説明

金色セラミック焼結体およびこれを用いた装飾部材

【課題】 黄金色の色調を有し、高級感,美的満足感および精神的安らぎが得られるとともに、色調の差が少ない金色セラミック焼結体およびこれを用いた装飾部材を提供することを目的とする。
【解決手段】 窒化チタンを主成分とし、ニッケルまたはコバルトのいずれか、およびクロム,ニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、該金色セラミック焼結体表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有している金色セラミック焼
結体とすることにより、装飾面となる金色セラミック焼結体表面の凹部における光の拡散反射が適度になるので、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美しい黄金色の色調を醸し出す金色セラミックスに関するものであり、特に装飾部材として、時計用装飾部品,携帯端末機用装飾部品,装身具用装飾部品,補聴器およびイヤホンなどの身体装着部品,人工歯冠材,生活用品用装飾部品,建材用装飾部品,娯楽用装飾部品,楽器用装飾部品,音響機器用装飾部品,自動車用装飾部品,家電用装飾部品および宗教用工芸品に好適に用いられる金色セラミック焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金色を呈する装飾部品には、色調や耐食性の面から金やその合金、または各種金属にメッキを施したものが用いられている。
【0003】
しかしながら、金やその合金、あるいはメッキを施した金属材料は、いずれも硬度が低いことから、硬質物質との接触により、表面に傷が生じたり変形したりするという問題があった。最近では、このような問題を解決するために、種々の金色を呈する装飾部品用セラミックスが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、窒化チタンを主成分とし、ニッケルを副成分とするとともに、窒化バナジウム,窒化ニオブ,窒化タンタル,炭化モリブデン,炭化ニオブ,炭化タングステンおよび炭化タンタルのうち少なくともいずれか1種を添加成分として含む装飾部品用セラミックスであって、少なくとも装飾面の算術平均粗さRaが0.03μm以下であるとともに、前記装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が72〜84であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4〜9,28〜36である装飾部品用セラミックスが開示されている。
【0005】
そして、これによれば、装飾面における光の反射率は高くなるとともに光沢のある色調感が増し、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を得ることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−284779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている装飾部品用セラミックスは、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与えることができる黄金色を呈するというものではあるが、このような装飾部品用セラミックスを並べて用いると黄金色の色調の差によって異なって見えるという課題が残されていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、黄金色の色調を有し、高級感,美的満足感および精神的安らぎが得られるとともに、色調の差が少ない金色セラミック焼結体およびこれを用いた装飾部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、ニッケル,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹
部を130個以上3050個以下有していることを特徴とするものである。
【0010】
または、本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、コバルト,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の金色セラミック焼結体は、上記構成において、凹部の最大径が、6.0μ
m以上60μm以下であるとを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の金色セラミック焼結体は、上記いずれかの構成において、表面におけるJIS B 0601(2001)に記載の最大断面高さRtが0.05μm以上1.4μm以下である
とを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の装飾部材は、上記いずれかの構成の金色セラミック焼結体からなることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の時計用装飾部品は、上記構成の装飾部材からなることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の携帯端末機用装飾部品は、上記構成の装飾部材からなることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の身体装着用部品は、上記構成の装飾部材からなることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の歯冠材は、上記構成の金色セラミック焼結体からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、ニッケル,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体としたことから、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与えることができる黄金色を呈することができる。さらに、この表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることから、装飾面となる
金色セラミック焼結体表面の凹部における光の拡散反射が適度になるので、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる。
【0019】
本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、コバルト,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体としたことから、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与えることができる黄金色を呈することができる。さらに、こ表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2
μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることから、装飾面となる金色セラミック焼結体表面の凹部における光の拡散反射が適度になるので、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる。
