説明

金属酸化物微粒子分散液及び成形体

【課題】高い透明性を要求される成形体を作製するのに用いられる金属酸化物微粒子分散液、及び金属酸化物微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性及び高屈折率を有する成形体の提供。
【解決手段】少なくとも金属酸化物微粒子を含有してなり、ハロゲン元素の濃度が10ppm〜900ppmであり、かつpHが0〜4である金属酸化物微粒子分散液、及び該金属酸化物微粒子分散液と、樹脂とを含む複合組成物から成形されてなる成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い透明性を要求される成形体を作製するのに用いられる金属酸化物微粒子分散液及び該金属酸化物微粒子分散液を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズの分野においては高屈折性、耐熱性、耐光性、透明性、易成形性、軽量性、耐薬品性、及び耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0003】
それに伴って、レンズの薄肉化、撮像素子の小型化を目的として素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1及び2参照)、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3参照)等が活発に研究されてきた。しかし、十分に屈折率が大きくて良好な透明性、耐光性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。また、光ファイバーや光導波路では、異なる屈折率を有する材料を併用したり、屈折率に分布を有する材料を使用したりする。これらの材料のように屈折率が部位によって異なるものに対応するために、屈折率を任意に調節できる技術の開発も望まれている。
【0004】
有機物のみで屈折率を高めることは難しいことから、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって樹脂を高屈折率化する手法が報告されている(特許文献4参照)。また、レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子サイズが15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリックス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子サイズが15nm以下の1次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリックス中に均一に分散させることは極めて難しい。また、レンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得ない。このため、樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散することはこれまでできなかった。
【0005】
また、数平均粒子径0.5nm〜50nmの超微粒子が分散した熱可塑性樹脂を主体とする成形体であって、光波長1mm当たりの複屈折率の平均が10nm以下である複合組成物成形体(特許文献5参照)、特定の数式で示される屈折率及びアッベ数を有する熱可塑性樹脂と、特定の平均粒子径と屈折率とを有する無機微粒子とからなる有機無機複合材組成物及びこれを用いた光学部品が報告されている(特許文献6及び7参照)。これらも樹脂中に無機微粒子を分散させたものであるが、いずれも樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散するといった観点からは十分な性能を発揮するものではなかった。
【0006】
無機微粒子を合成する場合には、その合成方法や溶媒により大きく異なるが、例えば水溶液系で金属化合物を加水分解して酸化物を合成する場合には、コスト、溶解度の点から金属ハロゲン化物や金属酸化ハロゲン化物を用いる場合が多い。ハロゲン化合物の中でも特に溶解度の点から塩化物が用いられる場合が多い。また、金属アルコキシドの加水分解により金属酸化物を合成する場合にも酸として塩酸等をよく用いる。これらのハロゲンが溶液中に過剰に存在すると無機微粒子を凝集させてしまい、透明性の高い分散液を作製することができないという問題がある。
【0007】
また、特許文献8では、二酸化チタン水分散液中の塩素濃度を規定しており、塗布薄膜を形成し、焼成する際に密着性がよくなるために1000ppm〜10,000ppm程度の濃度の塩素が存在していた方がよいと記載されており、電気透析により塩素イオンを取り除き、ポリビニルアルコールを添加することにより安定化している。更に、二酸化チタンの平均粒径は0.01〜0.1μmであり、この粒子サイズ領域ではレイリー散乱の効果が顕著に現れるが、基材の表面に塗布した薄膜として使用するため多少大きな粒子でも塩素による凝集が生じても問題ない範囲である。しかし、散乱効果が顕著となる数100μm〜数mm程度の厚みの成形体には透過率が低すぎて応用することができない。
【0008】
前記無機微粒子の平均一次粒子径は、レイリー散乱に大きく影響を及ぼすが、これは一次粒子が凝集することなく独立に分散していることが大前提である。微粒子はその平均一次粒子径が小さくなるほど凝集しやすくなる傾向にある。どんなに平均一次粒子径が小さくてもこれらが凝集したいわゆる二次粒子径が大きくなるとレイリー散乱により透明性を低下させてしまう。ここでいう平均一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により得られた粒子写真の円相当径の平均値である。したがって平均一次粒子径からだけでは分散液及びこれを用いたコンポジット成形体の透明性を決定することはできない。
【0009】
分散液状態の粒子径を求める方法としては、通常、動的散乱法を用いるのが一般的である。金属酸化物微粒子が完全に一次粒子として孤立していれば、粒子径は一次粒子径に相当し、凝集状態にあれば二次粒子径に相当する。この場合、動的散乱法により得られた粒子径がどちらの粒子径を表すかはTEM観察との比較によりわかる。
【0010】
金属酸化物微粒子の凝集状態は、主に粒子合成時の条件により決定される。一般に微粒子の結晶性を高めるためや収率を高めるために高温状態で合成する場合があるが、このような状況では粒子は互いに凝集しやすい傾向にある。また、金属酸化物微粒子の濃度が極端に高い条件で合成しても同様である。更に、分散液中にハロゲン元素が高濃度に存在する場合も凝集することが知られている。要求される一次粒子径、又は二次粒子径は、これを用いて作製するデバイスの性能によって異なり、それに応じた合成手法を用いて調整される。
