説明

金属防錆用組成物およびこれを用いた金属用防錆材料

【課題】 銀や銅などの金属部品や金属製品を包装し、或いはそれらを空間内に置くことで、金属製品の硫黄含有ガスによる腐食変色を防止することのできる防錆剤を提供すること。
【解決手段】 2個以上の酸基を有するキレート剤の多価金属塩と1価塩との複合塩を有効成分として含み、硫化水素ガスや硫化アンモニウムガスなどの硫黄含有ガスに対して吸収・捕捉能を有し、銀や銅などの金属の部品や製品腐食変色を防止する金属防錆用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀や銅などの金属を含む製品や部品の包装に使用し、或いはそれらの製品や部品が存在する空間内に置くことで、硫化水素や硫化アンモニウムなどの硫黄含有ガスを吸収捕捉し、それら金属製品や金属部品の腐食・変色を防止する金属防錆用組成物、およびこれを用いた金属用防錆材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パソコンや携帯電話などに代表される各種電気・電子材料のプリント基板には、銀や銅などを主体とする導電性の金属が使用されており、これらの金属を含む製品や部品を保管したり輸送したりする際には、雰囲気中に存在する硫化水素や硫化アンモニウムなどの硫黄含有ガスによって腐食したり変色することがある。変色すると商品価値が著しく損なわれ、また腐食されると、接触抵抗の増大などによって断線など致命的な欠陥に発展する恐れがある。
【0003】
そこで従来は、上記の様な腐食や変色の問題を回避するため、厚肉のポリオレフィン系フィルムや高価な多層フィルムで密封包装し、雰囲気中の硫化物などの侵入を阻止することで腐食を防止している。しかし、完全密封包装には多大な手数を要するばかりでなく、包装コストを高め、延いては製品価格を高める原因になる。
【0004】
他方、内容物の腐食や変色、酸化劣化などを防止するための素材は多数提案されており、例えば、合成ゴムラテックスをバインダーとして不織布に活性炭を付着させた吸着性シート(特許文献1)、活性炭と金属または金属化合物とバインダーを板紙に塗布含有させた吸着性シート(特許文献2)、イミダゾリウム−ベタイン化合物やイミダゾール化合物、ベンゾトリアゾール等を銀製品に塗布して腐食・変色を防止する方法(特許文献3〜6)などが知られている。また、腐食防止技術とは異なるが、アンモニア臭などの消臭を目的として、金属イオンを配位させたポリペプチドを消臭剤として使用する方法(特許文献7)も提案されている。
【0005】
ところが特許文献1の吸着シートでは、硫化水素の様な還元性イオウの吸着性能が不十分であり、防錆法として満足し得るものではない。また、特許文献2に防錆成分として例示されている無機酸金属塩や有機酸金属塩は、含水状態で金属のイオン化が充分に進むため、硫化水素ガスや硫化アンモニウムガスに対して優れた吸収性能を発揮する。しかし、これらを含浸もしくは塗布すると、防錆紙が酸性になって劣化するばかりでなく、酸性になった防錆紙に金属製品や金属部品が直接接触すると、却って腐食劣化が加速される。
【0006】
一方、金属の酸化物や水酸化物では、金属のイオン化が充分でないため硫化物に対する吸収・捕捉能が充分でない。
【0007】
更に特許文献3〜6の如く金属表面に防錆成分を塗布する方法では、腐食性ガスに対する遮蔽効果は良好であるとしても、塗膜の密着性が強過ぎて剥離除去が困難であったり、後工程のハンダ付け性などを阻害したりすることもあり、適用分野が限られてくる。また特許文献7に記載されている如く、絹や羊毛などのポリペプチドに金属を配位させてアンモニア臭や硫化水素臭を消す方法は、銀や銅の腐食防止にも応用できると考えられる。ところが実際に応用しようとすると、ポリペプチド繊維がプリント基板の微細部品に付着して電気短絡を生じる恐れがあるため、電気・電子部品の防食には適用し難い。
【特許文献1】特公昭46−210027号公報
【特許文献2】特開昭63−99399号公報
【特許文献3】特公昭60−1314号公報
【特許文献4】特公昭60−29707号公報
【特許文献5】特公昭60−21982号公報
【特許文献6】特公昭60−25504号公報
【特許文献7】特開平2−41163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、前述した様な電気・電子材料のプリント基板などにおける、銀や銅などを含む金属製品や金属部品を含む物品を保管したり輸送したりする際に、硫黄含有ガスによる金属部分の腐食劣化を回避するため、硫化水素や硫化アンモニウムの如き還元性硫黄化合物に対し優れた吸収捕捉能を示して防錆効果を発揮する金属防錆用組成物を提供し、更には、該防錆用組成物を用いた有用な金属用防錆材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明の金属防錆用組成物は、2個以上の酸基を有するキレート剤の多価金属塩と1価塩との複合塩を有効成分として含み、硫黄含有ガスに対して捕捉能を有するところに特徴を有している。
