説明

針キャップ、血液浄化処理用器具及び痂皮除去具

【課題】痂皮取りの作業を容易に行えるようにし、皮膚を損傷せずに痂皮を取れるようにする。
【解決手段】針キャップ1の先端部1bには、痂皮取り部11が形成されている。痂皮取り部11は、針10の挿入軸A周りに湾曲する円弧状の外周面11aと当該外周面11aの内側に位置する内面11bとを有し、当該外周面11aと内面11bによって針10の挿入軸方向Xに幅のある鋭角の頂辺部11cが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針キャップ、血液浄化処理用器具及び痂皮除去具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば透析処理などの血液浄化処理を行う際には、患者の皮下に針を刺し、当該針から採血と返血が行われている。この穿刺は、血液浄化処理を行う度に行う必要があるが、その都度患者に大きな痛みを与える。そこで、近年では、穿刺時の痛みを軽減するために、初回時に体の皮膚に血管に通じる穿刺ルートを形成し、2回目以降は当該穿刺ルートを用いて穿刺を行う方法が行われている。この方法の2回目以降の穿刺時には、穿刺ルートの入口に形成された痂皮を取って、その入口から穿刺ルートに針が挿入される。この方法によれば、2回目以降の穿刺では針によって皮膚に穴を空ける必要がないので、痛みが軽減される。
【0003】
しかしながら、上述の方法において従来は痂皮を針先を用いて取っていたため、皮膚を傷つけ易く、また針が汚染されるため衛生上好ましくなかった。そこで、使用前に針に被せられている針キャップの先端に尖端を設け、当該尖端により痂皮を除去することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−542343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の針キャップの先端の尖端が長手方向の前方側に向けて形成されているため、例えば使用時に針キャップの細い尖端を皮膚と痂皮との間に入れ込み、針キャップをその長手方向の前方に動かして、痂皮を押し上げて剥ぎ取る必要がある。このため、痂皮が、作業者の指或いは針キャップ自体で見にくくなり、当該作業がやりにくくなる。この結果、誤った所に尖端が触れるなどして皮膚を傷つけやすく、作業に時間もかかる。また、針キャップの尖端を前後に動かしながら皮膚と痂皮の間に位置合わせするときや痂皮を剥ぎ取るときに、針キャップと皮膚が擦れ易く、皮膚が損傷しやすい。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、痂皮取りの作業が行い易く、皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる針キャップ及び血液浄化処理用器具を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明は、体に穿刺するための針が挿入される針キャップであって、 先端部には、痂皮取り部が形成され、前記痂皮取り部は、針の挿入軸周りに湾曲する円弧状の外周面と当該外周面の内側に位置する内面とを有し、当該外周面と内面によって前記針の挿入軸方向に幅のある鋭角の頂辺部が形成されている。
【0008】
本発明によれば、針キャップの先端部に、針の挿入軸方向に幅のある鋭角の頂辺部が形成されているので、頂辺部を針の挿入軸周りに回転させて痂皮を取ることができる。こうすることによって、痂皮を取る作業時に指や針キャップ自体により視界が妨げられなくなり、頂辺部と痂皮の接触部分が見やすくなる。また、痂皮を取る頂辺部に幅ができるので、頂辺部を痂皮に位置合わせする作業が行い易くなる。よって、痂皮取りの作業を容易に行うことができ、皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる。
【0009】
