説明

金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法

【課題】CNTを金属母材中に均一に分散させて含有させ得る金属/CNT複合焼結体の製造方法、及びこれにより得られる金属/CNT複合焼結体を提供すること。
【解決手段】金属粉末を用いて金属スラリーを作成する工程(1)と、CNTを用いてCNTサスペンションを作成する工程(2)と、工程(1)で得られた金属スラリーと工程(2)で得られたCNTサスペンションとを用いて金属/CNT混合スラリーを作成する工程(3)と、工程(3)で得られた金属/CNT混合スラリーを用いて金属/CNT混合グリーン成形体を作成する工程(4)と、工程(4)で得られた金属/CNT混合グリーン成形体を焼成して金属/CNT複合焼結体を得る工程(5)と、を含む。
金属粉末に由来する金属母材中に、CNTが分散している金属/CNT複合焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法に係り、更に詳細には、スラリー混合法を利用して、金属母材中にカーボンナノチューブを均一に分散させて含有させ得る金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法、及びこれにより得られ、軽量高強度材料や放熱材料などとして利用可能な金属/カーボンナノチューブ複合焼結体に関する。特に、金属としてニッケルやアルミニウムを適用した金属/カーボンナノチューブ複合焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブを均一に分散させた複合材料の製造方法としては、カーボンナノチューブと高分子素材とを高分子素材の溶媒中で混合してカーボンナノチューブが均一に分散した溶液を準備し、この溶液を急冷してゲル状物を形成し、このゲル状物から脱溶媒して生乾きのゲルフィルムを形成してから乾燥するかあるいは乾燥ゲルフィルムを形成して高分子素材中にカーボンナノチューブが均一に分散している複合材料からなるフィルムを提供する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−143276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、カーボンナノチューブを高分子素材に分散させた複合材料の製造方法は知られているものの、カーボンナノチューブを金属母材中に均一に分散させて含有させ得る金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法については開発がなされておらず、カーボンナノチューブの低密度、高強度、高熱伝導率又は高弾性率などの優れた特性を活かした金属/カーボンナノチューブ複合焼結体は得られていない。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カーボンナノチューブを金属母材中に均一に分散させて含有させ得る金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法、及びこれにより得られる金属/カーボンナノチューブ複合焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、スラリー混合法を利用することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法は、金属粉末を用いて金属スラリーを作成する工程(1)と、カーボンナノチューブを用いてカーボンナノチューブサスペンションを作成する工程(2)と、該工程(1)で得られた金属スラリーと該工程(2)で得られたカーボンナノチューブサスペンションとを用いて金属/カーボンナノチューブ混合スラリーを作成する工程(3)と、該工程(3)で得られた金属/カーボンナノチューブ混合スラリーを用いて金属/カーボンナノチューブ混合グリーン成形体を作成する工程(4)と、該工程(4)で得られた金属/カーボンナノチューブ混合グリーン成形体を焼成して金属/カーボンナノチューブ複合焼結体を得る工程(5)と、を含む。
【0007】
また、本発明の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体は、上記本発明の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法により作製され、金属粉末に由来する金属母材中に、カーボンナノチューブが分散しているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スラリー混合法を利用することなどとしたため、金属母材中にカーボンナノチューブを均一に分散させて含有させ得る金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法、及びこれにより得られた金属/カーボンナノチューブ複合焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の金属/カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記する。)複合焼結体の製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り、質量百分率を表わすものとする。
【0010】
上述の如く、本発明の金属/CNT複合焼結体の製造方法は、下記の工程(1)〜(5)を含む。
