鉄道構造物の振動特性同定方法および装置
【課題】鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性を容易かつ確実に同定できる鉄道構造物の振動特性同定装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両Sの軸箱に設けられた加速度計1と、加速度計1によって測定された加速度データをサンプリングして、デジタル加速度データを取得するデジタル加速度データ取得手段3と、取得したデジタル加速度データをFFT解析して、ランニングスペクトルを算出するランニングスペクトル算出手段4と、算出したランニングスペクトルにおいて、鉄道車両Sが鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数とする固有振動モード同定手段5とを備えたので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性を容易かつ確実に同定できる。
【解決手段】鉄道車両Sの軸箱に設けられた加速度計1と、加速度計1によって測定された加速度データをサンプリングして、デジタル加速度データを取得するデジタル加速度データ取得手段3と、取得したデジタル加速度データをFFT解析して、ランニングスペクトルを算出するランニングスペクトル算出手段4と、算出したランニングスペクトルにおいて、鉄道車両Sが鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数とする固有振動モード同定手段5とを備えたので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性を容易かつ確実に同定できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道構造物の振動特性同定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の振動特性は構造物の劣化診断や耐震診断の指標として利用されている(例えば、特許文献1参照)。構造物の振動特性を同定する場合、例えば、構造物上に設置した加速度計、速度計、変位計から構造物の振動特性を同定する方法が知られており、一定の成果が上がっている。
また、構造物の振動特性から構造物の健全度を評価する方法は幾つか提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−20425号公報
【特許文献2】特開2009−8562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉄道構造物の振動特性(例えば鉄道構造物の固有振動モード(固有振動数))を得るために、鉄道構造物上に、加速度計等の計測機器を設置するには多くの費用、手間がかかる。
また、国内に存在する鉄道構造物は膨大な量に上りその振動測定を常時行うには,予算的にも技術的にも問題が多い。
さらに、鉄道構造物の支持状態や部材構成が大きく変化するような場合には、鉄道構造物の支配的な低次の固有振動数に変化が現れるため、変状を検知できる場合がある。しかしこの場合、構造物が健全である時の初期値を計測しておくか、同種構造物に関するデータベースを構築して標準値をあらかじめ定めておくのが一般的である。一方、鋼部材の腐食やコンクリート部材の剥離・剥落等による局所的な断面変化は、全体系の固有振動数に現れにくい。目視でも明らかに分かるような大きな変状がなければ定量的な変化が捉えられない。このような場合には、局所的な影響を受けやすいより高次の振動モードを測定することが必要となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性を容易かつ確実に同定でき、さらに、鉄道構造物の健全性を評価できる鉄道構造物の振動特性同定方法および装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、例えば図1および図2に示すように、鉄道構造物Kの振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定方法であって、
軸箱に加速度計1が設けられた鉄道車両Sを前記鉄道構造物Kに設置されたレールRを走行させて前記加速度計1によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、軸箱に設けられた加速度計で測定した加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施して算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(第1次〜第n(nは2以上の自然数)次固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振動特性同定方法において、
前記加速データをサンプリング周波数2000Hzでサンプリングし、
FFTによるスペクトル解析の際の周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔を0.1秒とすることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、サンプリング周波数2000Hzに設定し、周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔0.1秒に設定することによって、鉄道車両が鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数を効果的に得ることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両の速度の異なる加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、鉄道車両の速度の異なる加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データにFFTによるスペクトル解析を施すことによって算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図1および図2に示すように、鉄道構造物Kの振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定装置であって、
鉄道車両Sの軸箱に設けられた加速度計1と、
前記鉄道車両Sを前記鉄道構造物Kに設置されたレールRを走行させることによって前記加速度計1によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とする振動モード同定システム2とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、加速度計で測定した加速度データに、振動モード同定システム2によって、FFTによるスペクトル解析を施して算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(第1次〜第n次固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記振動モード同定システム2は、前記加速度計1によって測定された加速度データを、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得するデジタル加速度データ取得手段3と、
取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出するランニングスペクトル算出手段4と、
算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両Sが前記鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とする固有振動モード同定手段5とを備えていることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、軸箱に加速度計が設けられた鉄道車両を前記レールを走行させて、前記加速度計によって加速度を測定し、この測定した加速度データを、デジタル加速度データ取得手段によって、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、これらのデジタル加速度データをランニングスペクトル算出手段によって、FFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、固有振動モード同定手段によって、前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段3は、前記加速度計1によって測定された加速データを、サンプリング周波数2000Hzでサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、
前記ランニングスペクトル算出手段4は、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行うことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、デジタル加速度データ取得手段におけるサンプリング周波数2000Hzに設定し、ランニングスペクトル算出手段によって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出する場合に、周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔0.1秒に設定することによって、鉄道車両が鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数を効果的に得ることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、例えば図1および図6に示すように、請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段3は、前記鉄道車両Sの速度の異なる加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段5は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両Sの速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とすることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、鉄道車両の速度の異なる加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、例えば図1、図7、図8に示すように請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段3は、前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計1や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両Sの軸箱に設けられた加速度計1によって測定された加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段5は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、例えば図1に示すように、請求項5〜9のいずれか一項に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
走行中の前記鉄道車両Sの位置を検知する走行位置検知システム7と、
前記鉄道構造物Kの位置を記憶している構造物位置データベース(例えば構造物の距離程データベース11)とを備え、