【0011】
例えば、金属酸化物微粒子分散液を塗布し、乾燥し、焼成して作製される透明導電膜であれば、通常膜厚は数100nm〜数μm程度である。このような比較的膜厚の薄いデバイスであれば、例えば30nmを超えるような一次粒子径、又は二次粒子径のものであっても十分に透明性を確保することができる。しかし、例えばデジカメ用のレンズ等の高い透明性が必要な光学デバイスでは、数mm以上の厚みが必要であり、レイリー散乱の効果が顕著に現れるので、透明性を確保するためには十分に小さく、かつ凝集していない無機微粒子分散物が必要となる。
【0012】
金属酸化物微粒子分散液のハロゲン元素の濃度は、合成時の触媒として働く酸や金属酸化物微粒子の原料となる化合物に含まれているため、分散液中のハロゲン元素の濃度は金属酸化物微粒子の濃度や用いる酸触媒により異なる。これらのハロゲン元素は、例えば限外濾過、電気透析等で調整することは可能である。上述したように、一般的にはハロゲン元素の濃度が高いと塩析効果により金属酸化物微粒子は凝集し、大きな二次粒子を形成し高い透明性を要求される光学デバイスに用いることはできない。一方、例えばハロゲン濃度を減らすために限外濾過を用いる場合、ある濃度までハロゲンの減少に伴いゾルの透明性は高くなるが、粒子が安定に存在できる溶液のpH領域から大きく外れてくると再び凝集が生じるようになる。
【0013】
pHを調整するために、例えば硝酸や硫酸等を添加するとゾルの透明性は低下する。しかし、硝酸や硫酸の代わりにカルボン酸を添加すると粒子が安定に存在できるpH領域を保ちながら透明性を悪化させず、かつハロゲン濃度を減らすことが可能である。これは、カルボン酸のカルボキシル基が金属酸化物微粒子表面に吸着して分散剤の役割を果たすため、粒子間の凝集を抑制でき、ゾルが高い透明性を保ったまま安定に存在できるからである。
【0014】
また、金属酸化物微粒子を合成する際に、酸触媒としてカルボン酸を用いる場合には、最初からカルボン酸を用いればよいが、カルボン酸は触媒としての効力が弱いため、一般には塩酸や硝酸等を用いる場合が多い。この場合、一旦金属酸化物微粒子を合成した後カルボン酸で置換する必要がある。
【0015】
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2003−73559号公報
【特許文献5】特開2003−147090号公報
【特許文献6】特開2003−73563号公報
【特許文献7】特開2003−73564号公報
【特許文献8】特許第3524342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高い透明性を要求される成形体を作製するのに用いられる金属酸化物微粒子分散液、及び金属酸化物微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性及び高屈折率を有し、レンズ基材等に好適な成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも金属酸化物微粒子を含有してなり、ハロゲン元素の濃度が10ppm〜900ppmであり、かつpHが0〜4であることを特徴とする金属酸化物微粒子分散液である。
<2> 光路長10mmでの金属酸化物微粒子分散液の波長500nmにおける光線透過率が90%以上である前記<1>に記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<3> 金属酸化物微粒子の含有量が、0.1質量%〜20質量%である前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<4> 金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が1nm〜20nmである前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<5> 金属酸化物微粒子が、Zn、Ge、Ti、Zr、Hf、Si、Sn、Mn、Ga、Mo、In、Sb、Ta、V、Y、及びNbから選択される少なくとも1種の金属酸化物、又はこれらの金属の2種以上を組み合わせてなる複合金属酸化物を含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<6> 水を含有し、該水の含有量が70質量%以上である前記<1>から<5>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<7> 酸を含有し、該酸がカルボン酸である前記<1>から<6>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<8> カルボン酸が、酢酸である前記<7>に記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<9> ハロゲン元素が、塩素原子である前記<1>から<8>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液、及び樹脂を含有する複合組成物から成形されてなることを特徴とする成形体である。
<11> ハロゲン元素の濃度が、金属酸化物微粒子に対し400ppm〜6000ppmである前記<10>に記載の成形体である。
<12> 波長589nmにおける屈折率が1.60以上であり、かつ厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて77%以上である前記<10>から<11>のいずれかに記載の成形体である。
<13> 金属酸化物微粒子の含有量が、20質量%以上である前記<10>から<12>のいずれかに記載の成形体である。
<14> レンズ基材として用いられる前記<10>から<13>のいずれかに記載の成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、高い透明性を要求される成形体を作製するのに用いられる金属酸化物微粒子分散液、及び金属酸化物微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性及び高屈折率を有し、レンズ基材等に好適な成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(金属酸化物微粒子分散液)
本発明の金属酸化物微粒子分散液は、少なくとも金属酸化物微粒子を含有し、水、カルボン酸、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0020】
