金属錯体及びその製造方法
【課題】優れたガス吸蔵性能及びガス分離性能を有する金属錯体を提供。
【解決手段】ジフェニルジカルボン酸化合物と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、一般式(II)
(式中、R9〜R16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、或いはR14とR15が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属に二座配位可能な有機配位子(II)とからなる金属錯体、及びその製造方法。
【解決手段】ジフェニルジカルボン酸化合物と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、一般式(II)
(式中、R9〜R16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、或いはR14とR15が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属に二座配位可能な有機配位子(II)とからなる金属錯体、及びその製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。また、本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材としても好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0006】
芳香族ジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはテレフタル酸と銅イオンとピラジンとからなる高分子金属錯体であり、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジル誘導体とからなる高分子金属錯体のガス吸蔵性能及び混合ガスの分離性能については何ら言及されていない。
【0007】
芳香族ジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは4,4’−ビフェニルジカルボン酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、二座配位可能な有機配位子がガスの吸蔵性能及び混合ガスの分離性能に与える影響ついては何ら言及されていない。
【0008】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,7−ピレンジカルボン酸または4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはテレフタル酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体、2,6−ナフタレンジカルボン酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体及びテレフタル酸とロジウムイオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジル誘導体とからなる高分子金属錯体のガスの吸蔵性能及び混合ガスの分離性能については何ら言及されていない。
【0009】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,7−ピレンジカルボン酸及び4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは4,4’−ビフェニルジカルボン酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、二座配位可能な有機配位子がガスの吸蔵性能及び混合ガスの分離性能に与える影響については何ら言及されていない。
【0010】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と銅イオンと4,4’−ビピリジルとからなるジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する高分子金属錯体が開示されている(非特許文献3参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているジメチルスルホキシドを413K、0.1mmHgで4時間処理することで除去しても、構造に変化がないとの記載がある。
【0011】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とコバルトイオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元蛇腹状細孔を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献4参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているN,N−ジメチルホルムアミドと水を573Kまで加熱することで除去しても、構造に変化がないとの記載がある。
【0012】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とコバルトイオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元構造を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献5参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているN,N−ジメチルホルムアミドを473Kまで加熱することで除去しても、構造に変化がないとの記載があり、また、プロパン、へキサン、シクロヘキサン、p−キシレン、o−キシレン、メシチレン及びトリイソプロピルベンゼンの吸着試験を行っているが、それらの吸着に伴う構造変化の有無について何ら記載されていない。
【0013】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と亜鉛イオンと4,4’−ビピリジルとからなるダイヤモンド骨格が五重に相互貫入した構造を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献6参照)。合成直後に細孔内に存在している水を403K、空気下で8時間処理することで除去しても、構造に変化がないとの記載がある。
【0014】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と亜鉛イオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元細孔を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献7、非特許文献8参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているN,N−ジメチルホルムアミドと水を413K、真空下で2時間処理することで除くと粉末X線回折パターンの強度が低下し、さらに6時間加熱すると結晶構造が崩壊するとの記載がある。
【0015】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と亜鉛イオンまたはコバルトイオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元細孔を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献9参照)。しかしながら、水素及びアルゴンの吸着試験を行っているが、吸着に伴う構造変化の有無については何ら言及されていない。
【0016】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とカドミウムイオンと4,4’−ビピリジルとからなるハニカム骨格が四重に相互貫入した構造を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献10参照)。しかしながら、ガスの吸着挙動やガス吸着に伴う構造変化の有無については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000−109485公報
【特許文献2】特開2001−348361公報
【特許文献3】特開2006−328051公報
【特許文献4】特開2008−208110公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【非特許文献3】A.Pichon、C.M.Fierro、M.Nieuwenh uyzen、S.L.James、CrystEngComm、第9巻、449〜451頁(2007年)
【非特許文献4】L.Pan、H.Liu、X.Lei、X.Huang、D.H. Olson、N.J.Turro、J.Li、Angewandte Chemie International Edition、第42巻、542〜546頁(2003年)
【非特許文献5】L.Pan、H.Liu、S.P.Kelly、X.Huang、 D.H.Olson、J.Li、Chemical Communications、854〜855頁(2003年)
【非特許文献6】K.O.Kongshaug、H.Fjellvag、Journ al of Solid State Chemistry、第175巻、182〜187頁(2003年)
