説明

金属黒鉛質ブラシ

【課題】整流子の摺動面が傷つくことによる金属黒鉛質ブラシの摩耗や、原材料の取り扱い性の低下を抑制しつつ、低コストで作製することができる金属黒鉛質ブラシの提供を目的としている。
【解決手段】加圧成形により層状を成すように構成され、且つ加圧面5と垂直な面を整流子の摺動面とする構造の金属黒鉛質ブラシ4であって、鱗片状黒鉛1と鍍銅鱗片状黒鉛3とが含まれており、且つ、金属黒鉛質ブラシの総量に対する上記鍍銅鱗片状黒鉛3の割合が20wt%以上に規制されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCモータに用いられる金属黒鉛質ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属黒鉛質ブラシは,電気比抵抗が低いという特長を生かして,おもにブラシによる出力損失を低く抑える用途のモータに使用されてきている。当該金属黒鉛質ブラシの一例としては、黒鉛粉に電解銅粉を混合し、これを加圧成形したものが知られている。しかし、当該金属黒鉛質ブラシでは、電解銅粉の硬度が高いということに起因して、金属黒鉛質ブラシと当接する整流子の摺動面が傷つき易くなり、その結果、ブラシの摺動面も傷つきやすくなって摩耗量が増加するという課題を有していた。
【0003】
そこで、以下に示すような提案がなされている。
(1)黒鉛粉末の粉末粒子を金属層で覆った鍍銅黒鉛粉を、加圧成型、焼成することにより作製した金属黒鉛質ブラシ(下記特許文献1参照)。
(2)表面が金属めっきされた第1黒鉛粉と、該第1黒鉛紛の10〜50倍の粒径をもつ第2黒鉛粉とを混合圧縮成形した後、焼成することにより作製した金属黒鉛質ブラシ(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−285951号公報
【特許文献2】特開2001−119903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(1)(2)に示す提案では、以下に示すような課題を有していた。
(1)の課題
黒鉛粉末の粉末粒子を金属層で覆った鍍銅黒鉛粉は、煩雑な製造工程を経るため高価であるということから、金属黒鉛質ブラシの製造コストが高くなるという課題を有していた。
【0006】
(2)の課題
第1黒鉛粉の10〜50倍の粒径をもつ第2黒鉛粉として、大きな粒径の黒鉛粉末を用いた場合には、整流子との摺動により黒鉛粉が離脱し易くなるため、整流子との間にアークが発生し、ブラシ摩耗量が大きくなる。一方、第2黒鉛粉として小さな粒径の用いた場合には、第1黒鉛粉は元々小さな粒径であるにもかかわらず、更に小さな粒径となるため、第1黒鉛粉の取扱いが困難になるという課題を有していた。
【0007】
そこで本発明は、整流子の摺動面が傷つくことによる金属黒鉛質ブラシの摩耗や、原材料の取り扱い性の低下を抑制しつつ、低コストで作製することができる金属黒鉛質ブラシの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、加圧成形により混在する各々の原料が層状を成すように構成され、且つ加圧面と垂直な面を整流子との摺動面とする構造の金属黒鉛質ブラシであって、鱗片状黒鉛と鍍銅鱗片状黒鉛とが含まれており、且つ、金属黒鉛質ブラシの総量に対する上記鍍銅鱗片状黒鉛の割合が20wt%以上に規制されることを特徴とする。
【0009】
上記構成であれば、鱗片状黒鉛及び鍍銅鱗片状黒鉛は結晶性が良く柔らかいため、金属黒鉛質ブラシと接する整流子の摺動面において、面荒れが生じるのを抑制できる。加えて、整流子の摺動面が荒れ難いので、金属黒鉛質ブラシが摩耗するのを抑制できる。
また、金属黒鉛質ブラシの表面は柔らかく硬度が低いので、整流子に対する座乗性に優れる(即ち、整流子と金属黒鉛質ブラシとが離間し難くなる)。したがって、整流子と金属黒鉛質ブラシとの離間に起因するアーク(火花)を抑制できるので、金属黒鉛質ブラシが摩耗するのを一層抑止できる。
【0010】
更に、フィラーとしては、鱗片状黒鉛と、この鱗片状黒鉛に銅めっきを施した鍍銅鱗片状黒鉛(即ち、基本構造は鱗片状黒鉛と同じ)とを使用するので、金属黒鉛質ブラシの黒鉛含有率の低下を防止でき、この結果、金属黒鉛質ブラシの摺動性と耐摩耗性とを向上することができる。
【0011】
