の発生状況を特定するに際して、演算手段が、少なくとも2通りの測定周波数を有する電流を金属部材に印加することで得られた夫々の認識結果を所定の重み付け値で重み付けし、それらの差分を求めている。この演算により、金属部材の材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を容易に分離することが可能となり、検出精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態および図面に記載される構成に限定されるものではなく、これらと均等な構成も含み得る。
【0036】
図1は、本発明の実施形態による金属部材Mの肉厚変化検出方法を実施するために用いる肉厚変化検出装置100の概略構成図である。肉厚変化検出装置100は、検出対象である金属部材Mに交流電流を印加する電源装置(電流印加手段)10、金属部材Mの表面を走査する磁気センサ(磁気検知手段)20、および磁気センサ20から送信される検知信号に基づいてデータの解析や判断を行うコンピュータ(特定手段)30を備えている。
【0037】
電源装置10は、金属部材Mに取り付けられる少なくとも一組の電極1、および交流電流を発生するジェネレータ2を有し、両者はリード線3で接続されている。また電源装置10は、本発明の肉厚変化検出方法を実行するに際しての測定周波数、すなわち交流電流の周波数を設定するファンクションジェネレータ(測定周波数設定部)4も有する。
【0038】
なお、本実施形態では、金属部材Mとして、図2に示すように、縦600mm×横600mm×厚さ9mmのサイズを有する鉄等の金属製の平板試験板であって、当該平板試験板の中央に縦200mm×横200mm×深さ4.5mmの欠陥部(50%減肉部)Dを有するものを使用した。
【0039】
電極1は、金属部材Mの対向する両端部に複数組設けることが好ましい。特に、電極1から欠陥部Dまでの距離が短い場合は、金属部材Mの断面全体に電流が万遍なく流れるように、金属部材Mの対向する両端部に略均等な間隔で電極1を配置しておくことが好ましい。但し、電極1が欠陥部Dの縁端部から10cm以上離間していれば、金属部材Mの略全体に電流が行き渡る。従って、この場合は、電極1は欠陥部Dを挟む位置に少なくとも一組設ければよい。
【0040】
ジェネレータ2は、金属部材Mに交流電流を印加する。このときの交流電流の周波数(測定周波数)は、金属部材Mの材質および肉厚に基づいて、ファンクションジェネレータ4を用いて1通りまたは少なくとも2通りのパターンが設定される。1通りの測定周波数を設定する場合、交流電流の金属部材Mにおける浸透深さが金属部材Mの肉厚より大きくなるように設定する。この測定周波数は、金属部材Mの肉厚変化に起因して磁界の強度変化が発生する周波数であるから、金属部材の肉厚の影響を有意に受ける周波数である。一方、少なくとも2通りの測定周波数を設定する場合は、そのうちの一つが交流電流の金属部材Mにおける浸透深さが金属部材Mの肉厚より大きくなるように設定する。その他の測定周波数は金属部材Mの肉厚の影響を無視できる周波数としてもよい。
電流の金属部材Mにおける浸透深さは、以下の式(1)によって求められる。
〔数1〕
δ = 1/(πfμσ)1/2 ・・・ (1)
δ : 浸透深さ
f : 周波数
μ : 透磁率
σ : 導電率
【0041】
式(1)において、周波数fの好適な範囲は、0.01Hz以上100Hz未満の範囲となる。このような範囲が選択される理由について、以下に説明する。
【0042】
図3は、金属部材Mに流す交流電流の周波数(Hz)と金属部材Mの健全部/欠陥部における磁気センサ20の出力比(dB)との関係を示したグラフである。
このグラフによれば、周波数が0.01Hz〜1Hzの範囲では健全部/欠陥部における磁気センサ20の出力比は略一定で推移する。ところが、周波数が1Hzを超えると徐々に出力比が低下し、100Hz付近では0に近くなる。これは、交流電流の周波数が大きくなるにつれて金属部材Mに対する電流の浸透深さが小さくなるためである。周波数が0.01Hz未満の場合は、磁界の検出自体が困難となるため好ましくない。
従って、測定周波数が0.01Hz以上100Hz未満の範囲であれば、金属部材Mからの磁界強度を、金属部材Mの健全部/欠陥部における磁気センサ20の出力比として検出することができる。
【0043】
金属部材Mに交流電流が流れると、その表面から磁界が発生し、これを磁気センサ20によって検知する。例えば、電流の流れる方向が図1に示すY軸方向であるとすれば、当該電流の周りに同心円状の磁界が当該電流の流れる方向に直交して形成される。この場合、金属部材Mから発生する磁界の強度は、理論上、金属部材Mに印加した電流に直交する方向において最も大きくなる。従って、金属部材Mの表面に対する磁気センサ20の検出磁界方向は、Y軸方向に直交するZ軸方向とするのが好適である。これにより、磁気センサ20は、金属部材M上の磁界を確実に検出することができる。また、磁界強度が大きい方向の磁界を測定するので、磁気センサ20の走査姿勢が多少変動しても、磁界の検出に大きく影響することはない。
