説明

金銀糸

【課題】一見すると単純な金銀糸であるが、実際には形状を保持することが可能であり、かつ従来のものに比して軽量化を実現し、さらには後染め耐性も備え、かつ破断強度も向上させた金銀糸を提供する。
【解決手段】汎用ポリエチレンの一軸延伸フィルムを基材フィルムとし、前記基材フィルムに、少なくとも金色又は銀色を呈する物質を積層してなる金属光沢層を積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られる金銀糸であって、該フィルムの厚みが20〜150μmであり、かつ形態保持機能を備え、さらに前記金銀糸を0.37mm巾にスリットした場合の破断強度が300gf以上である金銀糸。形態保持機能とはポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げてからの戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、という性質を呈する機能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金銀糸に関するものであり、より具体的には任意に形状を保持することができ、さらに破断強度が従来の金銀糸と比較して強靭であることを特徴とした金銀糸に関する。
【背景技術】
【0002】
古くより織物などにおいて高級感を呈するために金銀糸が用いられてきた。例えば、古くは西陣織等において、本金箔や本銀箔を織込んだり、刺繍したりして用いていた。しかし時代が進み、やがてスズやアルミニウム等の地金箔による安価な金銀糸が製造されるようになり、また帯地等への使用が大幅に進められた。これに伴い、金銀糸の生産工程に工夫が凝らされるようになってきたが、それでも生産工程の主な部分は多くの労働力と時間を要する工程であった。
【0003】
やがてさらなる生産性の向上が求められるようになり、多数の人手を要していた撚り工程が機械化されるようになったが、合成繊維工業が発展するにつれ、その技術を応用した製法が確立されるようになった。即ち、ポリエステルフィルムの上に真空技術を応用して金属膜を作る画期的な手法の確立を見たのである。そしてこの真空蒸着法を用いることで長尺フィルムにより金銀糸を工業的に大量生産出来るようになってきた。
【0004】
そしてこの真空蒸着法による大量生産が広まるにつれ、現在に至るまで、色々な金銀糸及びその製造方法等につき種々の提案がなされるようになってきた。
【0005】
例えば特許文献1に記載の発明であれば、現在主として用いられるアルミニウムの耐蝕性が問題であったところ、これを解決するための手法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−310239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1にて開示された発明は、要すれば、プラスチックフィルムの表面にアルミニウム薄膜を形成し、その表面に直接クロム薄膜を積層した積層体を2枚用意し、クロム薄膜を内側にしてそれらを貼り合わせた構成を有することを特徴としている。
【0008】
このようにすることで、確かに耐蝕性に関して対処可能となってはきたが、一方である程度金銀糸に関する技術が一通り提案された現在においては金銀糸の新しい利用方法、又は何らの付加的機能が付与された金銀糸につき市場要望が高まってきている。その中で、特に問題とされている点としては、織物にあってそれなりの量の金銀糸を用いることで織物全体の重量がかさんでしまう点、また基材として主にポリエステルフィルムを用いるため容易に破断してしまう点、さらには複雑になる織物の意匠に応じて金銀糸を織込んだ織物を染色しようとすると、即ち後染めしようとした場合、基材としてポリエステルフィルムを用いるとこれが容易に染まってしまうため結果的に金銀糸の光沢を損ねてしまう点、等々の問題点であり、これらを解決することが望まれている。
【0009】
また種々意匠が発展するに伴い、ドレスなどに金銀糸を用いた場合でドレスのシルエットを保持させることが望まれる場合が増えてきたが、そのためには従来であれば布地以外に針金又はそれに準じた形状保持部材を用いる必要があったところ、全体の重量がかさんでしまう点と針金が飛び出す危険性があり安全面でも問題であまり実用的ではなかった。一方で、織込む金銀糸に形状保持機能があれば、それを織込んだ布地を用いれば形状保持機能が発揮されて不要な針金等を用いることもないので、軽量でかつ安全な金銀糸単独で、かような特殊な機能を付与させられないか、という研究が進められるようになった。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されたような従前の普通の金銀糸では、単に意匠という観点においてきらびやかな、又は高級感を呈するためだけにしか役に立たず、上記のような種々複雑な要望に一度に答えることはできないものであった。