説明

鉄分回収装置及び鉄分回収方法並びに植生材料

【課題】鉄バクテリアを用いて簡便に被処理水から鉄分を回収できる鉄分回収装置を提供し、更に、得られた含鉄凝集物を用いた植生に適した植生材料を提供する。
【解決手段】鉄バクテリアを用いて被処理水に含まれた鉄分を含鉄凝集物として回収する鉄分回収装置10であって、被処理水20が貯留される貯水槽11と、含鉄凝集物が付着形成される回収部材14が収容された回収槽12と、槽12と槽11との間で被処理水を循環させる循環手段13と、を備え、回収部材14は、起毛表面部を有する紐状体141及び/又は不織布が集約されてなる。本方法は、この鉄分回収装置10を用い、回収部材14に含鉄凝集物を付着形成させる工程と含鉄凝集物を回収する工程とを備える。本植生材料は回収された含鉄凝集物と植物性有機物とを共に発酵してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄分回収装置及び鉄分回収方法並びに植生材料に関する。更に詳しくは、被処理水中に含まれた鉄分を含鉄凝集物として回収できる鉄分回収装置及び鉄分回収方法、更に、前記装置又は方法で得られた含鉄凝集物を用いた植生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
国内に植林されているスギ及びヒノキ等の樹木は森林面積に大きな割合を占めており、これらの樹木を利用する際には多量の樹皮、木粉及び端材等の木質廃物を生じ、その木質廃物の処理が、近年、問題となっている。環境的観点、特に二酸化炭素の発生を抑制するという観点から、木質廃物を焼却処分することは好ましくなく、その利用用途が求められている。また、これらの木質廃物は、一時的に集積保持される場合があるが、その集積期間に集積地を通過した水が木質廃物により鉄分を多く含む濃色の汚水となる場合があり、その処理方法が求められている。
従来、排水処理技術として、汚水中に含まれた鉄分を浄化する装置において鉄バクテリアを利用する技術が下記特許文献1及び2において知られている。また、スギ又はヒノキ樹皮と下水汚泥等とを利用した植生基盤材が下記特許文献3において知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平07−100491
【特許文献2】特開平10−263560
【特許文献3】特開平09−074899
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、鉄バクテリアを利用した自然濾過装置である。この装置は濾過を目的とし、また、濾材として濾砂などを用いた大規模な濾過装置である。濾砂を用いた装置では、時間経過と共に目詰まりを起すという問題があるが、濾砂自体の洗浄又は交換に多大な費用と労力とを要する。このため、濾材は再利用されずに廃棄される場合もある。更に、濾材に付着した濾過物は回収することが困難であるという問題がある。このため、より小型で、より簡便且つ低コストで鉄分を回収できる装置が求められる。特許文献2は、鉄バクテリアを用いた小型の用水の浄化装置であり、上記特許文献1と同様に濾材として濾砂などを用いた濾過を目的とする装置である。このため上述と同様な問題がある。このため、より簡便且つ低コストで鉄分を回収できる装置が求められる。特許文献3は、スギ又はヒノキ樹皮粉砕物、有機下水汚泥及び石炭灰からなる植生基盤材である。しかし、有機下水汚泥の取得方法等については検討されていない。
【0005】
本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであり、鉄バクテリアを用いて簡便に被処理水から鉄分を回収できる鉄分回収装置を提供することを目的とする。更に、鉄分回収装置で得られた含鉄凝集物を用いた植生に適した植生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す通りである。
(1)鉄バクテリアを用いて被処理水に含まれた鉄分を含鉄凝集物として回収する鉄分回収装置であって、
上記被処理水が貯留される貯水槽と、
上記含鉄凝集物が付着形成されることとなる回収部材が収容された回収槽と、
上記回収槽と上記貯水槽との間で上記被処理水を循環させる循環手段と、を備え、
上記回収部材は、起毛表面部を有する紐状体及び/又は不織布が集約されてなることを特徴とする鉄分回収装置。
(2)支柱を介して2つの格子枠が対向配置されてなる枠構造体を上記回収槽内に着脱自在に備え、
上記格子枠は複数の掛止部を有し、
上記紐状体及び/又は上記不織布は、上記枠構造体内を満たすように上記掛止部間に掛架されている上記(1)に記載の鉄分回収装置。
(3)上記起毛表面部のうちの少なくとも一部は、親水性樹脂からなる上記(1)又は(2)に記載の鉄分回収装置。
(4)上記紐状体は、上記起毛表面部がパイル繊維から形成されており、且つ見掛け直径が3cm以上である上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置。
(5)上記被処理水は、鉄分を1mg/L以上含有する上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置。
(6)上記処理水は、破砕木材堆積物を通過した水及び該破砕木材堆積物下の土壌を通過した水のうちの少なくとも一方を含む上記(5)に記載の鉄分回収装置。
(7)上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置を用いて、上記含鉄凝集物として回収する鉄分回収方法であって、
上記被処理水を上記回収槽と上記貯水槽との間で循環させながら、上記回収部材に上記含鉄凝集物を付着形成させる含鉄凝集物形成工程と、
上記回収槽から上記回収部材を取り出して上記含鉄凝集物を回収する回収工程と、を備えることを特徴とする鉄分回収方法。
(8)上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置を用いて回収された上記含鉄凝集物と植物性有機物とを共に発酵してなることを特徴とする植生材料。