前記金属酸化物微粒子分散液は、ハロゲン元素の濃度が10ppm〜900ppmである。
前記金属酸化物微粒子分散液中の金属酸化物微粒子の凝集状態は、pH、及びハロゲン元素の濃度に大きく依存し、ハロゲン元素の濃度が高いほど凝集しやすくなる傾向にある。したがって溶液中のハロゲン元素の濃度の下限値は低い方が好ましいが、脱ハロゲンに要する時間及びコスト等を考えると10ppm以上が好ましい。上限値は900ppm以下が好ましく、700ppm以下がより好ましく、500ppm以下が更に好ましい。
前記ハロゲン元素の濃度が900ppmを超えると、粒子が凝集して透明性が低下してしまうことがある。
前記ハロゲン元素としては、金属酸化物微粒子の合成材料、コスト、溶解度等の点から塩素原子であることが好ましく、塩素原子濃度が上記範囲であることがより好ましい。
ここで、前記ハロゲン元素の濃度は、例えば燃焼式ハロゲン分析装置(ダイアインスツルメンツ社製、AQF−100)により測定することができる。
【0021】
前記金属酸化物微粒子分散液中のハロゲン元素濃度は、例えば遠心分離、限外濾過、電気透析などにより調整することができる。
前記遠心分離は、分散している粒子を一度凝集させて上澄み液を捨てるため効率はよいが、再分散するときに凝集が完全に分かれず、二次粒子を形成するために金属酸化物微粒子分散液の透明性は著しく低下する。したがって脱ハロゲンには電気透析、限外濾過が特に好ましい。
【0022】
前記金属酸化物微粒子分散液のpHは、0〜4であり、0〜2が好ましい。前記pHが4を超えると、金属酸化物の種類によっては凝集が生じ、透明性が低下することがある。
脱ハロゲン化工程において、金属酸化物微粒子分散液のpHを上記範囲に調整するためには、酸を含有することが好ましい。該酸としては、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸などが挙げられるが、粒子の分散性が高い点からカルボン酸が特に好ましい。
前記カルボン酸としては、例えば酢酸、などが挙げられる。
【0023】
前記金属酸化物微粒子分散液の光線透過率は90%以上であることが好ましい。前記光線透過率が90%未満であると、コンポジット成形体としたときの光線透過率が減少して、実質的に光学部材として用いることができない。
前記光線透過率は、例えば光路長10mmの石英製セルに金属酸化物微粒子分散液を入れて、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」(株式会社島津製作所製)により、波長500nmで測定することができる。
【0024】
前記金属酸化物微粒子としては、Zn、Ge、Ti、Zr、Hf、Si、Sn、Mn、Ga、Mo、In、Sb、Ta、V、Y、及びNbから選択される少なくとも1種の金属酸化物、又はこれらの金属の2種以上を組み合わせてなる複合金属酸化物を含有することが好ましい。
前記金属酸化物としては、例えばZnO、GeO、TiO、ZrO、HfO、SiO、Sn、Mn、Ga、Mo、In、Sb、Ta、V、Y、Nbなどが挙げられる。
前記複合金属酸化物としては、例えばチタンとジルコニウムの複合酸化物、チタンとジルコニアとハフニウムの複合酸化物、チタンとバリウムの複合酸化物、チタンとケイ素の複合酸化物、チタンとジルコニウムとケイ素の複合酸化物、チタンと錫の複合酸化物、チタンとジルコニアと錫の複合酸化物などが挙げられる。
これらの中でも、前記複合金属酸化物を構成する全金属原子の60原子%以上がTiであることが好ましく、前記複合金属酸化物を構成する全金属原子の70原子%以上がTi及びSnであることがより好ましい。これにより、高屈折率の金属酸化物微粒子分散液が得られる。
前記複合金属酸化物がTi、Sn及びZrからなり、該複合金属酸化物の全金属の70原子%〜98原子%がTi及びSnであり、残りがZrであることが好ましい。
前記複合金属酸化物のX線回折パターンがルチル型構造を示すことが好ましい。
【0025】
また、金属酸化物微粒子表面を光触媒活性の低い材料で被覆したり前記電子と正孔を再結合させる金属をドープすることと組み合わせてもよい。
このような金属酸化物としてはTiO、ZrO、SnOが好ましく、屈折率が高いという点においてTiOがより好ましい。更にスズとの複合酸化物にすることでルチル構造にすることにより更に屈折率を向上させることができる。このようなスズとチタンのルチル型複合酸化物をコアとしてその表面をZrOやAl及びSiO等で被覆することが特に好ましい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的からシランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面修飾した金属酸化物微粒子であってもよい。
【0026】
前記金属酸化物微粒子の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、金属塩や金属アルコキシドを原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。
【0027】
前記金属塩としては、例えば、所望の金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。前記有機酸塩としては、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、などが挙げられる。また、金属アルコキシドとしては所望の金属のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が挙げられる。このような無機微粒子の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、又はラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0028】
特にゾル生成法により金属酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば四塩化チタンを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合又は解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。
【0029】
また、水中で加水分解させる方法以外には有機溶媒中や熱可塑性樹脂が溶解した有機溶媒中で無機微粒子を作製してもよい。これらの方法に用いられる溶媒としては、例えばアセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
【0030】
