説明

金属錯体の製造方法

【課題】特定の構造で示される金属錯体を短時間で、高収率で得ることができ、且つ、通常の反応容器を使用して引火性の高くない有機溶剤で生産できる製造方法を提供する。
【解決手段】金属塩(A)、グリオキシム及び置換グリオキシム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)並びにハロゲン化ホウ素(C)を、20℃における誘電率が1.8〜4.0の有機溶剤を含有する有機溶媒の存在下で反応させて得る、特定の構造で表される金属錯体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体の1つである(ボロンフルオロジメチルグリオキシメイト)コバルト錯体、(ボロンフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト錯体等の下式(1)で示される錯体は電気化学的に容易に活性化が可能で、水素発生触媒等の還元反応において高い活性を示すことが知られており、還元反応を始めとした各種有機合成反応において応用が期待される。
また、上記金属錯体の遷移金属イオンの酸化還元に伴う金属錯体の紫外可視光吸収特性や電気化学的特性の変化を利用することにより、エレクトロクロミック材料等の光機能材料、導電材料又は磁性材料としての利用も期待される。
上記金属錯体の製造方法としては、例えば、非特許文献1には有機溶剤としてジエチルエーテルを使用した合成法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この製造方法で得られる上記のコバルト錯体の収率は25%程度と低いレベルであり、純度の高いコバルト錯体を得る上で分離・精製する際に不利である。また、上記のコバルト錯体の製造コスト上も不利となる。更に、使用されているジエチルエーテルは引火性が極めて高く、工場スケールで製造する際には引火の危険性を回避するために設備上の対策を施す必要がある。また、ジエチルエーテルは沸点が35℃と低いことから、通常の反応容器を使用する場合には、上記のコバルト錯体を得る際の反応温度を高く設定することが難しく、生産性が低いという問題が生じる。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基を表し、Mは遷移金属イオンを表し、Xはハロゲン元素を表す。)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed., 47, 9,947−9,950(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上式(1)で示される金属錯体を短時間で、高収率で得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属塩(A)、グリオキシム及び置換グリオキシム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)並びにハロゲン化ホウ素(C)を、20℃における誘電率が1.8〜4.0の有機溶剤を含有する有機溶媒(以下、「本有機溶媒」という)の存在下で反応させて得る下式(1)で表される金属錯体(以下、「本金属錯体」という)の製造方法を要旨とする。
【化2】

(式中、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基を表し、Mは遷移金属イオンを表し、Xはハロゲン元素を表す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明により、本金属錯体を短時間で、高収率で得ることができ、且つ通常の反応容器を使用して引火性の高くない有機溶剤で生産できることから、工業的生産に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で使用される金属塩(A)としては、例えば、遷移金属の塩が挙げられる。
遷移金属としては、例えば、Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)及びAu(金)が挙げられる。これらの中で、式(1)の構造安定性の観点から、Co(コバルト)が好ましい。
【0009】
遷移金属と塩を形成させるための化合物としては、例えば、ぎ酸、酢酸、しゅう酸、ナフテン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の有機酸;炭酸、硝酸、硫酸、チオシアン酸等の無機酸;塩素、臭素等のハロゲン;アセチルアセトナート;樹脂酸及びこれらの化合物の水和物が挙げられる。
【0010】
本発明で使用される化合物(B)はグリオキシム及び置換グリオキシム化合物から選ばれる少なくとも1種である。
本発明において、化合物(B)は上記の金属塩(A)及び後述するハロゲン化ホウ素(C)と反応して本金属錯体中に金属原子1モルに対して3モルのグリオキシム骨格が導入される。
【0011】
本発明において、置換グリオキシム化合物は、グリオキシムにおける2個の炭素原子のうちの少なくとも1個が炭素原子数1〜10、好ましくは1〜6の炭化水素基で置換された化合物である。