前記走行位置検知システム7は、走行中の前記鉄道車両Sの位置に基づいて、前記構造物位置データベースを検索して、前記鉄道車両Sが走行している位置に存在し、かつ前記振動モード同定システム2で固有振動数が同定された鉄道構造物Kを特定することを特徴とする。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、走行位置検知システムが、走行中の鉄道車両の位置に基づいて、構造物位置データベースを検索して、鉄道車両が走行している位置に存在し、かつ前記振動モード同定システムで固有振動数が同定された鉄道構造物を特定するので、同定された固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)がどの鉄道構造物に対応するのかを容易に知ることができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、例えば図1に示すように、請求項10に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記鉄道構造物Kの健全性を評価する健全性評価システム12を備え、
この健全性評価システム12は、前記鉄道構造物Kの新設状態における振動特性を記憶する構造物振動特性記憶部12aと、固有振動モード変化検知手段12bとを備え、
この固有振動モード変化検知手段12bは、前記走行位置検知システム7によって特定された鉄道構造物Kの前記固有振動モード同定手段5によって同定された固有振動モードと、前記構造物振動特性記憶部12aに記憶されている前記特定された鉄道構造物Kの新設状態の正常固有振動モードとを比較して、この正常固有振動モードに対して、同定された前記固有振動モードが変化していた場合に、鉄道構造物Kが変状していると判断することを特徴とする。
【0027】
請求項11に記載の発明によれば、固有振動モード変化検知手段が、特定の鉄道構造物の正常固有振動モードに対して、同定された固有振動モードが変化していた場合に、前記特定の鉄道構造物が変状していると判断するので、特定の鉄道構造物の点検、補修を速やかに行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、軸箱に設けられた加速度計で測定した加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施して算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
また、走行位置検知システムによって、固有振動モード同定手段によって同定された固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)がどの鉄道構造物に対応するのかを容易に知ることができる。
さらに、固有振動モード変化検知手段によって、特定の鉄道構造物が変状していると判断するので、特定の鉄道構造物の点検、補修を速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る鉄道構造物の振動特性同定装置の一例を示すもので、概略構成を示す図である。
【図2】同、鉄道車両と鉄道構造物の概略構成を示す側面図である。
【図3】同、加速度計によって測定された加速度のグラフである。
【図4】同、パワースペクトルのグラフである。
【図5】同、時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図6】同、列車速度を変化させた場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図7】同、輪軸を変えた場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図8】同、車輪を変えた場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図9】同、鉄道構造物の位置に対応したランニングスペクトル(時間−周波数分布)のグラフである。
【図10】同、鉄道構造物が変状している場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図11】同、鉄道構造物の固有振動モードを同定する方法を示すフロー図である。
【図12】同、鉄道構造物の異常自動検知方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明に係る鉄道構造物の振動特性同定装置の一例について説明する。図1は、鉄道構造物の振動特性同定装置(以下、振動特性同定装置と略称する。)の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本発明に係る振動特性同定装置は、複数の加速度計1、振動モード同定システム2、構造物の固有振動モードデータベース6、走行位置検知システム7、構造物の距離程データベース11、健全性評価システム12等を備えている。
【0031】
加速度計1は、鉄道車両の輪軸の軸箱に設けられている。この場合、レールの高低、通り、軌間、水準変位等の影響を除去できるように、左右輪、複数輪軸ごとにそれぞれの軸箱に加速度計1が配置される。
そして、加速度計1が軸箱に設けられた鉄道車両Sを、図2に示すように、振動特性を把握したい鉄道構造物(例えば橋梁)K上に敷設したレールRを走行させ、その走行中における時間の経過に伴う加速度を各加速度計1によって測定する(図3参照)。なお、この加速度には、鉄道車両Sの固有振動に起因する加速度、軌道狂い(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)に起因する加速度、鉄道構造物Kの固有振動に起因する加速度が含まれている。
各加速度計1には、プリアンプ1aが接続され、このプリアンプ1aによって増幅された加速度の加速度データ(アナログ信号)が、各プリアンプ1aが接続されたアナログ入力ターミナル1bに入力される。このアナログ入力ターミナル1bに入力された加速度データ(アナログ信号)はUSBメモリに保存される。
そして、この加速度データ(アナログ信号)に、振動モード同定システム2によってFFTによるスペクトル解析を施す。
【0032】
すなわちまず、前記振動モード同定システム2は、例えばノート型のパソコンに設けられており、デジタル加速度データ取得手段3と、ランニングスペクトル算出手段4と、固有振動モード同定手段5とを備えている。
デジタル加速度データ取得手段3は、前記加速度計1によって測定された加速度データ(アナログ信号(図3参照))を、所定のサンプリング周波数(例えばサンプリング周波数2000Hz)でサンプリングして、時間の経過に伴う(時系列の)デジタル加速度データ(デジタル信号)を取得するものであり、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部等を備え、取得されたデジタル加速度データ(デジタル信号)は、パソコンのハードディスク等の記憶部に記憶される。
なお、デジタル加速度データ取得手段3に、加速度計1によって測定された加速度データ(アナログデータ)を入力する場合、このデータが保存された前記USBメモリをパソコンに接続することによって行われるが、前記アナログ入力ターミナル1bから直接USB接続によって入力してもよい。
【0033】
前記ランニングスペクトル算出手段4は、取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出するものであり、FFT演算部、スペクトル演算部等を備えており、算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のデータはパソコンのハードディスク等の記憶部に記憶される。
前記ランニングスペクトル算出手段4は、例えば、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行う。つまり、周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔を0.1秒とする。
ランニングスペクトルは、例えば図4に示すように、経過時間軸に沿ってスペクトルを疑似立体的に表示したもので、スペクトルの時間変動の様子を見るのに適しているが、この図からピークスペクトルの発生した時刻や振動数を正確に読みとるのは困難である。このため、前記ランニングスペクトル算出手段4は、図5に示すように、経過時間と振動数を座標軸に取り、二次元的にスペクトルをパソコンの画面に表示する。これによって、時刻や振動数を正確に読みとることができる。
なお、図5においては、実線で鉄道構造物Kの固有振動Kvを示し、破線で車両の固有振動やレール継ぎ目による衝撃の振動等の外乱による振動Gvを示している。
【0034】
前記固有振動モード同定手段5は、前記ランニングスペクトル算出手段4によって算出された時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両Sが鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とするものであり、パソコン中のハードディスク等の記憶部に記憶されている固有振動数抽出プログラム、このプログラムを実行するCPU等によって構成され、抽出された鉄道構造物Kの固有振動数のデータはパソコンのハードディスク等の記憶部に記憶される。
前記固有振動モード同定手段5は、例えば図5に示すランニングスペクトル(時間−周波数分布)において、実線で示す部分を鉄道構造物Kの固有振動Kvとして抽出し、破線で示す部分を外乱の影響による振動Gvとして抽出する。外乱の影響とは、例えば、レールの高低、通り、軌間、水準変位、レールの継ぎ目による衝撃、鉄道車両Sの固有振動等のことである。
【0035】
また、前記固有振動モード同定手段5は、ランニングスペクトル算出手段4によって算出された加速度の時間−周波数分布において、鉄道車両Sの速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とする。
すなわち、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両Sの列車速度に起因する加振周波数が変化するため、列車速度を変化させることで、図6に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は列車速度に依存しないため、列車速度を変化させても一定の値を示す。後述する走行位置検知システム7で対象の鉄道構造物K上を走行している時間帯で、上記のように速度を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)である。したがって、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0036】
このように、鉄道車両Sの速度の異なる加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、鉄道車両Sの速度に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として容易に抽出できる。
なお、固有振動モードは、振動モード形の腹(振幅が大きくなる場所)が加振されると励起されやすい。逆に、節となる位置を加振しても固有振動モードは励起されない。従って、前記走行位置検知システム7により、固有振動モードの腹上を走行している時間帯を確認すれば、鉄道構造物Kの固有振動モードが卓越している可能性が高い。例えば,単純桁の場合、1/2点が1次固有振動モードの腹となり、1/4点が2次固有振動モードの腹となる。
【0037】
また、前記固有振動モード同定手段5は、ランニングスペクトル算出手段4によって算出された加速度の時間−周波数分布において、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数として抽出する。
すなわち、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両S内の異なる輪軸に起因する加振周波数が変化するため、輪軸を変えることで、図7に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は輪軸に依存しないため、輪軸を変えても一定の値を示す。前記走行位置検知システム7で対象の鉄道構造物K上を走行している時間帯で、上記のように輪軸を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)である。したがって、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0038】
