説明

鉄粒子を含む有機ハロゲン化合物の分解剤及びその製造方法

【課題】銅を含有する必要のない鉄粒子で構成され且つ有機ハロゲン化合物を十分に分解する能力を有する分解剤及びその製造方法の提供。
【解決手段】鉄及び酸化鉄からなる鉄粒子を含む有機ハロゲン化合物の分解剤であって、鉄粒子が、下記のエッチング条件:
チャンバー内の真空度:2.0×10−2Pa
イオンガンの加速電圧:10kV
エミッション電流:10mA
エッチング時間:14秒
で2回のイオンビームエッチングを行ったときの鉄粒子の最表面層における金属鉄の含有量として15質量%以上の値を有する、有機ハロゲン化合物の分解剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粒子を含む有機ハロゲン化合物の分解剤、より詳しくは、特有の表面組成を有する鉄及び酸化鉄からなる鉄粒子を含む有機ハロゲン化合物の分解剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トリクロロエチレン等の有機ハロゲン化合物で汚染された土壌や地下水を浄化するために、分解剤として比表面積を高めた鉄粉を使用し、比較的安価且つ短期間で無害化処理できる方法が提案されている(特許文献1)。また、有機ハロゲン化合物の分解性能を改善するため、銅を含有する鉄粉を分解剤として使用する技術が開発され、使用されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−235577号公報
【特許文献2】特開2000−5740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の鉄粉の比表面積を増大する技術では、十分な有機ハロゲン化合物の分解性能が得られていなかった。また、特許文献2の銅含有鉄粉を使用する技術では、有機ハロゲン化合物の分解特性を改善するものの、銅を含有することから工程中で銅が溶出するおそれがあり、銅含有鉄粉の生産コストの面からも、銅を含有しなくとも有機ハロゲン化化合物を効率よく分解できる分解剤が求められていた。
【0005】
このような背景から、本発明者は、比表面積を増大する方法として、分解剤の扁平化を試みたが、分解能力の改善効果は十分ではなかった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、銅を含有する必要のない鉄粒子で構成され且つ有機ハロゲン化合物を十分に分解する能力を有する分解剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、分解剤の比表面積以外で鉄粉の分解能力に影響する要因を考えたところ、鉄粉の表面酸化が進むと分解能力が低下する大きな要因となっているという新たな知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
第1の本発明は、鉄及び酸化鉄からなる鉄粒子を含む有機ハロゲン化合物の分解剤であって、鉄粒子が、下記のエッチング条件:
チャンバー内の真空度:2.0×10−2Pa
イオンガンの加速電圧:10kV
エミッション電流:10mA
エッチング時間:14秒
で2回のイオンビームエッチングを行ったときの鉄粒子の最表面層における金属鉄の含有量として15質量%以上の値を有する、有機ハロゲン化合物の分解剤である。
【0009】
第2の本発明は、上記の有機ハロゲン化合物の分解剤の製造方法であって、液体媒体を入れたボールミルのポット中で鉄粉を湿式処理する工程、湿式処理した鉄粉を水性溶剤で洗浄する工程、洗浄した鉄粉を30℃以下の温度で乾燥して鉄粒子を得る工程を含む、有機ハロゲン化合物の分解剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解剤は、銅などを含有せずに、有機ハロゲン化合物の分解特性を改善するという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】有機ハロゲン化合物の分解剤のXRD分析結果として得られるスペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解剤は、下記のエッチング条件:
チャンバー内の真空度:2.0×10−2Pa
イオンガンの加速電圧:10kV
エミッション電流:10mA
エッチング時間:14秒
で2回のイオンビームエッチングを行ったときの鉄粒子の最表面層における金属鉄の含有量として15〜20質量%の値を有する、鉄及び酸化鉄からなる鉄粒子を含む。
【0013】