加えて、鱗片状黒鉛と鍍銅鱗片状黒鉛とを使用するので、加圧成形したときに、原料が緻密且つ層状に形成され易くなる。したがって、上記構成の如く、加圧面と垂直な面を整流子との摺動面としていれば、電流の流れる方向が鱗片状黒鉛の長手方向となるので、金属黒鉛質ブラシにおける導電性が向上する。尚、成形時の加圧面を摺動面とすると、電流の流れる方向が鱗片状黒鉛の短手(厚み)方向となるので、ブラシの抵抗が大きくなって、金属黒鉛質ブラシ温度の上昇を招く。以上のことから、加圧面と垂直な面を整流子との摺動面とする必要がある。また、加圧面が摺動方向に水平になることが好ましい。
【0012】
また、金属黒鉛質ブラシは整流子と摺動すると、ブラシに含まれる銅の表面が酸化されて、摺動面で電圧降下が生じる。しかし、上記の如く、鱗片状黒鉛と鍍銅鱗片状黒鉛とが層状に形成されている(即ち、金属黒鉛質ブラシが複数の層で形成されている)と、仮に一の層の摺動面で酸化銅膜が形成された場合であっても、酸化銅膜が形成されていない他の層の摺動面が存在するため、摺動面での電圧降下を抑制できる。
更に、鍍銅鱗片状黒鉛は、整流子の摺動面に対して垂直方向に延設されるので、整流子と鍍銅鱗片状黒鉛の銅めっき部分との接触面積は小さくなる。このため、摺動面における銅による傷、面荒れが小さくなって、摺動面での異常摩耗や火花発生を抑制できる。
【0013】
加えて、金属黒鉛質ブラシの材料として、鱗片状の鍍銅黒鉛を用いた場合には粒状の鍍銅黒鉛を用いた場合に比べて、効率が良いブラシとすることができる。これは、金属黒鉛質ブラシの材料である鍍銅黒鉛においては、主に粒子の表面を電流が流れることとなるので、同じ粒径のものを用いた場合には、鱗片状の鍍銅黒鉛を用いた場合の方が粒状の鍍銅黒鉛を用いた場合より、摺動面−リード線への電流が流れる経路が短くなるからである。
【0014】
ここで、金属黒鉛質ブラシの総量に対する上記鍍銅鱗片状黒鉛の割合が30wt%以下に規制されることが望ましい。
鍍銅鱗片状黒鉛は上述した利点を有しているが、鱗片状黒鉛に比べてコストが高くなる。したがって、上述した作用効果を発揮しつつ金属黒鉛質ブラシの製造コストを低減するには、鍍銅鱗片状黒鉛の割合を上記のように規制するのが好ましい。
【0015】
また、電解銅粉が含まれており、且つ、上記鍍銅鱗片状黒鉛に対する上記電解銅粉の割合が50wt%以下に規制されることが望ましい。
本発明は鱗片状黒鉛及び鍍銅鱗片状黒鉛のみならず電解銅粉を含んでいても良いが、鍍銅鱗片状黒鉛に対する電解銅粉の割合が50wt%を超えると、電解銅粉が整流子の摺動面を荒らすことで、摺動中に火花が多数発生するため、ブラシ摩耗量が増加するという問題がある。したがって、鍍銅鱗片状黒鉛に対する上記電解銅粉の割合が50wt%以下に規制されることが望ましい。
【0016】
また、上記目的を達成するために本発明は、鱗片状黒鉛とバインダーと添加剤とを混練した造粒物を粉砕して粉砕物を作製するステップと、上記粉砕物と鍍銅鱗片状黒鉛との総量に対する鍍銅鱗片状黒鉛の割合が20wt%以上となるように、粉砕物に鍍銅鱗片状黒鉛を添加して混合物を作製するステップと、上記混合物を加圧成形した後、焼成を行うステップと、を有することを特徴とする。
上記混合物を作製するステップにおいて、上記粉砕物と上記鍍銅鱗片状黒鉛との総量に対する鍍銅鱗片状黒鉛の割合が30wt%以下となるように規制されることが望ましい。
上記混合物を作製するステップにおいて、上記鍍銅鱗片状黒鉛の他に、鍍銅鱗片状黒鉛に対する割合が50wt%以下となるように電解銅粉を添加することが望ましい。
上記方法であれば、上述した金属黒鉛質ブラシを作製することができる。
【0017】
また、焼成を行うステップにおいて、焼成温度が600〜800℃に規制されることが望ましい。
焼成温度が600〜800℃であれば、当該温度は銅の溶融温度よりも低いため、黒鉛粉表面の銅は溶融せず、上述した効果を維持できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、整流子の摺動面が傷つき荒れることによる金属黒鉛質ブラシの摩耗や、原材料の取り扱い性の低下を抑制しつつ、金属黒鉛質ブラシを低コストで作製することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の金属黒鉛質ブラシの製造方法及び使用状態を示す図であって、同図(a)は粉砕物の状態を示す説明図、同図(b)は混合物を圧縮成形している状態を示す説明図、同図(c)は本発明の金属黒鉛質ブラシを示す説明図、同図(d)は本発明の金属黒鉛質ブラシの使用状態を示す説明図である。