また、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は、鉄道車両Sの車輪削正履、つまり、車輪の凹凸に起因する加振周波数が変化するため、車輪を変えることで、図8に示すように、卓越振動数が変化したり、削正前の車輪にのみ卓越振動が生じたりする。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は車輪に依存しないため、車輪を変えても一定の値を示す。前記走行位置検知システム7で対象の鉄道構造物K上を走行している時間帯で、上記のように車輪を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)である。したがって、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0039】
このように、鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)として容易に同定できる。
【0040】
上記のようにして、得られた鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)は、図1に示す構造物の固有振動モードデータベース6に保存される。そして、この固有振動モードデータベース6には、全線区の鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が、時系列のデータベースとして蓄積、保存される。
この場合、さらに前記走行位置検知システム7(図1参照)によって、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している鉄道車両Sの位置(座標系データ)を時刻に対応付けて求めたうえで、前記固有振動モードデータベース6に保存する。
走行中の鉄道車両Sの時刻と座標系データ(位置)を求めることによって、鉄道車両Sの走行によって上記のようにして得られた全線区の鉄道構造物Kの固有振動モードの時刻歴データと座標系を関係づけることができる。したがって、図9に示すように、鉄道構造物Kの位置に対応したランニングスペクトル(時間−周波数分布)を算出して表示することができ、対象とする鉄道構造物K上でしか現れない固有振動数を明確にできる。
【0041】
前記走行位置検知システム7は、例えば、図1に示すように、前記振動モード同定システム2が設けられたパソコンに設定されており、鉄道車両Sに取り付けられたGPS受信機9を含んで構成されている。
そして、この走行位置検知システム7では、走行中の鉄道車両Sの時刻と位置(座標系データ)を求め、このデータをUSBメモリに保存しておき、このUSBメモリを前記パソコンに接続して、走行位置検知システム7に前記データを入力することによって、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している鉄道車両Sの位置(座標系データ)を時刻に対応付けて求めるようになっている。
前記走行位置検知システム7としては、上記以外に、例えば、軸箱加速度の復元変位波形から橋梁の1次たわみ形状を求める方法、25mごとのレール継ぎ目を用いる方法、鉄道車両の慣性センサー、速度発電機10と、GPSの併用等が挙げられる。
【0042】
また、前記走行位置検知システム7では、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している鉄道車両Sの位置(座標系データ)、つまり鉄道構造物Kの位置(座標系データ)が分かるので、線路の起点(例えばある特定の駅を起点とする)から鉄道構造物Kまでの距離である距離程を算出するようになっている。この距離程のデータは、構造物の距離程データベース11に、対象構造物名、構造物形式、諸元等に対応付けられて蓄積保存される。
この距離程データベース11には、走行位置検知システム7によって、距離程と対象鉄道構造物名、構造物形式、諸元等が全線区の鉄道構造物Kについて保存蓄積されるが、これらのデータは走行位置検知システム7以外の方法で予め求めておき、このデータを保存しておいてもよい。なお、構造物の距離程データベース11も前記パソコンに設けられている。
そして、このような走行位置検知システム7では、走行中の鉄道車両Sの位置に基づいて、距離程データベース11を検索して、鉄道車両Sが走行している位置に存在し、かつ固有振動モード同定手段5で固有振動数が同定された鉄道構造物Kを特定するようになっている。
【0043】
また、前記振動モード同定システム2を備えたパソコンには、全線区の鉄道構造物Kの健全性を評価する健全性評価システム12が設けられている。
この健全性評価システム12は、鉄道構造物Kの新設状態における振動特性を記憶する構造物振動特性記憶部12aと、固有振動モード変化検知手段12bとを備えている。
構造物振動特性記憶部12aには、全線区の鉄道構造物Kの正常固有振動モード(正常固有振動数)が各鉄道構造物Kに対応付けられて記憶されている。
鉄道構造物Kでは標準設計が行われ,同じ振動特性の鉄道構造物が多く作られるため、代表的な鉄道構造物については、あらかじめアレイ配置した加速度計に対して、インパルスハンマーや列車を加振源としたモード同定を実施しておき、標準値(正常固有振動モード)を定めておき、これを構造物振動特性記憶部12aに鉄道構造物Kごとに記憶させておくのが望ましい。
また、新設鉄道構造物やまだ変状が見られない鉄道構造物については、上記のような軸箱加速度より同定された固有振動モード(固有振動数)を変状評価のための初期値(正常固有振動モード)として、構造物振動特性記憶部12aに記憶させて、評価に用いることができる。
【0044】
前記固有振動モード変化検知手段12bは、前記固有振動モード同定手段5によって決定(同定)された鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)と、構造物振動特性記憶部12aに記憶されている新設状態の鉄道構造物Kの正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)とを比較して、正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)に対して、固有振動モード同定手段5によって決定(同定)された固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が変化していた場合に、鉄道構造物Kが変状していると判断するものである。
例えば、図10に示すように、鉄道構造物Kの健全時に所定の正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)を示しているが、構造物Kが変状した劣化時には正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が低下するので、これを検知することによって、鉄道構造物Kが変状していると判断する。
【0045】
次に、本発明に係る振動特性同定装置を用いて、鉄道構造物Kの固有振動モード(固有振動数)を同定する方法について、図11を参照して説明する。
まず、ステップS1で振動モード同定システム2をスタートする。
ステップS2において、鉄道車両Sの列車速度Vを、V=v1、v2・・・として複数設定し、さらに、車種Iを、I=A、B・・・として複数設定する。
そして、ステップS3において、鉄道車両Sを振動特性を把握したい鉄道構造物(例えば橋梁)上に敷設したレールを走行させ、その走行中における加速度を軸箱に設けた加速度計によって測定する。
加速度計は、レールの高低、通り、軌間、水準変位等の影響を除去できるように、左右輪、複数輪軸ごとにそれぞれの軸箱にそれぞれ配置し、合計でn個(nは自然数)配置する。
そして、ステップS4で、それぞれの加速度計によって加速度を測定する。これら加速度の加速度データ(アナログ信号)は、図1に示すように、プリアンプ1aを介して、アナログ入力ターミナル1bに入力され、さらにUSBメモリに保存される。
【0046】
次に、ステップS5で、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出する。
このステップS5では、まず、前記USBメモリを振動モード同定システム2が設けられたパソコンに接続して、加速度計によって測定された加速度データ(アナログ信号)を入力する。
次に、前記デジタル加速度データ取得手段3によって、入力された加速度データ(アナログ信号)を、所定のサンプリング周波数(例えばサンプリング周波数2000Hz)でサンプリングして、時間の経過に伴う(時系列の)デジタル加速度データ(デジタル信号)を取得する。
次に、前記ランニングスペクトル算出手段4によって、取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出する。この場合、例えば、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行う。
このようにして、図5に示すような、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出して、パソコンの画面に表示する。
【0047】
次に、ステップS6で、速度Vkm/h、鉄道車両(車種I)時の各スペクトルで確認されるピークを検出する。例えば図5に示す、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、ピーク値が現れるので、これを検出する。
そして、ステップS2で設定した条件すべてにおいて、ステップS3〜S6を順次繰り返して行った後、ステップS7で終了する。
【0048】
次に、ステップS8で、全ケースで確認されるピークを検出した後、ステップS9で鉄道車両Sが走行した鉄道構造物Kの固有振動モード(固有振動数)を同定し、ステップS10で終了する。
ステップS9では、固有振動モード同定手段5が、例えば図5に示すランニングスペクトル(時間−周波数分布)において、実線で示す部分を鉄道構造物Kの固有振動Kvとして抽出し、破線で示す部分を外乱の影響による振動Gvとして抽出する。外乱の影響とは、例えば、レールの高低、通り、軌間、水準変位、レールの継ぎ目による衝撃、鉄道車両Sの固有振動等のことである。
【0049】
前記鉄道構造物Kの固有振動Kvを抽出するには、例えば、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両Sの列車速度に起因する加振周波数が変化するため、列車速度を変化させることで、図6に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は列車速度に依存しないため、列車速度を変化させても一定の値を示す。したがって、上記のように速度を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)であるため、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数Kvとして抽出する。
【0050】
また、別の方法で鉄道構造物Kの固有振動Kvを抽出するには、例えば、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両S内の異なる輪軸に起因する加振周波数が変化するため、輪軸を変えることで、図7に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は輪軸に依存しないため、輪軸を変えても一定の値を示す。したがって、上記のように輪軸を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)であるため、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0051】