【0020】
また、本発明の金色セラミック焼結体は、凹部の最大径が、6.0μm以上60μm以下で
あることから、個々の凹部でそれぞれ拡散反射する光の量が均一になるので、色調のばら
つきを少なくすることができる。
【0021】
さらに、本発明の金色セラミック焼結体は、表面における、JIS B 0601(2001)に記載の最大断面高さRtが0.05μm以上1.4μm以下になると、凹部の深さによる凹部
個々の拡散反射の光の量のばらつきが減少するので均一な色調を得ることができる。
【0022】
また、本発明の装飾部材は、本発明の金色セラミック焼結体からなることから、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる。
【0023】
また、本発明の時計用装飾部品によれば、本発明の装飾部材からなるときには、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる時計を提供することができる。
【0024】
また、本発明の携帯端末機用装飾部品によれば、本発明の装飾部材からなるときには、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる携帯電話を提供することができる。
【0025】
また、本発明の身体装着用部品によれば、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができるイヤホンユニットを提供することができる。
【0026】
また、本発明の金色セラミック焼結体によれば、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる歯冠材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示す、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側からみた斜視図である。
【図2】本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの他の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の携帯電話機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図である。
【図5】図4に示す例の携帯電話機の筐体が開いた状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の身体装着用部品を用いたイヤホンユニットの一例を示す正面図である。
【図7】本発明の歯冠材の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の金色セラミック焼結体の実施の形態の例について説明する。
【0029】
本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、ニッケル,クロム,ニオブおよび炭素を含む金色セラミック焼結体からなるものである。
【0030】
本発明において、金色セラミック焼結体とは、窒化チタン(TiN)を主成分とする焼結体であり、ここでいう主成分とは、金色セラミック焼結体を構成する全成分100質量%
に対して、50質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾品として良好な黄金色を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特徴を有していることから、本発明の金色セラミック焼結体においては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
【0031】
また、ニッケルは、展性に富み、主成分である窒化チタンの結晶を結合する結合剤として作用し、ニオブは、色調調整剤として作用するものであって、金属ニオブ以外に組成式が例えばNbNi,NbCで示されるニオブ化合物として存在するものも含む。そして、クロムは空気中の酸素と結合し装飾面に緻密な酸化被膜を生成して耐食性を向上させることができ、炭素は靱性や硬度等の機械的特性を向上させることができる。
【0032】
そして、本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、ニッケル、クロム、およびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、この金色セラミック焼結体表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることが重要で
ある。
【0033】
本発明の金色セラミック焼結体に炭素が0.4質量%以上0.9質量%以下含まれることにより、炭素は窒化チタンに拡散して固溶体を形成して焼結を促進するため、靱性や硬度等の機械的特性を高くすることができる。また、炭素はクロマティクネス指数a*および以下の式(A)で規定される色調感の差である色差(△E*ab)に影響を与える。炭素をこの含有量で含むことによって、炭素の呈する黒色により無彩色化の傾向が僅かに現れて色調のばらつきが抑制されるため、色調が均一な好ましい黄金色とすることができる。
【0034】
△E*ab=((△L*)+(△a*)+(△b*)))1/2・・・(A)
炭素の含有量が0.4質量%未満では、靱性や硬度等の機械的特性を十分高くすることが
できず、炭素の呈する黒色による無彩色化の傾向がほとんど表れずに、色差(△E*ab)は大きくなるとともに色調のばらつきを抑制する効果は減少する。一方、炭素の含有量が0.9質量%を超えると、靱性や硬度等の機械的特性が高くなるものの、色調は赤みを帯
びてしまい、需要者の求める高級感,美的満足感および精神的安らぎ等の装飾的価値を与える黄金色とならない。
【0035】
ここで、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
【0036】
なお、ここでいう金色セラミックスとは、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が72〜80の範囲であるとともに,クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4〜7,25〜30の範囲となり24金に近いものとなる。
【0037】
さらに、本発明の金色セラミック焼結体は、この表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることが重要
である。
【0038】
一般的に、物体に当たった光はその物体の表面が鏡面であれば鏡面反射するが、荒れた
面、例えばざらついた面であると拡散反射しやすい。本発明の金色セラミック焼結体表面が完全に鏡面であれば光は鏡面反射して、金色セラミック焼結体の表面が鏡面になったときにもともと有する黄金色の色調が人の視覚に認識されるが、金色セラミック焼結体表面にはセラミックスを構成する成分の結晶粒子が脱落して生じる凹部やセラミックスを焼結するときに残存する開孔したボイドによる凹部などが存在する。これらの凹部は金色セラミック焼結体表面を鏡面研磨しても研磨されずに残ることになる。これらの凹部の表面は人の視覚には鏡面に比べてやや白色を帯びるので、この凹部によって拡散反射した光と鏡面反射した光とによって金色セラミック焼結体の色調が決まることになる。したがって、凹部が大きくて多くなれば、拡散反射が多くなるので金色セラミック焼結体表面はより白色が強くなり、小さく少なくなれば白色が少なくなって赤色の色調が生じる傾向となる。