(9)上記植物性有機物は、樹皮細分化物及び/又は木質部細分化物である上記(8)に記載の植生材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鉄分回収装置によれば、大規模な浄水設備や一度に大量の被処理水を要することなく、また、薬品(酸化剤及び凝集剤等)などを用いることなく環境に負荷を与えることなく、小規模に操業できる。一方、設備自体は小規模であっても高い除鉄能力を有するため、小規模な装置により短時間で効率よく鉄分を除去できる。更に、除去した鉄分は簡単に回収でき、更には、この鉄分は有効物として再利用できる。これにより特に山間部における林業関連分野において資源を有効に循環利用することができる。また、定常的により安定した品質の含鉄凝集物を回収でき、含鉄凝集物自体の利用価値が高い。更に、沈殿法等に比べて回収速度(鉄分除去速度)ははるかに大きく、効率よく汚水の浄化を行うことができる。
【0008】
特定の枠構造体を回収槽内に着脱自在に備え、紐状体及び/又は不織布を枠構造体内を満たすように掛止部間に掛架して備える場合は、従来の濾砂等と異なり、容易に回収槽内から着脱することができ、含鉄凝集物の回収をより容易に行うことができる。また、回収部材自体の交換も容易とすることができる。
起毛表面部のうちの少なくとも一部が親水性樹脂からなる場合は、特に鉄バクテリアの着生性及び繁殖性に優れ、含鉄凝集物の形成を促進することができる。一方で、得られた含鉄凝集物はより容易に剥離することができ、回収効率にも優れている。
紐状体の起毛表面部がパイル繊維から形成されており、且つ見掛け直径が3cm以上である場合、紐状体であることにより、含鉄凝集物の回収が容易となり、また、耐久性がよく繰り返しの利用性に優れている。
被処理水が鉄分を1mg/L以上含有する場合、即ち、豊富な鉄分を含有する被処理水である場合は、本装置を特に効果的に機能させることができる。
処理水が破砕木材堆積物を通過した水及び該破砕木材堆積物下の土壌を通過した水のうちの少なくとも一方を含む場合は、本装置を特に効果的に機能させることができる。
【0009】
本発明の鉄分回収方法によれば、大規模な浄水設備や一度に大量の被処理水を要することなく、また、薬品(酸化剤及び凝集剤等)などを用いることなく環境に負荷を与えることなく、小規模に操業できる。一方、設備自体は小規模であっても高い除鉄能力を有するため、小規模な装置により短時間で効率よく鉄分を除去できる。更に、除去した鉄分は簡単に回収でき、更には、この鉄分は有効物として再利用できる。これにより特に山間部における林業関連分野において資源を有効に循環利用することができる。また、定常的により安定した品質の含鉄凝集物を回収でき、含鉄凝集物自体の利用価値が高い。更に、沈殿法等に比べて回収速度(鉄分除去速度)ははるかに大きく、効率よく汚水の浄化を行うことができる。
【0010】
本発明の植生材料によれば、鉄分を多く含む植生材料を得ることができる。また、特に山間部における林業関連分野において資源を有効に循環利用することができる。
植物性有機物が樹皮細分化物及び/又は木質部細分化物である場合は、利用が難しいこれらの材料を有効に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]鉄分回収装置
本発明の鉄分回収装置は、鉄バクテリアを用いて被処理水に含まれた鉄分を含鉄凝集物として回収する鉄分回収装置であって、
上記被処理水が貯留される貯水槽と、
上記含鉄凝集物が付着形成されることとなる回収部材が収容された回収槽と、
上記回収槽と上記貯水槽との間で上記被処理水を循環させる循環手段と、を備え、
上記回収部材は、起毛表面部を有する紐状体及び/又は不織布が集約されてなることを特徴とする。
【0012】
上記「鉄分回収装置」は、鉄バクテリアを用いて被処理水に含まれた鉄分を含鉄凝集物として回収する装置である。そして、この鉄分回収装置は、貯水槽と、回収部材と、回収槽と、循環手段と、を備える。
上記「貯水槽」は、被処理水が貯留される容器である。被処理水は装置外からまずこの貯水槽へと取水される。その後、貯水槽から循環手段により回収槽へと送水され、次いで、回収槽から貯水槽へと送水され、これを繰り返して装置内で被処理水が循環される。本装置ではこの貯水槽を備えることで、被処理水を循環させて高効率で鉄分を凝集させることができる。この貯水槽の形状及び容積等は特に限定されないが、その容積は1000リットル以下が好ましく、10リットル以上が好ましく、50〜500リットルがより好ましく、100〜300リットルが特に好ましい。この程度の大きさであれば装置自体を大規模化させることなく、且つ鉄バクテリアの生息に適した環境を形成でき、より効果的に鉄分回収を行うことができる。
【0013】
上記「回収槽」は、含鉄凝集物が付着形成されることとなる回収部材が収容された容器である。被処理水は上述のように貯水槽から循環手段によりこの回収槽へと送水される。そして、主にこの回収槽内に配置された回収部材に鉄バクテリアが繁殖されているために、被処理水内の鉄分は酸化されて含鉄凝集物(含鉄フロック)として回収部材に付着される。被処理水は回収槽を1回通過するだけでも除鉄されるが、除鉄率を向上させるため、即ち、被処理水内の鉄濃度をより低下させるために、被処理水は装置内で循環されて、少なくとも2回以上この回収槽を通過することとなる。
【0014】
本装置では、貯水槽と回収槽とを備えてこれらの間で被処理水の循環を行う。この循環を行うことで、鉄バクテリアの着生及び繁殖を促し、小規模であっても効率よく短時間で含鉄凝集物の形成を行うことができる。また、循環させた場合は循環させない場合に比べてより安定した量及び質の含鉄凝集物を回収できる。これらのメリットを生じる理由は定かではないが、循環させることで水温が次第に上昇されて鉄バクテリアの繁殖に適した温度に近づくことや、循環されている被処理水内に豊富な鉄バクテリアが生存されており、回収部材を取りだして含鉄凝集物を回収したとしても容易に鉄バクテリアを再着生及び再繁殖させることができること等が考えられる。
【0015】