前記金属酸化物微粒子の数平均粒子径は、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に該数平均粒子径が大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、複合組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる金属酸化物微粒子の数平均粒子径の下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは7nm以下である。即ち、本発明における金属酸化物微粒子の数平均粒子径としては、1nm〜20nmが好ましく、2nm〜10nmが更に好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
ここで、前記数平均粒子径とは例えば、X線回折(XRD)装置、又は透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0031】
前記金属酸化物微粒子の屈折率は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、2.0〜2.7がより好ましく、2.1〜2.5が更に好ましい。前記屈折率が、3.0を超えると、樹脂との屈折率差が大きくなりレイリー散乱を抑制するのが難しくなることがあり、1.9未満であると、本来の目的である高屈折率化の効果が十分得られないことがある。
【0032】
前記微粒子の屈折率は、例えば樹脂と複合化した複合物を透明フイルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる金属酸化物微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0033】
前記金属酸化物微粒子分散液は、水を含有し、該水の含有量が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。前記水の含有量が、70質量%未満であると、例えば金属酸化物の原料として金属アルコキシドを用いた場合には、条件によってはゲル化が生じ均一なサイズの粒子形成ができなくなり、透明性の低下を引き起こすことがある。又は、原料として金属塩を用いた場合には、溶解度の観点からも水の含有量を減らすことはできない。更に水の含有量が少ないと、脱塩工程において、例えば電気透析等の装置が使えないことがあり、脱塩作業が制約を受けるおそれがある。
【0034】
(成形体)
本発明の成形体は、本発明の前記金属酸化物微粒子分散液と、樹脂と、更に必要に応じてその他の成分を含む複合組成物から成形される。
【0035】
前記成形体のハロゲン元素の濃度は、金属酸化物微粒子に対し400ppm〜6,000ppmであることが好ましく、400ppm〜1000ppmであることがより好ましい。
前記ハロゲン元素の濃度が、400ppm未満であると、性能上不都合となることはないが、脱塩に対する負荷が高くなり、コストアップの要因となることがあり、6,000ppmを超えると、分散液状態での粒子の凝集が分散剤を用いてコンポジット化しても十分に解膠できないことがあり、透明性が低下することがある。
ここで、前記ハロゲン元素の濃度は、例えば燃焼式ハロゲン分析装置(ダイアインスツルメンツ社製、AQF−100)により測定することができる。
【0036】
前記成形体の、波長589nmにおける屈折率は、1.60以上であることが好ましく、1.65以上であることがより好ましく、1.67以上であることが更に好ましい。レンズの薄肉化や撮影ユニットの小型化を図るにはレンズ材料の高屈折率化が求められるが、市販されている熱可塑性樹脂では屈折率は1.6程度である。前記屈折率が、1.60未満であると、樹脂単体でも実現可能であり、コストの面から複合材料成形体のメリットは少なくなる。
前記屈折率は、例えばアッベ屈折計(アタゴ株式会社製、「DR−M4」)にて、波長589nmの光について求めることができる。
【0037】
また、成形体の波長589nmにおいて厚さ1mm換算で77%以上であり、80%以上がより好ましい。前記波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が77%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。
ここで、前記厚さ1mm換算の光線透過率は、厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、株式会社島津製作所製)で測定した値である。
【0038】
前記金属酸化物微粒子の前記成形体における含有量は、20質量%以上が好ましく、30質量%〜50質量%がより好ましい。前記含有量が20質量%未満であると、成形体が十分に高い屈折率が得られないことがある。
【0039】
本発明の成形体を構成する複合組成物は、樹脂と、本発明の前記金属酸化物微粒子とを必須の構成成分とするが、更に必要に応じて別種の樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
前記複合組成物は、ガラス転移温度が100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0041】
<樹脂>
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂などが挙げられる。
【0042】
−熱可塑性樹脂−
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルカルバゾール、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリチオエーテ、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記熱可塑性樹脂としては、末端又は側鎖に金属酸化物微粒子と化学結合し得る官能基を有するものが、金属酸化物微粒子の凝集を防止して均一分散を実現できるという点から特に好ましい。前記官能基としては、下記式で表されるものが好適に挙げられる。
【化1】

ただし、前記式中、R11、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、−SOH、−OSOH、−COH、又はSi(OR15m1163−m1(ただし、R15及びR16は、それぞれ独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、又は置換又は無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す)を表す。
【0044】