(1)金属粉末を用いて金属スラリーを作成する工程
(2)CNTを用いてCNTサスペンションを作成する工程
(3)(1)工程で得られた金属スラリーと(2)工程で得られたCNTサスペンションとを用いて、金属/CNT混合スラリーを作成する工程
(4)(3)工程で得られた金属/CNT混合スラリーを用いて成形を行い、金属/CNT混合グリーン成形体を作成する工程
(5)(4)工程で得られた金属/CNT混合グリーン成形体を焼成して金属/CNT複合焼結体を得る工程
【0011】
このような工程を経ること、特に金属スラリーとCNTサスペンションとを別工程で作成して、しかる後、双方を混合することにより、金属母材中にCNTが均一に分散している金属/CNT複合焼結体を得ることができる。
また、金属スラリーとCNTサスペンションの双方を予め厳密に調製することができ、生産性に優れるという利点もある。
【0012】
まず、本発明の製造方法において用いる原料粉末について説明する。
原料金属粉末の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.1〜50μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。
平均粒径が0.1μm未満の場合には、原材料コスト増となり、アルミニウムなど酸化しやすい金属の場合ハンドリングが困難となる可能性があり好ましくない。また、平均粒径が50μmを超えると、粒同士のすき間にCNTが凝集するため、CNTの分散性が悪化する傾向があり好ましくない。
【0013】
また、使用するCNTについても特に限定されるものではないが、CNTの全部又は一部が、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造を有し、軸直交断面が多角形状であることが好ましい。
図1(A)及び(B)は、CNTの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
同図(A)に示すような筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層し、軸直交断面が多角形状のものを用いることで、CNT自体の曲げ剛性を向上させ、これにより金属/CNT焼結体の強度をより向上させることができる。
【0014】
更に、CNTの外径が15〜100nmのものを用いることが好ましい。外径が15nm未満であると、上記したように多角形状とならず、一方、CNTの物性上外径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、CNTの軸方向への長さも長くなり、高い熱伝導性が得られるため、100nmを超える外径を有することは、高い熱導電性を付与するために配されるCNTとして適当でないためである。
【0015】
また、CNTの外径が軸方向に沿って変化するものであることが好ましい。
同図(B)に示すような、CNTの外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、金属中において当該CNTに一種のアンカー効果が生ずるものと思われ、金属中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなるためである。
【0016】
なお、これらのCNTの製法としては、例えば遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解することにより生成する方法を採用することができる。
より具体的には、触媒の遷移金属若しくは遷移金属化合物と、硫黄若しくは硫黄化合物と、原料炭化水素とを雰囲気ガスとともに300℃以上に加熱してガス化して生成炉に導入し、800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱する。
しかしながら、触媒金属を含んでおり、純度が低く、また結晶性も低い。
そこで、800〜900℃の範囲の温度に保持された熱処理炉にて未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除き、かつその後に2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理することによってCNTの多層構造の形成を改善するとともにCNTに含まれる触媒金属を蒸発させることが好ましい。
【0017】
原料となる有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。また、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の希ガス類などが使用できる。更に、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの触媒金属、又はフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と、硫黄又はチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物との混合物を使用する。
【0018】
次に、本発明の製造方法において、各工程の手順について説明する。
まず、金属粉末を用いて金属スラリーを作成する工程(1)について説明する。
上記(1)工程においては、金属粉末と金属粉末用分散剤と金属粉末用分散媒とを混合すればよいが、例えば金属粉末用分散媒に金属粉末用分散剤を添加し、次いで、金属粉末を添加し、しかる後、混合することが望ましい。