【0010】
本発明の上記防錆用組成物における前記キレート剤の中でも好ましいのは、アミノポリカルボン酸、ホスホン酸、ホスホノカルボン酸であり、より具体的には、アミノポリカルボン酸としては、エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ニトリロ3酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸など;ホスホン酸としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)など;ホスホノカルボン酸としては、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で使用できることは勿論のこと、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0011】
また、前記キレート剤の多価金属塩としては、アルミニウム、バリウム、カルシウム、カドミウム、セリウム、コバルト、銅、鉄、ガリウム、インジウム、イリジウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、鉛、パラジウム、ルビジウム、スカンジウム、セリウム、錫、チタン、バナジウム、イットリウム、亜鉛、ジルコニウムなどが挙げられ、これらも単独で使用できる他、任意の組合せで2種以上の金属を併用してもよい。更に上記キレート剤の1価塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩から選ばれる少なくとも1種が好ましいものとして使用される。
【0012】
そして上記キレート剤の複合塩は1価塩の作用で水に可溶であるが、これを水溶液としたときのpHが5〜9の中性域であるものは、金属製品や部品に直接接触した場合でもそれらに悪影響を与えることが少ないので好ましい。
【0013】
また本発明においては、上記キレート剤の複合塩に加えて、アゾール類、具体的には、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩から選ばれる少なくとも1種を含有せしめたものは、一段と優れた防錆効果を発揮するので好ましい。
【0014】
そして本発明の上記金属防錆用組成物は、硫黄含有ガスによる腐食を受け易い銀や銅を含む金属製品や部品に対して特に優れた防錆能を発揮する。
【0015】
上記金属防錆用組成物は、硫黄含有化合物による金属の腐食防止に様々の形態で利用できるが、防錆材料として実用化する際の好ましい形態は、上記金属防錆用組成物を、繊維基材に塗布、含浸もしくは付着せしめた金属用防錆材料、あるいは、上記金属防錆用組成物を、熱可塑性樹脂に練り込んでシート状、フィルム状など任意の形状に成形した金属用防錆材料としての形態である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属防錆用組成物は、硫化水素や硫化アンモニウムなどの腐食性ガスに対して優れた吸収捕捉能を有しており、銀や銅などを含む金属製品や金属部品を包装する際の素材として使用することで、それら金属製品や部品の腐食劣化を可及的に防止できる。従って、該防錆用組成物を繊維素材に塗布、含浸、もしくは付着せしめた防錆材料、或いは、該防錆用組成物を熱可塑性樹脂に練り込んでシート状、フィルム状などに成形した防錆材料で銀や銅製の製品や部品を包装するか、もしくはそれらの製品や部品が装入された空間に上記防錆材料を共存させれば、電気・電子材料のプリント基板などに汎用されている銀や銅などを含む金属部材や部品を含む物品を保管したり輸送したりする際の、硫黄含有ガスによる腐食劣化の問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金属防錆用組成物は、硫化水素や硫化アンモニウムなどの硫黄含有ガスに対して優れた吸収・捕捉能を有するもので、その最大の特徴は、2個以上の酸基を有するキレート剤の多価金属塩と1価塩との複合塩を含有するところにある。
【0018】