【0039】
つまり、本発明の金色セラミック焼結体は金色セラミック焼結体表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有して
いることによって、より24金に近い色調とすることができる。
【0040】
金色セラミック焼結体の凹部の平均径を1.2μm以上7.6μm以下とするのは、この範囲であると拡散反射が起こりやすくなるので、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるとともに、装飾品として用いるときに凹部が視覚で捉えにくい大きさなので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができるからである。凹部の平均径が1.2μm未満であると、拡散反射が少なくなって鏡面反射
の赤い色調が強くなるので24金とは違った色調となる。また、7.6μmを超えると、白い
色が強くなりすぎて24金の色調と違った色調となり、酷い場合には凹部が目立つようになって白い斑点として現れ、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることが少なくなる。
【0041】
そして、本発明は凹部の平均径が1.2μm以上7.6μm以下のものが、金色セラミック焼結体表面の1.0×0.8cm角の面積において、130個以上3050個以下であることが好ましく
、この範囲であると、より24金に近い色調を出すことができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる金色セラミック焼結体を得ることができる。この凹部の個数が130個未満であると拡散反射の効果が少なくなって24金に近い色調を出すこ
とが難しくなり、3050個を超えると鏡面反射が少なくなって拡散反射が増加し、白い色が強くなって24金と違った色調となり、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることが少なくなる。
【0042】
また、本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とし、ニッケル,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む前述の金色セラミック焼結体のニッケルをコバルトに置き換えたものも重要である。
【0043】
ニッケルをコバルトに置き換えると、窒化チタンを主成分とし、ニッケル、クロム、およびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、この金色セラミック焼結体表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有している前述の金色セラミッ
ク焼結体と同様の効果が得られる。また、コバルトは耐食性が高いことに加えて、近年ヨーロッパなどの諸外国では金属アレルギー対策として特にニッケルの溶出が少ない材料が要望されていることから、その動向にも対応することができる。
【0044】
また、本発明の金色セラミック焼結体は、凹部の最大径が、6.0μm以上60μm以下で
あることが好ましい。
【0045】
金色セラミック焼結体の凹部の最大径が6.0μm以上60μm以下とすることによって、
個々の凹部でそれぞれ拡散反射する光の量が均一になるので、むらやばらつきの少ない色調とすることができる。凹部の最大径が6.0μm未満であると、凹部の平均径も小さくな
り、拡散反射によって赤色の色調を補正する白い色の効果が薄れる傾向となり、凹部の最大径が60μmを超えると逆に、白い色が目立つようになるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得る効果が減少してくる。
【0046】
なお、凹部の平均径,個数および最大径は、金属顕微鏡にデジタルカメラを取り付け、任意の場所を選び、倍率を200倍程度で撮影して画像を、画像解析ソフト(A像くん:旭
化成エンジニアリング(株)製)で解析することで求めることができる。
【0047】
また、凹部の平均径および個数を測定するときの基準である1.0×0.8cm角の面積については、この大きさで測定できないときには、さらに小さい面積で測定してもよく、得られた平均径や個数は面積に比例させて求めてもよい。
【0048】
また、本発明の金色セラミック焼結体は、表面におけるJIS B 0601(2001)に記載の最大断面高さRtが0.05μm以上1.4μm以下であることが好ましい。
【0049】
この最大断面高さRtが0.05μm以上1.4μm以下であれば、凹部の深さによる凹部個
々の拡散反射の光の量のばらつきが減少するので均一な色調を得ることができる。なお、最大断面高さRtが0.05μm未満では拡散反射の光の量が減少して赤い色が目立つ、一方、1.4μmを超えると拡散反射の光の量が増加して白い色が目立つようになるので、高級
感,美的満足感および精神的安らぎを得る効果が減少してくる。
【0050】
なお、算術平均粗さRtはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、一般的な触針式の表面粗さ
計を用いて測定することができる。例えば、金色セラミック焼結体表面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmと
し、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、触針を動かし焼結体の表面を5箇所測定し
その5箇所の平均をRtの値とすればよい。
【0051】
また、本発明の金色セラミック焼結体を装飾部材に用いると、より24金に近い色調とすることができるとともに、色調の差を少なくすることができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができるので好ましい。
【0052】
そして、本発明の金色セラミック焼結体からなる装飾部材を用いた時計用装飾部品は、本発明の装飾部材からなることが好ましく、その例としては、時計用ケースや時計用バンド駒がある。
【0053】
本発明の装飾部材は、色調のばらつきが小さいため、時計用ケースや時計用バンド駒に用いると、個々の部品を組み付けたとき部品間の色調バラツキによって美観を損ねることがなく、色調に統一感を有しており、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。さらに、本発明の時計用装飾部品は、セラミックスの結合相の主成分がコバルト,クロムおよびニオブである場合には、ニッケルに対するアレルギーが生じにくく、耐食性も高いため長期間身につけて使用しても製品が変色して高級感が低下することはない。
【0054】