すなわち、本発明における鉄粒子は、(1)構成成分として金属鉄及び酸化鉄からなり、(2)前記エッチング条件で2回のイオンビームエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が15質量%以上である。
【0014】
((1)鉄粒子の構成成分)
鉄粒子は、本質的に、鉄(すなわち、金属鉄)及び酸化鉄からなる。酸化鉄としては、酸化第一鉄(FeO)、酸化第二鉄(Fe)及び四酸化三鉄(Fe)が含まれる。鉄粒子は、比較的多量の金属鉄と、比較的少量の酸化鉄からなる。
【0015】
(鉄粒子のBET比表面積)
鉄粒子は、1.0m/g以上のBET比表面積を有することが好ましい。より好ましくは1.5m/g以上である。
【0016】
BET比表面積値の測定は、以下の方法で行う。測定対象サンプル(鉄粒子)表面に吸着した気体の影響を除去するため真空脱気を行った後、キャリアガスである窒素とヘリウムの混合ガスの流通下において、鉄粒子の液体窒素温度(−196℃)条件下における窒素ガス吸着等温線を測定する。得られた吸着等温線にBET無限層吸着式を適用してBET比表面積を求める。BET無限層吸着式は、以下で示される。
【0017】
(x/v)(1−x)=(1/vC)+{(C−1)/vC}x
式中、x:相対圧=P/P、P:平衡圧、P:飽和蒸気圧、v:平衡吸着量[ml・STP/g]、v:単分子吸着量[ml・STP/g]、C:定数=Exp{(E−E)/RT},E:第1層への吸着熱、E:液化熱、R:気体定数、T:絶対温度である。実測からx/v(1−x)とxをプロットすることによりvが得られるので下記式から表面積が求められる。
S=σ(v/22400)(6.02×1023)(10−20)[m/g]
ただし、σmは吸着分子1個の占有面積で、16.2Åを用いる。
(出典):『微粒子ハンドブック』/神保元二 他/朝倉書店 (p.152)
【0018】
実際の測定においては、今回測定に使用した装置(ユアサアイオニクス製 MONOSORB)内で上記の計算まで行った結果として表面積データが算出される。また、測定環境に起因する誤差については、比表面積が既知の酸化アルミニウム標準粉体試料の測定結果を用いて補正を行う。
【0019】
((2)イオンビームエッチング後の鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量)
鉄粒子表面における金属鉄含有量評価およびイオンビームエッチングは、次に示す方法で評価する。
【0020】
装置としては、Kratos Analytical 社製XPS(X-Ray Photoelectron Spectroscopy)装置ESCA-3400を用いた。分析用の試料台にカーボンテープを使用して固定した分析用サンプルを、装置の真空チャンバー内にセットし、分析及び特定のエッチング条件下でイオンビームエッチングを行った。XPSは、X線源より発生したX線を試料表面に照射し、試料表面より発生する電子のエネルギー分布を測定する評価方法・装置である。今回使用した装置では、サンプルを固定した試料台平面と20°の角度からX線を照射し、試料台平面と垂直方向にある検出器にて光電子を検出する構造であった。発生した電子は、X線などの光により励起されることから光電子と呼ばれ、試料表面の元素及びその酸化状態により固有の結合エネルギーを持っているため、このエネルギー分布から組成や酸化状態を調べることができる。光電子の運動エネルギーは小さく、深部で発生した光電子は表面に到達するまでにエネルギーを失ってしまうため、表面から数nm程度の深度より浅いエリアの情報のみが得られることとなる。このため、有機ハロゲン化合物分解反応に関わる試料最表面の分析を行うのに適した分析装置であるといえる。
【0021】
元素や化合物形態による固有のエネルギー値は、例えば参考文献「Handbook of X-ray Photoelectron Spectroscopy, N. Ikeo, Y. Iijima, N. Nimura, M. Sigematsu, T. Tazawa, S. Matsumoto, K. Kojima, and Y. Nagasawa, JEOL(1991)」などに記されているが、XPS装置に得られたエネルギー分布データからその解析を行う解析ソフトを用いて行うこともできる。本発明では、Kratos ESCA-3400のデータ処理ソフトウェア「Vision2」を用いて、結合エネルギー707eVの位置に表れる金属鉄の2P3/2軌道の電子のピーク強度と、その酸化物として結合エネルギー711eVの位置に表れるピーク強度とからピーク面積の積分値比により解析を行った。ただし、本発明における実験のように、原料鉄粉として、DOWA IP クリエイション製のDKP−100を用いた場合、この原料は不純物含有量が低い鉄粉であるため、微量含有成分を考慮せず、鉄と酸素のみで構成されるという仮定のもとに解析を行った。つまり、鉄の含有量をC、酸化鉄含有量をCとしたとき、C+C=1とした。