2個以上の酸基を有するキレート剤を使用するのは、このキレート剤を多価金属塩と1価塩との複合塩にするために不可欠の要件であり、好ましくは3個以上の酸基を有するキレート剤を使用するのがよい。この様なキレート剤としては、アミノポリカルボン酸、ホスホン酸、ホスホノカルボン酸が好ましいものとして挙げられ、より好ましい具体例は、アミノポリカルボン酸として、エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ニトリロ3酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸など;ホスホン酸として、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)など;ホスホノカルボン酸として、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で使用し得るほか、必要により、任意の組合せで2種以上を併用できる。
【0019】
またキレート剤の複合塩として、一方に多価金属塩、他方に1価塩を使用するのは、1価塩によって複合塩に水溶性を与えて硫黄含有ガスを効率よく吸収できる様にすると共に、吸収した硫黄分は多価金属によって強固に捕捉するためである。
【0020】
ここで多価金属塩としては、アルミニウム、バリウム、カルシウム、カドミウム、セリウム、コバルト、銅、鉄、ガリウム、インジウム、イリジウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、鉛、パラジウム、ルビジウム、スカンジウム、セリウム、錫、チタン、バナジウム、イットリウム、亜鉛、ジルコニウムなどが例示され、これらの中から選ばれる1種もしくは2種以上を任意に組合せて使用できるが、特に好ましいのはCu,Zn,Mn,Pbなどである。また1価塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が好ましい。
【0021】
上記キレート剤複合塩の組合せの中でも、環境に優しく安全且つ安価で優れた防錆効果を発揮するのは、エチレンジアミン4酢酸の亜鉛・ナトリウム塩(EDTA・Zn・2Na:pH7.0)(EDTA:エチレンジアミン4酢酸の略称)、エチレンジアミン4酢酸の銅・ナトリウム塩(EDTA・Cu・2Na:pH7.0)である。
【0022】
これらのキレート剤複合塩は、1価塩と多価金属塩が錯体化された水溶性の塩であるため、硫化水素や硫化アンモニウムのような還元性硫黄化合物と容易に反応して吸収し、これらを硫化亜鉛や硫化銅などの硫化金属に変えて安定化し無害化する。即ち、1価塩の作用で水に可溶化し、吸湿状態で一部がイオン化することで硫黄含有ガスに対して優れた吸収性を示し、また一旦吸収された硫黄成分は銅や亜鉛などの多価金属と結合して捕捉固定され、遊離して放散されるのを阻止するのである。
【0023】
なお上記キレート剤の複合塩は、吸湿状態でイオン化したときにキレート剤が強アルカリ性もしくは強酸性になると、これが金属製品または部品に直接接したときにこれらを劣化させる恐れがあるので、水溶液とした状態で中性(pHで5〜9、より好ましくはpH7前後)を示すものが好ましい。
【0024】
本発明の防錆用組成物は、上記の様にキレート剤の複合塩を必須成分とするが、これらに加えて、アゾール類、具体的にはベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸などの単体、もしくはそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニア、アミンなどの塩から選ばれる少なくとも1種を併用すると、防錆効果は更に高まる。これは、アゾール類が気化蒸散して金属表面に付着結合し、キレート剤複合塩による還元性硫黄化合物の吸収捕捉(吸着固定)効果とも相まって、一段と優れた防錆効果を発揮するためと考えられる。
【0025】
なお、キレート剤複合塩とアゾール類の配合比率は特に制限されないが、両者の作用を相乗的に発揮させる上で好ましいのは、前者:99.5〜50質量部に対して後者0.5〜50質量部、より好ましくは前者:99〜70質量部に対して後者1〜30質量部の範囲である。
【0026】
こうした本発明の防錆用組成物に対し、例えば非水溶性の酸化亜鉛や酸化銅、水酸化亜鉛や水酸化銅は、水溶性でないため金属のイオン化が充分でなく、硫黄含有ガスに対して満足のいく吸収作用が発揮されないばかりか、吸収速度が遅いため、硫黄含有ガスがこれらの防錆組成物を塗布した防錆紙を透過して金属の腐食劣化を起こす。
【0027】