さらに別の方法で鉄道構造物Kの固有振動Kvを抽出するには、例えば、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は、鉄道車両Sの車輪削正履、つまり、車輪の凹凸に起因する加振周波数が変化するため、車輪を変えることで、図8に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は車輪に依存しないため、車輪を変えても一定の値を示す。したがって、上記のように車輪を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)であるため、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数Kvとして抽出する。
【0052】
次に、前記振動モード同定システム2を利用した構造物の異常自動検知システムについて図12を参照して説明する。
まず、ステップS1で本システムをスタートする。次に、ステップS2で、鉄道車両Sとして、ある速度で走行する営業列車を使用し、この営業列車の軸箱に加速度計を設定して、この加速度計で加速度を測定するように設定する。
次に、ステップS3で、図11に示す振動モード同定システムに移行する一方で、ステップS4で列車走行位置を特定する。
このステップS4では、前記走行位置検知システム7を使用する。すなわち、GPSによって、営業列車の時刻と営業列車の位置(座標系データ)を求めることによって、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している営業列車の位置(座標系データ)を求め、さらに、線路の起点(例えばある特定の駅を起点とする)から営業列車までの距離である距離程を算出する。
【0053】
一方、前記構造物距離程データベース11には、全線区の鉄道構造物Kについての距離程のデータが各鉄道構造物名に対応付けて保存蓄積されているので、前記営業列車の距離程に基づいて、構造物距離程位置データベース11を検索することによって、営業列車が走行している位置に存在する鉄道構造物K(鉄道構造物名)を特定する。
【0054】
鉄道構造物Kを特定した後、ステップS5で、特定した鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次固有振動数)を同定する。つまり、この固有振動モードはS3で同定されるので、この固有振動モードを特定した鉄道構造部K上の固有振動モードとして同定する。特定構造物の固有振動モードを同定できない場合、ステップS2に戻る。
【0055】
特定構造物の固有振動モードを同定したならば、ステップS6に移行して、その結果を図1に示す構造物の固有振動モードデータベース6に保存する。この固有振動モードデータベース6には、全線区の鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が、各鉄道構造物に対応付けられてデータベースとして蓄積、保存される。
次に、ステップS7で固有振動モードの変化を検知する。これは図1に示す健全性評価システム12によって行う。すなわち、前記固有振動モード変化検知手段12bが、前記特定された鉄道構造物の固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)と、構造物振動特性記憶部12aに記憶されている、特定された構造物に対応する新設状態の鉄道構造物の正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)とを比較して、正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)に対して、上記のようにして同定された特定の鉄道構造物の固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が変化していた場合に、特定された鉄道構造物が変状していると判断する。ステップS7で固有振動モードの変化を検知できなかった場合は、ステップS2に戻る。
【0056】
特定された鉄道構造物において、ステップS7で固有振動モードの変化を検知した場合、ステップS8で検査員が当該特定された鉄道構造物を目視やその他の手段によって詳細に点検を実施したうえで、補修を行って、終了する(ステップS9)。
【0057】
本実施の形態によれば、軸箱に加速度計1が設けられた鉄道車両SをレールRを走行させて、加速度計1によって加速度を測定し、この測定した加速度データを、デジタル加速度データ取得手段3によって、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、これらのデジタル加速度データをランニングスペクトル算出手段4によって、FFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、固有振動モード同定手段5によって、前記時間−周波数分布において、鉄道車両Sが鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数と決定するので、鉄道構造物Kに加速度計を設置することなく、鉄道構造物Kの振動特性(固有振動モード(固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
また、これらの加速度データを、鉄道構造物の健全度評価、列車の速度向上時の検討、鉄道構造物騒音や地盤振動の評価に活用することができる。
【0058】
また、走行位置検知システム7と、構造物距離程データベース11とを備え、走行位置検知システム7が、走行中の鉄道車両Sの位置に基づいて、構造物距離程データベース11を検索して、前記鉄道車両が走行している位置に存在し、かつ固有振動モード同定手段5で固有振動数が同定された鉄道構造物(名)を特定するので、固有振動モード同定手段5によって同定された固有振動モード(固有振動数)がどの鉄道構造物に対応するのかを容易に知ることができる。
【0059】
さらに、固有振動モード変化検知手段12bは、走行位置検知システム7によって特定された鉄道構造物の固有振動モード同定手段5によって同定された固有振動モードと、構造物振動特性記憶部12aに記憶されている前記特定された鉄道構造物の新設状態の正常固有振動モードとを比較して、この正常固有振動モードに対して、同定された前記固有振動モードが変化していた場合に、鉄道構造物が変状していると判断するので、その後、特定の鉄道構造物の点検、補修を速やかに行うことができる。
【0060】
また、営業線を利用しているので、時々刻々と変化する鉄道構造物の振動特性を時間的に連続にデータ収集することができ、鉄道構造物に異常や劣化が発生した場合でも振動特性の変化からそれを検知することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 加速度計
2 振動モード同定システム
3 デジタル加速度データ取得手段
4 ランニングスペクトル算出手段
5 固有振動モード同定手段
6 構造物の固有振動モードデータベース
7 走行位置検知システム
9 GPS受信機
11 構造物の距離程データベース(構造物位置データベース)
12 健全性評価システム
12a 構造物振動特性記憶部
12b 固有振動モード変化検知手段
S 鉄道車両
R レール
K 鉄道構造物
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道構造物の振動特性同定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の振動特性は構造物の劣化診断や耐震診断の指標として利用されている(例えば、特許文献1参照)。構造物の振動特性を同定する場合、例えば、構造物上に設置した加速度計、速度計、変位計から構造物の振動特性を同定する方法が知られており、一定の成果が上がっている。
また、構造物の振動特性から構造物の健全度を評価する方法は幾つか提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−20425号公報
【特許文献2】特開2009−8562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉄道構造物の振動特性(例えば鉄道構造物の固有振動モード(固有振動数))を得るために、鉄道構造物上に、加速度計等の計測機器を設置するには多くの費用、手間がかかる。
また、国内に存在する鉄道構造物は膨大な量に上りその振動測定を常時行うには,予算的にも技術的にも問題が多い。
さらに、鉄道構造物の支持状態や部材構成が大きく変化するような場合には、鉄道構造物の支配的な低次の固有振動数に変化が現れるため、変状を検知できる場合がある。しかしこの場合、構造物が健全である時の初期値を計測しておくか、同種構造物に関するデータベースを構築して標準値をあらかじめ定めておくのが一般的である。一方、鋼部材の腐食やコンクリート部材の剥離・剥落等による局所的な断面変化は、全体系の固有振動数に現れにくい。目視でも明らかに分かるような大きな変状がなければ定量的な変化が捉えられない。このような場合には、局所的な影響を受けやすいより高次の振動モードを測定することが必要となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性を容易かつ確実に同定でき、さらに、鉄道構造物の健全性を評価できる鉄道構造物の振動特性同定方法および装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、例えば図1および図2に示すように、鉄道構造物Kの振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定方法であって、
軸箱に加速度計1が設けられた鉄道車両Sを前記鉄道構造物Kに設置されたレールRを走行させて前記加速度計1によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、軸箱に設けられた加速度計で測定した加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施して算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(第1次〜第n(nは2以上の自然数)次固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の振動特性同定方法において、
前記加速データをサンプリング周波数2000Hzでサンプリングし、
FFTによるスペクトル解析の際の周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔を0.1秒とすることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、サンプリング周波数2000Hzに設定し、周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔0.1秒に設定することによって、鉄道車両が鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数を効果的に得ることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両の速度の異なる加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、鉄道車両の速度の異なる加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データにFFTによるスペクトル解析を施すことによって算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図1および図2に示すように、鉄道構造物Kの振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定装置であって、
鉄道車両Sの軸箱に設けられた加速度計1と、