【0022】
鉄粒子は、特定のエッチング条件下でイオンビームエッチングを2回行った後の表面層が15質量%以上の金属鉄を含有する。残量(85質量%未満)は、本質的には、酸化鉄である。好ましくは15〜20質量%の金属鉄を含有する。
特定のエッチング条件は、以下の通りである。
チャンバー内の真空度:2.0×10−2Pa
イオンガンの加速電圧:10kV
エミッション電流:10mA
エッチング時間:14秒
【0023】
このエッチング条件は、例えば二酸化ケイ素に対してこの条件下でイオンビームエッチングを行うと、1回当たり約64nmのエッチングができるような条件である。
【0024】
イオンビームエッチングは、以下のようにして行う。XPS装置の真空チャンバー内の真空度を一定に保ちながら、Arガスを少量ずつ導入しながら連続的に電離させ、加速器で加速させて試料表面に衝突させる。真空度(Arガス濃度)とイオンガンの加速電圧、エミッション電流により、試料表面に衝突するArイオンの量を制御し、所定の時間エッチングすることにより、試料表面においてエッチングされる物質量を制御することができる。
【0025】
本発明における鉄粒子は、さらに、前記のエッチング条件で4回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が、20質量%以上であることがよい。更には20〜40質量%、特に35〜40質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明における鉄粒子は、さらに、前記のエッチング条件で1回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が10質量%以上であることがよい。更には10〜15質量%であることが好ましい。
【0027】
本発明における鉄粒子はさらに、前記のエッチング条件で3回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が25質量%以上であることがよい。更には25〜30質量%であることが好ましい。
【0028】
本発明の鉄粒子は、粉末X線回折(以下XRDと表記する)パターンにおける(110)面のピーク強度をI及び(200)面のピーク強度をIとしたときのピーク強度比(I/I)が0.2以上の値であることが好ましい。ピーク強度比(I/I)は、より好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.5以上である。
【0029】
ここで、2つの結晶方位面ピーク強度比(I/I)と有機ハロゲン化合物の分解効果との関係については、現時点で詳細な解明には至っていないが、以下のように推察できる。つまり、有機ハロゲン化合物の分解効果を有するサイトとして有効な機能が(110)面と比較して(200)面に多く、本発明で示した有機ハロゲン化合物分解剤の製法・条件により(200)面が粒子表面に多く存在することにとなったと想定される。粒子表面に適切な結晶方位面(200)が存在するようにピーク強度比を0.2以上とし、先に示した酸化状態と組み合わされることで、銅などの添加物を加えることなく、有機ハロゲン化合物分解効果に優れた材料が得られると考えられる。
【0030】
ピーク強度比(I/I)は、以下の方法により測定する。本発明の有機ハロゲン化合物の分解剤の粉末XRD分析結果として得られるスペクトルの一例を図1に示す。図1において2θ=44.9°と65.2°に特徴的な大きなピークが確認できる。ブラッグの法則に、これらのピークの2θ角度データとXRD測定条件をあてはめることで結晶面間隔が求められ、これらのピークはそれぞれ(110)面、(200)面に特有のピークであることがわかる。(110)面、(200)面それぞれのピーク強度よりピーク強度比(I/I)を求めることができる。
【0031】
本発明における鉄粒子は、かさ密度が2.0g/cm以下であることが好ましい。かさ密度は、より好ましくは1.0g/cm以下である。
【0032】
かさ密度は、以下に示す方法により測定する。かさ密度測定装置(一例として、筒井理化学器械製「MVD−86型」などが挙げられる)においたシリンダーの中に、一定の高さに固定した漏斗状の容器から一次粒子同士が十分に分散された状態まで篩を通したうえで、測定対象粉体を落下させる。充填された粉体をシリンダー上端面にてすり切り、シリンダー内に充填された粉体質量を測定する。粉体質量をシリンダー内容積で除することでかさ密度が求められる。