図1は本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示しており、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。また、図2は本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。また、図3は本発明の時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示
す模式図である。なお、これらの図において同じ部位を示す場合は同じ符号を付してある。
【0055】
図1に示す時計用ケース10Aは、図示しないムーブメント(駆動機構)を収容する凹部11と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えており、凹部11は厚みの薄い底部13と厚みの厚い胴部14とからなる。また、図2に示す時計用ケース10Bは、図示しないムーブメント(駆動機構)が入る穴部15と、胴部14に形成された腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えている。
【0056】
そして、図3に示す時計用バンド50を構成するバンド駒は、ピン40が挿入される貫通孔21を有する中駒20と、中駒20を挟むようにして配置され、ピン40の両端が差し込まれるピン穴31を有する外駒30とから構成されており、中駒20の貫通孔21にピン40が挿入され、挿入されたピン40の両端が外駒30のピン穴31に差し込まれることにより、中駒20と外駒30とが順次連結されて時計用バンド50が構成されている。
【0057】
これら、時計用ケース10A,10Bおよび時計用バンド50を構成するバンド駒として用いられる本発明の時計用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるものであることから、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。
【0058】
なお、本発明の装飾部材における装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、全ての面を指すものではない。例えば、本発明の装飾部材を時計用ケースに用いる場合では、この時計用ケースの外側の面は、鑑賞の対象となるものでもあり装飾的価値が要求されるので装飾面である。
【0059】
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
【0060】
また、チタン,ニッケル,コバルト,クロムおよびニオブの含有量は、蛍光X線分析(XRF)法を用いて測定することができる。具体的には、予め窒化チタン,ニッケル,コバルト,クロムおよびニオブの各元素の濃度の異なる混合粉末を少なくとも2種類以上用意して、それぞれプレス法により成形して標準試料とする。次に、これら各標準試料にX線を照射して、蛍光X線の強度と既知の濃度との関係から最小二乗法を用いて検量線を作成する。そして、本発明の装飾部品用セラミックスを粉砕して粉末とし、プレス法により成形して測定試料とする。この測定試料にX線を照射して、蛍光X線の強度を測定し、検量線より濃度である含有率を求める。また、窒素については酸素・窒素分析装置で測定することができ、炭素は炭素分析装置で測定することができる。
【0061】
また、本発明の携帯電話機用装飾部品は、本発明の装飾部材からなることが好適であり、その例としては、携帯電話機の筐体,操作キー等がある。
【0062】
本発明の装飾部材は、色調のばらつきが小さいため、携帯電話機の筐体や操作キーなどに用いると、個々の部品を組み付けたとき部品間の色調のばらつきによって美観を損ねることがなく、色調に統一感を有しており、携帯電話機としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。さらに、本発明の携帯電話機用装飾部品は、セラミックスの結合相の主成分がコバルト,クロムおよびニオブ
である場合には、ニッケルに対するアレルギーが生じにくく、耐食性も高いため長期間使用しても製品が変色して高級感が低下することはない。
【0063】
図4は、本発明の携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図であり、図5は、図4に示す例の携帯電話機の筐体が開いた状態を示す斜視図である。
【0064】
本発明の携帯端末機用装飾部品は、本発明の装飾部材からなることが好ましく、その例としては、図4,5に示す例の押下する各種操作キー,ケース等がある。
【0065】
図4に示す例の携帯電話機60は、携帯電話機60のモードを、ラジオを聴くモードであるラジオモードや音楽を聴くモードである音楽モードなどに変更するモードキー61aと、携帯電話機60をマナーモードにするマナーキー61bとを第1の筐体62に備え、指などの接触を検知してこの接触により入力が行なわれるタッチセンサ63と、被写体を撮像するカメラ64と、ライト65と、タッチセンサ63等の入力の有効または無効を設定するスライドスイッチ66とを第2の筐体67に備えている。
【0066】
次に、図5に示す例の携帯電話機60は、図4に示す例の携帯電話機60の第2の筐体67が開いた状態を示すものであり、第1の筐体62と第2の筐体67とは、ヒンジ68を介して連結されており、これにより第2の筐体67は、自在に開閉することができる。また、第2の筐体67は、フロントケース69aとリアケース69bとを有しており、フロントケース69aには液晶表示ユニット70が設けられている。
【0067】
また、第1の筐体62もフロントケース71aとリアケース71bとを有しており、フロントケース71aには各種操作キーが設けられている。この操作キーには、電話番号等を入力するテンキー72a,各種機能のメニューについてカーソルを移動するカーソル移動キー72b,着信時に押下操作することによって通話を開始する通話キー72c,電源のオンオフおよび通話中に押下操作することによって通話を終了する電源/終話キー72d,カーソル移動キー72bの中心に配置されたセンターキー72fの左右に配置されたファンクションキー73L,73R等がある。
【0068】
上記したケースであるフロントケース69aや71a,リアケース69bや71b,操作キーであるテンキー72a,カーソル移動キー72b,通話キー72c,電源/終話キー72d,センターキー72f,ファンクションキー73LやR等の少なくともいずれか1種を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え、このような色調を呈する携帯電話を所有することによる満足感を感じさせることができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスは、他の色調との相性がよいことから、様々な色調の部材と組み合わせて用いることもできるので、需要者の嗜好の多様化に応えることができる。
【0069】
なお、携帯端末機の一例として携帯電話機を用いて説明したが、本発明の携帯端末機が用いられる携帯端末機は携帯電話機に限定されるものではなく、携帯情報端末(PDA),携帯型のカーナビゲーションやオーディオプレーヤー等の携帯型の端末機であって、部品に装飾性が求められるものであれば、様々な携帯端末機が該当する。
【0070】
図6は、本発明の身体装着用装飾部品を用いたイヤホンユニットの一例を示す正面図である。
【0071】