ここで、前記「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられ、官能基が複数存在する場合は、それぞれ金属酸化物微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、有機溶媒中において熱可塑性樹脂と金属酸化物微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が金属酸化物微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが金属酸化物微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が金属酸化物微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0045】
前記熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、1,000〜500,000が好ましく、3,000〜300,000がより好ましく、10,000〜100,000が更に好ましい。前記質量平均分子量が、500,000以下であることにより、成形加工性が向上する傾向にあり、1,000以上とすることにより力学強度が向上する傾向にある。
ここで、前記熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、例えば「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(いずれも、東ソー株式会社製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0046】
前記熱可塑性樹脂において、金属酸化物微粒子と結合する官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個が好ましく、0.5〜10個がより好ましく、1〜5個が更に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂が複数の金属酸化物微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、金属酸化物微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、80℃〜400℃が好ましく、130℃〜380℃がより好ましい。前記ガラス転移温度が、80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0047】
−硬化性樹脂−
前記樹脂が硬化性樹脂である場合に熱又は活性エネルギー線の作用によって硬化するも公知の構造を利用できる。具体的には、ラジカル反応性基(例えば(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基等の不飽和基)、カチオン反応性基(エポキシ基、オキセタニル基、エピスルフィド基、オキサゾリル基等)、反応性シリル基(例えば、アルコキシシリル基など)を有するモノマー、プレポリマー等が挙げられる。
その他、特開平5−148340号公報、特開平5−208950号公報、特開平6−192250号公報、特開平7−252207号公報、特開平9-110979号公報、特開平9−255781号公報、特開平10−298287号公報、特開2001−342252号公報、特開2002−131502号公報などに記載の硫黄を含有する硬化性樹脂も好適に用いることができる。
【0048】
前記複合組成物においては、上記樹脂及び金属酸化物微粒子以外に均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。また前記樹脂以外に前記官能基を有さない樹脂を添加してもよく、このような樹脂の種類に特に制限はないが、前記樹脂と同様の光学物性、熱物性、分子量を有するものが好ましい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記金属酸化物微粒子及び熱可塑性樹脂を足しあわせた量に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
本発明では、後述するように水中又はアルコール溶媒中に分散された金属酸化物微粒子を樹脂と混合する際に、有機溶媒への抽出性又は置換性を高める目的、樹脂への均一分散性を高める目的、微粒子の吸水性を下げる目的、あるいは耐候性を高める目的など種々目的に応じて、上記樹脂以外の微粒子表面修飾剤を添加してもよい。該表面処理剤の質量平均分子量は50〜50000であることが好ましく、より好ましくは100〜20000、更に好ましくは200〜10000である。
【0050】
前記表面処理剤としては、下記一般式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
A−B ・・・一般式(2)
前記一般式(2)中、Aは本発明における金属酸化物微粒子の表面と任意の化学結合を形成しうる官能基を表し、Bは本発明における樹脂を主成分とする樹脂マトリックスに対する相溶性又は反応性を有する炭素数1〜30の1価の基又はポリマーを表す。ここで、前記「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられる。
【0051】
Aで表される基の好ましい例は、前記樹脂中に導入される微粒子結合性の官能基として前記したものと同じである。
一方、前記Bの化学構造は、相溶性の観点から該樹脂マトリックスの主体である樹脂の化学構造と同一又は類似であることが好ましい。本発明では特に高屈折率化の観点から前記樹脂とともにBの化学構造が芳香環を有していることが好ましい。
【0052】
前記表面処理剤としては、例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ-α-ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名:日本化薬株式会社製)、KAYAMER PM−2(商品名:日本化薬株式会社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、又は特開平5−221640号公報、特開平9−100111号公報、特開2002−187921号公報など記載のシランカップリング剤などが挙げられる。これらに限定されるものではない。
これらの表面処理剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。これら表面処理剤の添加量の総量は金属酸化物微粒子に対して、質量換算で、0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましい。
