針板及びミシン
【課題】第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる構成にあって、第1針板に対する第2針板の着脱を極力簡単に行うことができる針板を提供すること、及び、この針板を備えたミシンを提供する。
【解決手段】針板10は、ミシンベッドに固定された第1針板11と、この第1針板11に対して着脱可能に装着される第2針板12とを備える。この針板10は、第2針板12を第1針板11に対して密接させ係合機構33の係合状態で固定する第1位置と、第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段35を備える。
【解決手段】針板10は、ミシンベッドに固定された第1針板11と、この第1針板11に対して着脱可能に装着される第2針板12とを備える。この針板10は、第2針板12を第1針板11に対して密接させ係合機構33の係合状態で固定する第1位置と、第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段35を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンベッドに固定された第1針板と、第1針板に対して着脱可能に装着される第2針板とを有する針板、及びこの針板を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンの針板は、ミシンベッド(ベッド部)の上面にネジで固定されている。この針板には、縫針が貫通可能な針穴と加工布を送る送り歯が出没可能な角穴とが形成されている。針板の下方のベッド部の内部には、水平釜機構が設けられている。この種のミシンでは、水平釜機構に糸が絡んだ場合や、メンテナンスの為に水平釜機構の周辺部を清掃する場合には、前記ネジを緩めて針板を取外し、水平釜機構及びその周辺部を露出させる。ところで、この針板を再びベッド部に取付ける際には、縫針や送り歯に対して所定の位置に正しく取付ける必要がある。針板が誤った位置に取付けられると、縫針や送り歯と衝突する虞がある。
【0003】
そこで、針板を、針穴及び角穴を有する第1針板と水平釜機構の上方に位置する第2針板とから構成し、第2針板のみをベッド部から着脱できるようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1の針板は、第1針板に第2針板を係合させるための係合機構と、針板の表面側から操作して係合機構の係合を解除する係合解除ボタンとを備えている。この係合機構においては、第1針板側に設けられた突起部と、第2針板側に設けられた板ばねの孔部とが係合する。そして、係合解除ボタンが下方へ押圧操作されることで、その係合が解除される。これにより、第1針板はベッド部に固定されたまま、第2針板のみを着脱させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−263072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記構成は、第2針板を取外す為に2段階の操作が必要である。具体的には、係合機構の係合を解除する為に、板ばねの弾性力に抗して係合解除ボタンを下側へ押し込む1次操作と、この係合解除ボタンを押し込んだまま、第2の針板を手前に引っ張る2次操作が必要となる。このように、上記構成は、2段階の操作が必要なので面倒である。また、1次操作と2次操作の操作方向が異なるため、第2針板の取外し操作がやり難い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる構成にあって、第1針板に対する第2針板の着脱を極力簡単に行うことができる針板を提供すること、及び、この針板を備えたミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1の針板は、ミシンベッドの内部に水平釜機構を有するミシンにおける前記ミシンベッドの上面に配置されるものであり、前記ミシンベッドに固定され、縫針が貫通可能な針穴と加工布を送る送り歯が出没可能な角穴とが形成された第1針板と、前記第1針板と隣り合い且つ前記水平釜機構の上方に配置され、前記第1針板に対して着脱可能に装着される第2針板と、前記第1針板に形成された係合部と前記第2針板に形成された被係合部とを有し、前記係合部と前記被係合部とが係合した係合状態で、前記第1針板に対して前記第2針板を保持させる係合機構と、前記第2針板を前記第1針板に対して密接させ前記係合機構の係合状態で固定する第1位置と、前記第2針板を前記第1針板から離間させて前記係合機構が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、第2針板を取外す際には、切換手段の第1位置から第2位置への切換え操作により、第2針板を第1針板から離間させて係合機構を非係合状態にできる。つまり、切換手段の1操作によって、第1針板に対する第2針板の係合状態を解除でき、第2針板をそのまま取外すことができる。よって、第2針板の取外し操作を簡単にすることができる。
一方、切換手段の第1位置にあっては、第2針板を第1針板に密接させると共に、係合機構の係合部と被係合部との係合により第2針板を第1針板に保持させた状態で固定する。このため、第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる。
【0009】
請求項2の針板は、請求項1の発明において、前記切換手段は、前記第2位置から前記第1位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が係合状態となるよう第1針板と密接する方向へ連動させ、前記第1位置から前記第2位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が非係合状態となるよう前記第1針板から離間する方向へ連動させるように構成されていることを特徴とする。
請求項3の針板は、請求項1又は2の発明において、前記切換手段は、前記第1針板及び前記第2針板のうち何れか一方の針板に設けられ、前記第1位置と前記第2位置との間で操作者により切換え操作される操作部材と、前記操作部材に対して連動するように設けられた作動部材と、他方の針板に設けられ、前記作動部材に当接する当接部材とを備え、前記操作部材における前記第1位置及び前記第2位置の間での切換え操作に連動して、前記作動部材の前記当接部材に対する当接位置が変わることで、前記第2針板を前記第1針板に対して密接及び離間させることを特徴とする。
【0010】
請求項4の針板は、請求項3の発明において、前記切換手段は、前記一方の針板と前記操作部材又は前記作動部材との間に設けられ、前記操作部材の前記第1位置と前記第2位置とを保持する保持部材を備えることを特徴とする。
請求項5の針板は、請求項3又は4の発明において、前記操作部材は、その上面が前記第1針板又は前記第2針板の上面と面一若しくは当該針板の上面よりも低くなるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6の針板は、請求項3から5の何れかの発明において、前記操作部材は、前記一方の針板に対して回動可能に支持されていることを特徴とする。
請求項7の針板は、請求項6の発明において、前記操作部材の上面には、工具による回動操作用の凹部が形成されていることを特徴とする。
請求項8の針板は、請求項1から7の何れかの発明において、前記切換手段の一部又は全部並びに前記第2針板は、合成樹脂材料からなることを特徴とする。
請求項9のミシンは、請求項1から8の何れかに記載の針板を備えたことを特徴とする。よって、上記した請求項1から8と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の針板によれば、第2針板を取外す際には、切換手段の第1位置から第2位置への切換え操作により、第2針板を第1針板から離間させて係合機構を非係合状態にできる。つまり、切換手段の1操作によって、第1針板に対する第2針板の係合状態を解除でき、第2針板をそのまま取外すことができる。よって、第2針板の取外し操作を簡単にすることができる。
一方、切換手段の第1位置にあっては、第2針板を第1針板に密接させると共に、係合機構の係合部と被係合部との係合により第2針板を第1針板に保持させた状態で固定する。このため、第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる。
【0013】
請求項2の針板によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、切換手段の第1位置と第2位置との間での切換え操作によって、第2針板の装着と取外しとを行うことができる。また、第2針板の移動を切換手段の切換え操作に連動させることができ、第1針板に対する第2針板の着脱をより容易に行うことができる。よって、使い勝手を良くすることができる。
請求項3の針板によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、切換手段は、操作部材における操作者の切換え操作に伴い、作動部材の当接部材に対する当接位置が変わることで、第2針板を第1針板に対して密接及び離間させる。つまり、切換手段を、操作部材と作動部材と当接部材とから構成することで、構成の簡単化を図ることができる。また、操作者が操作部材を切換える操作を行ったときにだけ、係合機構を係脱させて第2針板を着脱することができる。
【0014】
請求項4の針板によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、操作部材は、保持部材によって第1位置あるいは第2位置で保持される。このため、操作部材の第1位置にて、第2針板を第1針板に密接させて固定した状態を確実に保持することができる。また、操作部材の第2位置では、第1針板に対する第2針板の係合を確実に解除して第2針板を離間させることができる。総じて第2針板の着脱操作を確実に行うことができる。
請求項5の針板によれば、請求項3又は4に記載の発明の効果に加え、操作部材の上面が第1針板又は第2針板の上面と面一若しくは当該針板の上面よりも低く、その針板から突出しない構成にできる。従って、縫製を行う場合に、針板上において操作部材が加工布に引っかかることがなく邪魔にならない。よって、縫製作業を良好に行うことができる。
【0015】
請求項6の針板によれば、請求項3から5の何れかに記載の発明の効果に加え、操作部材は、一方の針板に対して回動可能に支持されているため、操作部材を簡単且つ容易に操作することができる。つまり、第2針板の着脱を、簡単且つ容易に行うことができる。
請求項7の針板によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、操作部材の回動操作を、その上面の凹部を利用して工具により行うことができる。従って、工具を使用することで、第2針板の着脱を、更に容易に行うことができる。
請求項8の針板によれば、請求項1から7の何れかに記載の発明の効果に加え、例えば切換手段の保持部材と第2針板とを合成樹脂材料により一体に構成して、部品点数及びコストの削減を図ることができる。
請求項9のミシンによれば、請求項1から8の何れかに記載の針板を備えたので、請求項1から8の何れかと同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態をミシンと共に示すもので、第1針板に対し第2針板を装着した状態で示す外観斜視図
【図2】ベッド部における補助テーブルと第2針板とを取外した状態で示す斜視図
【図3】切換手段を第1位置に切換えた状態での第1針板及び第2針板を示す平面図
【図4】同裏面図
【図5】切換手段を第2位置に切換えた状態での第1針板及び第2針板を示す平面図
【図6】同裏面図
【図7】(a)及び(b)は、図4のVIIa−VIIa線及びVIIb−VIIb線に沿って示す係合機構部分の断面図
【図8】第2針板側における切換手段を拡大して示す分解斜視図
【図9】(b)は第2針板側における切換手段の近傍部を拡大して示す裏面図、(a)は、(b)のIXa−IXa線に沿う断面図
【図10】(a)及び(b)は、切換手段を第1位置及び第2位置に切換えた状態を拡大して示す裏面図
【図11】本発明の第2実施形態を示す図10相当図
【図12】本発明の第3実施形態を示すものであり、(a)及び(b)は、第2針板と切換手段の上面側及び裏面側からの斜視図