また、回収槽の形状及び容積等は特に限定されないが、1000リットル以下が好ましく、10リットル以上が好ましく、50〜500リットルがより好ましく、100〜300リットルが特に好ましい。この程度の大きさであれば装置自体を大規模化させることなく、且つ鉄バクテリアの生息に適した環境を形成でき、より効果的に鉄分回収を行うことができる。
また、上記循環の際には、回収槽内で被処理水はゆっくりと流れることが好ましい。この流速は特に限定されないが、例えば、回収槽から貯水槽へと送水する被処理水の出口における流速で、1リットル/分〜50リットル/分であることが好ましく、10リットル/分〜30リットル/分であることがより好ましい。この範囲であれば鉄バクテリアの着生・繁殖に適した環境を得ることができ、鉄分の回収率においても優れている。
【0016】
上記「回収部材」は、起毛表面部を有する紐状体及び/又は不織布が集約されてなる。上記起毛表面部を構成する紐状体及び不織布は、いずれも鉄バクテリアの着生性及び繁殖性に優れており、回収部材として好適である。紐状体の詳細については後述するが、上記不織布としては、シート状の不織布であってもよく、フィルム状の不織布であってもよく、ウェブ状の不織布であってもよい。また、不織布は起毛表面部を有してもよく有さなくてもよいが、鉄バクテリアの着生性に優れることから起毛表面部を有することが好ましい。従って、不織布は毛羽立った表面を有する糸から構成されることが好ましい。即ち、例えば、甘撚糸、スパン糸、マルチフィラメント、タスラン加工糸及びモール糸等を用いて形成された不織布が好ましい。
【0017】
上記紐状体及び上記不織布のうちでは、回収部材としては紐状体がより好ましい。紐状体は密に集約させても間隙を維持することができ、回収部材内での被処理水の流通を過度に阻害せず、被処理水を適度に回収部材内で滞留させることができる。このため含鉄凝集物の形成をとりわけ高度に促進させる。また、含鉄凝集物の回収もより容易であり、更には、耐久性の面においても紐状体が優れ、繰り返しの利用性に優れている。
【0018】
上記「紐状体」とは、細長い形状のものであり、その断面形状等は特に限定されない。この紐状体としては、例えば、紐、糸、テープ及び帯等の形態が含まれる。また、この紐状体は「起毛表面部」を有する。起毛表面部を有することで、紐状体の表面積を増加され、鉄バクテリアの着生性及び繁殖性が向上される(即ち、紐状体は鉄バクテリアに対して培地として機能する)。
【0019】
起毛表面部とは表面が毛羽立っていることを意味する。起毛表面部は、紐状体の表面にループが形成された状態、紐状体の表面自体が毛羽立った状態、紐状体の表面に糸玉が形成された状態等が含まれる。これらのなかでも、鉄バクテリアの着生性及び繁殖性に優れるために、紐状体の表面にループが形成された状態が好ましい。この紐状体の表面にループが形成された状態は、どのように構成されてもよいが、例えば、芯材とその芯材に植毛されたパイル繊維とから形成できる。即ち、起毛表面部はパイル繊維からなることが好ましい。
【0020】
紐状体を構成する繊維は特に限定されず、合成繊維(熱融着性繊維などを含む)であってもよく、天然繊維であってもよく、これらの両方であってもよいが、合成繊維が好ましい。合成繊維は高い耐久性(特に耐腐食性)を有するため、目的物である含鉄凝集物の回収を行い易く、また、繰り返しの利用性にも優れている。
この合成繊維を構成する樹脂は特に限定されず、種々の樹脂を用いることができる。この樹脂としては、例えば、親水性樹脂(ビニロンなど)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン及びポリプロピレンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレート並びに低融点ポリエステル樹脂など)、ポリアミド系樹脂(各種ナイロン及び低融点ポリアミド樹脂など)、アクリル系樹脂(ポリアクリロニトリルなど)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、鉄バクテリアの生息環境を向上させる目的でこれらの繊維に活性炭、シリカ及びゼオライト等の無機材料の粉末のうちの少なくとも1種を配合した繊維を用いることもできる。
【0021】
これらの合成繊維のなかでも、鉄バクテリアの着生性及び繁殖性に優れているため、起毛表面部のうちの少なくとも一部が親水性を示す合成繊維が好ましく、更には、少なくとも一部が親水性樹脂からなる合成繊維がより好ましい。この親水性樹脂として特にビニロンが好ましい。即ち、上記合成繊維は、ビニロンからなる繊維、及び一部にビニロンを含む合成繊維が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、耐久性、耐水性及び強度に優れたポリプロピレンを芯材として用い、このポリオレフィン樹脂(特にポリプロピレン)からなる芯材の表面にビニロンからなるパイル繊維により構成された起毛表面部を有する紐状体がとりわけ好ましい。
【0022】
このビニロンからなるパイル繊維による起毛表面部を有する紐状体は、鉄バクテリアの繁殖に特に適し、鉄バクテリアの菌床として好適に機能するものと考えられる。また、紐状体を用いることで、回収部材として十分な密度で集約することができつつ(即ち、大きな比表面積を得ることができ、鉄バクテリアの繁殖に適した環境が得られる)、被処理水の流通を阻害することがない。また、一方で紐状体を用いることで、回収部材は簡便に解体して長尺状の紐状体として回収槽内から取り外すことができる。従って、極めて簡単に含鉄凝集物を紐状体から解離させることで、効率よく含鉄凝集物を回収できる。
【0023】
更に、紐状体の外観形状等は特に限定されないものの、その見掛け直径は3cm以上であることが好ましい。見掛け直径を3cm以上(好ましくは4cm以上、通常10cm以下)とすることで紐状体を集約した際にも十分な間隙を設けつつ、高い集約密度を得ることができる。