前記鉄道車両Sを前記鉄道構造物Kに設置されたレールRを走行させることによって前記加速度計1によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とする振動モード同定システム2とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、加速度計で測定した加速度データに、振動モード同定システム2によって、FFTによるスペクトル解析を施して算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(第1次〜第n次固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記振動モード同定システム2は、前記加速度計1によって測定された加速度データを、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得するデジタル加速度データ取得手段3と、
取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出するランニングスペクトル算出手段4と、
算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両Sが前記鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とする固有振動モード同定手段5とを備えていることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、軸箱に加速度計が設けられた鉄道車両を前記レールを走行させて、前記加速度計によって加速度を測定し、この測定した加速度データを、デジタル加速度データ取得手段によって、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、これらのデジタル加速度データをランニングスペクトル算出手段によって、FFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、固有振動モード同定手段によって、前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段3は、前記加速度計1によって測定された加速データを、サンプリング周波数2000Hzでサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、
前記ランニングスペクトル算出手段4は、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行うことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、デジタル加速度データ取得手段におけるサンプリング周波数2000Hzに設定し、ランニングスペクトル算出手段によって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出する場合に、周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔0.1秒に設定することによって、鉄道車両が鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数を効果的に得ることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、例えば図1および図6に示すように、請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段3は、前記鉄道車両Sの速度の異なる加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段5は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両Sの速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とすることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、鉄道車両の速度の異なる加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、例えば図1、図7、図8に示すように請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段3は、前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計1や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両Sの軸箱に設けられた加速度計1によって測定された加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段5は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として同定できる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、例えば図1に示すように、請求項5〜9のいずれか一項に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
走行中の前記鉄道車両Sの位置を検知する走行位置検知システム7と、
前記鉄道構造物Kの位置を記憶している構造物位置データベース(例えば構造物の距離程データベース11)とを備え、
前記走行位置検知システム7は、走行中の前記鉄道車両Sの位置に基づいて、前記構造物位置データベースを検索して、前記鉄道車両Sが走行している位置に存在し、かつ前記振動モード同定システム2で固有振動数が同定された鉄道構造物Kを特定することを特徴とする。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、走行位置検知システムが、走行中の鉄道車両の位置に基づいて、構造物位置データベースを検索して、鉄道車両が走行している位置に存在し、かつ前記振動モード同定システムで固有振動数が同定された鉄道構造物を特定するので、同定された固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)がどの鉄道構造物に対応するのかを容易に知ることができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、例えば図1に示すように、請求項10に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記鉄道構造物Kの健全性を評価する健全性評価システム12を備え、
この健全性評価システム12は、前記鉄道構造物Kの新設状態における振動特性を記憶する構造物振動特性記憶部12aと、固有振動モード変化検知手段12bとを備え、
この固有振動モード変化検知手段12bは、前記走行位置検知システム7によって特定された鉄道構造物Kの前記固有振動モード同定手段5によって同定された固有振動モードと、前記構造物振動特性記憶部12aに記憶されている前記特定された鉄道構造物Kの新設状態の正常固有振動モードとを比較して、この正常固有振動モードに対して、同定された前記固有振動モードが変化していた場合に、鉄道構造物Kが変状していると判断することを特徴とする。
【0027】
請求項11に記載の発明によれば、固有振動モード変化検知手段が、特定の鉄道構造物の正常固有振動モードに対して、同定された固有振動モードが変化していた場合に、前記特定の鉄道構造物が変状していると判断するので、特定の鉄道構造物の点検、補修を速やかに行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、軸箱に設けられた加速度計で測定した加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施して算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数と決定するので、鉄道構造物に加速度計を設置することなく、鉄道構造物の振動特性(固有振動モード(固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
また、走行位置検知システムによって、固有振動モード同定手段によって同定された固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)がどの鉄道構造物に対応するのかを容易に知ることができる。
さらに、固有振動モード変化検知手段によって、特定の鉄道構造物が変状していると判断するので、特定の鉄道構造物の点検、補修を速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る鉄道構造物の振動特性同定装置の一例を示すもので、概略構成を示す図である。
【図2】同、鉄道車両と鉄道構造物の概略構成を示す側面図である。
【図3】同、加速度計によって測定された加速度のグラフである。
【図4】同、パワースペクトルのグラフである。
【図5】同、時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図6】同、列車速度を変化させた場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図7】同、輪軸を変えた場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図8】同、車輪を変えた場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図9】同、鉄道構造物の位置に対応したランニングスペクトル(時間−周波数分布)のグラフである。
【図10】同、鉄道構造物が変状している場合を説明するための時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のグラフである。
【図11】同、鉄道構造物の固有振動モードを同定する方法を示すフロー図である。
【図12】同、鉄道構造物の異常自動検知方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明に係る鉄道構造物の振動特性同定装置の一例について説明する。図1は、鉄道構造物の振動特性同定装置(以下、振動特性同定装置と略称する。)の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本発明に係る振動特性同定装置は、複数の加速度計1、振動モード同定システム2、構造物の固有振動モードデータベース6、走行位置検知システム7、構造物の距離程データベース11、健全性評価システム12等を備えている。
【0031】
加速度計1は、鉄道車両の輪軸の軸箱に設けられている。この場合、レールの高低、通り、軌間、水準変位等の影響を除去できるように、左右輪、複数輪軸ごとにそれぞれの軸箱に加速度計1が配置される。
そして、加速度計1が軸箱に設けられた鉄道車両Sを、図2に示すように、振動特性を把握したい鉄道構造物(例えば橋梁)K上に敷設したレールRを走行させ、その走行中における時間の経過に伴う加速度を各加速度計1によって測定する(図3参照)。なお、この加速度には、鉄道車両Sの固有振動に起因する加速度、軌道狂い(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)に起因する加速度、鉄道構造物Kの固有振動に起因する加速度が含まれている。
各加速度計1には、プリアンプ1aが接続され、このプリアンプ1aによって増幅された加速度の加速度データ(アナログ信号)が、各プリアンプ1aが接続されたアナログ入力ターミナル1bに入力される。このアナログ入力ターミナル1bに入力された加速度データ(アナログ信号)はUSBメモリに保存される。
そして、この加速度データ(アナログ信号)に、振動モード同定システム2によってFFTによるスペクトル解析を施す。
【0032】
すなわちまず、前記振動モード同定システム2は、例えばノート型のパソコンに設けられており、デジタル加速度データ取得手段3と、ランニングスペクトル算出手段4と、固有振動モード同定手段5とを備えている。
デジタル加速度データ取得手段3は、前記加速度計1によって測定された加速度データ(アナログ信号(図3参照))を、所定のサンプリング周波数(例えばサンプリング周波数2000Hz)でサンプリングして、時間の経過に伴う(時系列の)デジタル加速度データ(デジタル信号)を取得するものであり、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部等を備え、取得されたデジタル加速度データ(デジタル信号)は、パソコンのハードディスク等の記憶部に記憶される。