なお、本明細書でいう「検出磁界方向」とは、磁気センサ20が検知する磁界の方向を意味する。
【0044】
本発明の肉厚変化検出装置100で使用可能な磁気センサ20には、例えば、各軸方向の磁界を検出可能なフラックスゲートセンサが挙げられる。磁気センサ20は、測定者が手作業で動かしてもよいが、金属部材Mの表面(Y−Z座標上の位置)の全体を走査することが可能であって、且つ表面からのリフトオフ量(X座標上の高さ位置)の調節が可能なように、例えば、図示しない精密位置決め装置等に取り付けて使用することが好ましい。
【0045】
磁気センサ20はコンピュータ30に接続され、磁気センサ20で検知した磁気強度に対応する検知信号が当該コンピュータ30に送信される。コンピュータ30は、この検知信号を連続的に、所定の時間毎に、または所定の距離毎に受信することにより、金属部材Mから発生する磁界の強度変化を認識する。そして、その認識結果から金属部材Mの肉厚変化の発生状況を特定する。金属部材Mの肉厚変化の発生状況の特定とは、金属部材Mにおける減肉部の有無を特定することや、当該減肉部の発生箇所を特定すること等を意味する。また、コンピュータ30は、認識結果を補正して検出精度を向上させるために、内蔵するCPU(演算部)31によって種々の演算を行うことができる。
コンピュータ30のCPU31が行う金属部材Mの肉厚変化の検出に関する演算を、以下の実施例において説明する。
【0046】
〔実施例1〕
図4は、表面側に欠陥部として50%減肉部が存在する平板試験板(これは、図2の金属部材Mを裏返したものに相当する)を検出対象とし、本発明の肉厚変化検出装置100を用いて肉厚変化の検出を行った結果を示すグラフである。
実施例1では、平板試験板を磁気センサ20の走査方向(検出磁界方向であるZ軸方向)に30分割し、各分割領域について一端部側から他端部側に向かって測定ポイント1〜30と番号付けした。従って、実施例1の平板試験板においては、測定ポイント10〜20にわたって欠陥部が存在することになる。
磁気センサ20のリフトオフ量は50mmとし、20mmのピッチでZ軸方向に移動させた。平板試験板に流した電流は200mAであり、測定周波数を100Hz(高周波数)および0.1Hz(低周波数)とした。
【0047】
結果は、測定周波数が100Hzでは、欠陥部が存在する位置を明確に特定することは困難であった。これは、測定周波数が100Hzの場合は、電流が平板試験板の表面近傍にしか流れず、減肉部と健全部との断面積の差による電流量の違いがほとんどないことから、磁界強度の差となって現れ難いためである。
しかし、測定周波数を0.1Hzにすると、欠陥部における磁束密度がまわりの健全部における磁束密度よりも低下し、減肉部が存在する位置を明確に特定することができた。これは、測定周波数が0.1Hzの場合は、電流の浸透深さが十分に大きくなるため欠陥部と健全部との断面積の差による電流量の違いが顕著に現れ、これによって発生する磁界強度の変化が明確になるためである。
【0048】
〔実施例2〕
図5は、裏面側に欠陥部として50%減肉部が存在する平板試験板(これは、図2の金属部材Mと同一のものに相当する)を検出対象とし、本発明の肉厚変化検出装置100を用いて実施例1と同様に肉厚変化の検出を行った結果を示すグラフである。
実施例2においても、実施例1と同様に測定ポイント1〜30を規定し、測定ポイント10〜20にわたって欠陥部が存在する平板試験板を使用した。
磁気センサ20のリフトオフ量は50mmとし、20mmのピッチでZ軸方向に移動させた。平板試験板に流した電流は200mAであり、測定周波数を100Hzおよび0.1Hzとした。
【0049】
結果は、実施例1と同様であったため、詳細な説明は省略する。
【0050】
〔比較例1〕
図6は、比較例として、表面側および裏面側の何れにも欠陥部が存在しない平板試験板を検出対象とし、本発明の肉厚変化検出装置100を用いて肉厚変化の検出を行った結果を示すグラフである。
比較例1では、実施例1および2と同様の測定ポイント1〜30を規定した平板試験板を使用した。
磁気センサ20のリフトオフ量は50mmとし、20mmのピッチでZ軸方向に移動させた。平板試験板に流した電流は200mAであり、測定周波数を100Hzおよび0.1Hzとした。
【0051】
結果は、平板試験板に欠陥部が存在しないため、測定周波数が100Hzおよび0.1Hzの何れにおいても磁界強度の変化は検出されなかった。
【0052】
〔比較例2〕
図7は、裏面側に欠陥部として50%減肉部が存在する平板試験板(これは、図2の金属部材Mと同一のものに相当する)を検出対象とし、本発明の肉厚変化検出装置100を用いてX軸方向における磁界強度を電圧の相対値として検出した比較例の結果を示すグラフである。
比較例2では、平板試験板のZ軸方向に沿って測定ポイント1〜28を規定し、磁気センサ20を平板試験板に対してリフトオフ量を50mmに設定し、20mmのピッチでZ軸方向に移動させ、各測定ポイントにおいてX軸方向における磁界強度を検出した。