【図13】(a)及び(b)は、第2針板側における切換手段を拡大して示す上面側及び裏面側からの分解斜視図
【図14】(a)及び(b)は、第2針板側における切換手段を除いた状態を拡大して示す平面図及び裏面図
【図15】(a)は、図14のXVa−XVa線に沿う断面図、(b)は切換手段を組付けた状態で一部破断して示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明を家庭用ミシンに適用した第1実施形態について、図1〜図10を参照しながら説明する。
図1に示すように、ミシンMは、ミシンベッドとしてのベッド部1と、ベッド部1の右端部から立設された脚柱部2と、脚柱部2の上端からベッド部1に対向するように左方へ延びるアーム部3と、アーム部3の左部に設けられた頭部4とを一体に備えて構成されている。このミシンMでは、アーム部3が左右方向へ延びるように見た側を正面として使用される。即ち、当該ミシンMの操作者たるユーザが位置する側、つまり図1における紙面手前側を前方、その反対側を後方とし、それら前後方向と直交するアーム部3の延びる方向を左右方向として説明する。
【0018】
アーム部3の前面には、種々の操作スイッチ類5が配設されると共に、脚柱部2の前面には横型の液晶ディスプレイ6が設けられている。アーム部3内には、ミシン主軸(図示略)が左右方向に延びるように設けられていると共に、前記ミシン主軸を回転させるミシンモータ(図示略)が配設されている。詳しい図示は省略するが、頭部4には、下端に縫針7を装着した針棒が設けられており、この縫針7の近傍に、加工布(図示せず)を上方から押さえるための布押え8aが配置されている。また、図示は省略するが、アーム部3内には、前記針棒をミシン主軸の回転に基づき上下動させる針棒駆動機構、針棒を布送り方向と直交する方向(左右方向)に揺動させる針棒揺動機構、天秤を針棒の上下動に同期して上下動させる天秤駆動機構等が配設されている。
【0019】
そして、ベッド部1の上面には、針板10が設けられている。詳しい図示は省略するが、ベッド部1内には、針板10の下側に位置して、送り歯8b(図2参照)を上下方向及び前後方向に移動させる布送り機構が配設されている。また、針板10の下側(厳密には後述する第2針板12の下側)には、下糸ボビン(図示略)を収容し縫針7と協働して縫目を形成する水平釜機構9(図2参照)が配設されている。尚、図2は、ベッド部1について、その前側の左半部に装着される補助テーブル1aと、第2針板12とを外した状態で示している。
【0020】
次に、針板10について図3〜図6も参照しながら説明する。
図3〜図6に示すように、針板10は、全体として略矩形板状をなしており、ベッド部1に固定される第1針板11と、この第1針板11に対して着脱可能に装着される第2針板12とを備えている。
第1針板11は、例えば金属材料からなり矩形板状に形成されている。第1針板11には、縫針7が貫通可能な針穴13と、前記加工布を送る送り歯8bが出没可能な複数(例えば7つ)の角穴14とが形成されている。針穴13は、左右方向に細長い湾曲状をなし、角穴14は夫々前後方向に細長い直線状をなして針穴13を囲むように設けられている。また、第1針板11は、2つの貫通穴15を有しており、これら貫通穴15に皿ネジ15a(図2参照)が夫々挿通されてベッド部1上面に固定されている。
【0021】
図4、図6に示すように、第1針板11の裏面には、左後方(同図中、右後方)の隅部に位置して、当接部材たる当接受け部材16が設けられている。当接受け部材16は、金属板から全体として略「J」字状に形成されており、その前部及び後部から夫々第1針板11側へ延出する取付部16a,16bを一体に有する。当接受け部材16は、取付部16a,16bにおいて夫々ビス18により取付け固定されている。図10(a)に示すように、当接受け部材16には、取付部16a,16b側から左側(第2針板12側)へ延びる3つの当接部17a〜17cが一体に設けられている。詳細には、当接受け部材16の前側及び中間部に位置する前側当接部17a及び中間当接部17bは、後述の作動カム39を包囲するように形成されている。これら当接部17a、17bで形成された当接受け部材16前半部の内壁部は、作動カム39外周に当接可能な摺接面19とされている。
【0022】
当接受け部材16において、前側当接部17aの先端側には、前後方向に延びる幅狭なガイド片17dが形成されている。ガイド片17dは、その可撓性によりバネ片の如く機能し、先端部(自由端部)には、後述のエンボス43と係合することで第2針板12を第1針板11側へ密接させるガイド凸部17eを有する。当接受け部材16の後側に位置する後側当接部17cは、第2針板12の裏面と後述の保持部材47の挟持部47aとで上下に挟まれるようになっている(図9参照)。
図5、図6に示すように、第1針板11の前縁部には、前方に突出する複数(例えば3つ)の係合突起部19a〜19cが左右に間隔を隔てて設けられている。係合突起部19a〜19cのうち、右端の係合突起部19cは平面視にて半円状をなし、第1針板11と同じ厚み寸法に形成されている。他の係合突起部19a,19bは平面視にて矩形状をなし、図7(a)に示すように第1針板11の略半分の厚み寸法に設定され、第1針板11の下面に連なるように形成されている。
【0023】
他方、第2針板12は、例えば金属材料からなり、板状で且つ第1針板11の前縁部及び左縁部に沿う平面視略「L」字状に形成されている。図3に示すように、第2針板12には、左右方向における中央部に位置して、前記下糸ボビンを水平釜機構9に投入するための開放部22が後側から手前側へ切欠くように形成されると共に、この開放部22を上側から覆う透明な合成樹脂製の針板蓋23が着脱自在に取付けられている。図4に示すように、第2針板12の裏面側には、左右一対の第1下糸ガイド板24及び第2下糸ガイド板25が、夫々ビス26,27により下方から取付け固定されている。これらガイド板24,25には、前記開放部22に対応させてボビン投入口28が形成されている。これにより、当該ガイド板24,25におけるボビン投入口28の周縁部は、針板蓋23の厚みの分だけ下方へ窪み、且つ第2針板12の上面12aから段落ちした底壁部29を構成する。第1下糸ガイド板24側の底壁部29には、下糸ボビンからの下糸を左方にガイドする略三日月状の糸ガイド部29aが一体形成されており、糸ガイド部29aの前側に、ボビン投入口28に連通する円弧曲線状の第1案内溝29bが形成されている。
【0024】
第2下糸ガイド板25には、針板蓋23の右方に位置して保持部材取付部25aが設けられると共に、この保持部材取付部25aに、弾性を有する保持部材30が針板蓋23を左方に押圧するように配置されている。保持部材30は、その弾性力により針板蓋23を取外し不能に保持し、当該弾性力に抗して右方に操作されることで、針板蓋23から離間して針板蓋23の取外しを許容する。尚、この保持部材30の操作により針板蓋23を第2針板12の開放部22から取外すことで、当該開放部22とボビン投入口28が開放され、そのボビン投入口28から、下糸ボビンを水平釜機構9に装着するようになっている。
また、第1下糸ガイド板24には、針板蓋23の左方に位置して覆い蓋取付部24aが形成されると共に、この覆い蓋取付部24aに、図3に示すような合成樹脂製の覆い蓋31が取付けられている。覆い蓋取付部24aには、覆い蓋31の周縁部に沿って間隙を形成し且つ第1案内溝29bの左端部と覆い蓋31の下方で連通する第2案内溝24bが設けられている。覆い蓋31の下端部には、第2案内溝24bの前端部で下糸を切断する為の切断刃(図示略)が取付けられている。
【0025】
図6に示すように、第2針板12の後面部には、第1針板11の前縁部に臨み且つ前記係合突起部19a〜19cに係合可能な複数の被係合部32a〜32cが夫々設けられている。被係合部32a〜32cのうち、右端の被係合部32cは、第2針板12に形成さえた半円状をなす切欠部12b(図5参照)と、第1下糸ガイド板24に係合突起部19cと対応するように形成された突出部24cとからなる。図3、図7(b)に示すように、被係合部32cは、切欠部12bに係合突起部19cが嵌るように係合し、且つ突出部24cにて当該係合突起部19cを下方から受けるように係合する。他の被係合部32a,32bは、何れも係合突起部19a,19bにより下方から受けられる構造をなす。具体的には、例えば図7(a)に示すように、被係合部32bは、係合突起部19bに対応する第2針板12の下面側の部分を切欠いた形状をなしている。
こうして、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとが係合した係合状態にあっては、第2針板12が第1針板11に対して上下方向及び左右方向に位置決めされ、且つ針板11,12間で相互に保持するようになっている。これら係合突起部19a〜19c、被係合部32a〜32c、並びに前記後側当接部17c及び挟持部47aは、本実施形態における係合機構33を構成する。
【0026】
さて、上記針板10は、第2針板12を第1針板11に対し密接させて前記係合機構33の係合状態で固定し、或は第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33を非係合状態とするための切換手段(切換機構)35を備えている。この切換手段35について、図8〜図11も参照しながら説明する。
【0027】
図3、図8、図9等に示すように、第2針板12の後部には、円形に切欠いた取付孔部36が形成されており、この孔部36に、切換手段35の操作部材37が回動可能に取付けられている。操作部材37には、取付孔部36に回動可能に嵌り込む円板部38が設けられている。図9に示すように、円板部38の上下方向の厚み寸法は、第2針板12と同一の厚み寸法に設定されている。また、この円板部38の下側には作動カム39が設けられると共に、この作動カム39の下面側に被保持部40(図8参照)が設けられている。これら円板部38、作動カム39及び被保持部40は、合成樹脂材料からなり、射出成型により一体的に成形されている。尚、本実施形態では、操作部材37たる円板部38と作動部材たる作動カム39と被保持部40とが一体的に構成されていることから、以下では、説明の便宜上これらの部材37〜39の総称を操作部材37とする。
【0028】
円板部38の上面部には、径方向に延びるスリット状の凹部38aが形成されると共に、周縁側に位置して後述の切換え位置を指し示す、表示部としての指標部38bが設けられている。操作部材37の操作は、凹部38aに図示しない工具の先端が差込まれ、当該工具の回動操作によって容易に行うことができる。尚、凹部38aの形状は、操作部材37の回動操作に供される工具の種類に応じて適宜変更してもよい。例えば、一般的なマイナスドライバー又はプラスドライバーに適合する細いI字状又は十字状溝、或いは六角レンチに適合する六角穴(多角形の穴)でもよい。
また、図3、図5に示すように、針板12の上面には、「C」と「O」の文字が刻印されている。「C」はClose、「O」はOpenの意味である。操作部材37が第1位置にあるときには、図3に示すように指標部38bが「C」を指し、操作部材37が第2位置にあるときには、図5に示すように指標部38bが「O」を指すように配置されている。
【0029】
図8、10に示すように、作動カム39は、確動カムの一種である三角カムであって、その三角カムの一辺側を切り欠いた形状をなしている。
ここで、三角カムとは、三角形の3つの頂点の夫々を中心とする大小2つの半径からなる円弧を繋げた外周形状であって、その頂点のうちの1つがカムの回転中心点になっているカムである。また、三角カムの外形寸法は、大小2つの半径を加算した寸法で一定である。そして、三角カムの回動によって動作する従節体(カムフォロア)は、通常、三角カムを両側から挟むように接触する。よって、三角カムは、従節体とガタが無い状態で回動し、それに伴って従節体が動作する。
本実施形態の場合、図8、図10に示すように、作動カム39全体の外形寸法は円板部38に比し大きく設定されている。また、この作動カム39の外縁部には、三角カムの一辺側を切欠くようにして形成された回動規制部41が形成されている。また、作動カム39は、取付孔部36に円板部38が嵌め込まれた状態で、第2針板12の裏面と当接する。このとき、円板部38の上下方向の厚み寸法は、第2針板12と同一の厚み寸法に設定されているので、操作部材37の上面37aと第2針板12の上面12aとが面一になる(図9(a)参照)。
【0030】
