説明

金属酸化物粒子分散液及びその製造方法

【課題】 分散性に優れ、塗膜の透明性が高い金属酸化物粒子分散液及びその製造方法を提供できる。
【解決手段】 (A)金属酸化物粒子と、(B)アルミニウムアルコレート化合物又はアルミニウムキレート化合物の少なくともいずれか一つを含有し、前記成分(A)と、前記成分(B)に含まれるアルミニウムとの重量比が、99.999/0.001〜90/10であることを特徴とする金属酸化物粒子分散液。さらに、好ましくは(C)ノニオン型分散剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子分散液及びその製造方法、特に、高屈折率の光学材料に用いられる金属酸化物粒子分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種基材表面の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材、各種基材の接着剤、シーリング材、印刷インクのバインダー材、光学材料として、硬度、耐擦傷性、耐摩耗性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性及び外観のいずれにも優れた硬化材を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
また、フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜、又はレンズ等の光学材料の用途においては、上記要請に加えて、高屈折率の部材を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
このような硬化性組成物に、高屈折率、高硬度及び耐擦傷性を付与するために、金属酸化物粒子分散液が使用されている。しかしながら、金属酸化物粒子は、凝集しやすく、均一に分散しないと得られる部材の透明性に劣るという問題があった。
【0003】
特許文献1には、分散性、透明性の改善を目的とした金属酸化物粒子を含むコーティング組成物が開示されている。
一方、特許文献2は、金属酸化物粒子の表面改質にアルミニウムキレート化合物を用いることが記載されている。しかし、金属酸化物粒子が酸化亜鉛粒子に限定されており、分散液については記載されていない。
また、特許文献3は、金属酸化物粒子の表面改質にアルミニウムキレート化合物を用いて分散性を改善することが記載されている。しかし、塗膜の透明性については、何も記載されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−96400号公報
【特許文献2】特開平8−059238号公報
【特許文献3】特開昭56−125475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、分散性に優れ、塗膜の透明性が高い金属酸化物粒子分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の金属酸化物粒子分散液及びその製造方法を提供できる。
1.(A)金属酸化物粒子と、
(B)アルミニウムアルコレート化合物又はアルミニウムキレート化合物の少なくともいずれか一つを含有し、
前記成分(A)と、前記成分(B)に含まれるアルミニウムとの重量比が、99.999/0.001〜90/10であることを特徴とする金属酸化物粒子分散液。
2.さらに、(C)ノニオン型分散剤を含有することを特徴とする1に記載の金属酸化物粒子分散液。
3.動的光散乱法により測定した金属酸化物粒子のメジアン径が200nm以下であることを特徴とする1又は2に記載の金属酸化物粒子分散液。
4.動的光散乱法により測定した金属酸化物粒子の90%粒径が500nm以下であることを特徴とする3に記載の金属酸化物粒子分散液。
5.分散媒に、(A)金属酸化物粒子と、(B)アルミニウムアルコレート化合物又はアルミニウムキレート化合物の少なくともいずれか一つを分散させることを特徴とする1〜4のいずれか一に記載の金属酸化物粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分散性に優れ、塗膜の透明性が高い金属酸化物粒子分散液及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の金属酸化物粒子分散液及びその製造方法の実施形態を具体的に説明する。
本発明の金属酸化粒子分散液は、(A)金属酸化物粒子、(B)アルミニウムアルコレート化合物又はアルミニウムキレート化合物の少なくともいずれか一つ(以下、アルミニウム化合物と称する場合がある)を含有してなる。
【0009】
本発明に用いる金属酸化物粒子(A)は、粉体状または溶媒分散ゾルである。金属酸化物としては、例えば酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化錫、インジウム錫混合酸化物、酸化セリウム、酸化アルミニウム、チタニアおよびジルコニアを挙げることができる。これらは1種以上で用いられる。さらには、分散性や光開始剤、増感剤等の溶解性の観点から水ゾルよりもアルコール、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、セロソルブゾル等の極性溶媒のゾルを好適に用いることができる。特に好ましいゾルとしては、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化セリウム、ジルコニアのゾルを挙げることができる。