上記の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1〜10のアルキル基又はアルケニル基及び炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等の直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1〜10のアルキル基;ビニル基、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1〜10のアルケニル基;及びフェニル基、トルイル基、エチルフェニル基、ベンジル基、フェネチル基、キシリル基等の炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0012】
置換グリオキシム化合物の具体例としては、ジメチルグリオキシム、ジエチルグリオキシム、ジn−プロピルグリオキシム、ジイソプロピルグリオキシム、ジn−ブチルグリオキシム、ジイソブチルグリオキシム、ジオクチルグリオキシム、ジデシルグリオキシム、メチルエチルグリオキシム、モノメチルグリオキシム、モノエチルグリオキシム、モノn−プロピルグリオキシム、モノイソプロピルグリオキシム、モノn−ブチルグリオキシム、モノイソブチルグリオキシム、モノオクチルグリオキシム等のモノ又はジアルキル置換グリオキシム;ジビニルグリオキシム、ジアリルグリオキシム、メチルビニルグリオキシム、メチルアリルグリオキシム等のアルケニル置換グリオキシム;及びジフェニルグリオキシム、ジトルイルグリオキシム、ジ(エチルフェニル)グリオキシム、ジキシリルグリオキシム、ジベンジルグリオキシム、ジフェネチルグリオキシム、メチルフェニルグリオキシム、エチルフェニルグリオキシム、モノフェニルグリオキシム、モノトルイルグリオキシム、モノ(エチルフェニル)グリオキシム、モノキシリルグリオキシム、モノベンジルグリオキシム、モノフェネチルグリオキシム等の芳香族炭化水素基置換グリオキシムが挙げられる。これらの中で、本金属錯体の反応収率及び純度の観点からジフェニルグリオキシムが好ましい。
本発明で使用される化合物(B)の量としては、高純度の本金属錯体を得る点で、金属塩(A)1モルに対して2〜4モルが好ましい。
【0013】
本発明で使用されるハロゲン化ホウ素(C)としては、例えば、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素及び三ヨウ化ホウ素が挙げられる。
ハロゲン化ホウ素(C)は上記の金属塩(A)及び化合物(B)と反応して本金属錯体中に金属原子1モルに対して2モルのホウ素原子が導入される。
本発明において、ハロゲン化ホウ素はそのまま使用することもできるが、作業上の安全性の点で、有機液体と混合したものを使用するのが好ましい。
【0014】
有機液体としては、例えば、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ジクロロメタン等の有機溶媒が挙げられる。
有機液体として、酸素原子、ハロゲン原子等に基く孤立電子対を持つものを使用すると、通常、ハロゲン化ホウ素は有機液体と錯体を形成する。
本発明においては、ハロゲン化ホウ素と錯体を形成しない有機液体としては、後述する本有機溶媒と同様のものを使用することができる。
【0015】
ハロゲン化ホウ素と有機液体との混合物を使用する場合、ハロゲン化ホウ素の濃度としては3質量%以上が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
尚、有機液体として、ジエチルエーテルのような沸点が50℃未満の低沸点有機液体やメタノール等の活性水素を有する有機液体を使用する場合には、これらの有機液体の量としては、ハロゲン化ホウ素と有機液体とのモル比が1:1の錯体の形成の観点から、ハロゲン化ホウ素と等モル量が好ましい。
【0016】
本発明で使用されるハロゲン化ホウ素(C)の量としては、本金属錯体を得る際の反応速度及び本金属錯体の反応収率の観点から金属塩(A)1モルに対して2〜20モルが好ましく、2〜10モルがより好ましい。
【0017】
本有機溶媒は20℃における誘電率が1.8〜4.0の有機溶剤を含有する有機溶媒である。
本有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、デカリン等の環状飽和脂肪族炭化水素;シクロヘキセン等の環状不飽和脂肪族炭化水素;1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等の鎖状不飽和脂肪族炭化水素;及びベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
本有機溶媒中の20℃における誘電率が1.8〜4.0の有機溶剤の含有量としては、本金属錯体の収率及び引火の危険性の低減の観点から、80質量%以上が好ましい。また、本有機溶媒中に、20℃における誘電率が1.8〜2.5の有機溶剤を90質量%以上含有することがより好ましい。
【0018】
本有機溶媒中に含有することができる、20℃における誘電率が1.8〜4.0の有機溶剤以外の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のアルコール系溶剤;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、メチルクロライド、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、ジブロモメタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;及びホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶剤が挙げられる。
