説明

金属酸化物触媒粉末、その製造方法、浄化フィルタ、揮発性有機溶媒の分解方法及び窒素酸化物の分解方法

【解決課題】貴金属を使わない触媒であって、触媒活性及び耐久性の両方が高い触媒を提供することにある。
【解決手段】層状金属酸化物と、該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):A(1)(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)で表される複合金属酸化物内在粒子とからなることを特徴とする金属酸化物触媒粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機溶媒の分解、窒素酸化物の分解等の触媒として用いられる金属酸化物触媒粉末及びその製造方法、並びに該金属酸化物触媒粉末が担持されている浄化フィルタに関し、また、該金属酸化物触媒粉末又は該浄化フィルタを用いる揮発性有機溶媒の分解方法及び窒素酸化物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機溶媒(VOC)は、人体に有害であり、特に、ベンゼン、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド等の物質は、大気への排出が規制されている。VOCは、単に、人体への健康障害や、作業、居住環境における悪臭問題だけでなく、大気中に放出されると、オゾンや有機過酸化脱硝塩等の光化学オキシダントが合成される。そのため、VOCは、酸性雨や地球温暖化の原因の一つとして挙げられている。このため、印刷・塗装工場や、半導体製造・液晶製造工場の様に、装置からのVOCの放出を完全に防止することができない各種工場・作業場等においては、VOCを含有する工場内・作業場の雰囲気の空気を集めて、浄化処理を行なうことが必要である。
【0003】
従来より、VOCを含有する空気から、VOCを除去又は回収するために、種々の吸着剤及び装置が使われており、例えば、特許文献1の国際公開第91/16971号公報には、吸着剤が担持されているハニカムローターを備える回転式VOC吸着装置が開示されている。該回転式VOC吸着装置は、VOCを低濃度で含有する空気からも、効率よくVOCを回収することができる。また、VOCを含有する空気(排気ガス)の燃焼酸化技術としては、古くからは直接燃焼法が、近年では、省エネと処理効率の観点から、貴金属触媒を使った触媒燃焼技術が採用されている(例えば、特許文献2の特開平8−000963号公報)。
【0004】
また、窒素酸化物(NOX)は、自動車、発電設備、船舶等の排ガス中に含まれる大気汚染物質で、喘息などの原因物質であると共に、酸性雨の原因でもあるため、日本のみならず世界中で排出が規制されている。
【0005】
従来より、自動車の排ガス中のNOXは、貴金属触媒により、直接窒素と酸素に分解され、また、発電設備、船舶等の排ガス中のNOXは、酸化チタンにタングステンやバナジウムが担持された触媒と、アンモニア、尿素等の還元剤を用いて、窒素と酸素に分解されてきた(例えば、特許文献3の特開平5−184932号公報)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−75714号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−000963号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平5−184932号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、該回転式VOC吸着装置からは、高濃度のVOCを含有する排ガスが排出されるため、後処理装置、例えば、燃焼装置、液化回収装置等により、高濃度のVOCを含有する排ガスを処理しなければならず、該回転式VOC吸着装置には、設備投資が過大であるという問題があった。また、貴金属資源の限界及び価格の点から、非金属触媒への移行が期待されている。しかしながら、現在開発されているCo、Cu、Mn、Cr、V等の金属酸化物を用いた触媒は、酸化性能が不十分であり、また、VOC濃度の変動によって触媒の温度が高くなった時(例えば、600℃以上)に、触媒活性種が粗粒化して、失活してしまうという問題があった。
【0008】
また、自動車の排ガス中のNOXの分解には、貴金属触媒が使用されているので、コストが高いという問題、更に、貴金属触媒は被毒による劣化が大きいという問題もあった。これは、特に、リーンバーンエンジン及びディーゼルエンジンの排ガス中には過剰酸素が存在し、現状の三元触媒では酸素の吸着によって触媒活性が失われてしまうためである。また、発電設備、船舶等の排ガス中のNOXの分解には、比較的安価で劣化の小さい上記触媒が使用されているものの、アンモニア、尿素等の有毒な還元剤が必要なために、該還元剤を保管する設備、噴霧するための装置や設置、これらの保守が必要であり、コストが高くなるという問題があった。
【0009】
