説明

金属部材の腐食防止方法

【課題】安価で、塗装膜の剥離を心配することなく、しかも狭い流路であっても容易に実施し得る金属部材の腐食防止方法を提供する。
【解決手段】高温流体および低温流体に接触して高温領域Aと低温領域Bとを有する伝熱板1において、温度差に起因するガルバニック腐食が発生する腐食領域Cの上記低温領域B寄り表面に、エポキシ系塗料からなる絶縁性で且つ多孔性の膜材2を、10〜200μmの範囲の厚さでもって形成する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプレート式熱交換器における腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、積層プレート式の熱交換器は、伝熱性が良好な金属製プレートが所定間隔でもって多数並列に配置されるとともに、プレート間に形成される各流体通路に、高温流体(例えば高温水)と低温流体(例えば低温水)とが交互に流れるように構成されている。
【0003】
そして、通常、熱交換器の構成材料としてはステンレス鋼が用いられているが、温度差に起因するガルバニック腐食から免れることができなかった。
このため、従来、腐食の心配がない金属材料を用いるか、防食塗装を施すか、または電気防食が行われている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−215489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、腐食の心配がない金属材料は非常に高価であり、製造コストの上昇は免れず、また防食塗装については、温度差により金属表面に水分が発生し、この水分により塗装膜が膨張して剥離が発生するという問題がある。さらに、電気防食については、積層プレート式の熱交換器の狭い流路内に電極を取り付けるのは、スペース上、非常に困難であった。
【0005】
そこで、上記課題を解決するため、本発明は、安価で、塗装膜の剥離を心配することなく、しかも狭い流路であっても容易に実施し得る金属部材の腐食防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る金属部材の腐食防止方法は、流体に接触して高温領域と低温領域とが生じる金属部材において、温度差に起因する腐食が発生する腐食領域の上記低温領域寄り表面に、絶縁性で且つ多孔性の膜材を形成する方法である。
【0007】
また、請求項2に係る金属部材の腐食防止方法は、請求項1に記載の腐食防止方法における膜材として高分子材料を用いる方法である。
さらに、請求項3に係る金属部材の腐食防止方法は、請求項1または2に記載の腐食防止方法における膜材の厚さを、10〜200μmの範囲とする方法である。
【発明の効果】
【0008】
上記の腐食防止方法によると、温度差により腐食が発生する金属部材上の腐食領域の低温領域寄り表面に、絶縁性で且つ多孔性の膜材を形成したので、カソード側の表面が絶縁膜でほぼ覆われた状態となるため、腐食の発生を抑制することができる。
【0009】
すなわち、腐食の心配がない高価な金属材料を用いる必要がなく、また電極の替わりに膜材を形成するだけでよいため、プレート式熱交換器の流体流路のように非常に狭いスペースにでも容易に適用することができる。さらに、金属部材の表面に形成するのは多孔性の膜材であるため、当該金属部材表面との間に温度差に起因して液分が発生し、またこの液分が膨張した場合でも、液分は孔部から膜材の表面に流出するため、膜材を剥離させる心配はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る金属部材の腐食防止方法を、図1および図2に基づき説明する。
【0011】
本実施の形態においては、積層プレート式熱交換器における伝熱板(プレートで、金属部材の一例である)の腐食防止方法について説明する。
まず、積層プレート式の熱交換器の構成について、簡単に説明しておく。
【0012】
この積層プレート式の熱交換器は、例えば内部に熱交換室が形成された熱交換器本体内に、所定間隔おきに例えばステンレス製の伝熱板が多数並列に(層状に)配置されるとともに、これら伝熱板間に形成される各流体流路に、高温側流体(例えば、高温水)と低温側流体(例えば、低温水)とが交互に、且つ互いに逆向きに流れる(対向流)ようにされている。
【0013】
