説明

【課題】穿刺ルートを通じて血管に穿刺する際の、血管表面の穿刺起点部に対する針の探り性を向上する。
【解決手段】ダルニードル1は、皮膚から皮下の血管に通じる穿刺ルートに挿入されて、血管に穿刺されるものである。ダルニードル1は、針の軸Aに対し傾斜した傾斜端面20aを有する管状部20と、管状部20の傾斜端面20aの先端から前方側に突出した突出部21と、を有している。突出部21の先端21aは、管状部20よりも幅が小さく、前方に凸に湾曲している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚から皮下の血管に通じる穿刺ルートに挿入されて、血管に穿刺される針に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば透析処理などの血液浄化処理を行う際には、患者の皮膚を貫いて、血管に針を刺し、当該針から採血と返血が行われている。この穿刺は、血液浄化処理時に毎回行う必要があるが、その都度患者に大きな痛みを与える。そこで、近年では、穿刺時の痛みを軽減するために、初回の穿刺時に鋭利な通常針を穿刺して、例えば図9に示すように体の皮膚100から血管101に通じる穿刺ルート102を形成し、2回目以降の穿刺時には、痂皮103を取り除き、鋭利性が低いダルニードルを穿刺ルート102に挿入して血管101に穿刺する、いわゆるボタンホール穿刺法が用いられている(特許文献1参照)。この方法によれば、2回目以降の穿刺で新たに皮膚100に穴を空ける必要がないので、患者の痛みが軽減される。一般的に、図10に示すように通常針110の先端には、尖った刃面110aが形成されており、図11に示すようにダルニードル120の先端は、管状の端部を斜めに切断して形成された傾斜端面120aを有し、先端に丸みがある。
【0003】
ところで、上述のボタンホール穿刺法において、図12に示すように初回の穿刺時に開けられた血管101の表面の穿刺孔101aはU字型であり、当該穿刺孔101aには、次に穿刺する際の起点となる穿刺起点部104が形成されている。2回目以降の穿刺時には、この穿刺起点部104にダルニードル120の先端を合わせて押圧することにより、適切に穿刺孔101aが開きダルニードル120を血管101内に挿入できる。このダルニードル120の先端を穿刺起点部104に合わせる作業は、作業者が指先の感覚を頼りに、ダルニードル120の先端で穿刺起点部104を探ることで行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−045124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のダルニードル120では、血管の感触が指先に伝わり難く探り性が十分でない。このため、例えばダルニードル120を穿刺ルート102に複数回入れ直したりして、血管の穿刺起点部104を探り当てるのに時間がかかり、穿刺に時間がかかる。また、血管の穿刺起点部104の探りが上手くいかないと、穿刺時により大きな力を加える必要があり、これにより例えば血管を傷付けたり患者に痛みを与えることがある。時間をかけずに小さな力で血管に穿刺するには、経験や技術が必要になる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、穿刺ルートを通じて血管に穿刺する際の穿刺起点部に対する針の探り性を向上することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明は、皮膚から皮下の血管に通じる穿刺ルートに挿入されて、血管に穿刺される針であって、針の軸に対し傾斜した傾斜端面を有する管状部と、当該管状部の傾斜端面の先端から前方側に突出した突出部と、を有し、前記突出部の先端は、前記管状部よりも幅が小さく、前方に凸に湾曲している。
【0008】
本発明によれば、管状部の傾斜端面の先端から前方に突出し先端が管状部よりも幅の小さい突出部を有するので、当該突出部により血管の感触が指に伝わり易くなり、血管の穿刺起点部に対する針の探り性を向上できる。よって、血管に穿刺する作業を簡単かつ短時間で行うことができる。また、突出部の先端が前方に凸に湾曲しているので、突出部の先端により血管を傷つけたり患者に痛みを与えることを防止できる。
【0009】
前記突出部の先端の曲率半径は、前記傾斜端面の先端の曲率半径よりも小さくなっていてもよい。かかる場合、突出部の先端による血管の感触がより指先に伝わり易くなり、血管の穿刺起点部に対する針の探り性をさらに向上できる。
【0010】
前記突出部の突出方向に対する傾斜端面の傾斜角度が60度未満になっていてもよい。かかる場合、穿刺する際の針の抵抗が小さくなるので、より小さな力で針を血管に穿刺できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穿刺ルートに針を挿入して血管に穿刺する際に、針により血管表面の穿刺起点部を容易に探り当てることができる。よって、穿刺の作業を簡単かつ短時間で行うことができる。また、針により血管を傷つけたり患者に痛みを与えることも防止できる。また、経験や技術によらず作業を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】血液浄化処理用器具の構成の概略を示す図である。
【図2】ダルニードルの先端部の斜視図である。
【図3】ダルニードルの先端部の上面図である。
【図4】ダルニードルの先端部の側面図である。
【図5】ダルニードルを皮膚に挿入する前の状態を示す説明図である。
