説明

鉄道設備保守検査支援システム及びプログラム

【課題】検査員の現在位置を検出するための地上設備を配置せずに、鉄道設備の検査記録の省力化を実現すること。
【解決手段】GPS装置8による現在位置の測位精度に基づいて、測位された現在位置を中心とする所定の範囲が設備検出範囲として可変に決定される。そして、当該設備検出範囲に設置位置が含まれる検査設備を対象として、検査工程に基づく検査設備の絞り込みがなされる。そして、マイク7aから入力された発話音声に該当する検査設備が、絞り込まれた検査設備に対応する音声データに基づいて音声認識処理されて特定される。そして、マイク7aから入力された発話音声が音声認識処理されて検査結果データがPDA2に入力され、特定された検査設備に対する検査結果として記録される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道設備保守検査支援システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道沿線には、土木、軌道、電力、信号通信等の膨大な設備が存在しており、これらの設備の定期的な保守検査が検査員により行われることで、鉄道の運行の安全性が確保されている。
【0003】
保守検査では、検査員が検査を行いながら検査結果を手帳に手書きで記入し、区所に戻ってからコンピュータに登録するといった方法が定着している。しかし、夜間や雨天、積雪時の検査等においては、検査員がビニール袋に手を入れながら手帳に検査結果を記入したり、検査結果を覚えておき、後でまとめて手帳に記入するといった苦労や工夫がなされている実状があり、検査記録の省力化が望まれている。
【0004】
技術分野が全く異なるプラントの保守検査に関する技術であるが、検査記録の省力化を実現する技術として、特許文献1に、音声入力による検査記録を実現するシステムが開示されている。特許文献1のシステムは、検査員が、マイクとディスプレイと送受信部とを備えた端末を携行し、マイクに入力した音声がサーバ側に通信され、検査結果が記録されていく。また、検査員の位置は、プラント施設の各所に設置されたセンサにより検出され、サーバ側に送られる。
【特許文献1】特開平8−320697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなプラント施設という限られた狭小な施設とは異なり、鉄道施設は長大であり、検査すべき鉄道設備は鉄道沿線に亘って配置されている。従って、特許文献1の技術を単純に鉄道設備の検査用に適用しようとすると、鉄道沿線に亘ってセンサという地上設備をあらゆる箇所に設置し、そのセンサとサーバとを結ぶ通信線を敷設する必要があり、その手間や費用の問題等から現実的ではない。
【0006】
また、プラント施設と違って、鉄道沿線は屋根がなく、自然環境の中に存在する。そのため、風雪にさらされる中で検査を行わなければならない。例えば積雪地帯などの冬季の寒冷地では端末の操作自体も困難である。そのため、簡易でありながら確実に操作できる仕様が要求される。
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための第1の発明は、
マイク(例えば、図1、図4のマイク7a)と、
現在位置を取得する位置取得手段(例えば、図1、図4のPDA2、GPS受信機8b;図4のCPU20;図14のステップA5)と、
各検査対象物それぞれの設置位置(例えば、図5の設置位置624)と所定の音声認識処理により当該検査対象物を識別するための辞書データとを対応づけて記憶する対象物情報記憶手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のフラッシュROM60;検査設備DB620、検査設備辞書データ651)と、
前記位置取得手段により取得された現在位置と前記対象物情報記憶手段に記憶された各検査対象物の設置位置との位置関係に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む絞り込み手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA7、A9→A33)と、
前記マイクから入力された発話音声に該当する検査対象物を前記絞り込み手段により絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理して特定する検査対象物特定手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA35〜図15のステップA45)と、
前記マイクから入力された発話音声を音声認識処理して検査結果データ(例えば、図7の検査結果データ641)を入力する検査結果入力手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図15のステップA53)と、
前記検査対象物特定手段により特定された検査対象物に対する検査結果として、前記検査結果入力手段により入力された検査結果データを記録する記録手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図15のステップA53)と、
を備えた携行型の鉄道設備保守検査支援システム(例えば、図1、図4の鉄道設備保守検査支援システム1)である。
【0009】
また、他の発明として、
マイク(例えば、図1、図4のマイク7a)が接続された携帯型のコンピュータ(例えば、図1、図4のPDA2)を、
各検査対象物それぞれの設置位置と所定の音声認識処理により当該検査対象物を識別するための辞書データとが対応づけられた対象物情報に含まれる各検査対象物の設置位置と、現在位置との位置関係に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む絞り込み手段、
前記マイクから入力された発話音声に該当する検査対象物を前記絞り込み手段により絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理して特定する検査対象物特定手段、
前記マイクから入力された発話音声を音声認識処理して検査結果データを入力する検査結果入力手段、
前記検査対象物特定手段により特定された検査対象物に対する検査結果として、前記検査結果入力手段により入力された検査結果データを記録する記録手段、
として機能させるためのプログラム(例えば、図4の設備保守検査支援プログラム610)を構成しても良い。
【0010】
この第1の発明等によれば、現在位置と、対象物情報に含まれる各検査対象物の設置位置との位置関係に基づいて、次回の検査対象物が絞り込まれ、マイクから入力された発話音声に該当する検査対象物が、絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理されて特定される。そして、マイクから入力された発話音声が音声認識処理されて検査結果データが入力され、特定された検査対象物に対する検査結果として、入力された検査データが記録される。
【0011】
例えばGPSを利用した自律測位により現在位置を取得する構成とすれば、検査員の現在位置を検出するためのセンサといった地上設備を配置する必要がなくなる。また、マイクから入力された発話音声に基づいて検査結果が記録されるため、検査員は検査結果を手入力しなくて済み、検査記録の省力化が実現される。
【0012】
また、各検査対象物の設置位置と現在位置との位置関係に基づいて絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理が行われるため、全ての辞書データに基づいて音声認識処理が行われる場合と比べて、処理負荷が軽減される。
【0013】
また、第2の発明として、第1の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
リモートスイッチ(例えば、図1、図4のリモートスイッチ6)と、
前記リモートスイッチの押下操作を検出する押下操作検出手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA15)と、
前記押下操作検出手段により検出されている際に前記マイクから入力された音声を有効として受け付ける発話音声受付制御手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA17)と、
を備え、
前記検査対象物特定手段及び前記検査結果入力手段は、前記発話音声受付制御手段により受け付けられた音声に対する音声認識処理を行う
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0014】
この第2の発明によれば、リモートスイッチの押下操作が検出されている際にマイクから入力された音声が有効として受け付けられ、当該音声に対して音声認識処理が行われる。従って、入力された音声を常時有効として受け付ける必要がなく、処理負荷が軽減される。また、検査員は、リモートスイッチの押下という簡単な操作によって音声の受け付けを指示することができ、簡易でありながら確実な操作が実現される。
【0015】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
前記位置取得手段により取得された現在位置の精度(例えば、図2のDOP値)を判定する精度判定手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA7)を更に備え、
前記絞り込み手段は、前記精度判定手段により判定された精度に応じて、絞り込み条件を可変して次回の検査対象物を絞り込む