図6に示すイヤホンユニット80は、聴取者の耳殻内に挿入されて音波を発するスピーカ81と、このスピーカ81を収容するケース82と、このケース82に当接するコード導出部83を介してスピーカ81に電気信号を供給するコード84と、を備えている。
【0072】
このイヤホンユニット80のケース82を本発明の装飾部材で形成することにより、装飾的価値が高まり、多くの需要者に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えられる身体装着用部品とすることができる。
【0073】
図7は、本発明の歯冠材を用いた人工歯冠の一例を示す模式図である。
【0074】
図7に示す模式図は、歯肉95の内部の顎骨92に埋め込まれた人工歯根(インプラント)93に固定された支台(アパットメント)94に装着された人工歯冠91を示すものである。この人工歯冠91を本発明の装飾部材で形成することにより、歯が黄金色の輝きを放つため、歯の装飾を好む需要者に高い陶酔感を与えることができる。
【0075】
また、顎骨92に埋め込まれる人工歯根153はスクリュー状に形成され、このスクリュー
状に形成された部分には、新生骨の生成を誘導する能力が高いキチン,コラーゲン,およびこれらの誘導体の少なくともいずれか1種を含む生体分解性基材からなる硬質の接合層が形成されていてもよい。また、支台94の基部には、架橋された上記生体分解性基材よりなる軟質の接合層が顎骨92の上側に位置する歯肉95に当接するように形成されていてもよい。
【0076】
そして、本発明の金色セラミック焼結体は、窒化チタンを主成分とするので、生体に適合しやすく、この利点を生かして、人工歯冠91だけでなく、人工歯根93や支台94に用いても好適である。
【0077】
次に、本発明の金色セラミック焼結体の製造方法について説明する。
【0078】
まず、主成分となる窒化チタンと、ニッケル,ニオブ,クロムおよび炭素の各粉末とを所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。より具体的には、平均粒径が10〜30μmの窒化チタンの粉末と、平均粒径が10〜20μmのニッケルの粉末と、平均粒径が20〜50μmのニオブの粉末と、平均粒径が30〜60μmのクロムの粉末および0.1〜10μmの炭素の
粉末とを準備し、ニッケルの粉末が7〜14.5質量%、ニオブの粉末が2.5〜10質量%、クロムまたは炭化クロムの粉末が1.5〜6.5質量%および炭素の粉末が0.4〜0.9質量%であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
【0079】
なお、粉砕・混合時間を50時間以上にすればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,マンガン,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適であ
る。
【0080】
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiN1−x(0<x<1)であってもいいが、耐摩耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、窒化チタンの粉末が一部ニッケルの粉末と反応してTiNiを微量生成しても何等差し支えない。特に、金色セラミック焼結体の主成分を成す窒化チタンについて組成式をTiNとしたときに0.8≦x≦0.96とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNとしたときに0.7≦x≦0.9のものを用いればよい。
【0081】
次いで、調合原料に例えば水を加え、ミルを用いて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法および射出成形法等により円板,平板および円環体等の所望形状に成形する。
【0082】
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49〜196MPaとする
ことが好適である。成形圧力を49〜196MPaとするのは、相対密度が95%以上で開気孔
率が2.5%以下の焼結体を得ることができるとともに、ビッカース硬度(Hv)を8GP
a以上にすることができるからである。また、金型の寿命を長くすることもできる。
【0083】
そして、得られた成形体を必要に応じて真空雰囲気,窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で脱脂して脱脂体とした後、窒素および不活性ガスから選択される少なくとも1種のガス雰囲気中あるいは真空中で脱脂体をセラミックス製の容器内に収納して焼成することで、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。なお、セラミックス製の容器内には予め、比較的融点の高い粉末として、例えば、窒化アルミニウム,酸化イットリウム,酸化カルシウム,窒化硼素,酸化ジルコニウムおよび酸化マグネシウムの少なくともいずれか1種を主成分とする粉末を焼成用の敷粉として散布し、この焼成用の敷粉上に脱脂体を載置すればよい。
【0084】
また、真空中で焼成して金色セラミック焼結体を得る場合は、その真空度が5Pa以下であることが好適である。真空度を5Pa以下とするのは、チタンが焼成中に酸化することがなく、金色セラミック焼結体を得るためである。
【0085】
そして得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、平面研削盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は黄金色の色調を有する装飾面となって、本発明の金色セラミック焼結体を得ることができる。また、本発明の金色セラミック焼結体の表面における凹部の平均径,個数,最大径および表面におけるJIS B 0601(2001)に記載の最大断面高さRtを調整するためには、バレル研磨条件としての、メディアの種類とその比率,グリーンカーボランダム(GC)の番手およびその量およびバレル時間を変更することで調整することができる。例えば、平面研削盤(三井ハイテック株式会社製のMSG−612CNC型平面研削盤)を用いて、砥石番手を#400〜#1500とし、砥石の送り速度を50〜300mm/分で研削加工した後、遠心バレル研磨機
に研磨しようとする焼結体,水,メディアおよびグリーンカーボランダム(GC:番手を#3000〜#8000、GC量を100〜500cc)を入れて、バレル研磨を行ない、装飾面とすればよい。
【0086】
また、上記の本発明の金色セラミック焼結体のニッケルに替わりコバルトを使用し同様の製造方法で金色セラミック焼結体を得ることができる。
【0087】
以上のようにして得られる本発明の金色セラミック焼結体および装飾部材は、特に美しい色調として評価の高い黄金色を呈し、高級感があって、美的満足感を得ることができ、その結果、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができるので、時計ケース,バンド駒,バックルなどの時計用装飾部品や、ナンバーキー,各種入力キー等の操作ボタン,ケース,ディスプレイを固定する枠状部品等の携帯端末機用装飾部品や、浴室または洗面室の蛇口や洗面具,スプーン,フォーク,バターナイフ,万年筆ステーショナリー,印材,名刺,火葬用副葬品などの生活用品用装飾部品や、ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ネクタイピン,タイタック,ボタン,イニシャルロゴ,バッグ等の止め金具などの装身具用装飾部品や、ナンバーキー,各種入力キー等の操作ボタン,ケース,ディスプレイを固定する枠状部品等のPDA(Personal Digital Assistants:個人用情報機器)用装
