説明

鉄筋連結用シール部材

【課題】鉄筋が偏芯してもスリーブ継手と鉄筋との間のシール性を確保する。
【解決手段】2本の鉄筋2,3を連結するスリーブ継手10の端部にシール部材30を設ける。シール部材30は、鉄筋3を通す穴31aを有する膜部31と、膜部31の外周に設けられてスリーブ継手10に定着される環状の周壁部33とを一体に備えている。膜部31は、段差状かつ環状の可撓膜部分36を有している。可撓膜部分は、段差状に代えて襞状でもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2本の鉄筋を一直線状に連結するスリーブ継手の端部に設けられるシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の鉄筋を一直線状に並べ、スリーブ継手にて連結する連結構造は公知である(特許文献1等参照)。スリーブ継手の一端部には、上記2本の鉄筋のうち一方を挿入する。スリーブ継手の他端部に他方の鉄筋を挿入する。スリーブ継手の両端部の内部にはシール部材を装着する。シール部材は、環状をなし、スリーブ継手の内周と鉄筋の外周との間を封止する。スリーブ継手の内部にモルタル等のグラウト剤を充填する。このとき、シール部材によってグラウト剤が漏れるのを防止できる。グラウト剤が硬化することで、2本の鉄筋がグラウト剤及びスリーブ継手を介して連結される。
【0003】
特許文献1のスリーブ継手には、周壁を貫通するようにネジ穴が設けられている。スリーブ継手の上記ネジ穴とは反対側の内壁には突起が設けられている。上記ネジ穴にボルトをねじ込み、スリーブ継手内の鉄筋をボルトで上記突起に押し付ける。これによって、グラウト剤を充填するまでの間、スリーブ継手と鉄筋どうしを仮固定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−150049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のスリーブ継手は、鉄筋の径に応じたサイズが用意されている。しかし、スリーブ継手のサイズと異なる径の鉄筋を継ぐ場合がある。例えば、大きさが異なる2つの鉄筋を連結する際、スリーブ継手のサイズを大径の鉄筋に合わせると、小径の鉄筋に対してはスリーブ継手が大き過ぎる。これら大小2つの鉄筋を上記仮固定用のボルトでスリーブ継手に仮固定すると、小径の鉄筋がボルトに押されて偏心する。鉄筋が偏芯すると、この鉄筋の偏芯側とは反対側の部分と上記シール部材との間に隙間が形成され、この隙間からグラウト剤が漏れるおそれがある。特許文献1では、シール部材の内部に更に第2のシール部材を入れ子状に嵌め込み、鉄筋が偏芯したときは、これに追随して第2のシール部材が偏芯することでシール性を確保しているが、部品点数及び入れ子にするための工数が増える。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、鉄筋連結用スリーブ継手の端部の内周と、前記スリーブ継手に挿入される鉄筋の外周との間に設けられる環状のシール部材であって、
前記鉄筋を通す穴を有する膜部と、前記膜部の外周に設けられて前記スリーブ継手に定着される環状の周壁部とを一体に備え、前記膜部が、段差状又は襞状に折曲されてなり且つ前記周壁部に沿う環状ないしは前記穴を囲む環状の可撓膜部分を含むことを特徴とする。
【0007】
ここで、可撓膜部分が段差状である場合、シール部材における当該可撓膜部分より周壁部側の部分と当該可撓膜部分より穴側の部分とがシール部材の軸方向にずれている。前記周壁部側の部分と前記穴側の部分とが、前記段差状の可撓膜部分を介して連なっている。襞状の可撓膜部分は、径方向の外側の襞部分と径方向の内側の襞部分とを有し、これら襞部分がシール部材の軸方向に折り返すように連続している。各襞部分が、前記段差状の可撓膜部分に相当する。前記可撓膜部分は、シール部材の軸方向に適宜な大きさの突出量又は凹み量を有している。
【0008】