ところで、ペロブスカイト型の複合金属酸化物には、VOCの分解反応や、NOXの分解反応の触媒として機能するものがある。例えば、特許文献4の特開平5−49943号公報には、ペロブスカイト型の複合金属酸化物が、ガス中の可燃性成分を直接酸化するための触媒として使用される旨が開示されている。そのため、ペロブスカイト型の複合金属酸化物は、VOCの分解反応やNOXの分解用の触媒として期待される。
【0010】
【特許文献4】特開平5−49943号公報(特許請求の範囲、実施例)
【0011】
しかし、ペロブスカイト型の複合金属酸化物の触媒活性を向上させるためには、触媒を微細化する必要があるが、微細なペロブスカイト型の複合金属酸化物は、高温に曝されると、時間の経過と共に粗粒化してしまうので、長時間高い触媒活性を維持することができないという問題があった。つまり、ペロブスカイト型の複合金属酸化物には、触媒活性及び耐久性の両方を高くすることができないという問題があった。
【0012】
従って、本発明の課題は、貴金属を使わない触媒であって、触媒活性及び耐久性の両方が高い触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、層状金属酸化物の層間に、複合金属酸化物の微粒子を担持させた金属酸化物触媒粉末は、触媒活性を高く、且つ微細な複合金属酸化物粒子同士が、強固な骨格で形成されている狭い空間に閉じ込められているため、高温で使用しても、微細な複合金属酸化物粒子が粗粒化し難いこと、そのため、触媒活性及び耐久性の両方を高くすることができること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、層状金属酸化物と、
該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物内在粒子と、
からなること、
を特徴とする金属酸化物触媒粉末を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、層状金属酸化物と、
該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物内在粒子と、
からなり、
X線回折分析において、2θが5〜70°の範囲で、実質的に回折ピークが現れないこと、
を特徴とする金属酸化物触媒粉末を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、層状金属酸化物の塩に酸を接触させて、酸処理を行ない、酸処理層状化合物を得る酸処理工程と、
該酸処理層状化合物と、複合金属塩溶液とを混合し、複合金属塩含浸層状化合物を得る複合金属塩含浸工程と、
該複合金属塩含浸層状化合物を、500〜900℃で焼成し、金属酸化物触媒粉末を得る焼成工程と、
を行い得られること特徴とする金属酸化物触媒粉末を提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、層状金属酸化物の塩に酸を接触させて、酸処理を行ない、酸処理層状化合物を得る酸処理工程と、
該酸処理層状化合物と、複合金属塩溶液とを混合し、複合金属塩含浸層状化合物を得る複合金属塩含浸工程と、
該複合金属塩含浸層状化合物を、500〜900℃で焼成し、金属酸化物触媒粉末を得る焼成工程と、
を有することを特徴とする金属酸化物触媒粉末の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(5)は、前記本発明(1)〜(3)いずれか記載の金属酸化物触媒粉末が担持されていることを特徴とする浄化フィルタを提供するものである。
【0019】
また、本発明(6)は、前記本発明(1)〜(3)いずれか記載の金属酸化物触媒粉末又は前記本発明(5)記載の浄化フィルタに、揮発性有機溶媒を接触させ、該揮発性有機溶媒の酸化分解を行うことを特徴とする揮発性有機溶媒の分解方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(6)は、前記本発明(1)〜(3)いずれか記載の金属酸化物触媒粉末又は前記本発明(5)記載の浄化フィルタに、窒素酸化物を接触させ、該窒素酸化物の還元を行うことを特徴とする窒素酸化物の還元方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、貴金属を使用しない触媒であって、触媒活性及び耐久性の両方が高い触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の金属酸化物触媒粉末について、層状珪酸ナトリウム塩を原料に用いて製造される金属酸化物触媒粉末を例にとって、図1〜図6を参照して説明する。図1は、層状珪酸ナトリウム塩の模式的な斜視図である。図2は、二次元方向に骨格構造が広がっているシリケートを示す化学式である。図3は、該層状珪酸ナトリウム塩の模式的な端面図であり、該層状珪酸ナトリウム塩の端面の一部を拡大した拡大図である。図4は、酸処理層状珪酸化合物の模式的な端面図であり、該酸処理層状珪酸化合物の端面の一部を拡大した拡大図である。図5は、複合金属塩含浸層状珪酸化合物の模式的な端面図であり、該複合金属塩含浸層状珪酸化合物の端面の一部を拡大した拡大図である。図6は、本発明の金属酸化物触媒粉末の模式的な端面図である。
【0023】
