説明

鉄道用および舗装用の速硬性セメント系の注入材とコンクリート

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄道用および舗装用の速硬性混合物、特にセメント、骨材、必要に応じて添加するアスファルト乳剤を主成分とする速硬性セメント系の注入材とコンクリートに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、鉄道分野では既設軌道の道床バラスト部を安定化させて保線作業の省力化を図る舗装軌道や填充道床軌道等に変更する改軌工事並びにスラブ軌道の版下てん充層を補修する工事等の填充材として、超速硬セメント、細骨材、およびアスファルト乳剤等よりなる速硬性セメント系の注入材が使用されている。また、舗装分野では道路舗装ならびに橋りょう床版の増厚施工や打換えの緊急工事、並びにガス管その他各種埋設物の埋め戻しやマンホール回りの補修工事等の舗装材料として、超速硬セメント、細骨材、粗骨材等よりなる速硬性セメント系のコンクリートが使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、鉄道用の速硬性セメント系の注入材は、適用対象が道床バラスト等の狭い空間充填のために高い流動性が要求され、多くの添加水を使用することになる。したがって、上述した構成の従来技術によれば、可撓性に富むアスファルト乳剤を混用した場合にも、水分の発散を主因とする乾燥収縮が瀝青物の有する変形追従性の限界を超え、びび割れが多発した。他方、舗装用の速硬性セメント系のコンクリートには、セメント硬化時の体積減少や余剰水の散逸に伴う乾燥収縮等が主因となり、ひび割れ発生の事例が数多く派生している。そして、上記した両系材料は、いずれもひび割れの進展と過酷な供用条件の競合等によって破損に至り、構造部材としての機能を喪失するという問題があった。
【0004】
また、両系材料は強度の面においてはそれぞれ十分な耐力を確保されていているが、弾性の面においては充分な柔らかさを具備していないため、振動や騒音の増大を招き、環境上好ましくない影響を与える等の問題があった。
本発明は、以上の問題点に鑑み、上記した速硬性セメント系の注入材とコンクリートにおいて変形能力や靱性を向上させる構成を得て、ひび割れの発生・破損を防止して、構造部材の信頼性及び長寿命化を向上させることを目的とする。
【0005】
さらに、本発明は、上記した速硬性セメント系の注入材とコンクリートにおいてクッション性を増加する構成を得て、振動や騒音を低減し、環境にやさしい構造部材を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記特性を有する速硬性セメント系の注入材とコンクリートを安価な材料により構成し、構造部材の低価格化に寄与することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、速硬性セメント系の注入材とコンクリートにゴム的性状をもたせるようにする。
さらに、本発明は、産業廃棄物を利用してこのゴム的性状を得るようにする。
すなわち、本発明における鉄道用および舗装用の速硬性セメント系の注入材は、セメントに対する重量比で、速硬性セメント1.0に対して、水0.55〜0.8、凝結遅延剤0.004、消泡剤0.001、発泡剤0.00005、アスファルト乳剤0.5、強度促進剤0.002、切断して粗面化した発泡ウレタンを主体とする廃材チップ0.05〜0.15、細骨材1.5、高性能減水剤0.02および増粘剤0.0001〜0.0002を一括混合してなることを特徴とする。
【0007】
つぎに、速硬性セメント系のコンクリートは、上記した速硬性セメント系の注入材を粗骨材の間隙内に填充してなる、または当該速硬性セメント系の注入材と粗骨材を同時混合した後、打設してなることを特徴とする材料である。
本発明の特徴と主な作用は、以下の通りである。
第1に、切断して粗面化した発泡ウレタンを主体とする廃材チップと細骨材を適量使用することである。
【0008】
まず、使用する発泡ウレタンを主体とする廃材チップは、切断して粗面化しているので、粗面化したチップ表面にセメントミルクやアスファルト乳剤等が良く付着して硬化し、一体性の高い硬化体組織を形成する。それゆえ、上記の硬化体は発泡ウレタンのゴム的性状を存分に反映することとなる。
