説明

鉄筋定着方法及び定着構造

【課題】鉄筋に作用し続ける荷重を緩和してコンクリート柱などのひび割れの発生を抑制し、定着側の母材の損傷を防ぎ、十分な定着力を発揮できるようにする。
【解決手段】母材(30)内に延びる鉄筋(31)先端部に定着板(35)が固定され、母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着が切られた領域(33)を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域(37)の範囲内で移動可能で、可動域を超える移動が制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋の定着方法及び定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物等に用いられる鉄筋は主として引張りに対して働くため、何らかの定着力がなければ引張り力を負担することができない。そのため、従来の鉄筋定着構造は、鉄筋がコンクリート構造物等の母材から抜け出さないことを目的とした構造となっていて、鉄筋の曲げ定着やあと施工アンカーが用いられている。
図7は従来の鉄筋の定着構造を説明する図で、図7(a)は鉄筋の曲げ定着構造、図7(b)はあと施工アンカーの定着構造を説明する図である。
図7(a)に示す鉄筋の曲げ定着構造の場合、鉄筋コンクリート構造物等の母材10中に符合Aで示す円で囲んだ先端部分を上方へ折り曲げた鉄筋13を埋め込んだもので、矢印15で示す軸力が作用したとき、鉄筋と母材との付着、先端部の曲げた部分の引き抜き抵抗により定着力が確保される。
図7(b)に示すあと施工アンカー定着構造の場合、鉄筋コンクリート構造物等の母材20中に符合Bで示す円で囲んだ削孔部21に鉄筋23を施工してモルタルや樹脂等の固化材料(充填材)22を充填して定着するものであり、矢印25で示す軸力が作用したとき、鉄筋と充填剤との付着により定着力が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これら従来の定着構造の場合、鉄筋の抜け出し量がほとんどないため、温度変化やコンクリートの乾燥収縮、クリープなど鉄筋に持続的に軸力が作用したときには、殆ど緩和することなく作用し続けることになる。鉄筋の曲げ定着構造の場合、鉄筋13に持続的に軸力が加わると、図8(a)に示すように、鉄筋と母材との付着力、鉄筋先端部の引き抜き抵抗によって母材10が引っ張りや圧縮を受けると破線17で示すようなコーン破壊力が作用し、破壊やひび割れが発生する。あと施工アンカー定着構造の場合も、鉄筋23に持続的に軸力が加わると、図8(b)に示すように、鉄筋23と充填剤22との間の付着力によって充填剤22、母材20が引っ張られて破線27で示すようなコーン破壊力が作用し、破壊やひび割れが発生する。そして、構造物上端部にコーン破壊力が作用すると、上端部から順次破壊して定着長が短くなってしまい、特に、コンクリート強度が弱い場合や、鉄筋の差し込み深さが十分にとれない場合には、定着力が確保できなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、鉄筋に持続的に荷重が作用し続ける場合に、荷重を緩和してコンクリート柱などのひび割れの発生を抑制し、定着側の母材の損傷を防ぎ、十分な定着力を発揮できるようにすることを目的とする。
本発明の鉄筋定着方法は、母材内に延びる鉄筋先端部に定着板が固定された鉄筋定着方法において、母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着が切られた領域を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域の範囲内で移動可能で、可動域を超える移動を制限するようにしたことを特徴とする。
本発明の鉄筋定着構造は、母材内に延びる鉄筋先端部に定着板が固定された鉄筋定着構造において、母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着が切られた領域を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域の範囲内で移動可能で、可動域を超える移動が制限されることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋定着構造は、定着板と可動域内周面との摩擦により鉄筋に作用する力が抑制されることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋定着構造は、前記可動域内部に定着板の移動に対してダンパーとして機能する流体が充填されていることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋定着構造は、可動域内の移動方向に沿って定着板を貫通する径の異なる複数の孔が形成され、定着板移動方向により流体抵抗が異なるように貫通孔に逆止弁が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋定着構造は、前記可動域内で定着板の移動方向両側に定着板の移動に抗して変形する弾性体が配置されていることを特徴とする。