【図6】ダルニードルを皮膚に挿入した状態を示す説明図である。
【図7】ダルニードルを血管に穿刺した状態を示す説明図である。
【図8】傾斜端面に段差のあるダルニードルの先端部の側面図である。
【図9】穿刺ルートが形成された状態を示す皮下の説明図である。
【図10】通常針の説明図である。
【図11】改良前のダルニードルの説明図である。
【図12】血管の穿刺孔と穿刺起点部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る針としてのダルニードル1を有する血液浄化処理用器具2の一例を示す説明図である。
【0014】
血液浄化処理用器具2は、例えば血液浄化処理時に患者に穿刺されるダルニードル1と、ダルニードル1が先端部に接続されたチューブ10と、チューブ10の後端部を他のチューブに接続するための接続部11を有している。チューブ10のダルニードル1に近い部分には、ダルニードル1を動かす際に作業者が保持する保持部12が設けられている。また、チューブ10には、クランプ13が取り付けられている。接続部11には、キャップ14が嵌められている。
【0015】
血液浄化処理用器具2は、例えば接続部11により他のチューブに接続され、図示しない血液浄化器を有する血液浄化回路の一部を構成する。血液浄化処理用器具2は、血液浄化回路の採血側の端部区間と返血側の端部区間に取り付けられ、血液浄化処理時にはダルニードル1を通じて採血や返血が行われる。なお、血液浄化処理には、例えば透析処理、血漿交換処理、血漿吸着処理、血液成分除去処理など含まれる。
【0016】
ダルニードル1は、図2、図3及び図4に示すように先端部に針の軸Aに対し傾斜した傾斜端面20aを有する管状部20と、管状部20の傾斜端面20aの先端20bから前方側に突出した突出部21を有している。突出部21は、管状部20よりも幅(軸Aに対して直角の左右方向の長さ)が小さく形成されている。突出部21は、管状部20と同じ厚み、管状部20の横断面(軸方向に対して直角の断面)の曲率半径と同じ曲率半径で幅方向に円弧状に湾曲している。突出部21の内壁面は、管状部20の内壁面に連続し、突出部21の外壁面は、管状部20の外壁面に連続している。
【0017】
突出部21の先端21aは、前方に凸に湾曲している。突出部21の先端21aの軸方向における曲率半径は、例えば傾斜端面20aの先端20b(図3示す点線部分)の曲率半径よりも小さく設定されている。図4に示すように突出部21の突出方向(針の軸A方向)に対する傾斜端面20aの傾斜角度Bは、60度未満に設定されている。これにより、傾斜端面20aと、この傾斜端面20aと接続される突出部21の端辺とのなす角(傾斜角度Bと同じ)が60度未満になる。
【0018】
ダルニードル1の管状部20の外径は、0.4mm〜2.5mm程度が好ましく、この場合、突出部21の左右方向の幅は、0.02mm〜2.50mm程度が好ましい。また、突出部21の針の軸A方向の長さは、2.5mm〜5.00mm程度が好ましい。ダルニードル1の材質は、ステンレスなどの金属針であってもよいし、プラスチック針であってもよい。プラスチック針では、ポリテトラプルオロエチレン、ABS樹脂( アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリカーボネイト、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが好適に用いられる。
【0019】
次に、以上のように構成されたダルニードル1を用いて血管に穿刺する作業について説明する。作業を行う前には、既に初回の通常針による穿刺が行われおり、図9に示したように患者のシャント部に、皮膚100から血管101に通じる穿刺ルート102が形成されている。また、ダルニードル1を有する血液浄化処理用器具2は、無菌袋から取り出され、血液浄化回路に接続されている。
【0020】
先ず、図5に示すようにダルニードル1などにより穿刺ルート102の痂皮103が取り除かれ、皮膚100に穿刺孔102aが開口する。次に、穿刺孔102aから穿刺ルート102にダルニードル1が挿入される。ダルニードル1が挿入されると、図6に示すように突出部21が血管101の表面の閉じた穿刺孔101aに到達する。そこで、ダルニードル1の突出部21が穿刺孔101aに押し付けられながら、突出部21の先端21aにより図12に示したようなU字型の穿刺孔101aの穿刺起点部104が探り当てられる。突出部21の先端21aが穿刺起点部104に合わせられると、図7に示すように当該穿刺起点部104から穿刺孔101aが開口し、ダルニードル1が血管101内に穿刺される。その後、ダルニードル1から採血及び返血が行われ、血液浄化回路を用いて血液浄化処理が行われる。
【0021】
以上の実施の形態によれば、ダルニードル1の傾斜端面20aの先端20bに、幅が小さい突出部21が形成されているので、突出部21により血管101の感触が指に伝わり易くなり、穿刺起点部104に対する針の探り性を向上できる。よって、血管101に穿刺する作業を簡単かつ短時間で行うことができる。また、突出部21の先端21aが前方に凸に湾曲しているので、突出部21の先端21aにより血管101を傷つけたり患者に痛みを与えることを防止できる。
【0022】
また、上記実施の形態では、突出部21の先端21aの軸方向における曲率半径が傾斜端面20aの先端20bの軸方向における曲率半径よりも小さくなっているので、突出部21の先端21aによる血管101の感触がより指先に伝わり易くなり、穿刺起点部104に対する針の探り性をさらに向上できる。