前記先端部には、前記頂辺部よりも前方側に突出し、前面が平坦な突出部が形成されていてもよい。針キャップの付いた針は、使用前に無菌状態を維持するため、密封された無菌袋内に収容されて輸送される。本発明によれば、針キャップの先端部に、前面が平坦な突出部が形成されているので、例えば運搬中に針キャップの先端部により無菌袋に穴を開けることを防止できる。よって、針の運搬を適正に行うことができる。また、針キャップの先端部の前面が平坦になっているので、他のものとの衝突に対する針キャップの先端部の強度を向上できる。
【0010】
前記突出部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線上に前記先端部の基端から前方側に向けて形成され、前記痂皮取り部の前記外周面は、前記突出部から前記先端部の周方向に沿って前記突出部から離れる方向に向かって形成され、当該外周面の離れる方向の端辺に前記頂辺部が形成されていてもよい。かかる場合、突出部が針キャップの先端部の左右の中心線上に形成されているので、先端部の強度を上げることができる。この分例えば痂皮取り部の厚みを薄くすることができるので、頂辺部の角度をより鋭角にすることができる。よって痂皮取りの作業がより行い易くなる。
【0011】
前記痂皮取り部は、前記突出部の左右の両側に形成されていてもよい。かかる場合、左右どちらからでも痂皮の取り除きを行うことができ、痂皮をより見やすい方向から取ることができる。
【0012】
前記痂皮取り部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線を挟んだ両側に形成され、当該両側の頂辺部は、前記先端部の周方向において互いに逆向きになるように形成されていてもよい。かかる場合、左右どちらからでも痂皮の取り除きを行うことができ、痂皮をより見やすい方向から取ることができる。
【0013】
前記内面は、前記外周面側に凸に湾曲していてもよい。かかる場合、頂辺部の角度をより鋭角にすることができるので、痂皮をより取り除き易くなる。
【0014】
別の観点による本発明は、体に穿刺するための針が挿入される針キャップであって、先端部には、痂皮取り部が形成され、前記痂皮取り部は、針の挿入軸方向に沿った平面状の外面と当該外面の内側に位置する内面とを有し、前記外面と前記内面によって前記針の挿入軸方向に幅のある鋭角の頂辺部が形成されている。
【0015】
本発明によれば、針キャップの先端部に、針の挿入軸方向に幅のある鋭角の頂辺部が形成されているので、頂辺部を針の挿入軸周りに回転させて痂皮を取ることができる。こうすることによって、痂皮を取る作業時に指や針キャップ自体により視界が妨げられなくなり、頂辺部と痂皮の接触部分が見やすくなる。また、痂皮を取る頂辺部に幅ができるので、頂辺部を痂皮に位置合わせする作業が行い易くなる。よって、痂皮取りの作業を容易に行うことができ、皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる。
【0016】
前記針キャップの前記先端部には、前記頂辺部よりも前方側に突出し、前面が平坦な突出部が形成されていてもよい。
【0017】
前記突出部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線上に前記先端部の基端から前方側に向けて形成され、前記痂皮取り部の前記外面は、前記突出部の横に形成され、当該外面の前記突出部から遠い外側の端辺に前記頂辺部が形成されていてもよい。また、前記痂皮取り部は、前記突出部の左右の両側に形成されていてもよい。
【0018】
前記痂皮取り部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線を挟んだ両側に形成され、当該両側の頂辺部は、前記先端部の左右に互いに逆向きになるように形成されていてもよい。また前記内面は、前記外面側に凸に湾曲していてもよい。
【0019】
前記痂皮取り部は、前面に近づくにつれて次第に薄くなるように前記内面が前記針の挿入軸方向に傾斜していてもよい。かかる場合、痂皮取り部に厚い部分と薄い部分ができるので、痂皮の形や大きさなどに応じてより使いやすい部分を用いて痂皮を取ることができる。
【0020】
上記針キャップは、血液浄化処理時に穿刺される針に用いられるものであってもよい。また、上記針キャップは、薬液投与時又は採血時に穿刺される針に用いられるものであってもよい。
【0021】