【0053】
本発明における樹脂のガラス転移温度が高い場合、複合組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、複合組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。可塑剤を添加する場合の添加量は透明成形体を構成する複合組成物総量の1質量%〜50質量%であることが好ましく、2質量%〜30質量%であることがより好ましく、3質量%〜20質量%であることが特に好ましい。
前記可塑剤は、樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などトータルで考える必要があり、最適な材料は他の組成物に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましく、代表的な例として下記一般式(2)で表される構造を有するものを挙げることができる。
【化2】

(式中、B1及びB2は炭素数6〜18のアルキル基又はアリールアルキル基を表し、mは0又は1を表す。Xは、下記の2価の結合基のうちいずれかを表す。)
【化3】

【0054】
前記一般式(2)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基又はアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなる場合があり添加効果が不十分となることがある。
【0055】
前記B1,B2としては、例えばn−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、又はベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。
また、前記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、次に示すものが挙げられ、中でも、W−1(花王株式会社製の商品名「KP−L155」)が好ましい。
【化4】

【0056】
前記複合組成物には、上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良する目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加してもよく、これらを配合する場合には複合組成物の全固形分に対して0.1質量%〜5質量%程度が好ましい。
【0057】
−複合組成物の製造方法−
本発明に用いられる金属酸化物微粒子は、側鎖に前記官能基を有する樹脂と結合して樹脂中に分散される。
本発明に用いられる金属酸化物微粒子は粒子径が小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、金属酸化物微粒子は溶液中に分散された状態で上記樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。複合物の好ましい製造方法としては(1)金属酸化物微粒子を上記表面処理剤の存在下に表面処理を行い、表面処理された金属酸化物微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該金属酸化物微粒子を前記樹脂と均一混合して金属酸化物微粒子と樹脂の複合物を製造する方法、(2)金属酸化物微粒子と樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて両者を均一混合して金属酸化物微粒子と樹脂の複合物を製造する方法、が挙げられる。
【0058】
前記(1)の手法によって金属酸化物微粒子と樹脂の複合体を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面処理剤と前記樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよいが、好ましく用いられる表面処理剤については、前記表面処理剤の箇所で述べたものが挙げられる。
有機溶媒中に抽出された金属酸化物微粒子と樹脂を混合する際に、可塑剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0059】
前記(2)の場合には、溶剤として、例えばジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、t−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独又は混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の樹脂とは別に分散剤、可塑剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加してもよい。水/メタノールに分散された微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。この際、前記表面処理剤を添加してもよい。
【0060】
前記(1)及び(2)の方法によって得られた複合組成物溶液は、そのままキャスト成形して透明成形体を得ることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の手法によって成形することが好ましい。
【0061】
前記複合組成物を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。本発明の成形体では、前記複合組成物の説明で前記した屈折率、光学特性を示すものが有用である。
また、本発明の成形体は、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品に対して特に有用であり、好ましくは0.1mm〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1mm〜3mmの厚みを有する透明部品への適用である。
これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶剤が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の材料を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、金属酸化物微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する材料とすることができる。
【0062】
本発明の成形体を利用した光学部品は、本発明の複合組成物の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。