図1中、層状珪酸ナトリウム塩1は、本発明の金属酸化物触媒粉末を製造するための原料である。該層状珪酸ナトリウム塩1は、層状シリケート21と、該層状シリケート21の層間に存在するナトリウムイオンとからなる塩である。該層状シリケート21は、二次元方向に骨格構造が広がっているシリケート2(以下、二次元方向に骨格構造が広がっているシリケートを、シート状シリケートとも記載する。)が、層状に積層した積層物である。該シート状シリケート2は、骨格の組成がSiOであり、SiO四面体が二次元方向に結合することにより形成されている。そして、図3に示すように、該層状珪酸ナトリウム塩1では、該シート状シリケート2の酸素原子と、該層状シリケート21の層間に存在しているナトリウムイオンとが結合している。なお、図3は、図1中の該層状珪酸ナトリウム塩1のシート状シリケートのうちの2pから2sの間の様子を示す。また、図3〜図5中、該シート状シリケート2の酸素原子と、ナトリウムイオン又は水素イオンとの結合を点線で示す。
【0024】
先ず、酸処理工程を行なう。該酸処理工程では、該層状珪酸ナトリウム塩1に酸を接触させて、酸処理を行うことにより、該層状珪酸ナトリウム塩1中のナトリウムイオンが、該酸の水素イオンでイオン交換されて、図4に示す酸処理層状珪酸化合物3が得られる。図4中、該酸処理層状珪酸化合物3では、該シート状シリケート2の酸素原子と、該層状シリケート21の層間に存在している水素イオンとが結合している。
【0025】
次いで、複合金属塩含浸工程を行なう。該複合塩含浸工程では、先ず、該酸処理層状珪酸化合物3と、2種以上の金属イオンを含有する複合金属塩溶液とを混合することにより、該酸処理層状珪酸化合物3中の層間空隙4に、該複合金属塩溶液を含浸させる。次いで、該複合金属塩溶液を含浸させた酸処理層状珪酸化合物を乾燥することにより、該複合金属塩溶液の溶媒を蒸発させると、図5に示すように、該層間空隙4に複合金属塩粒子5が析出する。このようにして、該複合金属塩含浸工程では、複合金属塩含浸層状珪酸化合物6が得られる。
【0026】
次いで、焼成工程を行う。該焼成工程では、該複合金属塩含浸層状珪酸化合物6を、500〜900℃で焼成することにより、該複合金属塩粒子5が酸化されて、複合金属酸化物内在粒子に変化すると共に、該シート状シリケート2中のSi−O間の結合が切れ、該シート状シリケート2は、大きさが極めて小さい、シート状シリケート断片に分割される。これらのことにより、該焼成工程では、図6に示すように、シート状シリケート断片7の間に、複合金属酸化物内在粒子8が挟み込まれている金属酸化物触媒粉末9a、9b、9cが得られる。
【0027】
言い換えると、該金属酸化物触媒粉末9a、9b、9cは、二層以上の該シート状シリケート断片7が層状に積層している層状シリケート、及び該層状シリケートの層間に担持されている該複合金属酸化物内在粒子8からなる。
【0028】
すなわち、本発明の金属酸化物触媒粉末は、層状金属酸化物の塩に酸を接触させて、酸処理を行ない、酸処理層状化合物を得る酸処理工程と、
該酸処理層状化合物と、複合金属塩溶液とを混合し、複合金属塩含浸層状化合物を得る複合金属塩含浸工程と、
該複合金属塩含浸層状化合物を、500〜900℃で焼成し、金属酸化物触媒粉末を得る焼成工程と、
を行い得られる金属酸化物触媒粉末である。
【0029】
該酸処理工程に係る該層状金属酸化物の塩は、層状金属酸化物と、該層状金属酸化物の層間に存在する陰イオンとからなる塩である。該層状金属酸化物は、二次元方向に骨格構造が広がっている金属酸化物(以下、二次元方向に骨格構造が広がっている金属酸化物を、シート状金属酸化物とも記載する。)が層状に積層した積層物である。該シート状金属酸化物は、例えば、シート状シリケート、シート状チタネート等である。そして、該層状金属酸化物の塩では、該シート状金属酸化物と、該層状金属酸化物の層間に存在する陰イオンとが結合している。
【0030】
該層状金属酸化物の塩としては、特に制限されず、例えば、図1に示すような、層状珪酸ナトリウム塩が挙げられ、他には、カネマイト、ジ珪酸ナトリウム、マカタイト、アイラアイト、マガディアイト、ケニヤアイト等の層状ポリ珪酸塩;ハロサイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ソーコナイト、セリサイト等の層状複水酸化物塩;パイロフィライト、カオリナイト、ナクライト、ハロイサイト、滑石、アンティゴライト、スチブンサイト、バイデライト、クリノクロア、シャモサイト、モンモリロナイト、ノントロナイト、バーミキュライト、白雲母、ヘクトライト、サポナイト等の層状粘土鉱物;ブルーサイト、層状チタン化合物等の層状金属水酸化物塩;ディッカイト、マーガライト等の層状金属塩が挙げられる。なお、上記層状金属酸化物の塩は、一般に、以下の化学式で表される。下記化学式中「,」は、「,」で区切られるカッコ内の元素のいずれか一方又は双方という意味である。
カネマイト:NaHSi・3HO、
ジ珪酸ナトリウム:NaSi
マカタイト:NaSi・5HO、
アイラアイト:NaSi17・mHO、
マガディアイト:NaSi1429・mHO、
ケニヤアイト:NaSi2041・mHO、
ハロサイト:AlSi10(OH)・mHO、
セピオライト:MgSi1230(OH)・8HO、
パリゴルスカイト:Mg(Si20)(OH)・8HO、