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0016】
この第3の発明によれば、取得された現在位置の精度が判定され、当該精度に応じて絞り込み条件が可変されて、次回の検査対象物が絞り込まれる。取得された現在位置の精度が低い場合は、誤った現在位置に基づく不適切な検査対象物の絞り込みがなされ、音声認識処理が適切に行われない場合がある。
【0017】
しかし、例えば取得された現在位置の精度が低い場合は、当該現在位置から広範な範囲に含まれる検査対象物を抽出し、現在位置の精度が高い場合は、当該現在位置から狭小な範囲に含まれる検査対象物を抽出するように絞り込み条件を可変することで、検査対象物の適切な絞り込みを実現することができる。
【0018】
また、第4の発明として、第1〜第3の何れか一の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
前記絞り込み手段は、更に、直前に検査対象となった検査対象物の設置位置に基づいて、その次の検査対象物を絞り込む鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0019】
この第4の発明によれば、直前に検査対象となった検査対象物の設置位置に基づいて、その次の検査対象物が絞り込まれる。従って、例えば直前に検査対象となった検査対象物の設置位置から狭小な範囲に含まれる検査対象物を抽出するように絞り込みを行うことで、検査対象物の適切な絞り込みを実現することができる。
【0020】
また、第5の発明として、第1〜第4の何れか一の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
前記各検査対象物の検査順序(例えば、図6の検査順序633)を記憶する検査順序記憶手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のフラッシュROM60;検査工程DB630)を更に備え、
前記絞り込み手段は、更に、前記検査順序記憶手段に記憶された検査順序に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0021】
この第5の発明によれば、各検査対象物の検査順序に基づいて、次回の検査対象物が絞り込まれる。従って、例えば現在の検査順序よりも検査順序が後の検査対象物を抽出するように絞り込みを行うことで、検査対象物の適切な絞り込みを実現することができる。
【0022】
また、第6の発明として、第1〜第5の何れか一の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
前記各検査対象物の検査可能時間帯(例えば、図6の検査可能時間帯637)を記憶する検査可能時間帯記憶手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のフラッシュROM60;検査工程DB630)を更に備え、
前記絞り込み手段は、更に、前記検査可能時間帯記憶手段に記憶された検査可能時間帯に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0023】
この第6の発明によれば、各検査対象物の検査可能時間帯に基づいて、次回の検査対象物が絞り込まれる。従って、例えば現在の時刻が検査可能時間帯に含まれている検査対象物を抽出するように絞り込みを行うことで、検査対象物の適切な絞り込みを実現することができる。
【0024】
また、第7の発明として、第1〜第6の何れか一の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
前記対象物情報記憶手段は、検査対象物の設置位置としてキロ程(例えば、図5のキロ程626)を記憶し、
前記位置取得手段は、前記マイクから入力された発話音声を音声認識処理することで現在位置を示すキロ程を取得するキロ程取得手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA21)を有し、
前記絞り込み手段は、前記キロ程取得手段により取得されたキロ程と前記対象物情報記憶手段に記憶された各検査対象物のキロ程との位置関係に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む、
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0025】
この第7の発明によれば、マイクから入力された発話音声が音声認識処理されることで現在位置を示すキロ程が取得され、当該キロ程と各検査対象物のキロ程との位置関係に基づいて、次回の検査対象物が絞り込まれる。従って、取得したキロ程に近いキロ程を有する検査対象物を抽出するように絞り込みを行うことで、検査対象物の適切な絞り込みを実現することができる。
【0026】
また、第8の発明として、第7の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
現在位置を特定可能な電波である所定の外来電波を受信する受信手段(例えば、図1、図4のアンテナ8a)を備え、
前記位置取得手段は、
前記受信手段により受信された外来電波に基づいて現在位置を特定する現在位置特定手段(例えば、図1、図4のGPS受信機8b)と、
前記現在位置特定手段による特定の成否及び/又は精度に基づいて、前記キロ程取得手段を発動するか否かを判定するキロ程取得発動判定手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図14のステップA3)と、
を有し、
前記キロ程取得手段は前記キロ程取得発動判定手段により発動すると判定された場合に機能する
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0027】
この第8の発明によれば、受信した外来電波に基づく現在位置の特定の成否及び/又は精度に基づいて、キロ程を取得するか否かが判定され、取得すると判定された場合に、キロ程が取得される。従って、例えば受信した外来電波に基づく現在位置の特定に失敗した場合や、現在位置の精度が低い場合等に、キロ程を取得することが可能となる。
【0028】
また、第9の発明として、第1〜第8の何れか一の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
前記記録手段は、前記検査結果入力手段が音声認識処理の対象とした発話音声のデータ(例えば、図7の発話音声データ645)を、前記検査対象物特定手段により特定された検査対象物に対応づけて記録する検査結果音声データ記録手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図15のステップA53)を有する鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0029】
この第9の発明によれば、音声認識処理の対象とされた発話音声のデータが、特定された検査対象物に対応づけて記録される。従って、検査員は、検査対象物に対する発話内容を後で聞きなおすことができる。
【0030】
また、第10の発明として、第1〜第9の何れか一の発明の鉄道設備保守検査支援システムであって、
スピーカ(例えば、図1、図4のヘッドホン7b)と、
前記検査対象物特定手段の音声認識処理による検査対象物の特定の成否を判定する特定成否判定手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図15のステップA47)と、
を備え、
前記検査対象物特定手段は、前記特定成否判定手段により失敗と判定された場合には、発話音声の再入力を促して再度音声認識処理を行う再特定手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図15のステップA47;No→図14のステップA37〜図15のステップA45)を有するとともに、
前記特定成否判定手段による失敗判定の回数が所定回数に達した場合に、前記各検査対象を順次読み上げる音声を前記スピーカから出力制御する読み上げ制御手段(例えば、図1、図4のPDA2;図4のCPU20;図15のステップA73;Yes→図16のステップA79、A81→A95、A81、ステップA103、A105→A111、A105)と、
前記読み上げ制御手段により順次読み上げられる検査対象物が次回の検査対象物であるか否かを順次入力する成否入力手段(例えば、図1、図4のマイク7a、リモートスイッチ6)と、
を有し、前記特定成否判定手段による失敗判定の回数が所定回数に達した場合には前記成否入力手段の入力に基づいて次回の検査対象物を特定する
鉄道設備保守検査支援システムを構成しても良い。
【0031】
この第10の発明によれば、音声認識処理による検査対象物の特定の成否が判定され、失敗と判定された場合は、発話音声の再入力を促して再度音声認識処理が行われる。また、失敗判定の回数が所定回数に達した場合に、各検査対象物を順次読み上げる音声がスピーカから出力制御され、順次読み上げられる検査対象物が次回の検査対象物であるか否かが、成否入力手段により順次入力される。そして、失敗判定の回数が所定回数に達した場合は、成否入力手段の入力に基づいて次回の検査対象物が特定される。
【0032】