【非特許文献7】Q.Fang、X.Shi、G.Wu、G.Tian、G.Zhu、Y.Li、L.Wang、C.Wang、Y.Chen、Z.Zhang、Z.Guo、T.Shang、X.Cai、S.Qiu、Acta Chimica Sinica、第60巻、2087〜2091頁(2002年)
【非特許文献8】Q.Fang、X.Shi、G.Wu、G.Tian、G.Zhu、R.Wang、S.Qiu、Journal of Solid State Chemistry、第176巻、1〜4頁(2003年)
【非特許文献9】J.Y.Lee、L.Pan、S.P.Kelly、J.Jagi ello、T.J.Emge、J.Li、Advanced Materials、第17巻、2703〜2706頁(2005年)
【非特許文献10】J.Dai、X.Wu、S.Hu、Z.Fu、J.Zhang、 W.Du、H.Zhang、R.Sun、European Journal of Inorganic Chemistry、第2004巻、2096〜2106頁(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、従来よりも有効吸着量が大きい吸蔵材、或いは従来よりも混合ガスの分離性能が優れるガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0021】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I);
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン基またはアルケニレン基を形成してもよい。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、下記一般式(II);
【0024】
【化2】
【0025】
(式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、或いはR14とR15が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる外部刺激により動的構造変化を生じる金属錯体。
(2)ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する(1)に記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子(II)が4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンから選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)該金属イオンが亜鉛イオンである(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
(6)該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である(5)記載の吸蔵材。
(7)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(8)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(7)に記載の分離材。
(9)該分離材が、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(7)に記載の分離材。
(10)ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0027】
本発明の金属錯体は、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な吸着挙動を示し、このとき吸脱着等温線がヒステリシスループを描くので、吸着開始圧と脱着開始圧を制御することにより、有効吸蔵量が大きいのみならず、搬送時や貯蔵時の圧力を低く保つことができる吸蔵材としても使用することができる。吸蔵されるガス種としては、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などが挙げられる。
【0028】
また、本発明の金属錯体は、ガス種によって吸着開始圧が異なるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても使用することができ、特に、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気中の二酸化炭素などの分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子(II)が配位して形成されるジャングルジム骨格の模式図である。
【図2】ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造の模式図である。
【図3】本発明の金属錯体の吸脱着に伴う構造変化の模式図である。
【図4】合成例1で得た金属錯体のメタノール吸着状態での粉末X線回折パターンで ある。
【図5】合成例1で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図6】合成例1で得た金属錯体の熱重量変化である。
【図7】比較合成例1で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例2で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図9】比較合成例3で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図10】比較合成例4で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図11】比較合成例5で得た金属錯体のメタノール吸着状態での粉末X線回折パターンである。
【図12】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図14】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】合成例1で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図16】比較合成例2で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図18】比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図20】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】比較合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図22】比較合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図23】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図24】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図25】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図26】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる。
【0031】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)及び二座配位可能な有機配位子(II)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0032】
本発明に用いられるジカルボン酸化合物(I)は下記一般式(I);
【0033】
【化3】
【0034】
で表される。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であるか、R2とR3、並びに/或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン基またはアルケニレン基を形成してもよい。
【0035】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8を構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としてはメチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0036】
上記アルキレン基の炭素数は、2が好ましい。アルキレン基の炭素数が2の場合、R2とR3、並びに/或いはR6とR7はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(シクロヘキサジエン環)を構成する。ジカルボン酸化合物(I)の例としては、置換基を有していてもよい4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸が挙げられる。
【0037】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、R2とR3、並びに/或いはR6とR7はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン環)を構成する。このようなジカルボン酸化合物(I)の例としては、置換基を有していてもよい2,7−ピレンジカルボン酸が挙げられる。