ソーコナイト:Na0.33Zn(Si,Al)10(OH)・4HO、
セリサイト:K(Al,Mg)(OH)(Si,Al)10・mHO、
パイロフィライト:Al(OH)Si10
カオリナイト:AlSi10(OH)
ナクライト:AlSi(OH)
ハロイサイト:AlSi(OH)
滑石:Mg(OH)Si10
アンティゴライト:MgSi(OH)
スチブンサイト:MgSi10(OH)
バイデライト:Na0.33Al2.22(SiAl)O10(OH)、
クリノクロア:(MgAl)(SiAl)O10(OH)
シャモサイト:(Fe2+Al)(SiAl)O10(OH)
モンモリロナイト:Na0.33(Al1.67Mg0.33)Si10(OH)
ノントロナイト:Na0.33Fe3+(Si3.67Al0.33)O10(OH)
バーミキュライト:(Mg,Ca)p/2Mg(Si4−pAl)O10(OH)〜Alp/3Al(Si4−pAl)O10(OH)
白雲母:KAl(SiAl)O10(OH,F)
ヘクトライト:Na0.3(Mg,Li)Si10(F,OH)
サポナイト:(Ca1/2,Na)0.33(Mg,Fe2+(Si,Al)10
ブルーサイト:Mg(OH)
層状チタン化合物:HTi
ディッカイト:NaMg(SO)(CO
マーガライト:KHSO
【0031】
該酸処理工程に係る該酸は、無機酸であれば、特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0032】
該層状金属酸化物の塩に該酸を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、先ず、水に、該層状金属酸化物の塩を混合し分散させて、スラリーを作成し、次いで、撹拌しながら、該スラリーに該酸を滴下する方法が挙げられる。他には、酸を水に混合し、次いで、該層状金属酸化物の塩を加えて、撹拌する方法が挙げられる。
【0033】
該酸処理工程では、該酸処理層状化合物が分散されている水のpHが、0〜4となるまで、好ましくは1〜4となるまで、酸処理を行う。該酸処理層状化合物が分散されている水のpHが、上記範囲内となるまで、酸処理を行なうことにより、結晶性の該酸処理層状化合物が得られる。一方、該酸処理層状化合物が分散されている水のpHが、上記範囲外になると、酸処理後の該酸処理層状化合物の結晶性が悪くなるか又は結晶性が無くなる、すなわち、シート状金属酸化物の一部が剥離したり、あるいは、酸処理層状化合物の層状構造が壊れ、シート状金属酸化物がばらばらになる。
【0034】
また、該酸処理工程に係る酸処理の際の酸濃度は、好ましくは10〜50質量%、特に好ましくは20〜40質量%である。また、該酸処理工程に係る酸処理の際の温度は、好ましくは5〜50℃、特に好ましくは10〜30℃である。
【0035】
該酸処理工程において、該酸処理を行った後、該酸処理層状化合物を、固液分離する。また、次いで、必要に応じて、水洗又は乾燥を行なうことができる。
【0036】
該複合金属塩含浸工程に係る該複合金属塩溶液は、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Mg、Pb、Zn、Ag、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる2種以上の金属イオンを含有する溶液であり、該金属イオンの金属塩を、水又はアルコール溶媒に溶解させた溶液である。また、該複合金属塩溶液に係る金属塩の種類としては、塩化物塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
【0037】
該複合金属塩溶液に含有されている金属元素の組み合わせは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素(前記一般式(1)中のAのうちの1種以上)と、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素(前記一般式(1)中のDのうちの1種以上)との組み合わせか、あるいは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素(前記一般式(1)中のAのうちの1種以上)と、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素(前記一般式(1)中のDのうちの1種以上)と、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素(前記一般式(1)中のEのうちの1種以上)との組み合わせである。該複合金属塩溶液に含有されている金属元素の組み合わせは、ペロブスカイト型の複合金属酸化物を構成する金属元素の組み合わせであることが好ましい。例えば、該複合金属塩溶液に含有されている金属元素の組み合わせは、該複合金属酸化物内在粒子がLaFeOの場合は、La及びFeであり、LaCoOの場合は、La及びCoであり、SrFe0.5Co0.5の場合は、Sr、Fe及びCoであり、La0.8Sr0.2CoOの場合は、La、Sr及びCoであり、La0.8Sr0.2MnOの場合は、La、Sr及びMnである。
【0038】