従って、検査対象物の音声認識を適切に行うことができない場合であっても、検査対象物を順次読み上げていき、その都度「はい」、「いいえ」といった判断の入力を検査員に促すことで、検査対象物の特定を確実に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、現在位置と、対象物情報に含まれる各検査対象物の設置位置との位置関係に基づいて、次回の検査対象物が絞り込まれ、マイクから入力された発話音声に該当する検査対象物が、絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理されて特定される。そして、マイクから入力された発話音声が音声認識処理されて検査結果データが入力され、特定された検査対象物に対する検査結果として、入力された検査データが記録される。
【0034】
例えばGPSを利用した自律測位により現在位置を取得する構成とすれば、検査員の現在位置を検出するためのセンサといった地上設備を配置する必要がなくなる。また、マイクから入力された発話音声に基づいて検査結果が記録されるため、検査員は検査結果を手入力しなくて済み、検査記録の省力化が実現される。
【0035】
また、各検査対象物の設置位置と現在位置との位置関係に基づいて絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理が行われるため、全ての辞書データに基づいて音声認識処理が行われる場合と比べて、処理負荷が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
1.システム構成
図1は、本実施形態における鉄道設備保守検査支援システム1の概略構成を示す図である。鉄道設備保守検査支援システム1は、コンピュータ装置本体であるPDA(Personal Digital Assistants)2と、リモートスイッチ6と、ヘッドセットマイク7と、GPS(Global Positioning System)装置8とを備えて構成されている。
【0037】
PDA2は、検査員が設備の検査結果等のデータを入力・記録するための携帯情報端末であり、操作キー3と、タッチパネル4a及びディスプレイ4bが一体的に構成されたタッチスクリーン4と、無線通信装置5とを備えて構成されている。
【0038】
リモートスイッチ6は、検査員が、PDA2に音声入力の受付を指示したり、PDA2から出力される音声ガイダンスに対する判断・返答を行う場合等に押下するボタンスイッチであり、ケーブルによってPDA2に接続されている。
【0039】
ヘッドセットマイク7は、検査員がPDA2に音声入力を行うためのマイク7aと、PDA2からの音声ガイダンスが出力されるヘッドホン7bとが一体的に構成されたものであり、ケーブルによってPDA2に接続されている。
【0040】
GPS装置8は、GPS衛星から送信されるGPS信号(電波)を受信するためのアンテナ8aと、アンテナ8aで受信されたGPS信号に基づいて、地球基準座標系における現在位置を測位する回路部でなるGPS受信機8bとが一体的に構成されたものであり、ケーブルによってPDA2に接続されている。
【0041】
ここで、GPS衛星は、6つの周回軌道面それぞれに4機ずつ配置されており、地球上のどこからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている。GPS装置8は、観測可能な衛星の中から選択した4つの衛星のGPS信号に基づいて測位計算を行う。
【0042】
通常、設備の保守検査においては、検査員は両手を使用して作業を行う場合が多く、PDA2に検査結果を手入力する場合は、作業を一時中断する必要がある。また、冬季の寒冷地等における保守検査では、検査員は厚手の手袋をして作業を行うため、PDA2に検査結果を手入力することが困難であるという実状がある。
【0043】
そこで、検査員は、例えばPDA2を作業服の胸ポケットに収納し、ヘッドセットマイク7を装着した上に、頭頂部にGPS装置8が配設されたヘルメットを装着する。そして、ヘッドホン7bを通じてPDA2から出力される音声ガイダンスに従ってマイク7aに発話を行うことで、ハンズフリーにPDA2にデータを音声入力する。寒冷地においては、PDA2を外部に晒しておくとバッテリを急激に消費するという問題があるが、PDA2を作業服内に収納しておくことで、この問題も解消される。
【0044】
また、検査員は、リモートスイッチ6を片手に持ち、リモートスイッチ6を押下しながら発話を行う。即ち、PDA2は、リモートスイッチ6の押下を検知している場合に限り、マイク7aから入力された音声を有効として受け付ける。従って、入力された音声を常時有効として受け付ける必要がなく、処理負荷が軽減される。また、検査員は、厚手の手袋をしていたり、寒さで手が悴んでいたとしても、リモートスイッチ6の押下という簡単な操作によって音声の受け付けを指示することができ、簡易でありながら確実な操作が実現される。
【0045】
また、ヘルメットの頭頂部にはGPS装置8が配設されている。GPS装置8をPDA2に内蔵した場合、PDA2が作業服に収納されることで、アンテナ8aがGPS信号の受信を良好に行うことができなくなるおそれがある。しかし、GPS装置8をPDA2と別体とし、天空に開けたヘルメットの頭頂部に配設することで、この問題が解消される。また、GPS装置8を設けたヘルメットを検査専用ヘルメットとすることで、必ずヘルメットを着用することにもなる。
【0046】
2.原理
次に、原理について説明する。
本実施形態では、検査員による検査対象となる設備(以下、「検査設備」と呼ぶ。)が上下の路線に複数存在しており、検査員は、事前に定められた検査工程に従って検査設備の保守検査を行うこととして説明する。
【0047】
検査員は、各検査設備において所定の項目の検査を行い、その測定値等の検査結果をPDA2に音声入力することで記録していく。具体的には、検査員は、先ず検査設備に割り当てられている識別情報である「設備ID」をPDA2に音声入力する。そして、PDA2により設備IDが認識されると、検査員は、検査項目をPDA2に音声入力し、続けて当該検査項目の検査結果をPDA2に音声入力する。
【0048】
PDA2は、音声認識用の辞書として、検査設備を認識するための辞書である「検査設備辞書」と、キロ程を認識するための辞書である「キロ程辞書」と、「はい」、「いいえ」といった検査員の判断を認識するための辞書である「判断辞書」と、検査項目を認識するための辞書である「検査項目辞書」と、検査結果を認識するための辞書である「検査結果辞書」とを記憶している。
【0049】
PDA2は、音声認識における演算処理の対象とする辞書(以下、「音声認識対象辞書」と呼ぶ。)を切り替えながら音声認識を行う。例えば、検査員が設備IDを音声入力する段階においては、検査設備辞書を音声認識対象辞書に設定し、検査員が検査結果を音声入力する段階においては、検査結果辞書及び判断辞書を音声認識対象辞書に設定する。このように音声認識対象辞書を検査段階に応じて切り替えることで、音声認識対象の辞書を絞り込み、音声認識の高速化を実現する。
【0050】
また、PDA2は、検査設備辞書を音声認識辞書に設定している場合に、検査設備辞書に記憶されている語彙の中から、音声認識における演算処理の対象とする語彙(以下、「音声認識対象語彙」と呼ぶ。)を設定し、当該音声認識対象語彙に基づいて音声認識を行う。以下、音声認識対象語彙の設定方法について詳細に説明する。
【0051】
先ず、PDA2は、検査設備を検出する範囲(以下、「設備検出範囲」と呼ぶ。)を決定する。設備検出範囲は、GPS装置8による測位が可能である場合と不可能である場合とで、異なる方法によって設定する。
【0052】
GPS装置8による測位が可能である場合、即ち4つのGPS衛星からGPS信号を受信することができる場合は、PDA2は、当該4つのGPS衛星の天空配置に基づいてDOP(Dilution of Precision)の値を算出し、算出したDOP値と、GPS装置8の測位計算により求められた位置(以下、「測位位置」と呼ぶ。)とに基づいて、設備検出範囲を決定する。
【0053】
ここで、DOP値とは、GPS衛星の天空配置に基づく測位精度の尺度であり、DOP値が小さいほど、測位精度が高いことを意味する。尚、DOPには、HDOP、VDOP、PDOP、GDOPといった複数の種類が存在するが、本実施形態ではこれらを包括的に「DOP」と呼ぶ。
【0054】
図2を参照して具体的に説明すると、GPS装置8から見て、測位計算に用いるGPS衛星が天空で均等に分散している場合は、測位精度が高く、DOP値は小さくなる(図2(a))。一方、GPS衛星が天空で偏在している場合は、測位精度が低く、DOP値は大きくなる(図2(b))。
【0055】
DOP値が小さい場合は、測位精度が高いことから、測位位置はGPS装置8の真の位置に近いものである可能性が高い。一方、DOP値が大きい場合は、測位精度が低いことから、測位位置はGPS装置8の真の位置からずれている可能性が高い。従って、DOP値が小さい場合は、測位位置から狭小の範囲を設備検出範囲とし、DOP値が大きい場合は、測位位置から広範な範囲を設備検出範囲とする。
【0056】
図3を参照して具体的に説明すると、測位位置を「P」とした場合に、測位位置「P」を中心とする半径「DOP値×k」の円の内部を設備検出範囲とする。但し、「k」は任意の定数であり、適宜設定される値である。図3では、「56イ」、「57イ」、「58イ」、「X46」、「キ240」及び「キ241」で表される6つの検査設備が、設備検出範囲に含まれることになる。
【0057】
一方、GPS装置8による測位が不可能である場合、即ち4つのGPS衛星からGPS信号を受信することができない場合は、PDA2は、音声ガイダンス(合成音声)を出力し、検査員にキロ程を音声入力するように促す。ここで、キロ程は、例えば線路端に所定間隔で配置されているキロポストに示されており、検査員は、このキロポストに示されたキロ程をPDA2に音声入力することになる。
【0058】
