説明

鉄筋スペーサ

【課題】プラスチック製スペーサによって生じるコンクリートのヒビ割れ、スペーサ表面とコンクリートの間に微小な隙間が生じるのを防止し、鉄筋の錆びによるコンクリートの形状損壊を防ぐ。
【解決手段】プラスチック製鉄筋スペーサの、コンクリートの表面側から鉄筋に至るまでの間に、他の部分よりも軟質のプラスチック材料で成形した軟質部を設ける。軟質部におけるコンクリートのヒビ割れ、及びスペーサ表面とコンクリートの間に生じる微小な隙間の発生が防止され、コンクリート表面のヒビ割れから水分が浸入しても、水分は軟質部より内側に浸入できず、鉄筋に到達することがないので、鉄筋の錆が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋に装着して鉄筋と型枠との間隔を保持し、かぶり厚を確保して鉄筋をコンクリート内の所定位置に埋設するプラスチック製の鉄筋スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋スペーサには、下記特許文献1,3に示されるような円板状のもの、特許文献2に示されるような柱状のものなど、用途によって種々の形状のものがある。このような鉄筋スペーサとしては、安価、容易に製造でき、取り扱いも便利なプラスチック製のものが広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−54565号公報
【特許文献2】特開平11−217906号公報
【特許文献3】特開2006−136351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック製の鉄筋スペーサは、安価、容易に製造でき、取り扱いも便利であるという利点を有する反面、熱膨張率がコンクリートよりも非常に大きく(約100倍程度)、これがコンクリートにヒビ割れを発生させる一因となっている。
また、コンクリートは、硬化するときに発熱するので、スペーサが熱膨張する。コンクリート硬化後、コンクリート温度が降下し、スペーサが収縮するので、スペーサ表面とコンクリートの間に微小な隙間が生じる。
コンクリート表面のヒビ割れから浸入する水分が、スペーサの表面とコンクリートの隙間を伝わって鉄筋に到達、鉄筋に錆が発生することにより鉄筋が膨張し、コンクリートの形状損壊に繋がるという危険がある。
【0005】
上記特許文献3には、プラスチック製スペーサの表層に圧縮変形可能な層構造を形成することが提案されている。圧縮変形可能な層構造によって、プラスチックスペーサの熱膨張をある程度吸収できるが、層構造によって吸収できる膨張体積は僅かであるため、前記のヒビ割れや、スペーサ表面とコンクリートの間に生じる微小な隙間を防ぐ効果は僅かである。
【0006】
本発明は、プラスチック製スペーサによって生じるコンクリートのヒビ割れ、及びスペーサ表面とコンクリートの間に微小な隙間が生じるのを防止し、コンクリートが鉄筋の錆で形状損壊するおそれをなくすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鉄筋に装着し、鉄筋をコンクリート内の所定の位置に埋設するためのプラスチック製鉄筋スペーサであって、コンクリートの表面側から鉄筋に至るまでの間に、他の部分よりも軟質のプラスチック材料で成形した軟質部を設けたことを特徴とする鉄筋スペーサである。
【0008】
軟質部は、他の部分よりもJIS−K6253デュロメータ硬度Aが小さい(軟らかい)部分である。軟質部は、表面だけでなく、スペーサの当該部分の厚み全体が軟質のプラスチックで形成されるため、プラスチックスペーサの熱膨張の吸収体積が大きくなり、軟質部におけるコンクリートのヒビ割れ、及びスペーサ表面とコンクリートの間に生じる微小な隙間が発生するのを有効に防止できる。コンクリート表面のヒビ割れから水分が浸入しても、軟質部とコンクリートの間に微小な隙間がないため、水分はこれより内側に浸入できず、鉄筋に到達することがない。
【0009】
本発明の鉄筋スペーサは、複数のプラスチック材料を用いるため、射出2色成形(ダブルモールド)によって製造することができる。
【0010】