【0038】
また、該アルキレン基、該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0039】
ジカルボン酸化合物(I)としては、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,7−ピレンジカルボン酸または4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸を使用することができ、中でも4,4’−ビフェニルジカルボン酸が好ましい。
【0040】
金属錯体の製造に用いる金属の塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩またはカドミウム塩を使用することができ、マグネシウム塩、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩、亜鉛塩またはカドミウム塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属イオンからなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0041】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(II)は下記一般式(II);
【0042】
【化4】
【0043】
で表される。式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、並びに/或いはR14とR15は一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。
【0044】
上記R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16を構成することのできる置換基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0045】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、R10とR11、並びに/或いはR14とR15はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン環)を構成する。このような二座配位可能な有機配位子(II)の例としては、置換基を有していてもよいジアザピレンが挙げられる。
【0046】
該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0047】
二座配位可能な有機配位子(II)としては、例えば、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジンまたはジアザピレンを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。本明細書において、「二座配位可能な有機配位子」とは、非共有電子対で金属イオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子と定義する。
【0048】
金属錯体を製造するときのジカルボン酸化合物(I)と二座配位可能な有機配位子(II)との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):二座配位可能な有機配位子(II)=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0049】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(II)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(II)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0050】
金属錯体を製造するための混合溶液におけるジカルボン酸化合物(I)のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0051】
金属錯体を製造するための混合溶液における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0052】
金属錯体を製造するための混合溶液における二座配位可能な有機配位子(II)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0053】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0054】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0055】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子(II)が配位して形成されるジャングルジム骨格が多重に相互貫入した三次元構造を有し、外部刺激により動的構造変化を生じる。ジャングルジム骨格の模式図を図1に、ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造の模式図を図2に示す。
【0056】
本明細書において、「ジャングルジム骨格」とは、ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなる骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子が配位し、ジカルボン酸化合物(I)と金属イオンとからなる二次元格子状シート間を連結することで形成されるジャングルジム様の三次元構造と定義する。
【0057】
本明細書において、「ジャングルジム骨格が多重に相互貫入した構造」とは、二つのジャングルジム骨格が互いの細孔を埋める形で貫入し合った三次元集積構造と定義する。
【0058】
金属錯体が「ジャングルジム骨格が多重に相互貫入した構造を有する」ことは、例えば単結晶X線構造解析、粉末X線結晶構造解析などにより確認できる。
【0059】
本明細書において、「外部刺激」とは、吸着される物質のような化学的刺激や温度、圧力、電場などの物理的刺激と定義する。
【0060】
本明細書において、「動的構造変化」とは、外部刺激を受ける前後で金属錯体が異なる結晶構造になる現象と定義する。
【0061】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高いガス吸蔵性能及び高いガス分離選択性が発現する。吸脱着に伴う構造変化の模式図を図3に示す。本発明では、一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物と一般式(II)で表される二座配位可能な有機配位子を用いてジャングルジム骨格の動的挙動を制御することで、ある一定圧を超えると急激にガスを吸着する吸着プロファイルを示すだけでなく、吸脱着時のヒステリシスの幅を狭くすることが可能となる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0062】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
本発明の金属錯体は、吸蔵される物質の種類、吸蔵圧力または吸蔵温度により、金属錯体の集積構造が変化すると共に細孔の大きさが変化するので、一定の圧力になると急に吸蔵が始まり、瞬時に最大吸蔵量に達する。吸蔵の開始圧力は、吸蔵される物質の種類または吸蔵温度により異なる。
【0064】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0065】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスを選択的に吸着することができるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、エタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、沸点が423K以下であり、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0067】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0068】
(2)熱重量変化の測定
示差熱−熱重量同時測定装置を用いて、298〜573Kの温度範囲について測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製Thermo plus TG8120
試料容器:株式会社リガク製TG−DTA Thermo plus用アルミパン
測定雰囲気:窒素ガス
窒素ガス流量:100mL/分
昇温速度:5K/分