【0010】
さらに、被膜の透明性を高める場合、好ましくは粒子径は0.001μm〜2μm、より好ましくは0.001μm〜0.05μmである。金属酸化物粒子の形状は球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、もしくは不定形状であり、好ましくは球状である。金属酸化物粒子の比表面積は、好ましくは10から3000m2/gであり、より好ましくは20から1500m2/gである。
また、微粒子の分散性を改良するための各種の界面活性剤やアミンを添加することも好ましい。さらには、2種以上の金属酸化物粒子を一緒に使用することもできる。
【0011】
金属酸化物粒子は、例えば、日産化学化学工業(株)
アルミナゾル−100、−200、−520(アルミナの水分散品)、セルナックス(アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品)、シーアイ化成(株) ナノテック(アルミナ、酸化チテン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛粉末および溶媒分散品)、石原産業(株)
チタニアゾル、SN−100D(アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾル)、三菱マテリアル(株)製 ITO粉末、多木化学(株) ニードラール(酸化セリウム水分散液)等の市販品として入手できる。
【0012】
これら金属酸化物粒子の使用形態は乾燥状態の粉末、もしくは水もしくは有機溶剤で分散した状態で用いることができる。例えば上記の如く金属酸化物粒子の溶媒分散ゾルとして当業界に知られている微粒子状の金属酸化物粒子の分散液を直接用いることができる。特に透明性を追求する目的においては金属酸化物粒子の溶媒分散ゾルの利用が好ましい。金属酸化物粒子の分散溶媒が有機溶剤の場合、有機溶剤としてメタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、エチレングリコ−ル、ブタノ−ル、エチレングリコ−ルモノプロピルエ−テル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド等の溶剤もしくはこれらと相溶する有機溶剤もしくは水との混合物として用いても良い。好ましい分散溶剤はメタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、メチルエチルケトン、キシレン、トルエンである。
【0013】
本発明に用いるアルミニウム化合物(B)は、金属酸化物粒子の分散性の向上、組成物の粘度低下及び/又は塗膜の透明性の向上のために配合する。
アルミニウム化合物(B)は、粒子表面を疎水化できる反応性を有することが好ましいが、水分存在下では長時間放置すると、加水分解により金属酸化物粒子から離脱し分散性機能を失うので、加水分解速度の遅いものが望ましい。また、反応性が高すぎると添加時に凝集が起きる場合があるため、キレート構造を持ち反応性が制御されたものが好ましい。
従って、アルミニウム化合物(B)は、好ましくはアルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物である。特に1級又は2級のアルコレート、ジカルボニル化合物が配位しキレート構造を有したものが好ましい。
【0014】
アルミニウムアルコレート化合物の例としては、トリエトキシアルミニウム、トリ(n−プロポキシ)アルミニウム、トリ(i−プロポキシ)アルミニウム、トリ(n−ブトキシ)アルミニウム、トリ(sec−ブトキシ)アルミニウム、モノ(n−ブトキシ)ジエトキシアルミニウム、モノ(n−ブトキシ)ジ(n−プロポキシ)アルミニウム、モノ(n−ブトキシ)ジ(i−プロポキシ)アルミニウム、モノ(n−ブトキシ)ジ(sec−ブトキシ)アルミニウム、モノ(sec−ブトキシ)ジエトキシアルミニウム、モノ(sec−ブトキシ)ジ(n−プロポキシ)アルミニウム、モノ(sec−ブトキシ)ジ(i−プロポキシ)アルミニウム、モノ(sec−ブトキシ)ジ(n−ブトキシ)アルミニウム、モノエトキシジ(n−プロポキシ)アルミニウム、モノエトキシジ(i−プロポキシ)アルミニウム、モノエトキシジ(n−ブトキシ)アルミニウム、モノエトキシジ(sec−ブトキシ)アルミニウム、モノ(n−プロポキシ)ジエトキシアルミニウム、モノ(n−プロポキシ)ジ(i−プロポキシ)アルミニウム、モノ(n−プロポキシ)ジ(n−ブトキシ)アルミニウム、モノ(n−プロポキシ)ジ(sec−ブトキシ)アルミニウム、モノ(i−プロポキシ)ジエトキシアルミニウム、モノ(i−プロポキシ)ジ(n−プロポキシ)アルミニウム、モノ(n−プロポキシ)ジ(n−ブトキシ)アルミニウム、モノ(n−プロポキシ)ジ(sec−ブトキシ)アルミニウム等が挙げられる。