別の観点による本発明は、上述の針キャップと、当該針キャップに挿入された針と、当該針が先端部に接続されたチューブと、当該チューブの後端部を他のチューブに接続するための接続部と、を有し、血液浄化回路の一部を構成可能な、血液浄化処理用器具である。
【0022】
別の観点による本発明は、針キャップに取り付けられた痂皮除去具であって、長軸方向に平行な一の側面と斜めの他の側面を有し、それらの2つの側面により鋭利な先端が形成されている、ボタンホール穿刺用の痂皮除去具である。
【0023】
前記痂皮除去具は、針キャップと一体になっていてもよい。また、前記痂皮除去具が、穿刺針入れ無菌袋に固定されていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、痂皮取りの作業を容易に行うことができ、また皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】血液浄化処理用器具の構成の概略を示す図である。
【図2】(a)は、針キャップの側面図であり、(b)は、針キャップの先端部を前面から見た正面図である。
【図3】血液浄化回路の構成の概略を示す図である。
【図4】針キャップで痂皮を取り除く状態を示す図である。
【図5】針キャップの先端部で痂皮を取り除く状態を示す図である。
【図6】痂皮取り部が片側にのみある場合の針キャップの先端部を前面から見た正面図である。
【図7】平面が傾斜した内面を有する針キャップの先端部を前から見た正面図である 。
【図8】(a)は、突出部を有する針キャップの側面図であり、(b)は、突出部を 有する針キャップの上面図である。
【図9】突出部を有する針キャップの先端部を前面から見た正面図である。
【図10】(a)は、内面が前方に斜めに傾斜している場合の針キャップの側面図であり、(b)は、内面が前方に斜めに傾斜している場合の針キャップの先端部を前面から見た正面図である。
【図11】(a)は、他の痂皮取り部を有する針キャップの側面図であり、(b)は、他の痂皮取り部を有する針キャップの先端部を前面から見た正面図である。
【図12】湾曲した内面を有する痂皮取り部を示す針キャップの正面図である。
【図13】左右に痂皮取り部を有する場合の針キャップの正面図である。
【図14】突出部を有する痂皮取り部を示す針キャップの正面図である。
【図15】痂皮除去具の側面図である。
【図16】痂皮除去具の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る針キャップ1を有する血液浄化処理用器具2の一例を示す説明図である。
【0027】
針キャップ1は、例えば針10が挿入可能な略円筒状に形成されている。針キャップ1は、長手方向(針10の挿入軸方向X)の後端に開口部1aが形成され、当該開口部1aから針10を挿入できる。針キャップ1の先端部1bには、痂皮取り部11が形成されている。
【0028】
痂皮取り部11は、例えば図2(a)及び図2(b)に示すように針10の挿入軸A周りに湾曲する円弧状の外周面11aと、外周面11aの内側に位置する内面11bと有している。外周面11aと内面11bによって針10の挿入軸方向Xに幅のある鋭角の頂辺部11cが形成されている。なお、頂辺部11cの鋭角の角度Bは、小さいと鋭利になり痂皮と皮膚の間に差し込みやすくなるが強度が落ち、大きいと強度が上がるが差し込みにくくなるため、3度〜60度が好ましく、5度〜25度がより好ましい。
【0029】
外周面11aは、例えば先端部1bの左右の中心線Cが通る底部11dを始点として、当該底部11dから離れる方向に例えば90度程度まで形成されている。外周面11aの半径は、例えば0.5〜5.2mm程度が好ましい。内面11bは、外周面11a側に凸の湾曲状に形成されている。外周面11aと内面11bは、鋭角に交わり、頂辺部11cを形成している。頂辺部11cは、針10の挿入軸方向Xに水平に形成され、例えば 0.5〜5.2mm程度の幅を有している。
【0030】