【0033】
本発明における鉄粒子の形状は、特に問わず、球状、柱状、ラグビーボール状、扁平状等の形状を有し得る。鉄粒子の形状は、簡易に、粉体の比表面積を増加させ、粒子体積当たりの有機ハロゲン化合物分解機能をもつ活性点の数を増やすことのできるプロセス(例えば、本発明の実施例にて示した、湿式ボールミル処理法など)により容易に得られることから、扁平状であることが好ましい。また、前述したその他の粒子形状についても、湿式合成法、アトマイズ法、CVD法、PDV法、粉砕法などの各種製法にて適切に条件制御を行うことで、調製可能である。鉄粒子は、扁平状である場合、板状比が2以上、さらに3以上、特に5以上であることが好ましい。扁平状粒子の平均径は、100μm以上であることが好ましく、120μm以上であることがさらに好ましい。
【0034】
扁平状粒子の平均径は及び板状比は以下の式により求める。
扁平状粒子の平均径=(2×平均平面径+平均厚さ)/3
扁平状粒子の板状比=平均平面径/平均厚さ
【0035】
なお、平均平面径は、50個の粒子について扁平面方向における長径とこれに直交する短径を測定し、平面径=(長径+短径)/2を求め、これを平均して求める。平均厚さは、50個の粒子の厚さを測定し、これを平均して求める。
【0036】
本発明の分解剤は、有機ハロゲン化合物の分解剤である。有機ハロゲン化合物におけるハロゲンとしては、塩素、フッ素、臭素及びヨウ素であり、特に塩素及びフッ素が好ましい。有機ハロゲン化合物としては、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、トリハロメタン、PCB、ダイオキシンが例示できる。
【0037】
本発明の分解剤は、有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水、排水、排ガスに対して適用し、これらを浄化することができる。汚染された土壌、地下水などの浄化は、汚染土壌に分解剤を添加し混合する方法、汚染地下水を分解剤の層を通過させる方法等の従来公知の方法により行うことができる。
【0038】
本発明は、上記の有機ハロゲン化合物の分解剤の製造方法にも関する。本発明の分解剤の製造方法は、(1)液体媒体を入れたボールミルのポット中で原料の鉄粉を湿式処理する工程、(2)湿式処理した鉄粉を水性溶剤で洗浄する工程、及び(3)洗浄した鉄粉を30℃以下の温度で乾燥して鉄粒子を得る工程を含む。
【0039】
本発明における工程(1)は、液体媒体と、鉄粉に衝撃を付与するための媒体(メディア)を入れたポット中に鉄粉を充填し、ポットを回転・振動などの駆動させることにより、ポット内部の鉄粉を混式処理するボールミル処理工程である。
【0040】
工程(1)における液体媒体としては、水、アルコール及びその他の有機溶媒などが使用できる。好ましい液体溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)である。液体媒体は、ポット中の鉄粉が大気に触れない量で使用する。
【0041】
工程(1)におけるポットは、市販のポットを使用でき、例えば、鋼製、SUS製及び磁性のポットが挙げられる。駆動方法としては、日本電産シンポ株式会社製ポットミルPTA−01型などが挙げられる。
【0042】
工程(1)における鉄粉に衝撃を付与するための媒体(メディア)としては、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、鉄、鋼、ステンレス、メノウ、磁製等のボールが挙げられる。
【0043】
工程(1)における原料の鉄粉として、市販の鉄粉を使用できる。市販の鉄粉として、還元鉄粉(例えば、DOWA IP クリエイション社製のDKP−100)、電解鉄粉、アトマイズ鉄粉、カルボニル鉄粉、鉄系材料の切削片などを挙げることができる。
【0044】
工程(1)における湿式処理は、原料の鉄粉を、液体媒体の存在下(過剰な酸化を防ぐ目的で、大気を連続的に流通・接触させることなく)、ポット中のボールの作用により機械的に混合、変形する処理をいう。湿式処理により、原料鉄粉の形状等が改質される。
【0045】
工程(1)の処理条件は、適宜設定されるが、たとえば、25℃の温度で、20時間、120rpmの回転数(今回使用したポットの外径が500mmであるので、周速度として表すと60m/min)の回転数である。
【0046】
本発明における工程(2)は、必要により液体媒体から分離した湿式処理後の鉄粉を水性溶剤で洗浄する工程である。
【0047】
