説明

鉄道車両の駆動システム

【課題】車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して電力供給設備としての変電所の使用電力を平準化する鉄道車両の駆動システムを提供する。
【解決手段】列車運行管理システム44は、各き電区間における列車の運行状況(運転列車本数)を監視し、列車運行指令システム45に運転列車本数の情報を与える。各列車は回生ブレーキによる発生電力量を蓄える電力蓄積手段を備えている。列車運行指令システム45は、その情報に基づいて、各き電区間において運行されている列車に対して、蓄電量の増減目標値を指令し、地上に設備される指令情報送信装置10から車上の指令情報受信装置に対して送信される。蓄電量の目標値は各き電区間において、列車本数が多い(少い)に応じて低い(高い)目標値を指令し、最大使用電力量を平準化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の駆動システムに係り、特に、電力蓄積手段を備えていてブレーキ時の発電エネルギの蓄電を可能とし、この蓄電エネルギを再利用して駆動装置に電力を供給する鉄道車両の駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、鉄の車輪がレール面上を転がることで走行するため、走行抵抗が自動車に比べて小さいことが特徴である。特に、最近の電気鉄道車両では、ブレーキ時に主電動機を発電機として作用させることで制動力を得ると同時に、制動時に主電動機で発生する電気的エネルギを架線に戻して他車両の力行エネルギとして再利用する回生ブレーキ制御を行っている。この回生ブレーキを備える電気鉄道車両は、回生ブレーキを備えていない電気鉄道車両に比べて、約半分のエネルギ消費で走行することが可能とされており、走行抵抗が小さい鉄道車両の特徴を生かした省エネ手法といえる。
【0003】
ところで、鉄道車両で回生ブレーキが動作するとき、回生された電力を消費する相手が必要である。これまでの一般的な鉄道車両では、回生ブレーキで発電した電力を、車両に備わる集電装置を通して架線に戻し、その車両と同じ給電区間を走行する他の車両(編成車両の場合には列車、以下同じ。)の力行電力として再利用している。同じ給電区間を複数の車両が走行しているときは、一つの車両の回生ブレーキが動作するタイミングで、力行する他車両が存在する確率が高い。逆に、同じ給電区間に一つの車両のみ走行しているときは、その車両の回生ブレーキが動作しても、その給電区間にはその電力を吸収する力行車両がいない。このため、架線に戻る回生ブレーキ電流が僅少であるため、回生電力によりインバータ装置の直流電圧が大きくなる。この結果、インバータ装置の許容電圧を上回り、高電圧保護で回生ブレーキ失効が発生し、以後は回生ブレーキが動作しない。したがって、空気ブレーキだけで停車することになるので、回生ブレーキによる省エネルギ効果が得られない。
【0004】
このように、回生ブレーキ電力を架線に戻すには、同じ給電区間を走行しその電力を吸収する他の力行車両が必要であるという制限がある。しかし、回生ブレーキ電力を蓄電できる機能を設けられるのであれば、他の力行車両の存在に関わらず、回生ブレーキによる省エネルギ効果を得られる。
【0005】
蓄電装置を設ける位置は、主に地上側の給電設備に併設する場合と、車上側のインバータ装置に併設する場合が考えられる。同じ給電区間に走行する車両数が比較的多い場合、その車両全てに蓄電装置を設けるよりも、給電設備に蓄電装置を併設する方が低コストに実現できる。しかし、前述のように元々車両数が多ければ、他の力行車両で回生ブレーキ電力を吸収できる確率が高い。このため、回生ブレーキ電力を吸収する蓄電装置が必要な場面では、蓄電装置を車上側のインバータ装置に併設することを選択するケースが多くなると考えられる。
【0006】
回生電力を吸収する蓄電装置を車上側のインバータ装置に併設する例としては、特開2005−278269号公報における車両用駆動制御装置が開示されている。
【0007】
図7に回生電力を吸収する蓄電装置を車上側のインバータ装置に併設する機器構成の一例を示す。
力行時、インバータ105は、蓄電装置102から、或いは直流電源108と蓄電装置102とから受電し、モータ106を駆動する。インバータ105は、回生時は回生電力を蓄電装置102へ、或いは直流電源108と蓄電装置102とへ回生する。また、停車時や惰行時には、直流電源108で蓄電装置102を充電する、或いは蓄電装置102から直流電源108へ放電させる。蓄電装置102の充放電電流は、スイッチング素子111,112をスイッチングすることにより制御される。スイッチング素子111,112は、蓄電装置の充放電時の電流が、ある設定した電流よりも大きいとき、高いスイッチング周波数で動作し、電流が小さいときには、低いスイッチング周波数で動作する。また、蓄電装置102のみで力行・回生動作をする場合、スイッチング素子111,112のオン・オフの状態を固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−278269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉄道システムでは、車両を加速させるエネルギ、及び車両のサービス機器等を稼動させるエネルギは、変電所より架線を経由して供給され、パンタグラフのような集電手段を介して鉄道車両に取り込まれる。ある一路線を走行する車両に必要なエネルギは、複数の変電所(電力供給設備)から供給される。具体的には、路線を一定の距離(概ね5〜10km)で分割した「き電区間」を設け、それぞれのき電区間には所定の一変電所より電力が供給される。き電区間同士は電気的に遮断されており、一列車に複数の変電所から電力が供給されることはない。