【0063】
本発明の成形体は、特にレンズ基材として好適である。該レンズ基材は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、複合組成物を構成するモノマーの種類や分散させる金属酸化物微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
前記「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0064】
前記レンズ基材をレンズとして利用するに際しては、前記レンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。前記レンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。以下の実施例において、各分析方法及び評価方法は、下記の手段により行った。
【0066】
<X線回折(XRD)スペクトル測定>
リガク株式会社製「RINT1500」(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、23℃で測定した。
【0067】
<質量平均分子量の測定>
質量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(いずれも、東ソー株式会社製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒としてテトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量を求めた。
【0068】
(実施例1)
−Sn−Ti複合金属酸化物にZrを更に複合化させた複合金属酸化物微粒子分散液の調製−
チタニウムテトライソプロポキシド0.0473モルをエタノール12mlと攪拌しながら室温で混合し、濃塩酸2mlを滴下することにより透明な溶液を得た。これとは別に室温にて四塩化スズ5水和物0.00591モルを101.3gの水に溶かした溶液を用意した。両溶液を室温にて攪拌しながらしばらく混合すると透明溶液を得た。これを80℃に温度を保ったウォーターバスに入れて30分間攪拌しながら加熱することにより透明感のあるやや白濁したゾルを得た。これとは別に室温にて塩化酸化ジルコニウム8水和物0.0236モルを50mlの水に溶かした水溶液を40分間かけてウォーターバスで加熱しているゾルに添加した。添加終了後更に80分間80℃に温度を保ったまま熟成を行った。更に室温にて数時間攪拌しながら冷却することにより透明なゾルを得た。
得られたゾルは、X線回折(XRD)解析の結果、ルチル型構造を示す複合金属酸化物微粒子であった。
得られた複合金属酸化物微粒子分散液を2.5質量%の酢酸水溶液を用いて限外濾過を行い、Cl濃度を700ppm、複合金属酸化物微粒子の濃度を4質量%、pHを3.8に保った。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、Cl濃度を400ppmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子分散液を作製した。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、Cl濃度を50ppmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子分散液を作製した。
【0071】
(比較例1)
実施例1において、Cl濃度を3000ppmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子分散液を作製した。
【0072】
(比較例2)
実施例1において、Cl濃度を2000ppmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子分散液を作製した。
【0073】
(比較例3)
実施例1において、Cl濃度を1000ppmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子分散液を作製した。
【0074】
(比較例4)
実施例1と同様にして作製した複合金属酸化物微粒子分散液を2.5質量%の酢酸水溶液の代わりに純水を用いて限外濾過を行い、分散液中のCl濃度を50ppm、pHを5に調整した以外は、実施例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子分散液を作製した。
【0075】
次に、得られた複合金属酸化物微粒子分散液について、以下のようにしてCl濃度、pH、平均一次粒子サイズ、動的散乱法により測定した平均粒子径、及び透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
<Cl濃度>
各試料50mLを石英ボードに載せ、燃焼式ハロゲン分析装置(ダイアインスツルメンツ社製、AQF−100)により測定した。
【0077】
<分散液のpHの測定>
分散液のpHは、東亜ディーケーケー株式会社製pHメーターHM−25Gを用いて測定した。
【0078】
<平均一次粒子径(TEM)の測定>
各金属酸化物微粒子分散液の平均一次粒子径を、株式会社日立製作所製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度7.6×10―9Pa)にて、測定した。
【0079】
<平均粒子径(動的散乱)の測定>
各金属酸化物微粒子分散液の平均粒子径を、超高感度ナノ粒度分布測定装置(日機装株式会社製、UPA−UT151)により測定した。
【0080】
<光線透過率の測定>
各ゾルについて、光路長10mm、波長500nmでの光線透過率を紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」(株式会社島津製作所製)で測定した。
【0081】
【表1】

【0082】
(製造例1)
−複合金属酸化物微粒子のジメチルアセトアミド分散物1の作製−
500gのN,N’−ジメチルアセトアミドに1.2gのp−オクチル安息香酸を加えた溶液に、実施例1の複合金属酸化物微粒子ゾル400gを加え、約500g以下になるまで減圧濃縮して溶媒置換を行った。その後、N,N’−ジメチルアセトアミドの添加で濃度調整をすることで15質量%の複合金属酸化物微粒子N,N’−ジメチルアセトアミド分散物1を作製した。
【0083】
(製造例2〜7)
−複合金属酸化物微粒子のジメチルアセトアミド分散物2〜7の作製−
製造例1において、実施例1の複合金属酸化物微粒子ゾルの代わりに実施例2〜3及び比較例1〜4の複合金属酸化物微粒子ゾルを用いた以外は、製造例1と同様にして、複合金属酸化物微粒子N,N’−ジメチルアセトアミド分散物2〜7を作製した。