該複合金属塩溶液中の各金属元素のモル比を調節することにより、得られる金属酸化物触媒粉末中の該複合金属酸化物内在粒子の組成比を調節することができる。
【0039】
該複合金属塩溶液の金属元素濃度により、得られる金属酸化物触媒粉末中の複合金属酸化物内在粒子の粒径を調節することができる。そのため、該複合金属塩溶液の金属元素濃度により、得られる金属酸化物触媒粉末に係る層状金属酸化物の層間の幅を調節することができる。そして、該複合金属塩溶液の金属元素濃度が、1〜20mol/Lであることが好ましく、2〜10mol/Lであることが特に好ましい。該複合金属塩溶液の金属元素濃度が、上記範囲にあることにより、微細な粒径の複合金属酸化物内在粒子が担持されている金属酸化物触媒粉末が得られる。なお、該複合金属塩溶液の金属元素濃度は、全金属元素の合計モル数の濃度である。
【0040】
該酸処理層状化合物と、該複合金属塩溶液とを混合する方法としては、例えば、該複合金属塩溶液に、該酸処理層状化合物を加え、撹拌する方法が挙げられる。他には、該複合金属塩溶液を撹拌しながら、該複合金属塩溶液中に該酸処理層状化合物を浸漬し、次いで、引き上げる方法が挙げられる。
【0041】
該酸処理層状化合物と、該複合金属塩溶液とを混合する際の混合時間は、特に制限されないが、通常、1分〜3時間、好ましくは5分〜1時間である。また、該酸処理層状化合物と、該複合金属塩溶液とを混合する際の混合温度は、特に制限されず、通常、10〜30℃である。
【0042】
該複合金属塩含浸工程において、該酸処理層状化合物と、該複合金属塩溶液との混合が終わった後、該複合金属塩含浸層状化合物を、固液分離して取り出す。また、次いで、必要に応じて、乾燥、中和又は水洗を行うことができる。
【0043】
該焼成工程において、該複合金属塩含浸層状化合物を焼成する際の焼成温度は、500〜900℃、好ましくは700〜800℃である。該複合金属塩含浸層状化合物を焼成する際の焼成温度が、上記範囲内にあることにより、微細な金属酸化物触媒粉末が得られる。
【0044】
該焼成工程では、上記温度範囲で焼成を行うことにより、該複合金属塩含浸層状化合物中の複合金属塩粒子が、該複合金属酸化物内在粒子に変化する。また、該焼成工程では、該複合金属塩含浸層状化合物の層を形成しているシート状金属酸化物中の一部の結合が切れると共に、部分的に層状構造が壊れて、微細な複合金属酸化物触媒粉末になる。
【0045】
該複合金属塩含浸層状化合物を焼成する際の焼成時間は、特に制限されないが、好ましくは1〜10時間、特に好ましくは3〜7時間である。
【0046】
そして、該焼成工程を行うことにより、本発明の金属酸化物触媒粉末が得られる。
【0047】
このようにして得られる本発明の金属酸化物触媒粉末は、層状金属酸化物及び該層状金属酸化物の層間に担持されている複合金属酸化物内在粒子からなる。
【0048】
本発明の金属酸化物触媒粉末の模式的な形態例を、図7に示す。(7−1)の形態例では、金属酸化物触媒粉末10aは、二次元方向に骨格構造が広がっている金属酸化物片11a、11b(以下、二次元方向に骨格構造が広がっている金属酸化物片を、シート状金属酸化物片とも記載する。)が二層積層している層状金属酸化物111と、該層状金属酸化物111の層間に挟み込まれて担持されている複合金属酸化物内在粒子12とからなる。
【0049】
該複合金属酸化物内在粒子12の数は、1以上であればよいので、複数の該複合金属酸化物内在粒子12が、横方向又は二次元方向に並んで担持されていてもよい。複数の該複合金属酸化物内在粒子12が、横方向に並んで担持されている形態例が、(7−2)に示す金属酸化物触媒粉末10bであり、二次元方向に並んで担持されている形態例が、(7−3)に示す金属酸化物触媒粉末10cである。
【0050】
また、該層状金属酸化物中の該シート状金属酸化物片の数は、2以上であればよいので、該層状金属酸化物は、3以上のシート状金属酸化物片により形成されていてもよい。該層状金属酸化物が、三層のシート状金属酸化物片により形成されている形態例が、(7−4)に示す金属酸化物触媒粉末10d及び(7−5)に示す金属酸化物触媒粉末10eである。例えば、(7−1)の形態例の場合、シート状金属酸化物片11a及び11bにより、該層状金属酸化物が形成されており、(7−4)の形態例の場合、シート状金属酸化物片11c、11d及び11eにより、該層状金属酸化物が形成されている。また、本発明の金属酸化物触媒粉末の外観は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる分析により確認することができる。
【0051】
なお、図6又は図7には、本発明の金属酸化物触媒粉末の一次粒子を示しており、本発明の金属酸化物触媒粉末は、図6又は図7に示すような一次粒子の集合体であるか、又は該一次粒子が凝集した二次粒子の集合体である。
【0052】
本発明の金属酸化物触媒粉末を構成する該シート状金属酸化物片は、該層状金属酸化物の塩を構成する該シート状金属酸化物と、大きさが異なるものの、骨格構造は同様である。つまり、該シート状金属酸化物片は、例えば、二次元方向に骨格構造が広がっているシリケート、二次元方向に骨格構造が広がっているチタネート等であり、本発明の金属酸化物触媒粉末に係る該層状金属酸化物は、該シート状金属酸化物片が層状に積層した積層物である。