鉄筋スペーサが、中央部に鉄筋装着部を開孔した円板状である場合、軟質部は鉄筋装着部を囲む環状に設けることが望ましい。これにより、スペーサ外周部のどこがコンクリート表面側になっても、水分の浸入が軟質部で阻まれ、鉄筋まで到達することがない。
【0011】
本発明において、軟質部は、JIS−K6253デュロメータ硬度Aにて50〜90であることが望ましい。硬度Aが50より小さいと、軟質部が変形しやすくなり、90を越えると熱膨張の吸収が十分でなく適当でない。
【0012】
本発明において、軟質部はスチレン系エラストマーで形成することができる。スチレン系エラストマーは弾性に優れているので、好適に使用できる。
【0013】
本発明において、軟質部は不飽和カルボン酸変性されたエラストマーで形成することができる。エラストマーを不飽和カルボン酸変性することで、コンクリートと表面との親和性が高まって軟質部とコンクリートの密着性がさらに向上し、水分の浸入を防止する効果が高まる。
【0014】
軟質部を除く一般部分は、無機フィラーを含有するプラスチックで形成されていることが望ましい。プラスチックに無機フィラーを配合することで、熱膨張率を抑えることができる。無機フィラーの添加率は3〜60重量%が適当である。なお、熱膨張率を抑えるためには、発泡プラスチックとすることも有効である。
【0015】
無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム若しくはマイカ、又はこれらの2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
軟質部を除く一般部分のプラスチックは、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどの従来の鉄筋スペーサで使用されているプラスチックと同じものを使用でき、スペーサの変形を防ぐためにJIS−K7171プラスチック曲げ特性試験による曲げ弾性率が600MPa以上であることが望ましい。
【0017】
本発明の鉄筋スペーサは、軟質部の体積が、スペーサの体積の10〜50%であることが望ましい。10%に満たないとヒビ割れ及び水分の浸入を防止する効果が十分でなくなるおそれがあり、50%を越えると鉄筋スペーサが変形しやすくなり、所定の位置に鉄筋を保持できなくなる可能性があるので好ましくない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鉄筋スペーサは、軟質部におけるコンクリートのヒビ割れがなく、スペーサの軟質部表面とコンクリートの間に生じる微小な隙間が生じないので、コンクリート中に浸入した水分が鉄筋に到達することがなく、コンクリートが形状損壊するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】鉄筋スペーサ1Aの正面図である。
【図2】鉄筋スペーサ1Aの側面図である。
【図3】鉄筋スペーサ1Aの使用状態説明図である。
【図4】コンクリート中の鉄筋スペーサ1Aの説明図である。
【図5】鉄筋スペーサ1Bの正面図である。
【図6】コンクリート中の鉄筋スペーサ1Bの説明図である。
【図7】鉄筋スペーサ1Cの正面図である。
【図8】鉄筋スペーサ1Dの正面図である。
【図9】鉄筋スペーサ11の使用状態説明図である。
【図10】コンクリート中の鉄筋スペーサ11の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を示す図面に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1〜4の鉄筋スペーサ1Aは円板状をなし、中央部に鉄筋装着部2を開孔し、外周から鉄筋装着部2に向かって鉄筋挿入部3が鉄筋の通路として開設されている。鉄筋挿入部3にはU形バネ部4が設けられている。鉄筋7は、鉄筋挿入部3から鉄筋スペーサ1Aの中心方向に挿入され、U形バネ部4を両側に押し広げて鉄筋装着部2内に入り込むと、図3に示すように、U形バネ部4が元の形に弾性復帰し、装着が完了する。鉄筋装着部2及びU形バネ部4は、他の部分よりも肉厚に形成されている(図2)。鉄筋装着部2及びU形バネ部4の外周側には、原材料を節約するなどの目的で切欠部5が複数設けられている。