このシール部材によれば、鉄筋が偏芯して、前記膜部の偏芯側とは反対側の部分に引っ張り応力が作用した場合、前記可撓膜部分の偏芯側とは反対側の部分に径方向内側へのモーメントが働く。このモーメントによって前記可撓膜部分が撓む。すなわち、前記可撓膜部分が段差状の場合、径方向内側へ傾くように撓み変形する。前記可撓膜部分が襞状の場合、径方向外側の襞部分と径方向内側の襞部分のなす角度が拡がるように撓み変形する。前記可撓膜部分の軸方向への突出量又は凹み量を適宜な大きさにすることで、前記引っ張り力が小さくても、前記可撓膜部分の撓み変形量を大きくすることができる。これによって、前記膜部の偏芯側とは反対側においても鉄筋に接するようにでき、スリーブ継手と鉄筋との間のシール性を確保することができる。また、上掲特許文献1の第2のシール部材を入れ子状に嵌め込む必要が無く、部品点数及び工数が増えるのを避けることができる。
【0009】
前記可撓膜部分が、前記膜部の外周部に設けられて前記周壁部に連なっていることが好ましい。前記周壁部は、前記膜部ひいては前記可撓膜部分より保形強度が高い。したがって、前記可撓膜部分を確実に撓み変形させることができる。
【0010】
前記可撓膜部分の厚さが、前記膜部の前記可撓膜部分より径方向内側又は外側の部分の厚さと同等又はそれ以下であることが好ましい。これによって、前記可撓膜部分を確実に撓み変形させることができる。
【0011】
前記可撓膜部分が、同心円状に複数設けられていてもよい。前記複数の可撓膜部分が、全体として蛇腹状に連なっていてもよい。これによって、各可撓膜部分の撓み量が小さくても膜部全体の変形量を大きくできる。段差状の可撓膜部分を同心円状に複数設けてもよい。襞状の可撓膜部分を同心円状に複数設けてもよい。
【0012】
前記膜部の前記穴の内周縁には、前記膜部の前記内周縁より径方向外側の部分より厚肉のリム部が設けられていることが好ましい。前記シール部材が自然状態の時(非変形時)の前記リム部の内径を前記鉄筋の内径より小さくしておく。したがって、前記鉄筋の挿通によって前記リム部に収縮力が働く。これによって、前記リム部を鉄筋の外周に密着させるとともに、前記膜部の偏芯側とは反対側の部分に前記引っ張り力を確実に発現させることができ、ひいては前記可撓膜部分を確実に撓み変形させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄筋が偏芯してもスリーブ継手と鉄筋との間のシール性を確保することができる。また、部品点数及び工数が増えるのを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鉄筋連結構造の断面図である。
【図2】上記鉄筋連結構造において、段差状の可撓膜部分を有するシール部材の断面図である。
【図3】上記シール部材の正面図である。
【図4】上記第1実施形態における鉄筋の連結方法を、連結装置のスリーブ継手にシール部材を装着した状態で示す断面図である。
【図5】上記第1実施形態における鉄筋の連結方法を、上記スリーブ継手に鉄筋を差し入れる状態で示す断面図である。
【図6】上記第1実施形態における鉄筋の連結方法を、上記鉄筋をボルトで偏芯させた状態で示す断面図である。
【図7】図6の上記シール部材の周辺部を拡大して示す断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る襞状の可撓膜部分を有するシール部材の断面図である。
【図9】上記襞状の可撓膜部分を有するシール部材の正面図である。
【図10】上記第2実施形態に係る鉄筋連結構造において、上記シール部材の周辺部を拡大して示す断面図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る襞状の可撓膜部分を有するシール部材の断面図である。
【図12】上記第3実施形態のシール部材の正面図である。
【図13】上記第3実施形態に係る鉄筋連結構造において、上記シール部材の周辺部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る鉄筋連結構造を示したものである。鉄筋連結構造では、連結装置1によって、2本の鉄筋2,3が一直線に連結されている。鉄筋2,3は、縦リブと横フシを有する通常の異形鉄筋でもよく、ネジフシを有するネジ鉄筋でもよい。2本の鉄筋2,3の径は互いに異なっている。鉄筋2は相対的に大径であり、鉄筋3は相対的に小径である。
【0016】