【0010】
ここで、各き電区間を走行する列車は、理想的には同数であることが望ましい。これにより、各変電所からき電区間内の列車に供給する電力を平準化でき、変電所の電気的仕様を統一できるほか、ピーク電力を低減できるためより低コストな電力使用契約が可能と考えられる。
【0011】
しかし、実際には、
(1)路線内のある区間の乗車率が、ラッシュ時のみ他に比べて高くなる。
(2)区間により車両の運行数が大きく異なる。
(3)ある特定の区間に急勾配が存在する。
というように、鉄道車両の消費電力にはき電区間ごとにばらつきがあり、各変電所からき電区間内の列車に供給する電力を平準化することは難しいと考えられていた。
【0012】
蓄電装置を車上側のインバータ装置に併設すると、蓄電装置には蓄電可能容量の範囲内で電気エネルギが蓄えられるので、車両を加速させるエネルギ、及び車両のサービス機器等を稼動させるエネルギの一部を、蓄電装置に蓄えられた電気エネルギで補うことができる。これにより、変電所から供給されるエネルギの使用量を減らすことが可能となる。
【0013】
特開2005−278269号公報の車両用駆動制御装置は、回生ブレーキ電力を吸収する他の力行車両がいない場合でも、自車両に搭載した蓄電装置で回生ブレーキ電力を吸収することで省エネルギ効果を得ることが可能としたシステムであるが、蓄電装置の蓄電量を調整する機能を有しておらず、変電所の使用電力を平準化する目的で動作させることは難しい。
【0014】
本発明の目的は、車両に搭載した蓄電装置の蓄電量を車両外からの情報に基づいて調整する機能を設けることにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して、変電所の使用電力を低減することである。また、所定の路線区間を走行する列車数を検出し、その路線区間を走行する列車に搭載された蓄電装置の蓄電量をその列車数に応じて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して、路線内の各変電所の使用電力を平準化することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明の鉄道車両の駆動システムでは、電力を供給する電力供給手段と、当該電力供給手段から送られる電力を集電手段で取り込んで走行するとともに電力を蓄える電力蓄積手段を備えた鉄道車両と、地上側に設置されており所定の線路区間毎に列車運行を管理し指令をする運行管理・指令手段とを備えた鉄道車両の駆動システムであって、前記運行管理・指令手段は、前記鉄道車両の外部からの情報に基づいて、当該所定の線路区間を走行するときの前記鉄道車両の前記電力蓄積手段が蓄積すべき電力の目標値を指令し、当該目標値の指令を受けた前記鉄道車両は前記電力蓄積手段における電力蓄積を前記目標値に基づいて制御することを特徴としている。
【0016】
本鉄道車両の駆動システムにおいて、前記運行管理・指令手段は、前記目標値を指令する際に基づく情報として、前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両の本数を含む情報を用いることが好ましい。
【0017】
本鉄道車両の駆動システムにおいては、車両に搭載した蓄電装置の蓄電量を車両外からの情報に基づいて調整する機能を設けることにより、変電所から車両に供給される電力の一部が補足され、変電所の使用電力が低減される。また、所定の路線区間を走行する列車数を検出し、その路線区間を走行する列車に搭載された蓄電装置の蓄電量をその列車数に応じて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部が補足され、路線内の各変電所の使用電力が低減される。
【0018】
本鉄道車両の駆動システムにおいては、前記運行管理・指令手段は、前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両の本数に応じて指令すべき前記電力蓄積手段の前記目標値を、前記電力蓄積手段の前記目標値に応じて充電又は放電すべき電力量と前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両の消費電力量との合計が前記所定の線路区間における前記電力供給手段の供給電力に対して平準化されるように、定めることができる。また、前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両が備える前記電力蓄積手段の電力蓄積水準は、前記所定の線路区間に存在する駅の数及び/又は前記鉄道車両の本数が多いほど低い水準に設定することができ、前記鉄道車両が増加する毎に低下する前記電力蓄積手段の前記電力蓄積水準の低下量を、前記鉄道車両の本数が多くなるにしたがって少なくなるように定めることができる。