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、一見すると単純な金銀糸であるが、実際には形状を保持することが可能であり、かつ従来のものに比して軽量化を実現し、さらには後染め耐性も備え、かつ破断強度も向上させた金銀糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の金銀糸に関する発明は、汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸してなる一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとし、前記基材フィルムに、少なくとも金色又は銀色を呈する物質を積層してなる金属光沢層を積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られる金銀糸であって、前記汎用ポリエチレンの極限粘度[η]が3.5dl/g未満の材料を使い一軸延伸してなる一軸延伸ポリエチレンフィルムで、かつ、前記一軸延伸ポリエチレンフィルムの厚みが20μm以上150μm以下であり、かつ前記一軸延伸ポリエチレンフィルムが形状保持機能を備え、さらに前記金銀糸を0.37mmの幅となるように前記積層体をマイクロスリットした場合の金銀糸の破断強度が300gf以上であること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項2に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1に記載の金銀糸であって、前記形状保持機能とは、前記一軸延伸ポリエチレンフィルムが、ポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げてから戻り角度が35度以下であり、かつこれを90度折り曲げてから戻り角度が20度以下になる、という性質を呈する機能であること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項3に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1又は請求項2に記載の金銀糸であって、前記金属光沢層が、金、銀、銅、アルミニウム、スズ、インジウム、チタン、又はクロム、の何れか若しくは複数からなるものであること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項4に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の金銀糸であって、前記金属光沢層が、前記基材フィルムの片面又は両面に積層されてなること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項5に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の金銀糸であって、前記基材フィルム表面に対し前記金属光沢層を積層する前に予めコロナ処理が施されてなること、又は前記基材フィルムと前記金属光沢層との間にアンカーコート層が設けられていること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項6に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の金銀糸であって、前記金属光沢層のさらに表面に、前記金属光沢層の呈する金属光沢に色調を付与するための着色層、又は前記金属光沢層を保護するための保護層の何れか若しくは双方が積層されてなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項7に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の金銀糸であって、前記基材フィルムの前記金属光沢層を積層した面と反対側の面に、前記金属光沢層の呈する金属光沢に色調を付与するための着色層、又は前記金属光沢層を保護するための保護層の何れか若しくは双方が積層されてなること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項8に記載の金銀糸に関する発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の金銀糸であって、前記金属光沢層が外気に対し露出しないように、前記積層体を2枚貼着して得られる貼着積層体をマイクロスリットすることにより得られてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本願発明に係る金銀糸であれば、従来の金銀糸に比して軽量であり、また破断強度も強くなり、さらには後染め耐性も備えたものとすることができる。これは基材フィルムに一軸延伸ポリエチレンフィルムを用いているからである。例えば重量について見ると、従来の金銀糸の基材フィルムとして広く用いられているポリエステルよりもポリエチレンの比重の方が軽く、破断強度についても一軸延伸処理を施していることにより破断強度が強くなり、さらにはポリエチレンフィルムはポリエステルフィルムよりも染色に対して汚染し難いため、即ち染料に染まりにくいため、金銀糸としての染色による変色等が生じにくくなるのである。
【0021】
また本願発明における基材フィルムとなる一軸延伸ポリエチレンフィルムに形状保持機能が備わっていることにより、本願発明に係る金銀糸にも針金のように形状を保持する機能が付与されていることになるので、例えばこれを織込んだ布地を用いたドレスであると、例えば裾が広がったボリューム感溢れる斬新な意匠を備えたドレスとすることもできるし、またその他にも複雑な意匠性を持った曲線・曲面を多様したドレスや衣装、アクセサリー等とすることも容易に可能となせる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
本願発明に係る金銀糸につき、第1の実施の形態として説明する。
この実施の形態に係る金銀糸は、汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸してなる一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとし、少なくとも前記基材フィルムの表面に、金色又は銀色を呈する物質を積層してなる金属光沢層を積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られる金銀糸である。