前記第2針板12の裏面側には、取付孔部36の近傍に位置して、下方に突出する突起状のエンボス43が一体的に設けられている。図10に示すように、作動カム39が回動する際、回動規制部41の一端側の壁部41aと他端側の壁部41bとに択一的に当接することで、作動カム39の回動範囲が図10(a)に示す第1位置と、図10(b)に示す第2位置との間に規制される。また、この作動カム39の回動の際、作動カム39の外周における前記摺接面19に対する当接位置が変わることで、第2針板12を、当接受け部材16(第1針板11)に対して相対的に移動させる。即ち、摺接面19を有する当接受け部材16は従節体として、作動カム39と共にカム機構44として機能する。このとき、上述したように、作動カム39は三角カムなので、作動カム39の回動に関わらず、作動カム39と当接受け部材16との間には前後方向(紙面上下方向)のガタは無い。
【0031】
被保持部40は、円板状をなし、作動カム39の下面側に形成されている。図8、図9(a)に示すように、被保持部40の下面側には、中央部に窪み部40cが形成されると共に、互いに「X」字状に交差する一対の溝部40a,40bが形成されている。溝部40a,40bは何れも断面が「V」字状に窪んでいる。そして、操作部材37が第1位置のときには、一方の溝部40aが左右方向を指向し(図11(a)参照)、第2位置のときには、他方の溝部40bが左右方向を指向する(図11(b)参照)。
【0032】
図8に示すように、第2針板12には、取付孔部36よりも後方に位置して、雌螺子部45と係止孔46とが形成されている。第2針板12の裏面側には、保持部材47が、雌螺子部45に螺挿される螺子45aにより固定されている。保持部材47は、例えば弾性を有する金属製のバネ材料からなり、第2針板12の後端部から被保持部40にわたって延びる長尺形状をなす。即ち、保持部材47は、前記螺子45aに挿通される環状の取付部47bと、この取付部47bから被保持部40側に延びる腕部47cとを有する。腕部47cの先端部(自由端部)は他の部分に比し左右へ幅広に形成されており、当該先端部に左右に延びる凸部47eが屈曲形成されている。凸部47eは、被保持部40の溝部40a,40bに対して択一的に嵌合する山形状をなす。この溝部40a,40bと凸部47eとが嵌合する際に節度感が付与されると共に、被保持部40ひいては操作部材37を、第1位置又は第2位置に保持するようになっている。詳しい図示は省略するが、腕部47cの自由端部は、バネ材料の可撓性によって、凸部47eが溝部40a,40bから外れる位置まで下側へ弾性変形して、操作部材37の回動を許容する。
【0033】
保持部材47は、取付部47bの後端部において上方へ「L」字状に屈曲形成された係止部47fを有する。この係止部47fは、前記係止孔46に係止されており、保持部材37の回り止めとして作用する。即ち、操作部材37を回動させたとき、その回動によって保持部材47に回転方向の力が作用する。このとき、保持部材37は螺子45aで固定されてはいるものの、前記回転方向の力を繰り返し受けることによって、螺子45aが緩み、回転して位置がずれる虞がある。このような不具合の発生を防止する為、係止部47fによって、保持部材47が回転して位置がずれないように保持される。また、保持部材47は、取付部47bの右部において下方へクランク状に屈曲形成された挟持部47aを有する。図10(a)に示すように、第2針板12を第1針板11に装着した状態では、第2針板12の裏面と挟持部47aとの間で、前記当接受け部材16の後側当接部17cを上下に挟むようになっている。
【0034】
この挟持部47a及び前記被係合部32a〜32cは被係合部に相当し、後側当接部17c及び係合突起部19a〜19cは係合部に相当する。また、円板部38、作動カム39、当接受け部材16、被保持部40、保持部材47等は切換手段35を構成する。
図8に示すように、第2針板12側の切換手段35の組付けは、操作部材37の円板部38を、第2針板12の取付孔部36に下方から差し込んだ後、第2針板12に対して保持部材47を螺子45aで固定することにより行われる。こうして、操作部材37は、第2針板12に対して回動可能となり、且つ保持部材47の腕部47cにより下側から保持され、取付孔部36から当該操作部材37が外れないようになっている。
【0035】
次に、以上のように構成された針板10の作用について説明する。
先ず、図5、図6に示すように、操作部材37は、指標部38bが第2針板12の上面の「O(Open)」を指し示す第2位置に切換えられており、第2針板12は、固定側の第1針板11に対して手前側に所定距離L、離間した装着前の状態にある。この状態において、操作部材37の第2位置は、溝部40bと保持部材47の凸部47eとの嵌合(図10(b)参照)により保持されている。また、この場合、係合機構33は、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとの係合、並びに後側当接部17cと挟持部47aとの係合が夫々解除された非係合状態にある。従って、この状態において、操作者は、第2針板12をそのまま容易に取外すことができる。
【0036】
また、操作者は、操作部材37を第2位置から第1位置に切換えるだけで、上記の装着前の第2針板12を第1針板11に装着することができる。具体的には、操作者が、操作部材37の凹部38aに図示しない回動操作用の工具の先端を差し込んで、操作部材37を第2位置から第1位置側へ回動操作する。この切換え操作に伴い、作動カム39が当接受け部材16の摺接面19に摺接しながら図10(b)の矢印51方向へ回動するため、作動カム39の摺接面19に対する当接位置(接触点)は、図10(b)に示すP2F点,P2R点から図10(a)に示すP1F点、P1R点へ夫々変わる。この当接位置の変化つまり当接位置と操作部材37の回転中心点42との間の距離の変化によって、第2針板12側の作動カム39に対する、当接受け部材16(第1針板11)の前後方向への直線的な変位が与えられる。この場合、第2針板12は、第1針板11に対し相対的に後方へ移動しつつ、エンボス43にて当接受け部材16のガイド凸部17eにより第1針板11側(図11(a)中、左側)へ密接するように付勢される。
【0037】
そして、操作部材37が第1位置に切換る時、溝部40aが保持部材47の凸部47eに到達して嵌り込むことに伴い節度感が付与されると共に、操作部材37が第1位置に保持される。このとき、作動カム39と当接受け部材16とがP1F点、P1R点で当接することで、第2針板12を移動不能にロックする状態となって、第2針板12が第1針板11に対して装着される。また、このとき、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとが上下に重なるようにして係合する(図7参照)と共に、当接受け部材16の後側当接部17cが、第2針板12の裏面と保持部材47の挟持部47aとで挟まれるようにして係合することで、第2針板12が第1針板11に対して上下方向及び左右方向に位置決めされた状態で保持される。
【0038】
図3、図4、図10(a)に示す第2針板12は、上記した作動カム39と当接受け部材16との間の当接によるロック作用(ロック機構)、並びに係合機構33の係合によって、その装着状態が維持されている。また、操作部材37は、指標部38bが第2針板12の上面の「C(Close)」を指し示す第1位置に切換えられている。
ここで、P1F点、P1R点、回転中心点42は略同一直線上にあって、その直線は前後方向を指向するように設定されている。このため、第2針板が第1針板に装着された状態で、第2針板に後方から前方に向う外力が作用しても、作動カム39を回転させる方向の力(モーメント)は発生しない。従って、仮に上記のような外力が第2針板に作用したとしても、第2針板が外れてしまうことは無い。
【0039】
この第2針板12の第1針板11からの取外しは、操作部材37を第1位置から第2位置に切換えるだけで行うことができる。即ち、操作者が、操作部材37の凹部38aに前記の工具の先端を差し込んで、操作部材37を第1位置から第2位置側へ回動操作する。この切換え操作に伴い、作動カム39が当接受け部材16の摺接面19に摺接しながら図10(a)の矢印52方向へ回動するため、作動カム39の摺接面19に対する当接位置は、図10(a)に示すP1F点,P1R点から図10(b)に示すP2F点、P2R点へ夫々変わる。この当接位置の変化によって、第2針板12側の作動カム39に対する、当接受け部材16の前後方向への直線的な変位が与えられ、第2針板12は、第1針板に対し相対的に前方へ移動する。
【0040】
そして、操作部材37が第2位置に切換る時、溝部40bが保持部材47の凸部47eに到達して嵌り込むことに伴い節度感が付与されると共に、操作部材37が第2位置に保持される。このとき、作動カム39と当接受け部材16とがP2F点、P2R点で当接し、第2針板12は第1針板11から前方へ所定距離L、離間する。また、このとき、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとの係合、並びに後側当接部17cと挟持部47aとの係合が夫々解除され、非係合状態となる。従って、操作者は、第2針板12をそのまま容易に取外すことができる。
尚、操作部材37の第2位置における、第2針板12の第1針板11に対する前後方向の離間距離(前記所定距離)Lは、カム機構44の構成と相関関係にある。具体的には、当該離間距離Lは、当接位置P1F点と回転中心点42間の距離と、当接位置P2F点と回転中心点42間の距離との差で決定される。よって、離間距離Lは、作動カム39の形状等を適宜変更することで、任意の距離に設定することが可能である。
【0041】
以上のように本実施形態の針板10は、第2針板12を第1針板11に対して密接させ係合機構33の係合状態で固定する第1位置と、第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段35 を備える。
これによれば、第2針板12を取外す際には、切換手段35の第1位置から第2位置への切換え操作により、第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33を非係合状態にできる。つまり、切換手段35の1操作によって、第1針板11に対する第2針板12の係合状態を解除でき、第2針板12をそのまま取外すことができる。よって、第2針板12の取外し操作を簡単にすることができる。一方、切換手段35の第1位置にあっては、第2針板12を第1針板11に密接させると共に、係合機構33の係合部19a〜19c,17cと被係合部32a〜32c,47aとの係合により第2針板12を第1針板11に保持させた状態で固定する。このため、第1針板11に対して第2針板12を確実に装着することができる。
【0042】
前記切換手段35は、第2位置から第1位置への切換え操作に伴い、第2針板12を、係合機構33が係合状態となるよう第1針板11と密接する方向へ連動させ、第1位置から第2位置への切換え操作に伴い、第2針板12を、係合機構33が非係合状態となるよう第1針板11から離間する方向へ連動させるように構成されている。
これによれば、切換手段35の第1位置と第2位置との間での切換え操作によって、第2針板12の装着と取外しとを行うことができる。また、第2針板12の移動を切換手段35の切換え操作に連動させることができ、第1針板11に対する第2針板12の着脱をより容易に行うことができる。よって、使い勝手を良くすることができる。
【0043】
第1針板11及び第2針板12のうち何れか一方の針板に設けられた操作部材37の円板部38と、この円板部38に対して連動するように設けられた作動カム39と、他方の針板に設けられ、作動カム39に当接する当接受け部材16とを備える。そして、操作部材37における第1位置及び第2位置の間での切換え操作に連動して、前記の当接位置が変わることで、第2針板12を第1針板11に対して密接及び離間させる。
これによれば、切換手段35は、操作部材37における操作者の切換え操作に伴い、作動カム39の当接受け部材16に対する当接位置が変わることで、第2針板12を第1針板11に対して密接及び離間させる。つまり、切換手段35を、円板部38と作動カム39と当接受け部材16とから構成することで、構成の簡単化を図ることができる。また、操作者が操作部材37を切換える操作を行ったときにだけ、係合機構33を係脱させて第2針板12を着脱することができる。
【0044】