すなわち、破壊時の歪みや靱性を格段に増大させることにより耐ひび割れ性が向上すると共に、クッション性の増加により衝撃緩和性、騒音や振動の吸収性等を顕著に改善する作用が得られた。
【0009】
また、発泡ウレタンを主体とする廃材チップを使用することは、産業廃棄物の有効利用に寄与すると共に、材料費の低減化に役立つ。
つぎに、細骨材を使用することは、混練り時において廃材の発泡ウレタンチップが凝集化する、すなわち団子状になることを制御し、その分散性を高める働きをするため、混合物の均質性を向上させると共に注入材料のコストダウンにも寄与する効果が得られた。
【0010】
第2に、本発明に記載した各構成材料のいずれに対しても相性のよいアスファルト乳剤や高分子系乳剤の1種または2種以上を、必要に応じて適量使用することである。
アスファルト乳剤と高分子系乳剤は、いずれもその使用量を増減することにより、強度発現性、撓み性、変形能力、弾性等の諸特性を広範囲に調節または選択することができる。加えて、防水性、耐凍害性、耐薬品性等の性能を著しく向上する作用が得られる。ただし、高分子系乳剤のうち、ゴムラテックスはゴム的性質の付加、樹脂エマルジョンは圧縮・曲げ・せん断等の各強度増加に対して有効であるが、いずれも高価なため、特殊な用途に限定使用することが望まれる。
【0011】
第3に、凝固遅延剤、消泡剤、発泡剤の併用と共に高性能減水剤と増粘剤を適量添加することである。
従来から、凝結遅延剤は、速硬性セメントと必要に応じて添加する短期強度促進剤とを合わせたもの(以下、単にセメント系成分と言う)が注水と同時に凝結硬化の課程、すなわち瞬結状態に入ることを制御し、施工上必要な可使時間を確保するために使用する。
【0012】
つぎに、消泡剤は、混練り時に抱き込んだ大径気泡の破泡・微細化の効果により、硬化体の組成を緻密化し均質的とするために使用する。
さらに、発泡剤は、注入材が硬化する前にセメント水和物の水酸化カルシウムと反応して水素ガスを生成し、填充空間を注入材で満杯の状態にするために使用されていきた。
【0013】
しかし、本発明で対象とする注入材に対しては、上記した凝結遅延剤、消泡剤、発泡剤の併用だけでは、可使時間の調節が不安定となり、施工不加能等のトラブルを生じ、また甚だしい材料分離を起こし実用に供することができなかった。そこで本発明においては、高性能減水剤を添加することにより、その減水作用と共に可使時間の調節が極度に安定化し、良好な施工性と填充性が得られ、均質的な硬化体を形成することが可能となった。
【0014】
さらに、増粘剤を添加することにより、混練り液の粘性が適度に保持されるため、同時混合の各材料が分離したり、沈積したりすることを制御し、ブリーディングの発生を防ぐと共に、均質性を高める等の働きが得られた。
第4に、必要に応じて短期強度促進剤を使用することである。
速硬性セメントは、低温時施工において、セメント単味では急硬性の発現が充分でない場合があって供用開始時期の延伸や破損変状を招くことがあった。
【0015】
例えば、外気温が10°C以下の条件下ではセメントの水和反応が急激に低下して所要強度が得られないので、施工の中止を余儀なくされた。
ところが、本発明においての短期強度促進剤を使用することにより、冬季施工(たとえば、5°C以上)においても急硬性が十分に発現するので、施工の実現時期を拡大化できる効果が得られた。
【0016】
第5に、上記した構成材料からなる速硬性セメント系の注入材と粗骨材を使用し、適用の対象や条件によって、以下に述べる2つの手法のいずれかを選び、コンクリートを形成することである。
手法の一つは、先詰めした粗骨材の間隙内に上記の注入材を充填し、硬化させてなるプレパックドコンクリート方式である。
【0017】
たとえば、既設軌道の道床バラストを注入材で固結して安定化する省力化軌道における道床部の築造や舗装面に対して粗骨材を先詰め・転圧したのち、粗骨材間隙に注入材を流し込んで路面を構築する工事等がこの方式に該当し、注入材の強度と共に先詰め粗骨材の噛み合わせ効果が期待できること、軌匡の改変及び軌道整正の直後、または所定径日後の、好ましい時期に注入施工することができる等の利点と共に注入工事専門の作業工程を長時間確保できるので、施工能率が向上し、施工延長が伸長すること、および保守省力性、施工性、経済性に優れる等の効果が得られた。