なお、この比較例2においても、平板試験板に流した電流は200mAであり、測定周波数を100Hzおよび0.1Hzとした。
【0053】
結果は、測定周波数が100Hzおよび0.1Hzの何れにおいても磁界強度の変化を明確に検出することはできなかった。
【0054】
〔実施例3〕
図8は、裏面側に欠陥部として30%減肉部が存在する平板試験板(これは、実施例1の平板試験板において減肉部を30%に変更したものに相当する)を検出対象とし、本発明の肉厚変化検出装置100を用いて肉厚変化の検出を行った結果を示すグラフである。
実施例3に用いた平板試験板は、磁気センサ20の走査方向(検出磁界方向であるZ軸方向)に30分割した測定ポイント1〜30のうち、測定ポイント12〜15にかけて欠陥部が存在する。この欠陥部の深さは2.7mmであった。
磁気センサ20のリフトオフ量を50mmとし、20mmのピッチでZ軸方向に移動させた。平板試験板に流した電流は200mAであり、測定周波数を100Hzおよび0.1Hzとした。
【0055】
結果は、実施例1と同様であり、測定周波数が100Hzでは欠陥部が存在する位置を明確に特定することは困難であったが、測定周波数を0.1Hzにすると欠陥部における磁束密度がまわりの健全部における磁束密度よりも低下し、減肉部が存在する位置を特定することができた。
【0056】
さらに、本実施例3では、測定周波数100Hzおよび0.1Hzでの測定データに対し、次に説明する補正をすることにより、金属部材の材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を取り除いて、減肉部が存在する位置をより高精度に検出することが可能となる。
【0057】
先ず、測定周波数100Hzおよび0.1Hzで測定した夫々の対数振幅値(dBV)を振幅値(V)に変換する。次いで、測定周波数が100Hzの振幅値(V)および0.1Hzの振幅値(V)を、夫々所定の重み付け値(本実施例の場合は0.6および1.0)で重み付けした後、両者の差分を求める。なお、ここでは、図8にプロットするために、振幅値(V)のまま、その差分値を18倍して9だけ引いた値で表示している。また、補正に用いる重み付け値は、測定の条件等によって異なり、適宜最適な値が選択される。
上記補正後のデータについて、測定ポイント1〜30に対してプロットしたグラフを、図8中の「補正後」と記載した太線で示す。この補正後のグラフでは、磁気センサ20が検知した磁束密度と平板試験板中の減肉部の位置とが略正確に対応していることが分かる。
【0058】
このように、測定周波数100Hzおよび0.1Hzでの測定データに対して、所定の重み付け値で重み付けすることによって補正を行えば、金属部材Mの材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を容易に分離することが可能となり、平板試験板中の減肉部の位置をより高精度に検出することができた。
【0059】
上記補正を行う場合、選択する測定周波数は100Hzおよび0.1Hzに限らないが、少なくとも2通りの測定周波数であればよい。このうち一つの測定周波数は金属部材Mの肉厚の影響を有意に受ける周波数であり、その他の測定周波数は金属部材Mの肉厚の影響を無視できる周波数とする。また、選択した複数の測定周波数(本実施例では、0.1Hzおよび100Hz)のうち、金属部材Mの肉厚の影響を無視できる周波数である最大測定周波数を、金属部材Mの肉厚の影響を有意に受ける周波数である最小測定周波数の10倍以上に設定することが好ましい。このような設定とすれば、前述の式(1)より、各周波数fの電流を金属部材Mに印加したときの浸透深さδを約3倍以上異ならせることができる。これにより、金属部材Mの材質のバラツキに起因する磁界強度変化の影響を補正することができ、金属部材Mの肉厚変化のみに起因する磁界強度変化を検出することが容易となるので、検出精度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の金属部材の肉厚変化検出方法、および金属部材の肉厚変化検出装置は、ガス配管、上下水道管、ガスタンク等のユーティリティ供給設備についての検査の他、例えば、車両、船舶、航空機等についての機体検査、各種建物の建材についての検査等、種々の分野において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】金属部材の肉厚変化検出方法を実施するために用いる肉厚変化検出装置の概略構成図
【図2】実施形態において使用した金属部材の模式図
【図3】金属部材に流す交流電流の周波数と金属部材の健全部/欠陥部における磁気センサの出力比との関係を示したグラフ
【図4】表面側に欠陥部として50%減肉部が存在する平板試験板を検出対象として肉厚変化の検出を行った実施例1の結果を示すグラフ
【図5】裏面側に欠陥部として50%減肉部が存在する平板試験板を検出対象として肉厚変化の検出を行った実施例2の結果を示すグラフ