そして、音声入力されたキロ程の認識に成功した場合は、PDA2は、当該キロ程に基づいて設備検出範囲を決定する。具体的には、当該キロ程で表される位置を中心とする半径「R」の円の内部を設備検出範囲とする。但し、「R」は適宜設定される値である。また、音声入力されたキロ程の認識に失敗した場合は、PDA2は、全ての検査設備を含む範囲、即ち全範囲を設備検出範囲とする。
【0059】
上述した手順で設備検出範囲を決定したら、PDA2は、設備検出範囲に含まれる検査設備を対象として、検査工程に基づく検査設備の絞り込みを行う。検査工程としては、当該検査設備を検査する順序(検査順序)、当該検査設備を検査することが可能な時間帯(検査可能時間帯)、当該検査設備が検査済みであるか否か(検査状態)等が記憶されている。
【0060】
PDA2は、設備検出範囲に含まれる検査設備のうち、直前に検査が行われた検査設備以降の検査順序であり、現在の時刻が検査可能時間帯に含まれており、且つ、まだ検査が行われていない検査設備を抽出することで、検査設備の絞り込みを行う。そして、検査設備辞書に記憶されている語彙のうち、絞り込んだ検査設備に対応する語彙を音声認識対象語彙に設定し、当該音声認識対象語彙に基づいて音声認識を行うことで、検査設備を特定する。
【0061】
3.機能構成
次に、機能構成について説明する。
図4は、鉄道保守検査支援システム1の構成を示すブロック図である。図1で説明したリモートスイッチ6、ヘッドセットマイク7及びGPS装置8についての説明は省略し、PDA2の機能構成について以下説明する。
【0062】
PDA2は、CPU(Central Processing Unit)20と、操作入力部30と、表示部40と、無線通信部50と、フラッシュROM(Read Only Memory)60と、RAM(Random Access Memory)70とを備え、各部はバス80で相互にデータ通信可能に接続されて構成されるコンピュータシステムである。
【0063】
CPU20は、フラッシュROM60に記憶されているシステムプログラム等に従って各部を統括的に制御する。また、CPU20は、フラッシュROM60に記憶されている設備保守検査支援プログラム610に従って、設備保守検査支援処理を行う。
【0064】
操作入力部30は、検査員による操作指示を受け付け、操作に応じた操作信号をCPU20に出力する入力装置である。この機能は、例えばボタンやタッチパネル等のハードウェアにより実現され、図1の操作キー3及びタッチパネル4aに対応する。
【0065】
表示部40は、CPU20から入力される表示信号に基づいて各種表示を行う表示装置である。この機能は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、ELD(Electro Luminescence Display)等のハードウェアにより実現され、図1のディスプレイ4bに対応する。
【0066】
無線通信部50は、CPU20の制御に基づいて、他のPDA2や管理サーバとの無線通信を行う通信装置である。この機能は、例えばIEEE802.11によるワイヤレスLANやBluetooth(登録商標)等の無線通信モジュールにより実現され、図1の無線通信装置5に対応する。
【0067】
フラッシュROM60は、読み書き可能な不揮発性のメモリであり、PDA2が備える各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。本実施形態では、フラッシュROM60には、CPU20により読み出され、設備保守検査支援処理(図14〜16参照)として実行される設備保守検査支援プログラム610と、検査設備DB(Data Base)620と、検査工程DB630と、検査結果DB640と、音声認識辞書DB650とが記憶されている。
【0068】
設備保守検査支援処理とは、CPU20が、検査状況に応じて音声認識対象辞書を切り替えながら、マイク7aから入力された発話音声に対して音声認識処理を行い、検査結果を記録する処理である。
【0069】
具体的には、CPU20は、GPS装置8による測位結果や、音声入力されたキロ程の情報に基づいて設備検出範囲を決定し、当該設備検出範囲に含まれる検査設備を対象として、検査工程に基づく検査設備の絞り込みを行う。そして、CPU20は、絞り込んだ検査設備に対応する語彙を音声認識対象語彙に設定し、当該音声認識対象語彙に基づいて検査設備の音声認識を行う。この設備保守検査支援処理については、フローチャートを用いて再度詳細に後述する。
【0070】
検査設備DB620は、全ての検査設備の検査設備データ621(621−1,621−2,621−3,・・・)が記憶されたDBであり、そのデータ構成例を図5に示す。各検査設備データ621には、当該検査設備の識別情報である設備ID622と、検査設備辞書データ651の当該検査設備に対応する語彙の番号623と、緯度及び経度で表される当該検査設備の設置位置624と、当該検査設備が上り/下りの何れの路線の設備であるかを示す上下識別625と、当該検査設備のキロ程626とが記憶されている。
【0071】
例えば、検査設備データ621−1の検査設備は、設備ID622が「56イ」であり、対応する検査設備辞書データ651の語彙の番号623は「A1」である。また、当該検査設備の設置位置624は、「北緯38度25分18秒」、「東経140度48分32秒」であり、上下識別625は「上り」、キロ程626は「10.3」である。
【0072】
設備保守検査支援処理において、CPU20は、4つのGPS衛星からのGPS信号の受信が可能である場合は、GPS装置8による測位結果及び算出したDOP値に基づいて設備検出範囲を決定する。そして、検査設備の設置位置624に基づいて、設備検出範囲に含まれる検査設備を特定する。
【0073】
一方、4つのGPS衛星からのGPS信号の受信が不可能である場合は、CPU20は、検査員により音声入力されたキロ程に基づいて設備検出範囲を決定する。そして、検査設備の設置位置624に基づいて、設備検出範囲に含まれる検査設備を特定する。
【0074】
検査工程DB630は、全ての検査工程の検査工程データ631(631−1,631−2,631−3,・・・)が記憶されたDBであり、そのデータ構成例を図6に示す。検査工程データ631の種類としては、例えば1週間に1回検査を行う必要がある検査設備が定められたデータや、1ヶ月に1回検査を行う必要がある検査設備が定められたデータ、1年に1回検査を行う必要がある検査設備が定められたデータ等が記憶されている。
【0075】
各検査工程データ631には、当該検査工程の識別情報である工程ID632が記憶されている。また、検査工程データ631には、当該検査工程における検査設備の検査順序633と、当該検査順序633において検査を行う検査設備の設備ID634と、当該検査設備の上下識別635と、当該検査設備のキロ程636と、当該検査設備を検査可能な時間帯である検査可能時間帯637と、当該検査設備が検査済みであるか否かを示す検査状態638とが対応付けて記憶されている。
【0076】
但し、1つの検査順序633に対して2以上の検査設備が設定されている場合がある。これは、あるキロ程における路線付近に複数の検査設備が存在しているような場合であり、どのような順序でこれらの検査設備の検査を行うかは、検査員の自由である。
【0077】
例えば、検査工程データ631−1の検査工程は、工程ID632が「P1」であり、当該検査工程では、「上り」路線の検査設備「56イ」は1番目の検査設備であり、「上り」路線の検査設備「58イ」及び「60イ」は2番目の検査設備である。また、検査設備「56イ」は「7:00〜12:00」の時間帯、検査設備「58イ」及び「60イ」は「8:00〜13:00」の時間帯にそれぞれ検査を行うことが可能であり、検査設備「56イ」は「検査済み」、検査設備「58イ」は「未検査」、検査設備「60イ」は「検査済み」の状態である。
【0078】
設備保守検査支援処理において、CPU20は、検査員の当日の検査工程に対応する検査工程データ631を参照する。そして、設定した設備検出範囲に含まれる検査設備の中から、直前に検査が行われた検査設備以降の検査順序633であり、現在の時刻が検査可能時間帯637に含まれており、且つ、検査状態638が「未」である検査設備を抽出する。そして、検査設備辞書データ651に記憶されている語彙のうち、抽出した検査設備に対応する語彙を音声認識対象語彙に設定する。
【0079】
検査結果DB640は、全ての検査設備についての検査結果データ641(641−1,641−2,641−3,・・・)が記憶されたDBであり、そのデータ構成例を図7に示す。各検査結果データ641には、検査設備の設備ID642と、当該検査設備の上下識別643とが記憶されている。
【0080】
また、検査結果データ641には、検査の項目である検査項目644と、当該検査項目644について検査員により入力された音声のデータである発話音声データ645と、当該検査項目644の今回の検査における測定値である今回測定値646と、当該検査項目644の前回の検査における測定値である前回測定値647と、当該検査項目644の測定値の適正な範囲である適正範囲648とが対応付けて記憶されている。
【0081】
例えば、検査結果データ641−1の検査結果は、「上り」路線の検査設備「56イ」の検査結果についてのデータである。また、検査項目644のうちの「トングレールの密着」についての発話音声データ645は「s1.wav」であり、今回測定値646は「0.0」、前回測定値647は「0.0」、適正範囲648は「0〜3」である。
【0082】