飾部品や、ナンバーキー,各種入力キー等の操作ボタン,ケース,ディスプレイを固定する枠状部品等の携帯音楽再生装置用装飾部品や、携帯型データ記憶装置の筐体用装飾部品や、タイル,取っ手,庭石,表示板,道路用誘導マーカーなどの建材用装飾部品や、釣り具用品,ゴルフクラブ,ポーカーチップ,将棋の駒,碁石などのスポーツ用品または娯楽
用品等の装飾部品や、弦楽器用駒,ギター用保護板,バイオリン用弓取っ手,イヤホン,スピーカボックスなどの楽器部品または音響機器部品等の装飾部品や、歯冠材,補聴器および楽器用マウスピースなどの口に含む身体装着部品や、ディスクブレーキパッド,取っ手,エンブレムなどの自動車用装飾部品などに用いられる、美しい黄金色の色調を醸し出す装飾部材としても好適に用いることができる。
【実施例1】
【0088】
まず、窒化チタン粉末(純度99%以上、平均粒径22.3μm),ニッケル粉末(純度99.5%以上、平均粒径12.8μm)およびクロム(純度99%以上、平均粒径55μm),ニオブ(純度99.5%以上、平均粒径55μm),および炭素(純度99%以上、平均粒径0.5μm)を焼結体での比率が表1に示す試料No.1〜5の比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
【0089】
次に、得られた各調合原料に水を加えて、振動ミルを用いて72時間粉砕・混合した後、結合剤としてパラフィンワックスを調合原料に対し3質量部添加して、噴霧乾燥法により乾燥させて顆粒とした。そして、得られた顆粒を98MPaの圧力で加圧成形して、成形体を作製した。次に、この成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂して脱脂体とした後、窒
素雰囲気中にて1530℃で2時間保持して焼成して、直径が16mmの円板状の焼結体を各10個の試料を得た。
【0090】
さらに、窒化チタン粉末(純度99%以上、平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99.5%以上、平均粒径12.8μm)およびクロム(純度99%以上、平均粒径55μm),ニオブ(純度99.5%以上、平均粒径55μm),および炭素(純度99%以上、平均粒径0.5μm)を焼結体での比率が表1に示す試料No.6〜10の比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
【0091】
次に、得られた各調合原料に水を加えて、振動ミルを用いて72時間粉砕・混合した後、結合剤としてパラフィンワックスを調合原料に対し3質量部添加して、噴霧乾燥法により乾燥させて顆粒とした。そして、得られた顆粒を98MPaの圧力で加圧成形して、成形体を作製した。次に、この成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂して脱脂体とした後、窒
素雰囲気中にて1530℃で2時間保持して焼成して、直径が16mmの円板状の焼結体を各10個の試料を得た。
【0092】
そして、各々の焼結体の表面を、三井ハイテック株式会社製のMSG−612CNC型平
面研削盤を使用して、砥石番手を#400とし、研削加工条件として、砥石の送り速度を50
mm/分で研削加工した後、遠心バレル研磨機(東邦鋼機(株)製 型式:WKC−120)にこの焼結体,水,メディアおよびグリーンカーボランダム(GC:番手を#10000、G
C量を500cc)を入れて、96時間バレル研磨を行ない、装飾面とした。
【0093】
そして、凹部の平均径および個数は、金属顕微鏡にデジタルカメラを取り付け、任意の場所を選び、倍率を200倍程度で撮影した画像を、1.0×0.8cm角の面積について画像解
析ソフト(A像くん:旭化成エンジニアリング(株)製)で解析することで求めた。
【0094】
次に、各試料を構成するチタン,ニッケル,コバルト,ニオブおよびクロムの含有量は蛍光X線分析(XRF)装置を用いて測定し、炭素については、炭素分析装置を用いて測定した。
【0095】
次に、各試料の明度指数L*とクロマティクネス指数a*およびb*とについて、JIS Z 8722−2000に準拠して、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d)の光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を3×5mmに設
定して装飾面の色調を測定した。
【0096】
また、色調については、得られた各10個の試料を20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに、高級感,美的満足感および精神的安らぎの3項目でアンケート調査を実施し、この各項目を「得られる」と回答したモニターの比率から、高級感、美的満足感、精神的安らぎの何れも90%以上のものは優、上記3項目のうち1項目でも80
%があるものは良、1項目でも75%以下となっているものは劣として評価した。得られた
結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示す結果から、炭素の量が本発明の範囲外である試料No.1および6は、炭素の量が0.3質量%と少ないことからクロマティクネス指数a*がそれぞれ3.01と小さくな
り赤色の色調が弱くなり高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができなかった。さらに、試料No.5および10は、炭素の量が1.0質量%と多いことからクロマティ
クネス指数a*がそれぞれ9.50と大きくなり赤色の色調が強くなり高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が劣になり、モニターを十分満足させることができなかった。これに対して、炭素の量が0.4〜0.9質量%の範囲の本発明の範囲ないである試料No.2〜4および7〜9は、クロマティクネス指数a*の範囲がそれぞれ4.52〜6.03であり金色セラミックスとしての赤色の色調も適度であり高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が良となり、モニターを満足させることができた。
【実施例2】
【0099】
次に凹部の平均径の違いによる装飾面の明度指数L*とクロマティクネス指数a*およびb*の測定と、モニターを利用しての装飾面の色調評価を行なった。
【0100】
実施例1で作製した試料No.3および試料No.8調合原料を用いて、実施例1と同一の製造方法で直径が16mmの円板状の焼結体を各10個の試料を得た。そして、各焼結体を実施例1と同様の研削加工とバレル加工で試料No.11〜20の金色セラミック焼結体の
試料を作製した。
【0101】