また、この紐状体の起毛表面部がパイル繊維から形成されている場合、そのパイル繊維によるループの長さ(芯材からループ先端までの距離)は1〜10cmとすることが好ましく、2〜6cmとすることがより好ましく、2〜3cmとすることが更に好ましい。この範囲であれば被処理水内においてループが重力により下方に完全に垂れ下がって配置されることが抑制されて、鉄バクテリアにより適した生息環境を得ることができる。また、特に紐状体の表面積は、紐状体1mあたりに0.5m以上であることが好ましく、1.0m以上であることがより、1.5m以上であることが特に好ましく、通常、10m以下である。
【0024】
上記「集約」とは、紐状体及び不織布の取り付け状態を表す。この集約方法は特に限定されないが、回収槽内のできるだけ大きな容積を占めるように、紐状体及び/又は不織布を張り巡らせることが好ましい。そして、この集約の程度は特に限定されないが、例えば、紐状体を用いる場合には、紐状体同士の間隔(芯材同士の間隔)が6〜12cmとなるように集約することが好ましく、4〜10cmとなるように集約することがより好ましく、4.5〜8cmとなるように集約することがより好ましい。この範囲で集約することで、過度に広い間隙を有することなく、また、過度に狭い間隙を有することなく適度な間隙を得ることができ、鉄バクテリアに最も適した生息環境を得ることができる。
また、用いる紐状体及び不織布は、回収部材全体を1本の紐状体又は1枚の不織布から形成してもよく、2本以上の紐状体又は2枚以上の不織布から形成してもよい。
【0025】
これらの紐状体及び不織布を回収槽内で張り巡らせるには、回収槽内において紐状体及び不織布を支持するための支持体を設けることができる。
この支持体の構成及び構造は特に限定されないが、例えば、支柱を介して2つの格子枠が対向配置されてなり、回収槽内に着脱自在に備えられ、且つ紐状体及び/又は不織布を掛架する複数の掛止部が格子枠に設けられた枠構造体を用いることができる。
この枠構造体の一例を図2及び図3に示す。枠構造体15における格子枠151は、格子状に形成されて、紐状体及び/又は不織布を支持する枠である。格子枠152は少なくとも対向した2つを備えるが、3つ以上の格子枠を備えることもできる。3つ以上の格子枠152を備える場合も紐状体及び/又は不織布を格子枠間において掛架できるように各格子枠は対向して配置されることが好ましい。
また、格子枠は、紐状体及び/又は不織布を掛架するための掛止部153を複数有する。この掛止部としてはフック(鉤)及びリング等を用いることができる。即ち、例えば、O型リング及びS型フック等である。
【0026】
また、枠構造体15を構成する支柱151は、一対の格子枠152を対向された状態に維持するためのものである。この支柱151は一対の格子枠152に対して、一本のみを有してもよく、2本以上を有してもよいが、特に枠構造体15自体が立方体形状又は直方体形状となるように4本の支柱を備えることが好ましい。これにより高い強度を有する枠構造体とすることができる。
また、この枠構造体15は回収槽内に着脱自在に備えられている。これにより、従来の濾砂等と異なり、容易に回収槽内から着脱することができ、含鉄凝集物の回収をより容易に行うことができる。また、回収部材自体の交換も容易とすることができる。
【0027】
更に、この枠構造体を構成する材質は特に限定されず、金属及び樹脂等を単用又は併用できるが、なかでも樹脂性の枠構造体が好ましい。軽量であるため着脱が容易であり、また、錆ないために耐久性にも優れている。更に、加工性にも優れ、安価である。
尚、回収槽には、回収部材と被処理水との接触をより確実に行い、更には、回収部材と被処理水との接触時間をより長く得るために、図1に示すように仕切り板16を備えることができる。この仕切り板16を備えることにより、被処理水の回収部材近傍での滞留を促進できる。即ち、被処理水20は送水管132から回収槽12内に送水かれた後、回収部材14の近傍を流通することなく表層部分を通過して送水管133から貯水槽11へと送水されることを防止できる。これにより、鉄バクテリアの着生及び繁殖を促し、含鉄凝集物の形成を促し、短時間で効率よく鉄分を回収することができる。
【0028】
上記「循環手段」は、回収槽と貯水槽との間で被処理水を循環させる手段である。この循環手段は、貯水槽と回収槽との間を接続する送水管を有することができる。また、貯水槽から回収槽へ被処理水を送水するためのポンプを備えることができる。更に、回収槽から貯水槽へ送水するためのポンプ及びこれに付帯する送水管等を備えることもできるが、通常は、水位の高低差等を活用して回収槽から貯水槽へ自然に送水される構成とすることができる。
また、鉄バクテリアは好気性微生物であるため、被処理水内の溶存酸素濃度を高く維持するために、貯水槽から送水された被処理水を回収槽へ流下させ、流下された被処理水が落下衝撃により泡立つように送水管を配設することができる。また、同様に回収槽から貯水槽への循環においても同様である。尚、本発明の鉄分回収装置は、上記溶存酸素濃度を高くするために、循環手段以外に曝気手段等を備えることもできる。
【0029】
上記「鉄バクテリア」は、水中の溶存鉄イオン(通常、2価の鉄イオン)を酸化する微生物である。また、通常、鉄バクテリアは、その酸化した酸化鉄を細胞の内外に蓄積することができる。この鉄バクテリアは、鉄分回収装置の全体に存在してもよく、一部に存在してもよく、一部に存在する場合にはどの部分に存在してもよいが、特に後述する回収部材に着生され、更には、繁殖されていることが好ましい。また、鉄バクテリアは本装置に対して系外から菌自体を添加してもよいが、木質廃物を通過した水や落葉等の間を流れた雨水及び湧水等の自然界に存在する鉄バクテリアを被処理水として装置内へ導入することによって取得することができる。更に、取得した鉄バクテリアはこれらの着生及び繁殖に適した環境を形成することで系外からの添加・配合を要することなく、鉄分の回収を行うことができる。
【0030】