【0019】
本鉄道車両の駆動システムにおいて、各変電所からき電区間内の列車に供給する電力が少ない区間では、走行する車両の蓄電装置に積極的に蓄電するため、蓄電池の蓄電可能容量の範囲内で基準蓄電量よりも多く蓄電を許可する。また、各変電所からき電区間内の列車に供給する電力が多い区間では、走行する車両の蓄電装置に蓄えられた電力を積極的に放電して変電所からの電力を補足するため、蓄電池の蓄電を制限する。すなわち、各変電所からき電区間内の列車に供給する電力などの情報をもとに、各列車の蓄電池の蓄電容量を調整することで、変電所の使用電力を平準化する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、車両に搭載した蓄電装置の蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整する機能を設けることにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して、変電所の使用電力を低減し、さらに、所定の路線区間を走行する列車数を検出し、その区間を走行する列車に搭載された蓄電装置の蓄電量をその列車数に応じて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して、路線内の各変電所の使用電力を平準化する、鉄道車両の駆動システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の電気車の駆動システムにおける一実施形態の機器構成を示す図。
【図2】本発明の電気車の駆動システムにおける一実施形態の機器構成を示す図。
【図3】本発明の電気車の駆動システムの一実施形態における制御方式を示すブロック図。
【図4】本発明の電気車の駆動システムを複数列車で稼動させる場合の実施形態を示す図。
【図5】本発明の電気車の駆動システムを複数列車にて稼動させる場合の動作例を示す図。
【図6】本発明の電気車の駆動システムの蓄電量指令システムの処理を示すブロック図。
【図7】回生電力を吸収する蓄電装置を車上側のインバータ装置に併設する機器構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明による電気鉄道車両の駆動システムの一実施形態について、その基本構成を示す図である。車両1a,1b,1cは、列車編成を構成する車両、又はその一部である。車両1aと車両1bは車間連結器2aで連結されている。車両1bと車両1cは車間連結器2bで連結されている。車両1aは、台車4aを介して輪軸5a,5bにより、また、台車4bを介して輪軸5c,5dにより、図示していない同じ軌道のレール面上に支持されている。車両1bは、台車4cを介して輪軸5e,5fにより、また、台車4dを介して輪軸5g,5hにより、図示していない同じ軌道のレール面上に支持されている。車両1cは、台車4eを介して輪軸5i,5jにより、また、台車4fを介して輪軸5k,5lにより、図示していない同じ軌道のレール面上に支持されている。
【0023】
車両1aには、電力変換装置としてのインバータ装置6、蓄電システム7、指令情報受信装置8、情報制御手段9が搭載されている。インバータ装置6には、図示していない電力線を通して集電装置3により電力が供給される。この電力は、インバータ装置6により、可変電圧可変周波数(VVVF)の交流電力に変換され、図示していない電動機に供給して、輪軸5a,5b,5c,5dを駆動する。蓄電システム7は、蓄電された直流電力を放電して、インバータ装置6に供給可能である。蓄電システム7は、また、集電装置3により得られた電力を、インバータ装置6を介して充電可能である。
【0024】
車両1b,1cは、車両1aに搭載しているインバータ装置6、蓄電システム7、指令情報受信装置8、情報制御手段9を搭載しておらず、輪軸5e,5f,5g,5h,5i,5j,5k,5lは駆動されない付随車両として図示している。これは、一般的な車両構成に、本発明の鉄道車両の駆動システムを適用した一例であり、本発明の鉄道車両の駆動システムの構成と、車両構成の関連付け意図するものではない。
【0025】
本発明による鉄道車両の駆動システムは、列車編成を構成する車両のうち、少なくとも一両にインバータ装置6、蓄電システム7、指令情報受信装置8、情報制御手段9を搭載する。同一編成内に車両1aと同じ機器構成を持つ車両を複数連結する場合、或いは、車両1aに搭載されているインバータ装置6、蓄電システム7、指令情報受信装置8、情報制御手段9を、複数の車両に分割搭載する場合でも、本発明の目的は達成できる。