なお、デジタル加速度データ取得手段3に、加速度計1によって測定された加速度データ(アナログデータ)を入力する場合、このデータが保存された前記USBメモリをパソコンに接続することによって行われるが、前記アナログ入力ターミナル1bから直接USB接続によって入力してもよい。
【0033】
前記ランニングスペクトル算出手段4は、取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出するものであり、FFT演算部、スペクトル演算部等を備えており、算出された加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)のデータはパソコンのハードディスク等の記憶部に記憶される。
前記ランニングスペクトル算出手段4は、例えば、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行う。つまり、周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔を0.1秒とする。
ランニングスペクトルは、例えば図4に示すように、経過時間軸に沿ってスペクトルを疑似立体的に表示したもので、スペクトルの時間変動の様子を見るのに適しているが、この図からピークスペクトルの発生した時刻や振動数を正確に読みとるのは困難である。このため、前記ランニングスペクトル算出手段4は、図5に示すように、経過時間と振動数を座標軸に取り、二次元的にスペクトルをパソコンの画面に表示する。これによって、時刻や振動数を正確に読みとることができる。
なお、図5においては、実線で鉄道構造物Kの固有振動Kvを示し、破線で車両の固有振動やレール継ぎ目による衝撃の振動等の外乱による振動Gvを示している。
【0034】
前記固有振動モード同定手段5は、前記ランニングスペクトル算出手段4によって算出された時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、前記鉄道車両Sが鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とするものであり、パソコン中のハードディスク等の記憶部に記憶されている固有振動数抽出プログラム、このプログラムを実行するCPU等によって構成され、抽出された鉄道構造物Kの固有振動数のデータはパソコンのハードディスク等の記憶部に記憶される。
前記固有振動モード同定手段5は、例えば図5に示すランニングスペクトル(時間−周波数分布)において、実線で示す部分を鉄道構造物Kの固有振動Kvとして抽出し、破線で示す部分を外乱の影響による振動Gvとして抽出する。外乱の影響とは、例えば、レールの高低、通り、軌間、水準変位、レールの継ぎ目による衝撃、鉄道車両Sの固有振動等のことである。
【0035】
また、前記固有振動モード同定手段5は、ランニングスペクトル算出手段4によって算出された加速度の時間−周波数分布において、鉄道車両Sの速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とする。
すなわち、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両Sの列車速度に起因する加振周波数が変化するため、列車速度を変化させることで、図6に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は列車速度に依存しないため、列車速度を変化させても一定の値を示す。後述する走行位置検知システム7で対象の鉄道構造物K上を走行している時間帯で、上記のように速度を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)である。したがって、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0036】
このように、鉄道車両Sの速度の異なる加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、鉄道車両Sの速度に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動数として容易に抽出できる。
なお、固有振動モードは、振動モード形の腹(振幅が大きくなる場所)が加振されると励起されやすい。逆に、節となる位置を加振しても固有振動モードは励起されない。従って、前記走行位置検知システム7により、固有振動モードの腹上を走行している時間帯を確認すれば、鉄道構造物Kの固有振動モードが卓越している可能性が高い。例えば,単純桁の場合、1/2点が1次固有振動モードの腹となり、1/4点が2次固有振動モードの腹となる。
【0037】
また、前記固有振動モード同定手段5は、ランニングスペクトル算出手段4によって算出された加速度の時間−周波数分布において、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数として抽出する。
すなわち、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両S内の異なる輪軸に起因する加振周波数が変化するため、輪軸を変えることで、図7に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は輪軸に依存しないため、輪軸を変えても一定の値を示す。前記走行位置検知システム7で対象の鉄道構造物K上を走行している時間帯で、上記のように輪軸を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)である。したがって、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0038】
また、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は、鉄道車両Sの車輪削正履、つまり、車輪の凹凸に起因する加振周波数が変化するため、車輪を変えることで、図8に示すように、卓越振動数が変化したり、削正前の車輪にのみ卓越振動が生じたりする。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は車輪に依存しないため、車輪を変えても一定の値を示す。前記走行位置検知システム7で対象の鉄道構造物K上を走行している時間帯で、上記のように車輪を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)である。したがって、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0039】
このように、鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに基づいて取得されたデジタル加速度データをFFT解析して算出された、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)においては、輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数が外乱の影響による卓越振動数となるので、それ以外の変化しない卓越振動数を鉄道構造物の固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)として容易に同定できる。
【0040】
上記のようにして、得られた鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)は、図1に示す構造物の固有振動モードデータベース6に保存される。そして、この固有振動モードデータベース6には、全線区の鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が、時系列のデータベースとして蓄積、保存される。
この場合、さらに前記走行位置検知システム7(図1参照)によって、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している鉄道車両Sの位置(座標系データ)を時刻に対応付けて求めたうえで、前記固有振動モードデータベース6に保存する。
走行中の鉄道車両Sの時刻と座標系データ(位置)を求めることによって、鉄道車両Sの走行によって上記のようにして得られた全線区の鉄道構造物Kの固有振動モードの時刻歴データと座標系を関係づけることができる。したがって、図9に示すように、鉄道構造物Kの位置に対応したランニングスペクトル(時間−周波数分布)を算出して表示することができ、対象とする鉄道構造物K上でしか現れない固有振動数を明確にできる。
【0041】
前記走行位置検知システム7は、例えば、図1に示すように、前記振動モード同定システム2が設けられたパソコンに設定されており、鉄道車両Sに取り付けられたGPS受信機9を含んで構成されている。
そして、この走行位置検知システム7では、走行中の鉄道車両Sの時刻と位置(座標系データ)を求め、このデータをUSBメモリに保存しておき、このUSBメモリを前記パソコンに接続して、走行位置検知システム7に前記データを入力することによって、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している鉄道車両Sの位置(座標系データ)を時刻に対応付けて求めるようになっている。
前記走行位置検知システム7としては、上記以外に、例えば、軸箱加速度の復元変位波形から橋梁の1次たわみ形状を求める方法、25mごとのレール継ぎ目を用いる方法、鉄道車両の慣性センサー、速度発電機10と、GPSの併用等が挙げられる。
【0042】
また、前記走行位置検知システム7では、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している鉄道車両Sの位置(座標系データ)、つまり鉄道構造物Kの位置(座標系データ)が分かるので、線路の起点(例えばある特定の駅を起点とする)から鉄道構造物Kまでの距離である距離程を算出するようになっている。この距離程のデータは、構造物の距離程データベース11に、対象構造物名、構造物形式、諸元等に対応付けられて蓄積保存される。
この距離程データベース11には、走行位置検知システム7によって、距離程と対象鉄道構造物名、構造物形式、諸元等が全線区の鉄道構造物Kについて保存蓄積されるが、これらのデータは走行位置検知システム7以外の方法で予め求めておき、このデータを保存しておいてもよい。なお、構造物の距離程データベース11も前記パソコンに設けられている。
そして、このような走行位置検知システム7では、走行中の鉄道車両Sの位置に基づいて、距離程データベース11を検索して、鉄道車両Sが走行している位置に存在し、かつ固有振動モード同定手段5で固有振動数が同定された鉄道構造物Kを特定するようになっている。
【0043】
また、前記振動モード同定システム2を備えたパソコンには、全線区の鉄道構造物Kの健全性を評価する健全性評価システム12が設けられている。
この健全性評価システム12は、鉄道構造物Kの新設状態における振動特性を記憶する構造物振動特性記憶部12aと、固有振動モード変化検知手段12bとを備えている。
構造物振動特性記憶部12aには、全線区の鉄道構造物Kの正常固有振動モード(正常固有振動数)が各鉄道構造物Kに対応付けられて記憶されている。
鉄道構造物Kでは標準設計が行われ,同じ振動特性の鉄道構造物が多く作られるため、代表的な鉄道構造物については、あらかじめアレイ配置した加速度計に対して、インパルスハンマーや列車を加振源としたモード同定を実施しておき、標準値(正常固有振動モード)を定めておき、これを構造物振動特性記憶部12aに鉄道構造物Kごとに記憶させておくのが望ましい。
また、新設鉄道構造物やまだ変状が見られない鉄道構造物については、上記のような軸箱加速度より同定された固有振動モード(固有振動数)を変状評価のための初期値(正常固有振動モード)として、構造物振動特性記憶部12aに記憶させて、評価に用いることができる。
【0044】