【0053】
本発明の金属酸化物触媒粉末に係る該複合金属酸化物内在粒子は、下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物であり、2種以上の金属元素で構成される金属酸化物である。なお、Aが2種以上の金属元素の場合、xの値は、該2種以上の金属元素の合計の値である。また、Dが2種以上の金属元素の場合、yの値は、該2種以上の金属元素の合計の値である。また、Eが2種以上の金属元素の場合、zの値は、該2種以上の金属元素の合計の値である。
【0054】
該複合金属酸化物内在粒子は、ペロブスカイト型の複合金属酸化物粒子であることが、触媒活性が高くなる点で好ましい。該ペロブスカイト型の複合金属酸化物粒子とは、結晶構造がペロブスカイト型であり、2種以上の金属元素で構成される金属酸化物である。該複合金属酸化物内在粒子が、ペロブスカイト型であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる分析により確認することができる。
【0055】
本発明の金属酸化物触媒粉末の一次粒子の平均粒径は、0.1〜100μm、好ましくは0.5〜60μm、特に好ましくは1〜30μmである。なお、本発明の金属酸化物触媒粉末の一次粒子の平均粒径は、レーザー粒度分布計で測定される値であり、該レーザー粒度分布計では、個々の一次粒子の最も長い径が粒径として測定される。
【0056】
また、本発明の金属酸化物触媒粉末は、X線回折分析において、2θが5〜70°の範囲で、実質的に回折ピークが現れない粉末である。通常、複合金属酸化物粒子をX線回折分析すると、2θが5〜70°の範囲に、特定の結晶構造の存在を示す強い回折ピークが現れる。ところが、本発明の金属酸化物触媒粉末の場合、本発明の金属酸化物触媒粉末中に担持されている複合金属酸化物内在粒子が小さ過ぎるため、回折ピークが現れない。つまり、「本発明の金属酸化物触媒粉末は、X線回折分析において、2θが5〜70°の範囲で、実質的に回折ピークが現れない」とは、本発明の金属酸化物触媒粉末の粒径が極めて小さいことを示す。なお、本発明において、「実質的に回折ピークが現れない」とは、X線回折チャート中に、結晶構造の存在を示す強くてシャープな回折ピークが見られないということを指し、更に具体的には、X線回折チャート中にピークが見られたとしても、いずれのピークも、バックグラウンドの平均強度の120%以下であることを指す。
【0057】
すなわち、本発明の金属酸化物触媒粉末は、層状金属酸化物と、
該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物内在粒子と、
からなる、
金属酸化物触媒粉末である。
【0058】
また、本発明の金属酸化物触媒粉末は、層状金属酸化物と、
該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物内在粒子と、
からなり、
X線回折分析において、2θが5〜70°の範囲で、実質的に回折ピークが現れない、
金属酸化物触媒粉末である。
【0059】
本発明の金属酸化物触媒粉末の層間幅(図7の(7−1)中の符号13)について説明するが、特定の金属酸化物触媒粉末の特定の箇所の層間幅であれば、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる分析により、測定することが可能であるが、SEMを用いる分析では、本発明の金属酸化物触媒粒子の平均層間幅を、求めることは非常に困難である。本発明者らは、種々検討したところ、SEM写真で観察される層間幅の大小と、窒素吸着法で測定した平均細孔径の値の大小が、よく相関していることがわかった。そこで、本発明においては、本発明の金属酸化物触媒粉末の平均層間幅の大小を表す指標として、窒素吸着法で測定した平均細孔径の値を用いる。そして、本発明の金属酸化物触媒粉末は、窒素吸着法で測定した平均細孔径が、好ましくは0.1〜10nm、特に好ましくは1〜5nmである。窒素吸着法で測定した平均細孔径が、上記範囲にあることにより、金属酸化物触媒粉末の触媒活性が高くなる。また、窒素吸着法で測定した平均細孔径が、小さいということは、本発明の金属酸化物触媒粉末に担持されている該複合金属酸化物内在粒子の粒径が小さいことを示す。
【0060】
本発明の金属酸化物触媒粉末中、該複合金属酸化物内在粒子の担持量は、好ましくは0.1〜50質量%、特に好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは5〜30質量%である。該複合金属酸化物内在粒子の担持量が、0.1質量%より少ないと、金属酸化物触媒粉末の触媒活性が低くなり、また、50質量%を超えると、該複合金属酸化物内在粒子を層間に保持することが困難となり易い。
【0061】
本発明の金属酸化物触媒粉末の製造方法は、層状金属酸化物の塩に酸を接触させて、酸処理を行ない、酸処理層状化合物を得る酸処理工程と、
該酸処理層状化合物と、複合金属塩溶液とを混合し、複合金属塩含浸層状化合物を得る複合金属塩含浸工程と、
該複合金属塩含浸層状化合物を、500〜900℃で焼成し、金属酸化物触媒粉末を得る焼成工程と、