上記鉄バクテリアの種類は特に限定されず、各種を利用できる。即ち、例えば、レプトシリックス属細菌、トキソシリックス属細菌、クレノシリックス属細菌、クロノシリックス属、ガリオネラ属細菌、シデロカプサ属細菌、シデロコッカス属細菌、シデロモナス属細菌、及びプランクトミセス属細菌等の鉄バクテリアが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは特にレプトシリックス属細菌が好ましい。レプトシリックス属細菌は、本装置の回収部材において特に着生性及び繁殖性がよく、本装置で利用する上で好適である。このレプトソリックス属細菌の鉄バクテリアは、通常、菌細胞が2〜4μの円筒形でり、長管の鞘中に縦1列に並んだ糸状体が形成され、長さが2〜200μmである。
尚、鉄バクテリアは、例えば、バチルス属細菌のリケニフォルミス等の鉄バクテリア共生菌と共生されていてもよい。
【0031】
上記「被処理水」は、鉄分を含有する水である。被処理水に含まれる鉄分の濃度(即ち、溶存鉄濃度)は特に限定されないが、1mg/L以上であることが好ましく、1〜100mg/Lであることが好ましく、3〜50mg/Lであることが好ましい。5〜35mg/Lであることにより、鉄分の含有量が多い含鉄凝集物として回収することができ、後述する植生材料及び植生基盤材として用いた場合に鉄分を含有することによる効果を十分に得ることができる(鉄分の濃度は後述する実施例における溶存鉄濃度の測定方法と同じである)。
この被処理水としては、樹皮、木粉及び端材等の木質廃物が集積(堆積)された木質廃材集積物(木質廃材堆積物)から浸出されることにより鉄分が含有された水、鉄分が含有された地下水、鉄分が含有された工業排水、鉄分が含有された産業排水などが挙げられる。
【0032】
上記「鉄分」は、主としてFeイオン(主として2価Feイオンであるが、3価Feイオンを含む)であるが、その他、Fe錯体、Fe(金属Fe)及びFe化合物を含んでもよい。これらは1種のみであってもよく2種以上であってもよい。尚、後述する溶存鉄濃度とは全ての鉄イオンの合計イオン濃度である。
上記「含鉄凝集物」は、鉄分を含むフロックであり、回収部材に付着されたものである。この含鉄凝集物は鉄バクテリアの作用により形成され、回収部材に付着される。この含鉄凝集物の組成及び形態等は特に限定されない。被処理水に含まれる鉄分(とりわけ鉄イオン)は鉄バクテリアに取り込まれて回収部材に付着固定され、被処理水中の鉄分濃度が低下する。
【0033】
尚、本装置では被処理水を加熱できるヒーター(加温装置)を備えることができる。ヒーターを備えることで鉄バクテリアの活動をより活性化して、回収効率を向上(より短時間でより多くの含鉄凝集物を形成)させることができる。ヒーターを備える場合、ヒーターは装置のどの部分に配設してもよいが、特に回収槽の水温が鉄バクテリアの繁殖に影響するため、この回収槽内の水温を維持できるように配設することが好ましい。即ち、例えば、回収槽内、及び回収槽への送水管内などが挙げられる。
【0034】
[2]鉄分回収方法
本発明の鉄分回収方法は、本発明の鉄分回収装置を用いて、上記含鉄凝集物として回収する鉄分回収方法であって、
上記被処理水を上記回収槽と上記貯水槽との間で循環させながら、上記回収部材に上記含鉄凝集物を付着形成させる含鉄凝集物形成工程と、
上記回収槽から上記回収部材を取り出して上記含鉄凝集物を回収する回収工程と、を備えることを特徴とする。
【0035】
上記「含鉄凝集物形成工程」は、前述の装置を用いることで行うことができる。この含鉄凝集物の形成条件等は特に限定されず、前記循環を行うことで形成される。この工程においては、その他、被処理水の循環速度は特に限定されず、装置全体に収容される被処理水の量等にもよるが、例えば、毎分1〜70リットルとすることができ、毎分5〜60リットルとすることが好ましく、毎分10〜50リットルとすることがより好ましく、毎分15〜40リットルとすることが特に好ましい。好ましい範囲の流速で循環させることで鉄バクテリアの着生及び繁殖を更に促進することができる。また、被処理水の温度(初期温度及び循環時温度)も特に限定されないが、特に循環時温度は10℃以上とすることが好ましく、10〜35℃とすることがより好ましく、15〜25℃とすることが更に好ましい。好ましい範囲の流速で循環させることで鉄バクテリアの着生及び繁殖を更に促進することができる。
【0036】
上記「回収工程」は、回収槽から回収部材を取り出して含鉄凝集物を回収する工程である。この含鉄凝集物の回収方法は特に限定されないが、例えば、(1)回収槽内に被処理水を残存させたままで(処理時の被処理水量を100体積%として少なくとも80体積%を超える量の被処理水を回収槽内に残存させる)、回収部材を被処理水に浸漬させたままで含鉄凝集物を回収する方法、(2)被処理水を回収槽から排水して(処理時の被処理水量を100体積%として50体積%以上の被処理水を回収槽から排水する)、回収部材を被処理水から露出させて含鉄凝集物を回収する方法、などが挙げられる。
【0037】
これらのうち(1)の方法は、具体的には、被処理水を回収槽内に残存させたまま、回収槽内において枠構造体を揺動(上下させたり揺すったりする)させて回収部材から含鉄凝集物を離間する。その後、含鉄凝集物を被処理水内から濾過して回収する場合が挙げられる。この上記(1)の方法では、含鉄凝集物を回収部材から離間させる際に回収部材表面への物理的な接触がなく、回収部材の劣化を抑制し、回収部材をより長期にわたって再利用できる。即ち、回収部材の再利用性に優れる。
【0038】
一方、(2)の方法は、具体的には、被処理水を回収槽から一部(例えば、10〜20体積%となるように)排出し、回収槽内に残存された被処理水から露出された回収部材の表面に用具(棒及びへらなど)を摺接させて含鉄凝集物を回収部材から離間(含鉄凝集物を刮げる)させ、回収槽に残存された被処理水内に離間された含鉄凝集物を落下させる。その後、この被処理水内から含鉄凝集物を掬い上げて回収する場合が挙げられる。この上記(2)の方法では、残存された被処理水量が少なく、濾過を要さず含鉄凝集物を回収でき、回収が容易である。更に、回収槽に残存された被処理水(含鉄凝集物及び鉄バクテリアを含む)に次回の処理を行う被処理水を追加して使用することで、次回の処理に際して予め多くの鉄バクテリアを存在させることができ、短時間で処理効率を向上させることができる。