【0026】
指令情報送信装置10は、地上に設備され、指令情報受信装置8に対して、蓄電量の目標値を送信する機能を持つ。
【0027】
以上、説明したように、本鉄道車両の駆動システムの構成によると、地上の列車運転指令所等から与えられる蓄電量増減目標値は、地上に設備された指令情報送信装置10から、車上に搭載された指令情報受信装置8に伝送し、情報制御手段9を経由して蓄電システム7内の充放電制御装置20(図2参照)に入力される。充放電制御装置20は、蓄電量増減目標値が負値であるとき、車両の加速時は蓄電システム7を放電し蓄電量を減少させ、ブレーキ時は回生電力を低減することで、蓄電量の増加を抑える。また、蓄電量増減目標値が正値ときは、車両の加速時は蓄電システム7を放電させず蓄電量の減少を抑え、ブレーキ時は架線に戻せない回生電力を積極的に蓄電して、蓄電量の増加を促す。
【0028】
すなわち、本発明による鉄道車両の駆動システムによれば、車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して変電所の使用電力を低減する、鉄道車両の駆動システムを実現できる。
【0029】
図2は、本発明による鉄道車両の駆動システムにおける一実施形態の機器構成を示す図である。
【0030】
集電装置3から給電した直流電力は、フィルタリアクトル12、及びフィルタコンデンサ13aで構成するLC回路(フィルタ回路)により高周波数域の変動分が除去された後、インバータ装置14に入力される。インバータ装置14は、入力された直流電力を可変電圧可変周波数(VVVF)の3相交流電力に変換して、主電動機15a,15bを駆動する。なお、ここではインバータ装置14が駆動する主電動機が2台の場合を示しているが、インバータ装置14が駆動する主電動機の台数は限定しない。電圧センサ16aは、フィルタコンデンサ13aの両端の直流部電圧V_dcを検出する。電流センサ17a,17b,17cは、インバータ装置14と主電動機15a,15bとの間の3相交流電力線を流れる各相の電流を検出して、インバータ装置14に入力する。電流センサ17dは、蓄電装置22に入出力する電流を検出する。接地点101はこの回路の基準電位を決めている。スイッチング素子18a,18bは、集電装置3及び接地点101とインバータ装置14の間にある直流電力部のうち、高電位側と低電位側との間に直列配置する。電圧センサ16bは、蓄電装置22と平滑リアクトル21の電力線間に配置されていて、後述の蓄電装置22の端子間電圧V_btrを検出する。平滑コンデンサ13bは、蓄電装置22端子間に並列接続されていて、後述のスイッチング素子18a,18bの動作により発生する電流変動分が蓄電装置22に流入することを抑える。
【0031】
充放電制御装置20は、インバータ装置14の回生電力P_inv、電圧センサ16aの電圧検出値V_dc、電圧センサ16bが検出した蓄電装置22の端子間電圧である電圧検出値V_btr、電流センサ17dが検出した蓄電装置22に入出力する電流の電流検出値I_btr、システム統括制御装置(情報制御手段)9からのSOC目標値Target_SOC_nを入力とし、ゲートアンプ19a,19bにスイッチング素子18a,18bのオン/オフを指令するゲートパルス信号GP1,GP2を出力する。ゲートアンプ19a,19bは、ゲートパルス信号GP1,GP2を入力とし、これを基にスイッチング素子18a,18bをオン/オフ可能な電圧制御信号に変換し、スイッチング素子18a,18bをオン/オフ制御する。
【0032】
指令情報送信装置10は、地上に設備されており、車載される指令情報受信装置8に対して、蓄電量の目標値を送信する機能を持つ。地上の列車運転指令所等から与えられる蓄電量目標値は、地上に設備された指令情報送信装置10から車上に搭載された指令情報受信装置8に伝送され、情報制御手段9を経由して充放電制御装置20に入力される。
【0033】
蓄電装置22としては、回生失効時など回生電力の瞬時吸収を最優先に考えるのであれば、単位体積当たりの充放電入出力性能が高い電気二重層キャパシタ装置などの適用が考えられる。しかし、積極的に省エネルギを進めるためには、付近に力行する車両が存在しないために回生電力を架線に戻せない状況でも、自車内でエネルギを蓄電して回生ブレーキを最大限動作させ、それを力行電力の一部として活用して、運動エネルギ損失を低減することが重要である。また、鉄道車両ではシステム冗長性の確保が重要であるため、停電状態でも安全な退避箇所までの自力走行を実現する要求が考えられる。このため、単位体積あたりの蓄電能力が高いリチウムイオン電池などで構成することが妥当と言える。
【0034】
蓄電装置22の充放電制御は、スイッチング素子18a又は18bを周期的にオン/オフすることで実現する。この充放電制御において、平滑リアクトル21は、蓄電装置22に通流する電流の変化率を所定値内に抑える機能を持つ。
【0035】
ここで、スイッチング素子18bを周期的にオン/オフすることにより、蓄電装置22の電力を放電する制御について説明する。
