説明

鉄道車両のアンチローリング装置用軸受

【課題】軸受20連結材24の揺動範囲を広くする。
【解決手段】トーションバーの端部をリンクを介して支持する鉄道車両のアンチローリング装置用軸受20である。この軸受20はインナー部材21とアウター部材22との間に弾性材23を設けたものであり、アウター部材両側面25a,25aは平行な同一幅の円環状フラット面となっている。リンクの軸受との連結部は軸受の両側面に嵌る二叉片16a、16aとなって、その二叉片にインナー部材がその軸心の固定軸18を介して支持されている。アウター部材がインナー部材の軸心方向に揺動した際、二叉片に当接するアウター部材側面部分は、そのアウター部材側面の径方向途中から連結材の軸心に向かう傾斜面30となっている。この傾斜面30によって、連結材の揺動範囲が広くなっている(図(a)、(b))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両のアンチローリング装置、及びその装置におけるトーションバーを支持する軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のアンチローリング装置は、車体のローリング(横揺れ)が大きくならないようにする装置であり、例えば、図7に示すように、トーションバー11の両端をブラケット12によって車体13(又は台車14)に回転自在に取付けるとともに、そのトーションバー11の両端にそれぞれ一体に設けたリンク15を軸受20を介しロッド17の一端に連結し、そのロッド17の他端を軸受20aを介し台車14(又は車体13)に連結した構成である(特許文献1段落0024、図1、図2参照)。
【0003】
その軸受20として、図8(a)、(b)に示すように、円環状インナー部材21と、同じく円環状アウター部材22とを同一軸心とし、そのインナー部材21とアウター部材22との間にゴム製弾性材23を設け、アウター部材22の外周一側面にアウター部材22の径方向に延びる連結材24を一体に有したものがある。
この軸受20は、上記リンク15一端の二叉片16a、16aの間にアウター部材22がその両側面25a、25aを介して嵌るとともに、二叉片16a、16aにインナー部材21がその軸心の固定軸18を介し支持されてリンク15に連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−149304号公報
【特許文献2】特開2006−237825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記トーションバー11は、車体13のローリングに伴って屈曲したり、捩れたりするため、リンク15を介してその屈曲力等が軸受20に作用する(図8(a)、(b)の矢印方向に作用する)。また、車体13が横揺れした際、台車14と車体13の相対変位に応じた変位力が軸受20に作用する(同矢印方向に作用する)。これらの作用によって軸受20は捩れ、弾性材23がその捩れに応じて変形し、インナー部材21に対しアウター部材22が弾性材23を介して揺動する。このとき、車体13の左右動に対して図9(a)、(b)に示すように軸受20が捩れ、車体13の旋回動(曲線通過)に対して軸受20が捩れ(図6(a)、(b)参照)、その捩れ度合は前者が後者に比べて大きい。
【0006】
その捩れ時、アウター部材22の両側面25a、25aは平行な同一幅の円環状フラット面とされており、上記二叉片16a、16aに対向するそのアウター部材22の側面25aから連結材24に至る部分は、前記アウター部材22の連結材24の軸方向に平行なフラットな側面25aの端から凹弧状面26を介して連結材24に至っている。
このため、図9(a)、(b)のように、軸受20が捩れて固定軸18(二叉片16a、16a)に対し連結材24が揺動すると、上記側面25aの端縁が二叉片16a、16aに当接し、それ以上の連結材24の揺動が阻止される。この揺動阻止は、アンチローリング作用の低下を招くと共に、二叉片16a、16a等の破損に繋がる恐れがある。特に、この軸受20は弾性材23の変形によって連結材24の揺動を許容するため、金属製球面軸受に比べて、同一の外力におけるインナー部材21に対するアウター部材22の移動範囲が広くなりがちであり、設計上より前記揺動阻止が早く行われる恐れがある。
【0007】
この発明は、上記連結材24の揺動範囲を広くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、この発明は、上記連結材24が揺動した際、上記二叉片16a、16aに当接するアウター部材22の側面部分は、そのアウター部材側面25aの径方向途中から連結材軸心に向かう傾斜面としたのである。