を有する金属酸化物触媒粉末の製造方法である。
【0062】
本発明の金属酸化物触媒粉末の製造方法に係る層状金属酸化物の塩、酸、酸処理層状化合物、酸処理工程、複合金属塩溶液、複合金属塩含浸層状化合物、複合金属塩含浸工程、焼成工程は、前記本発明の金属酸化物触媒粉末に係る層状金属酸化物の塩、酸、酸処理層状化合物、酸処理工程、複合金属塩溶液、複合金属塩含浸層状化合物、複合金属塩含浸工程、焼成工程と同様である。
【0063】
本発明の浄化フィルタは、本発明の金属酸化物触媒粉末が、担体に担持されているフィルタである。
【0064】
本発明の浄化フィルタに係る担体は、特に制限されず、例えば、無機繊維質担体、有機繊維質担体、プラスチック担体、無機酸化物押し出し成形担体、金属担体等が挙げられる。
【0065】
本発明の金属酸化物触媒粉末に係る該複合金属酸化物内在粒子は、該複合金属酸化物内在粒子を構成する金属元素の種類又は組み合わせにより、触媒作用を示す反応が異なる。すなわち、該複合金属酸化物内在粒子の金属元素の種類又は組み合わせを種々選択することにより、本発明の金属酸化物触媒粉末を、例えば、揮発性有機溶媒の酸化分解触媒として用いることや、NOXの分解触媒として用いることや、異臭物質の分解により脱臭を行なう脱臭触媒して用いることや、オゾン分解触媒として用いることができる。
【0066】
よって、本発明の金属酸化物触媒粉末又は本発明の浄化フィルタに、揮発性有機溶媒を接触させることにより、該揮発性有機溶媒の酸化分解を行うことができる。また、本発明の金属酸化物触媒粉末又は本発明の浄化フィルタに、NOXを接触させることにより、該NOXの還元を行うことができる。
【0067】
本発明の金属酸化物触媒粉末は、極めて微細なので、反応系中で、複合金属酸化物内在粒子が、極めて微細な状態で存在できる。そのため、本発明の金属酸化物触媒粉末は、従来の触媒に比べ、触媒活性が高い。
【0068】
また、本発明の金属酸化物触媒粉末では、複合金属酸化物内在粒子が、層状金属酸化物に挟み込まれているため、他の金属酸化物触媒粉末中の複合金属酸化物内在粒子と、直接接触しない。そのため、本発明の金属酸化物触媒粉末によれば、複合金属酸化物内在粒子の粗粒化を防ぐことができる。従って、本発明の金属酸化物触媒粉末は、耐久性が高い。
【0069】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
(金属酸化物触媒粉末の製造)
層状珪酸ナトリウム塩A(NaO・3SiO)50gを、水200gに加え、室温で30分撹拌し、スラリーを調製した。次いで、撹拌しながら、該スラリーに、15〜20℃で、5mol/Lの硝酸を滴下し、pHが1になるまで滴下を続け、滴下終了後、更に2時間撹拌を続けた。撹拌後、固形物をろ別し、1000mlの水で洗浄した。次いで、固形物を、80℃で12時間乾燥して、酸処理層状珪酸化合物B 36gを得た。
【0071】
次いで、La(NO6.75gとMn(NO4.46gを、5gの水に加え、撹拌し、La−Mn複合金属塩溶液を調製した。次いで、該La−Mn複合金属塩溶液に、該酸処理層状珪酸化合物B 15gを加え、15〜20℃で撹拌した。撹拌終了後、固形物をろ別し、80℃で2時間乾燥した。次いで、乾燥物を10質量%のアンモニア水に加え、中和を行なう。続いて、固形物をろ別し、110℃で1時間乾燥し、複合金属塩含浸層状珪酸化合物Cを得た。
【0072】
次いで、該複合金属塩含浸層状珪酸化合物Cを、空気中、700℃で5時間焼成し、金属酸化物触媒粉末D 8gを得た。
【0073】
(金属酸化物触媒粉末の分析)
<窒素吸着法による平均細孔径の測定>
日本ベル社製の窒素吸着装置(ベルソープ18)を用い、該金属酸化物触媒粉末Dの窒素吸着等温線を測定し、BJH法により、該金属酸化物触媒粉末Dの平均細孔径を求めた。窒素吸着等温線の測定では、測定試料として、該金属酸化物触媒粉末Dを、0.224g採取し、前処理として、300℃で2時間脱気処理を行った。その結果、該金属酸化物触媒粉末Dの平均細孔径は、2nmであった。また、図8に、細孔径を横軸に、微分細孔容積を縦軸にプロットしたグラフを示す。
【0074】
<X線回折分析(XRD分析)>
該酸処理層状珪酸化合物BのX線回折分析を行ない得られたチャート、及び該金属酸化物触媒粉末DのX線回折分析を行ない得られたチャートを、図9に示す(図9の上段が、該酸処理層状珪酸化合物Bであり、下段が、該金属酸化物触媒粉末Dである)。その結果、該酸処理層状珪酸化合物Bのチャート中には、2θが5〜70°の範囲に、結晶構造の存在を示す強くてシャープな回折ピークが見られた。一方、該金属酸化物触媒粉末Dのチャート中、2θが5〜70°の範囲に現れたピークのピーク強度は、いずれも300cps以下であった。
・XRDの測定条件:電圧20kV、電流15mA
【0075】
(金属酸化物触媒粉末の触媒活性の評価)
該金属酸化物触媒粉末Dの触媒活性の評価を、プロパンの分解反応で行なった。反応条件は、以下の通りである。各分解温度におけるプロパンの分解率を、図10及び表1に示す。
<反応条件>
・触媒量:2g
・反応ガス組成:プロパンガス/酸素ガス/窒素ガス=0.8vol%/10vol%/89.2vol%
・総流速:1000ml/min.