上記(1)及び(2)のいずれの回収方法においても、共に回収部材が枠構造体に支持され、回収槽内から自在に移動できるために効率よく回収を行うことができる。
【0039】
[3]植生材料
本発明の植生材料は、本発明の鉄分回収装置を用いて回収された上記含鉄凝集物と植物性有機物とを共に発酵してなることを特徴とする。
この植生材料とは、植生土壌としてそのまま使用できるもの、土壌と混合することによって植生土壌として使用できるもの等を含む。
上記「含鉄凝集物」は、前記鉄分回収装置において述べた含鉄凝集物をそのまま適用できる。
【0040】
上記「植物性有機物」は、植物に由来する各種の有機物を意味し、特に前述の各種樹木の樹皮、木粉及び端材等の木質廃物が好ましく、なかでも、特に樹皮を細分化した樹脂細分化物、木質を細分化した木質部細分化物が好ましい。これら細分化物の大きさは特に限定されないが、例えば、長さ1〜10mmが好ましく、更には長さ1〜20mmがより好ましい。その形態も特に限定されないが、チップ状物、粉末状物、及び破砕状物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を用いてもよい。即ち、より具体的にはスギ及びヒノキ等の針葉樹の樹皮粉砕物、木質破砕物、及びおが粉などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を用いてもよい。更に、その他、ピート、バーク、腐葉土等の堆肥等を合わせて用いることができる。
【0041】
上記「発酵」における発酵条件は特に限定されないが、例えば、発酵開始温度は12℃(常温)以上(より好ましくは25〜80℃、更に好ましくは30〜70)が好ましい。この温度が自然な状態で得られる場合には加熱の必要はないが、冬季等にはヒーターを用いて開始温度を確保することもできる。
また、発酵に際しては、発酵開始温度から20℃以上の温度上昇(発酵部の内部温度)が認められた場合には撹拌を行うことが好ましい。即ち、例えば、発酵開始温度が12℃程度である場合には、35℃程度(人肌で暖かいと感じる程度の温度)で撹拌を行うことができる。この撹拌を行う目安となる温度上昇は25〜100℃がより好ましく、30〜80℃が更に好ましく、30〜70℃が特に好ましい。通常、夏期であれば2〜3日間隔での撹拌を行うことができる。また、発酵時間は特に限定されないものの、例えば、夏期であれば5日以上(通常1ヶ月以下、好ましくは10〜14日)発酵させることが好ましい。
【0042】
更に、含鉄凝集物と植物性有機物とは混合してもよいが、含鉄凝集物は発酵特特性に優れているために、植物性有機物(特に前述の木質廃物)が堆積された状態の植物性有機物堆積物(特に前述の木質廃物堆積物)の上から単に含鉄凝集物を覆い被せるように振り掛けるのみであってもよい。更に、発酵を促進させるために、含鉄凝集物と植物性有機物とを共存させた上で、これらを覆うように防水シート等で覆って蒸らすことが好ましい。
【0043】
尚、この発酵の過程で、更にこれらの発酵物等から浸出されてくる汚水を被処理水として、前記本発明の鉄分回収装置へと送水することができる。こうすることによって、回収装置と発酵場との間での循環が形成され、より効果的に汚水の流出を防止でき、また、より確実に鉄分を植生材料として有効活用できる。
【0044】
本発明の装置及び方法で得られる含鉄凝集物は鉄分を多く含有するために、植物に対する鉄分供給特性に優れている。更に、この含鉄凝集物は、鉄分以外にも、後述する実施例にも示すようにマンガン、カルシウム、リン及びカリウム等を主として含有する。このため特に植物の成長促進に適している。また、木質廃材集積物(木質廃材堆積物)から浸出された被処理水には、鉄分以外にも、植物に由来するリグニン、糖質及びタンパク質等の有機物が多く含有され、更には、目視が可能な程度の大きさの木質廃材に由来する木質浮遊物等も含まれる。このため被処理水内においても鉄バクテリアがより繁殖されやすい環境となる他、得られた含鉄凝集物内にもこれらの成分が含まれやすく、植生に対しても好適である。また、植物性有機物と併用し、共発酵させるために、保水性にも優れ、尚かつ環境に優しい植生材料とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
[1]鉄分回収装置
図1に示す鉄分回収装置10を用い、木質廃材の堆積物から浸出された汚水を被処理水として含鉄凝集物の回収を行った。
図1に示す鉄分回収装置10は、被処理水20が貯留される貯水槽11(ポリタンク製、容量200リットル)と、含鉄凝集物30が付着形成されることとなる回収部材14が収容された回収槽12(ステンレス製、横70cm×奥行き50cm×高さ94cmである容量329リットル)と、回収槽12と貯水槽11との間で被処理水20を循環させる循環手段13と、を備える。
【0046】
また、循環手段13は、被処理水20を貯水槽11から回収槽12へと送水するための送水管132と、この送水管132と接続されて貯水槽11から回収槽12への送水を行うポンプ131と、被処理水20を回収槽12から貯水槽11へと送水するための送水管133と、を備える。送水管133による送水は、回収槽12内の水位により調整されており、送水管133の取水口(回収槽12との接続部)に被処理水20が届くと自然に送水されるようになっている。また、送水管133は、貯水槽11の上方に被処理水20の水面から離して配置されており、貯水槽11の水面に送水管133から被処理水20が流下(落下)されることで曝気効果が得られるようになっている。
【0047】
更に、回収部材14は、紐状体141が枠構造体15を利用して集約されてなる。
この紐状体141は、図4に示す形態をなし、ポリプロピレン製の芯材(組紐状)142と、この芯材142に編み込まれたビニロン製のパイル繊維143と、からなり、その見掛け直径は約5cmであり、比表面積は1.6m/mである。また、この紐状体は、1本の紐状体を紐状体同士の間隔が約0.5cm(流水速度によりループが流されて0.5〜2cm程度で変化する)となるように掛止部材を用いて掛架した。