このような傾斜面を形成すると、車体13の左右動に対して軸受20が捩れた際等において、二叉片16a、16aに当接するアウター部材側面端縁が径方向に後退していることから、すなわち、従来、上記側面25aの端縁が二叉片16a、16aに当接していた部分がカット(面取り)されたこととなり、そのカットされた分、連結材24(アウター部材22)の揺動が許容されるため、揺動角度が大きくなる(図4(a)、(b)、図6(a)、(b)参照)。
【0009】
この発明の構成としては、トーションバー11の端部をリンク15を介して支持する鉄道車両のアンチローリング装置用軸受において、円環状インナー部材21と、同じく円環状アウター部材22とを同一軸心とし、そのインナー部材21とアウター部材22との間に弾性材23を設け、アウター部材22の外周一側面にアウター部材22の径方向に延びる連結材24を一体に有したものであり、前記リンク15の一端は二叉片16a、16aとなって、その二叉片16a、16aの間にアウター部材22がその両側面を介して嵌るとともに、二叉片16a、16aにインナー部材21がその軸心の固定軸18を介して支持されており、アウター部材22が前記弾性材23を介してインナー部材21の軸心方向に揺動した際、二叉片16a、16aに対向するアウター部材22の側面から連結材24に至る部分は、そのアウター部材側面の径方向途中から連結材24の軸心に向かう傾斜面となっているとともに、アウター部材中心に対しその傾斜面と反対側のアウター部材22の側面も同じ傾斜面となっている構成を採用することができる。
【0010】
上記のように、軸受20の受ける捩れは、車体13の左右動に対するものが車体13の旋回動に対するものに比べて大きく、この構成は、その車体13の左右動によって捩れ(揺動力)を受けた際、アウター部材22がインナー部材21の軸心方向に揺動することとなるが、その揺動に伴って二叉片16a、16aに対向するアウター部材22の側面から連結材24に至る部分がその側面の径方向途中から連結材24の軸心に向かう傾斜面となっているため、従来に比べて、その傾斜面によって連結材24の大きい角度の揺動が許容される。すなわち、連結材24の揺動範囲が広くなって、アンチローリング作用の低下を招くことも少なくなり、二叉片等の破損の恐れも少なくなる。
特に、上記のように、この軸受20は弾性材23の変形によって連結材24の揺動を許容するため、アウター部材22の移動範囲が広くなりがちのため、傾斜面でその揺動範囲を広く確保することは有効である。
【0011】
この構成において、アウター部材側面の連結材24の軸心に対して左右側にもアウター部材側面の径方向途中から上記傾斜面と同様に傾斜する傾斜面を形成すれば、その左右方向の揺動においてもその揺動範囲が広くなり、さらに、アウター部材側面が全周に亘ってその側面の径方向途中から上記傾斜面と同様に傾斜する傾斜面となっておれば、アウター部材22の全周囲の方向の揺動においてその揺動範囲が広くなる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のように構成して、連結材24の揺動範囲を広くしたので、アンチローリング作用の低下を招くこともなくなり、二叉片16a、16a等の破損の恐れもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態の斜視図
【図2】(a)は同切断側面図、(b)は同正面図
【図3】(a)は同実施形態の軸受をリンクに連結した切断正面図、(b)は同切断平面図
【図4】(a)、(b)はそれぞれ同作用説明図
【図5】(a)、(b)は他の各実施形態のそれぞれ斜視図
【図6】(a)、(b)は同他の各実施形態の作用説明図
【図7】アンチローリング装置を示し、(a)は平面図、(b)は右切断側面図
【図8】(a)は従来例の切断正面図、(b)は同平面図
【図9】(a)、(b)は従来例の作用説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この実施形態も、従来と同様のアンチローリング装置に係わり、このアンチローリング装置は、台車上の幅方向左右側に対の空気ばね(図示せず)を設け、その両空気ばねに空気を適宜に給排することによって曲線路の高速走行を円滑にすると共に、乗り心地を高めた鉄道車両に組み込まれたものであり(特許文献1段落0024〜同0032、図1、図2等参照)、図7に示すように、トーションバー11の両端をブラケット12によって車体13に回転自在に取付けるとともに、そのトーションバー11の両端に平歯車等によってそれぞれ一体に設けたリンク15を軸受20を介しロッド17の一端に連結し、そのロッド17の他端を軸受20aを介し台車14に連結した構成である。
【0015】