痂皮取り部11は、中心線Cを挟んだ両側に中心線Cの線対称になるように形成されている。各痂皮取り部11は、頂辺部11cが先端部1bの周方向において互いに逆向きになるように形成されている。つまり図2(b)において左側の頂辺部11cが右回り方向、右側の頂辺部11cが左回り方向を向いて、両方とも上方を向いている。左右の痂皮取り部11によって、左右の痂皮取り部11全体が上弦の三日月状になっている。つまり、痂皮取り部11全体が、半円程度の円弧状の外周面11aと内面11bとからなり、両側に頂辺部11cが形成されている。
【0031】
なお、痂皮取り部11の頂辺部11cは、痂皮を剥ぎ取れる程度に鋭利である必要がある一方で、その鋭利性は、痂皮取り時に皮膚への損傷がなく、運搬用無菌袋が破れない程度に抑える必要がある。
【0032】
また、針キャップ1の材質は、特に限定されないが、例えば樹脂材料や金属材料が用いられる。例えば針キャップ1は、合成樹脂材料によって成型されてもよく、かかる場合、適度な強度が設計でき、且つ、複雑な構造が安価に製造できる。更に、医療廃棄物として焼却が可能になる。合成樹脂材料としては、射出成型ができ滅菌に耐える素材が好ましい。滅菌とは、EOG滅菌、オートクレーブ滅菌、ガンマー線滅菌、電子線滅菌等であり、これらの少なくとも一つに対応できる素材であればなお良い。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラプルオロエチレン、ABS樹脂( アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリカーボネイトなどが好適に用いられる。針キャップ1の寸法としては、針外径及びハブ径により異なるが、内径/外径が1mm/2mm〜5mm/8mmであり、長さは20mm〜60mm程度が好ましい。
【0033】
針キャップ1は、例えば図1に示したように血液浄化処理用器具2に適用される。血液浄化処理用器具2は、例えば血液浄化処理時に患者に穿刺される針10と、針キャップ1と、針10が先端部に接続されたチューブ20と、チューブ20の後端部を他のチューブに接続するための接続部21を有している。チューブ20の針10に近い部分には、針10を動かす際に作業員が保持する保持部22が設けられている。また、チューブ20には、クランプ23が取り付けられている。接続部21には、キャップ24が嵌められている。なお、針10は、穿刺ルートを形成する鋭利性の高い通常針であってもよいし、穿刺ルートに挿入される鋭利性の低いダル針であってもよい。また、針10の材質は、ステンレスなどの金属針であってもよいし、プラスチック針であってもよい。
【0034】
血液浄化処理用器具2は、例えば図3に示すように血液浄化回路30に適用できる。血液浄化回路30は、例えば血液成分を分離、吸着するなどして血液を浄化する中空糸モジュールなどの血液浄化器40と、採血された血液を血液浄化器40に供給する採血回路41と、血液浄化器40を通過した血液を返血する返血回路42を有している。採血回路41には、ポンプ43が設けられている。血液浄化処理用器具2は、例えば採血回路41の採血側の端部区間と、返血回路42の返血側の端部区間にそれぞれ取り付けられ、血液浄化回路30の一部を構成している。血液浄化回路30は、例えば透析処理、血漿交換処理、血漿吸着処理、血液成分除去処理などの血液浄化処理に用いることができる。
【0035】
以上のように構成された針キャップ1及び血液浄化処理用器具2を用いて血液浄化処理を行う際には、例えば血液浄化処理用器具2が無菌袋から取り出され、図3に示すように血液浄化回路30の両端部に接続される。次に、例えば血液浄化処理用器具2の針キャップ1を用いて患者の痂皮が取り除かれる。この際、例えば作業者によって図4及び図5に示すように針キャップ1の痂皮取り部11が腕Eの痂皮D近傍に配置され、痂皮取り部11の頂辺部11cが痂皮Dと皮膚Fの間に挿入される。その後、痂皮取り部11が、針10の挿入軸A周りに回転され、頂辺部11cが回転して痂皮Dが剥ぎ取られる。その後、針キャップ1が取り外され、痂皮Dが取り除かれた穿刺ルートRに針10が挿入され、針10が皮膚Fの下の血管Gに刺される。その後、針10から採血及び返血が行われ、血液浄化回路30を用いて血液浄化処理が行われる。
【0036】