連結装置1は、スリーブ継手10と、シール部材20,30を備えている。スリーブ継手10は、金属鋳物にて構成されている。スリーブ継手10のサイズは、鉄筋2,3のうち大径の鉄筋2に適合している。小径の鉄筋3に対しては、スリーブ継手10のサイズは大き目である。
【0017】
スリーブ継手10の両端部の内周には、それぞれ環状の収容溝11が形成されている。スリーブ継手10の両端部の近傍の周壁には、それぞれ開口12が形成されている。スリーブ継手10の周壁の各開口12より軸方向の内側の部分には、一対のネジ穴14が形成されている。開口12及びネジ穴14は、スリーブ継手10の周方向の互いに同じ位置(図1において上側部)に配置されている。
【0018】
スリーブ継手10の内周には、複数の支持突起15が形成されている。複数の支持突起15は、スリーブ継手10の軸方向に間隔をおいて配置されている。各支持突起15は、スリーブ継手10の周方向のネジ穴14とは反対側(図1において下側)の部分に配置されている。各支持突起15は、ネジ穴14のちょうど180°反対側の位置を中心にしてスリーブ継手10の内周のほぼ180°の角度範囲にわたって周方向に延びている。
【0019】
図1において、スリーブ継手10内の例えば右側部分に大径鉄筋2の端部が挿入されている。スリーブ継手10内の例えば左側部分に小径鉄筋3の端部が挿入されている。スリーブ継手10が、鉄筋2,3の端部間に跨っている。
【0020】
各ネジ穴14にボルト4がねじ込まれている。右側のボルト4が大径鉄筋2を支持突起15に押し付けている。鉄筋2の軸線Lが、スリーブ継手10の軸線L10よりボルト4とは反対側にずれている。左側のボルト4が小径鉄筋3を支持突起15に押し付けている。鉄筋3の軸線Lが、スリーブ継手10の軸線L10よりボルト4とは反対側にずれている。小径の鉄筋3の偏芯量Dが、大径の鉄筋2の偏芯量Dより大きい。
【0021】
スリーブ継手10の内部にグラウト剤5が充填されている。2本の鉄筋2,3が、グラウト剤5及びスリーブ継手10を介して連結されている。
【0022】
スリーブ継手10の両端部にはシール部材20,30が装着されている。シール部材20,30は、硬化前のグラウト剤5が漏出するのを防止するためのものであり、シール部材20は、スリーブ継手10の右端部の内周と大径鉄筋2の外周との間をシールする。シール部材30は、スリーブ継手10の左端部の内周と小径鉄筋2の外周との間をシールする。
【0023】
大径鉄筋2用のシール部材20は、ゴム(弾性材)にて構成され、環状になっている。図4に示すように、シール部材20は、2枚の膜部21,22と、これら膜部21,22の外周に設けられた周壁部23を一体に備えている。周壁部23は、厚肉の環状になっている。周壁部23は、膜部21,22に比べて保形強度が大きく弾性変形しにくい。
【0024】
2つの膜部21,22は、シール部材20の軸方向に並んで設けられている。膜部21は、シール部材20の軸方向の外端部に配置されている。膜部21は、中央に穴21aを有する薄い円盤形状になっている。自然状態(非変形時)の膜部21は平らである。膜部21の外周部が周壁部23の軸方向の外端部に一体に連なっている。
【0025】
膜部22は、シール部材20の軸方向の中間部に配置されている。膜部22は、中央に穴22aを有する薄い円盤形状になっている。自然状態(非変形時)の膜部22は平らである。膜部22の外周部が周壁部23の軸方向の中間部に一体に連なっている。
【0026】
これら膜部21,22は、周壁部23よりも十分に弾性変形しやすい。2つの膜部21,22の穴21a,22aの直径は、等大であるが、互いに異なっていてもよい。穴21a,22aの直径は、鉄筋2のリブやフシを除いた直径より小さい。
【0027】
図1に示すように、スリーブ継手10の例えば右端の収容溝11に、シール部材20の周壁部23が嵌め込まれている。これによって、周壁部23が、スリーブ継手10に定着されている。膜部21,22の穴21a,22aに鉄筋2が通されている。この鉄筋2の偏芯によって、膜部21,22の偏芯側(図1において下側)の部分が大きく弾性変形している。膜部21,22の偏芯側とは反対側(図1において上側)の部分は、相対的に小さく弾性変形している。膜21,22の穴21a,22aの周辺部が全周にわたって鉄筋2に接している。