スイッチング素子18bを所定時間Ton_bだけオンすると、蓄電装置22の出力端子間は短絡されるが、平滑リアクトル21は、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、Ton_bの期間に通流した電流と蓄電装置22の端子電圧との積を時間積分した電力エネルギを蓄える。その後、スイッチング素子18bを所定時間Toff_bだけオフすると、直流電力部側に平滑リアクトル21に蓄えられた電力エネルギは、スイッチング素子18aのダイオード部を介して、集電装置3及び接地点101とインバータ装置14の間にある直流電力部側に放出される。このとき、直流電力側で得られる電圧値V_dcは、蓄電装置22の端子電圧V_btrを基準として、スイッチング素子18bをオンする時間Ton_bとオフする時間Toff_bとの比率から次式で決定する。
[数1]
V_dc=V_btr×((Ton_b+Toff_b)/Toff_b)
【0036】
次に、スイッチング素子18aを周期的にオン/オフすることにより、蓄電装置22に電力を充電する制御について説明する。
スイッチング素子18aを所定時間Ton_aだけオンすると、集電装置3及び接地点101とインバータ装置14の間にある直流電力部の、接地点101に対する電位V_dcが、蓄電池22の端子間電圧(接地点101に対する電位)V_bcよりも高いとき(V_dc>V_bc)、直流電力部から蓄電装置22の向きに電流が流れる。このとき、平滑リアクトル21は、その電流増加率を一定値内に抑ると同時に、Ton_aの期間に通流した電流と蓄電装置22の端子電圧との積を時間積分した電力エネルギを蓄える。その後、スイッチング素子18aを所定時間Toff_aだけオフすると、直流電力部側に平滑リアクトル21に蓄えられた電力エネルギは、蓄電装置22の高電位側端子から、低電位側端子に抜け、スイッチング素子18bのダイオード部を経て、平滑リアクトル21に戻る一巡の回路が構成される。すなわち、スイッチング素子18aを所定時間Toff_aだけオフしている期間は、平滑リアクトル21に蓄えられた電力エネルギが、蓄電装置22に充電電流が流れ続け、平滑リアクトル21に蓄えられた電力エネルギが放出されるに従って充電電流は減衰していく。このとき、蓄電装置22で得られる端子間電圧値V_btrは、直流電力側V_dcを基準として、前述のスイッチング素子18aをオンする時間Ton_aとオフする時間Toff_aとの比率から次式で決定する。
[数2]
V_btr=V_dc×(Ton_a/(Ton_a+Toff_a))
【0037】
以上の構成により、電圧センサ16aの直流部電圧検出値V_dcの時間変化率dV_dc/dtを制御装置10で演算し、dV_dc/dtが所定値を超えたとき、電流センサ17dの電流検出値I_btrを、所定の充電電流指令値Ref_I_chg(図2には図示していない。図3参照)に追従するように、ゲートアンプ19a,19bの出力であるゲートパルス信号GP1,GP2を制御して、スイッチング素子18a,18bを駆動できる。
【0038】
また、インバータ装置14の回生電力P_regenと、蓄電装置22の端子間電圧V_btrより、蓄電装置22に充電可能な充電電流指令値Ref_I_dcg(図2には図示していない。図3参照)を充放電制御装置20で演算し、電流センサ17dの電流検出値I_btrを、前述の充電電流指令値Ref_I_dcgに追従するように、ゲートアンプ19a,19bの出力であるゲートパルス信号GP1,GP2を制御して、スイッチング素子18a,18bを駆動できる。
【0039】
これにより、充放電制御装置20は、地上の列車運転指令所等から指令情報送信装置10、指令情報受信装置8を経由して蓄電量増減目標値を受信し、蓄電量増減目標値が負値のときは、車両の加速時は蓄電装置22を放電し蓄電量を減少させ、ブレーキ時は回生電力を低減することで、蓄電量の増加を抑えるように制御する。また、蓄電量増減目標値が正値ときは、車両の加速時は蓄電装置22を放電させず蓄電量の減少を抑え、ブレーキ時は架線に戻せない回生電力を積極的に蓄電して、蓄電量が増加するように制御する。
すなわち、本発明によれば、車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して変電所の使用電力を低減する、鉄道車両の駆動システムを実現している。
【0040】
図3は、本発明による鉄道車両の駆動システムの一実施形態における制御方式を示すブロック図である。
【0041】
本発明による鉄道車両の駆動システムの一実施形態における充放電制御装置20では、以下の制御方式を実施する。