【図2】金属黒鉛質ブラシの使用状態を示す図であって、同図(a)は本発明ブラシA1、A2及び比較ブラシZ1〜Z7の使用状態を示す説明図、同図(b)は比較ブラシZ8の使用状態を示す説明図である。
【図3】本発明ブラシA1、A2及び比較ブラシZ1〜Z6における、実働時間とブラシ摩耗量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属黒鉛質ブラシを、以下のようにして作製した。
まず、鱗片状黒鉛(みかけ密度0.4Mg/m、平均粒径50μm、灰分0.5%以下)58wt%に、バインダーであるエタノールに溶解されたフェノール樹脂10wt%と、添加材としての二硫化モリブデン2wt%とを加えた後、これらを常温で混練して造粒物を作製した。次に、この造粒物を平均粒径60メッシュ以下となるように粉砕して、図1(a)に示すような粉砕物1を作製した。次いで、図1(b)に示すように、この粉砕物1に、電解銅粉2(みかけ密度1.00Mg/m、平均粒径20μm)を10wt%と、鍍銅鱗片状黒鉛3(みかけ密度0.50Mg/m、平均粒径70μm)を20wt%とを混合した後、2ton/cmの圧力で、7×11×15mmの寸法に型押し成形し、更に約800℃で12時間焼成することにより、図1(c)に示すような金属黒鉛質ブラシを4作製した。尚、図1(c)における5は加圧面であり、また、図1(d)は、上記金属黒鉛質ブラシの使用状態を示すものであって、6は回転体である。
【0021】
ここで、上記鱗片状黒鉛のみかけ密度、平均粒径、及び添加割合は上記の数値に限定するものではないが、みかけ密度は0.3〜0.5Mg/m、平均粒径は20〜80μm、添加割合は40〜60wt%であることが望ましい。
また、上記バインダーの添加割合は上述した数値に限定するものではないが、5〜20wt%であることが望ましい。
【0022】
更に、上記粉砕物の粒径は上述した値に限定するものではないが、粒径が60〜80μmであることが望ましい。
加えて、上記鍍銅鱗片状黒鉛のみかけ密度、及び平均粒径は上記の数値に限定するものではないが、みかけ密度は0.35〜0.60Mg/m、平均粒径は60〜80μmでることが望ましい。尚、鍍銅鱗片状黒鉛とは、鱗片状黒鉛に銅メッキ処理を施したものをいう。
【0023】
また、上記添加剤の添加割合は上述した数値に限定するものではないが、0.1〜10wt%であることが望ましく、また、添加剤の種類としては上記のものに限定するものではなく、W、WC、Mo、及びこれらの硫化物のいずれか1種類以上であっても良い。
更に、上記電解銅粉のみかけ密度、及び平均粒径は上記の数値に限定するものではないが、みかけ密度は0.70〜1.50Mg/m、平均粒径は10〜40μmでることが望ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、金属黒鉛質ブラシは下記実施例の内容によって制限されるものではない。
〔実施例1〕
上記発明を実施するための形態で示した金属黒鉛質ブラシを用いた。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、本発明ブラシA1と称する。
尚、本発明ブラシA1では、加圧面と垂直な面を整流子との摺動面としている〔図2(a)参照、尚、図2(a)及び図2(b)における7は整流子である〕。そしてこのことは、下記実施例2及び比較例1〜7でも同様である(即ち、比較例8のみ異なる)。
【0025】
〔実施例2〕
粉砕物に混合する物質として、電解銅粉と鍍銅鱗片状黒鉛との混合物の代わりに、鍍銅鱗片状黒鉛(混合割合:30wt%)のみを用いた他は、上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、本発明ブラシA2と称する。
【0026】
〔比較例1〕
粉砕物に混合する物質として、電解銅粉と鍍銅鱗片状黒鉛との混合物の代わりに、電解銅粉(混合割合:30wt%)のみを用いた他は、上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ1と称する。
【0027】
〔比較例2〕