本実施形態の切換手段35は、カム機構44を用いて第2針板12を着脱する構成であるので、作動カム39を利用して第2針板12を円滑且つ確実に着脱することができる。尚、前記の一方の針板は第2針板12に相当するものであるが、操作部材37と保持部材47とを第1針板11に設け、当接受け部材16を第2針板12に設けるようにしてもよい。
【0045】
前記切換手段35は、前記の一方の針板と操作部材37との間に設けられ、操作部材37の第1位置と第2位置とを保持する保持部材47を備える。
これによれば、操作部材37の第1位置にて、第2針板12を第1針板11に密接させて固定した状態を保持することができ、第2針板12を確実に装着することができる。また、操作部材37の第2位置では、第1針板11に対する第2針板12の係合を確実に解除して第2針板12を離間させることができ、総じて第2針板12の着脱操作を確実に行うことができる。
【0046】
前記操作部材37は、その上面37aが第2針板12の上面と面一で、第2針板12から突出しない構成とした。これによれば、縫製を行う場合等に、針板10上において操作部材37が加工布に引っかかることがなく邪魔にならない。よって、縫製作業を良好に行うことができる。
また、操作部材37は、一方の針板に対して回動可能に支持されているため、第2針板12の着脱を、操作部材37の回動操作により行うことができる。従って、切換手段35の構成を簡単にすることができる。また、操作性を良好にすることができる。
前記操作部材37の上面37aに、工具による回動操作用の凹部38aを形成したので、操作部材37の回動操作を、その凹部38aを利用して工具により行うことができる。従って、工具を使用することで、第2針板12の着脱を、更に容易に行うことができる。
【0047】
<第2実施形態>
図11は、本発明の第2実施形態を示すものであり、第1実施形態と異なるところを説明する。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付している。
本第2実施形態の切換手段60は、第1実施形態の切換手段35とは以下の点について相違する。即ち、第2針板12の裏面側には、その後端部にエンボス61が一体的に設けられ、前記エンボス43よりも前方にエンボス62が一体的に設けられている。エンボス61,62は何れも前記エンボス43と同一形状をなし、一方のエンボス61は、第2針板12における第1針板11寄りの側部に、他方のエンボス62は、第2針板12における前記側部とは反対側の側部に配置されている。
【0048】
当接受け部材16´には、その後端部と前側当接部17aの前側とにガイド部63,64が設けられている。一方のガイド部63は、エンボス61の挿通が可能な略長孔状をなし、その前後方向の寸法は第2針板12の前後方向の移動が可能なように前記離間距離Lより若干、長めに設定されている。このガイド部63には、前方側が拡開した左右一対の傾斜63a、63aが形成されている。他方のガイド部64は、前側当接部17aから前方へ突出する二股状をなし、その先端側に、前方側が拡開した左右一対の傾斜64a,64aが形成されている。尚、当接受け部材16´のガイド片17d´は、ガイド片17dに比し幅広な(肉厚な)形状をなしている。
【0049】
上記構成の切換手段60によれば、操作部材37を第2位置から第1位置に切換えると、第2針板12は、エンボス61,62を介してガイド部63,64の内壁63b,64bにガイドされる。このため、図11(a)に示すように、操作部材37の第1位置では、第1針板11に対し第2針板を隙間なく密接させることができる。特に、ガイド部63及び64の傾斜63a,63a及び64a,64aは、前方が拡開する形状をなすため、第2針板12を装着する過程で、エンボス61,62を正確且つスムーズにガイドすることができると共に、操作部材37の第2位置では、操作者による第2針板12の取外しの妨げとなることはない。
【0050】
<第3実施形態>
図12〜図15は、本発明の第3実施形態を示すものであり、第1実施形態と異なるところを説明する。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付している。
本第3実施形態の第2針板70は、第1実施形態の第2針板12とは以下の点について相違する。即ち、第2針板70は、その全体が合成樹脂材料からなり、第1実施形態の第2針板12における一対のガイド板24,25及びビス26,27等が省略されている。図12に示すように、第2針板70には、一対のガイド板24,25に相当するガイド板部71や保持部材取付部25aに相当する保持部材取付部72も、射出成型により一体的に成形されている。ここで、図13(b)に示すように、第2針板70の裏面側には、前記挟持部47aに代えて、「L」字状をなす挟持部47a´が一体的に設けられている。挟持部47a´は、本第3実施形態における係合機構73として、前記当接受け部材16の後側当接部17cを挟む被係合部に相当する。また、本第3実施形態における係合機構73は、第2針板70の後面部に設けられ、第1針板11の前縁部(係合部)を下面側にて係止する左右一対の支持突起部74a,74b(被係合部、図12参照)を備える。尚、図12は、針板蓋23、保持部材30、覆い蓋31を取外した状態での第2針板70を示している。
【0051】
図13(a)、図15(a)に示すように、第2針板70の取付孔部36の下半部には、上半部に比し径小となる段状の支持部36aが形成されている。そして、本第3実施形態の切換手段75は、図13(b)に示すように、操作部材77と作動カム78とが別部材として構成されると共に、保持部材79が第2針板70に一体的に設けられている。
詳細には、操作部材77の円板部38は、取付孔部36の支持部36aに支持される段状の被支持部38cを有する。円板部38の下面側には、その中央部に略円柱状の嵌合凸部77aが一体的に形成されると共に、その凸部77aの傍らに略角柱状の補助凸部77bが一体的に形成されている。作動カム78は、第1実施形態の作動カム39と同様の外形をなすと共に、嵌合凸部77aと補助凸部77bとに対応するように形成された嵌合孔部78aと補助孔部78bとを有する。嵌合孔部78aと補助孔部78bの大きさは、嵌合凸部77aと補助凸部77bの大きさよりも僅かに小さく形成されている。また、嵌合孔部78aと補助孔部78bとを連通する方向に延びるスリット78c,78dを有する。詳しくは後述するが、嵌合凸部77aと補助凸部77bは、嵌合孔部78aと補助孔部78bに圧入されて嵌合する。このとき、スリット78c,78dが僅かに外側に拡がるので、嵌合凸部77aと補助凸部77bは、軽い力で圧入することができる。作動カム78の裏面側には、被保持部40が一体的に設けられている。上記のように操作部材77と作動カム78とは別部材であるが、第2針板70と同じ樹脂材料から構成される。
【0052】
図14、図15に示すように、保持部材79は、取付孔部36と同心状をなし且つ第2針板70の裏面よりも下方に位置する環状部79aと、この環状部79aの外縁部と取付孔部36の内縁部とを接続する繋ぎ部79bとからなる。環状部79aには、被保持部40の溝部40a,40bに対して択一的に嵌合する山形状の凸部79cが形成されている。この溝部40a,40bと環状部79aの凸部79cとが嵌合する際に節度感が付与されると共に、被保持部40ひいては操作部材77を第1位置又は第2位置に保持するようになっている。詳しい図示は省略するが、繋ぎ部79bは、樹脂材料の可撓性によって、環状部79aの凸部79cが溝部40a,40bから外れる位置まで下側へ弾性変形して、操作部材77の回動を許容する。
【0053】
第2針板70側の切換手段75の組付けは、まず、作動カム78を、第2針板70と環状部79aとの間に横方向から嵌め込む。次に、その作動カム78の嵌合孔部78aと補助孔部78bに対して、上面側から操作部材77の嵌合凸部77aと補助凸部77bを圧入して嵌合させる。こうして、図15(b)に示すように、操作部材77と作動カム78は、取付孔部36の支持部36aに回動可能に支持され、その支持状態で溝部40a,40bに対して環状部79aの凸部79cが択一的に嵌合する。
上記構成によれば、保持部材79、挟持部47a´及び第2針板70を合成樹脂材料から一体的に構成したので、部品点数及びコストの削減を図ることができる。また、係合機構73と切換手段75との双方により、第1針板11に対して第2針板70を確実に装着することができる等、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0054】
尚、本発明は上記しかつ図面に示す実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明は、一般的な家庭用のミシンMに限られず、工業用のミシン全般にも適用できるものである。前記操作部材の上面は、第1針板或は第2針板の上面よりも僅かに低くなるように構成してもよい。係合機構は、第1針板の係合部と第2針板の被係合部とを有する構成であればよい。本発明における係合機構の非係合状態とは、係合部と被係合部との係合が解除されて第2針板を外せる状態にあればよい。
また、本発明は、当接受け部材16を含む切換手段75の全部を合成樹脂材料から構成する等、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0055】
M ミシン
1 ミシンベッド
7 縫針
8b 送り歯
9 水平釜機構
10 針板
11 第1針板
12,70 第2針板
12a 上面
13 針穴
14 角穴
16,16´ 当接部材
17c,19a〜19c 係合部
32a〜32c,47a,74a,74b 被係合部
33,73 係合機構
35,75 切換手段
37,77 操作部材
37a 上面
38a 凹部
39,78 作動部材
47,79 保持部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンベッドに固定された第1針板と、第1針板に対して着脱可能に装着される第2針板とを有する針板、及びこの針板を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンの針板は、ミシンベッド(ベッド部)の上面にネジで固定されている。この針板には、縫針が貫通可能な針穴と加工布を送る送り歯が出没可能な角穴とが形成されている。針板の下方のベッド部の内部には、水平釜機構が設けられている。この種のミシンでは、水平釜機構に糸が絡んだ場合や、メンテナンスの為に水平釜機構の周辺部を清掃する場合には、前記ネジを緩めて針板を取外し、水平釜機構及びその周辺部を露出させる。ところで、この針板を再びベッド部に取付ける際には、縫針や送り歯に対して所定の位置に正しく取付ける必要がある。針板が誤った位置に取付けられると、縫針や送り歯と衝突する虞がある。
【0003】
そこで、針板を、針穴及び角穴を有する第1針板と水平釜機構の上方に位置する第2針板とから構成し、第2針板のみをベッド部から着脱できるようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1の針板は、第1針板に第2針板を係合させるための係合機構と、針板の表面側から操作して係合機構の係合を解除する係合解除ボタンとを備えている。この係合機構においては、第1針板側に設けられた突起部と、第2針板側に設けられた板ばねの孔部とが係合する。そして、係合解除ボタンが下方へ押圧操作されることで、その係合が解除される。これにより、第1針板はベッド部に固定されたまま、第2針板のみを着脱させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−263072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記構成は、第2針板を取外す為に2段階の操作が必要である。具体的には、係合機構の係合を解除する為に、板ばねの弾性力に抗して係合解除ボタンを下側へ押し込む1次操作と、この係合解除ボタンを押し込んだまま、第2の針板を手前に引っ張る2次操作が必要となる。このように、上記構成は、2段階の操作が必要なので面倒である。また、1次操作と2次操作の操作方向が異なるため、第2針板の取外し操作がやり難い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる構成にあって、第1針板に対する第2針板の着脱を極力簡単に行うことができる針板を提供すること、及び、この針板を備えたミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1の針板は、ミシンベッドの内部に水平釜機構を有するミシンにおける前記ミシンベッドの上面に配置されるものであり、前記ミシンベッドに固定され、縫針が貫通可能な針穴と加工布を送る送り歯が出没可能な角穴とが形成された第1針板と、前記第1針板と隣り合い且つ前記水平釜機構の上方に配置され、前記第1針板に対して着脱可能に装着される第2針板と、前記第1針板に形成された係合部と前記第2針板に形成された被係合部とを有し、前記係合部と前記被係合部とが係合した係合状態で、前記第1針板に対して前記第2針板を保持させる係合機構と、前記第2針板を前記第1針板に対して密接させ前記係合機構の係合状態で固定する第1位置と、前記第2針板を前記第1針板から離間させて前記係合機構が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、第2針板を取外す際には、切換手段の第1位置から第2位置への切換え操作により、第2針板を第1針板から離間させて係合機構を非係合状態にできる。つまり、切換手段の1操作によって、第1針板に対する第2針板の係合状態を解除でき、第2針板をそのまま取外すことができる。よって、第2針板の取外し操作を簡単にすることができる。