一方、酸性の水溶性無機酸塩である硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化亜鉛、塩化銅などは、硫化水素や硫化アンモニウムに対して優れた吸収作用は発揮するものの、吸湿状態で液性が酸性となるため、支持材である紙などを劣化させる他、金属を酸化腐食させる原因にもなる。
【0028】
ところで本発明の金属防錆用組成物を実用化する際には、上記組成物を繊維基材に塗布、含浸、付着など任意の手段で付与し、或いは熱可塑性樹脂に練り込んでシート状もしくはフィルム状などに成形した防錆材料として使用するのが便利である。すなわち、それらの防錆材料で金属製品や部品を包装し、或いはそれらが入れられた空間に上記防錆材料を装入しておけば、雰囲気中に存在する硫黄含有ガスを該防錆材料が速やかに吸収して固定するので、金属製品や部品の腐食や変色を可及的に防止できる。
【0029】
上記繊維製品としては、紙、板紙、リンターパルプ、不織布などが挙げられ、これらに、前記防錆用組成物を水、アルコール、グリコールなど任意の溶剤に溶解乃至分散させ、塗布、含浸、バインダー固定など任意の方法で付着させてから乾燥させればよい。
【0030】
キレート剤複合塩の付着量は、紙、板紙、リンターパルプ、不織布など素材の種類や防錆の要求度合い等によっても異なるが、できるだけ高濃度に付与した方がより多くの硫黄含有ガスを吸収捕捉できるので好ましい。例えばエチレンジアミン4酢酸の亜鉛・ナトリウム塩(EDTA・Zn・2Na:pH7.0)や、エチレンジアミン4酢酸の銅・ナトリウム塩(EDTA・Cu・2Na:pH7.0)を含浸させる場合は、市販されている40%の水溶液が安定で使用し易く、該40%水溶液を繊維素材に10g/m含浸させれば、亜鉛金属として0.66g/m、銅金属として0.64g/mが含浸された防錆紙を得ることができる。
【0031】
本発明で使用される好ましい紙素材としては、普通紙、加工紙、段ボール原紙などが挙げられるが、プリント基板の如き精密部品の腐食防止という目的からすると、中性紙が最も好ましい。リンターパルプは、より多くの防錆剤を含浸できるので、空間の硫黄含有ガスを吸収するための素材としては最適である。
【0032】
必要に応じて使用されるバインダーは、腐食性ガスの透過を防ぐバリア効果を与えると共に、包装資材から紙粉や防錆剤粉末が脱落してプリント基板などを汚染するのを防ぐ作用も有しており、水性、油性の如何を問わず使用できる。好ましいバインダーとしては、合成ゴムラテックス、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等の共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
紙素材に含浸させる際には、アニオン活性剤、カチオン活性剤、非イオン活性剤、両性活性剤の如き各種の活性剤を浸透促進剤として使用することも有効である。
【0034】
また、防錆用組成物を熱可塑性樹脂に練り込んでフィルム状やシート状の防錆材料に加工する際に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、アイオノマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、エチレン・ビニルアルコールコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリブタジエン、アクリル系樹脂などが例示され、インフレーション法、Tダイ法などでフィルム状またはシート状などに加工すればよい。この様な素材形態とすれば、樹脂皮膜が硫黄含有ガスに対し透過を防ぐバリア効果を発揮するため、包装材料として一層優れた防錆効果を発揮するので好ましい。
【0035】
防錆用組成物を熱可塑性樹脂に混入させる場合は、エチレンジアミン4酢酸の亜鉛・ナトリウム塩(EDTA・Zn・2Na:pH7.0)や、エチレンジアミン4酢酸の銅・ナトリウム塩(EDTA・Cu・2Na:pH7.0)などを、例えば120℃程度以上で乾燥して無水物とし、これを前述した様な熱可塑性樹脂に練り込んでフィルム状やシート状に熱時加工するか、或いは、結晶をバインダーでフィルムやシートに塗布固着させてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。尚、下記において「%」は、特記しない限り「質量%」を表す。
【0037】
実施例1
EDTA(エチレンジアミン4酢酸)・Cu・2Naの40%水溶液(キレスト社製の商品名「キレストCu−40」、pH7.0,Cu:6.4%)を、坪量60g/mの中性紙(31.0cm×20.4cm=632.4cm)に、No.6バーコーターを用いて塗布し、速やかに重量を測定(1.46g)した後、110℃の循環式熱風乾燥機に装入し40秒乾燥することにより防錆紙を得た。この防錆紙のEDTA・Cu・2Na:40%水溶液としての付着量は23.1g/mであり、金属Cu換算の付着量は1.48g/m、0.0233モル/mであった。