設備保守検査支援処理において、CPU20は、検査員に検査項目を音声入力させ、入力された音声に対して音声認識処理を行うことで、検査項目644を特定する。次いで、CPU20は、当該検査項目644についての測定値を検査員に音声入力させ、入力された音声のデータを発話音声データ645として記憶させる。また、CPU20は、発話音声データ645に対して音声認識処理を行うことで測定値を特定し、当該測定値を今回測定値646として記憶させる。
【0083】
検査結果記録処理が終了すると、CPU20は、検査結果適否判定処理として以下の処理を行う。CPU20は、検査結果記録処理において記憶させた今回測定値646が、前回測定値647から所定割合(例えば20%)以上変化しておらず、適正範囲648に含まれている場合は、検査結果が適切であると判定する。また、それ以外の場合は、検査結果が不適切であると判定し、その場で警告メッセージ等を音声出力する。
【0084】
音声認識辞書DB650は、音声認識用の辞書データが記憶されたDBであり、検査設備認識用の辞書データである検査設備辞書データ651と、キロ程認識用の辞書データであるキロ程辞書データ652と、判断認識用の辞書データである判断辞書データ653と、検査項目認識用の辞書である検査項目辞書データ654と、検査結果認識用の辞書データである検査結果辞書データ655とが記憶されている。
【0085】
RAM70は、CPU20により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。本実施形態では、RAM70には、測位データ710と、DOP値データ720と、発話音声データ730と、音声認識対象辞書データ740と、音声認識対象語彙データ750と、音声認識失敗回数データ760とが記憶される。
【0086】
図8は、測位データ710のデータ構成例を示す図である。測位データ710には、緯度及び経度で表されるGPS装置8の測位位置が記憶される。図8では、測位位置として「北緯39度54分27秒」、「東経141度18分46秒」が記憶されている。設備保守検査支援処理において、CPU20は、GPS装置8が測位計算により求めた測位位置を取得し、当該測位位置で測位データ710を更新する。
【0087】
図9は、DOP値データ720のデータ構成例を示す図である。DOP値データ720には、測位計算に用いられた4つのGPS衛星の天空配置に基づくDOP値が記憶される。図9では、DOP値として「5」が記憶されている。設備保守検査支援処理において、CPU20は、GPS装置8が測位計算に用いたGPS衛星の組合せ(より詳細には、GPS衛星の配置位置の組合せ)に基づいてDOP値を算出し、当該DOP値でDOP値データ720を更新する。
【0088】
図10は、発話音声データ730のデータ構成例を示す図である。発話音声データ730には、検査員により入力された発話音声データが記憶される。図10では、発話音声データとして「S1.wav」が記憶されている。設備保守検査支援処理において、CPU20は、リモートスイッチ6が押下されている間にマイク7aから音声が入力されると、当該音声のデータで発話音声データ730を更新する。
【0089】
図11は、音声認識対象辞書データ740のデータ構成例を示す図である。音声認識対象辞書データ740には、音声認識対象辞書に設定された辞書が記憶される。図11では、音声認識対象辞書として「検査設備辞書」が記憶されている。設備保守検査支援処理において、CPU20は、検査状況に応じて音声認識辞書を音声認識対象辞書に設定し、音声認識対象辞書データ740を更新する。
【0090】
図12は、音声認識対象語彙データ750のデータ構成例を示す図である。音声認識対象語彙データ750には、音声認識対象語彙に設定された語彙が格納される。図12では、音声認識対象語彙として「56イ」、「X46」及び「キ240」が記憶されている。設備保守検査支援処理において、CPU20は、検査工程に基づいて絞り込んだ検査設備に対応する語彙を音声認識対象語彙に設定し、音声認識対象語彙データ750を更新する。
【0091】
図13は、音声認識失敗回数データ760のデータ構成例を示す図である。音声認識失敗回数データ760には、音声認識の失敗回数が記憶される。図13では、音声認識失敗回数として「3」が記憶されている。設備保守検査支援処理において、CPU20は、音声認識処理において音声認識に失敗した場合に、音声認識失敗回数をインクリメントし、音声認識失敗回数データ760を更新する。
【0092】
4.処理の流れ
次に、処理の流れについて説明する。
図14〜16は、CPU20により設備保守検査支援プログラム610が読み出されて実行されることによりPDA2において実行される設備保守検査支援処理の流れを示すフローチャートである。
【0093】
先ず、CPU20は、音声認識失敗回数を「0」に設定し(ステップA1)、RAM70の音声認識失敗回数データ760を更新する。次いで、CPU20は、GPS装置8が4つのGPS衛星からGPS信号を受信可能であるか否かを判定し(ステップA3)、受信可能であると判定した場合は(ステップA3;Yes)、GPS装置8が測位計算により求めた測位位置を取得し(ステップA5)、RAM70の測位位置データ710を更新する。
【0094】
次いで、CPU20は、測位計算に使用された4つのGPS衛星の組合せのDOP値を算出し(ステップA7)、RAM70のDOP値データ720を更新する。そして、CPU20は、ステップA5で取得した測位位置と、ステップA7で算出したDOP値とに基づいて、設備検出範囲を決定する(ステップA9)。
【0095】
具体的には、測位位置「P」を中心とする半径「DOP値×k」の円の内部を設備検出範囲に決定する。そして、フラッシュROM60に記憶されている検査設備データ621を参照し、各検査設備の設置位置624に基づいて、設備検出範囲に含まれる検査設備を特定する。
【0096】
一方、ステップA3においてGPS信号が受信不可能であると判定した場合は(ステップA3;No)、CPU20は、キロ程辞書を音声認識対象辞書に設定し(ステップA11)、RAM70の音声認識対象辞書データ740を更新する。
【0097】
そして、CPU20は、検査員にキロ程の発話を指示する音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA13)。具体的には、「キロ程を発話して下さい」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0098】
次いで、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6が押下されたか否かを判定し(ステップA15)、押下されなかったと判定した場合は(ステップA15;No)、ステップA13に戻る。また、リモートスイッチ6が押下されたと判定した場合は(ステップA15;Yes)、CPU20は、音声入力の受け付けを行い(ステップA17)、入力された音声のデータを発話音声データとして、RAM70の発話音声データ730を更新する。
【0099】
その後、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6の押下が解除されたか否かを判定し(ステップA19)、まだ解除されていないと判定した場合は(ステップA19;No)、ステップA17に戻る。また、リモートスイッチ6の押下が解除されたと判定した場合は(ステップA19;Yes)、CPU20は、音声認識処理を行う(ステップA21)。
【0100】
次いで、CPU20は、音声認識に成功したか否かを判定する(ステップA23)。但し、ここでは音声認識の成否判定を1つのステップとして説明するが、実際には、音声認識処理により検査設備を特定することができた場合は、当該検査設備をヘッドホン7bから音声出力(復唱)し、検査員に「はい」、「いいえ」といった判断を促すことになる。
【0101】
具体的には、「はいである場合はリモートスイッチを1回、いいえである場合はリモートスイッチを2回押して下さい」といった合成音声を出力する。そして、例えば特定した検査設備が「56イ」であった場合は、「検査設備は56イですね?」といった合成音声を出力し、検査員によりリモートスイッチ6が「1回」押下された場合は「はい」、「2回」押下された場合は「いいえ」の判断がなされたものと判定する。
【0102】
そして、音声認識処理において検査設備を特定することができなかった場合(認識エラー)、又は、検査設備を復唱した際に検査員により「いいえ」の判断がなされた場合(誤認識)に、音声認識に失敗したと判定する。尚、以下の説明における音声認識の成否判定についても、これと同様とする。
【0103】
ステップA23において音声認識に成功したと判定した場合は(ステップA23;Yes)、CPU20は、キロ程に基づいて設備検出範囲を決定する(ステップA25)。具体的には、音声認識処理において特定したキロ程の位置を中心とする半径「R」の円の内部を設備検出範囲とする。そして、フラッシュROM60に記憶されている検査設備データ621を参照し、各検査設備の設置位置624に基づいて、設備検出範囲に含まれる検査設備を特定する。
【0104】
また、ステップA23において音声認識に失敗したと判定した場合は(ステップA23;No)、CPU20は、音声認識失敗回数をインクリメントして(ステップA27)、RAM70の音声認識失敗回数データ760を更新する。
【0105】
そして、CPU20は、音声認識失敗回数データ760に記憶されている音声認識失敗回数が「3回」以上であるか否かを判定し(ステップA28)、「3回」以上ではないと判定した場合は(ステップA28;No)、ヘッドホン7bから出力させるキロ程発話指示音声を、再入力指示用の音声に変更する(ステップA29)。具体的には、キロ程発話指示音声を、「もう1度キロ程を発話して下さい」といった音声に変更する。そして、CPU20は、ステップA13に戻る。