【0021】
鉄筋スペーサ1Aの内周端には、その他の一般部分よりも軟質のプラスチック材料で成形した軟質部6が、鉄筋装着部2を囲んで環状(U形バネ4の間が抜けた間欠環状)に設けられている。軟質部6は、図において網掛けで表示している。軟質部6は他の一般部分よりも軟質のマレイン酸変性SEBS(Styrene-Ethylene-Butylene- Styrene)で、JIS−K6253デュロメータ硬度Aは70である。
【0022】
一般部分は、無機フィラーとしてタルクを20重量%含有するポリプロピレンで、JIS−K7171プラスチック曲げ特性試験による曲げ弾性率は1500MPaである。
【0023】
鉄筋スペーサ1Aは、図3に示すように、鉄筋7に装着して型枠8内に設置される。これにより、鉄筋7と型枠の距離(かぶり)が所定のものとなる。なお、鉄筋スペーサ1A外周部のどの位置が型枠8に接していてもよい。
【0024】
図4は、コンクリート中に埋め込まれた鉄筋スペーサ1Aである。軟質部6においては、熱膨張が吸収されるためコンクリートにヒビ割れが生じず、軟質部6とコンクリートとの間に微小隙間も生じない。また、マレイン酸変性されていることにより、軟質部6とコンクリート面は親和・密着し、水分が軟質部6表面とコンクリートの間を通ることができない。
【0025】
鉄筋スペーサ1Aの一般部分は、コンクリート9との間に微小隙間があるので、水分は図4に矢印Wで示すように、コンクリート表面9aから内部にしみ込み、鉄筋スペーサ1Aに沿って内側に浸入する。しかし、軟質部6に至ると、それ以上内側に進むことができず、鉄筋7に到達することはない。軟質部6は環状に設けられているので、水分がどのように鉄筋スペーサを伝わって浸入しても、決して鉄筋には到達できない。
【0026】
図5,6の鉄筋スペーサ1Bは、前記の鉄筋スペーサ1Aと全く同じ形状であるが、軟質部6の位置が異なる。この場合、軟質部6はスペーサの内周部と外周部の中間に環状に設けられている。ただし、切欠部5や鉄筋挿入部3など図5の破線部分が抜けているため、間欠環状となっている。軟質部6及びその他の一般部分の材質は、前記鉄筋スペーサ1Aと同じである。
【0027】
図6は、コンクリート中に埋め込まれた鉄筋スペーサ1Bである。軟質部6においては、熱膨張が吸収されるためコンクリートにヒビ割れが生じず、軟質部6とコンクリートとの間に微小隙間も生じない。また、マレイン酸変性されていることにより、軟質部6表面とコンクリート面は親和・密着し、水分が軟質部6とコンクリートの間を通ることができない。
【0028】
鉄筋スペーサ1Bの一般部分は、コンクリート9との間に微小隙間があるので、水分は図6に矢印Wで示すように、コンクリート表面9aから内部にしみ込み、鉄筋スペーサ1Bに沿って内側に浸入する。しかし、軟質部6に至ると、それ以上内側に進むことができず、鉄筋7に到達することはない。軟質部6は環状に設けられているので、水分がどのように鉄筋スペーサを伝わって浸入しても、決して鉄筋には到達できない。
【0029】
図7の鉄筋スペーサ1Cは、前記の鉄筋スペーサ1A,1Bと全く同じ形状、材質であるが、軟質部6の位置が異なる。この場合、軟質部6はスペーサの外周部に環状に設けられている。ただし、鉄筋挿入部3が抜けているため、間欠環状となっている。この場合も、コンクリート表面と鉄筋スペーサ1Cがどのような位置関係にあっても、水分は軟質部6によって鉄筋まで到達することができない。鉄筋スペーサ1A,1B,1Cに示されるように、軟質部は環状(間欠環状を含む)であればスペーサのどの位置に設けてもよい。
【0030】
図8の鉄筋スペーサ1Dは、前記の鉄筋スペーサ1A,1Bと全く同じ形状、材質であるが、軟質部6がスペーサの内周部と外周部の双方に環状に設けられている。このように、軟質部は2重又はそれ以上に設けることも可能である。
【0031】