【0018】
手法の他の一つは、上記の注入材と粗骨材を同時混合して施工対象の空間内に打設し、硬化させてなる通常のコンクリート方式である。
たとえば、道路舗装ならびに橋りょう床版の増厚施工や打換え、舗装欠損部の空間補修、および既設軌道のバラスト撤去後の道床部築造、等の工事がこれに該当する。
【0019】
この方式では、粗骨材を施工時に一括して取り扱うため、コンクリート製造時の使用材料容積が多くなるので施工能率の低下や施工延長の短縮化を伴うこと、大型機械群の編成が必要となること、等の観点から、前記したプレパックドコンクリート方式と比較して大量施工では幾分不利となるが、少量施工には問題なく適用できるので、適用する工事対象や施工条件に応じて適宜選択することが望まれる。
【0020】
すなわち、本発明における両方式による速硬性セメント系のコンクリートは、従来コンクリートと比較し、施工性については概ね同等であること、構成材料と配合を選ぶことにより耐荷性や弾性に関して広範囲に選択できること、およびひび割れ抵抗性の向上や振動・騒音の低減化等に顕著な効果を持つこと等の優れた性能が得られる特徴がある。
【0021】
本発明の速硬性セメント系の注入材とコンクリートにおいて使用する材料を以下に示す。
速硬性セメントとは、カルシウムサルホアルミネートを主成分とするクリンカー20〜60重量%、ポルトランドセメントクリンカー20〜70重量%、II型無水石膏0.5〜30重量%、ブレーン値5000cm2 /gの炭酸リチウム0.1〜3.0重量%、クエン酸等オキシカルボン酸0.05〜2重量%から成り、前記II型無水石膏の一部は前記クリンカーの粉砕時に混合して微粉化し、残部はブレーン値3000cm2 /g以下の粗粉状態で後添加且つセメントの化学成分SO3 /AL2 3 をモル比で1.4〜1.0としたものである。
【0022】
凝結遅延剤とは、グルコン酸、酒石酸、クエン酸等のカルボン酸またはその塩、ホウ酸、ホウ酸カルシウム等のホウ酸またはその塩、およびナトリウム、カリウム、リチュウム等アルカリ金属の炭酸塩、硫酸塩、水酸化物等の1種または2種以上である。セメント系成分に対して0.1〜3重量%(外割%)を使用する。
【0023】
消泡剤とは、シリコーン系、アルコール系、脂肪酸系、アミン系、アミド系、エーテル系、金属石鹸等である。そのうち、シリコーン系が好ましくセメント系成分に対して0.03〜0.3重量%(外割%)の範囲を添加する。
発泡剤とは、金属アルミニュウム粉末に植物油、鉱物油あるいはステアリン酸等を添加して表面コーティングしたものである。フレーク状、粒径50μm以下、比表面積は大きいものが好ましく、セメント系成分に対して0.0003〜0.001重量%(外割%)の範囲を添加する。
【0024】
アスファルト乳剤とは、瀝青物例えばストレートアスファルト(針入度40/60〜200/500範囲)を主材とし、これに界面活性剤と多価金属塩を加え、さらに乳化助剤、分散剤、安定剤等を適宜使用してアスファルト微粒子を水中に分散させ乳状としたものである。
また、ストレートアスファルトにゴム、樹脂等を添加・混合して改質し、これを乳化したものを使用することができる。なお、これら乳剤中のストレートアスファルト含有量は50〜70重量%、特には55〜65重量%が好ましい。
【0025】
この時、界面活性剤にはアニオン系、ノニオン系、カチオン系のもの1種以上を乳剤中に0.4〜70重量%、好ましくは1〜5重量%含有させる。
多価金属塩にはCaCl2 、AlCl3 、FeCl3 、およびMgCl2 等の塩化物を0.04〜4重量%、好ましくは0.3〜2重量%含有させる。
通常、ノニオン系の混合用乳剤に属するものを使用する。
【0026】
アスファルト乳剤の使用量は、適用対象ごとに要求される性能が異なるので、それぞれに応じて使用量を変える。
例えば、鉄道用の速硬性セメント系注入材の場合、セメント系成分に対するアスファルト乳剤の配合割合は、填充道床軌道が50〜150重量%(外割%)、舗装軌道が100〜200重量%(外割%)である。
【0027】