このように金属スラリーを作成することによって、金属粉末をより分散させることができ、金属粉末とCNTとがより均一に混合された金属/CNT混合スラリーを得ることが可能となる。
そして、このような金属/CNT混合スラリーを用いることにより、金属母材中にCNTが均一に分散している金属/CNT複合焼結体を得ることができる。
【0019】
また、(1)工程において、混合する際には撹拌混合だけでなく、超音波処理を行うことが望ましい。これにより、スラリー中に生じ得る凝集物が破壊され、より均一に混合することができる。
なお、(1)工程においては、混合しながら添加してもよく、上述した超音波処理を行いながら添加してもよい。
【0020】
更にまた、結合剤を添加する場合には、金属粉末と結合剤を順次添加してもよいが、金属粉末と共に添加することが望ましい。つまり、金属粉末用分散媒に金属粉末用分散剤を添加し、次いで、金属粉末と結合剤を添加し、しかる後、混合することが望ましい。
ここで、本発明の製造方法において、「金属粉末と共に結合剤を添加する」とは、ほぼ同時に別々に添加する場合や予め双方を混合して添加する場合などを意味する。
【0021】
上述のように金属スラリーを作成することによって、金属粉末と結合剤についてはより近接した状態で分散させることができる。したがって、金属母材中にCNTが均一に分散している金属/CNT複合焼結体を得ることができるだけでなく、金属粉末同士が焼結し易くなり、より緻密な金属/CNT複合焼結体を得ることができる。
【0022】
ここで、上記金属粉末用分散媒としては、例えば水系のものや非水系のものを用いることができ、特に各種分散剤や結合剤を溶媒和することができるものであることが望ましい。
【0023】
上記水系のものとしては、代表的には純水や合金元素を含有する水などを挙げることができる。
得られる金属/CNT複合焼結体に含まれる成分を厳密に制御できる。
なお、「純水」とは、(1)蒸留水を超える電気抵抗値を示す水、(2)イオンを完全に除去した水、を意味する。
【0024】
また、上記非水系のものとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコールに代表される有機溶媒を挙げることができる。
【0025】
更に、上記(1)工程において、金属粉末としてニッケル(Ni)粉末を用い、金属粉末用分散剤としてポリアクリル酸アンモニウムを用いる場合には、ポリアクリル酸アンモニウムの添加量をNi粉末100重量部に対して1〜5重量部とすることが好ましく、2〜4重量部とすることがより好ましい。
【0026】
次に、CNTを用いてCNTサスペンションを作成する工程(2)について説明する。
上記(2)工程においては、CNTとCNT用分散剤とCNT用分散媒とを混合すればよいが、例えばCNT用分散媒にCNT用分散剤を添加し、次いで、CNTを添加し、しかる後、混合することが望ましい。
このようにCNTサスペンションを作成することによって、CNTをより分散させることができ、金属粉末とCNTとがより均一に混合された金属/CNT混合スラリーを得ることが可能となる。このような金属/CNT混合スラリーを用いることにより、金属母材中にCNTが均一に分散している金属/CNT複合焼結体を得ることができる。
【0027】
また、(2)工程においても、混合する際には撹拌混合だけでなく、超音波処理を行うことが望ましい。これにより、サスペンション中に生じ得る凝集物が破壊され、より均一に混合することができる。
なお、(2)工程においても(1)工程と同様に、混合しながら添加してもよく、上述した超音波処理を行いながら添加してもよい。
【0028】
ここで、上記CNT用分散媒としては、上述したような金属スラリーを作成する際に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0029】
次に、(1)工程で得られた金属スラリーと(2)工程で得られたCNTサスペンションとを用いて、金属/CNT混合スラリーを作成する工程(3)について説明する。
上記(1)工程や(2)工程と同様に、(3)工程においても、混合する際には撹拌混合だけでなく、超音波処理を行うことが望ましい。
これにより、サスペンション中に生じ得る凝集物が破壊され、より均一に混合することができる。
なお、(3)工程においても(1)工程や(2)工程と同様に、混合しながら上述した超音波処理を行ってもよい。
【0030】
次に、上記(3)工程と上記(4)工程の間に任意に付加することができる混合スラリーを濃縮する工程(3´)について説明する。
混合スラリーを濃縮する工程(3´)を経ることにより、スリップキャストに適した濃度の金属/CNT混合スラリーを得ることができる。
【0031】
ここで、スリップキャストに適した金属/CNT混合スラリーの濃度は、特に限定されるものではないが、金属粉末としてNi粉末を用いた場合、金属/CNT混合スラリー全量における金属粉末とCNTとの合計粉末濃度を20〜40%とすることが好ましい。
また、金属粉末がニッケルの場合には20〜40%が好適であり、金属粉末がアルミニウムの場合には、20〜40%が好適である。
【0032】
次に、(3)工程で得られた金属/CNT混合スラリーを用いて成形を行い、金属/CNT混合グリーン体を作成する工程(4)について説明する。
ここで、本発明においては、(3)工程で得られた金属/CNT混合スラリーには、上記(3´)工程を経て得られた金属/CNT混合スラリーをも含む。