【0015】
アルミニウムキレート化合物の例としては、アルミニウムトリス(メチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、トリス(アセトアセトナト)アルミニウム、アルミニウムモノアセチルアセトナトビス(メチルアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトナトビス(エチルアセテート)、アルミニウムビスアセチルアセトナト(メチルアセテート)、アルミニウムビスアセチルアセトナト(エチルアセテート)、アルミニウムモノメチルアセテートビス(エチルアセテート)、アルミニウムビスメチルアセテート(エチルアセテート)等が挙げられる。
【0016】
この他、以下のアルミニウム化合物(B)を使用できる。
(1)アルミニウムトリアルコキサイド(C=2〜4)とアセト酢酸アルキル(C=1〜2)、又はアセチルアセトンとの反応物
例えば、ジエトキシアルミニウムメチルアセトアセテート、ジ(n−プロポキシ)アルミニウムメチルアセトアセテート、ジ(i−プロポキシ)アルミニウムメチルアセトアセテート、ジ(n−ブトキシ)アルミニウムメチルアセトアセテート、ジ(sec−ブトキシ)アルミニウムメチルアセトアセテート、ジエトキシアルミニウムエチルアセトアセテート、ジ(n−プロポキシ)アルミニウムエチルアセトアセテート、ジ(i−プロポキシ)アルミニウムエチルアセトアセテート、ジ(n−ブトキシ)アルミニウムエチルアセトアセテート、ジ(sec−ブトキシ)アルミニウムエチルアセトアセテート、アセチルアセトナトジエトキシアルミニウム、アセチルアセトナトジ(n−プロポキシ)アルミニウム、アセチルアセトナトジ(i−プロポキシ)アルミニウム、アセチルアセトナトジ(n−ブトキシ)アルミニウム、アセチルアセトナトジ(sec−ブトキシ)、エトキシアルミニウムビス(メチルアセトアセテート)、n−プロポキシアルミニウムビス(メチルアセトアセテート)、i−プロポキシアルミニウムビス(メチルアセトアセテート)、n−ブトキシアルミニウムビス(メチルアセトアセテート)、sec−ブトキシアルミニウムビス(メチルアセトアセテート)、エトキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、n−プロポキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、i−プロポキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、n−ブトキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、sec−ブトキシアルミニウムビス(エチルアセトアセテート)、ビス(アセチルアセトナト)エトキシアルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)(n−プロポキシ)アルミニウム,ビス(アセチルアセトナト)(i−プロポキシ)アルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)(n−ブトキシ)アルミニウム、ビス(アセチルアセトナト(sec−ブトキシ)アルミニウム等
【0017】
(2)アルキル(又はアルケニル)(C=8〜24)アセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート
【0018】
(3)アルミニウムトリアルコキサイド(C=2〜4)、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンとの反応物
例えば、エトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムメチルアセトアセテート、n−プロポキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムメチルアセトアセテート、i−プロポキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムメチルアセトアセテート、n−ブトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムメチルアセトアセテート、sec−ブトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムメチルアセトアセテート、エトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムエチルアセトアセテート、n−プロポキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムエチルアセトアセテート、i−プロポキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムエチルアセトアセテート、n−ブトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムエチルアセトアセテート、sec−ブトキシ(アセチルアセトナト)アルミニウムエチルアセトアセテート、エトキシアルミニウム(メチルアセテート)エチルアセトアセテート、n−プロポキシアルミニウム(メチルアセテート)エチルアセトアセテート、i−プロポキシアルミニウム(メチルアセテート)エチルアセトアセテート、n−ブトキシアルミニウム(メチルアセテート)エチルアセトアセテート、sec−ブトキシアルミニウム(メチルアセテート)エチルアセトアセテート等