以上の実施の形態によれば、針キャップ1の先端部1bに、針10の挿入軸方向Xに幅のある鋭角の頂辺部11cが形成されているので、頂辺部11cを針10の挿入軸A周りに回転させて痂皮Dを剥ぎ取ることができる。こうすることによって、痂皮Dを取る作業時に指や針キャップ自体により視界が妨げられなくなり、頂辺部11cと痂皮Dの接触部分が見やすくなる。また、痂皮Dを剥ぎ取る頂辺部11cに幅ができるので、頂辺部11cを痂皮Dに位置合わせする作業を行い易くなる。よって、痂皮取りの作業を容易に行うことができ、皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる。
【0037】
上記実施の形態において、痂皮取り部11は、針キャップ1の先端部1bの左右の中心線Cを挟んだ両側に形成され、両側の頂辺部11cは、先端部1bの周方向において互いに逆向きになるように形成されている。このため、左右どちらからでも痂皮Dの剥ぎ取り作業を行うことができるので、痂皮Dをより見やすい方向から取ることができる。
【0038】
痂皮取り部11の内面11bは、外周面11a側に凸に湾曲しているので、頂辺部11cの角度をより鋭角にすることができるので、痂皮Dをより取り除き易くなる。
【0039】
上記針キャップ1は、血液浄化処理時に穿刺される通常針、ダル針に用いられるものであり、同じ患者に対して複数回行われる血液浄化処理において痂皮Dを容易に除去できるので、作業の迅速化、効率化が図られ、また患者への負担も低減できる。
【0040】
以上の実施の形態では、痂皮取り部11が左右の中心線Cの両側に設けられていたが、例えば図6に示すように片側だけであってもよい。また、上述の痂皮取り部11の内面11bは、外周面11a側に凸に湾曲していたが、図7に示すように平面が傾斜しているものであってもよい。
【0041】
以上の実施の形態で記載した針キャップ1において、先端部1bに突出部が形成されていてもよい。以下、かかる場合について説明する。例えば図8(a)、図8(b)及び図9に示すように針キャップ1の先端部1bには、頂辺部11cよりも前方側に突出し、前面50aが平坦な突出部50が形成される。突出部50は、例えば針10の挿入軸方向Xに長い四角柱状に形成され、先端部1bの基端から前方側に向けて中心線C上に形成される。突出部50は、例えば幅0.2〜4.0mm、高さ0.2〜5.2mm程度に形成されている。痂皮取り部11の外周面11aは、突出部50から先端部1bの周方向に沿って突出部50から離れる方向に向かって形成され、当該外周面11aの離れる方向の端辺に頂辺部11cが形成されている。内面11bは、頂辺部11cから突出部50の側面まで形成されている。痂皮取り部11は、突出部50の左右の両側に形成されている。なお、この例において、その他の構成は上記実施の形態と同様であるので、同じ符号を用いて説明を省略する。
【0042】
かかる例によれば、針キャップ1の先端部1bに突出部50が形成されているので、例えば運搬中に針キャップ1の先端により無菌袋に穴を開けることを防止できる。よって、針10の運搬を適正に行うことができる。
【0043】
また、突出部50が針キャップ1の先端部1bの左右の中心線C上に形成されているので、先端部1bの強度を上げることができる。これにより、例えば痂皮取り部11の厚みを薄くすることができるので、頂辺部11cの角度をより鋭角にすることができる。よって痂皮Dの取り除き作業をより容易に行うことができる。
【0044】
痂皮取り部11は、突出部50の左右の両側に形成されていているので、左右どちらからでも痂皮Dの取り除き作業を行うことができ、痂皮をより見やすい方向から取ることができる。
【0045】
なお、かかる例においても、痂皮取り部11は、突出部50の片側のみに設けられていてもよい。また、突出部50は円柱状など他の形状であってもよい。また、針キャップ1の先端部1bの強度は、素材特性、成型物の構造によって異なるが、シリコンゴムに対する評価実験で3000mN以下の荷重で刺通しない特性が好ましい。この評価実験は、荷重測定器(MODEL-1605N:アイコーエンジニアリング社製)を用い、厚み1.05mm、40mmΦのシリコンゴム(SR-50;タイガーポリマー社製)に対し17G針で穿刺後、針キャップ1の先端部1bを押しつけ、刺通の有無、刺通時の荷重を測定したものである。当該実験では、従来の針キャップは、2700mN未満の荷重で刺通し、本実施の形態の突出部50付きの針キャップ1は、3000mN以下の荷重では刺通しなかった。この詳細は実施例において記載する。