・反応温度:250〜500℃
【0076】
(比較例1)
La(NO 6.65gと、Mn(NO 4.46gとを、5gの水に溶かし、La−Mn複合金属塩溶液を得た。この水溶液に、10重量%アンモニア水20gを加えて、沈殿物を得た。この沈殿物を濾過後、110℃で1時間乾燥して、乾燥物を得た。この乾燥物と、実施例1と同様の方法で得た酸処理層状珪酸化合物B 15gとを混合し、空気中700℃で5時間焼成し、触媒混合物Eを得た。なお、該触媒混合物Eは、ランタンマンガン複合金属酸化物と、該酸処理層状珪酸化合物Bの焼成物との、単なる粉体混合物である。
【0077】
実施例1と同様の方法で、該触媒混合物Eの触媒活性の評価を行なった。各分解温度におけるプロパンの分解率を、図10及び表1に示す。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】層状珪酸ナトリウム塩の模式的な斜視図である。
【図2】二次元方向に骨格構造が広がっているシリケートを示す化学式である。
【図3】該層状珪酸ナトリウム塩の模式的な端面図である。
【図4】酸処理層状珪酸化合物の模式的な端面図である。
【図5】複合金属塩含浸層状珪酸化合物の模式的な端面図である。
【図6】本発明の金属酸化物触媒粉末の模式的な端面図である。
【図7】本発明の金属酸化物触媒粉末の模式的な形態例を示す図である。
【図8】実施例1の金属酸化物触媒粉末Dを窒素吸着法で測定した測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例1の酸処理層状珪酸化合物B及び金属酸化物触媒粉末DのX線回折チャートである。
【図10】実施例1及び比較例1の各分解温度におけるプロパンの分解率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0080】
1 層状珪酸ナトリウム塩
2 シート状シリケート
3 酸処理層状珪酸化合物
4 層間空隙
5 複合金属塩粒子
6 複合金属塩含浸層状珪酸化合物
7 シート状シリケート断片
8、12 複合金属酸化物内在粒子
9、10 金属酸化物触媒粉末
11 シート状金属酸化物片
13 層間幅
21 層状シリケート
111 層状金属酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状金属酸化物と、
該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物内在粒子と、
からなること、
を特徴とする金属酸化物触媒粉末。
【請求項2】
一次平均粒径が、0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物触媒粉末。
【請求項3】
層状金属酸化物と、
該層状金属酸化物の層間に担持されている下記一般式(1):
(1)
(式中、Aは、La、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Dは、Na、K、Bi、Th、Ba、Sr、Ca、Pb、Zn及びAgから選ばれる1種以上の金属元素を示し、Eは、Mg、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Cu、V、Mo、W、Ta、Li、Ti、Zr、Nb、Pd、Rh、Ru及びPtから選ばれる1種以上の金属元素を示し、0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y=1、2≦n≦3、である。)
で表される複合金属酸化物内在粒子と、
からなり、
X線回折分析において、2θが5〜70°の範囲で、実質的に回折ピークが現れないこと、
を特徴とする金属酸化物触媒粉末。
【請求項4】
前記複合金属酸化物内在粒子が、ペロブスカイト型の複合金属酸化物粒子であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の金属酸化物触媒粉末。
【請求項5】
前記複合金属酸化物内在粒子の担持量が、0.1〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の金属酸化物触媒粉末。
【請求項6】
層状金属酸化物の塩に酸を接触させて、酸処理を行ない、酸処理層状化合物を得る酸処理工程と、
該酸処理層状化合物と、複合金属塩溶液とを混合し、複合金属塩含浸層状化合物を得る複合金属塩含浸工程と、
該複合金属塩含浸層状化合物を、500〜900℃で焼成し、金属酸化物触媒粉末を得る焼成工程と、
を行い得られること特徴とする金属酸化物触媒粉末。
【請求項7】
窒素吸着法で測定した平均細孔径が0.1〜10nmであることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の金属酸化物触媒粉末。
【請求項8】
層状金属酸化物の塩に酸を接触させて、酸処理を行ない、酸処理層状化合物を得る酸処理工程と、
該酸処理層状化合物と、複合金属塩溶液とを混合し、複合金属塩含浸層状化合物を得る複合金属塩含浸工程と、
該複合金属塩含浸層状化合物を、500〜900℃で焼成し、金属酸化物触媒粉末を得る焼成工程と、
を有することを特徴とする金属酸化物触媒粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか1項記載の金属酸化物触媒粉末が担持されていることを特徴とする浄化フィルタ。
【請求項10】
請求項1〜7いずれか1項記載の金属酸化物触媒粉末又は請求項9記載の浄化フィルタに、揮発性有機溶媒を接触させ、該揮発性有機溶媒の酸化分解を行うことを特徴とする揮発性有機溶媒の分解方法。
【請求項11】
請求項1〜7いずれか1項記載の金属酸化物触媒粉末又は請求項9記載の浄化フィルタに、窒素酸化物を接触させ、該窒素酸化物の分解を行うことを特徴とする窒素酸化物の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−80313(P2008−80313A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266691(P2006−266691)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】