【0024】
ちなみに、係る金銀糸等を製造する際に用いられるマイクロスリットと呼ばれる手法とは、単純に説明すれば金属光沢を備えた帯状の積層体を細かく裁断して糸状とすることであって、例えば「80切」と呼ばれるマイクロスリットでは、裁断後の1本あたりの幅は約0.37mmとなるものであることを予め説明しておく。
【0025】
以下、順次説明をする。
本実施の形態に係る金銀糸は、基本的にはポリエチレンフィルムの表面に金属光沢を呈する物質を積層した積層フィルムをマイクロスリットすることにより得られるものである。ここで金属光沢を呈する物質としては、当然金又は銀であっても構わないが、昨今の金銀糸ではコスト抑制を目的として、いわゆる「金色又は銀色を呈する」糸とするために金色又は銀色に見えるように工夫が施されているのであって、例えば本物の金を用いると高価な金糸となるところ、それに変えて基材フィルムを黄色又は赤色に着色した上で、それにアルミニウムを蒸着させ、結果金色を呈する蒸着フィルムとし、これをマイクロスリットすることにより金糸となしている場合もある。そして本願発明においては、基材フィルムの表面に積層する金属光沢を呈するための、即ち金属光沢層を形成する物質として、金、銀、銅を用いても良く、またアルミニウムやスズ、チタン、インジウム、クロム等の金属を用いるものとするが、具体的に何を利用するかは、コストやニーズなどに応じて随時決定すれば良く、以下の説明ではアルミニウムを用いることとする。
【0026】
またかような金属光沢層として金属を積層する手法としては、従来公知の手法であれば良く、例えば真空蒸着法やスパッタリング法等が考えられ、本実施の形態ではアルミニウムを従来公知の真空蒸着法により積層してなるものとする。またその厚みについても特段制限をするものではないが、本実施の形態においては、10nm以上80nm以下の範囲となるようにこれを積層することとする。これは10nm以下であると厚みが不十分であるが故に、充分な金属光沢を呈することができず、また80nm以上とすると金属光沢層にクラックが生じやすくなり、係るクラックの存在により金属光沢が損なわれるおそれがあるから、である。
【0027】
本実施の形態では係るアルミニウム等の積層物を保護するために、その表面に従来公知の物質を用いて保護層を積層しても構わない。これは、例えばアルミニウムを積層してなる金銀糸であって、係るアルミニウム層が剥き出しの状態となり大気と接したままであると、大気と反応して腐食してしまうことにより当初要求されていた金色又は銀色が劣化してしまうことが考えられるからであり、かような変色から金銀糸を保護するために、金属光沢層の表面に保護層を積層するのである。
【0028】
またこの保護層は、アルミニウム層などの金属光沢層を保護するのは当然であるが、係る金属光沢層が呈する金属光沢を遮るものであってはならないことも大切である。この観点より、保護層は透明であることが望ましいと言えるが、必ずしも透明である必要もなく、例えば半透明、有色透明、としておけば、金属光沢層の呈する光沢色と相まって擬似的な金色とすることも考えられるのである。例えばアルミニウムの表面に有色透明として赤色であるが透明である、という保護層を積層することにより、アルミニウムの金属光沢と赤色の半透明層との相乗により金色を呈することが可能となり、また考えられるのである。尚、この保護層の積層方法は従来公知のものであって良く、例えばウェットコーティング法と呼ばれる、グラビアコーティング法、バーコート法、等の手法により積層されれば良いものであることを断っておく。
【0029】
また保護層ではなく、金属光沢層に塗料を塗布して着色層を積層することで、金属光沢の呈する色が求める色となるようにすることも考えられる。そしてこの場合、係る着色層が前記保護層の代わりとなって金属光沢層を保護することが可能となる。
【0030】
さらに基材フィルムと金属光沢層との密着性をより高いものとするために、基材フィルム表面に金属光沢層を積層するに先だって、その表面に対し予めコロナ処理を施すことも考えられ、又は予めアンカーコート層を基材フィルムの表面に積層しておくことも考えられる。尚、本実施の形態におけるコロナ処理としては特段制限するものではなく、従来公知の手法により実施されるものであって良く、同様にアンカーコート層も特段制限するものではなく、従来公知の物質を従来公知の手法により基材フィルム表面に積層するものであって良いことを予め断っておくと共にここではこれ以上の詳述は省略する。
【0031】
以上説明した各層を積層してなる積層体に対しマイクロスリットと呼ばれる裁断を施すことにより、本実施の形態に係る金銀糸が得られるのであるが、この積層体の構成としては、基材フィルム/コロナ処理(若しくはアンダーコート層)/金属光沢層、基材フィルム/コロナ処理(若しくはアンダーコート層)/金属光沢層/着色層又は保護層の何れか若しくは双方、着色層又は保護層の何れか若しくは双方/金属光沢層/コロナ処理(若しくはアンカーコート層)/基材フィルム/コロナ処理(若しくはアンダーコート層)/金属光沢層/着色層又は保護層の何れか若しくは双方、等の種々の組み合わせが考えられるが、それぞれ目的や状況等に応じて選択すれば良く、またここに記載されていない組み合わせであっても構わない。さらに、例えば基材フィルム/コロナ処理(若しくはアンダーコート層)/金属光沢層、という構成のものを2枚用意し、これらを金属光沢層が外気に対し露出しないように、即ち金属光沢層が直接大気と接しないように、基材フィルム/コロナ処理(若しくはアンダーコート層)/金属光沢層/接着層/金属光沢層/コロナ処理(若しくはアンダーコート層)/基材フィルム、というようにこれらを貼着してなる貼着積層体を用いても構わず、貼着後の構成についても要は金属光沢層が大気と接しない構成であれば良い。