【0038】
実施例2
EDTA・Cu・2Naの40%水溶液(キレスト社製の商品名「キレストCu−40」、pH7.0,Cu:6.4%)を脱イオン水で5倍に希釈した水溶液を、上記実施例1で用いたのと同じ中性紙に同様の方法で1.77g塗布して防錆紙を得た。この防錆紙のEDTA・Cu・2Na:40%水溶液としての付着量は5.60g/mであり、金属Cu換算の付着量は0.36g/m、0.0057モル/mであった。
【0039】
実施例3
EDTA・Cu・2Naの40%水溶液に代えてEDTA・Zn・2Naの40%水溶液(キレスト社製の商品名「キレストZn−40」、pH7.0,Zn:6.6%)を使用した以外は前記実施例1と同様にして防錆紙を作成した。この防錆紙のEDTA・Zn・2Na:40%水溶液としての付着量は23.6g/mであり、金属Zn換算の付着量は1.56g/m、0.0239モル/mであった。
【0040】
実施例4
上記実施例2で用いた水溶液20gに、アニオン活性のアクリル系共重合体(中央理化工業社製の商品名「リカボンドES−1」、不揮発分43.0%、pH7.0)80gを混合した防錆液を使用した以外は、前記実施例1と同様の方法で中性紙に1.49g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のEDTA・Cu・2Na:40%水溶液としての付着量は1.0g/mであり、金属Cuとしての付着量は0.064g/m、0.0010モル/mで、アクリル系樹脂の付着量は0.86g/mであった。
【0041】
実施例5
前記実施例2で用いた水溶液50gと、ベンゾトリアゾール系アミン溶解物(キレスト社製の商品名「キレスライトWZ−7」)50gとを混合した防錆液(pH9.1)を、前記実施例1と同様に中性紙に2.10g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のEDTA・Cu・2Na:40%水溶液としての付着量は3.32g/mであり、金属Cu換算の付着量は0.21g/m、0.0033モル/mで、ベンゾトリアゾールの付着量は3.3g/mであった。
【0042】
実施例6
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)(Mw:206、60%水溶液)の34.4部と、モノイソプロパノールアミン(MIPA)(Mw:75)の15.0部と、Fe(Mw:159.7)の7.7部と、脱イオン水の42.9部を加熱溶解して、HEDPのFe・MIPA塩水溶液(pH7.2,Fe:5.4%)を調製し、この水溶液を、実施例1と同様に中性紙に1.70g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のHEDPのFe・MIPA塩水溶液として付着量は1m当り26.9g/m、金属Feとして1.45g/m、0.0260モル/mであった。
【0043】
実施例7
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)(Mw:270、49%水溶液)の55.6部と、水酸化カリウム(Mw:56.1)の11.3部と、MnO(Mw:86.9)の8.7部と、脱イオン水の24.4部を加熱溶解して、PBTCのMn・2K塩水溶液(pH6.7,Mn:5.5%)を調製し、この水溶液を、実施例1と同様に中性紙に1.57g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のPBTCのMn・2K塩水溶液としての付着量は1m当り24.8g/m、金属Mnとして1.37g/m、0.0249モル/mであった。
【0044】
実施例8
ニトリロ三酢酸(NTA)(Mw:191)の19.1部と、水酸化カリウム(Mw:56.1)の5.6部と、PbO(Mw:239.2)の23.9部と、脱イオン水の51.4部を加熱溶解し、NTAのPb・2K塩水溶液(pH6.5,Pb:20.7%)を調製し、これを実施例1と同様に中性紙に1.48g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のNTAのPb・2K塩水溶液としての付着量は1m当り23.4g/m、金属Pbとして4.85g/m、0.0234モル/mであった。
【0045】
実施例9