【0019】
(4)トリアルコキシ(C=1〜8)アルミニウムとアセチルアセトンの反応物
例えば、モノアセチルアセトナトジエトキシアルミニウム、モノアセチルアセトナトジ(n−プロポキシ)アルミニウム、モノアセチルアセトナトジ(i−プロポキシ)アルミニウム、モノアセチルアセトナトジ(n−ブトキシ)アルミニウム、モノアセチルアセトナトジ(sec−ブトキシ)アルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)エトキシアルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)(n−プロポキシ)アルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)(i−プロポキシ)アルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)アセチルアセトナトジ(n−ブトキシ)アルミニウム、ビス(アセチルアセトナト)(sec−ブトキシ)アルミニウム等
【0020】
(5)環状アルミニウムオリゴマー
例えば、環状アルミニウムオキサイドメチレート、環状アルミニウムオキサイドn−プレート、環状アルミニウムオキサイドイソプレート、環状アルミニウムオキサイドn−ブチレート、環状アルミニウムオキサイドsec−ブチレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレート等
【0021】
市販品としては、AIPD、PADM、AMD、ASBD、アルミニウムエトキサイド、ALCH、ALCH−50F、ALCH−75、ALCH−TR、ALCH−TR−20、アルミキレートM、アルミキレートD、アルミキレートA(W)、表面処理剤OL−1000、アルゴマー、アルゴマー800AF、アルゴマー1000SF(以上 川研ファインケミカル株式会社製)等を使用できる。
【0022】
本発明の分散液における金属酸化物粒子(A)とアルミニウム化合物(B)に含まれるアルミニウムとの重量比は、好ましくは99.999/0.001〜90/10、より好ましくは99.99/0.01〜95/5、さらに好ましくは99.95/0.05〜99/2である。アルミニウム量が下限未満だと添加効果が得られない恐れがあり、上限を超えると粒子の分散性が悪化し、塗膜の透明性が低下する恐れがある。
【0023】
本発明の分散液は、さらに、ノニオン型分散剤を含むことができる。ノニオン型分散剤を含むと、分散性を高めることができる。本発明に使用するノニオン型分散剤は、好ましくはポリオキシエチレンアルキル構造を有するリン酸エステル系ノニオン型分散剤であり、より好ましくは、下記式(1)の分散剤である。
【化1】

(式中、Rは、同一でも異なってもよく、C2n+1−CHO−(CHCHO)−CHCHO−を示す。mは8〜10、nは12〜16、xは1〜3である。)
Rが2以上のとき、Rは同一でも異なってもよいが、通常は同一である。
【0024】
また、本発明の分散液は、分散性を高めるために、分散助剤を含むことができる。分散助剤は、アセチルアセトン、N,N−ジメチルアセトアセトアミドから選択される一以上のものを好適に使用できる。
【0025】
分散媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を用いることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましく、メチルエチルケトン、ブタノール、キシレン、エチルベンゼン、トルエンがより好ましい。分散媒は一種又は二種以上を混合して用いることができる。
【0026】
ノニオン型分散剤、分散助剤、分散媒の、分散液における配合量は、用途に応じて適宜設定できるが、通常、ノニオン型分散剤0.5〜10重量%、分散助剤0.5〜10重量%、分散媒50〜90重量%であり、好ましくは、ノニオン型分散剤1〜7重量%、分散助剤0.5〜6重量%、分散媒50〜80重量%である。
【0027】
本発明の分散液は、上記の成分の他に、その特性を損なわない範囲において、カップリング剤等を含むことができる。また、後述の多官能(メタ)アクリレートモノマーを含むこともできる。
【0028】
本発明の分散液は、分散媒に、金属酸化物粒子(A)及びアルミニウム化合物(B)を分散させて製造する。この際、必要により、分散剤、分散助剤とともに分散させる。
分散に先立ち、プレ分散をしてもよい。プレ分散するとさらに小さな粒径に分散できる。プレ分散では、アルミニウム化合物(B)、分散媒、分散剤、分散助剤を容器に入れて、ホモジナイザー等を用いて通常8000〜10000rpmで撹拌しながら、金属酸化物粒子(A)を加える。その後、さらに粒子の塊が目視で見られなくなるまで撹拌する。