粉砕物に混合する物質としての電解銅粉と鍍銅鱗片状黒鉛との混合割合を、それぞれ29wt%、1wt%とした他は、上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ2と称する。
【0028】
〔比較例3〕
粉砕物に混合する物質としての電解銅粉と鍍銅鱗片状黒鉛との混合割合を、それぞれ27wt%、3wt%とした他は、上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ3と称する。
【0029】
〔比較例4〕
粉砕物に混合する物質としての電解銅粉と鍍銅鱗片状黒鉛との混合割合を、それぞれ25wt%、5wt%とした他は、上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ4と称する。
【0030】
〔比較例5〕
粉砕物に混合する物質としての電解銅粉と鍍銅鱗片状黒鉛との混合割合を、それぞれ20wt%、10wt%とした他は、上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ5と称する。
【0031】
〔比較例6〕
先ず、粒状黒鉛粉58wt%と、フェノール樹脂10wt%と、二硫化モリブデン2wt%とを常温で混練した造粒物を、粒径60メッシュ以下となるように粉砕した。次に、この粉砕物に電解銅粉30wt%を添加した後、2ton/cmの圧力で7×11×15mmの寸法に型押し成形し、更に約800℃で12時間焼成することにより、金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ6と称する。
【0032】
〔比較例7〕
先ず、鱗片状黒鉛84wt%と、フェノール樹脂14wt%と、二硫化モリブデン2wt%とを常温で混練した造粒物を、粒径60メッシュ以下となるように粉砕した。次に、電解銅粉を添加することなく2ton/cmの圧力で7×11×15mmの寸法に型押し成形し、更に約800℃で12時間焼成することにより、金属黒鉛質ブラシを作製した。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ7と称する。
【0033】
〔比較例8〕
上記実施例1と同様にして金属黒鉛質ブラシを作製した。但し、加圧面を整流子との摺動面とした〔図2(b)参照〕。
このような金属黒鉛質ブラシを、以下、比較ブラシZ8と称する。
【0034】
〔実験〕
上記本発明ブラシA1、A2及び比較ブラシZ1〜Z8について、DC18V電動工具モータによる運転によって、各ブラシの摩耗試験を行ったので、その結果を図3及び表1に示す。尚、実験条件を以下に示す。また、各ブラシにつき、比重、硬度、抵抗率、曲げ強度、及び、電流値についても調べたので、それらの結果を表1に併せて示す。
【0035】
(実験条件)
・ブラシの押圧力:1000gf/cm
・安定化電源電圧:DC19.2V

・負荷電流:27A
・無負荷から一定時間負荷をかけた後、再度無負荷にするというサイクルで行った。

【0036】
【表1】

【0037】
表1及び図3から明らかなように、本発明ブラシA1、A2は比較ブラシZ1〜Z8に比べて、ブラシ摩耗量が少なくなっていることが認められる。したがって、加圧面と垂直な面を整流子との摺動面とすると共に、ブラシには鱗片状黒鉛と鍍銅鱗片状黒鉛とが含まれ、且つ、ブラシの総量に対する鍍銅鱗片状黒鉛の割合を20wt%以上に規制することが望ましいことがわかる。
【0038】
ここで、バインダー及び添加剤の他に、鱗片状黒鉛と鍍銅鱗片状黒鉛とを原料(即ち、原料に電解銅粉は含まない)として成形した本発明ブラシA2は、これら原料の他に電解銅粉を含む本発明ブラシA1及び比較ブラシZ1〜Z5と比べて、ブラシ強度が若干低下していることが認められる。したがって、ブラシ強度の低下が摺動時の耐摩耗性に影響を及ぼす可能性がある場合は、ブラシの強度を高めるために電解銅粉を少量含有させることが好ましい。ただし、電解銅粉を多く添加しすぎると、整流子への座乗性が悪くなって、整流子の表面を荒らし易くなるため、ブラシの摩耗量が多くなる。したがって、鍍銅鱗片状黒鉛に対する電解銅粉の割合を50wt%以下に規制することが望ましい。
【0039】