また、本発明の鉄筋定着構造は、母材との付着がそれぞれ切られた領域を有する複数の鉄筋が一枚の定着板に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、定着部に一定の可動域を設けることで、温度変化やコンクリートの乾燥収縮、クリープなど鉄筋に持続的な荷重が作用した際に定着板が可動域を摺動して荷重を緩和し、コンクリート柱などのひび割れ発生を抑制することができる。また、鉄筋に軸力が作用したときの定着側の母材の損傷を防ぎ、従来鉄筋と同等以上の引抜き荷重を発揮することができる。また、鉄筋に軸力が作用したときの定着部の移動量や移動速度を制御でき、鉄筋の抜け出し量や鉄筋軸力を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の鉄筋定着構造の基本的構成を説明する図である。
【図2】可動域内の定着板の移動方向別の抵抗を制御する例を説明する図である。
【図3】可動域内に弾性体を封入した例を説明する図である。
【図4】一枚の定着板に複数の鉄筋を接続した例を説明する図である。
【図5】定着板を収納する可動域の大きさの算出例を説明する図である。
【図6】鉄筋定着機構の設置箇所を説明する図である。
【図7】従来の鉄筋の定着構造を説明する図である。
【図8】従来の鉄筋の定着構造のコーン破壊を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の鉄筋定着構造の基本的構成を説明する図である。
鉄筋コンクリート構造物等の母材30中に鉄筋31を施工し、その際、母材と鉄筋との間に付着力が作用しないように縁切りし(付着を切る)、鉄筋先端部に平断面が円形または矩形の定着板35を固定する。定着板35は符号Cの円で示す母材中に形成された領域からなる平断面が円形または矩形の可動域37内に収納される。定着板35は鉄板やモルタル製であり、可動域37内には空気やガス、液体、オイル等の粘性体などの流体を充填封入することで、定着板の固定と移動を制御する。定着板35は鉄筋にある程度の力が加わるまでは動かないが、ある閾値を越えた力が加わると矢印39で示すように可動域内をスライドして荷重を逃がすことができる。その際、定着板と可動域内周面との摩擦抵抗、或いは可動域内に封入した充填材の抵抗により、鉄筋に加わる軸力に対して減衰機構として作用させることができる。なお、図では鉄筋31を一本のように図示しているが、主鉄筋を複数本束ね、或いは全部束ねて一枚の定着板に固定するなどの変形が可能である。また、鉄筋表面の付着を切る場合、母材30との間に隙間があっては鉄筋が安定しないので隙間はつくらないようにすることが望ましく、図では付着を切る縁切り部33を模式的に示している。
【0008】
このように、本定着機構は、鉄筋表面と母材との付着を切った領域を持つため、鉄筋に軸力が発生したときに鉄筋が母材を損傷することなく、軸力を定着板に伝達することができ、また、鉄筋表面と母材の付着がないことから、鉄筋に軸力が作用したときに母材のコーン状破壊の発生を抑制し、従来の鉄筋定着部と同等以上の引張荷重を発揮させることができる。特に、温度変化やコンクリートの乾燥収縮、クリープなど鉄筋に持続的に軸力が作用したとき、作用した力に応じて定着板が移動してその力を緩和するため定着部の損傷はなく、また、限定された可動域により一定量を超える定着板の移動は制限され、鉄筋が抜け出すことはなく、そのため地震等の大きな力が加わったときに十分機能させることができる。
また、可動域内部に空気、ガス、液体、オイル等の粘性体などの流体を充填することで定着板の移動速度を調節し、可動域内に充填する物質の物性を調整することで、鉄筋に荷重が作用した時に定着板が急激に移動することを抑制することができる。また、定着板が移動し始める荷重を制御できる構造であり、ごく小さな荷重では定着板を移動させないことも可能である。
【0009】
なお、鉄筋の側面に凹凸があり、母材との間に隙間がないと母材に対して上下方向の機械的な力が作用してしまうので鉄筋は丸棒であることが望ましいが、さらに、鉄筋側面を平滑にして付着力が作用しないようにする必要がある。そのため管状のものやシート状の被覆部材、例えばシース管やビニールホースで鉄筋を被覆したり、鉄筋にビニールテープを巻き付けるなどの方法を用いて縁切りすることが望ましい。また、鉄筋側面に縁切り用の材料、例えばパラフィンやグリース等を塗布して鉄筋側面を平滑にして付着力が作用しないようにしてもよい。特に、鉄筋が異径鉄筋のような場合にはシース管やビニールホースで被覆して母材との付着を切る必要がある。また、上記では鉄筋と母材との間は全長にわたって付着を切るように説明したが、付着を切るのは必ずしも鉄筋全長でなくてもよく、コンクリートの強度等の状況に依存するが一部範囲であってもよい。
【0010】
図2は可動域内の定着板の移動方向別の抵抗を制御する例を説明する図である。
先端に定着板41が固定された鉄筋31は縁切り部33で母材30と縁切りされ、可動域40内には空気、ガス、オイル等の粘性体からなる流体43が封入されているのは図1の場合と同じである。この例では、可動域40内をスライドする定着板41に、異なる径の貫通孔が複数形成されていて、内部に逆止弁が配置されている。例えば、貫通孔45には下方へのみ充填材を通す逆止弁45aが配置され、貫通孔47には上方へのみ充填材を通す逆止弁47aが配置され、これら貫通孔の径を異ならせることで定着板41の上方と下方への移動抵抗を異ならせている。このような構成とすることで、主として引っ張りに対する移動抵抗を大きくしたり、圧縮に対する移動抵抗を小さくしたりして現場の状況に応じた定着機構を構成することが可能となる。