【0069】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間真空乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0070】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、4,4’−ビフェニルジカルボン酸2.29g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体の単結晶X線構造解析を行った結果、得られた金属錯体はジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造であった。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。続いて、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の金属錯体3.24g(収率89%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に、熱重量分析結果を図6に示す。図6より、金属錯体の細孔内にN,N−ジメチルホルムアミド、エタノール及びメタノールが残っていないことが分かる。また、図4と図5の比較から、メタノールの吸脱着前後で本発明の金属錯体の構造が動的に変化していることが分かる。
【0071】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、4,4’−ビフェニルジカルボン酸2.29g(9.5mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン0.531g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。続いて、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の金属錯体3.20g(収率94%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。
【0072】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、2,6−ナフタレンジカルボン酸2.05g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。続いて、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の金属錯体3.09g(収率91%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0073】
<比較合成例3>
酢酸銅の水溶液100mL(0.04mol/L)に、アセトンに溶解した、濃度0.08mol/Lの4,4’−ビピリジル及び濃度0.32mol/Lの2,5−ジヒドロキシ安息香酸の溶液各200mLを、1時間かけて滴下した。その後、298Kで2時間攪拌した。吸引濾過の後、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の錯体3.66g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図9に示す。
【0074】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル5.00g(32mmol)をメタノール400mLに溶解させ、343Kまで加熱した。続いて、テトラフルオロホウ酸銅3.79g(16mmol)の水溶液200mLを20分かけて滴下した。その後、343Kで1時間攪拌した。吸引濾過の後、メタノールで3回洗浄し、目的の錯体2.16g(収率23%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図10に示す。
【0075】
<比較合成例5>
窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル2.35g(15mmol)をメタノール250mLに溶解させた。続いて、トリフルオロメタンスルホン酸銅2.72g(7.5mmol)の水溶液250mLを60分かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。吸引濾過の後、メタノールで3回洗浄し、目的の錯体3.17g(収率54%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。
【0076】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図12に示す。
【0077】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図13に示す。
【0078】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図14に示す。
【0079】
図12と図13〜14の比較より、本発明の金属錯体は0.1〜1.0MPaの圧力範囲における二酸化炭素の有効吸蔵量が多く、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、二酸化炭素の吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0080】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図15に示す。
【0081】
<比較例3>
比較合成例2で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図16に示す。
【0082】
図15と図16より、本発明の金属錯体はエチレンの吸蔵量が多く、その吸蔵量を低圧でも維持できるので、エチレンの吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0083】
<実施例3>
合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図17に示す。
【0084】
<比較例4>
比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図18に示す。
【0085】
<比較例5>
比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図19に示す。
【0086】
<比較例6>
比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図20に示す。
【0087】
<比較例7>
比較合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図21に示す。
【0088】
<比較例8>
比較合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図22に示す。
【0089】
図17と図18〜22の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素を選択的に吸着し、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【0090】
<実施例4>
合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図23に示す。
【0091】
<比較例9>
比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図24に示す。
【0092】
図23と図24の比較より、本発明の金属錯体はエタンを選択的に吸着するので、メタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0093】
<実施例5>
合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図25に示す。
【0094】
<比較例10>
比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図26に示す。
【0095】
図25と図26の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素とエタンを吸着する圧力が異なるので、二酸化炭素とエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。また、本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材としても好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0006】
芳香族ジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはテレフタル酸と銅イオンとピラジンとからなる高分子金属錯体であり、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジル誘導体とからなる高分子金属錯体のガス吸蔵性能及び混合ガスの分離性能については何ら言及されていない。
【0007】
芳香族ジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは4,4’−ビフェニルジカルボン酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、二座配位可能な有機配位子がガスの吸蔵性能及び混合ガスの分離性能に与える影響ついては何ら言及されていない。