加算器40は、基準蓄電量Ref_SOCに、蓄電量増減目標値Target_SOC_nを加算して、蓄電量目標値Ref_SOC_2を算出する。加減算器31aは、蓄電量目標値Ref_SOC_2から、蓄電装置22の蓄電量SOCを減算して、蓄電量差分Delta_SOC_aを算出する。比較器32aは、蓄電量差分Delta_SOC_aを入力とするヒステリシス付比較器である。蓄電量差分Delta_SOC_aが0[%]よりも小さい状態から1[%]よりも大きい状態に移行した後は、充放電選択信号「Sel_chgdcg=1」を出力し、蓄電量差分Delta_SOC_aが1[%]よりも大きい状態から0[%]よりも小さい状態に移行した後は、充放電選択信号「Sel_chgdcg=0」を出力する。ここで、比較器32aの比較基準値0[%]に対するヒステリシス1[%]は、数値限定するものではなく、比較基準値0[%]と異なりそれよりも僅かに大きい数値であればよい。
【0042】
加減算器31bは、蓄電量上限値Limit_SOC_upperから、蓄電装置22の蓄電量SOCを減算して、蓄電量差分Delta_SOC_bを算出する。比較器32bは、蓄電量差分Delta_SOC_bを入力とするヒステリシス付比較器である。蓄電量差分Delta_SOC_bが0[%]よりも小さい状態から1[%]よりも大きい状態に移行した後は、充電許可信号「Per_chg=1」を出力し、蓄電量差分Delta_SOC_bが1[%]よりも大きい状態から0[%]よりも小さい状態に移行した後は充電許可信号「Per_chg=0」を出力する。ここで比較器32bの比較基準値0[%]に対するヒステリシス1[%]は、数値限定するものではなく、比較基準値0[%]と異なりそれよりも僅かに大きい数値であればよい。
【0043】
加減算器31cは、蓄電量下限値Limit_SOC_lowerから、蓄電装置22の蓄電量SOCを減算して、蓄電量差分Delta_SOC_cを算出する。比較器32cは、蓄電量差分Delta_SOC_cを入力とするヒステリシス付比較器である。蓄電量差分Delta_SOC_cが0[%]よりも大きい状態から−1[%]よりも小さい状態に移行した後は、放電許可信号「Per_dcg=1」を出力し、蓄電量差分Delta_SOC_cが−1[%]よりも小さい状態から0[%]よりも大きい状態に移行した後は充電許可信号「Per_dcg=0」を出力する。ここで、比較器32cの比較基準値0[%]に対するヒステリシス−1[%]は、数値限定するものではなく、比較基準値0[%]と異なりそれよりも僅かに小さい数値であればよい。
【0044】
論理積演算器34aは、充放電選択信号Sel_chgdcgを、論理反転器33で反転した信号と、充電許可信号Per_chgを入力として、その論理積である充電可能信号Ebl_chgを算出する。論理積演算器34bは、充放電選択信号Sel_chgdcgと、放電許可信号Per_dcgを入力として、その論理積である充電可能信号Ebl_dcgを算出する。
【0045】
論理積演算器34cは、回生ブレーキ動作指令Cmd_Regenと、充電可能信号Ebl_dcgを入力として、その論理積である充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgを算出する。論理積演算器34dは、力行動作指令Cmd_powerと、放電許可信号Per_dcgを入力として、その論理積である放電ゲートスタート指令Cmd_gst_dcgを算出する。論理和演算器35は、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgと、放電ゲートスタート指令Cmd_gst_dcgを入力として、その論理和である充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgを算出する。
【0046】
選択器36aは、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgと、フィルタコンデンサ電圧をリミットAVR制御する上での上限値であるフィルタコンデンサ電圧リミットAVR制御上限値Ref_avr_ecfと、フィルタコンデンサ電圧Ecfを入力とする。充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgが「0」(充電ゲートスタートの指令中以外)のときは上限値Ref_avr_ecfを選択して出力し、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgが「1」(充電ゲートスタートの指令中)のときはフィルタコンデンサ電圧Ecfを選択して出力する。加減算器31dは、選択器36aの出力であるリミットAVR制御の基準値Ref_avrから、フィルタコンデンサ電圧Ecfを減算して、リミットAVR制御の電圧差分値Delta_avrを算出する。安定化制御器37aは、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgと電圧差分値Delta_avrとを入力として、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgが「1」のとき、電圧差分値Delta_avrを最小化するための操作量Ref_I_chgを演算して出力する。なお、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgが「0」のときは、常に、操作量「Ref_I_chg=0」を出力する。