EDTA・Cu・2Na・4HOの結晶(キレスト社製の商品名「キレストCu」)を120℃以上で乾燥し無水物とした粉末2部と、粒状低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセン180」)80部、および粉末低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセンNM15PW」)18部を混合し、インフレーション装置を用いて溶融温度135℃で厚さ100μmの防錆フィルムを作成した。このフィルムの金属Cuとして含量は3.2g/kg、0.0504モル/kgであった。
【0046】
実施例10
EDTA・Zn・2Na・3HOの結晶(キレスト社製の商品名「キレストZn」)を120℃以上で乾燥し無水物とした粉末2部と、粒状低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセン180」)80部、および粉末低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセンNM15PW」)18部を混合し、インフレーション装置を用いて溶融温度135℃で厚さ100μmの防錆フィルムを作成した。このフィルムの金属Znとして含量は3.3g/kg、0.0501モル/kgであった。
【0047】
比較例1
酸化銅(CuO)の微粉末7.1%と、三洋化成社製の非イオン活性剤「ナロアクティーN−95」0.9%、および脱イオン水92%からなる懸濁液を、前記実施例1と同様に中性紙に1.64g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のCuOとしての付着量は1.84g/mであり、金属Cuとしての付着量は1.47g/m、0.0232モル/mであった。
【0048】
比較例2
硫酸銅(CuSO)の16%水溶液を、前記実施例1と同様に中性紙に1.41g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のCuSOとしての付着量は3.57g/mであり、金属Cuとしての付着量は1.42g/m、0.0224モル/mであった。
【0049】
比較例3
硫酸亜鉛(ZnSO)の12%水溶液を、前記実施例1と同様に中性紙に2.00g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のZnSOとしての付着量は3.80g/mであり、金属Znとしての付着量は1.54g/m、0.0235モル/mであった。
【0050】
比較例4
酸化亜鉛(ZnO)の微粉末7.1%と、三洋化成社製の非イオン活性剤「ナロアクティーN−95」0.9%、および脱イオン水92%からなる懸濁液を、前記実施例1と同様に1.75g塗布して防錆紙を作成した。この防錆紙のZnOとしての付着量は1.96g/mで、金属Znとしての含有量は1.58g/m、0.0241モル/mであった。
【0051】
比較例5
酸化銅(CuO)の微粉末1部と、粒状低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセン180」)80部、および粉末低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセンNM15PW」)18部を混合し、インフレーション装置を用いて溶融温度135℃で厚さ100μmの防錆フィルムを作成した。このフィルムの金属Cuとして含量は8.0g/kg、0.1258モル/kgであった。
【0052】
比較例6
酸化亜鉛(ZnO)の微粉末1部と、粒状低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセン180」)80部、および粉末低密度ポリエチレン(東ソー社製の商品名「ペトロセンNM15PW」)18部を混合し、インフレーション装置を用いて溶融温度135℃で厚さ100μmの防錆フィルムを作成した。このフィルムの金属Znとして含量は8.0g/kg、0.1229モル/kgであった。
【0053】
[防錆試験]
供試銀板の調製:
幅40mm×長さ60mm×厚さ0.5mmの銀板を、日本磨料工業社製の「ピカール金属磨」を用いて鏡面状に研磨する。これを、メタ珪酸ナトリウム水溶液で脱脂洗浄してから十分に水洗した後、キレスト社製の銀用変色除去剤「キレスクリーンAG」(pH1.0)に30秒間浸漬し、次いで充分に水洗して水はじきのない試験片とした後、メタノールおよびアセトンで洗浄してから乾燥する。
【0054】
[防錆試験法(防錆紙)]