【0008】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,7−ピレンジカルボン酸または4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはテレフタル酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体、2,6−ナフタレンジカルボン酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体及びテレフタル酸とロジウムイオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジル誘導体とからなる高分子金属錯体のガスの吸蔵性能及び混合ガスの分離性能については何ら言及されていない。
【0009】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,7−ピレンジカルボン酸及び4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは4,4’−ビフェニルジカルボン酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、二座配位可能な有機配位子がガスの吸蔵性能及び混合ガスの分離性能に与える影響については何ら言及されていない。
【0010】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と銅イオンと4,4’−ビピリジルとからなるジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する高分子金属錯体が開示されている(非特許文献3参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているジメチルスルホキシドを413K、0.1mmHgで4時間処理することで除去しても、構造に変化がないとの記載がある。
【0011】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とコバルトイオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元蛇腹状細孔を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献4参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているN,N−ジメチルホルムアミドと水を573Kまで加熱することで除去しても、構造に変化がないとの記載がある。
【0012】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とコバルトイオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元構造を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献5参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているN,N−ジメチルホルムアミドを473Kまで加熱することで除去しても、構造に変化がないとの記載があり、また、プロパン、へキサン、シクロヘキサン、p−キシレン、o−キシレン、メシチレン及びトリイソプロピルベンゼンの吸着試験を行っているが、それらの吸着に伴う構造変化の有無について何ら記載されていない。
【0013】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と亜鉛イオンと4,4’−ビピリジルとからなるダイヤモンド骨格が五重に相互貫入した構造を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献6参照)。合成直後に細孔内に存在している水を403K、空気下で8時間処理することで除去しても、構造に変化がないとの記載がある。
【0014】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と亜鉛イオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元細孔を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献7、非特許文献8参照)。しかしながら、合成直後に細孔内に存在しているN,N−ジメチルホルムアミドと水を413K、真空下で2時間処理することで除くと粉末X線回折パターンの強度が低下し、さらに6時間加熱すると結晶構造が崩壊するとの記載がある。
【0015】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸と亜鉛イオンまたはコバルトイオンと4,4’−ビピリジルとからなる一次元細孔を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献9参照)。しかしながら、水素及びアルゴンの吸着試験を行っているが、吸着に伴う構造変化の有無については何ら言及されていない。
【0016】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とカドミウムイオンと4,4’−ビピリジルとからなるハニカム骨格が四重に相互貫入した構造を有する高分子金属錯体が知られている(非特許文献10参照)。しかしながら、ガスの吸着挙動やガス吸着に伴う構造変化の有無については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000−109485公報
【特許文献2】特開2001−348361公報
【特許文献3】特開2006−328051公報
【特許文献4】特開2008−208110公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【非特許文献3】A.Pichon、C.M.Fierro、M.Nieuwenh uyzen、S.L.James、CrystEngComm、第9巻、449〜451頁(2007年)
【非特許文献4】L.Pan、H.Liu、X.Lei、X.Huang、D.H. Olson、N.J.Turro、J.Li、Angewandte Chemie International Edition、第42巻、542〜546頁(2003年)
【非特許文献5】L.Pan、H.Liu、S.P.Kelly、X.Huang、 D.H.Olson、J.Li、Chemical Communications、854〜855頁(2003年)
【非特許文献6】K.O.Kongshaug、H.Fjellvag、Journ al of Solid State Chemistry、第175巻、182〜187頁(2003年)
【非特許文献7】Q.Fang、X.Shi、G.Wu、G.Tian、G.Zhu、Y.Li、L.Wang、C.Wang、Y.Chen、Z.Zhang、Z.Guo、T.Shang、X.Cai、S.Qiu、Acta Chimica Sinica、第60巻、2087〜2091頁(2002年)
【非特許文献8】Q.Fang、X.Shi、G.Wu、G.Tian、G.Zhu、R.Wang、S.Qiu、Journal of Solid State Chemistry、第176巻、1〜4頁(2003年)
【非特許文献9】J.Y.Lee、L.Pan、S.P.Kelly、J.Jagi ello、T.J.Emge、J.Li、Advanced Materials、第17巻、2703〜2706頁(2005年)
【非特許文献10】J.Dai、X.Wu、S.Hu、Z.Fu、J.Zhang、 W.Du、H.Zhang、R.Sun、European Journal of Inorganic Chemistry、第2004巻、2096〜2106頁(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、従来よりも有効吸着量が大きい吸蔵材、或いは従来よりも混合ガスの分離性能が優れるガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0021】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I);
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン基またはアルケニレン基を形成してもよい。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、下記一般式(II);
【0024】
【化2】
【0025】
(式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、或いはR14とR15が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる外部刺激により動的構造変化を生じる金属錯体。
(2)ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する(1)に記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子(II)が4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンから選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)該金属イオンが亜鉛イオンである(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