そして、凹部の平均径,凹部の最大径および装飾面の明度指数L*,クロマティクネス指数a*およびb*の測定と、モニターによる装飾面の色調評価(高級感,美的満足感および精神的安らぎ)については、実施例1と同様の方法で実施した。得られた結果を表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
表2に示す結果から、凹部の平均径が1.1μmの試料No.11および16は、凹部の光の
拡散反射が弱くなり、クロマティクネス指数a*が7.19および7.21となり赤色の色調が強い金色となったため、高級感,美的満足度および精神的安らぎの全ての評価が劣になり、モニターを十分満足させることができなかった。
【0104】
次に、凹部の平均径が7.7μmの試料No.15および20は、凹部の光の拡散反射が強く
なり、明度指数L*の範囲が81.02および81.03となり白色の色調が強い金色となったため、高級感,美的満足度および精神的安らぎの評価が劣になり、モニターを十分満足させることができなかった。
【0105】
これに対して、凹部の平均径が1.2〜7.6μmの本発明の範囲ないである試料No.12〜14および17〜19は、明度指数L*の範囲がそれぞれ74.97〜77.63および74.98〜77.67でありクロマティクネス指数a*の範囲がそれぞれ6.99〜5.11および6.98〜5.13であったため金色セラミックスとしての赤色および白色の色調も適度であり高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が良となり、モニターを満足させることができた。
【実施例3】
【0106】
次に凹部の数の違いによる装飾面の明度指数L*とクロマティクネス指数a*およびb*との測定と、モニターを利用しての装飾面の色調評価を行なった。
【0107】
実施例2で作製した試料No.13および18と同一の調合原料と同一の製造方法とで直径が16mmの円板状の焼結体を各10個の試料を得た。そして、実施例1と同様の研削加工とバレル加工をして試料No.21〜30の金色セラミック焼結体の試料を作製した。
【0108】
そして、凹部の平均径,凹部の最大径および装飾面の明度指数L*,クロマティクネス指数a*およびb*の測定と、モニターによる装飾面の色調評価(高級感,美的満足感および精神的安らぎ)については、実施例1と同様の方法で実施した。得られた結果を表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
表3に示す結果から、凹部の数が120個の本発明の範囲外の試料No.21および26は、
凹部の光の拡散反射が弱くなり、クロマティクネス指数a*が7.19および7.18となり赤色の色調が強い金色となったため、高級感が高い傾向となったが、美的満足度、精神的安らぎの評価が劣になり、モニターを十分満足させることができなかった。
【0111】
次に、凹部の数が3060個の本発明の範囲外の試料No.25および30は、凹部の光の拡散反射が強くなり、明度指数L*の範囲が81.05および81.05となり白色の色調が強い金色となったため、高級感が低い傾向となり、美的満足度,精神的安らぎの評価が劣になり、モニターを十分満足させることができなかった。
【0112】
これに対して、凹部の平均径が1.2〜7.6μmの本発明の範囲である試料No.12〜14および17〜19は、明度指数a*の範囲がそれぞれ74.97〜77.63および74.98〜77.67でありクロマティクネス指数a*の範囲がそれぞれ5.11〜6.99および5.13〜6.98であったため金色セラミックスとしての赤色および白色の色調も適度であり高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が良となり、モニターを満足させることができた。
【0113】
以上のことから、金色セラミック焼結体として、窒化チタンを主成分とし、ニッケル,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、該金色セラミック焼結体表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有しているれいば、より24金に近い色調を出すことができることから高級感,美的満足感および精神的安らぎを得
ることができる金色セラミック焼結体を得ることができることが分かる。
【実施例4】
【0114】
凹部の最大径の違いによる装飾面の明度指数L*とクロマティクネス指数a*およびb*の測定と、モニターを利用しての装飾面の色調評価を行なった。
【0115】
まず、実施例3の試料No.23および28と同一の調合原料および同様の製造方法で直径が16mmの円板状の焼結体を各10個の試料を得た。
【0116】
次に、実施例1と同様に焼結体の表面を研削加工した後、遠心バレル研磨機(東邦鋼機(株)製 型式:WKC−120)にこの焼結体,水,メディアおよびグリーンカーボランダム(GC:番手を#5000〜#6000、GC量を300cc)を入れて、48〜96時間バレル研磨を
行ない装飾面とした。
【0117】
そして、装飾面の明度指数L*,クロマティクネス指数a*およびb*との測定と、モニターによる装飾面の色調評価(高級感,美的満足感および精神的安らぎ)については、実施例1と同様の方法で実施した。得られた結果を表4に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
表4に示す結果から、凹部の最大径が5.0μmである試料No.31および36は、拡散反
射によって赤色の色調を補正する白色の効果が薄れる傾向となり明度指数L*がそれぞれ73.47および73.44であり、クロマティクネス指数a*がそれぞれ6.11および6.09となった。その結果、赤色の色調が強くなり高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が可となり、モニターを満足させることができたものの美的満足感および精神的安らぎの評価がそれぞれ80%および85%と低い値であった。次に、凹部の最大径が61μmである試料No.35および40は、拡散反射によって赤色の色調を補正する白色の効果が強くなる傾向となり明度指数L*がそれぞれ76.11および76.13であり、クロマティクネス指数a*が5.11および5.12となった。その結果、白色の色調が強くなり高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が可になり、モニターを満足させることができたものの美的満足感および精神的安らぎの評価がそれぞれ85および80と低い数値であった。これに対して、凹部の最大径が6.0μm以上60μm以下である試料No.32〜34および37〜39は、個々の凹部でそれぞ
れ拡散反射する光の量が均一になるので、むらやばらつきの少ない色調とすることができ明度指数L*がそれぞれ74.12〜75.81および74.11〜75.79であり、クロマティクネス指数a*がそれぞれ5.54〜5.21および5.54〜5.22となった。その結果、モニターによる評価も高級感が100%,美的満足感が95%〜100%および精神的安らぎが90%の評価で色調評価が良になり、モニターを満足させることができた。
【0120】
以上のことから、金色セラミック焼結体の凹部の最大径が6.0μm以上60μm以下であ
れば、個々の凹部でそれぞれ拡散反射する光の量が均一になるので、むらやばらつきの少ない色調とすることができ、高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が上がりモニターの満足させることができることが分かる。