工程(2)における水性溶剤は、水、水溶性の有機溶剤又はそれらの混合物であり得る。水溶性の有機溶媒として、アルコール、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、エーテル類が挙げられる。
【0048】
工程(2)は、液体媒体を鉄粉から十分に除去するために行うものであり、その方法は特に限定されないが、フィルタープレス、ヌッチェなどのろ過・圧搾機能を有する洗浄装置で行うのが都合がよい。工程(2)において、水性溶媒の使用量は適宜であるが、鉄粉に対して、5〜200質量%を、1回で又は複数回に分けて使用する。工程(2)の温度は、使用する水性溶剤によって変わるが、常温付近の温度であることが製造コスト面で好ましい。
【0049】
本発明における工程(3)は、洗浄した鉄粉を30℃以下の温度で乾燥して鉄粒子を得る工程である。この工程により、鉄粉の表面組成等が改質される。乾燥温度が30℃を上回ると、分解剤の活性が低下する。工程(3)の温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下である。
【0050】
本発明の製造方法により得られた鉄粒子は、そのままで、あるいは、他の材料(例えば、従来の鉄粉等)と混合して分解剤とすることができる。
【0051】
(有機ハロゲン化合物の分解試験)
有機ハロゲン化合物の分解性能は、以下の方法により測定した。
【0052】
100mLバイアル瓶(実容量:124mL)にイオン交換水50mLを投入し、その中へ評価対象の分解剤試料を0.5g投入する。パスツール・ピペットを用いて、バイアル瓶底部から窒素曝気を行い、テフロン(登録商標)・コーティングされたブチルゴム・セプタムとアルミキャップを用いて密封する。マイクロ・シリンジを用いて、セプタム部分から有機ハロゲン化合物としてトリクロロエチレン(TCE)、内部標準物質としてベンゼンを注入したうえで、攪拌振とうし、一定時間毎にバイアル瓶のヘッドスペース部のガス100μLをサンプリングして、このガスをGC−MS(ガスクロマトグラフ−質量分析装置)装置にて定性・定量分析した。鉄粉からのガス発生などによりバイアル瓶内の圧力が変動するが、内部標準物質であるベンゼンは鉄粉による濃度変化がないので、この濃度を同時に測定することで、濃度補正を行うことができる。試験時間(撹拌振とう処理時間)に対する、ヘッドスペース部ガス中の有機ハロゲン化合物濃度の減衰傾向より、処理対象有機ハロゲン化合物の分解速度を評価した。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
容量2.3LのSUS製のポットに直径10mmの酸化ジルコニウムボール6580gを入れた。ボールの仕込み量はポットの80容量%であった。このボールミルに原料鉄粉として還元鉄粉(DKP−100、DOWA IP クリエイション社製)100g及び純水1Lを仕込んだ。材料を仕込んだポットを、日本電産シンポ株式会社製ポットミルPTA-01型を用いて、温度:25℃、撹拌回転数120rpm(周速60m/min.)の条件下で20時間回転運転して湿式処理を行った。湿式処理した鉄粉を水及び酸化ジルコニウムボールから分離し、これをエタノール100mLを用いて、温度25℃で1回洗浄した。洗浄した湿式処理鉄粉を10℃の温度にて24時間乾燥して本発明における鉄粒子を得た。
【0055】
(実施例2)
洗浄をエタノールの代わりに水を用いる以外は、実施例1と同様にして鉄粒子を得た。
【0056】
(比較例1)
実施例1における湿式処理、洗浄、乾燥のすべての工程を行わなかった。すなわち、原料の還元鉄粉を鉄粒子とした。
【0057】
(比較例2)
乾燥温度を10℃の代わりに105℃とした以外は、実施例1と同様にして鉄粒子を得た。
【0058】
(比較例3)
乾燥温度を10℃の代わりに105℃とした以外は、実施例2と同様にして鉄粒子を得た。
【0059】
(比較例4)
実施例1で使用したボールを充填したボールミルに原料鉄粉として還元鉄粉(DKP−100)100gを仕込んだ。材料を仕込んだポットを、日本電産シンポ株式会社製ポットミルPTA−01型を用いて、温度:25℃、撹拌回転数120rpm(周速60m/min.)の条件下で20時間回転運転して乾式処理を行ない鉄粒子を得た。
【0060】
(試験例1)
実施例1〜2及び比較例1〜4の鉄粒子から構成される分解剤について、有機ハロゲン化合物の分解性能を前述の方法で測定した。
【0061】
ここで、鉄粉による有機ハロゲン化合物の分解反応を一次反応と仮定して、以下の式1で表すことができる。
【数1】

【0062】
有機ハロゲン化合物としてトリクロロエチレン(TC)について、分解剤を用いた分解試験の結果(上記式の反応速度定数k)を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(試験例2)