【0029】
分散は、SCミル、アニュラー型ミル、ピン型ミル等を用いて通常周速5〜15m/sで、粒径の低下が観察されなくなるまで継続する。通常数時間である。分散の際に、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ等の分散ビーズを用いることが好ましい。ビーズ径は特に限定されないが、通常0.05〜1mm程度である。ビーズ径は、好ましくは0.05〜0.5mm、より好ましくは0.08〜0.5mm、特に好ましくは0.08〜0.2mmである。
【0030】
このようにして得られる金属酸化物粒子分散液は、分散前には二次凝集をしていた金属酸化物粒子がより小さな粒径に分散している。動的光散乱法により測定した金属酸化物粒子のメジアン径が、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
動的光散乱法により測定した金属酸化物粒子の90%粒径は、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは170nm以下である。
また、本発明の均一に分散した金属酸化物粒子分散液を含んで調製した樹脂組成物を硬化した膜は、金属酸化物粒子が膜内で凝集し難く、透明性が高い。
【0031】
本発明の分散液は、保護膜、反射防止膜、接着剤、シーリング材、バインダー材、レンズ材料等に用いられる樹脂組成物に含ませて用いることができ、特に反射防止膜の高屈折率膜、又はレンズを形成する樹脂組成物に好適に用いることができる。
【0032】
本発明の金属酸化物粒子分散液は、以下の表面変性を加えることが好ましい。表面変性を行うことにより、金属酸化物粒子分散液を含有する光硬化性組成物の硬化物の耐擦傷性を改善することができる。
【0033】
表面変性は、公知の方法で用いることができる(例えば、特開2003−105034号公報参照)。具体的には、金属酸化物粒子を、分子内に、(メタ)アクリロイル基やビニル基等の重合性不飽和基及び下記式(2)
−X−C(=Y)NH− (2)
[式(2)中、Xは、NH、O(酸素原子)又はS(イオウ原子)を示し、Yは、O又はSを示す。]
に示す基を有する化合物(以下、「特定有機化合物」という。)と反応させることにより行うことができる。なお、この化合物は、分子内にシラノ−ル基又は加水分解によってシラノ−ル基を生成する基を有する化合物であることが好ましい。
【0034】
前記式(2)に示す基は、具体的には、[−O−C(=O)−NH−]、[−O−C(=S)−NH−]、[−S−C(=O)−NH−]、[−NH−C(=O)−NH−]、[−NH−C(=S)−NH−]、及び[−S−C(=S)−NH−]の6種である。これらの基は、1種単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。中でも、熱安定性の観点から、[−O−C(=O)−NH−]基を必須とし、[−O−C(=S)−NH−]基及び[−S−C(=O)−NH−]基の少なくとも1を併用することが好ましい。前記式(2)に示す基[−X−C(=Y)−NH−]は、分子間において水素結合による適度の凝集力を発生させ、硬化物にした場合、優れた機械的強度、基材との密着性及び耐熱性等の特性を付与せしめるものと考えられる。
【0035】
本発明の金属酸化物粒子分散液、さらに、多官能(メタ)アクリレートモノマー、光重合開始剤等を含んで光硬化性組成物を調製できる。多官能(メタ)アクリレートモノマーは分散液の調製時に含まれていてもよい。この際、表面変性した金属酸化物粒子を用いることが好ましい。
【0036】
多官能(メタ)アクリレートモノマーは、金属酸化物分散液に硬化性を付与するために用いる。ここで多官能とは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することをいい、製膜性の観点から、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、5官能以上の(メタ)アクリレートモノマーがさらに好ましい。または2種以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの混合物を用いることができる。
【0037】
多官能(メタ)アクリレートモノマーの好ましい具体例としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
多官能(メタ)アクリレートモノマーの市販品としては、KAYARAD DPHA(日本化薬(株)製)等を挙げることができる。
【0038】
光重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合を開始せしめるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0039】