図1に略示する如く、内容積4リットルのガラス製デシケータの内部に試験片吊り下げ枠1を設置し、前記実施例および比較例で得た各防錆紙で密封包装した試験片2と包装されていないブランクの試験片3を同時に吊り下げてデシケータを密封する。そして、上方に取り付けた硫化物装入用ガラス管4から、硫化物溶液6として硫化アンモニウム溶液(試薬、無色)3.0gと脱イオン水12mlをデシケータの下部層まで装入し、該ガラス管4とガラス管5(ガス検知管装入用)を閉じる。
【0055】
そして、デシケータを1分毎に静かに振り動かして内部空間層を撹拌しながら、包装されていないブランクの試験片3の変色状態を肉眼で観察し、ブランクの試験片3が赤褐色から青紫色に変色した時点で、全てを取り出して変色状態を確認し、下記の基準で防食性能の優劣を評価する。
1:変色無し、2:薄く変色、3:黄褐色に変色、4:赤褐色に変色、5:赤褐色から青紫色に変色。
【0056】
結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかな様に、Cu濃度の高い実施例1の防錆紙は、Cu濃度の低い実施例2や、Znを含有させた実施例3、Feを含有させた実施例6、マンガンを含有させた実施例7よりも優れた防錆能を有している。また実施例4は、アクリル系樹脂被膜によって防錆効果が相乗的に発揮されており、実施例5はアゾール類の併用による相乗効果が認められる。Pbを含有させた実施例8は、実施例1と同等の防錆効果を示すが、金属の環境毒性を考慮すると使用は難しい。
【0059】
これらに対し、金属成分のイオン化が弱く水溶性でない比較例1,4は、変色が激しくて防錆効果が殆ど発揮されておらず、また、酸性の水溶性金属塩を用いた比較例2,3の防錆効果も乏しい。
【0060】
[防錆紙ガス吸収試験1(硫化アンモニウム)]
防錆試験に用いた上記と同様のデシケータを使用し、内部枠に前記実施例および比較例で得た防錆紙(10.4cm×7.8cm=81.1cm)を供試紙毎に固定し、内部空間層を撹拌するためにステンレスの試験片を1枚吊り下げて密封する。そして、上方に取り付けたガラス管4から、硫化アンモニウム溶液(試薬、無色)3.0gと脱イオン水12mlをデシケータの下部層まで装入し、該ガラス管4とガラス管5を閉じる。
【0061】
次いで、デシケータを1分毎に静かに振り動かして内部空間を撹拌し、10分後および30分後に、ガラス管5より硫化水素4LL型ガス検知管(ガステック社製の品番「No.4LL」)を挿入して硫化アンモニウム濃度(ppm)を測定し、硫化アンモニウムガスの吸収率(%)[(ブランクのガス濃度−防錆紙のガス濃度)×100/(ブランクのガス濃度)]を算出する。
【0062】
結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から明らかな様に、実施例1,3と比較例2は硫化アンモニウムガスを効率よく吸収固定しており、デシケータ内のガス濃度は低下しているが、比較例1の吸収固定効果は低い。
【0065】
[防錆紙ガス吸収試験2(硫化水素)]
上記防錆試験に用いたのと同様のデシケータを使用し、内部枠に各実施例および比較例の防錆紙(10.4cm×7.8cm=81.1cm)を供試紙毎に固定し、同様にステンレスの試験片を1枚吊り下げて密封する。そして、上方に取り付けたガラス管4から、硫化アンモニウム(試薬、無色)を1%に希釈した水溶液4.0mlと1%硫酸溶液10ml、および脱イオン水10mlを、デシケータの下部層まで装入して硫化水素ガスを発生させ、ガラス管4とガラス管5を閉じる。
【0066】
次いで、デシケータを1分毎に静かに振り動かして内部空間層を撹拌し、10分後および30分後に、ガラス管5より硫化水素4LL型ガス検知管(ガステック社製の品番「No.4LL」)を挿入して硫化水素ガス濃度(ppm)を測定し、硫化水素ガスの吸収率(%)[(ブランクのガス濃度−防錆紙のガス濃度)×100/(ブランクのガス濃度)]を算出する。
【0067】
結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3から明らかな様に、実施例1,3および比較例2は硫化水素ガスを効率よく吸収固定しており、デシケータ内のガス濃度は大幅に低下しているが、比較例1の硫化水素ガス吸収効果は乏しい。
【0070】
[防錆試験法(防錆フィルム)]
前記と同様のデシケータを使用し、内部に設置した吊り下げ枠に、上記実施例および比較例で得た防錆フィルムを用いてヒートシールで密封包装した試験片を吊り下げて密封する。そして、上方に取り付けたガラス管から、硫化アンモニウム溶液(試薬、黄色)10.0gと脱イオン水10mlをデシケータの下部層まで装入した後、ガラス管を密封する。
【0071】