【0033】
上記(4)工程においては、金属/CNT混合グリーン成形体を作成することができれば、型に鋳込み、乾燥・圧縮する手順について特に限定されるものではないが、型に鋳込み、乾燥後に圧縮することにより、得られる金属/CNT混合グリーン成形体の割れや亀裂、変形の発生をより抑制することができる。
なお、用いる型は完成品の形状であっても、完成品を切削加工によって得るための未完成品ないし半完成品の形状であってもよい。また、型の材質も特に限定されるものではない。
【0034】
次に、上記(4)工程と上記(5)工程の間に任意に付加することができる上記グリーン成形体を脱脂処理する工程(4´)について説明する。
グリーン成形体を脱脂処理する工程(4´)を経ることにより、焼成工程に供する金属/CNT混合グリーン成形体の割れなどをより抑制することができる。
かかる脱脂処理は、金属/CNT混合グリーン成形体の酸化を防止するように行うことが好ましく、金属/CNT混合グリーン成形体に割れなどが生じないように昇温速度を適度に設定して行うことが好ましく、用いた分散剤や結合剤が完全に分解するまで加熱して行うことが好ましい。
【0035】
具体的には、金属/CNT混合グリーン成形体を、例えばアルゴン−水素(Ar−H)雰囲気中、500〜700℃で24〜48時間保持して脱脂処理することが好ましい。
また、上記処理雰囲気において、H濃度は特に限定されるものではないが、4vol%未満であることが好ましい。
【0036】
次に、(4)工程で得られた金属/CNT混合グリーン成形体を焼成して金属/CNT複合焼結体を得る工程(5)について説明する。
ここで、本発明においては、(4)工程で得られた金属/CNT混合グリーン成形体には、上記(4´)工程を経て得られた金属/CNT混合グリーン成形体をも含む。
【0037】
上記(5)工程においては、真空中で焼成することによって、金属/CNT複合焼結体を得ることができる。
かかる焼成条件については、特に限定されるものではないが、例えば、真空中、1100〜1300℃の温度条件下で30分間〜2時間保持して焼成することが好ましい。
【0038】
また、上記(5)工程においては、アルゴン中又は真空中で、加圧焼結することによっても金属/CNT複合焼結体を得ることができる。
かかる焼成条件については、特に限定されるものではないが、例えば、アルゴン中又は真空中で、800〜1200℃の温度条件下、50〜200MPaの加圧条件下で30分間〜2時間保持して焼成することが好ましい。
このように、加圧焼結することにより、特に加圧しない場合に対して、焼成温度を低くすることができる。
更に、金属/CNT複合焼結体をより緻密化することができ、相対密度を高くすることができる。
【0039】
更にまた、焼成する際には、上記温度や圧力に達するまで段階的に又は連続的に上昇させてもよく、アルゴン中又は真空中での圧力条件を適宜変えてもよい。
一方で、焼成後は割れなどが生じないように徐々に冷却することが望ましく、例えば冷却速度を15℃/min以下とすることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の金属/CNT複合焼結体について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の金属/CNT複合焼結体は、上記本発明の金属/CNT複合焼結体の製造方法により作製され、金属粉末に由来する金属母材中に、CNTが分散しているものである。
なお、金属/CNT複合焼結体中に含まれるCNTには、原料のときから変化しないCNTだけでなく、作製工程中において、変化したものも含まれる。
かかる製造方法により得られた金属/CNT複合焼結体は、金属母材中にCNTが分散しているので、機械的強度や熱伝導性などに優れる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の金属/CNT複合焼結体の製造方法を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図2は、実施例1のNi/CNT複合焼結体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0043】
同図に示すように、CNTサスペンションの作成のために、原料粉末として外径20〜50nmの多層CNT、分散剤としてドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製、192−08672)、溶媒として純水を用意した。
純水100重量部に対して、2重量部のドデシル硫酸ナトリウムと0.5重量部の多層CNTを順次添加し、次いで、超音波処理及び撹拌混合を同時に実施して、CNTサスペンションを得た。
なお、上記超音波処理は0.5秒毎にon/offが切り替わるように設定し、出力7Wで1時間行い、撹拌混合は回転数200rpmとした。また、以下に記載の超音波処理及び撹拌混合も同条件で行った。
【0044】
一方で、Niスラリーの作成のために、原料粉末として平均粒径1μmのNi微粉末(高純度化学研究所社製、NIE01PA)、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム(東亜合成社製、A6114)、結合剤としてポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、163−03045)、溶媒として純水を用意した。