一方、切換手段の第1位置にあっては、第2針板を第1針板に密接させると共に、係合機構の係合部と被係合部との係合により第2針板を第1針板に保持させた状態で固定する。このため、第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる。
【0009】
請求項2の針板は、請求項1の発明において、前記切換手段は、前記第2位置から前記第1位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が係合状態となるよう第1針板と密接する方向へ連動させ、前記第1位置から前記第2位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が非係合状態となるよう前記第1針板から離間する方向へ連動させるように構成されていることを特徴とする。
請求項3の針板は、請求項1又は2の発明において、前記切換手段は、前記第1針板及び前記第2針板のうち何れか一方の針板に設けられ、前記第1位置と前記第2位置との間で操作者により切換え操作される操作部材と、前記操作部材に対して連動するように設けられた作動部材と、他方の針板に設けられ、前記作動部材に当接する当接部材とを備え、前記操作部材における前記第1位置及び前記第2位置の間での切換え操作に連動して、前記作動部材の前記当接部材に対する当接位置が変わることで、前記第2針板を前記第1針板に対して密接及び離間させることを特徴とする。
【0010】
請求項4の針板は、請求項3の発明において、前記切換手段は、前記一方の針板と前記操作部材又は前記作動部材との間に設けられ、前記操作部材の前記第1位置と前記第2位置とを保持する保持部材を備えることを特徴とする。
請求項5の針板は、請求項3又は4の発明において、前記操作部材は、その上面が前記第1針板又は前記第2針板の上面と面一若しくは当該針板の上面よりも低くなるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6の針板は、請求項3から5の何れかの発明において、前記操作部材は、前記一方の針板に対して回動可能に支持されていることを特徴とする。
請求項7の針板は、請求項6の発明において、前記操作部材の上面には、工具による回動操作用の凹部が形成されていることを特徴とする。
請求項8の針板は、請求項1から7の何れかの発明において、前記切換手段の一部又は全部並びに前記第2針板は、合成樹脂材料からなることを特徴とする。
請求項9のミシンは、請求項1から8の何れかに記載の針板を備えたことを特徴とする。よって、上記した請求項1から8と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の針板によれば、第2針板を取外す際には、切換手段の第1位置から第2位置への切換え操作により、第2針板を第1針板から離間させて係合機構を非係合状態にできる。つまり、切換手段の1操作によって、第1針板に対する第2針板の係合状態を解除でき、第2針板をそのまま取外すことができる。よって、第2針板の取外し操作を簡単にすることができる。
一方、切換手段の第1位置にあっては、第2針板を第1針板に密接させると共に、係合機構の係合部と被係合部との係合により第2針板を第1針板に保持させた状態で固定する。このため、第1針板に対して第2針板を確実に装着することができる。
【0013】
請求項2の針板によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、切換手段の第1位置と第2位置との間での切換え操作によって、第2針板の装着と取外しとを行うことができる。また、第2針板の移動を切換手段の切換え操作に連動させることができ、第1針板に対する第2針板の着脱をより容易に行うことができる。よって、使い勝手を良くすることができる。
請求項3の針板によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、切換手段は、操作部材における操作者の切換え操作に伴い、作動部材の当接部材に対する当接位置が変わることで、第2針板を第1針板に対して密接及び離間させる。つまり、切換手段を、操作部材と作動部材と当接部材とから構成することで、構成の簡単化を図ることができる。また、操作者が操作部材を切換える操作を行ったときにだけ、係合機構を係脱させて第2針板を着脱することができる。
【0014】
請求項4の針板によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、操作部材は、保持部材によって第1位置あるいは第2位置で保持される。このため、操作部材の第1位置にて、第2針板を第1針板に密接させて固定した状態を確実に保持することができる。また、操作部材の第2位置では、第1針板に対する第2針板の係合を確実に解除して第2針板を離間させることができる。総じて第2針板の着脱操作を確実に行うことができる。
請求項5の針板によれば、請求項3又は4に記載の発明の効果に加え、操作部材の上面が第1針板又は第2針板の上面と面一若しくは当該針板の上面よりも低く、その針板から突出しない構成にできる。従って、縫製を行う場合に、針板上において操作部材が加工布に引っかかることがなく邪魔にならない。よって、縫製作業を良好に行うことができる。
【0015】
請求項6の針板によれば、請求項3から5の何れかに記載の発明の効果に加え、操作部材は、一方の針板に対して回動可能に支持されているため、操作部材を簡単且つ容易に操作することができる。つまり、第2針板の着脱を、簡単且つ容易に行うことができる。
請求項7の針板によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、操作部材の回動操作を、その上面の凹部を利用して工具により行うことができる。従って、工具を使用することで、第2針板の着脱を、更に容易に行うことができる。
請求項8の針板によれば、請求項1から7の何れかに記載の発明の効果に加え、例えば切換手段の保持部材と第2針板とを合成樹脂材料により一体に構成して、部品点数及びコストの削減を図ることができる。
請求項9のミシンによれば、請求項1から8の何れかに記載の針板を備えたので、請求項1から8の何れかと同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態をミシンと共に示すもので、第1針板に対し第2針板を装着した状態で示す外観斜視図
【図2】ベッド部における補助テーブルと第2針板とを取外した状態で示す斜視図
【図3】切換手段を第1位置に切換えた状態での第1針板及び第2針板を示す平面図
【図4】同裏面図
【図5】切換手段を第2位置に切換えた状態での第1針板及び第2針板を示す平面図
【図6】同裏面図
【図7】(a)及び(b)は、図4のVIIa−VIIa線及びVIIb−VIIb線に沿って示す係合機構部分の断面図
【図8】第2針板側における切換手段を拡大して示す分解斜視図
【図9】(b)は第2針板側における切換手段の近傍部を拡大して示す裏面図、(a)は、(b)のIXa−IXa線に沿う断面図
【図10】(a)及び(b)は、切換手段を第1位置及び第2位置に切換えた状態を拡大して示す裏面図
【図11】本発明の第2実施形態を示す図10相当図
【図12】本発明の第3実施形態を示すものであり、(a)及び(b)は、第2針板と切換手段の上面側及び裏面側からの斜視図
【図13】(a)及び(b)は、第2針板側における切換手段を拡大して示す上面側及び裏面側からの分解斜視図
【図14】(a)及び(b)は、第2針板側における切換手段を除いた状態を拡大して示す平面図及び裏面図
【図15】(a)は、図14のXVa−XVa線に沿う断面図、(b)は切換手段を組付けた状態で一部破断して示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明を家庭用ミシンに適用した第1実施形態について、図1〜図10を参照しながら説明する。
図1に示すように、ミシンMは、ミシンベッドとしてのベッド部1と、ベッド部1の右端部から立設された脚柱部2と、脚柱部2の上端からベッド部1に対向するように左方へ延びるアーム部3と、アーム部3の左部に設けられた頭部4とを一体に備えて構成されている。このミシンMでは、アーム部3が左右方向へ延びるように見た側を正面として使用される。即ち、当該ミシンMの操作者たるユーザが位置する側、つまり図1における紙面手前側を前方、その反対側を後方とし、それら前後方向と直交するアーム部3の延びる方向を左右方向として説明する。
【0018】
アーム部3の前面には、種々の操作スイッチ類5が配設されると共に、脚柱部2の前面には横型の液晶ディスプレイ6が設けられている。アーム部3内には、ミシン主軸(図示略)が左右方向に延びるように設けられていると共に、前記ミシン主軸を回転させるミシンモータ(図示略)が配設されている。詳しい図示は省略するが、頭部4には、下端に縫針7を装着した針棒が設けられており、この縫針7の近傍に、加工布(図示せず)を上方から押さえるための布押え8aが配置されている。また、図示は省略するが、アーム部3内には、前記針棒をミシン主軸の回転に基づき上下動させる針棒駆動機構、針棒を布送り方向と直交する方向(左右方向)に揺動させる針棒揺動機構、天秤を針棒の上下動に同期して上下動させる天秤駆動機構等が配設されている。
【0019】
そして、ベッド部1の上面には、針板10が設けられている。詳しい図示は省略するが、ベッド部1内には、針板10の下側に位置して、送り歯8b(図2参照)を上下方向及び前後方向に移動させる布送り機構が配設されている。また、針板10の下側(厳密には後述する第2針板12の下側)には、下糸ボビン(図示略)を収容し縫針7と協働して縫目を形成する水平釜機構9(図2参照)が配設されている。尚、図2は、ベッド部1について、その前側の左半部に装着される補助テーブル1aと、第2針板12とを外した状態で示している。
【0020】
次に、針板10について図3〜図6も参照しながら説明する。
図3〜図6に示すように、針板10は、全体として略矩形板状をなしており、ベッド部1に固定される第1針板11と、この第1針板11に対して着脱可能に装着される第2針板12とを備えている。
第1針板11は、例えば金属材料からなり矩形板状に形成されている。第1針板11には、縫針7が貫通可能な針穴13と、前記加工布を送る送り歯8bが出没可能な複数(例えば7つ)の角穴14とが形成されている。針穴13は、左右方向に細長い湾曲状をなし、角穴14は夫々前後方向に細長い直線状をなして針穴13を囲むように設けられている。また、第1針板11は、2つの貫通穴15を有しており、これら貫通穴15に皿ネジ15a(図2参照)が夫々挿通されてベッド部1上面に固定されている。
【0021】
図4、図6に示すように、第1針板11の裏面には、左後方(同図中、右後方)の隅部に位置して、当接部材たる当接受け部材16が設けられている。当接受け部材16は、金属板から全体として略「J」字状に形成されており、その前部及び後部から夫々第1針板11側へ延出する取付部16a,16bを一体に有する。当接受け部材16は、取付部16a,16bにおいて夫々ビス18により取付け固定されている。図10(a)に示すように、当接受け部材16には、取付部16a,16b側から左側(第2針板12側)へ延びる3つの当接部17a〜17cが一体に設けられている。詳細には、当接受け部材16の前側及び中間部に位置する前側当接部17a及び中間当接部17bは、後述の作動カム39を包囲するように形成されている。これら当接部17a、17bで形成された当接受け部材16前半部の内壁部は、作動カム39外周に当接可能な摺接面19とされている。