【0028】
図2及び図3に示すように、小径鉄筋3用のシール部材30は、ゴム(弾性材)にて構成され、環状になっている。図2に示すように、シール部材30は、2枚の膜部31,32と、これら膜部31,32の外周に設けられた周壁部33を一体に備えている。周壁部33は、厚肉の環状になっている。周壁部33は、膜部31,32に比べて保形強度が大きく弾性変形しにくい。
【0029】
2つの膜部31,32は、シール部材30の軸方向に並んで設けられている。膜部31は、シール部材30の軸方向の外端部に配置されている。膜部32は、シール部材30の軸方向の中間部に配置されている。
【0030】
図2及び図3に示すように、膜部31は、平膜部分34と、平膜部分34の外周部に設けられた可撓膜部分36を一体に有し、環状になっている。膜部31は、周壁部33よりも十分に弾性変形しやすい。平膜部分34は、中央に穴31aを有する薄い円盤形状になっており、自然状態(非変形時)では平らである。
【0031】
自然状態(非変形時)における穴31aの直径は、鉄筋3のリブやフシを除いた直径より小さい。図3に示すように、自然状態(非変形時)における穴31aの内周縁の偏芯側とは反対側(図3において上側)の部位は、偏芯状態における鉄筋3(図3の二点鎖線)の外周面よりも径方向の外側に位置する。なお、自然状態(非変形時)における穴31の上記反対側の部位が、偏芯状態における鉄筋3の外周面よりも径方向の内側に位置していてもよい。
【0032】
図2及び図3に示すように、平膜部分34の穴31aの内周縁にはリム部35が設けられている。リム部35は、平膜部分34(膜部31における穴31aの内周縁より径方向外側の部分)より厚肉になっており、平膜部分34に比べて弾性変形しにくい。図2に示すように、リム部35は、膜部32の側(軸方向の内側、図2において右側)へ突出しているが、膜部32とは反対側(軸方向の外側)へ突出していてもよい。
【0033】
図2に示すように、平膜部分34は、周壁部33よりシール部材30の軸方向の外側(図2において左側)に突出して配置されている。平膜部分34の外周部と周壁部33との間の段差状の部分が、可撓膜部分36を構成している。膜部31の外周部がL字状(段差状)に折曲されることによって可撓膜部分36が形成されている。可撓膜部分36が、周壁部33に一体に連なっている。
【0034】
図2及び図3に示すように、可撓膜部分36は、直径に対して軸長が短く、かつ周壁部33に沿う筒状(環状)になっている。自然状態(非変形時)の可撓膜部分36は、平膜部分34に対してほぼ直交し、周壁部33及びリム部35と同心円をなしている。可撓膜部分36の厚さは、好ましくは平膜部分34の厚さと同等又は平膜部分34の厚さ以下である。平膜部分34の厚さは、0.5mm〜2mm程度が好ましい。可撓膜部分36の厚さは、0.3mm〜1.5mm程度が好ましい。可撓膜部分36の軸方向の長さすなわち段差の高さHは、H=3mm〜8mm程度が好ましい。
【0035】
膜部32は、中央に穴32aを有する薄い円盤形状になっており、自然状態(非変形時)では平らである。自然状態(非変形時)における穴32aの直径は、穴31aの直径と等しいが、少なくとも鉄筋3のリブやフシを除いた直径より小さければよく、穴31aの直径より大きくても小さくてもよい。膜部32の外周部が、周壁部33の軸方向の中間部に一体に連なっている。膜部32は、周壁部33に比べて弾性に富んでいる。膜部32の厚さは、平膜部分34の厚さと等しいが、それより大きくても小さくてもよい。
【0036】
図1に示すように、スリーブ継手10の例えば左端の収容溝11に、シール部材30の周壁部33が嵌め込まれている。これによって、周壁部33が、スリーブ継手10に定着されている。膜部31,32の穴31a,32aに鉄筋3が通されている。この鉄筋3の偏芯によって、平膜部分34及び膜部32の偏芯側(図1において下側)の部分が、大きく弾性変形して鉄筋3に接している。膜部31の平膜部分34及び膜部32の偏芯側とは反対側(図1において上側)の部分は、相対的に小さく弾性変形している。
【0037】
可撓膜部分36の偏芯側とは反対側(図1において上側)の部分は、平膜部分34側(図1において左)へ向かうにしたがって径方向の内側へ傾くように撓み変形している。この可撓膜部分36の変形に伴い、平膜部分34が径方向の内側に変位している。