ロッド17一端(図7(b)において上端)の軸受20は、図1〜図3に示すように、従来と同様に、剛性を有する金属製円環状(円筒状)インナー部材21と、同じく剛性を有する金属製円環状(円筒状)アウター部材22とを同一軸心とし、そのインナー部材21とアウター部材22との間にゴム製弾性材23を設けたものである。そのゴム製弾性材23は、ゴム層の間に球面形状の金属板を適宜に挿入積層し、そのゴムを加硫してインナー部材21とアウター部材22の間に接着固定されている(特許文献2段落0024〜0050参照)。
【0016】
インナー部材21の外周面及びアウター部材22の内周面はそれぞれ球面となって、アウター部材22の両側面25a、25aは平行な同一幅の円環状フラット面となっている。また、アウター部材22の外周一側面27aにアウター部材22の径方向に延びるねじ軸となった連結材24が一体に設けられて、アウター部材22はロットエンド形状となっている。その連結材24をロッド17にねじ込むことによってこの軸受20がロッド17の上端に取付けられる。
【0017】
この軸受20と上記リンク15との連結は、従来と同様に、リンク15の一端が二叉片16a、16aとなって、その二叉片16a、16aがアウター部材中心(軸受中心)22oに対しアウター部材22の外周側面(連結材24の軸心に対する外周側面)から軸受20にその両側面25a、25aを介して嵌まり、その二叉片16a、16aにインナー部材21がその軸心の固定軸18を介し支持された構成である。固定軸18はシャンクボルトからなり、段付きブッシュ19aを介在してインナー部材21の軸心孔に挿通し、その挿通端部にロックナット19をねじ込むことによって二叉片16a、16aに固定されている。
【0018】
以上の構成は従来と同様であって、この発明は、そのアウター部材22の両側面25a、25aの上下縁部に傾斜面30を形成したことを特徴とする。すなわち、図3(a)の状態から図4(a)、(b)の状態に、アウター部材22がインナー部材21の軸心方向に揺動した際、リンク15の二叉片16a、16aに対向(当接)するそのアウター部材22の側面25a、25aから連結材24に至る部分(外周一側面27a)は、そのアウター部材側面25aの径方向途中から連結材24の軸心に向かう(アウター部材外周一側面27aの幅方向内側に向かって下り傾斜する)傾斜面30となっているとともに、アウター部材中心に対しその傾斜面30と反対側のアウター部材の側面25a(外周他側面27b)も同じ傾斜面(アウター部材外周他側面27bの幅方向内側に向かって下り傾斜する傾斜面)30となっている構成を特徴とする(図2(b)参照))。
【0019】
このように、アウター部材22の側面25a、25a上下縁(外側面27a、27b)に傾斜面30、30を形成した軸受20は、アンチローリング装置の作用によって、図3(a)から図4(a)、(b)のように、リンク15に対し連結材24が揺動すると、上記傾斜面30が二叉片16a、16aに当接するまでその揺動が許容される。例えば、同じ大きさ・形状のトーションバー支持装置において、図8、図9に示す従来の軸受20にあっては、その連結材24の揺動角度θは14.5度であったのに対し、この実施形態はその揺動角度θ:16.5度と大きくなった。このことから、アンチローリング作用の低下を招くこともなくなり、二叉片16a、16a等の破損の恐れもなくなる。
【0020】
その傾斜面30の傾斜角度及びアウター部材側面25aの径方向途中に至る位置は、上記揺動範囲を広くしてこの発明の作用効果を発揮し得る限りにおいて(連結材24の望む揺動範囲において)二叉片16a、16aにアウター部材側面25aが当接しないように、実験等によって適宜に設定する。また、傾斜面30の形状は、同様に、この発明の作用効果を発揮し得る限りにおいて、直線状(Cカット)でも、凹弧状又は凸孤状(Rカット)でもよい。
【0021】
図5(a)に示すように、アウター部材側面25a、25aの連結材24の軸心に対して左右側にも上記傾斜面30と同様な径方向途中からアウター部材外周側面の幅方向内側に向かって下り傾斜する傾斜面30を形成したり、同図(b)に示すように、アウター部材側面25a、25aがその全周に亘って同径方向途中からアウター部材外周側面の幅方向内側に向かって下り傾斜する傾斜面30となっているものとしたりし得る。これらの構成であると、上記車体13の左右動に対する軸受20の捩れによる揺動のみならず、車体13の旋回動に対する軸受20の捩れによる揺動に対しても(図6(a)、(b)に示す、平面視におけるアウター部材22の左右の揺動に対しても)上記と同様な広い揺動範囲を確保できる。特に後者(図5(b))は、アウター部材22の全周囲に傾斜面30が形成されているため、アウター部材22の全周囲の方向の揺動においてその揺動範囲が広くなる。
因みに、これらの傾斜面30程度のアウター部材22の側面25aの欠如は、アウター部材22(軸受20)の剛性、機械強度には殆ど影響を与えず、アンチローリング装置の作用に支障はない。