【0022】
当接受け部材16において、前側当接部17aの先端側には、前後方向に延びる幅狭なガイド片17dが形成されている。ガイド片17dは、その可撓性によりバネ片の如く機能し、先端部(自由端部)には、後述のエンボス43と係合することで第2針板12を第1針板11側へ密接させるガイド凸部17eを有する。当接受け部材16の後側に位置する後側当接部17cは、第2針板12の裏面と後述の保持部材47の挟持部47aとで上下に挟まれるようになっている(図9参照)。
図5、図6に示すように、第1針板11の前縁部には、前方に突出する複数(例えば3つ)の係合突起部19a〜19cが左右に間隔を隔てて設けられている。係合突起部19a〜19cのうち、右端の係合突起部19cは平面視にて半円状をなし、第1針板11と同じ厚み寸法に形成されている。他の係合突起部19a,19bは平面視にて矩形状をなし、図7(a)に示すように第1針板11の略半分の厚み寸法に設定され、第1針板11の下面に連なるように形成されている。
【0023】
他方、第2針板12は、例えば金属材料からなり、板状で且つ第1針板11の前縁部及び左縁部に沿う平面視略「L」字状に形成されている。図3に示すように、第2針板12には、左右方向における中央部に位置して、前記下糸ボビンを水平釜機構9に投入するための開放部22が後側から手前側へ切欠くように形成されると共に、この開放部22を上側から覆う透明な合成樹脂製の針板蓋23が着脱自在に取付けられている。図4に示すように、第2針板12の裏面側には、左右一対の第1下糸ガイド板24及び第2下糸ガイド板25が、夫々ビス26,27により下方から取付け固定されている。これらガイド板24,25には、前記開放部22に対応させてボビン投入口28が形成されている。これにより、当該ガイド板24,25におけるボビン投入口28の周縁部は、針板蓋23の厚みの分だけ下方へ窪み、且つ第2針板12の上面12aから段落ちした底壁部29を構成する。第1下糸ガイド板24側の底壁部29には、下糸ボビンからの下糸を左方にガイドする略三日月状の糸ガイド部29aが一体形成されており、糸ガイド部29aの前側に、ボビン投入口28に連通する円弧曲線状の第1案内溝29bが形成されている。
【0024】
第2下糸ガイド板25には、針板蓋23の右方に位置して保持部材取付部25aが設けられると共に、この保持部材取付部25aに、弾性を有する保持部材30が針板蓋23を左方に押圧するように配置されている。保持部材30は、その弾性力により針板蓋23を取外し不能に保持し、当該弾性力に抗して右方に操作されることで、針板蓋23から離間して針板蓋23の取外しを許容する。尚、この保持部材30の操作により針板蓋23を第2針板12の開放部22から取外すことで、当該開放部22とボビン投入口28が開放され、そのボビン投入口28から、下糸ボビンを水平釜機構9に装着するようになっている。
また、第1下糸ガイド板24には、針板蓋23の左方に位置して覆い蓋取付部24aが形成されると共に、この覆い蓋取付部24aに、図3に示すような合成樹脂製の覆い蓋31が取付けられている。覆い蓋取付部24aには、覆い蓋31の周縁部に沿って間隙を形成し且つ第1案内溝29bの左端部と覆い蓋31の下方で連通する第2案内溝24bが設けられている。覆い蓋31の下端部には、第2案内溝24bの前端部で下糸を切断する為の切断刃(図示略)が取付けられている。
【0025】
図6に示すように、第2針板12の後面部には、第1針板11の前縁部に臨み且つ前記係合突起部19a〜19cに係合可能な複数の被係合部32a〜32cが夫々設けられている。被係合部32a〜32cのうち、右端の被係合部32cは、第2針板12に形成さえた半円状をなす切欠部12b(図5参照)と、第1下糸ガイド板24に係合突起部19cと対応するように形成された突出部24cとからなる。図3、図7(b)に示すように、被係合部32cは、切欠部12bに係合突起部19cが嵌るように係合し、且つ突出部24cにて当該係合突起部19cを下方から受けるように係合する。他の被係合部32a,32bは、何れも係合突起部19a,19bにより下方から受けられる構造をなす。具体的には、例えば図7(a)に示すように、被係合部32bは、係合突起部19bに対応する第2針板12の下面側の部分を切欠いた形状をなしている。
こうして、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとが係合した係合状態にあっては、第2針板12が第1針板11に対して上下方向及び左右方向に位置決めされ、且つ針板11,12間で相互に保持するようになっている。これら係合突起部19a〜19c、被係合部32a〜32c、並びに前記後側当接部17c及び挟持部47aは、本実施形態における係合機構33を構成する。
【0026】
さて、上記針板10は、第2針板12を第1針板11に対し密接させて前記係合機構33の係合状態で固定し、或は第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33を非係合状態とするための切換手段(切換機構)35を備えている。この切換手段35について、図8〜図11も参照しながら説明する。
【0027】
図3、図8、図9等に示すように、第2針板12の後部には、円形に切欠いた取付孔部36が形成されており、この孔部36に、切換手段35の操作部材37が回動可能に取付けられている。操作部材37には、取付孔部36に回動可能に嵌り込む円板部38が設けられている。図9に示すように、円板部38の上下方向の厚み寸法は、第2針板12と同一の厚み寸法に設定されている。また、この円板部38の下側には作動カム39が設けられると共に、この作動カム39の下面側に被保持部40(図8参照)が設けられている。これら円板部38、作動カム39及び被保持部40は、合成樹脂材料からなり、射出成型により一体的に成形されている。尚、本実施形態では、操作部材37たる円板部38と作動部材たる作動カム39と被保持部40とが一体的に構成されていることから、以下では、説明の便宜上これらの部材37〜39の総称を操作部材37とする。
【0028】
円板部38の上面部には、径方向に延びるスリット状の凹部38aが形成されると共に、周縁側に位置して後述の切換え位置を指し示す、表示部としての指標部38bが設けられている。操作部材37の操作は、凹部38aに図示しない工具の先端が差込まれ、当該工具の回動操作によって容易に行うことができる。尚、凹部38aの形状は、操作部材37の回動操作に供される工具の種類に応じて適宜変更してもよい。例えば、一般的なマイナスドライバー又はプラスドライバーに適合する細いI字状又は十字状溝、或いは六角レンチに適合する六角穴(多角形の穴)でもよい。
また、図3、図5に示すように、針板12の上面には、「C」と「O」の文字が刻印されている。「C」はClose、「O」はOpenの意味である。操作部材37が第1位置にあるときには、図3に示すように指標部38bが「C」を指し、操作部材37が第2位置にあるときには、図5に示すように指標部38bが「O」を指すように配置されている。
【0029】
図8、10に示すように、作動カム39は、確動カムの一種である三角カムであって、その三角カムの一辺側を切り欠いた形状をなしている。
ここで、三角カムとは、三角形の3つの頂点の夫々を中心とする大小2つの半径からなる円弧を繋げた外周形状であって、その頂点のうちの1つがカムの回転中心点になっているカムである。また、三角カムの外形寸法は、大小2つの半径を加算した寸法で一定である。そして、三角カムの回動によって動作する従節体(カムフォロア)は、通常、三角カムを両側から挟むように接触する。よって、三角カムは、従節体とガタが無い状態で回動し、それに伴って従節体が動作する。
本実施形態の場合、図8、図10に示すように、作動カム39全体の外形寸法は円板部38に比し大きく設定されている。また、この作動カム39の外縁部には、三角カムの一辺側を切欠くようにして形成された回動規制部41が形成されている。また、作動カム39は、取付孔部36に円板部38が嵌め込まれた状態で、第2針板12の裏面と当接する。このとき、円板部38の上下方向の厚み寸法は、第2針板12と同一の厚み寸法に設定されているので、操作部材37の上面37aと第2針板12の上面12aとが面一になる(図9(a)参照)。
【0030】
前記第2針板12の裏面側には、取付孔部36の近傍に位置して、下方に突出する突起状のエンボス43が一体的に設けられている。図10に示すように、作動カム39が回動する際、回動規制部41の一端側の壁部41aと他端側の壁部41bとに択一的に当接することで、作動カム39の回動範囲が図10(a)に示す第1位置と、図10(b)に示す第2位置との間に規制される。また、この作動カム39の回動の際、作動カム39の外周における前記摺接面19に対する当接位置が変わることで、第2針板12を、当接受け部材16(第1針板11)に対して相対的に移動させる。即ち、摺接面19を有する当接受け部材16は従節体として、作動カム39と共にカム機構44として機能する。このとき、上述したように、作動カム39は三角カムなので、作動カム39の回動に関わらず、作動カム39と当接受け部材16との間には前後方向(紙面上下方向)のガタは無い。
【0031】
被保持部40は、円板状をなし、作動カム39の下面側に形成されている。図8、図9(a)に示すように、被保持部40の下面側には、中央部に窪み部40cが形成されると共に、互いに「X」字状に交差する一対の溝部40a,40bが形成されている。溝部40a,40bは何れも断面が「V」字状に窪んでいる。そして、操作部材37が第1位置のときには、一方の溝部40aが左右方向を指向し(図11(a)参照)、第2位置のときには、他方の溝部40bが左右方向を指向する(図11(b)参照)。
【0032】
図8に示すように、第2針板12には、取付孔部36よりも後方に位置して、雌螺子部45と係止孔46とが形成されている。第2針板12の裏面側には、保持部材47が、雌螺子部45に螺挿される螺子45aにより固定されている。保持部材47は、例えば弾性を有する金属製のバネ材料からなり、第2針板12の後端部から被保持部40にわたって延びる長尺形状をなす。即ち、保持部材47は、前記螺子45aに挿通される環状の取付部47bと、この取付部47bから被保持部40側に延びる腕部47cとを有する。腕部47cの先端部(自由端部)は他の部分に比し左右へ幅広に形成されており、当該先端部に左右に延びる凸部47eが屈曲形成されている。凸部47eは、被保持部40の溝部40a,40bに対して択一的に嵌合する山形状をなす。この溝部40a,40bと凸部47eとが嵌合する際に節度感が付与されると共に、被保持部40ひいては操作部材37を、第1位置又は第2位置に保持するようになっている。詳しい図示は省略するが、腕部47cの自由端部は、バネ材料の可撓性によって、凸部47eが溝部40a,40bから外れる位置まで下側へ弾性変形して、操作部材37の回動を許容する。
【0033】
保持部材47は、取付部47bの後端部において上方へ「L」字状に屈曲形成された係止部47fを有する。この係止部47fは、前記係止孔46に係止されており、保持部材37の回り止めとして作用する。即ち、操作部材37を回動させたとき、その回動によって保持部材47に回転方向の力が作用する。このとき、保持部材37は螺子45aで固定されてはいるものの、前記回転方向の力を繰り返し受けることによって、螺子45aが緩み、回転して位置がずれる虞がある。このような不具合の発生を防止する為、係止部47fによって、保持部材47が回転して位置がずれないように保持される。また、保持部材47は、取付部47bの右部において下方へクランク状に屈曲形成された挟持部47aを有する。図10(a)に示すように、第2針板12を第1針板11に装着した状態では、第2針板12の裏面と挟持部47aとの間で、前記当接受け部材16の後側当接部17cを上下に挟むようになっている。
【0034】
この挟持部47a及び前記被係合部32a〜32cは被係合部に相当し、後側当接部17c及び係合突起部19a〜19cは係合部に相当する。また、円板部38、作動カム39、当接受け部材16、被保持部40、保持部材47等は切換手段35を構成する。
図8に示すように、第2針板12側の切換手段35の組付けは、操作部材37の円板部38を、第2針板12の取付孔部36に下方から差し込んだ後、第2針板12に対して保持部材47を螺子45aで固定することにより行われる。こうして、操作部材37は、第2針板12に対して回動可能となり、且つ保持部材47の腕部47cにより下側から保持され、取付孔部36から当該操作部材37が外れないようになっている。