【0038】
リム部35は、鉄筋3によって拡径されている。そのため、リム部35には強い収縮力が作用している。リム部35の全周が鉄筋3に接している。
【0039】
上記のように構成された連結装置1によって、2本の鉄筋2,3を連結する方法を説明する。
図4に示すように、スリーブ継手10の例えば右端部にシール部材20を装着し、スリーブ継手10の例えば左端部にシール部材30を装着する。
【0040】
次に、図5に示すように、鉄筋2の端部を膜部21,22の穴21a,22aに差し入れてスリーブ継手10の右端部に挿入する。これによって、穴21a,22aが拡径するように、膜部21,22が弾性変形する。かつ、鉄筋3を鉄筋2に対して一直線に配置した状態で、鉄筋3の端部を膜部31,32の穴31a,32aに差し入れてスリーブ継手10の左端部に挿入する。これによって、穴31a,32aが拡径するように、膜部31,32が弾性変形する。
【0041】
次に、図6に示すように、各ネジ穴14にボルト4をねじ込み、鉄筋2,3を支持突起15に押し付けて、スリーブ継手20を鉄筋2,3に仮固定する。これにより、鉄筋2,3がスリーブ継手10に対して偏芯する。大径の鉄筋2の偏芯によって、シール部材20の膜部21,22の偏芯側(支持突起15側)の部分が、更に大きく変形して鉄筋2に確実に密着する。膜部21,22の偏芯側とは反対側(ボルト4側)の部分は、変形量が偏芯前より小さくなるが、鉄筋2に密着した状態を十分に維持する。
【0042】
小径の鉄筋3の偏芯によって、シール部材30の膜部31,32の偏芯側の部分が、更に大きく圧縮変形して鉄筋3に確実に密着する。膜部31の偏芯側とは反対側の部分では、圧縮応力が小さくなり、場所によっては引っ張り応力が作用する。これによって、可撓膜部分37が鉄筋3の偏芯に追随して変形する。
【0043】
すなわち、可撓膜部分36の偏芯側とは反対側の部分には、上記引っ張り応力によって径方向内側へのモーメントが働く。図7に示すように、このモーメントによって、可撓膜部分36の偏芯側とは反対側の部分が径方向内側へ撓むように変形する。したがって、膜部31の偏芯側とは反対側の部分が、全体的に偏芯方向へ伸長する。これによって、偏芯側とは反対側においても、膜部31が鉄筋に接するようにできる。
【0044】
可撓膜部分36の外側の周壁部33は、保形強度が大きく殆ど変形しないため、上記モーメントを確実に発現させることができる。更に、リム部35の収縮力によって上記引っ張り応力ひいては上記モーメントを一層確実に発現させることができる。これによって、可撓膜部分36を確実に径方向内側へ撓むように変形させることができる。更に、可撓膜部分36の軸方向の長さHを適宜な大きさにすることで、上記引っ張り応力が小さくても、可撓膜部分36の撓み変形量を大きくできる。したがって、膜部31の偏芯側とは反対側の部分が、鉄筋3に確実に接するようにできる。
膜部32の偏芯側とは反対側の部分と鉄筋3との間には隙間32eが形成され得る。
【0045】
次に、グラウト剤5を一方の開口12からスリーブ継手10内に注入する。このとき、シール部材20,30によって、グラウト剤5がスリーブ継手10の両端部から漏れるのを防止できる。特に、小径の鉄筋3が比較的大きく偏芯していても、シール部材30の偏芯側とは反対側の部分と鉄筋3との間からグラウト剤5が漏れるのを確実に防止できる。たとえ、グラウト剤5が隙間32eを通って膜部31,32間の空間に入り込んだとしても、膜部31によってグラウト剤5の漏出を確実に阻止することができる。
【0046】
グラウト剤5がスリーブ継手10の内周と鉄筋2,3との間の空間に充填されると、他方の開口12からグラウト剤5が漏出する。この漏出を待ってグラウト剤5の注入を終了する。グラウト剤5が硬化することによって、鉄筋2,3がグラウト剤5及びスリーブ継手10を介して連結される。
【0047】
シール部材30は、単独でスリーブ継手10と鉄筋3の間をシールできるため、特許文献1に比べて部品点数及び工数を減らすことができる。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する部分に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