【0106】
一方、音声認識失敗回数が「3回」以上であると判定した場合は(ステップA28;Yes)、CPU20は、全ての検査設備が含まれる範囲(全範囲)を設備検出範囲に決定する(ステップA30)。
【0107】
従って、音声認識失敗回数が閾値未満である場合は、繰り返しキロ程の音声入力を受け付けるが、音声認識失敗回数が閾値以上である場合は、強制的に全範囲を設備検出範囲に決定することになる。尚、ステップA28における音声認識失敗回数の閾値「3回」はあくまでも一例である。
【0108】
ステップA9、A25、A30の何れかにおいて設備検出範囲を決定すると、CPU20は、検査設備辞書を音声認識対象辞書に設定し(ステップA31)、RAM70の音声認識対象辞書データ740を更新する。
【0109】
そして、CPU20は、設備検出範囲に含まれる検査設備を対象として、検査工程に基づく検査設備の絞り込みを行う(ステップA33)。具体的には、フラッシュROM60の検査工程DB630に記憶されている検査工程データ631のうち、当該検査員の当日の検査工程に対応する検査工程データ631を参照する。
【0110】
そして、直前に検査結果データ641を記憶させた検査設備以降の検査順序633であり、現在の時刻が検査可能時間帯637に含まれており、且つ、検査状態638が「未」である検査設備を抽出する。
【0111】
次いで、CPU20は、ステップA33で絞り込んだ検査設備に対応する検査設備辞書の語彙を音声認識対象語彙に設定し(ステップA35)、RAM70の音声認識対象語彙データ750を更新する。
【0112】
そして、CPU20は、検査員に検査設備の発話を指示する音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA37)。具体的には、「設備IDを発話して下さい」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0113】
次いで、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6が押下されたか否かを判定し(ステップA39)、押下されなかったと判定した場合は(ステップA39;No)、ステップA37に戻る。また、リモートスイッチ6が押下されたと判定した場合は(ステップA39;Yes)、CPU20は、音声入力の受け付けを行い(ステップA41)、入力された音声のデータを発話音声データとして、RAM70の発話音声データ730を更新する。
【0114】
その後、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6の押下が解除されたか否かを判定し(ステップA43)、まだ解除されていないと判定した場合は(ステップA43;No)、ステップA41に戻る。また、リモートスイッチ6の押下が解除されたと判定した場合は(ステップA43;Yes)、CPU20は、音声認識処理を行う(ステップA45)。
【0115】
次いで、CPU20は、音声認識に成功したか否かを判定し(ステップA47)、成功したと判定した場合は(ステップA47;Yes)、検査項目辞書を音声認識対象辞書に設定し(ステップA48)、RAM70の音声認識対象辞書データ740を更新する。
【0116】
そして、CPU20は、検査員に検査項目の発話を指示する音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA49)。具体的には、「検査項目を発話して下さい」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。そして、CPU20は、入力された音声に対して音声認識処理を行うことで、検査項目を特定する(ステップA50)。
【0117】
次いで、CPU20は、検査結果辞書及び判断辞書を音声認識対象辞書に設定し(ステップA51)、RAM70の音声認識対象辞書データ740を更新する。そして、CPU20は、検査員に検査結果の発話を指示する音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA52)。具体的には、「検査結果を発話して下さい」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0118】
その後、CPU20は、検査結果記録処理を行う(ステップA53)。具体的には、CPU20は、入力された音声のデータを発話音声データ645とし、ステップA50で特定した検査項目644と対応付けてフラッシュROM60の検査結果データ641に記憶させる。検査項目644と対応付けて発話音声データ645が記憶されるため、検査員は、検査が一通り終わった後に、自身の声(各検査項目644に対する発話内容)を後で聞きなおし、入力に誤りがないかの最終確認等をすることができる。
【0119】
その後、CPU20は、記憶させた発話音声データ645に対して音声認識処理を行うことで、測定値を特定する。そして、特定した測定値を今回測定値646とし、当該検査項目644と対応付けてフラッシュROM60の検査結果データ641に記憶させる。
【0120】
検査結果記録処理を終了すると、CPU20は、検査結果適否判定処理を行う(ステップA55)。具体的には、検査結果記録処理において検査結果データ641に記憶させた今回測定値646が、前回測定値647から所定割合(例えば20%)以上変化しておらず、適正範囲648に含まれている場合は、検査結果が適切であると判定する。一方、今回測定値646が、前回測定値647から所定割合(例えば20%)以上変化している場合や、適正範囲648に含まれていない場合は、検査結果が不適切であると判定する。
【0121】
そして、CPU20は、検査結果が適切であると判定した場合は(ステップA57;適切)、ステップA65へと処理を移行する。一方、検査結果が不適切であると判定した場合は(ステップA57;不適切)、CPU20は、検査員に検査結果の確認を促す音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA59)。具体的には、「検査結果に間違いはありませんか?」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0122】
次いで、CPU20は、検査員により再記録が指示されたか否かを判定する(ステップA61)。具体的には、検査員によりリモートスイッチ6が押下され、ステップA59において出力させた検査結果の確認音声に対して「いいえ」という判断が音声入力された場合に、再記録が指示されたものと判定する。
【0123】
そして、再記録が指示されたと判定した場合は(ステップA61;Yes)、CPU20は、検査結果データ641の当該検査項目644に対応付けて記憶されている発話音声データ645を消去し(ステップA63)、ステップA52に戻る。
【0124】
一方、ステップA61において再記録が指示されなかったと判定した場合は(ステップA61;No)、CPU20は、検査結果データ641を参照し、全ての検査項目644について検査結果の記録を終了したか否かを判定し(ステップA65)、まだ終了していないと判定した場合は(ステップA65;No)、ステップA48に戻る。
【0125】
一方、ステップA65において検査結果の記録が終了したと判定した場合は(ステップA65;Yes)、CPU20は、検査員に検査終了の確認を促す音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA67)。具体的には、「検査を終了しますか?」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0126】
そして、CPU20は、検査員により検査終了が指示されたか否かを判定する(ステップA69)。具体的には、検査員によりリモートスイッチ6が押下され、「はい」という判断が音声入力されたか否かを判定する。
【0127】
そして、検査終了が指示されなかったと判定した場合は(ステップA69;No)、CPU20は、ステップA1に戻り、検査終了が指示されたと判定した場合は(ステップA69;Yes)、設備保守検査支援処理を終了する。
【0128】
一方、ステップA47において音声認識に失敗したと判定した場合は(ステップA47;No)、CPU20は、音声認識失敗回数をインクリメントし(ステップA71)、RAM70の音声認識失敗回数データ760を更新する。
【0129】
そして、CPU20は、音声認識失敗回数データ760に記憶されている音声認識失敗回数が「5回」以上であるか否かを判定し(ステップA73)、「5回」以上ではないと判定した場合は(ステップA73;No)、ステップA37に戻る。
【0130】
一方、音声認識失敗回数が「5回」以上であると判定した場合は(ステップA73;Yes)、CPU20は、判断辞書を音声認識対象辞書に設定し(ステップA75)、RAM70の音声認識対象辞書データ740を更新する。尚、ステップA73における音声認識失敗回数の閾値「5回」はあくまでも一例である。
【0131】
その後、CPU20は、フラッシュROM60の検査工程データ631を参照し、検査状態638が「未」である検査設備(以下、「未検査設備」と呼ぶ。)を抽出する(ステップA77)。
【0132】
そして、CPU20は、抽出した未検査設備のうちの最初の未検査設備を選択し(ステップA79)、検査員に当該未検査設備の確認を促す音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA81)。具体的には、例えば選択した未検査設備が「58イ」であった場合は、「検査設備は58イですか?」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0133】