ここで、アスファルト乳剤の使用量が少ない配合は、諸強度は大きいが、耐ひびわれ性、弾性が劣る傾向の硬化体を形成する。
他方、道路用の橋梁床版増厚工事、ジャンカや打ち継ぎ部の補修工事等の場合、アスファルト乳剤を全く使用せずに強度、耐久性に重点を置いた速硬性セメントコンクリートを使用する場合がある。
【0028】
つぎに、必要に応じてアスファルト乳剤と併用また単独使用する高分子乳剤とは、ゴムラテックス、水溶性高分子重合体、合成高分子重合体エマルジョン、および合成樹脂エマルジョン等である。
ここで、高分子乳剤と、アスファルト乳剤を併用する場合はポリマー入りセメント瀝青系混合物、前者を単味使用する場合はポリマーセメント混合物と称呼されるものである。
【0029】
本発明に使用する高分子乳剤は、その他の各構成材料との混合性に優れ、耐ひびわれ性や強度等の改善効果が大きい性能を有する。
例えば、SBR系ラテックス、アクリル樹脂系エマルジョンの1種以上が好ましく、通常、セメント系成分に対して10〜40重量%(外割%)の範囲を使用する。
【0030】
短期強度促進剤とは、12CaO・7Al2 3 、3CaO・3Al2 3 ・CaF、CaO・2Al2 3 、CaO・Al2 3 等である。その添加量は、速硬性セメントと短期強度促進剤とをあわせたもの(本発明ではセメント系成分と称呼)に対して5〜30重量%(内割%)を使用する。
発泡ウレタンを主体とする廃材チップとは、廃材である独立気泡の発泡ウレタンを裁断して粗面化し、チップ状にした分級回収したものである。
【0031】
例えば、1)廃車、廃マットレス、廃ソファー等を解体・選別して取り出した発泡ウレタン、2)工場廃材の発泡ウレタン、3)廃車等をシュレッダにかけた切断片から金属材を取り除き分別回収した発泡ウレタン等のいずれかを切断・粗面化し、所定寸法に分級・回収したものを使用する。その使用量は、セメント系成分に対して3〜100重量%(外割%)、好ましくは5〜50重量%(外割%)の範囲である。
【0032】
細骨材とは、川砂、海砂、山砂、砕砂等である。特に、石質が堅硬で吸水率が小さくかつ粒度が良く管理されている砕砂が好ましい。
ちなみに、鉄道用速硬セメント系注入材における細骨材の使用量は、セメント系成分に対して填充道床軌道や舗装軌道には50〜200重量%(外割%)配合すれば十分である。
【0033】
高性能減水剤とは、ナフタリンスルホン酸塩縮合物、メラニン樹脂系スルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩およびカルボン酸塩等を主成分とする凝結遅延型高性能減水剤である。通常、セメント系主成分に対して0.1〜4重量%(外割%)の範囲を添加する。
増粘剤とは、水溶性のセルローズエーテル系、アクリル系等である。その成分は、ヒドロキシプロピルメチルセルローズ、ヒドロキシエチルメチルセルローズ、シドロキシエチルセルローズ等、後者が、アクリルアミドを主体とした重合体である。その使用量は、セメント系主成分に対して0.03〜3重量%(外割%)の範囲を添加する。
【0034】
粗骨材とは、砕石、王砕、砂利、鉄鋼スラグ等である。特には、清浄、強硬、耐久的で適当な粒度をもち、細長いまたは偏平な石片、ごみ、泥、有機物等を有害量含んでいないもの。
例えば、鉄道用速硬性セメント系コンクリートの粗骨材としては、道床バラスト(砕石)の石質試験基準に規定される粒度範囲と物理的性質を満足するもの。
【0035】
舗装用速硬性セメント系コンクリートの粗骨材としては、アスファルト舗装用綱に示されている砕石の粒度と品質規格を満足するものが好ましい。砕石の粒度とその使用量は、その用途に応じて選択することが望ましい。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の実施の形態に使用した各材料の銘柄を一括して表1に示す。
【0037】
【表1】



【0038】
図1は、本発明の実施の形態の注入材の標準的な練りまぜ工程を示すフローチャートである。
まず、ミキサに液体の構成要素である水・凝結遅延剤・高性能減水剤・消泡剤を投入し(S1)、続いてセメント・短期強度促進剤を投入して(S2)30秒低速かくはんする。これに、珪砂・増粘剤を投入して(S3)20秒低速かくはんし、さらに廃材チップを投入して(S4)20秒低速かくはんする。最後に、アスファルト乳剤を投入して(S5)2分間高速かくはんし、ミキサより排出して注入剤を得る。