前記固有振動モード変化検知手段12bは、前記固有振動モード同定手段5によって決定(同定)された鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)と、構造物振動特性記憶部12aに記憶されている新設状態の鉄道構造物Kの正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)とを比較して、正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)に対して、固有振動モード同定手段5によって決定(同定)された固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が変化していた場合に、鉄道構造物Kが変状していると判断するものである。
例えば、図10に示すように、鉄道構造物Kの健全時に所定の正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)を示しているが、構造物Kが変状した劣化時には正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が低下するので、これを検知することによって、鉄道構造物Kが変状していると判断する。
【0045】
次に、本発明に係る振動特性同定装置を用いて、鉄道構造物Kの固有振動モード(固有振動数)を同定する方法について、図11を参照して説明する。
まず、ステップS1で振動モード同定システム2をスタートする。
ステップS2において、鉄道車両Sの列車速度Vを、V=v1、v2・・・として複数設定し、さらに、車種Iを、I=A、B・・・として複数設定する。
そして、ステップS3において、鉄道車両Sを振動特性を把握したい鉄道構造物(例えば橋梁)上に敷設したレールを走行させ、その走行中における加速度を軸箱に設けた加速度計によって測定する。
加速度計は、レールの高低、通り、軌間、水準変位等の影響を除去できるように、左右輪、複数輪軸ごとにそれぞれの軸箱にそれぞれ配置し、合計でn個(nは自然数)配置する。
そして、ステップS4で、それぞれの加速度計によって加速度を測定する。これら加速度の加速度データ(アナログ信号)は、図1に示すように、プリアンプ1aを介して、アナログ入力ターミナル1bに入力され、さらにUSBメモリに保存される。
【0046】
次に、ステップS5で、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出する。
このステップS5では、まず、前記USBメモリを振動モード同定システム2が設けられたパソコンに接続して、加速度計によって測定された加速度データ(アナログ信号)を入力する。
次に、前記デジタル加速度データ取得手段3によって、入力された加速度データ(アナログ信号)を、所定のサンプリング周波数(例えばサンプリング周波数2000Hz)でサンプリングして、時間の経過に伴う(時系列の)デジタル加速度データ(デジタル信号)を取得する。
次に、前記ランニングスペクトル算出手段4によって、取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出する。この場合、例えば、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行う。
このようにして、図5に示すような、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出して、パソコンの画面に表示する。
【0047】
次に、ステップS6で、速度Vkm/h、鉄道車両(車種I)時の各スペクトルで確認されるピークを検出する。例えば図5に示す、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)において、ピーク値が現れるので、これを検出する。
そして、ステップS2で設定した条件すべてにおいて、ステップS3〜S6を順次繰り返して行った後、ステップS7で終了する。
【0048】
次に、ステップS8で、全ケースで確認されるピークを検出した後、ステップS9で鉄道車両Sが走行した鉄道構造物Kの固有振動モード(固有振動数)を同定し、ステップS10で終了する。
ステップS9では、固有振動モード同定手段5が、例えば図5に示すランニングスペクトル(時間−周波数分布)において、実線で示す部分を鉄道構造物Kの固有振動Kvとして抽出し、破線で示す部分を外乱の影響による振動Gvとして抽出する。外乱の影響とは、例えば、レールの高低、通り、軌間、水準変位、レールの継ぎ目による衝撃、鉄道車両Sの固有振動等のことである。
【0049】
前記鉄道構造物Kの固有振動Kvを抽出するには、例えば、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両Sの列車速度に起因する加振周波数が変化するため、列車速度を変化させることで、図6に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は列車速度に依存しないため、列車速度を変化させても一定の値を示す。したがって、上記のように速度を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)であるため、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数Kvとして抽出する。
【0050】
また、別の方法で鉄道構造物Kの固有振動Kvを抽出するには、例えば、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は鉄道車両S内の異なる輪軸に起因する加振周波数が変化するため、輪軸を変えることで、図7に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は輪軸に依存しないため、輪軸を変えても一定の値を示す。したがって、上記のように輪軸を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)であるため、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数として抽出する。
【0051】
さらに別の方法で鉄道構造物Kの固有振動Kvを抽出するには、例えば、鉄道構造物K以外の外乱(レールの高低、通り、軌間、水準変位等)により引き起こされる振動は、鉄道車両Sの車輪削正履、つまり、車輪の凹凸に起因する加振周波数が変化するため、車輪を変えることで、図8に示すように、卓越振動数が変化する。
一方、鉄道構造物Kの固有振動数は車輪に依存しないため、車輪を変えても一定の値を示す。したがって、上記のように車輪を変えても一定の値を示す卓越振動数は鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)であるため、この卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数Kvとして抽出する。
【0052】
次に、前記振動モード同定システム2を利用した構造物の異常自動検知システムについて図12を参照して説明する。
まず、ステップS1で本システムをスタートする。次に、ステップS2で、鉄道車両Sとして、ある速度で走行する営業列車を使用し、この営業列車の軸箱に加速度計を設定して、この加速度計で加速度を測定するように設定する。
次に、ステップS3で、図11に示す振動モード同定システムに移行する一方で、ステップS4で列車走行位置を特定する。
このステップS4では、前記走行位置検知システム7を使用する。すなわち、GPSによって、営業列車の時刻と営業列車の位置(座標系データ)を求めることによって、鉄道構造物(例えば橋梁)K上のレールRを走行している営業列車の位置(座標系データ)を求め、さらに、線路の起点(例えばある特定の駅を起点とする)から営業列車までの距離である距離程を算出する。
【0053】
一方、前記構造物距離程データベース11には、全線区の鉄道構造物Kについての距離程のデータが各鉄道構造物名に対応付けて保存蓄積されているので、前記営業列車の距離程に基づいて、構造物距離程位置データベース11を検索することによって、営業列車が走行している位置に存在する鉄道構造物K(鉄道構造物名)を特定する。
【0054】
鉄道構造物Kを特定した後、ステップS5で、特定した鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次固有振動数)を同定する。つまり、この固有振動モードはS3で同定されるので、この固有振動モードを特定した鉄道構造部K上の固有振動モードとして同定する。特定構造物の固有振動モードを同定できない場合、ステップS2に戻る。
【0055】
特定構造物の固有振動モードを同定したならば、ステップS6に移行して、その結果を図1に示す構造物の固有振動モードデータベース6に保存する。この固有振動モードデータベース6には、全線区の鉄道構造物Kの固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が、各鉄道構造物に対応付けられてデータベースとして蓄積、保存される。
次に、ステップS7で固有振動モードの変化を検知する。これは図1に示す健全性評価システム12によって行う。すなわち、前記固有振動モード変化検知手段12bが、前記特定された鉄道構造物の固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)と、構造物振動特性記憶部12aに記憶されている、特定された構造物に対応する新設状態の鉄道構造物の正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)とを比較して、正常固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)に対して、上記のようにして同定された特定の鉄道構造物の固有振動モード(第1次〜第n次の固有振動数)が変化していた場合に、特定された鉄道構造物が変状していると判断する。ステップS7で固有振動モードの変化を検知できなかった場合は、ステップS2に戻る。
【0056】
特定された鉄道構造物において、ステップS7で固有振動モードの変化を検知した場合、ステップS8で検査員が当該特定された鉄道構造物を目視やその他の手段によって詳細に点検を実施したうえで、補修を行って、終了する(ステップS9)。
【0057】
本実施の形態によれば、軸箱に加速度計1が設けられた鉄道車両SをレールRを走行させて、加速度計1によって加速度を測定し、この測定した加速度データを、デジタル加速度データ取得手段3によって、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、これらのデジタル加速度データをランニングスペクトル算出手段4によって、FFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、固有振動モード同定手段5によって、前記時間−周波数分布において、鉄道車両Sが鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を鉄道構造物Kの固有振動数と決定するので、鉄道構造物Kに加速度計を設置することなく、鉄道構造物Kの振動特性(固有振動モード(固有振動数))、を容易かつ確実に同定できる。
また、これらの加速度データを、鉄道構造物の健全度評価、列車の速度向上時の検討、鉄道構造物騒音や地盤振動の評価に活用することができる。
【0058】
また、走行位置検知システム7と、構造物距離程データベース11とを備え、走行位置検知システム7が、走行中の鉄道車両Sの位置に基づいて、構造物距離程データベース11を検索して、前記鉄道車両が走行している位置に存在し、かつ固有振動モード同定手段5で固有振動数が同定された鉄道構造物(名)を特定するので、固有振動モード同定手段5によって同定された固有振動モード(固有振動数)がどの鉄道構造物に対応するのかを容易に知ることができる。
【0059】
さらに、固有振動モード変化検知手段12bは、走行位置検知システム7によって特定された鉄道構造物の固有振動モード同定手段5によって同定された固有振動モードと、構造物振動特性記憶部12aに記憶されている前記特定された鉄道構造物の新設状態の正常固有振動モードとを比較して、この正常固有振動モードに対して、同定された前記固有振動モードが変化していた場合に、鉄道構造物が変状していると判断するので、その後、特定の鉄道構造物の点検、補修を速やかに行うことができる。