(6)該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である(5)記載の吸蔵材。
(7)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(8)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(7)に記載の分離材。
(9)該分離材が、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(7)に記載の分離材。
(10)ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0027】
本発明の金属錯体は、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な吸着挙動を示し、このとき吸脱着等温線がヒステリシスループを描くので、吸着開始圧と脱着開始圧を制御することにより、有効吸蔵量が大きいのみならず、搬送時や貯蔵時の圧力を低く保つことができる吸蔵材としても使用することができる。吸蔵されるガス種としては、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などが挙げられる。
【0028】
また、本発明の金属錯体は、ガス種によって吸着開始圧が異なるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても使用することができ、特に、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気中の二酸化炭素などの分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子(II)が配位して形成されるジャングルジム骨格の模式図である。
【図2】ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造の模式図である。
【図3】本発明の金属錯体の吸脱着に伴う構造変化の模式図である。
【図4】合成例1で得た金属錯体のメタノール吸着状態での粉末X線回折パターンで ある。
【図5】合成例1で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図6】合成例1で得た金属錯体の熱重量変化である。
【図7】比較合成例1で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例2で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図9】比較合成例3で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図10】比較合成例4で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図11】比較合成例5で得た金属錯体のメタノール吸着状態での粉末X線回折パターンである。
【図12】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図14】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】合成例1で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図16】比較合成例2で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図18】比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図20】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】比較合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図22】比較合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図23】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図24】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図25】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図26】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる。
【0031】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)及び二座配位可能な有機配位子(II)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0032】
本発明に用いられるジカルボン酸化合物(I)は下記一般式(I);
【0033】
【化3】
【0034】
で表される。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であるか、R2とR3、並びに/或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン基またはアルケニレン基を形成してもよい。
【0035】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8を構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としてはメチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0036】
上記アルキレン基の炭素数は、2が好ましい。アルキレン基の炭素数が2の場合、R2とR3、並びに/或いはR6とR7はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(シクロヘキサジエン環)を構成する。ジカルボン酸化合物(I)の例としては、置換基を有していてもよい4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸が挙げられる。
【0037】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、R2とR3、並びに/或いはR6とR7はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン環)を構成する。このようなジカルボン酸化合物(I)の例としては、置換基を有していてもよい2,7−ピレンジカルボン酸が挙げられる。
【0038】
また、該アルキレン基、該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0039】
ジカルボン酸化合物(I)としては、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,7−ピレンジカルボン酸または4,5,9,10−テトラヒドロピレン−2,7−ジカルボン酸を使用することができ、中でも4,4’−ビフェニルジカルボン酸が好ましい。
【0040】
金属錯体の製造に用いる金属の塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩またはカドミウム塩を使用することができ、マグネシウム塩、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩、亜鉛塩またはカドミウム塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属イオンからなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0041】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(II)は下記一般式(II);
【0042】
【化4】
【0043】
で表される。式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、並びに/或いはR14とR15は一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。
【0044】
上記R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16を構成することのできる置換基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0045】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、R10とR11、並びに/或いはR14とR15はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン環)を構成する。このような二座配位可能な有機配位子(II)の例としては、置換基を有していてもよいジアザピレンが挙げられる。
【0046】
該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0047】