【0019】
本発明においては、本有機溶媒としては、純度の高い本金属錯体の製造という観点から、溶媒分子中に酸素、窒素、ハロゲン原子等の孤立電子対を有する原子を持たない、金属塩(A)の金属イオンへの親和性の低い溶媒が好ましい。
本発明においては、本有機溶媒としては、本金属錯体の製造時の安全性の観点から、沸点は50℃以上のものが好ましい。
【0020】
本発明で使用される本有機溶媒の量としては、金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)の溶解性、本金属錯体を得る際の反応容器中の液体の撹拌のし易さ並びに本金属錯体を得る際の反応速度及び本金属錯体の反応収率の観点から、金属塩(A)及び化合物(B)の合計量100質量部に対して100〜10,000質量部が好ましく、500〜4,000質量部がより好ましい。
【0021】
本金属錯体は本有機溶媒の存在下で金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を反応させて得られるものである。
本金属錯体を得るための金属塩(A)、化合物(B)、ハロゲン化ホウ素(C)及び本有機溶媒の反応容器への添加順序としては、純度の高い本金属錯体を得る点で、金属塩(A)、化合物(B)及び本有機溶媒を反応容器へ添加した後にハロゲン化ホウ素(C)を添加して反応を行なうことが好ましい。
【0022】
金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を反応させる際の反応容器内部は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
また、金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を反応させる際の反応温度としては−10〜150℃が好ましく、20〜150℃がより好ましい。
上記の反応容器内の雰囲気及び反応温度とすることにより反応時間を短くでき、収率よく本金属錯体を製造することができる。
【0023】
金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を反応させる際の反応時間としては、反応温度にもよるが、通常、10分間〜24時間程度である。
金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を反応させていくと、反応の進行とともに、生成した本金属錯体が沈澱したり、又は分散状態で析出したりするので、これらの生成量に変化がなくなったときに反応を終了させることができる。
生成した本金属錯体は、室温で固体として得られる。反応終了後、本金属錯体を本有機溶媒から単離することが困難な場合には、本金属錯体を沈澱、凝固させる溶剤や無機塩等を投入して単離できる状態にした後に濾過、デカンテーション等によって回収することができる。
【0024】
単離された本金属錯体は、わずかに未反応の原料を有している可能性があるので、必要に応じて精製を行なうことができる。
本金属錯体の精製方法としては、例えば、(a)単離した未精製の本金属錯体を、本金属錯体は溶解しないが金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を溶解する溶媒と混合して未反応の原料を溶媒に溶解させて精製する方法、(b)未精製の本金属錯体を本金属錯体は溶解しない溶媒で洗浄し、不純物を洗い流す方法、又は(c)未精製の本金属錯体を、一旦本金属錯体を溶解する溶媒に溶解させた後に再結晶化させて精製する方法が挙げられる。
【0025】
本金属錯体は溶解しないが金属塩(A)、化合物(B)及びハロゲン化ホウ素(C)を溶解する溶媒としては、例えば、エーテル系溶剤及び水が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
精製された本金属錯体は真空乾燥等の乾燥方法により固体として回収される。尚、本金属錯体の乾燥に際し、乾燥を容易にするため、本金属錯体をジエチルエーテル等の低沸点溶剤と接触させることができる。
【0026】
本金属錯体は様々な用途に有用である。例えば、金属がコバルトである本金属錯体は電気化学的に活性化が可能であり、高活性な水素発生触媒として機能し得る。
また、本金属錯体の紫外可視領域における吸光係数の高さを利用して、色素としても利用が可能である。本金属錯体における金属の種類を変えることにより、様々な紫外可視吸収特性を持つ色素の製造が可能である。
【0027】
更に、本金属錯体の蛍光やりん光を利用した発光素子としての利用も可能である。特に、式(1)における置換基R〜Rとして芳香環等の共鳴構造を持つ置換基を導入した金属錯体はモル吸光係数の増加及び極大吸収波長の長波長シフトが期待でき、色素や発光材料として好適である。
また、本金属錯体中の金属の酸化還元特性を利用することで、本金属錯体を電気化学的に本金属錯体の光吸収特性や発光特性を変化させる、いわゆるフォトクロミック材料としての展開も可能である。
更に、本金属錯体の中心金属の酸化還元特性を利用することで、本金属錯体を電気化学的に磁性のスイッチングが可能な磁性材料としての展開も期待できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により、本発明を説明する。尚、以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