【0047】
選択器36bは、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgと、蓄電装置22の放電電流指令値Ref_I_dcgと、安定化制御器37aで演算された操作量Ref_I_chgを入力とする。充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgが「0」(充電ゲートスタートの指令中以外)のときは放電電流指令値Ref_I_dcgを選択して出力し、充電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgが「1」(充電ゲートスタートの指令中)のときは操作量Ref_I_chgを選択して出力する。加減算器31eは、選択器36bの出力であるACR制御の基準値Ref_acrから、蓄電池電流I_btrを減算して、ACR制御の電流差分値Delta_acrを算出する。安定化制御器37bは、充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgと、電流差分値Delta_acrを入力とする。充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgが「1」のとき、電流差分値Delta_acrを最小化するための操作量Delta_Vを演算して出力する。なお、充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgが「0」のときは、常に,操作量「Delta_V=0」を出力する。
【0048】
PWM生成器38は、充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgと、電圧操作量Delta_Vと、蓄電池電圧V_btrを入力とする。充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgが「1」のとき、電圧操作量Delta_Vと、蓄電池電圧V_btrをもとに、PWMゲートパルス信号GP1を生成する。なお、充放電ゲートスタート指令Cmd_gst_chgdcgが「0」のときは、PWMゲートパルス信号を出力しない。
【0049】
位相シフト演算器39は、PWMゲートパルス信号GP1を入力として、PWMゲートパルス信号GP1に対して、180度だけ位相を遅らせたPWMゲートパルス信号GP2を生成して出力する。
【0050】
これにより、充放電制御装置20は、地上の列車運転指令所等から本図面では図示していない指令情報送信装置10、指令情報受信装置8及び情報制御手段9を経由して蓄電量増減目標値を受信し、蓄電量増減目標値が負値のとき、車両の加速時は蓄電装置22を放電し蓄電量を減少させ、ブレーキ時は回生電力を低減することで、蓄電量の増加を抑えるように制御する。また、蓄電量増減目標値が正値のとき、車両の加速時は蓄電装置22を放電させず蓄電量の減少を抑え、ブレーキ時は架線に戻せない回生電力を積極的に蓄電して、蓄電量が増加するように制御する。
【0051】
すなわち、本発明によれば、車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して変電所の使用電力を平滑にする、鉄道車両の駆動システムを実現できる。
【0052】
図4は、本発明による鉄道車両の駆動システムを複数列車で稼動させる場合の実施形態である。
【0053】
列車46は、模式的に一車両にて示しているが、特に1両編成に限定するものではなく、複数車両が連結された一列車についても適用できる。電力発生手段41aは、電力供給手段42aを介して列車46a,46bに電力を供給する。電力発生手段41bは、電力供給手段42bを介して列車46c,46d,46e,46fに電力を供給する。電力発生手段41cは、電力供給手段42cを介して列車46g,46h,46iに電力を供給する。ここで、電力供給手段42a,42b,42cは、電気的に互いに絶縁されており、相互で電力にやり取りはしない。ここで、電力発生手段41としては、産業用の高圧交流電力を鉄道用の直流電力に変換する変電所を想定しているが、電力を一時蓄積する蓄電手段(バッテリ、キャパシタ等)や、小型の発電手段(エンジン発電機、燃料電池等)と電力変換手段に組み合わせとすることも考えられる。また、電力供給手段42としては、架線方式、第三軌条方式、第三・第四軌条方式等を適用することが考えられる。
【0054】
また、鉄道では一般的に走行用レールと車両で軌道回路を構成する。二本のレールを車両の車軸で短絡することにより、一閉塞区間内における車両の有無を把握できる。軌道回路群43a,43b,43cは、複数の軌道回路で構成され、前述の電力供給手段42a,42b,42cと同一の区間に存在する軌道回路、すなわち閉塞区間のグループとする。すなわち、電力供給手段42aと軌道回路群43aで電力管理区間(1)、電力供給手段42bと軌道回路群43bで電力管理区間(2)、電力供給手段42cと軌道回路群43cで電力管理区間(3)を構成する。
【0055】