図9,10は鉄筋スペーサ11に関し、いずれも上段に正面方向視、下段に側面方向視を示し、図9が型枠に取り付けた状態、図10がコンクリート中に埋め込まれた状態である。鉄筋スペーサ11は、網状に直行する鉄筋18a,18bを型枠内の所定位置に保持するもので、棒状の脚部15の上部に鉄筋18aを保持する鉄筋装着部12、及び鉄筋18bを保持する鉄筋装着部13が形成され、さらに鉄筋18aを固定するバネ部14が形成されている。また、脚部15の上部から水平方向に、鉄筋18bと平行に腕部16が、鉄筋18aと平行に腕部17が突出形成されている。
【0032】
コンクリート20の表面20a側から鉄筋に至るまでの間に、他の部分よりも軟質のプラスチック材料で成形した軟質部が設けられている。すなわち、脚部15には軟質部15aが、腕部16には軟質部16aが、腕部17には軟質部17aがそれぞれ設けられている。図10に矢印Wで示すように、コンクリート表面20aから水分がコンクリート20中に浸入し、鉄筋スペーサ11に沿って矢印Wのように進んでも、各軟質部によって阻まれ、鉄筋18a,18bに到達することはない。
【0033】
図9,10の実施形態では、軟質部を脚部15、腕部16,17の中間部設けているが、軟質部の位置はこれに限らず、鉄筋スペーサのコンクリート20の表面20a側から鉄筋に至るまでの間の任意の部分に設ければよい。
【0034】
本発明の鉄筋スペーサは、図面に例示した形状のものに限らず、あらゆる形状について実施できる。鉄筋スペーサの、コンクリート表面側から鉄筋に至るまでの間の任意の部分に軟質部を設けることで、コンクリート面から浸入した水分が鉄筋まで到達ことがなく、コンクリートの形状損壊が防止される。
【符号の説明】
【0035】
1A 鉄筋スペーサ
1B 鉄筋スペーサ
1C 鉄筋スペーサ
1D 鉄筋スペーサ
2 鉄筋装着部
3 鉄筋挿入部
4 U形バネ部
5 切欠部
6 軟質部
7 鉄筋
8 型枠
9 コンクリート
9a コンクリート表面
11 鉄筋スペーサ
12 鉄筋装着部
13 鉄筋装着部
14 バネ部
15 脚部
15a 軟質部
16 腕部
16a 軟質部
17 腕部
17a 軟質部
18a 鉄筋
18b 鉄筋
19 型枠
20 コンクリート
20a コンクリート表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋に装着し、鉄筋をコンクリート内の所定の位置に埋設するためのプラスチック製鉄筋スペーサであって、コンクリートの表面側から鉄筋に至るまでの間に、他の部分よりも軟質のプラスチック材料で成形した軟質部を設けたことを特徴とする鉄筋スペーサ。
【請求項2】
鉄筋スペーサが、中央部に鉄筋装着部を開孔した円板状をなし、前記軟質部が該鉄筋装着部を囲む環状に設けられている請求項1に記載の鉄筋スペーサ。
【請求項3】
前記軟質部が、JIS−K6253デュロメータ硬度Aにて50〜90である請求項1又は2に記載の鉄筋スペーサ。
【請求項4】
前記軟質部がスチレン系エラストマーで形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の鉄筋スペーサ。
【請求項5】
前記軟質部が不飽和カルボン酸変性されたエラストマーで形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の鉄筋スペーサ。
【請求項6】
前記軟質部を除く一般部分が、無機フィラーを含有するプラスチックで形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の鉄筋スペーサ。
【請求項7】
前記無機フィラーがタルク、炭酸カルシウム、マイカから選択される1種又は2種以上である請求項6に記載の鉄筋スペーサ。
【請求項8】
前記軟質部の体積が、スペーサの体積の10〜50%である請求項1〜7のいずれかに記載の鉄筋スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−237140(P2012−237140A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106873(P2011−106873)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(390028082)株式会社未来樹脂 (12)
【Fターム(参考)】