【0035】
次に、以上のように構成された針板10の作用について説明する。
先ず、図5、図6に示すように、操作部材37は、指標部38bが第2針板12の上面の「O(Open)」を指し示す第2位置に切換えられており、第2針板12は、固定側の第1針板11に対して手前側に所定距離L、離間した装着前の状態にある。この状態において、操作部材37の第2位置は、溝部40bと保持部材47の凸部47eとの嵌合(図10(b)参照)により保持されている。また、この場合、係合機構33は、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとの係合、並びに後側当接部17cと挟持部47aとの係合が夫々解除された非係合状態にある。従って、この状態において、操作者は、第2針板12をそのまま容易に取外すことができる。
【0036】
また、操作者は、操作部材37を第2位置から第1位置に切換えるだけで、上記の装着前の第2針板12を第1針板11に装着することができる。具体的には、操作者が、操作部材37の凹部38aに図示しない回動操作用の工具の先端を差し込んで、操作部材37を第2位置から第1位置側へ回動操作する。この切換え操作に伴い、作動カム39が当接受け部材16の摺接面19に摺接しながら図10(b)の矢印51方向へ回動するため、作動カム39の摺接面19に対する当接位置(接触点)は、図10(b)に示すP2F点,P2R点から図10(a)に示すP1F点、P1R点へ夫々変わる。この当接位置の変化つまり当接位置と操作部材37の回転中心点42との間の距離の変化によって、第2針板12側の作動カム39に対する、当接受け部材16(第1針板11)の前後方向への直線的な変位が与えられる。この場合、第2針板12は、第1針板11に対し相対的に後方へ移動しつつ、エンボス43にて当接受け部材16のガイド凸部17eにより第1針板11側(図11(a)中、左側)へ密接するように付勢される。
【0037】
そして、操作部材37が第1位置に切換る時、溝部40aが保持部材47の凸部47eに到達して嵌り込むことに伴い節度感が付与されると共に、操作部材37が第1位置に保持される。このとき、作動カム39と当接受け部材16とがP1F点、P1R点で当接することで、第2針板12を移動不能にロックする状態となって、第2針板12が第1針板11に対して装着される。また、このとき、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとが上下に重なるようにして係合する(図7参照)と共に、当接受け部材16の後側当接部17cが、第2針板12の裏面と保持部材47の挟持部47aとで挟まれるようにして係合することで、第2針板12が第1針板11に対して上下方向及び左右方向に位置決めされた状態で保持される。
【0038】
図3、図4、図10(a)に示す第2針板12は、上記した作動カム39と当接受け部材16との間の当接によるロック作用(ロック機構)、並びに係合機構33の係合によって、その装着状態が維持されている。また、操作部材37は、指標部38bが第2針板12の上面の「C(Close)」を指し示す第1位置に切換えられている。
ここで、P1F点、P1R点、回転中心点42は略同一直線上にあって、その直線は前後方向を指向するように設定されている。このため、第2針板が第1針板に装着された状態で、第2針板に後方から前方に向う外力が作用しても、作動カム39を回転させる方向の力(モーメント)は発生しない。従って、仮に上記のような外力が第2針板に作用したとしても、第2針板が外れてしまうことは無い。
【0039】
この第2針板12の第1針板11からの取外しは、操作部材37を第1位置から第2位置に切換えるだけで行うことができる。即ち、操作者が、操作部材37の凹部38aに前記の工具の先端を差し込んで、操作部材37を第1位置から第2位置側へ回動操作する。この切換え操作に伴い、作動カム39が当接受け部材16の摺接面19に摺接しながら図10(a)の矢印52方向へ回動するため、作動カム39の摺接面19に対する当接位置は、図10(a)に示すP1F点,P1R点から図10(b)に示すP2F点、P2R点へ夫々変わる。この当接位置の変化によって、第2針板12側の作動カム39に対する、当接受け部材16の前後方向への直線的な変位が与えられ、第2針板12は、第1針板に対し相対的に前方へ移動する。
【0040】
そして、操作部材37が第2位置に切換る時、溝部40bが保持部材47の凸部47eに到達して嵌り込むことに伴い節度感が付与されると共に、操作部材37が第2位置に保持される。このとき、作動カム39と当接受け部材16とがP2F点、P2R点で当接し、第2針板12は第1針板11から前方へ所定距離L、離間する。また、このとき、係合突起部19a〜19cと被係合部32a〜32cとの係合、並びに後側当接部17cと挟持部47aとの係合が夫々解除され、非係合状態となる。従って、操作者は、第2針板12をそのまま容易に取外すことができる。
尚、操作部材37の第2位置における、第2針板12の第1針板11に対する前後方向の離間距離(前記所定距離)Lは、カム機構44の構成と相関関係にある。具体的には、当該離間距離Lは、当接位置P1F点と回転中心点42間の距離と、当接位置P2F点と回転中心点42間の距離との差で決定される。よって、離間距離Lは、作動カム39の形状等を適宜変更することで、任意の距離に設定することが可能である。
【0041】
以上のように本実施形態の針板10は、第2針板12を第1針板11に対して密接させ係合機構33の係合状態で固定する第1位置と、第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段35 を備える。
これによれば、第2針板12を取外す際には、切換手段35の第1位置から第2位置への切換え操作により、第2針板12を第1針板11から離間させて係合機構33を非係合状態にできる。つまり、切換手段35の1操作によって、第1針板11に対する第2針板12の係合状態を解除でき、第2針板12をそのまま取外すことができる。よって、第2針板12の取外し操作を簡単にすることができる。一方、切換手段35の第1位置にあっては、第2針板12を第1針板11に密接させると共に、係合機構33の係合部19a〜19c,17cと被係合部32a〜32c,47aとの係合により第2針板12を第1針板11に保持させた状態で固定する。このため、第1針板11に対して第2針板12を確実に装着することができる。
【0042】
前記切換手段35は、第2位置から第1位置への切換え操作に伴い、第2針板12を、係合機構33が係合状態となるよう第1針板11と密接する方向へ連動させ、第1位置から第2位置への切換え操作に伴い、第2針板12を、係合機構33が非係合状態となるよう第1針板11から離間する方向へ連動させるように構成されている。
これによれば、切換手段35の第1位置と第2位置との間での切換え操作によって、第2針板12の装着と取外しとを行うことができる。また、第2針板12の移動を切換手段35の切換え操作に連動させることができ、第1針板11に対する第2針板12の着脱をより容易に行うことができる。よって、使い勝手を良くすることができる。
【0043】
第1針板11及び第2針板12のうち何れか一方の針板に設けられた操作部材37の円板部38と、この円板部38に対して連動するように設けられた作動カム39と、他方の針板に設けられ、作動カム39に当接する当接受け部材16とを備える。そして、操作部材37における第1位置及び第2位置の間での切換え操作に連動して、前記の当接位置が変わることで、第2針板12を第1針板11に対して密接及び離間させる。
これによれば、切換手段35は、操作部材37における操作者の切換え操作に伴い、作動カム39の当接受け部材16に対する当接位置が変わることで、第2針板12を第1針板11に対して密接及び離間させる。つまり、切換手段35を、円板部38と作動カム39と当接受け部材16とから構成することで、構成の簡単化を図ることができる。また、操作者が操作部材37を切換える操作を行ったときにだけ、係合機構33を係脱させて第2針板12を着脱することができる。
【0044】
本実施形態の切換手段35は、カム機構44を用いて第2針板12を着脱する構成であるので、作動カム39を利用して第2針板12を円滑且つ確実に着脱することができる。尚、前記の一方の針板は第2針板12に相当するものであるが、操作部材37と保持部材47とを第1針板11に設け、当接受け部材16を第2針板12に設けるようにしてもよい。
【0045】
前記切換手段35は、前記の一方の針板と操作部材37との間に設けられ、操作部材37の第1位置と第2位置とを保持する保持部材47を備える。
これによれば、操作部材37の第1位置にて、第2針板12を第1針板11に密接させて固定した状態を保持することができ、第2針板12を確実に装着することができる。また、操作部材37の第2位置では、第1針板11に対する第2針板12の係合を確実に解除して第2針板12を離間させることができ、総じて第2針板12の着脱操作を確実に行うことができる。
【0046】
前記操作部材37は、その上面37aが第2針板12の上面と面一で、第2針板12から突出しない構成とした。これによれば、縫製を行う場合等に、針板10上において操作部材37が加工布に引っかかることがなく邪魔にならない。よって、縫製作業を良好に行うことができる。
また、操作部材37は、一方の針板に対して回動可能に支持されているため、第2針板12の着脱を、操作部材37の回動操作により行うことができる。従って、切換手段35の構成を簡単にすることができる。また、操作性を良好にすることができる。
前記操作部材37の上面37aに、工具による回動操作用の凹部38aを形成したので、操作部材37の回動操作を、その凹部38aを利用して工具により行うことができる。従って、工具を使用することで、第2針板12の着脱を、更に容易に行うことができる。
【0047】
<第2実施形態>
図11は、本発明の第2実施形態を示すものであり、第1実施形態と異なるところを説明する。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付している。
本第2実施形態の切換手段60は、第1実施形態の切換手段35とは以下の点について相違する。即ち、第2針板12の裏面側には、その後端部にエンボス61が一体的に設けられ、前記エンボス43よりも前方にエンボス62が一体的に設けられている。エンボス61,62は何れも前記エンボス43と同一形状をなし、一方のエンボス61は、第2針板12における第1針板11寄りの側部に、他方のエンボス62は、第2針板12における前記側部とは反対側の側部に配置されている。
【0048】
当接受け部材16´には、その後端部と前側当接部17aの前側とにガイド部63,64が設けられている。一方のガイド部63は、エンボス61の挿通が可能な略長孔状をなし、その前後方向の寸法は第2針板12の前後方向の移動が可能なように前記離間距離Lより若干、長めに設定されている。このガイド部63には、前方側が拡開した左右一対の傾斜63a、63aが形成されている。他方のガイド部64は、前側当接部17aから前方へ突出する二股状をなし、その先端側に、前方側が拡開した左右一対の傾斜64a,64aが形成されている。尚、当接受け部材16´のガイド片17d´は、ガイド片17dに比し幅広な(肉厚な)形状をなしている。
【0049】
上記構成の切換手段60によれば、操作部材37を第2位置から第1位置に切換えると、第2針板12は、エンボス61,62を介してガイド部63,64の内壁63b,64bにガイドされる。このため、図11(a)に示すように、操作部材37の第1位置では、第1針板11に対し第2針板を隙間なく密接させることができる。特に、ガイド部63及び64の傾斜63a,63a及び64a,64aは、前方が拡開する形状をなすため、第2針板12を装着する過程で、エンボス61,62を正確且つスムーズにガイドすることができると共に、操作部材37の第2位置では、操作者による第2針板12の取外しの妨げとなることはない。
【0050】
<第3実施形態>
図12〜図15は、本発明の第3実施形態を示すものであり、第1実施形態と異なるところを説明する。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付している。