【0060】
また、営業線を利用しているので、時々刻々と変化する鉄道構造物の振動特性を時間的に連続にデータ収集することができ、鉄道構造物に異常や劣化が発生した場合でも振動特性の変化からそれを検知することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 加速度計
2 振動モード同定システム
3 デジタル加速度データ取得手段
4 ランニングスペクトル算出手段
5 固有振動モード同定手段
6 構造物の固有振動モードデータベース
7 走行位置検知システム
9 GPS受信機
11 構造物の距離程データベース(構造物位置データベース)
12 健全性評価システム
12a 構造物振動特性記憶部
12b 固有振動モード変化検知手段
S 鉄道車両
R レール
K 鉄道構造物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道構造物の振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定方法であって、
軸箱に加速度計が設けられた鉄道車両を前記鉄道構造物に設置されたレールを走行させて前記加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動特性同定方法において、
前記加速データをサンプリング周波数2000Hzでサンプリングし、
FFTによるスペクトル解析の際の周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔を0.1秒とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両の速度の異なる加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項5】
鉄道構造物の振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定装置であって、
鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計と、
前記鉄道車両を前記鉄道構造物に設置されたレールを走行させることによって前記加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とする振動モード同定システムとを備えたことを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記振動モード同定システムは、前記加速度計によって測定された加速度データを、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得するデジタル加速度データ取得手段と、
取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出するランニングスペクトル算出手段と、
算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両Sが前記鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とする固有振動モード同定手段とを備えていることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段は、前記加速度計によって測定された加速データをサンプリング周波数2000Hzでサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、
前記ランニングスペクトル算出手段は、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行うことを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段は、前記鉄道車両の速度の異なる加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項9】
請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段は、前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか一項に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
走行中の前記鉄道車両の位置を検知する走行位置検知システムと、
前記鉄道構造物の位置を記憶している構造物位置データベースとを備え、
前記走行位置検知システムは、走行中の前記鉄道車両の位置に基づいて、前記構造物位置データベースを検索して、前記鉄道車両が走行している位置に存在し、かつ前記振動モード同定システムで固有振動数が同定された鉄道構造物を特定することを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記鉄道構造物の健全性を評価する健全性評価システムを備え、
この健全性評価システムは、前記鉄道構造物の新設状態における振動特性を記憶する構造物振動特性記憶部と、固有振動モード変化検知手段とを備え、
この固有振動モード変化検知手段は、前記走行位置検知システムによって特定された鉄道構造物の前記固有振動モード同定手段によって同定された固有振動モードと、前記構造物振動特性記憶部に記憶されている前記特定された鉄道構造物の新設状態の正常固有振動モードとを比較して、この正常固有振動モードに対して、同定された前記固有振動モードが変化していた場合に、鉄道構造物が変状していると判断することを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項1】
鉄道構造物の振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定方法であって、
軸箱に加速度計が設けられた鉄道車両を前記鉄道構造物に設置されたレールを走行させて前記加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動特性同定方法において、
前記加速データをサンプリング周波数2000Hzでサンプリングし、
FFTによるスペクトル解析の際の周波数分析に用いる継続時間を0.2秒、ランニングスペクトル間隔を0.1秒とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両の速度の異なる加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の鉄道構造物の振動特性同定方法において、
前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、
算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定方法。
【請求項5】
鉄道構造物の振動特性を同定する鉄道構造物の振動特性同定装置であって、
鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計と、
前記鉄道車両を前記鉄道構造物に設置されたレールを走行させることによって前記加速度計によって測定された加速度データに、FFTによるスペクトル解析を施すことによって、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出し、算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両が前記鉄道構造物上のレールを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とする振動モード同定システムとを備えたことを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記振動モード同定システムは、前記加速度計によって測定された加速度データを、所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル加速度データを取得するデジタル加速度データ取得手段と、
取得した前記デジタル加速度データをFFT解析して、加速度の時間−周波数分布(ランニングスペクトル)を算出するランニングスペクトル算出手段と、
算出した前記時間−周波数分布において、前記鉄道車両Sが前記鉄道構造物K上のレールRを走行している時間における卓越振動数のうち、外乱の影響による卓越振動数以外の卓越振動数を前記鉄道構造物Kの固有振動数とする固有振動モード同定手段とを備えていることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段は、前記加速度計によって測定された加速データをサンプリング周波数2000Hzでサンプリングして、デジタル加速度データを取得し、
前記ランニングスペクトル算出手段は、継続時間0.2秒ごとのデジタル加速度データにFFT解析をランニングスペクトル間隔0.1秒ごとに行うことを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段は、前記鉄道車両の速度の異なる加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記鉄道車両の速度に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項9】
請求項6または7に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記デジタル加速度データ取得手段は、前記鉄道車両内の異なる輪軸の軸箱に設けられた加速度計や、車輪削正履歴の異なる鉄道車両の軸箱に設けられた加速度計によって測定された加速度データに基づいてデジタル加速度データを取得し、
前記固有振動モード同定手段は、算出された加速度の時間−周波数分布において、前記輪軸や車輪削正履歴に依存して変化する卓越振動数を、外乱の影響による卓越振動数とし、それ以外の卓越振動数を前記鉄道構造物の固有振動数とすることを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか一項に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
走行中の前記鉄道車両の位置を検知する走行位置検知システムと、
前記鉄道構造物の位置を記憶している構造物位置データベースとを備え、
前記走行位置検知システムは、走行中の前記鉄道車両の位置に基づいて、前記構造物位置データベースを検索して、前記鉄道車両が走行している位置に存在し、かつ前記振動モード同定システムで固有振動数が同定された鉄道構造物を特定することを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の鉄道構造物の振動特性同定装置において、
前記鉄道構造物の健全性を評価する健全性評価システムを備え、
この健全性評価システムは、前記鉄道構造物の新設状態における振動特性を記憶する構造物振動特性記憶部と、固有振動モード変化検知手段とを備え、
この固有振動モード変化検知手段は、前記走行位置検知システムによって特定された鉄道構造物の前記固有振動モード同定手段によって同定された固有振動モードと、前記構造物振動特性記憶部に記憶されている前記特定された鉄道構造物の新設状態の正常固有振動モードとを比較して、この正常固有振動モードに対して、同定された前記固有振動モードが変化していた場合に、鉄道構造物が変状していると判断することを特徴とする鉄道構造物の振動特性同定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−208043(P2012−208043A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74749(P2011−74749)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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