【0046】
また、以上の実施の形態において、例えば図10に示すように痂皮取り部11が、前面に近づくにつれて次第に薄くなるように内面11bが針10の挿入軸方向Xに傾斜していてもよい。かかる場合、痂皮取り部11に厚い部分と薄い部分ができるので、痂皮Dの形や大きさなどに応じてより使いやすい部分を用いて痂皮Dを取ることができる。なお、この例は、上述の突出部50の無い針キャップ1にも適用できる。
【0047】
以上の実施の形態で記載した痂皮取り部11には、外周面11aに代えて、図11(a)、(b)に示すように針の挿入軸方向Xに沿った平面状の外面11aが形成されていてもよい。なお、他の構成は、上述の実施の形態と同様であり、外面11aと内面11bによって針10の挿入軸方向Xに幅のある鋭角の頂辺部11cが形成されている。この例においても、頂辺部11cを針10の挿入軸A周りに回転させて痂皮Dを剥ぎ取ることができるので、痂皮Dを取る作業時に指や針キャップ自体により視界が妨げられなくなり、頂辺部11cと痂皮Dの接触部分が見やすくなる。また、痂皮Dを剥ぎ取る頂辺部11cに幅ができるので、頂辺部11cを痂皮Dに位置合わせする作業を行い易くなる。よって、痂皮取りの作業を容易に行うことができ、皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる。
【0048】
この例において、内面11bが平面であったが、上記実施の形態でも記載したように内面11bは、図12に示すように外面11a側に凸に湾曲していてもよい。また、図13に示すように痂皮取り部11が、左右の中心線Cを挟んだ両側に形成され、当該両側の頂辺部11cは、先端部1bの左右に互いに逆向きになるように形成されていてもよい。また、上記実施の形態でも記載したように、図14に示すように先端部1bに突出部50が形成されていてもよい。外面11aは、突出部50の左右の両側に形成され、頂辺部11cは、突出部50から遠い外側の端辺に形成されている。なお、外面11aは、突出部50の片側にのみ形成されていてもよい。
【0049】
また、別の観点において、本発明は、針キャップに取り付けられた、ボタンホール穿刺用の痂皮除去具であってもよい。例えば図15、図16に示すように、痂皮除去具60は、例えば三角形の板状の先端部60aと、当該先端部60aが接続された円柱状或いは角柱状の基部60bを有している。先端部60aは、円筒状の針キャップ70の長軸方向Hに平行な一の側面60cと、斜めな他の側面60dを有し、それらの側面60c、60dによって鋭利な先端60eが形成されている。また、基部60bは、針キャップ70に接続されている。この例によれば、先端60cにより痂皮取りの作業を容易に行うことができ、皮膚を損傷せずに痂皮を取ることができる。
【0050】
痂皮除去具60は、針キャップ70と一体になっていてもよいし、針キャップ70が別体で嵌め込み自在になっていてもよい。また、痂皮除去具60が、穿刺針入れ無菌袋に固定されていてもよい。この場合、運搬中に痂皮除去具60の鋭利な先端が無菌袋を破ることを防止できる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば以上の実施の形態において、針キャップ1が、血液浄化処理時に穿刺される針10に用いられるものであったが、注射器などで薬液投与時や採血時に穿刺される針に用いられる場合にも、本発明は適用できる。
【実施例】
【0053】
以下に、上記実施の形態における特定形状の先端部を有する針キャップについて性能評価実験を行った結果を示す。評価実験1は、針キャップの先端部の刺通性能を評価する実験であり、評価実験2は、痂皮取り性能を評価する実験である。
【0054】
(評価実験1)
評価実験1は、荷重測定器(MODEL-1605N:アイコーエンジニアリング社製)を用い、厚み1.05mm、40mmΦのシリコンゴム(SR-50;タイガーポリマー社製)に対し17G針で穿刺後、各サンプルの針キャップ1の先端部1bを押しつけ、刺通の有無、刺通時の荷重を測定することによって行った。実験条件として、室温26℃にて刺通スピードは50mm/minで行った。この評価実験1の結果を表1に示す。