純水100重量部に対して、0.02重量部のポリアクリル酸アンモニウムを添加し、次いで、62重量部のNi微粉末及び4重量部のポリビニルアルコールを添加し、しかる後、超音波処理及び撹拌混合を同時に実施して、Niスラリーを得た。
【0045】
上記CNTサスペンションと上記Niスラリーを混合し、超音波処理及び撹拌混合し、次いで、80℃まで加熱し、合計粉末濃度40%まで濃縮して、Ni/CNT混合スラリーを作成した。
【0046】
上記Ni/CNT混合スラリーを多孔質アルミナ型に鋳込み、室温20℃で24時間放置乾燥し、次いで、80℃に加熱したオーブン中で48時間乾燥させ、しかる後200MPaで圧縮して、Ni/CNT混合グリーン成形体を得た。
【0047】
上記Ni/CNT混合グリーン成形体をAr−3vol%H雰囲気中に配し、昇温速度1℃/minで600℃まで昇温し、600℃で30時間保持することによって、脱脂処理を行った。
【0048】
上記脱脂処理後のNi/CNT混合グリーン成形体を800℃にて、パイレックス(登録商標)ガラス管中に真空(2×10−4Torr≒0.0266Pa)封入し、1000℃まで昇温し、1000℃で、200MPaの圧力を付加しながら、1時間保持して焼成した。
その後、冷却速度15℃/minで冷却することにより、本例の金属/CNT複合焼結体を得た。
得られたNi/CNT複合焼結体において、CNT含有量は5vol%であり、相対密度は97.6%であった。
【0049】
図3に、上記本発明の製造方法を用いて作製したNi/CNT複合焼結体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を参考のために示す。同図においてCNTを矢印で示した。
同図に示すように、Ni母材中にCNTが分散していることが分かる。従って、本発明の金属/CNT複合焼結体の製造方法の有効性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の金属/CNT複合焼結体の製造方法は、上述したニッケルやアルミニウムに限定されず、例えば鉄系合金、マグネシウム合金又はチタン合金などの金属に適用可能である。
【0051】
鉄系合金、マグネシウム合金又はチタン合金などの金属に適用した場合には、引張強度などの性能に優れた高強度材料としての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】CNTのTEM写真である。
【図2】実施例1のNi/CNT複合焼結体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の金属/CNT複合焼結体の製造方法を用いて作製したNi/CNT複合焼結体のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を用いて金属スラリーを作成する工程(1)と、
カーボンナノチューブを用いてカーボンナノチューブサスペンションを作成する工程(2)と、
上記工程(1)で得られた金属スラリーと上記工程(2)で得られたカーボンナノチューブサスペンションとを用いて、金属/カーボンナノチューブ混合スラリーを作成する工程(3)と、
上記工程(3)で得られた金属/カーボンナノチューブ混合スラリーを用いて金属/カーボンナノチューブ混合グリーン成形体を作成する工程(4)と、
上記工程(4)で得られた金属/カーボンナノチューブ混合グリーン成形体を焼成して金属/カーボンナノチューブ複合焼結体を得る工程(5)と、を含むことを特徴とする金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項2】
上記金属粉末の平均粒径が、0.1〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項3】
上記金属粉末の平均粒径が、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項4】
上記金属粉末が、ニッケル及び/又はアルミニウム粉末を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項5】
上記カーボンナノチューブの全部又は一部が、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造を有し、軸直交断面が多角形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項6】
上記カーボンナノチューブの外径が、15〜100nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項7】
上記カーボンナノチューブの外径が、軸方向に沿って変化することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項8】
上記(1)工程において、上記金属粉末と金属粉末用分散剤と金属粉末用分散媒とを混合して上記金属スラリーを得、
この際、上記金属粉末用分散媒に上記金属粉末用分散剤を添加し、次いで、上記金属粉末を添加して混合することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項9】
上記(1)工程において、上記金属粉末の添加後、更に結合剤を添加して混合することを特徴とする請求項8に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項10】