【0032】
ちなみに、金属光沢層が大気又は外気に接しないことが望ましいのは、前述の通り、これが大気に接することで金属光沢層そのものが劣化してしまい、その結果当初所望されていた金属光沢が損なわれる、又は変色してしまう、等の状況が生じてしまうことが考えられるからであり、係る状況が生じることを回避するために、金属光沢層が大気と接しないようにすることが望ましいのである。ただしここではこれ以上詳述しないが、例えば意匠面からの要請により、係る現象を逆に利用すべく金属光沢層をあえて外気に接するように配することとしてあっても構わないことを付言しておく。
【0033】
このようにして金属光沢層と保護層とを基材フィルムの表面に積層し、得られた積層体をマイクロスリットすることにより金銀糸が得られるのであるが、ここで本実施の形態において重要な基材フィルムに関し説明をする。
【0034】
この基材フィルムとして、本実施の形態では先に述べたように、汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸してなる一軸延伸ポリエチレンフィルムを用いる。そして係る基材フィルムに関して説明を加えると、この一軸延伸ポリエチレンフィルムは、その原料となる前記汎用ポリエチレンの極限粘度[η]が3.5dl/g未満であり、かつ、一軸延伸ポリエチレンフィルムの厚みが20μm以上150μm以下であり、かつ、前記一軸延伸ポリエチレンフィルムが、ポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げてからの戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、という性質を有するものである。
【0035】
このような性質を有する一軸延伸ポリエチレンフィルムとしては、例えば三井化学株式会社製の商品「ハイブロンフィルム」や「テクノロートフィルム」等が挙げられるが、従来の係る特質を有する一軸延伸ポリエチレンフィルムは包装材料や副資材といった目的に用いられていたものであるところ、本実施の形態に係る金銀糸のように係る特性を有する一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとしてこれに蒸着加工を行いさらにマイクロスリットして得られたものを繊維として利用する、といった利用方法は今に至るまで全く想定されていないものであったことをここに申し添えておく。
【0036】
尚、係る汎用ポリエチレンの極限粘度[η]は3.5dl/g未満であることが望ましく、1.0dl/g以上3.5dl/g未満であればより好ましいと言えるが、これは3.5dl/g以上であるとすると、粘度が必要以上に高いため、後述するようにこれを溶融固形物とする際、又は一軸延伸ポリエチレンフィルムとする際に容易に押出しができなくなることが考えられるからである。
【0037】
また本実施の形態においては、汎用ポリエチレンの極限粘度[η]が3.5dl/g未満であるならば、これを単独で使用しても、又はポリプロピレン等の他のポリオレフィンと混合して使用しても、又は樹脂用として通常使用される無機充填剤を添加しても構わない。この場合の無機充填剤としては、例えば硝子繊維、硝子ビーズ、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、アルミナ、鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、炭素繊維、カーボンブラック、等であれば良く、当然これら以外の従来公知のものであっても構わない。
【0038】
一軸延伸ポリエチレンフィルムの製造方法については本実施の形態においては特段制限するものではなく、例えばTダイを備えたシート押出し成形機などのような公知の押出機を用いれば良い。
【0039】
また一軸延伸により得られた一軸延伸ポリエチレンフィルムの厚みは20μm以上150μm以下であることが望ましいが、これは塑性変形を行った場合であってもフィルム自体が破損、破断しない厚みが必要である一方で基材フィルムそれ自体が必要以上に厚いと、そもそも糸として必要な柔軟性を確保することが困難になるからである。
【0040】
そしてこの塑性変形性とは形状保持機能とも言うべきものであり、その機能とは前述した通りの状態を呈することのできる機能である。即ち、一軸延伸ポリエチレンフィルムが、ポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げてからの戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、という状態を呈することのできる性質である。
【0041】
以上説明した、係る性質を有し、また製造される一軸延伸ポリエチレンフィルムを本実施の形態において基材フィルムとして用いるのである。
【0042】
そしてこのような性質を有する一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとして用い、このフィルムの表面に金属光沢層を積層し、また必要に応じて金属光沢層を保護するための保護層を積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより、本実施の形態に係る金銀糸を得るのである。
【0043】
かような性質を持つ一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとして用いた本実施の形態に係る金銀糸であれば、例えば針金などでは所望の形状に変形させると針金は変形後の形状を保持するが、これと同様に、本実施の形態に係る金銀糸を所望の形状に変形させるとその形状を保持することが可能となる。そしてこの金銀糸を生地に織込んだ場合、生地を例えば意匠性に富んだ独特の曲面を呈するようにその形状を変形させると、織込まれた金銀糸がその形状を保持することにより、生地全体の変形後の形状も保持されることとなる。