【0022】
なお、ロッド17他端(図7(b)において下端)の軸受20aも上述の上端の軸受20と同じ構造のものを使用することができるが、上端の軸受20に比べて、下端の軸受20aは揺動範囲の制約が広い場合が多いため、傾斜面30を形成しないものとしたり、弾性材23、インナー部材21の外周面及びアウター部材22の内周面が球状(球面軸受状)ではなく、インナー部材21及びアウター部材22を軸方向同一径の円筒状とするとともに、弾性材23も同円筒状からなる従来周知のゴムブッシュとしたりし得る。
【0023】
上記実施形態は、アウター部材22の両側面25a、25aは、平行な同一幅の円環状フラット面となっているが、平行でなかったり、同一幅でなかったりしていても、そのアウター部材22(連結材24)の揺動範囲を拡げるために、上記各傾斜面30を形成することは有効であって、この発明は、そのような場合もその技術的範囲に含まれることは勿論である。
また、上記軸受20aのように、弾性材23、インナー部材21及びアウター部材22も球状(球面軸受状)ではなく、インナー部材21及びアウター部材22を円筒状とするとともに、弾性材23も円筒状からなる従来周知のゴムブッシュとした軸受であっても、上記傾斜面30を形成することによってこの発明の作用効果を発揮し得るため、その態様もこの発明の技術的範囲に含まれる。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0024】
11 トーションバー
12 ブラケット
13 車体
14 台車
15 リンク
16a リンクの二叉片
17 ロッド
18 固定軸
20 軸受
21 軸受のインナー部材
22 同アウター部材
23 同ゴム製弾性材
24 連結材
25a アウター部材の円環状側面
27a アウター部材の外周一側面
27b アウター部材の外周他側面
30 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションバー(11)の端部をリンク(15)を介して支持する鉄道車両のアンチローリング装置用軸受(20)であって、
円環状インナー部材(21)と、同じく円環状アウター部材(22)とを同一軸心とし、そのインナー部材(21)とアウター部材(22)との間に弾性材(23)を設け、アウター部材(22)の外周一側面(27a)にアウター部材(22)の径方向に延びる連結材(24)を一体に有したものであり、
上記リンク(15)の一端は二叉片(16a、16a)となって、その二叉片(16a、16a)の間に上記アウター部材(22)がその両側面(25a、25a)を介して嵌るとともに、前記二叉片(16a、16a)に前記インナー部材(21)がその軸心の固定軸(18)を介して支持されており、
上記アウター部材(22)が上記弾性材(23)を介してインナー部材(21)の軸心方向に揺動した際、上記二叉片(16a、16a)に対向する前記アウター部材(22)の側面(25a、25a)から上記連結材(24)に至る部分は、そのアウター部材側面(25a、25a)の径方向途中から連結材(24)の軸心に向かう傾斜面(30)となっているとともに、アウター部材中心(22o)に対しその傾斜面(30)と反対側のアウター部材(22)の側面(25a、25a)も前記傾斜面(30)と同じ傾斜面(30)となっていることを特徴とする鉄道車両のアンチローリング装置用軸受。
【請求項2】
上記アウター部材側面(25a、25a)の上記連結材(24)の軸心に対して左右側にもアウター部材側面(25a、25a)の径方向途中から上記傾斜面(30)と同様に傾斜する傾斜面(30)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両のアンチローリング装置用軸受。
【請求項3】
上記アウター部材側面(25a、25a)が全周に亘ってその側面(25a、25a)の径方向途中から上記傾斜面(30)と同様に傾斜する傾斜面(30)となっていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両のアンチローリング装置用軸受。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一つに記載の軸受(20)を使用したアンチローリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−78974(P2013−78974A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219166(P2011−219166)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】