次いで、デシケータを静かに振り動かし内部空間層を撹拌し、24時間後に防錆試験片を取り出して変色状態を肉眼観察し、下記の基準で防錆性能を評価する。
1:変色無し、2:薄く変色、3:黄褐色に変色、4:赤褐色に変色、5:赤褐色から青紫色に変色。
【0072】
結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4から明らかな様に、高濃度の硫化アンモニウムを使用した場合でも、ポリエチレンフィルムによる密閉効果によって防錆紙よりも優れた防錆効果が得られ、防錆紙に比べて変色の程度は減少している。しかし実施例9,10は、比較例5,6より明らかに優れた防錆能を示している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実験で使用した腐食試験装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0076】
1 吊り下げ枠
2 試験片
3 ブランク試験片
4 硫化物装入用ガラス管
5 ガス検知管挿入用ガラス管
6 硫化物溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上の酸基を有するキレート剤の多価金属塩と1価塩との複合塩を有効成分として含み、硫黄含有ガスに対して捕捉能を有することを特徴とする金属防錆用組成物。
【請求項2】
前記キレート剤が、アミノポリカルボン酸、ホスホン酸、ホスホノカルボン酸よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の金属防錆用組成物。
【請求項3】
前記アミノポリカルボン酸が、エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ニトリロ3酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸;ホスホン酸が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸);ホスホノカルボン酸が、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の金属防錆用組成物。
【請求項4】
前記キレート剤の多価金属塩が、アルミニウム、バリウム、カルシウム、カドミウム、セリウム、コバルト、銅、鉄、ガリウム、インジウム、イリジウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、鉛、パラジウム、ルビジウム、スカンジウム、セリウム、錫、チタン、バナジウム、イットリウム、亜鉛、ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の金属防錆用組成物。
【請求項5】
前記キレート剤の1価塩が、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の金属防錆用組成物。
【請求項6】
前記キレート剤の複合塩は、水溶液としたときのpHが5〜9である請求項1〜5のいずれかに記載の金属防錆用組成物。
【請求項7】
前記キレート剤の複合塩と共に、アゾール類から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の金属防錆用組成物。
【請求項8】
前記アゾール類が、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩から選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載の金属防錆用組成物。
【請求項9】
銀および/または銅を含む金属材の防錆に使用されるものである、請求項1〜8のいずれかに記載の金属防錆用組成物。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれかに記載された金属防錆用組成物が、繊維基材に塗布、含浸もしくは付着されていることを特徴とする金属用防錆材料。
【請求項11】
前記請求項1〜9のいずれかに記載された金属防錆用組成物が、熱可塑性樹脂に練り込まれて成形されたものであることを特徴とする金属用防錆材料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−23372(P2007−23372A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211661(P2005−211661)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】