実施例1〜2及び比較例1〜4の鉄粒子について、0〜5回のイオンビームエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量を前述の方法で測定した。また、実施例1〜2及び比較例1〜4の鉄粒子について、板状比を前述の方法で測定した。測定結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
(試験例3)
実施例1〜2及び比較例1、4の鉄粒子について、ピーク強度比及びかさ密度を前述の方法で測定した。測定結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解剤は、銅などの汚染物質を含有せずに、有機ハロゲン化合物の分解特性を改善するので、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌、地下水などの浄化に効果的に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及び酸化鉄からなる鉄粒子を含む有機ハロゲン化合物の分解剤であって、鉄粒子が、下記のエッチング条件:
チャンバー内の真空度:2.0×10−2Pa
イオンガンの加速電圧:10kV
エミッション電流:10mA
エッチング時間:14秒
で2回のイオンビームエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量として15質量%以上の値を有する、有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項2】
鉄粒子が、XRDパターンにおける(110)面のピーク強度をI及び(200)面のピーク強度をIとしたときのピーク強度比(I/I)として0.2以上の値を有する、請求項1記載の有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項3】
さらに、請求項1記載のエッチング条件で4回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が20質量%以上である、請求項1又は2記載の有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項4】
前記エッチング条件で4回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が35質量%以上である、請求項3記載の有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項5】
さらに、請求項1記載のエッチング条件で1回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が10質量%以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載の有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項6】
さらに、請求項1記載のエッチング条件で3回のイオンエッチングを行ったときの鉄粒子の表面層における金属鉄の含有量が25質量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項7】
鉄粒子のかさ密度が2.0g/cm以下である、請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ハロゲン化合物の分解剤。
【請求項8】
鉄粒子の板状比が2以上の扁平状である、請求項1〜7のいずれか1項記載の有機ハロゲン化物の分解剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の有機ハロゲン化合物の分解剤の製造方法であって、液体媒体を入れたボールミルのポット中で鉄粉を湿式処理する工程、湿式処理した鉄粉を水性溶剤で洗浄する工程、洗浄した鉄粉を30℃以下の温度で乾燥して鉄粒子を得る工程を含む、有機ハロゲン化合物の分解剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−67195(P2012−67195A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213290(P2010−213290)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】