また、本発明ブラシA1、A2を作製する際の焼成温度は600〜800℃のため、電解銅粉は溶融せずに粒子形状を維持することができる。したがって、鱗片状黒鉛や鍍銅鱗片状黒鉛と電解銅粉との絡みが良くなるので、ブラシの高強度化に貢献でき、しかも、摺動時にブラシから粒子が離脱するのを低減できるので、耐摩耗性が向上する。尚、電解銅粉が溶融する温度で焼成すると、フィラーとの絡みが悪くなって強度向上に貢献できないばかりか、溶融した銅があったところにポア(孔)ができる恐れがあるため、銅の均一分散性も低下する恐れがあるので好ましくない。
【0040】
尚、加圧面を摺動面とする比較ブラシZ8では、初期摺動中にブラシにクラックが発生してブラシが欠損したので、測定を中止した。したがって、比較ブラシZ8は図1に記載していない。また、比較ブラシZ8の如く加圧面を摺動面とした場合には、層間を流れる電流の抵抗が高くなるため、摺動時にブラシ温度が上昇してブラシ中の銅が酸化し易くなる。つまり、整流子との接触抵抗が高くなって、電圧降下が起こりやすい等の原因により、所望の電流特性が得ることができないという課題もある。
【0041】
また、バインダー及び添加材の他に鱗片状黒鉛しか含まない比較ブラシZ7は、ブラシの形状を維持できず、摺動試験を行わなかったので、図1に記載していない。加えて、比較ブラシZ7では、所望の電流特性を得ることができないこともわかった。
【0042】
更に、バインダー及び添加材の他に鍍銅球状(粒状)黒鉛と電解銅粉を含む比較ブラシZ6はブラシ摩耗量が多かったため、約100時間で磨耗量測定試験を中止した。これは、電解銅粉が整流子の摺動面を荒らすためにブラシ摩耗量が増加すること、及び、摺動中に火花の発生が多く見られたため摩耗量が更に多くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明はDCモータ等に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1:粉砕物
2:電解銅粉
3:鍍銅鱗片状黒鉛
4:金属黒鉛質ブラシ
5:加圧面
6:回転体
7:整流子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧成形により混在する各々の原料が層状を成すように構成され、且つ加圧面と垂直な面を整流子との摺動面とする構造の金属黒鉛質ブラシであって、
鱗片状黒鉛と鍍銅鱗片状黒鉛とが含まれており、且つ、金属黒鉛質ブラシの総量に対する上記鍍銅鱗片状黒鉛の割合が20wt%以上に規制されることを特徴とする金属黒鉛質ブラシ。
【請求項2】
金属黒鉛質ブラシの総量に対する上記鍍銅鱗片状黒鉛の割合が30wt%以下に規制される、請求項1記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項3】
電解銅粉が含まれており、且つ、上記鍍銅鱗片状黒鉛に対する上記電解銅粉の割合が50wt%以下に規制される、請求項1又は2記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項4】
鱗片状黒鉛とバインダーと添加剤とを混練した造粒物を粉砕して粉砕物を作製するステップと、
上記粉砕物と鍍銅鱗片状黒鉛との総量に対する鍍銅鱗片状黒鉛の割合が20wt%以上となるように、粉砕物に鍍銅鱗片状黒鉛を添加して混合物を作製するステップと、
上記混合物を加圧成形した後、焼成を行うステップと、
を有することを特徴とする金属黒鉛質ブラシの製造方法。
【請求項5】
上記混合物を作製するステップにおいて、上記粉砕物と上記鍍銅鱗片状黒鉛との総量に対する鍍銅鱗片状黒鉛の割合が30wt%以下となるように規制される、請求項4記載の金属黒鉛質ブラシの製造方法。
【請求項6】
上記混合物を作製するステップにおいて、上記鍍銅鱗片状黒鉛の他に、鍍銅鱗片状黒鉛に対する割合が50wt%以下となるように電解銅粉を添加する、請求項4又は5記載の金属黒鉛質ブラシの製造方法。
【請求項7】
上記焼成を行うステップにおいて、焼成温度が600〜800℃に規制される、請求項4〜6の何れか1項に記載の金属黒鉛質ブラシの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−193621(P2010−193621A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35360(P2009−35360)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】