【0011】
図3は可動域内にゴム等の弾性材を封入した例を説明する図である。
この例は粘性体やガス等の流体の封入が難しい場合に、ゴム(板)などの弾性材を入れるようにした例であり、可動域50内の定着板51の上下にゴム板53、55を収納し、ゴム板53と55の硬さや厚さ等を調整することで、上下方向の移動抵抗(引っ張りに対する移動抵抗と圧縮に対する移動抵抗)を異ならせるようにすることができる。
【0012】
図4は一枚の定着板に複数の鉄筋を接続した例を説明する図である。
柱の太さや長さは現場によって異なるので、例えば、柱が太い場合には可動域60の面積を大きくして大面積の定着板61を収納し、それぞれ母材30と縁切りした複数の鉄筋63を固定したもので、各鉄筋63は1本でも複数の鉄筋を束ねたものであってもよい。
【0013】
図5は定着板を収納する可動域の大きさの算出例を説明する図である。
図5(a)に示すような桁の長さ100m(1×105 mm)のラーメン高架橋70を例にとって説明する。例えば、線膨張係数が10×10-6(1/℃)、温度変化が50℃あるとすると桁の線膨張は50mmである。また、乾燥収縮を1000μmとすると桁の収縮長は100mmであり、桁は最長150mm程変形する。そのため、図5(b)に示すように、高架橋の端部の柱71の高さ8m、直径1mとし、桁が150mm程変形した場合を考えると、図5(c)に示すように、柱71の底部の片方の縁は基台73に対して20mm程引っ張り上げられることになる。したがって、これを可動域で吸収するためには、柱71の鉄筋に固定された定着板77を収納する可動域は定着板77の上下に20mm程必要となる。そして、定着板の厚みを20mmとすると、図5(d)に示すように、定着板の可動域は摺動方向に60mmとなり、幅をこれより大きくとると80mm程度(円板の場合には直径80mm程度)必要となる。もちろん、高架橋の長さ、高さに応じて変形量は違うので、定着板や可動域の大きさは一律に決まるものではなく、現場の状況に応じて変える必要がある。
【0014】
図6は本発明の鉄筋定着機構の設置箇所を説明する図である。
高架橋の場合、柱が高いと柱頭部と柱基部にかかる力は小さくなるためラーメン構造にすることができる。しかし、図6(a)に示すように高さが低い高架橋80の場合、ラーメン構造にすると柱に作用する力が大きくなるため、柱の水平力が小さくなるように柱頭部に沓座85を設けて桁を連続桁83とする場合がある。そこで、図6(b)に示すように、柱基部91に本発明の鉄筋定着機構を適用することで柱に作用する力を緩和することができ、高さが低い高架橋90でもラーメン構造化することが可能になる。この場合沓座を不要にすることができるため、材料費のコストダウン、沓座メンテナンス費のコストダウンを図ることが可能になる。なお、本発明の鉄筋定着機構は、柱基部に限らず、柱頭部92、柱中間部93など現場の状況に応じて適宜設置することが可能である。
【符号の説明】
【0015】
30…母材、31…鉄筋 33…縁切り部、35…定着板、37…可動域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材内に延びる鉄筋先端部に定着板が固定された鉄筋定着方法において、母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着が切られた領域を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域の範囲内で移動可能で、可動域を超える移動を制限するようにしたことを特徴とする鉄筋定着方法。
【請求項2】
母材内に延びる鉄筋先端部に定着板が固定された鉄筋定着構造において、母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着が切られた領域を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域の範囲内で移動可能で、可動域を超える移動が制限されることを特徴とする鉄筋定着構造。
【請求項3】
定着板と可動域内周面との摩擦により鉄筋に作用する力が抑制される請求項2記載の鉄筋定着構造。
【請求項4】
前記可動域内部に定着板の移動に対してダンパーとして機能する流体が充填されている請求項2記載の鉄筋定着構造。
【請求項5】
可動域内の移動方向に沿って定着板を貫通する径の異なる複数の孔が形成され、定着板移動方向により流体抵抗が異なるように貫通孔に逆止弁が形成されている請求項4記載の鉄筋定着構造。
【請求項6】
前記可動域内で定着板の移動方向両側に定着板の移動に抗して変形する弾性材が配置されている請求項2記載の鉄筋定着構造。
【請求項7】
母材との付着がそれぞれ切られた領域を有する複数の鉄筋が一枚の定着板に固定されている請求項2記載の鉄筋定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184560(P2012−184560A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47141(P2011−47141)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】