【実施例5】
【0121】
最大高さRtの違いによる装飾面の明度指数L*とクロマティクネス指数a*およびb*との測定と、モニターを利用しての装飾面の色調評価を行なった。
【0122】
まず、実施例4の試料No.33および38と同一の調合原料と同様の製造方法とで直径が16mmの円板状の焼結体を各10個の試料を得た。
【0123】
次に、実施例1と同様に焼結体の表面を研削加工した後、遠心バレル研磨機(東邦鋼機(株)製 型式:WKC−120)にこの焼結体,水,メディアおよびグリーンカーボランダ
ム(GC:番手を#5000〜#6000、GC量を300cc)を入れて、80〜90時間バレル研磨を
行ない、装飾面とした。
【0124】
そして、装飾面の明度指数L*とクロマティクネス指数a*およびb*との測定と、モニターによる装飾面の色調評価(高級感,美的満足感および精神的安らぎ)については、実施例1と同様の方法で実施した。また、焼結体の最大断面高さRtはJIS B 0601−2001に準拠して、Taylor Hobson社製のTalySurf S4C型面粗さ測定器を使用し、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、焼結体の表面を5箇所測定しその5箇所の平均をRtの値とした。得られた結果を表5に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
表5に示す結果から、最大断面高さRtが0.04μmである試料No.41および46は、拡散反射の光量が減少することよって赤色の色調を補正する白色の効果が薄れる傾向となり明度指数L*がそれぞれ73.31であり、クロマティクネス指数a*がそれぞれ5.98および5.97となった。その結果、赤色が若干強くなったものの高級感,美的満足感および精神的
安らぎの評価は良となり、モニターを満足させることができたものの精神的安らぎの評価がそれぞれ90%と若干低い値であった。次に最大断面高さRtが1.41μmである試料No.45および50は、拡散反射の光量が増加することによって赤色の色調を補正する白色の効果が若干強くなる傾向となり明度指数L*がそれぞれ75.34および75.32であり、クロマティクネス指数a*がそれぞれ5.28となった。その結果、白色の色調が若干強くなったものの高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価が良になり、モニターを満足させることができたものの精神的安らぎの評価は90%と若干低い値であった。
これに対して、最大断面高さRtが0.5μm以上1.4μm以下である試料No.42〜44および47〜49は、個々の凹部でそれぞれ拡散反射する光の量が均一になるので、むらやばらつきの少ない色調とすることができ明度指数L*がそれぞれ73.53〜74.77でありクロマティクネス指数a*がそれぞれ5.45〜5.31および5.44〜5.30となった。その結果、モニターによる評価も高級感および美的満足感がそれぞれ100%および精神的安らぎが95%と高い評
価で色調評価が優になり、モニターを満足させることができた。
【0127】
以上のことから、金色セラミック焼結体の最大断面高さRtが0.5μm以上1.4μm以下であれば、凹部の深さによる凹部個々の拡散反射の光の量のばらつきが減少するので均一な色調を得ることができ、高級感,美的満足感および精神的安らぎの評価がさらに上がりモニターの十分満足させることができることが分かる。
【実施例6】
【0128】
製品間の色調のばらつきについての評価を行なった。
【0129】
実施例1の試料No.3と同一の調合原料で、試料No.3と同様の製造方法で試料を10回に分けそれぞれ10個の合計100個の試料を作製したものと、比較例として試料No.
3と同一の調合原料で、試料No.3と同様の製造方法のうちバレル時間を24時間に変更した製造方法で、10回に分けそれぞれ10個の合計100個の試料を作製したものとを同一の
机上に並べて、目視で色調のばらつきの評価を行なった。その結果、比較例の試料より本願発明の試料No.3と同一の調合原料No.3と同様の製造方法で作製した試料のほうが色調のばらつきが少なかった。また、実施例1と同様に20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに色調のばらつきが感じられるかについての評価も実施した。
【0130】
その結果、比較例の試料は、10%のモニターから若干色調のばらつきがあるとの評価があったものの、本発明の試料No.3は5%のモニターから若干ばらつきが感じられるとの評価であった。以上のことから本発明の金色焼結体は色調のばらつきが少なくなることが分かる。
【符号の説明】
【0131】
10A,10B:時計用ケース
11:凹部
12:足部
13:底部
14:胴部
15:穴部
20:中駒
21:貫通孔
30:外駒
31:ピン穴
40:ピン
50:時計用バンド
60:携帯電話機
80:イヤホンユニット
91:人工歯冠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化チタンを主成分とし、ニッケル,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、該表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることを特徴とする金色セラミック焼結体。
【請求項2】
窒化チタンを主成分とし、コバルト,クロムおよびニオブを含むとともに、0.4質量%以上0.9質量%以下の炭素を含む金色セラミック焼結体であって、該表面の1.0×0.8cm角の面積において、平均径が1.2μm以上7.6μm以下の凹部を130個以上3050個以下有していることを特徴とする金色セラミック焼結体。
【請求項3】
前記凹部の最大径が、6.0μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の金色セラミック焼結体。
【請求項4】
表面におけるJIS B 0601(2001)に記載の最大断面高さRtが0.05μm以上1.4μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金色セラミック焼結体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の金色セラミック焼結体からなることを特徴とする装飾部材。
【請求項6】
請求項5に記載の装飾部材からなることを特徴とする時計用装飾部品。
【請求項7】
請求項5に記載の装飾部材からなることを特徴とする携帯端末機用装飾部品。
【請求項8】
請求項5に記載の装飾部材からなることを特徴とする身体装着用部品。
【請求項9】
請求項2に記載の金色セラミック焼結体からなることを特徴とする歯冠材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−153347(P2011−153347A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15434(P2010−15434)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】