【0055】
実施例1のサンプルは、図10に示したような突出部50を有する針キャップ1であり、内面11b及び頂辺部11cが前方側に傾斜しているものである。実施例2のサンプルは、図8に示したような突出部50を有する針キャップ1であって、内面11b及び頂辺部11cが傾斜しておらず、水平になっているものである。実施例3のサンプルは、実施例2と同様の突出部50を有する針キャップ1であって、内面11bが湾曲しておらず図7に示したように平面で傾斜したものである。比較例1のサンプルは、特表2009−1542343号公報に記載されているような、前方側に向いた尖端が形成された針キャップである。
【0056】
【表1】

比較例1では2543mNの荷重でシリコンゴムを刺通したのに対し、実施例1〜3では、3000mNの荷重をかけてもシリコンゴムを刺通しなかった。
【0057】
(評価実験2)
評価実験2は、透析患者に対して、各サンプルの針キャップを用いて痂疲の剥離作業を実施し、そのときの剥離状況と痂皮取り時間を計測することによって行われた。評価実験2は、透析導入後3年以上経過し週3回の血液透析を実施している末期腎不全血液透析患者4名に対し、第二透析日に前回穿刺して痂疲が形成された上腕シャント部において施行された。この評価実験2の結果を表2に示す。また、実施例1〜実施例3及び比較例1のサンプルは、上記評価実験1のサンプルと同じものが用いられた。比較例2のサンプルは、17G 注射針(テルモ社製)である。比較例3のサンプルは、17G AVFダルニードル(二プロ社製)である。ここで、比較例2、3として注射針やAVFダルニードルを痂皮取りに使用したのは、医療現場において針を用いて痂皮取りが行われることが多いためである。
【0058】
痂疲の剥離状況は、4段階で評価し、痂皮取り時間は、各サンプルを有する血液浄化処理器具を無菌袋から取り出す作業開始から、その後サンプルで痂皮を剥離しその後針で穿刺を開始するまでの総痂皮除去時間と、そのうちの痂皮を取り除く痂皮除去時間を測定した。
【0059】
【表2】

【0060】
比較例1は、剥離状況については、手元が見えにくく、皮膚を滑らしての剥離のため剥離状況評価が悪く、痂皮除去時間が長くなった。又、総痂皮除去時間はキャップが鋭利な為慎重な操作となり、時間が長めとなった。
【0061】
比較例2及び比較例3の剥離状況は2と普通であった。比較例2は、痂皮取り後に他のAVFダルニードルを無菌袋から取り出す作業が入る為、総痂皮除去時間は長くなった。又、比較例3は、痂皮取り後に針に付着した痂皮を除き殺菌するため針をアルコール綿で消毒する必要があるが、このアルコール綿での消毒に手間取り、総痂皮除去時間は長くなった。痂皮除去時間には影響なかったが、比較例2及び比較例3では、針先による皮膚損傷の恐れがある為、細心の注意を要した。
【0062】
実施例は剥離状況は4と良好であり、総痂皮除去時間及び痂皮除去時間ともに短く、目視確認もでき、安心して剥離操作ができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、痂皮取りの作業を容易に行い、皮膚を損傷せずに痂皮を取る際に有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 針キャップ
2 血液浄化処理用器具
10 針
11 痂皮取り部
11a 外周面
11b 内面
11c 頂辺部
20 チューブ
21 接続部
22 保持部
23 クランプ
24 キャップ
30 血液浄化回路
A 針の挿入軸
B 角度
C 中心線
D 痂皮
X 針の挿入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体に穿刺するための針が挿入される針キャップであって、
先端部には、痂皮取り部が形成され、
前記痂皮取り部は、針の挿入軸周りに湾曲する円弧状の外周面と当該外周面の内側に位置する内面とを有し、前記外周面と前記内面によって前記針の挿入軸方向に幅のある鋭角の頂辺部が形成されている、針キャップ。
【請求項2】