次いで、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6が押下されたか否かを判定し(ステップA83)、押下されなかったと判定した場合は(ステップA83;No)、ステップA81に戻る。また、リモートスイッチ6が押下されたと判定した場合は(ステップA83;Yes)、CPU20は、音声入力の受け付けを行い(ステップA85)、入力された音声のデータを発話音声データとして、RAM70の発話音声データ730を更新する。
【0134】
その後、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6の押下が解除されたか否かを判定し(ステップA87)、まだ解除されていないと判定した場合は(ステップA87;No)、ステップA85に戻る。また、リモートスイッチ6の押下が解除されたと判定した場合は(ステップA87;Yes)、CPU20は、入力された音声が「はい」であるか「いいえ」であるかを特定する音声認識処理を行う(ステップA89)。
【0135】
次いで、CPU20は、音声認識に成功したか否かを判定し(ステップA91)、成功したと判定した場合は(ステップA91;Yes)、その認識結果を判定する(ステップA93)。そして、認識結果が「はい」であると判定した場合は(ステップA93;はい)、ステップA48へと処理を移行する。
【0136】
ステップA93において認識結果が「いいえ」であると判定した場合は(ステップA93;いいえ)、CPU20は、ステップA77で抽出した未検査設備のうちの次の未検査設備を選択し(ステップA95)、ステップA81に戻る。
【0137】
また、ステップA91において音声認識に失敗したと判定した場合は(ステップA91;No)、CPU20は、音声認識失敗回数をインクリメントし(ステップA97)、RAM70の音声認識失敗回数データ760を更新する。
【0138】
そして、CPU20は、音声認識失敗回数データ760に記憶されている音声認識失敗回数が「10回」以上であるか否かを判定し(ステップA99)、「10回」以上ではないと判定した場合は(ステップA99;No)、ステップA81に戻る。
【0139】
一方、音声認識失敗回数が「10回」以上であると判定した場合は(ステップA99;Yes)、CPU20は、検査員にリモートスイッチ6を用いた判断を指示する音声を、ヘッドホン7bから出力させる(ステップA101)。
【0140】
具体的には、「はいである場合はリモートスイッチを1回、いいえである場合はリモートスイッチを2回押して下さい」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。尚、ステップA99における音声認識失敗回数の閾値「10回」はあくまでも一例である。
【0141】
そして、CPU20は、ステップA77で抽出した未検査設備のうちの最初の未検査設備を選択し(ステップA103)、検査員に当該未検査設備の確認を促す音声をヘッドホン7bから出力させる(ステップA105)。具体的には、例えば選択した未検査設備が「58イ」であった場合は、「検査設備は58イですか?」といった合成音声をヘッドホン7bから出力させる。
【0142】
次いで、CPU20は、検査員によりリモートスイッチ6が押下されたか否かを判定し(ステップA107)、押下されなかったと判定した場合は(ステップA107;No)、ステップA105に戻る。また、リモートスイッチ6が押下されたと判定した場合は(ステップA107;Yes)、CPU20は、その押下回数を判定する(ステップA109)。
【0143】
そして、押下回数が「1回」であると判定した場合は(ステップA109;1回)、CPU20は、検査員による判断が「はい」であったものと判定し、ステップA48へと処理を移行する。
【0144】
また、ステップA109において押下回数が「2回」であると判定した場合は(ステップA109;2回)、CPU20は、検査員による判断が「いいえ」であったものと判定し、ステップA77で抽出した未検査設備のうちの次の未検査設備を選択して(ステップA111)、ステップA105に戻る。
【0145】
5.作用効果
本実施形態によれば、GPS装置8による現在位置の測位精度に基づいて、測位された現在位置を中心とする所定の範囲が設備検出範囲として可変に決定される。そして、当該設備検出範囲に設置位置が含まれる検査設備を対象として、検査工程に基づく検査設備の絞り込みがなされる。そして、マイク7aから入力された発話音声に該当する検査設備が、絞り込まれた検査設備に対応する音声データに基づいて音声認識処理されて特定される。そして、マイク7aから入力された発話音声が音声認識処理されて検査結果データがPDA2に入力され、特定された検査設備に対する検査結果として記録される。
【0146】
GPSを利用した自律測位により現在位置が取得されるため、検査員の居場所を検出するためのセンサ等の地上設備を配置する必要がない。また、マイク7aから入力された発話音声に基づいて検査結果が記録されるため、検査員は検査結果を手入力しなくて済む。従って、地上設備を追加配置することなく、鉄道設備の検査記録の省力化を実現することができる。
【0147】
また、検査設備の絞り込みは、検査設備の検査順序、検査可能時間帯、検査状態といった検査工程に基づいて行われる。従って、検査対象ではない検査設備を除外して検査設備を適切に絞り込むため、音声認識に係る処理負荷が軽減されることになる。
【0148】
また、音声認識の失敗回数が所定回数に達した場合は、検査員に検査設備を音声入力させるのではなく、検査設備を順次読み上げていき、その都度「はい」、「いいえ」の判断の音声入力を検査員に促すことで、検査設備の特定を実現している。そして、それでもなお音声認識の失敗回数が増加した場合は、「はい」、「いいえ」の判断をリモートスイッチ6の押下入力により行うことにしている。従って、音声認識を適切に行うことができない場合であっても、検査設備の特定を確実に行うことが可能となる。
【0149】
6.変形例
6−1.現在位置の検出
本実施形態では、GPSを利用して現在位置を検出するものとして説明したが、他の方法で現在位置を検出することも可能である。例えば、PDA2に携帯型電話機やPHS等の通信装置を具備させ、携帯型電話機/PHSの基地局と通信を行うことで、現在位置を検出する構成としても良い。
【0150】
例えば、携帯型電話機/PHSが通信可能な基地局が1つである場合は、当該基地局の位置の通信圏内の位置が現在位置となり、携帯型電話機/PHSが通信可能な基地局が2つである場合は、三点測位で求められる位置又は2つの基地局の通信圏内の重複範囲が現在位置となる。
【0151】
従って、いくつの通信基地局と通信可能であるかに応じて位置検出の精度を判定することができるため、設備検出範囲を同様に可変に決定し、検査設備の適切な絞り込みを行うことが可能となる。
【0152】
6−2.検査設備の絞り込み
検査員が直前に検査した検査設備の位置に基づいて、その次の検査設備の絞り込みを行うことにしても良い。具体的には、検査員が直前に検査を行った検査設備の位置を中心とする所定の半径の円の内部に存在する検査設備を抽出するように絞り込みを行う。これにより、例えば検査員が直前に検査を行った検査設備の設置位置近傍の範囲に含まれる検査対象物だけを抽出するといったことが可能となるため、検査対象物の適切な絞り込みを実現することが可能となる。
【0153】
また、検査工程データ631に含まれる上下識別635に基づいて検査設備の絞り込みを行うことにしても良い。例えば、午前に上り路線の検査設備、午後に下り路線の検査設備を検査することが予め決まっているような場合がある。この場合、現在の時刻が午前であれば、上下識別635が「上り」の検査設備だけを抽出するように絞り込みを行い、現在の時刻が午後であれば、上下識別635が「下り」の検査設備だけを抽出するように絞り込みを行う。
【0154】
尚、何れの場合も、検査順序633、検査可能時間帯637、検査状態638と併せて絞り込みを行うようにすればより好適である。
【0155】
6−3.設備検出範囲の決定
本実施形態では、4つのGPS衛星からGPS信号を受信することができない場合に、検査員によるキロ程の音声入力を受け付けることとし、当該キロ程に基づいて設備検出範囲を決定するものとして説明した。換言すれば、GPSによる測位が不可能である場合に、キロ程の取得を発動することとした。
【0156】
しかし、このような構成を採るのではなく、GPSによる測位精度に基づいて、キロ程の取得を発動することにしても良い。例えば、算出したDOP値が所定の閾値以上である場合に、キロ程の取得を発動するようにする。これにより、測位精度が低い場合であっても、設備検出範囲を適切に設定することが可能となる。
【0157】
6−4.検査項目の特定
検査員により発話された検査項目を特定する際に、既に検査員により検査が行われた項目については、音声認識の対象から外すことにしても良い。具体的には、検査結果データ641を参照し、今回測定値646が記憶されていない検査項目644、即ち検査員によりまだ検査が行われていない検査項目644を特定する。そして、検査結果辞書データ654に記憶されている語彙のうち、当該検査項目644に対応する語彙を音声認識対象語彙に設定する。
【0158】
6−5.検査結果の入力判断