【0044】
尚、本実施の形態に係る一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとした積層体を、例えば幅が0.37mmのいわゆる80切りと言われる状態にマイクロスリットしたものと、従来のポリエステルフィルムを基材フィルムとしたものを同様にスリットしたものと、を破断強度の観点で比較すると、本実施の形態に係る金銀糸の方が約10倍ほど破断強度は強くなった。本実施の形態に係るものでは300gfであったのに対し、本実施の形態に係る金銀糸と同様にして得られた金銀糸であってしかし基材フィルムとして従来のポリエステルフィルムとしたものでは80gfであった。
【0045】
また同様に、従来のポリエステルフィルムを基材フィルムとした金銀糸であれば、得られた金銀糸を濃紺で染めると基材フィルム自体が染色(変色)してしまい、金銀糸の光沢が失われてしまったのに対し、本実施の形態に係る一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとした金銀糸であれば、同様に後染め処理を施しても基材フィルム自体が殆ど染色(変色)しないため、金銀糸の光沢が失われることはなかった。また基材となる一軸延伸ポリエチレンフィルムの比重が、同面積のポリエステルフィルムと比較して約3分の1ほど軽いため、得られる金銀糸も従来のものに比して軽量とすることができるようになり、例えばウェディングドレスなどに係る金銀糸をふんだんに利用しても全体の重量が大きくなることもなく、また針金のような形状保持機能があるので、独特の意匠性を施すことが容易に可能となる。
【0046】
また破断強度を生かす、という観点から、例えば漁網などに用いることも考えられ、また形状保持機能を生かす、という観点から、被服類の肩パットなどに用いることも考えられるし、さらに詳述はしないが、アクセサリー類にも利用することが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸してなる一軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとし、
前記基材フィルムに、少なくとも金色又は銀色を呈する物質を積層してなる金属光沢層を積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られる金銀糸であって、
前記一軸延伸ポリエチレンフィルムの厚みが20μm以上150μm以下であり、かつ前記一軸延伸ポリエチレンフィルムが形状保持機能を備え、
さらに前記金銀糸を0.37mmの幅にマイクロスリットした場合の金銀糸の破断強度が300gf以上であること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項2】
請求項1に記載の金銀糸であって、
前記形状保持機能とは、
前記一軸延伸ポリエチレンフィルムの融点未満の温度において、これを180度折り曲げて戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、
という性質を呈する機能であること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金銀糸であって、
前記金属光沢層が、金、銀、銅、アルミニウム、スズ、インジウム、チタン、又はクロム、の何れか若しくは複数からなるものであること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の金銀糸であって、
前記金属光沢層が、前記基材フィルムの片面又は両面に積層されてなること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の金銀糸であって、
前記基材フィルム表面に対し前記金属光沢層を積層する前に予めコロナ処理が施されてなること、
又は前記基材フィルムと前記金属光沢層との間にアンカーコート層が設けられていること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の金銀糸であって、
前記金属光沢層のさらに表面に、前記金属光沢層の呈する金属光沢に色調を付与するための着色層、又は前記金属光沢層を保護するための保護層の何れか若しくは双方が積層されてなること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の金銀糸であって、
前記基材フィルムの前記金属光沢層を積層した面と反対側の面に、前記金属光沢層の呈する金属光沢に色調を付与するための着色層、又は前記金属光沢層を保護するための保護層の何れか若しくは双方が積層されてなること、
を特徴とする、金銀糸。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の金銀糸であって、
前記金属光沢層が外気に対し露出しないように、前記積層体を2枚貼着して得られる貼着積層体をマイクロスリットすることにより得られてなること、
を特徴とする、金銀糸。

【公開番号】特開2009−30219(P2009−30219A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38395(P2008−38395)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(301054830)尾池テック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】