前記先端部には、前記頂辺部よりも前方側に突出し、前面が平坦な突出部が形成されている、請求項1に記載の針キャップ。
【請求項3】
前記突出部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線上に前記先端部の基端から前方側に向けて形成され、
前記痂皮取り部の前記外周面は、前記突出部から前記先端部の周方向に沿って前記突出部から離れる方向に向かって形成され、当該外周面の離れる方向の端辺に前記頂辺部が形成されている、請求項2に記載の針キャップ。
【請求項4】
前記痂皮取り部は、前記突出部の左右の両側に形成されている、請求項3に記載の針キャップ。
【請求項5】
前記痂皮取り部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線を挟んだ両側に形成され、当該両側の頂辺部は、前記先端部の周方向において互いに逆向きになるように形成されている、請求項1に記載の針キャップ。
【請求項6】
前記内面は、前記外周面側に凸に湾曲している、請求項1〜5のいずれかに記載の針キャップ。
【請求項7】
体に穿刺するための針が挿入される針キャップであって、
先端部には、痂皮取り部が形成され、
前記痂皮取り部は、針の挿入軸方向に沿った平面状の外面と当該外面の内側に位置する内面とを有し、前記外面と前記内面によって前記針の挿入軸方向に幅のある鋭角の頂辺部が形成されている、針キャップ。
【請求項8】
前記先端部には、前記頂辺部よりも前方側に突出し、前面が平坦な突出部が形成されている、請求項7に記載の針キャップ。
【請求項9】
前記突出部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線上に前記先端部の基端から前方側に向けて形成され、
前記痂皮取り部の前記外面は、前記突出部の横に形成され、当該外面の前記突出部から遠い外側の端辺に前記頂辺部が形成されている、請求項8に記載の針キャップ。
【請求項10】
前記痂皮取り部は、前記突出部の左右の両側に形成されている、請求項9に記載の針キャップ。
【請求項11】
前記痂皮取り部は、前記先端部の前方から見た左右の中心線を挟んだ両側に形成され、当該両側の頂辺部は、前記先端部の左右に互いに逆向きになるように形成されている、請求項7に記載の針キャップ。
【請求項12】
前記内面は、前記外面側に凸に湾曲している、請求項7〜11のいずれかに記載の針キャップ。
【請求項13】
前記痂皮取り部は、前面に近づくにつれて次第に薄くなるように前記内面が前記針の挿入軸方向に傾斜している、請求項1〜12のいずれかに記載の針キャップ。
【請求項14】
血液浄化処理時に穿刺される針に用いられる、請求項1〜13のいずれかに記載の針キャップ。
【請求項15】
薬液投与時又は採血時に穿刺される針に用いられる、請求項1〜14のいずれかに記載の針キャップ。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の針キャップと、当該針キャップに挿入された針と、当該針が先端部に接続されたチューブと、当該チューブの後端部を他のチューブに接続するための接続部と、を有し、血液浄化回路の一部を構成可能な、血液浄化処理用器具。
【請求項17】
針キャップに取り付けられた痂皮除去具であって、
長軸方向に平行な一の側面と斜めの他の側面を有し、それらの2つの側面により鋭利な先端が形成されている、ボタンホール穿刺用の痂皮除去具。
【請求項18】
該痂皮除去具が針キャップと一体になっている、請求項17に記載の痂皮除去具。
【請求項19】
該痂皮除去具が、穿刺針入れ無菌袋に固定されている、請求項17または18に記載の痂皮除去具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−250996(P2011−250996A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126867(P2010−126867)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【出願人】(500277803)有限会社ネクスティア (17)
【Fターム(参考)】