二座配位可能な有機配位子(II)としては、例えば、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジンまたはジアザピレンを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。本明細書において、「二座配位可能な有機配位子」とは、非共有電子対で金属イオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子と定義する。
【0048】
金属錯体を製造するときのジカルボン酸化合物(I)と二座配位可能な有機配位子(II)との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):二座配位可能な有機配位子(II)=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0049】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(II)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(II)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0050】
金属錯体を製造するための混合溶液におけるジカルボン酸化合物(I)のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0051】
金属錯体を製造するための混合溶液における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0052】
金属錯体を製造するための混合溶液における二座配位可能な有機配位子(II)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0053】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0054】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0055】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子(II)が配位して形成されるジャングルジム骨格が多重に相互貫入した三次元構造を有し、外部刺激により動的構造変化を生じる。ジャングルジム骨格の模式図を図1に、ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造の模式図を図2に示す。
【0056】
本明細書において、「ジャングルジム骨格」とは、ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなる骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子が配位し、ジカルボン酸化合物(I)と金属イオンとからなる二次元格子状シート間を連結することで形成されるジャングルジム様の三次元構造と定義する。
【0057】
本明細書において、「ジャングルジム骨格が多重に相互貫入した構造」とは、二つのジャングルジム骨格が互いの細孔を埋める形で貫入し合った三次元集積構造と定義する。
【0058】
金属錯体が「ジャングルジム骨格が多重に相互貫入した構造を有する」ことは、例えば単結晶X線構造解析、粉末X線結晶構造解析などにより確認できる。
【0059】
本明細書において、「外部刺激」とは、吸着される物質のような化学的刺激や温度、圧力、電場などの物理的刺激と定義する。
【0060】
本明細書において、「動的構造変化」とは、外部刺激を受ける前後で金属錯体が異なる結晶構造になる現象と定義する。
【0061】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高いガス吸蔵性能及び高いガス分離選択性が発現する。吸脱着に伴う構造変化の模式図を図3に示す。本発明では、一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物と一般式(II)で表される二座配位可能な有機配位子を用いてジャングルジム骨格の動的挙動を制御することで、ある一定圧を超えると急激にガスを吸着する吸着プロファイルを示すだけでなく、吸脱着時のヒステリシスの幅を狭くすることが可能となる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0062】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
本発明の金属錯体は、吸蔵される物質の種類、吸蔵圧力または吸蔵温度により、金属錯体の集積構造が変化すると共に細孔の大きさが変化するので、一定の圧力になると急に吸蔵が始まり、瞬時に最大吸蔵量に達する。吸蔵の開始圧力は、吸蔵される物質の種類または吸蔵温度により異なる。
【0064】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0065】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスを選択的に吸着することができるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、エタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、沸点が423K以下であり、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0067】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0068】
(2)熱重量変化の測定
示差熱−熱重量同時測定装置を用いて、298〜573Kの温度範囲について測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製Thermo plus TG8120
試料容器:株式会社リガク製TG−DTA Thermo plus用アルミパン
測定雰囲気:窒素ガス
窒素ガス流量:100mL/分
昇温速度:5K/分
【0069】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間真空乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0070】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、4,4’−ビフェニルジカルボン酸2.29g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体の単結晶X線構造解析を行った結果、得られた金属錯体はジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造であった。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。続いて、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の金属錯体3.24g(収率89%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に、熱重量分析結果を図6に示す。図6より、金属錯体の細孔内にN,N−ジメチルホルムアミド、エタノール及びメタノールが残っていないことが分かる。また、図4と図5の比較から、メタノールの吸脱着前後で本発明の金属錯体の構造が動的に変化していることが分かる。
【0071】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、4,4’−ビフェニルジカルボン酸2.29g(9.5mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン0.531g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。続いて、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の金属錯体3.20g(収率94%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。
【0072】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、2,6−ナフタレンジカルボン酸2.05g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。続いて、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の金属錯体3.09g(収率91%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0073】
<比較合成例3>
酢酸銅の水溶液100mL(0.04mol/L)に、アセトンに溶解した、濃度0.08mol/Lの4,4’−ビピリジル及び濃度0.32mol/Lの2,5−ジヒドロキシ安息香酸の溶液各200mLを、1時間かけて滴下した。その後、298Kで2時間攪拌した。吸引濾過の後、373K、50Paで8時間真空乾燥し、目的の錯体3.66g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図9に示す。