図8〜図10は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態は、小径鉄筋3用のシール部材の変形例に係る。図8及び図9に示すように、シール部材30Aの膜部31は、そのほぼ全体が襞状に折曲され、複数の襞状の可撓膜部分37を構成している。
【0049】
図8に示すように、各可撓膜部分37は、径方向の外側の襞部分37aと径方向の内側の襞部分37bとを有している。襞部分37aは、軸方向の内側へ向かって径方向内側へ傾いている。襞部分37bは、軸方向の外側へ向かって径方向内側へ傾いている。これら襞部分37a,37bが、シール部材30Aの軸方向に折り返すように連続している。各可撓膜部分37の断面が、く字状になっている。
【0050】
図9に示すように、正面視において、各可撓膜部分37は、周壁部33に沿う環状ないしは穴31aを囲む環状になっている。複数の可撓膜部分37が、同心円状に配置されている。径方向に隣接する可撓膜部分37どうしが直接的に連なっている。すなわち、各可撓膜部分37の襞部分37bが、径方向内側に隣接する可撓膜部分37の襞部分37aに連続している。膜部31全体として、襞部分37a,37bが径方向に交互に連続している。これによって、複数の可撓膜部分37が全体として蛇腹状になっている。最も外側の可撓膜部分37が、周壁部33に一体に連なっている。最も内側の可撓膜部分37が厚肉のリブ35に一体に連なっている。
【0051】
第2実施形態では、膜部32が、シール部材30Aの軸方向の中間部ではなく軸方向の内側の端部に設けられている。この膜部32についても、膜部31と同様の構造になっている。すなわち、膜部32は、穴32aを囲む環状かつ襞状に折曲された可撓膜部分37を複数有し、これら可撓膜部分37が同心円状に配置され、全体として蛇腹状になっている。
【0052】
図10の実線に示すように、鉄筋3をスリーブ継手10に対し偏芯させると、偏芯側とは反対側における各可撓膜部分37の襞部分37a,37bに径方向内側(図10において下側)へのモーメントが作用し、これら襞部分37a,37bどうしのなす角度が拡開する。したがって、膜部31,32の偏芯側とは反対側の部分が、図10の仮想線で示す自然状態のときよりも全体的に径方向内側へ伸びる。可撓膜部分37を複数同心円状に設けることによって、各可撓膜部分37の拡開量が小さくても、膜部31又は32全体の上記伸び量を大きくできる。これによって、膜部31,32の偏芯側とは反対側の部分が、鉄筋3に確実に接するようにできる。ひいては、スリーブ継手10と鉄筋3との間を確実にシールすることができる。
【0053】
図11〜図13は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態は、第2実施形態の襞状の可撓膜部分の変形例に係る。図11に示すように、第3実施形態のシール部材30Bでは、膜部31,32のほぼ全体が滑らかな波状の断面になるように折曲され、複数の襞状の可撓膜部分38が形成されている。各可撓膜部分38における径方向の外側の襞部分38aと、径方向の内側の襞部分38bとが、滑らかに連続している。図12に示すように、自然状態(非変形時)では、複数の可撓膜部分38が穴31a,32aを囲む同心円状である点は、第2実施形態の可撓膜部分37と同様である。
【0054】
図13に示すように、鉄筋3を偏芯させると、偏芯側とは反対側における各可撓膜部分38の襞部分38a,38bに径方向内側(図13において下側)へのモーメントが作用し、各可撓膜部分38が径方向に拡開する。したがって、第2実施形態と同様に、膜部31,32の偏芯側とは反対側の部分が、図13の仮想線で示す自然状態のときよりも全体的に径方向内側へ伸びる。これによって、膜部31,32の偏芯側とは反対側の部分が、鉄筋3に確実に接するようにでき、スリーブ継手10と鉄筋3との間を確実にシールすることができる。
【0055】
本発明は、上記実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない限りにおいて種々の改変をなすことができる。