【0023】
また、突出部21の突出方向に対する傾斜端面20aの傾斜角度Bが60度未満になっているので、穿刺する際のダルニードル1の抵抗が小さくなり、より小さな力でダルニードル1を血管101に穿刺できる。
【0024】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0025】
例えばダルニードル1の突出部21の形状は、上記実施の形態で記載したものに限られず、他の形状を有するものであってもよい。例えば突出部21は、先端21aの幅だけが、他の部分よりも小さくなるような形状を有していてもよい。また、上記実施の形態では、突出部21の先端21aの軸方向における曲率半径が傾斜端面20aの先端20bの軸方向における曲率半径よりも小さくなっていたが、その関係が逆であってもよい。傾斜端面20aは、図8に示すように途中に段差20dが形成されているようなものであってもよい。なお、段差20dの前後で傾斜角度が異なる傾斜端面20aになった場合には、最も大きい傾斜の角度を傾斜角度Bとする。また、上記実施の形態では、ダルニードル1が血液浄化処理時に用いられるものであったが、いわゆるボタンホール穿刺法で用いられるものであればよい。例えば注射器により薬液を投与する時や採血を行う時に用いられるダルニードルにも、本発明は適用できる。
【実施例】
【0026】
以下に、上記実施の形態で記載したダルニードル1の性能評価実験の結果を示す。評価実験1は、ダルニードル1を用いた穿刺性能を評価する実験である。評価実験2は、ダルニードル1を用いた穿刺抵抗を評価する実験である。
【0027】
(評価実験1)
評価実験1は、穿刺が行われる対象を、透析導入後3年以上経過し週3回の血液透析を実施している末期腎不全血液透析患者20名とした。各患者の2回目の透析日に、上腕シャント部において図2に示した本発明に係るダルニードル1若しくは図11に示した従来のダルニードル120を用いて穿刺を行った。ダルニードルが穿刺ルート102に挿入されてからダルニードルが血管101に穿刺されるまでに時間を計測した。これらの穿刺時間を次の表1に示す。
【0028】
【表1】

本発明に係るダルニードル1は、従来のダルニードル120に比べ、穿刺時間が短かった。
【0029】
(評価実験2)
評価実験2は、荷重測定器(MODEL-1605N:アイコーエンジニアリング社製)を用い、厚み1.05mm、40mmΦのシリコンゴム(SR-50;タイガーポリマー社製)に対し17G針で穿刺後各サンプルのダルニードルを刺通させ、そのときの必要荷重を測定することによって行った。実験条件として、室温26℃にて刺通スピードは50mm/minで行った。この評価実験2の結果を表2に示す。表2中の最大必要荷重は、各サンプルを刺通したときに必要になった最大荷重であり、接点必要荷重は、突出部21と傾斜端面20aとの接点がシリコンゴムを刺通する際に必要になった荷重である。
【0030】
実施例1、2、3、4及び比較例1のサンプルは、突出部21と傾斜端面20aとの接点角度(傾斜角度)Bがそれぞれ 12.0度、11.7度、25.1度、 28.4度、65.0度のダルニードルである。比較例2のサンプルは、図11に示す突出部21を有さないダルニードルである。
【0031】
【表2】

【0032】
接点角度Bが60度未満の実施例1〜4の最大必要荷重は、比較例1、2に比べて著しく小さくなっている。また、実施例1〜4の接点必要荷重は、100mN以下で、比較例1に対して著しく小さくなっている。よって、接点角度Bを60度未満にすることにより、刺通抵抗が著しく低下し、穿刺をスムーズに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、穿刺ルートを通じて血管に穿刺する際の血管の穿刺起点部に対する針の探り性を向上する際に有用である。
【符号の説明】
【0034】
1 ダルニードル
2 血液浄化処理用器具
10 チューブ
11 接続部
12 保持部
13 クランプ
14 キャップ
20 管状部
20a 傾斜端面
20b 先端
21 突出部
21a 先端
100 皮膚
101 血管
101a 穿刺孔
102 穿刺ルート
102a 穿刺孔
103 痂皮
104 穿刺起点部
A 針の軸
B 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚から皮下の血管に通じる穿刺ルートに挿入されて、血管に穿刺される針であって、
針の軸に対し傾斜した傾斜端面を有する管状部と、当該管状部の傾斜端面の先端から前方側に突出した突出部と、を有し、
前記突出部の先端は、前記管状部よりも幅が小さく、前方に凸に湾曲している、針。
【請求項2】
前記突出部の先端の曲率半径は、前記傾斜端面の先端の曲率半径よりも小さい、請求項1に記載の針。
【請求項3】
前記突出部の突出方向に対する傾斜端面の傾斜角度が60度未満になっている、請求項1又は2に記載の針。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−244943(P2011−244943A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119634(P2010−119634)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【出願人】(500277803)有限会社ネクスティア (17)
【Fターム(参考)】