【0074】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル5.00g(32mmol)をメタノール400mLに溶解させ、343Kまで加熱した。続いて、テトラフルオロホウ酸銅3.79g(16mmol)の水溶液200mLを20分かけて滴下した。その後、343Kで1時間攪拌した。吸引濾過の後、メタノールで3回洗浄し、目的の錯体2.16g(収率23%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図10に示す。
【0075】
<比較合成例5>
窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル2.35g(15mmol)をメタノール250mLに溶解させた。続いて、トリフルオロメタンスルホン酸銅2.72g(7.5mmol)の水溶液250mLを60分かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。吸引濾過の後、メタノールで3回洗浄し、目的の錯体3.17g(収率54%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。
【0076】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図12に示す。
【0077】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図13に示す。
【0078】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図14に示す。
【0079】
図12と図13〜14の比較より、本発明の金属錯体は0.1〜1.0MPaの圧力範囲における二酸化炭素の有効吸蔵量が多く、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、二酸化炭素の吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0080】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図15に示す。
【0081】
<比較例3>
比較合成例2で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図16に示す。
【0082】
図15と図16より、本発明の金属錯体はエチレンの吸蔵量が多く、その吸蔵量を低圧でも維持できるので、エチレンの吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0083】
<実施例3>
合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図17に示す。
【0084】
<比較例4>
比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図18に示す。
【0085】
<比較例5>
比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図19に示す。
【0086】
<比較例6>
比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図20に示す。
【0087】
<比較例7>
比較合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図21に示す。
【0088】
<比較例8>
比較合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図22に示す。
【0089】
図17と図18〜22の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素を選択的に吸着し、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【0090】
<実施例4>
合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図23に示す。
【0091】
<比較例9>
比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図24に示す。
【0092】
図23と図24の比較より、本発明の金属錯体はエタンを選択的に吸着するので、メタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0093】
<実施例5>
合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図25に示す。
【0094】
<比較例10>
比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図26に示す。
【0095】
図25と図26の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素とエタンを吸着する圧力が異なるので、二酸化炭素とエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン基またはアルケニレン基を形成してもよい。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、下記一般式(II);
【化2】
(式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、或いはR14とR15が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる外部刺激により動的構造変化を生じる金属錯体。
【請求項2】
ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該二座配位可能な有機配位子(II)が4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンから選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
該金属イオンが亜鉛イオンである請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
【請求項6】
該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である請求項5に記載の吸蔵材。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項8】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項7に記載の分離材。
【請求項9】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項7に記載の分離材。
【請求項10】
ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン基またはアルケニレン基を形成してもよい。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、下記一般式(II);
【化2】
(式中、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R10とR11、或いはR14とR15が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる外部刺激により動的構造変化を生じる金属錯体。
【請求項2】
ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該二座配位可能な有機配位子(II)が4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンから選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
該金属イオンが亜鉛イオンである請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
【請求項6】
該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である請求項5に記載の吸蔵材。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項8】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項7に記載の分離材。
【請求項9】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、エタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項7に記載の分離材。
【請求項10】
ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図3】
【公開番号】特開2011−195570(P2011−195570A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36584(P2011−36584)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
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