【図6】表面側および裏面側の何れにも欠陥部が存在しない平板試験板を検出対象とした比較例1の結果を示すグラフ
【図7】裏面側に欠陥部として50%減肉部が存在する平板試験板を検出対象としてX軸方向における磁界強度を検出することで肉厚変化の検出を行った比較例2の結果を示すグラフ
【図8】裏面側に欠陥部として30%減肉部が存在する平板試験板を検出対象として肉厚変化の検出を行った実施例3の結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0062】
4 ファンクションジェネレータ(測定周波数設定部)
10 電源装置(電流印加手段)
20 磁気センサ(磁気検出手段)
30 コンピュータ(特定手段)
100 肉厚変化検出装置
M 金属部材(平板試験板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加する電流印加工程と、
前記金属部材の表面を磁気検知手段で走査し、当該金属部材から発生する磁界を検知する検知工程と、
前記磁界の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する特定工程と
を包含する金属部材の肉厚変化検出方法。
【請求項2】
前記電流印加工程において、前記電流の前記金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、前記測定周波数が設定される請求項1に記載の金属部材の肉厚変化検出方法。
【請求項3】
検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された少なくとも2通りの測定周波数を夫々有する電流を印加する電流印加工程と、
前記金属部材の表面を磁気検知手段で走査し、当該金属部材から発生する少なくとも2通りの磁界を夫々検知する検知工程と、
前記少なくとも2通りの磁界の夫々の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する特定工程と
を包含する金属部材の肉厚変化検出方法。
【請求項4】
前記電流印加工程において、前記電流の前記金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、前記少なくとも2通りの測定周波数のうちの一つが設定され、当該一つの測定周波数は前記金属部材の肉厚の影響を有意に受ける周波数であり、その他の測定周波数は前記金属部材の肉厚の影響を無視できる周波数である請求項3に記載の金属部材の肉厚変化検出方法。
【請求項5】
前記その他の測定周波数のうちの最大測定周波数が、前記一つの測定周波数の10倍以上に設定される請求項4に記載の金属部材の肉厚変化検出方法。
【請求項6】
前記特定工程において、夫々の認識結果を所定の重み付け値で重み付けし、それらの差分を求めて前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する請求項3〜5の何れか一項に記載の金属部材の肉厚変化検出方法。
【請求項7】
前記検知工程において、前記金属部材の肉厚方向に直交し、且つ前記電流の方向に直交する方向における磁界の強度変化を認識する請求項1〜6の何れか一項に記載の肉厚変化検出方法。
【請求項8】
検出対象である金属部材に、当該金属部材の材質および肉厚に基づいて設定された測定周波数を有する電流を印加する電流印加手段と、
前記金属部材の表面を走査して、当該金属部材から発生する磁界を検知する磁気検知手段と、
前記磁界の強度変化を認識し、その認識結果から前記金属部材の肉厚変化の発生状況を特定する特定手段と
を備えた金属部材の肉厚変化検出装置。
【請求項9】
前記電流印加手段は、前記電流の前記金属部材における浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなるように、前記測定周波数を設定可能な測定周波数設定部を有する請求項8に記載の金属部材の肉厚変化検出装置。
【請求項10】
前記測定周波数設定部は少なくとも2通りの測定周波数を設定し、当該少なくとも2通りの測定周波数のうちの一つは前記金属部材の肉厚の影響を有意に受ける、前記浸透深さが当該金属部材の肉厚より大きくなる周波数であり、その他の測定周波数は前記金属部材の肉厚の影響を無視できる周波数である請求項9に記載の金属部材の肉厚変化検出装置。
【請求項11】
前記測定周波数設定部は、前記その他の測定周波数のうちの最大測定周波数を、前記一つの測定周波数の10倍以上に設定する請求項10に記載の金属部材の肉厚変化検出装置。
【請求項12】
前記特定手段は、前記少なくとも2通りの測定周波数に夫々対応する前記磁界の強度変化の認識結果を所定の重み付け値で重み付けし、それらの差分を求める演算部を有する請求項10または11に記載の金属部材の肉厚変化検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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