【0084】
(合成例1)
−熱可塑性樹脂の合成−
スチレン247.5g、β−カルボキシエチルアクリレート2.50g、及び重合開始剤(和光純薬株式会社製、V−601(商品名))の2.5gを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素雰囲気下、80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂を合成した。
得られた熱可塑性樹脂について、GPCで測定した質量平均分子量は35000であった。また、アッベ屈折計で測定した屈折率は1.59であった。
【0085】
(実施例4)
−複合組成物の調製及び成形体の作製−
製造例1の複合金属酸化物微粒子N,N’−ジメチルアセトアミド分散物1に、合成例1の熱可塑性樹脂、n−オクチル安息香酸、及び可塑剤としてKP−L155(商品名;花王株式会社製)を質量比率が、複合金属酸化物微粒子固形分/熱可塑性樹脂/n−オクチル安息香酸/KP−L155=43.5/38.2/6.1/12.2になるように添加して均一に攪拌混合した後、加熱減圧下、ジメチルアセトアミド溶媒を濃縮した。該濃縮残渣を、金型(SUS製)で加熱圧縮成形し(温度180℃、圧力13.7MPa、時間2分)、厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を作製した。
得られた透明成形体を切削し、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、金属微粒子が樹脂中に均一に分散していることを確認した。
【0086】
(実施例5〜6及び比較例5〜8)
−複合組成物の調製及び成形体の作製−
実施例4において、製造例1の複合金属酸化物微粒子N,N’−ジメチルアセトアミド分散物1を製造例2〜7の複合金属酸化物微粒子N,N’−ジメチルアセトアミド分散物2〜7に変えた以外は、実施例4と同様にして、透明成形体(レンズ基材)を作製した。
【0087】
次に、得られた各成形体について、以下のようにして、諸特性を評価した、結果を表2に示す。
【0088】
<成形体のCl濃度の測定>
各成形体5mgを石英ボードに載せ、燃焼式ハロゲン分析装置(ダイアインスツルメンツ社製、AQF−100)により測定した。
【0089】
<成形体の光線透過率の測定>
各成形体について、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」(株式会社島津製作所製)で測定した。
【0090】
<成形体の屈折率の測定>
各成形体についてアッベ屈折計(アタゴ株式会社製、「DR−M4」)にて、波長589nmの光について行った。
【0091】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の金属酸化物微粒子分散液、及び樹脂を含有する複合組成物から成形されてなる成形体は、光線透過性、及び軽量性を併せ持ち、屈折率を任意に調節可能なレンズ等を比較的容易に提供することができる。また、機械的強度や耐熱性及び耐光性が良好なレンズ等を提供することができる。したがって本発明の成形体は、例えば眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ基材などの広範な光学部品の提供に有用であり、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属酸化物微粒子を含有してなり、ハロゲン元素の濃度が10ppm〜900ppmであり、かつpHが0〜4であることを特徴とする金属酸化物微粒子分散液。
【請求項2】
光路長10mmでの金属酸化物微粒子分散液の波長500nmにおける光線透過率が90%以上である請求項1に記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項3】
金属酸化物微粒子の含有量が、0.1質量%〜20質量%である請求項1から2のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項4】
金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が1nm〜20nmである請求項1から3のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項5】
金属酸化物微粒子が、Zn、Ge、Ti、Zr、Hf、Si、Sn、Mn、Ga、Mo、In、Sb、Ta、V、Y、及びNbから選択される少なくとも1種の金属酸化物、又はこれらの金属の2種以上を組み合わせてなる複合金属酸化物を含有する請求項1から4のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項6】
水を含有し、該水の含有量が70質量%以上である請求項1から5のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項7】
酸を含有し、該酸がカルボン酸である請求項1から6のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項8】
カルボン酸が、酢酸である請求項7に記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項9】
ハロゲン元素が、塩素原子である請求項1から8のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液、及び樹脂を含有する複合組成物から成形されてなることを特徴とする成形体。
【請求項11】
ハロゲン元素の濃度が、金属酸化物微粒子に対し400ppm〜6000ppmである請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
波長589nmにおける屈折率が1.60以上であり、かつ厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて77%以上である請求項10から11のいずれかに記載の成形体。
【請求項13】
金属酸化物微粒子の含有量が、20質量%以上である請求項10から12のいずれかに記載の成形体。
【請求項14】
レンズ基材として用いられる請求項10から13のいずれかに記載の成形体。

【公開番号】特開2009−217119(P2009−217119A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62375(P2008−62375)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】