例えば、スリーブ継手10の両端部に本発明のシール部材30を装着してもよい。大径鉄筋2側のシール部材20にも可撓膜部分36,37,38を設けてもよい。
同径の鉄筋を連結する場合でも本発明のシール部材を適用できる。
鉄筋の偏芯の有無に拘わらず本発明のシール部材を適用できる。鉄筋2,3をボルト4で押え付けない場合でも本発明のシール部材を適用できる。
特許文献1の第2のシール部材を膜部31,32又は21,22どうしの間に入れ子状に収容してもよい。
段差状の可撓膜部分36が、膜部31の径方向の中間部に設けられていてもよい。
可撓膜部分36の厚さが、平膜部分34の厚さより大きくてもよい。
可撓膜部分36が、平膜部分34より軸方向の内側に凹む段差にて構成されていてもよい。
膜部31に段差状の可撓膜部分36が同心円状に複数設けられていてもよい。
膜部31に襞状の可撓膜部分37,38が1つだけ設けられていてもよい。
リム部35を省略してもよい。リム部35の厚さを平膜部分34の厚さと同じにしてもよい。
第1実施形態の膜部32にも可撓膜部分36を設けてもよい。
複数の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、膜部31に段差状の可撓膜部分36と襞状の可撓膜部分37,38を混在させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば建築用の鉄筋を連結するのに適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 連結装置
2 大径の鉄筋
3 小径の鉄筋
4 ボルト
5 グラウト剤
10 スリーブ継手
11 収容溝
12 開口
14 ネジ穴
15 支持突起
20 大径側のシール部材
21,22 膜部
21a,22a 穴
23 周壁部
30 小径側のシール部材
30A,30B シール部材
31 膜部
31a 穴
32 膜部
32a 穴
33 周壁部
34 平膜部分
35 リム部
36 段差状の可撓膜部分
37,38 襞状の可撓膜部分
37a,38a 径方向外側の襞部分
37b,38b 径方向内側の襞部分
大径鉄筋の偏芯量
小径鉄筋の偏芯量
大径鉄筋の軸線
小径鉄筋の軸線
10 スリーブの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋連結用スリーブ継手の端部の内周と、前記スリーブ継手に挿入される鉄筋の外周との間に設けられる環状のシール部材であって、
前記鉄筋を通す穴を有する膜部と、前記膜部の外周に設けられて前記スリーブ継手に定着される環状の周壁部とを一体に備え、前記膜部が、段差状又は襞状に折曲されてなり且つ前記周壁部に沿う環状ないしは前記穴を囲む環状の可撓膜部分を含むことを特徴とするシール部材。
【請求項2】
前記可撓膜部分が、前記膜部の外周部に設けられて前記周壁部に連なっていることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記可撓膜部分の厚さが、前記膜部の前記可撓膜部分より径方向内側の部分の厚さと同等又はそれ以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記可撓膜部分が、同心円状に複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項5】
前記複数の可撓膜部分が、全体として蛇腹状に連なっていることを特徴とする請求項4に記載のシール部材。
【請求項6】
前記膜部の前記穴の内周縁には、前記膜部の前記内周縁より径方向外側の部分より厚肉のリム部が設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のシール部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−112206(P2012−112206A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263744(P2010−263744)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(390026723)東京鐵鋼株式会社 (37)
【Fターム(参考)】