尚、芯材を構成するポリプロピレンは、宇部日東化成株式会社製、バルキロンF(1100T/60F B3168 ホワイト)を用いてい、パイル繊維を構成するビニロンは、クラレ株式会社製、クラレビニロン(クレモナ 6107−4 1000d/4f)を用いた。
【0048】
また、枠構造体15は、支柱152を介して2つの格子枠151が対向配置されてなり、回収槽12内に着脱自在に(回収槽12内から自在に取り出せるように)配置されている。更に、格子枠151は、複数の掛止部153であるフックを有し、紐状体141は、枠構造体15内を満たすように掛止部153間に掛架されている。
【0049】
更に、回収槽12には仕切り板16を備える。この仕切り板16を備えることにより、被処理水20の回収部材14近傍での滞留を促進できる。即ち、被処理水20は送水管132から回収槽12内に送水かれた後、回収部材14の近傍を流通することなく表層部分を通過して送水管133から貯水槽11へと送水されることを防止できる。
また、回収槽12には、ヒーター(図示せず)を備え、このヒーターで被処理水の水温が21℃となるように調整した。更に、被処理水は被処理水導入管40を通じて装置内へ導入される。
【0050】
[2]鉄分回収装置を用いた含鉄凝集物の回収
ヒノキ及びスギの樹皮、端材及びおが粉を含む10m程度の木質廃物(大きさ0.1〜5mm程度)を約2000mのアスファルト舗装された堆積場に堆積した。そして、この堆積場から2回にわたって取水した汚水を各々被処理水として用いて処理を行った。各回で用いた被処理水の初期特性は下記表1の通りであった。
【表1】

【0051】
尚、表1における溶存鉄濃度は、フレーム式原子吸光光度計(日立製作所製、形式「Z−5000シリーズ偏光ゼーマン原子吸光光度計」)を用いて測定した値である。溶存鉄濃度はフレーム式の原子吸光光度計(日立製作所製、形式「Z−5000シリーズ 偏光ゼーマン原子吸光光度計」)を用いて測定した値である。尚、この測定においては、用いる原子吸光光度計における測定パラメーターは、測定範囲を0〜20mg/L、ランプ電流値は15mA、測定波長は248.3nm、スリット幅は0.2nm、バーナーヘッドは標準バーナー、バーナー高さは7.5mm、フレームは空気−アセチレン、助燃ガス圧力は160kPa、燃焼ガス流量は2.0L/minとした。
また、上記濁度は濁度計(HACH社製、形式「2100N」)を用いて測定した値である。
更に、CODは、JIS K0102の「100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量」に準拠して測定した値である。
【0052】
上記被処理水を鉄分回収装置の貯水槽及び回収槽の両方に合計で400リットルを収容し、循環手段を用いて毎分30リットルの流速(循環速度)で72時間循環させながら処理を行った。この循環に際しては、貯水槽及び回収槽内の水位が一定となるように調整した。また、回収槽の水位は回収部材が十分に水に没する高さとした。更に、回収槽から貯水槽へ送水する際には高低差を利用して(貯水槽の水面と送水管133の出水口との間に距離を開けて曝気効果を得た)貯水槽の上方から被処理水を流下させるようにして送水した。
【0053】
このようにして、6時間毎に100ミリリットルの被処理水を回収槽内から取水して、この各サンプル水内に含まれる溶存鉄濃度を測定し、更に、これから算出される除鉄率{(初期溶存鉄濃度−経過時間における溶存鉄濃度)/初期溶存鉄濃度×100}を得た。その結果を表2及び図5に示した。
上記処理を72時間行ったところ、被処理水は処理前には灰褐色に濁っており、貯水槽においてはその底部が視認できない状態であったのに対して72時間経過後には貯水槽においてはその底部を視認できる状態となった。また、回収部材は処理前には付着物が認められず、パイル繊維の色が確認できる状態であったのに対して72時間経過後には凝集物が主にパイル繊維表面に付着されて全体的に褐色となった。
【0054】
【表2】

【0055】
[3]凝集物の成分分析
上記処理を開始してから72時間経過後に、紐状体を回収し、この紐状体を自然乾燥させた後、紐状体に付着された含鉄凝集物を採取して分析に蛍光X線分析により無機成分の分析を行った(財団法人東海技術センターへ委託)。
その結果は、含鉄凝集物はその全体を100質量%とした場合に、FeをFe換算で70質量%、SiをSiO換算で10質量%、MnをMnO換算で5質量%、CaをCaO換算で5質量%、AlをAl換算で5質量%、PをP換算で3質量%、KをKO換算で1質量%、含有していることが分かった。即ち、含鉄凝集物にはその全体の70質量%に相当する多量の鉄分を含有することが分かる。
【0056】
[4]鉄バクテリアの確認
被処理水を100倍に希釈したサンプル水を、普通寒天培地にクリーンベンチ内で植菌して、37℃で48時間インキュベーションしたところ、鉄細菌のコロニーが確認された。
更に、紐状体を構成するパイル繊維の1本を取り出し、走査型電子顕微鏡を用いて1000倍、2000倍及び4000倍のいずれの倍率においても直線状の鞘が確認され、鉄バクテリアであるレプトシリックス・オケラセア(Leptothrix ochracea)と考えられる細菌が確認された。
【0057】
[5]鉄分回収装置を用いた実施例の効果
上記[4]の結果から、被処理水には鉄バクテリアが生息し、そして、本発明の鉄分回収装置の回収部材には鉄バクテリアが良好に繁殖されていることが分かる。更に、本発明の鉄分回収装置によれば、最初の6時間という短時間の間に約60%(58.9〜60.0%)の溶存鉄を回収することができ、更に、72時間後には約95%(93.3〜96.6%)という高確率で溶存鉄を回収できることが分かる。そして、上記凝集物の成分分析結果から溶存鉄は鉄バクテリアにより凝集物中に高濃度に蓄積されたことが分かる。
【0058】
また、上記回収部材は水洗により極めて容易に凝集物を除去することができ、また、回収部材はこの凝集物の堆積による形状変形等を生じておらず、繰り返し使用できることが分かった。