検査項目によっては、検査結果として入力され得る測定値が、2値や3値等の選択肢で選定可能なものがある。かかる場合は、リモートスイッチ6の押下操作によって、検査結果の入力判断を行うことにしても良い。具体的には、例えば入力され得る測定値が「0」と「1」の2値に限定されている場合は、リモートスイッチ6の押下回数が1回である場合を「0」、2回である場合を「1」として定義づけておく。
【0159】
そして、検査結果記録処理において、音声認識失敗回数が所定の閾値に達した場合に、入力の受け付けを音声入力から操作入力に切り替え、リモートスイッチ6が1回押下された場合は「0」、2回押下された場合は「1」が入力されたものと判断する。尚、測定値が3値である場合は、1回〜3回のリモートスイッチ6の押下回数に基づいて同様に入力判断を行えば良い。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】鉄道設備保守検査支援システムの概略構成を示す図。
【図2】DOP値の説明図。
【図3】設備検出範囲の説明図。
【図4】鉄道設備保守検査支援システムの機能構成を示す図。
【図5】検査設備DBのデータ構成例を示す図。
【図6】検査工程DBのデータ構成例を示す図。
【図7】設備結果DBのデータ構成例を示す図。
【図8】測位データのデータ構成例を示す図。
【図9】DOP値データのデータ構成例を示す図。
【図10】発話音声データのデータ構成例を示す図。
【図11】音声認識対象辞書データのデータ構成例を示す図。
【図12】音声認識対象語彙データのデータ構成例を示す図。
【図13】音声認識失敗回数データのデータ構成例を示す図。
【図14】設備保守検査支援処理の流れを示すフローチャート。
【図15】設備保守検査支援処理の流れを示すフローチャート。
【図16】設備保守検査支援処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0161】
1 鉄道設備保守検査支援システム
2 PDA
3 操作キー
4 タッチスクリーン
4a タッチパネル
4b ディスプレイ
5 無線通信装置
6 リモートスイッチ
7 ヘッドセットマイク
7a マイク
7b ヘッドホン
8 GPS装置
8a アンテナ
8b GPS受信機
20 CPU
30 操作入力部
40 表示部
50 無線通信部
60 フラッシュROM
610 設備保守検査支援プログラム
620 検査設備DB
630 検査工程DB
640 検査結果DB
650 音声認識辞書DB
70 RAM
710 測位データ
720 DOP値データ
730 発話音声データ
740 音声認識対象辞書データ
750 音声認識対象語彙データ
760 音声認識失敗回数データ
80 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクと、
現在位置を取得する位置取得手段と、
各検査対象物それぞれの設置位置と所定の音声認識処理により当該検査対象物を識別するための辞書データとを対応づけて記憶する対象物情報記憶手段と、
前記位置取得手段により取得された現在位置と前記対象物情報記憶手段に記憶された各検査対象物の設置位置との位置関係に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む絞り込み手段と、
前記マイクから入力された発話音声に該当する検査対象物を前記絞り込み手段により絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理して特定する検査対象物特定手段と、
前記マイクから入力された発話音声を音声認識処理して検査結果データを入力する検査結果入力手段と、
前記検査対象物特定手段により特定された検査対象物に対する検査結果として、前記検査結果入力手段により入力された検査結果データを記録する記録手段と、
を備えた携行型の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項2】
リモートスイッチと、
前記リモートスイッチの押下操作を検出する押下操作検出手段と、
前記押下操作検出手段により検出されている際に前記マイクから入力された音声を有効として受け付ける発話音声受付制御手段と、
を備え、
前記検査対象物特定手段及び前記検査結果入力手段は、前記発話音声受付制御手段により受け付けられた音声に対する音声認識処理を行う
請求項1に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項3】
前記位置取得手段により取得された現在位置の精度を判定する精度判定手段を更に備え、
前記絞り込み手段は、前記精度判定手段により判定された精度に応じて、絞り込み条件を可変して次回の検査対象物を絞り込む
請求項1又は2に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項4】
前記絞り込み手段は、更に、直前に検査対象となった検査対象物の設置位置に基づいて、その次の検査対象物を絞り込む請求項1〜3の何れか一項に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項5】
前記各検査対象物の検査順序を記憶する検査順序記憶手段を更に備え、
前記絞り込み手段は、更に、前記検査順序記憶手段に記憶された検査順序に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む
請求項1〜4の何れか一項に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項6】
前記各検査対象物の検査可能時間帯を記憶する検査可能時間帯記憶手段を更に備え、
前記絞り込み手段は、更に、前記検査可能時間帯記憶手段に記憶された検査可能時間帯に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む
請求項1〜5の何れか一項に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項7】
前記対象物情報記憶手段は、検査対象物の設置位置としてキロ程を記憶し、
前記位置取得手段は、前記マイクから入力された発話音声を音声認識処理することで現在位置を示すキロ程を取得するキロ程取得手段を有し、
前記絞り込み手段は、前記キロ程取得手段により取得されたキロ程と前記対象物情報記憶手段に記憶された各検査対象物のキロ程との位置関係に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む、
請求項1〜6の何れか一項に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項8】
現在位置を特定可能な電波である所定の外来電波を受信する受信手段を備え、
前記位置取得手段は、
前記受信手段により受信された外来電波に基づいて現在位置を特定する現在位置特定手段と、
前記現在位置特定手段による特定の成否及び/又は精度に基づいて、前記キロ程取得手段を発動するか否かを判定するキロ程取得発動判定手段と、
を有し、
前記キロ程取得手段は前記キロ程取得発動判定手段により発動すると判定された場合に機能する
請求項7に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項9】
前記記録手段は、前記検査結果入力手段が音声認識処理の対象とした発話音声のデータを、前記検査対象物特定手段により特定された検査対象物に対応づけて記録する検査結果音声データ記録手段を有する請求項1〜8の何れか一項に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項10】
スピーカと、
前記検査対象物特定手段の音声認識処理による検査対象物の特定の成否を判定する特定成否判定手段と、
を備え、
前記検査対象物特定手段は、前記特定成否判定手段により失敗と判定された場合には、発話音声の再入力を促して再度音声認識処理を行う再特定手段を有するとともに、
前記特定成否判定手段による失敗判定の回数が所定回数に達した場合に、前記各検査対象を順次読み上げる音声を前記スピーカから出力制御する読み上げ制御手段と、
前記読み上げ制御手段により順次読み上げられる検査対象物が次回の検査対象物であるか否かを順次入力する成否入力手段と、
を有し、前記特定成否判定手段による失敗判定の回数が所定回数に達した場合には前記成否入力手段の入力に基づいて次回の検査対象物を特定する
請求項1〜9の何れか一項に記載の鉄道設備保守検査支援システム。
【請求項11】
マイクが接続された携帯型のコンピュータを、
各検査対象物それぞれの設置位置と所定の音声認識処理により当該検査対象物を識別するための辞書データとが対応づけられた対象物情報に含まれる各検査対象物の設置位置と、現在位置との位置関係に基づいて、次回の検査対象物を絞り込む絞り込み手段、
前記マイクから入力された発話音声に該当する検査対象物を前記絞り込み手段により絞り込まれた検査対象物に対応する辞書データに基づいて音声認識処理して特定する検査対象物特定手段、
前記マイクから入力された発話音声を音声認識処理して検査結果データを入力する検査結果入力手段、
前記検査対象物特定手段により特定された検査対象物に対する検査結果として、前記検査結果入力手段により入力された検査結果データを記録する記録手段、
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−62733(P2008−62733A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241270(P2006−241270)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(500519987)株式会社ジェイアール総研情報システム (14)
【Fターム(参考)】