上記金属粉末用分散媒が純水又はエタノールであり、上記金属粉末用分散剤がポリアクリル酸アンモニウムであることを特徴とする請求項8又は9に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項11】
上記(1)工程において、上記金属粉末がニッケル粉末であり、かつ上記金属粉末用分散剤であるポリアクリル酸アンモニウムの添加量をニッケル粉末100重量部に対して1〜5重量部とすることを特徴とする請求項10に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項12】
上記結合剤が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項13】
上記(2)工程において、上記カーボンナノチューブとカーボンナノチューブ用分散剤とカーボンナノチューブ用分散媒とを混合して上記カーボンナノチューブサスペンションを得、
この際、上記カーボンナノチューブ用分散媒に上記カーボンナノチューブ用分散剤を添加し、次いで、上記カーボンナノチューブを添加して混合することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項14】
上記カーボンナノチューブ用分散媒が純水であり、上記カーボンナノチューブ用分散剤がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項13に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項15】
上記(1)工程〜(3)工程から成る群より選ばれた少なくとも1つの工程において超音波処理を行うことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項16】
上記(3)工程と上記(4)工程の間に、上記金属/カーボンナノチューブ混合スラリーを濃縮する工程(3´)を付加することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項17】
上記(3´)工程において、金属粉末がニッケル粉末であり、ニッケル/カーボンナノチューブ混合スラリー全量におけるニッケル粉末とカーボンナノチューブとの合計粉末濃度を20〜40%とすることを特徴とする請求項16に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項18】
上記(3´)工程において、金属粉末がアルミニウム粉末であり、アルミニウム/カーボンナノチューブ混合スラリー全量におけるアルミニウム粉末とカーボンナノチューブとの合計粉末濃度を20〜40%とすることを特徴とする請求項16に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項19】
上記(3´)工程において、超音波処理を行うことを特徴とする請求項16〜18のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項20】
上記(4)工程において、型に鋳込み、乾燥・圧縮することを特徴とする請求項1〜19のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項21】
上記(4)工程と上記(5)工程の間に、脱脂処理する工程(4´)を付加することを特徴とする請求項1〜20のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項22】
上記(4´)工程において、アルゴン−水素雰囲気中、500〜700℃で24〜48時間保持して脱脂処理を行うことを特徴とする請求項21に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項23】
上記(5)工程において、真空中、1100〜1300℃の温度条件下で30分間〜2時間保持して焼成することを特徴とする請求項1〜22のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項24】
上記(5)工程において、アルゴン中又は真空中、800〜1200℃の温度条件下、50〜200MPaの加圧条件下で30分間〜2時間保持して焼成することを特徴とする請求項1〜22のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか1つの項に記載の金属/カーボンナノチューブ複合焼結体の製造方法により作製された金属/カーボンナノチューブ複合焼結体であって、
上記金属粉末に由来する金属母材中に、カーボンナノチューブが分散していることを特徴とする金属/カーボンナノチューブ複合焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−265686(P2006−265686A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88697(P2005−88697)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月28日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要」に発表
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【出願人】(591061057)
【Fターム(参考)】