本第3実施形態の第2針板70は、第1実施形態の第2針板12とは以下の点について相違する。即ち、第2針板70は、その全体が合成樹脂材料からなり、第1実施形態の第2針板12における一対のガイド板24,25及びビス26,27等が省略されている。図12に示すように、第2針板70には、一対のガイド板24,25に相当するガイド板部71や保持部材取付部25aに相当する保持部材取付部72も、射出成型により一体的に成形されている。ここで、図13(b)に示すように、第2針板70の裏面側には、前記挟持部47aに代えて、「L」字状をなす挟持部47a´が一体的に設けられている。挟持部47a´は、本第3実施形態における係合機構73として、前記当接受け部材16の後側当接部17cを挟む被係合部に相当する。また、本第3実施形態における係合機構73は、第2針板70の後面部に設けられ、第1針板11の前縁部(係合部)を下面側にて係止する左右一対の支持突起部74a,74b(被係合部、図12参照)を備える。尚、図12は、針板蓋23、保持部材30、覆い蓋31を取外した状態での第2針板70を示している。
【0051】
図13(a)、図15(a)に示すように、第2針板70の取付孔部36の下半部には、上半部に比し径小となる段状の支持部36aが形成されている。そして、本第3実施形態の切換手段75は、図13(b)に示すように、操作部材77と作動カム78とが別部材として構成されると共に、保持部材79が第2針板70に一体的に設けられている。
詳細には、操作部材77の円板部38は、取付孔部36の支持部36aに支持される段状の被支持部38cを有する。円板部38の下面側には、その中央部に略円柱状の嵌合凸部77aが一体的に形成されると共に、その凸部77aの傍らに略角柱状の補助凸部77bが一体的に形成されている。作動カム78は、第1実施形態の作動カム39と同様の外形をなすと共に、嵌合凸部77aと補助凸部77bとに対応するように形成された嵌合孔部78aと補助孔部78bとを有する。嵌合孔部78aと補助孔部78bの大きさは、嵌合凸部77aと補助凸部77bの大きさよりも僅かに小さく形成されている。また、嵌合孔部78aと補助孔部78bとを連通する方向に延びるスリット78c,78dを有する。詳しくは後述するが、嵌合凸部77aと補助凸部77bは、嵌合孔部78aと補助孔部78bに圧入されて嵌合する。このとき、スリット78c,78dが僅かに外側に拡がるので、嵌合凸部77aと補助凸部77bは、軽い力で圧入することができる。作動カム78の裏面側には、被保持部40が一体的に設けられている。上記のように操作部材77と作動カム78とは別部材であるが、第2針板70と同じ樹脂材料から構成される。
【0052】
図14、図15に示すように、保持部材79は、取付孔部36と同心状をなし且つ第2針板70の裏面よりも下方に位置する環状部79aと、この環状部79aの外縁部と取付孔部36の内縁部とを接続する繋ぎ部79bとからなる。環状部79aには、被保持部40の溝部40a,40bに対して択一的に嵌合する山形状の凸部79cが形成されている。この溝部40a,40bと環状部79aの凸部79cとが嵌合する際に節度感が付与されると共に、被保持部40ひいては操作部材77を第1位置又は第2位置に保持するようになっている。詳しい図示は省略するが、繋ぎ部79bは、樹脂材料の可撓性によって、環状部79aの凸部79cが溝部40a,40bから外れる位置まで下側へ弾性変形して、操作部材77の回動を許容する。
【0053】
第2針板70側の切換手段75の組付けは、まず、作動カム78を、第2針板70と環状部79aとの間に横方向から嵌め込む。次に、その作動カム78の嵌合孔部78aと補助孔部78bに対して、上面側から操作部材77の嵌合凸部77aと補助凸部77bを圧入して嵌合させる。こうして、図15(b)に示すように、操作部材77と作動カム78は、取付孔部36の支持部36aに回動可能に支持され、その支持状態で溝部40a,40bに対して環状部79aの凸部79cが択一的に嵌合する。
上記構成によれば、保持部材79、挟持部47a´及び第2針板70を合成樹脂材料から一体的に構成したので、部品点数及びコストの削減を図ることができる。また、係合機構73と切換手段75との双方により、第1針板11に対して第2針板70を確実に装着することができる等、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0054】
尚、本発明は上記しかつ図面に示す実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明は、一般的な家庭用のミシンMに限られず、工業用のミシン全般にも適用できるものである。前記操作部材の上面は、第1針板或は第2針板の上面よりも僅かに低くなるように構成してもよい。係合機構は、第1針板の係合部と第2針板の被係合部とを有する構成であればよい。本発明における係合機構の非係合状態とは、係合部と被係合部との係合が解除されて第2針板を外せる状態にあればよい。
また、本発明は、当接受け部材16を含む切換手段75の全部を合成樹脂材料から構成する等、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0055】
M ミシン
1 ミシンベッド
7 縫針
8b 送り歯
9 水平釜機構
10 針板
11 第1針板
12,70 第2針板
12a 上面
13 針穴
14 角穴
16,16´ 当接部材
17c,19a〜19c 係合部
32a〜32c,47a,74a,74b 被係合部
33,73 係合機構
35,75 切換手段
37,77 操作部材
37a 上面
38a 凹部
39,78 作動部材
47,79 保持部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンベッドの内部に水平釜機構を有するミシンにおける前記ミシンベッドの上面に配置される針板において、
前記ミシンベッドに固定され、縫針が貫通可能な針穴と加工布を送る送り歯が出没可能な角穴とが形成された第1針板と、
前記第1針板と隣り合い且つ前記水平釜機構の上方に配置され、前記第1針板に対して着脱可能に装着される第2針板と、
前記第1針板に形成された係合部と前記第2針板に形成された被係合部とを有し、前記係合部と前記被係合部とが係合した係合状態で、前記第1針板に対して前記第2針板を保持させる係合機構と、
前記第2針板を前記第1針板に対して密接させ前記係合機構の係合状態で固定する第1位置と、前記第2針板を前記第1針板から離間させて前記係合機構が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段と、
を備えることを特徴とする針板。
【請求項2】
前記切換手段は、
前記第2位置から前記第1位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が係合状態となるよう前記第1針板と密接する方向へ連動させ、
前記第1位置から前記第2位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が非係合状態となるよう前記第1針板から離間する方向へ連動させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の針板。
【請求項3】
前記切換手段は、
前記第1針板及び前記第2針板のうち何れか一方の針板に設けられ、前記第1位置と前記第2位置との間で操作者により切換え操作される操作部材と、
前記操作部材に対して連動するように設けられた作動部材と、
他方の針板に設けられ、前記作動部材に当接する当接部材とを備え、
前記操作部材における前記第1位置及び前記第2位置の間での切換え操作に連動して、前記作動部材の前記当接部材に対する当接位置が変わることで、前記第2針板を前記第1針板に対して密接及び離間させることを特徴とする請求項1又は2記載の針板。
【請求項4】
前記切換手段は、前記一方の針板と前記操作部材又は前記作動部材との間に設けられ、前記操作部材の前記第1位置と前記第2位置とを保持する保持部材を備えることを特徴とする請求項3記載の針板。
【請求項5】
前記操作部材は、その上面が前記第1針板又は前記第2針板の上面と面一若しくは当該針板の上面よりも低くなるように構成されていることを特徴とする請求項3又は4記載の針板。
【請求項6】
前記操作部材は、前記一方の針板に対して回動可能に支持されていることを特徴とする請求項3から5の何れかに記載の針板。
【請求項7】
前記操作部材の上面には、工具による回動操作用の凹部が形成されていることを特徴とする請求項6記載の針板。
【請求項8】
前記切換手段の一部又は全部並びに前記第2針板は、合成樹脂材料からなることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の針板。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の針板を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項1】
ミシンベッドの内部に水平釜機構を有するミシンにおける前記ミシンベッドの上面に配置される針板において、
前記ミシンベッドに固定され、縫針が貫通可能な針穴と加工布を送る送り歯が出没可能な角穴とが形成された第1針板と、
前記第1針板と隣り合い且つ前記水平釜機構の上方に配置され、前記第1針板に対して着脱可能に装着される第2針板と、
前記第1針板に形成された係合部と前記第2針板に形成された被係合部とを有し、前記係合部と前記被係合部とが係合した係合状態で、前記第1針板に対して前記第2針板を保持させる係合機構と、
前記第2針板を前記第1針板に対して密接させ前記係合機構の係合状態で固定する第1位置と、前記第2針板を前記第1針板から離間させて前記係合機構が非係合状態となる第2位置との間で切換え操作が可能な切換手段と、
を備えることを特徴とする針板。
【請求項2】
前記切換手段は、
前記第2位置から前記第1位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が係合状態となるよう前記第1針板と密接する方向へ連動させ、
前記第1位置から前記第2位置への切換え操作に伴い、前記第2針板を、前記係合機構が非係合状態となるよう前記第1針板から離間する方向へ連動させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の針板。
【請求項3】
前記切換手段は、
前記第1針板及び前記第2針板のうち何れか一方の針板に設けられ、前記第1位置と前記第2位置との間で操作者により切換え操作される操作部材と、
前記操作部材に対して連動するように設けられた作動部材と、
他方の針板に設けられ、前記作動部材に当接する当接部材とを備え、
前記操作部材における前記第1位置及び前記第2位置の間での切換え操作に連動して、前記作動部材の前記当接部材に対する当接位置が変わることで、前記第2針板を前記第1針板に対して密接及び離間させることを特徴とする請求項1又は2記載の針板。
【請求項4】
前記切換手段は、前記一方の針板と前記操作部材又は前記作動部材との間に設けられ、前記操作部材の前記第1位置と前記第2位置とを保持する保持部材を備えることを特徴とする請求項3記載の針板。
【請求項5】
前記操作部材は、その上面が前記第1針板又は前記第2針板の上面と面一若しくは当該針板の上面よりも低くなるように構成されていることを特徴とする請求項3又は4記載の針板。
【請求項6】
前記操作部材は、前記一方の針板に対して回動可能に支持されていることを特徴とする請求項3から5の何れかに記載の針板。
【請求項7】
前記操作部材の上面には、工具による回動操作用の凹部が形成されていることを特徴とする請求項6記載の針板。
【請求項8】
前記切換手段の一部又は全部並びに前記第2針板は、合成樹脂材料からなることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の針板。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の針板を備えたことを特徴とするミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−251083(P2011−251083A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128826(P2010−128826)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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