【0039】
以下、本発明の実施の形態の作用を実験結果に沿って説明する。
<実験1>
まず、廃材チップを混入した注入材が未だ固まらない時の性状と硬化後の物性に関する実験結果を表2に示す。表2において、配合5,6および10は本発明の実施の形態、1,2,3,4,7,8および9は比較例である。
【0040】
【表2】



【0041】
表2で明らかなように、
(1)廃材チップの混入量が多くなるに従い、所要の流動性を得るために必要な添加水量が増加し、材料分離も多くなる。また、圧縮強度と静的変形係数は小さくなる傾向があらわれる(配合1〜4)。
(2)高性能減水剤を使用しない場合は、添加水量が過多となり、材料分離が発生、強度と弾性が低下する(配合7を配合3と比較)。
(3)砂を使用しない場合は、混合不能であるが(配合8)、砂を使用することにより混合性が良好となる(配合2〜6)。
(4)増粘剤を適量添加する場合は、材料分離が皆無となって均質的な硬化体を形成し、圧縮強度の発現性も良好となる。
(配合6を配合5と比較)。
(5)低温時においては、短期強度促進剤を添加することにより、急硬化性が著しく向上する(配合10を配合9と比較)。
【0042】
すなわち、本発明による廃材チップを混入する注入材においては、高性能減水剤、砂、および増粘剤を添加することが性能向上のために不可欠である。また、低温時の施工(約5°C)では短期強度促進剤の添加が耐荷性確保のために重要である。
<実験2>
次に、廃材チップの混入量が注入材の圧縮強度、圧縮破壊ひずみ、および圧縮残留強度率に及ぼす影響を表3に示す。
【0043】
【表3】



【0044】
図2は、注入材のアスファルト乳剤/セメントを変えた場合の短期圧縮強度と静的変形係数の関係に関する実験結果を示すグラフ、図3はこの注入材とそれを用いたプレパックドコンクリートの圧縮強度および静的変形係数の関係に関する実験結果を示すグラフである。
ここで、表3は、廃材チップの混入量を増加するに従い、a)硬化体内部の空気量が多くなる。b)圧縮強度が小さくなる。他方、c)圧縮破壊時のひずみが増大する(変形能力が大)。d)圧縮残留強度率が大きくなる(靱性が向上)等を示している。
【0045】
図2は、アスファルト乳剤/セメントの増加に伴い、圧縮強度と静的変形係数が減少することを示している。
図3は、注入材とプレパックドコンクリートの圧縮強度と静的変形係数は、両材料の間に直線的な関係があり、注入材の力学的注入材とプレパックドコンクリートの性質にそのまま反映することを示している。すなわち、プレパックド方式のコンクリートおよび同時混合方式の一般コンクリートは、粗骨材を結合するマトリックスがいずれも本発明の注入材であることから得られるコンクリートの性質は、注入材と同類に属することがわかる。
【0046】
上記した表3、図2および図3から、本発明の注入材とコンクリートについて、
(1)廃材チップの混入により、変形能力や靱性を著しく改善し、耐ひびわれ性を格段に向上することができる;
(2)アスファルト乳剤/セメントを量変することにより、圧縮強度や弾性等の力学特性を広範囲に選択できるので、適用対象の所要性能に応じた配合が併用でき、適用範囲の拡大化が可能となる;
(3)注入材の力学特性は、プレパックドコンクリートにそのまま反映するので、コンクリートの性質改善に活用できる;等が確かめられた。
<実験3>
図4は、廃材チップの混入量が注入材硬化体の振動特性に及ぼす影響に関する実験結果の一部を示すグラフである。
【0047】
図4は注入材硬化体が廃材チップの混入量の増加に伴い、各温度において、
(1)共振周波数は低周波側に移行する;
(2)動的変形係数は小さくなる(弾性に富む);
(3)損失係数は低温側で大きい(この値が大きいほど粘性減衰が大、制振性が増加する);ことを示している。
【0048】
すなわち、本発明の注入材は、動的加振においてクッション性が増加することにより、衝撃の緩和や騒音・振動の吸収等の作用があらわれ、環境保全に貢献する。
【0049】
【発明の効果】