放射線(光)重合開始剤の市販品としては、例えば、チバスペシャルティケミカルズ(株)製 商品名:イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、BASF社製 商品名:ルシリン TPO、UCB社製 商品名:ユベクリル P36、フラテツリ・ランベルティ社製 商品名:エザキュアー KIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等を挙げることができる。
【0040】
光硬化性組成物中に含まれる各成分の配合量は、用途に応じて適宜設定できるが、通常、金属酸化物粒子分散液中に含まれる金属酸化物粒子(表面変性をした場合には、表面変性後の金属酸化物粒子)100重量部に対して、多官能(メタ)アクリレートモノマー10〜2000重量部、光重合開始剤0.01〜100重量部であり、好ましくは、多官能(メタ)アクリレートモノマー20〜1000重量部、光重合開始剤0.1〜60重量部である。
【0041】
光硬化性組成物は、上記の成分の他に、その特性を損なわない範囲において、単官能(メタ)アクリレート化合物の他、メチルイソブチルケトン等の溶媒、その他レベリング剤等を含むこともできる。
【実施例】
【0042】
実施例及び比較例で使用した成分は以下の通りである。
[ジルコニア粒子]
第一稀元素化学工業(株)製、UEP−100(一次粒径10〜30nm)
[アルミニウム化合物]
川研ファインケミカル(株)製、ASBD=トリ(sec−ブトキシ)アルミニウム
川研ファインケミカル(株)製、ALCH=ジ(i−プロポキシ)アルミニウムエチルアセトアセテート
[分散剤]
楠本化成(株)製、PLADD ED151(上記式(1)においてm=約9、n=約13)
[多官能(メタ)アクリレートモノマー]
日本化薬(株)製、商品名:KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの重量比60対40の混合物)
【0043】
実施例1〜3、及び比較例1,2
[ジルコニア粒子分散液の作製]
(1)ジルコニア粒子分散液の作製
表1に示すように、ASBD、分散剤、分散助剤、バインダー樹脂(多官能(メタ)アクリレートモノマー)及び溶剤(分散媒)を混合し、ホモジナイザーで撹拌しながらジルコニア粒子を約10分間にわたって加えた。粒子添加後約15分間撹拌した。得られたスラリーを、以下の条件で、三井鉱山(株)製SCミルを用いて分散した。尚、表1の配合量の単位は重量部である。
機器 :三井鉱山(株)製 SCミル
周波数:60Hz(回転数3600rpmに相当)
ケーシング容量:59ml
スラリー量:500g
分散ビーズ充填量:ガラスビーズ(TOSHINRIKO製、BZ−01)
(ビーズ径0.1mm)46g 体積充填率31%
分散時間:経時で粒径を測定し、粒径の低下が観察されなくなった時点を分散の終点とした。実施例1では3.5時間であった。
各成分の配合量を表1に示した量に変更したほかは同様の条件で実施例2,3、比較例1、2の分散を行った。実施例2,3の分散時間は2.5時間、比較例1の分散時間は6時間であった。
【0044】
実施例4、5
[ジルコニア粒子分散液の作製]
(1)ジルコニア粒子分散液の作製
表1に示すように、分散剤、分散助剤、バインダー樹脂(多官能(メタ)アクリレートモノマー)及び溶剤(分散媒)を混合し、ホモジナイザーで撹拌しながらジルコニア粒子を約10分間にわたって加えた。粒子添加後約15分間撹拌した。得られたスラリーを、以下の条件で、三井鉱山(株)製SCミルを用いて分散した。尚、表1の配合量の単位は重量部である。
機器 :三井鉱山(株)製 SCミル
周波数:60Hz(回転数3600rpmに相当)
ケーシング容量:59ml
スラリー量:500g
分散ビーズ充填量:ガラスビーズ(TOSHINRIKO製、BZ−01)
(ビーズ径0.1mm)46g 体積充填率31%
分散時間:経時で粒径を測定し、粒径の低下が観察されなくなった時点を分散の終点とした。実施例4では6.0時間であった。得られたスラリーにASBDを表1に示した量を加え分散液を得た。
各成分及びその配合量を表1に示すように変更したほかは同様の条件で実施例5の分散を行った。分散時間は6.0時間であった。
【0045】
(2)ジルコニア粒子の表面変性
(i)特定有機化合物の合成例
乾燥空気下、メルカプトプロピルトリメトキシシラン7.8部、ジブチルスズジラウレート0.2部からなる溶液に対し、イソホロンジイソシアネート20.6部を撹拌しながら50℃で1時間かけて滴下後、60℃で3時間撹拌した。これにペンタエリスリトールトリアクリレート71.4部を30℃で1時間かけて滴下後、60℃で3時間加熱撹拌することで有機化合物(A1)を得た。生成物中の残存イソシアネ−ト量を分析したところ0.1%以下であった。
(ii)ジルコニア粒子との反応
上記(1)の実施例1で得られたジルコニア分散液224.106gに、上記(2)(i)で合成した有機化合物(A1)5.963g、DPHA18.892g、p-メトキシフェノール0.045g、イオン交換水0.089gの混合液を60℃、3時間撹拌後、オルト蟻酸メチルエステル0.905gを添加してさらに1時間同一温度で加熱撹拌することで、表面変性ジルコニア粒子の分散液(分散液B1)を250g得た。
【0046】