また、得られた反応物の構造の同定は紫外可視光吸収分光(UVVISスペクトロスコピィ)法及び高速原子衝撃質量分析(FAB−MS)法を用い、得られた反応物の収率は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法を用い、以下の条件にて評価を実施した。
【0029】
(1)反応物の構造の同定
反応物の構造は紫外可視光吸収分光(UVVISスペクトロスコピィ)法及び高速原子衝撃質量分析(FAB−MS)法により下記装置及び条件にて同定した。
(a)紫外可視光吸収分光(UVVISスペクトロスコピィ)法
使用装置:(株)日立ハイテクフィールディング製分光光度計、U−3300(商品名)
測定波長:250〜700nm
使用溶媒:アセトニトリル(和光純薬工業(株)製、Sp(吸光分析用)グレード)
試料濃度:6.0×10−2mM(mmol/L)
(b)高速原子衝撃質量分析(FAB−MS)法
使用装置 :日本電子(株)製高分解能質量分析装置、JMS700(商品名)
測定モード:FAB−MS(ポジティブモード)
マトリックス:チオグリセロール
【0030】
(2)本金属錯体の収率
得られた反応物の収率は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法により下記装置及び条件にて求めた。
使用装置:ウォーターズ(株)製Waters Alliance2695HPLC System+Photodiode Array Detector2996(商品名)
カラム:資生堂(株)製Capcellpak MG 4.6mmφ×250mm
溶離液:アセトニトリル(和光純薬工業(株)製、HPLCグレード)/HO=50/50(v/v)のグラジエント
【0031】
[実施例1]
窒素雰囲気下において、酢酸コバルト(II)四水和物(Co(OC(=O)CH・4HO)10部(130mg、0.5mmol)及びジフェニルグリオキシム31部(380mg、1.5mmol)を、予め1時間の窒素バブリングにより溶存酸素濃度を10ppm以下にまで脱酸素したベンゼン(沸点80.1℃、20℃での誘電率2.283)1,500質量部(20mL)に加え、この混合物を室温で1時間撹拌した。
次いで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・(CO)59部(710mg、5.0mmol)(和光純薬工業(株)製三フッ化ホウ素ジエチルエーテル(商品名)、三フッ化ホウ素含有量28部(337mg、5.0mmol))を窒素雰囲気下で加え、更に室温で3時間撹拌した。
淡褐色固体の析出がなくなったのを確認した後に撹拌を止め、沈澱物を濾過し、濾別した固体を20mLのベンゼンで洗浄した後、20℃で1kPa以下の真空条件で約6時間乾燥し、式(1)においてRがフェニル基(−C)で、Mがコバルト(Co)で、Xがフッ素(F)で示される淡褐色固体である本金属錯体(あ)458mg(収率99%)を得た。
【0032】
[実施例2〜5及び比較例1]
有機溶媒としてベンゼンの代わりにトルエン(沸点110.6℃、20℃での誘電率2.240)、p−キシレン(沸点138.4℃、20℃での誘電率2.270)、ヘキサン(沸点68.7℃、20℃での誘電率1.890)若しくはジエチルエーテル(沸点35℃、20℃での誘電率4.340)又は化合物(B)としてのジフェニルグリオキシムの量を表1に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして本金属錯体(あ)を得た。本金属錯体(あ)の収率を表1に示す。
【0033】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩(A)、グリオキシム及び置換グリオキシム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)並びにハロゲン化ホウ素(C)を、20℃における誘電率が1.8〜4.0の有機溶剤を含有する有機溶媒の存在下で反応させて得る下式(1)で表される金属錯体の製造方法。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基を表し、Mは遷移金属イオンを表し、Xはハロゲン元素を表す。)
【請求項2】
金属塩(A)が遷移金属の有機酸塩又は無機酸塩である請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項3】
化合物(B)が、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基及び置換フェニル基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有する置換グリオキシム化合物である請求項1又は2に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化ホウ素(C)が三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素及び三ヨウ化ホウ素から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。

【公開番号】特開2012−17307(P2012−17307A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156605(P2010−156605)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】