以上詳細に説明した如く、本発明によれば、速硬性セメント、細骨材、水、凝結遅延剤、消泡剤、発泡剤、切断して粗面化した発泡ウレタンを主体とする廃材チップ、高性能減水剤、増粘剤を必須成分とし、条件や要求性能に応じてアスファルト乳剤と高分子系乳剤の1種または2種以上、および短期強度促進剤を添加し、これらを一括混合して速硬性セメント系の注入材とコンクリートを構成するので、速硬性セメント系の注入材とコンクリートにゴム的性状をもたせることができる。
【0050】
これにより、速硬性セメント系の注入材とコンクリートにおいて変形能力や靱性を向上させ、加えてクッション性を増加することが可能となり、ひび割れの発生・破損を防止して、構造部材の信頼性及び長寿命化を向上させるとともに、振動や騒音を低減し、環境にやさしい構造部材を提供するという効果がある。
さらに、本発明は、廃材チップを使用しているので、産業廃棄物を利用して上記ゴム的性状を得ることができる。
【0051】
これにより、上記特性を有する速硬性セメント系の注入材とコンクリートを安価な材料により構成し、構造部材の低価格化に寄与するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の注入材の標準的な練りまぜ工程を示すフローチャートである。
【図2】本注入材のアスファルト乳剤/セメントを変えた場合の短期圧縮強度と静的変形係数の関係に関する実験結果を示すグラフである。
【図3】本注入材とそれを用いたプレパックドコンクリートの圧縮強度および静的変形係数の関係に関する実験結果を示すグラフである。
【図4】廃材チップの混入量が硬化体の振動特性に及ぼす影響に関する実験結果の一部を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントに対する重量比で、速硬性セメント1.0に対して、水0.55〜0.8、凝結遅延剤0.004、消泡剤0.001、発泡剤0.00005、アスファルト乳剤0.5、強度促進剤0.002、切断して粗面化した発泡ウレタンを主体とする廃材チップ0.05〜0.15、細骨材1.5、高性能減水剤0.02および増粘剤0.0001〜0.0002を一括混合してなることを特徴とする鉄道用および舗装用の速硬性セメント系の注入材。
【請求項2】
請求項1項記載の鉄道用および舗装用の速硬性セメント系の注入剤を、粗骨材の間隙内に充填してなることを特徴とする鉄道用および舗装用の速硬性セメント系のコンクリート。
【請求項3】
請求項1項記載の鉄道用および舗装用の速硬性セメント系の注入剤と粗骨材を同時混合した後、打設してなることを特徴とする鉄道用および舗装用の速硬性セメント系のコンクリート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第4148372号(P4148372)
【登録日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【発行日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−55480
【出願日】平成10年3月6日(1998.3.6)
【公開番号】特開平11−246252
【公開日】平成11年9月14日(1999.9.14)
【審査請求日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成9年9月 社団法人土木学会発行の「第52回年次学術講演会講演概要集第4部」第808、809、812、813、826、827頁に発表
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(390019998)東亜道路工業株式会社 (42)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【参考文献】
【文献】特開平09−227194(JP,A)
【文献】特開平05−058689(JP,A)
【文献】特開平08−183648(JP,A)
【文献】特開平09−295848(JP,A)
【文献】特開平09−227191(JP,A)
【文献】特開平03−033077(JP,A)
【文献】特開平10−088575(JP,A)