[硬化性組成物の作製]
以下の成分を混合して50℃で加熱して固形分濃度62%に濃縮し組成物1を得た。
上記(2)(ii)で得られた分散液B1 132.53g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 1.75g
2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1 1.04g
メチルイソブチルケトン(MIBK) 59.64g
さらに、161.3gの組成物1に、DPHA57.0g、MIBK34.93gを加え組成物2を得た。
分散液を実施例4のものに変えたほかは組成物1と同様の条件で組成物3を得た。
分散液を比較例1のものに変えたほかは組成物2と同様の条件で組成物4を得た。
【0047】
[評価方法]
(1)ジルコニア粒子のメジアン径、90%粒径
表1のジルコニア分散液に分散しているジルコニア粒子のメジアン径、90%粒径を以下の条件で測定した。
機器:(株)堀場製作所製 動的光散乱式粒径分布測定装置
測定条件: 温度 25℃
試料 サンプルを原液のまま測定
データ解析条件:粒子径基準 体積基準
分散粒子 ZrO 屈折率2.050
分散媒 メチルエチルケトン 屈折率1.379
【0048】
(2)ヘイズ
組成物又は分散液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に#12バーコーターで塗布し(計算値:膜厚5μm)、80℃で3分間乾燥させ、空気下で高圧水銀灯を用いて300mJ/cmの照射量で3回通過させて試料膜を形成した。この試料膜のヘイズ値をスガ試験機(株)製カラーヘイズメーターを用い、PETフィルムを基準として測定した。
【0049】
(3)粘度
JIS K7117−2に準拠し、E型回転粘度計にて試料量1.1ml、回転数50rpmの条件で25℃における粘度を測定した。
(4)屈折率
未処理PET(東レ(株)製 ルミラー100T―60 10cm×10cm×100mm)上にバーコーターを用いて試料を塗布し、80℃で3分間乾燥させる。これに高圧水銀ランプを用い1J/cmの紫外線を照射し、塗膜を硬化させる。硬化物を未処理PETから剥離し、硬化物の膜厚が40±10μmであることを測厚計で確認する。JIS K7105に準拠し、アッベ屈折率計を用いて硬化物の屈折率(n25)を測定した。
【表1】

【表2】

【0050】
実施例によれば、得られた金属酸化物粒子分散液は、分散粒径が小さく、所定の分散粒径になるのが早い。また、実施例の分散液を含む組成物から得られる塗膜は、透明性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の金属酸化物粒子分散液は、反射防止膜用高屈折率膜、レンズ材料等の高屈折率を必要とする光学材料に好適に使用できる。
例えば、プラスチック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック容器、建築内装材としての床材、壁材、人工大理石等の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材、フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜、各種基材の接着剤、シーリング材、印刷インクのバインダー材等に用いられる。
また、各種基材[例えば、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等]の表面に、高屈折率の塗膜(被膜)を形成し得る光硬化性組成物に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属酸化物粒子と、
(B)アルミニウムアルコレート化合物又はアルミニウムキレート化合物の少なくともいずれか一つを含有し、
前記成分(A)と、前記成分(B)に含まれるアルミニウムとの重量比が、99.999/0.001〜90/10であることを特徴とする金属酸化物粒子分散液。
【請求項2】
さらに、(C)ノニオン型分散剤を含有することを特徴とする請求項1の金属酸化物粒子分散液。
【請求項3】
動的光散乱法により測定した金属酸化物粒子のメジアン径が200nm以下であることを特徴とする請求項1又は2の金属酸化物粒子分散液。
【請求項4】
動的光散乱法により測定した金属酸化物粒子の90%粒径が500nm以下であることを特徴とする請求項3の金属酸化物粒子分散液。
【請求項5】
分散媒に、(A)金属酸化物粒子と、(B)アルミニウムアルコレート化合物又はアルミニウムキレート化合物の少なくともいずれか一つを分散させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属酸化物粒子分散液の製造方法。

【公開番号】特開2006−36854(P2006−36854A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216176(P2004−216176)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】