図1に示すように、一枚の伝熱板1に着目すると、その一方の表面側には、所定方向に高温流体3が流されるとともに、他方の表面側には、所定方向とは反対方向に低温流体4が流されることになる。したがって、伝熱板1自身の厚さ方向および表面と平行な長手方向に温度勾配が生じることになり、長手方向について言えば、高温流体3の流れ方向の上流側が高温領域Aになるとともに下流側が低温領域Bになる。
【0014】
例えば、図2(a)および(b)に示すように、同一の金属製板体11において温度差(例えば、30〜150℃)が生じると、高温領域Aと低温領域Bとの境界近傍では、自然電位差が大きくなり腐食領域(腐食部分)Cが発生する。
【0015】
そして、本実施の形態に係る腐食防止方法は、図1に示すように、腐食領域Cの低温領域B寄りの位置に、絶縁性で且つ多孔性の膜材(コーティング層でもある)2を形成する方法である。
【0016】
この膜材2としては、例えば樹脂系塗料(高分子材料の一例)が用いられ、より具体的には、エポキシ系塗料が用いられる。
このエポキシ系塗料は、例えば体質顔料を限界含有量以上に含有させることにより、当該エポキシ樹脂層内に隙間を形成して多孔性(多孔質)にしたものである。なお、体質顔料とは、煮あまに油などのビヒクルで練ると透明ないし半透明になる隠ぺい力の極めて小さい顔料をいい、例えばバライト粉、炭酸カルシウムなどがある(標準化学用語辞典:丸善株式会社)。
【0017】
また、上記膜材2の厚みは、塗膜剥れの防止および伝熱性を考慮して、10〜200μm、好ましくは、100〜150μmの範囲にされている。
このような厚さにしたのは、塗膜にピンホールなどが発生することについては目をつぶり(多孔質塗料を用いているため)、単に、塗膜剥れを防止するという意味では10μm以上であればよく、また200μmを超えると、熱伝導が悪くなるため、10〜200μmの範囲としている。そして、この範囲において、さらにピンホールの発生を防止しようとすると、膜厚が100μm以上にする必要があるとともに、熱伝導性の改善を図るという意味では、150μm以下が好ましい。
【0018】
このように、伝熱板1における温度差によりガルバニック腐食が発生する腐食領域Cの直ぐ低温領域B寄りに、絶縁性で且つ多孔性の膜材2を形成したので、カソード側の表面が絶縁膜でほぼ覆われた状態となるため、ガルバニック腐食の発生を防止することができる。
【0019】
すなわち、腐食の心配がない高価な金属材料を用いる必要がなく、また電極の替わりに膜材2を形成するだけでよいため、積層プレート式熱交換器の流体流路のように非常に狭いスペースにも、容易に適用することができる。
【0020】
さらに、伝熱板1の表面に形成するのは多孔性の膜材2であるため、当該伝熱板1表面との間に、温度差に起因して水分(液分)が発生した場合、または水分が膨張した場合でも、孔から膜材2の表面に流出するため、膜材2が剥離するのを防止することができる。
【0021】
ところで、上記実施の形態においては、膜材2として、エポキシ系塗料(エポキシ系樹脂)を用いたが、例えばフッ素系塗料(フッ素系樹脂)を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る金属部材の腐食防止方法を説明する要部断面図である。
【図2】同実施の形態における金属板体についての腐食状態を示す図で、(a)は腐食領域を示し、(b)は温度と自然電位との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0023】
A 高温領域
B 低温領域
C 腐食領域
1 伝熱板
2 膜材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体に接触して高温領域と低温領域とが生じる金属部材において、温度差に起因する腐食が発生する腐食領域の上記低温領域寄り表面に、絶縁性で且つ多孔性の膜材を形成したことを特徴とする金属部材の腐食防止方法。
【請求項2】
膜材は高分子材料であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の腐食防止方法。
【請求項3】
膜材の厚さが10〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属部材の腐食防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−83439(P2006−83439A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270606(P2004−270606)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】