これらの結果から、本装置によれば、非常に小規模な装置でありながら、短時間で高効率に被処理水の溶存鉄濃度を低下させることができた。更に、この溶存鉄を含鉄凝集物として回収部材に付着させることができた。また、回収部材は枠構造体と共に回収槽内から容易に取り出すことができ、更に、回収部材は容易に解体して枠構造体から取り外すことができた。また、含鉄凝集物は容易に回収部材から回収でき、更には、その回収部材は繰り返し使用できることが分かった。
【0059】
[6]植生材料及びその効果
(1)剥皮機械(リングバーガー)を用いて木材表面から剥離したスギの樹皮を破砕機に投入して約10mm以下の大きさとなるように破砕してスギ樹皮破砕物を得た。
次いで、上記[2]において回収された含鉄凝集物の乾燥物2kgと、上記スギ樹皮破砕物と、をコンポスト容器に投入して10日間放置した。
その後、植生材料全体を100質量%とした場合の割合で、ピートモス;75質量%と、上記含鉄凝集物及びスギ樹皮破砕物の混合コンポスト化物;15質量%と、を混合して植生材料を得た。
【0060】
(2)上記(1)で得られた植生材料を用いて、チューリップの栽培を行った。一方、比較例として市販用土(プロトリーフ株式会社製、品名「球根の土」)を用いて同様にチューリップの栽培を行った。
その結果、本発明の植生材料を用いたチューリップでは、発芽は比較例に比べて2日早く確認された。また、50日後の地表上植物の高さは、比較例が5cm長が8本及び8cm長が2本であったのに対して、本発明の植生材料を用いたチューリップでは7cm長7本及び9cm長3本と比較例に比して成長が早かった。更に、1ヶ月後には、比較例が平均25cmであるのに対して、本発明の植生材料を用いたチューリップでは平均30cm長であり、全般に成長が早いことが確認された。
更に、本発明の植生材料を用いたチューリップでは、花、茎及び葉が比較例よりも大きく、また特に、本発明の植生材料を用いたチューリップでは細根がより多く確認された。更に、比較例に比べて花の色彩が良好であった。これらの結果から、植物の生長に適した植生材料が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の鉄回収装置の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】枠構造体の一例を示す斜視図である。
【図3】枠構造体内に回収部材を集約した状態を示す斜視図である。
【図4】紐状体の一例を示す斜視図である。
【図5】実施例1及び実施例2における処理時間と溶存鉄濃度並びに除鉄率との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
10;鉄分回収装置、11;貯水槽、12;回収槽、13;循環手段、131;ポンプ、132及び133;送水管、14;回収部材、141;紐状体、142;芯材、143:パイル繊維、15;枠構造体、16;仕切り板、151;格子枠、152;支柱、153;掛止部、20;被処理水、40;被処理水導入管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄バクテリアを用いて被処理水に含まれた鉄分を含鉄凝集物として回収する鉄分回収装置であって、
上記被処理水が貯留される貯水槽と、
上記含鉄凝集物が付着形成されることとなる回収部材が収容された回収槽と、
上記回収槽と上記貯水槽との間で上記被処理水を循環させる循環手段と、を備え、
上記回収部材は、起毛表面部を有する紐状体及び/又は不織布が集約されてなることを特徴とする鉄分回収装置。
【請求項2】
支柱を介して2つの格子枠が対向配置されてなる枠構造体を上記回収槽内に着脱自在に備え、
上記格子枠は複数の掛止部を有し、
上記紐状体及び/又は上記不織布は、上記枠構造体内を満たすように上記掛止部間に掛架されている請求項1に記載の鉄分回収装置。
【請求項3】
上記起毛表面部のうちの少なくとも一部は、親水性樹脂からなる請求項1又は2に記載の鉄分回収装置。
【請求項4】
上記紐状体は、上記起毛表面部がパイル繊維から形成されており、且つ見掛け直径が3cm以上である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置。
【請求項5】
上記被処理水は、鉄分を1mg/L以上含有する請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置。
【請求項6】
上記処理水は、破砕木材堆積物を通過した水及び該破砕木材堆積物下の土壌を通過した水のうちの少なくとも一方を含む請求項5に記載の鉄分回収装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置を用いて、上記含鉄凝集物として回収する鉄分回収方法であって、
上記被処理水を上記回収槽と上記貯水槽との間で循環させながら、上記回収部材に上記含鉄凝集物を付着形成させる含鉄凝集物形成工程と、
上記回収槽から上記回収部材を取り出して上記含鉄凝集物を回収する回収工程と、を備えることを特徴とする鉄分回収方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の鉄分回収装置を用いて回収された上記含鉄凝集物と植物性有機物とを共に発酵してなることを特徴とする植生材料。
【請求項9】
上記植物性有機物は、樹皮細分化物及び/又は木質部細分化物である請求項8に記載の植生材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72702(P2009−72702A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244366(P2007−244366)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(595047592)深津金属工業有限会社 (1)
【出願人】(507314903)山友木材株式会社 (1)
【出願人】(504345230)
【出願人】(594181147)
【Fターム(参考)】