ここでは、軌道回路群43aには列車46a,46bが在線しており、同じく軌道回路群43bには列車46c,46d,46e,46fが、軌道回路群43cには列車46g,46h,46iが在線している。列車運行管理システム44は、前述の軌道回路群43a,43b,43cから、情報収集手段48a,48b,48cを介して各閉塞区間の在線情報を収集し、各電力管理区間における在線本数Num_train_1、Num_train_2、Num_train_3を算出する。列車運行指令システム45は、列車運行管理システム44から、各電力管理区間(1)、(2)、(3)における在線本数Num_train_1、Num_train_2、Num_train_3を受信し、これを基に電力管理区間(1)、(2)、(3)のそれぞれに在線する列車に指令する蓄電量増減目標値Target_SOC_1、Target_SOC_2、Target_SOC_3を算出する。蓄電量増減目標値Target_SOC_1、Target_SOC_2、Target_SOC_3は、情報伝達手段47a,47b,47cを介して指令情報送信装置10a,10b,10cに送られ、指令情報送信装置10a,10b,10cから、列車46のそれぞれに搭載されている指令情報受信装置8に伝送される。ここで、列車運行指令システム45、情報伝達手段47、指令情報送信装置10a,10b,10cで構成され、蓄電量増減目標値Target_SOC_1、Target_SOC_2、Target_SOC_3を車両の指令情報受信装置8に伝達する手段としては、既存のATC( Automatic Train Control)システムによる列車制御情報伝送手段を活用して、蓄電量増減目標値Target_SOC_1、Target_SOC_2、Target_SOC_3を、その伝達情報の一部とすることもできると考えられる。
【0056】
この構成によれば、所定の路線区間を走行する列車数を算定し、その区間を走行する列車に搭載された蓄電装置の蓄電量を、その列車数に応じて調整する蓄電量増減目標値を算出できる。また、列車46のそれぞれに搭載される充放電制御装置20(図示していない。図2参照)は、指令情報送信装置10、指令情報受信装置8を経由して蓄電量増減目標値を受信し、蓄電量増減目標値が負値のとき、車両の加速時は蓄電装置22を放電し蓄電量を減少させ、ブレーキ時は回生電力を低減することで、蓄電量の増加を抑えるように制御する。また、蓄電量増減目標値が正値のとき、車両の加速時は蓄電装置22を放電させず蓄電量の減少を抑え、ブレーキ時は架線に戻せない回生電力を積極的に蓄電して、蓄電量が増加するように制御する。
【0057】
すなわち、本発明によれば、車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して変電所の使用電力を低減する、鉄道車両の駆動システムを実現できる。
【0058】
図5は、本発明の電気車の駆動システムを複数列車にて稼動させる場合の動作例を示す図である。
【0059】
電力管理区間(1)には2本の列車が在線しているので、「Num_train_1=2」である。電力管理区間(2)には4本の列車が在線しているので、「Num_train_2=4」である。電力管理区間(3)には3本の列車が在線しているので、「Num_train_3=3」である。
【0060】
ここでは、説明を簡略化するため、各列車の蓄電装置22の初期蓄電量は「SOC=50%」で等しいとする。また、蓄電量増減目標値として、具体的にLevel_1=+30%、Level_2=+10%、Level_3=±0%、Level_4=−5%、Level_5=−2.5%に対応付ける。
【0061】
電力管理区間(1)は、閑散区間であり2本の列車が在線している。各列車の駅間走行時の消費電力量は各々A[kWh]とする。在線数が少ないため、この区間における消費電力量には余裕があると判断し、蓄電量増減目標値をLevel_2(Target_SOC_1=2)に設定して、各列車の蓄電装置22を初期値蓄電量50%から、+10%(Level_2)だけ充電して60%とする。このとき充電される量は各列車A/2[kW]であったとする。これより、電力管理区間(1)に在線する全列車の消費電力量、すなわち電力発生手段41aの消費電力量E1は次の通りである。
[数3]
E1=A[kWh/列車]×2[列車]+A/2[kWh/列車]×2[列車]
=3A[kWh]
【0062】
これらの列車は、引き続き電力管理区間(2)に移動する。この区間は混雑区間であり、4本の列車が在線している。各列車の駅間走行時の消費電力量は各々A[kWh]とする。在線数が多いため、この区間における消費電力量は過大になると判断し、蓄電量増減目標値をLevel_4(Target_SOC_2=4)に設定して、各列車の蓄電装置22を電力管理区間(1)における蓄電量60%から、−5%(Level_2)だけ放電して55%とする。このときの放電される量は各列車A/4[kW]であったとする。これより、電力管理区間(2)に在線する全列車の消費電力量、すなわち電力発生手段41bの消費電力量E2は次の通りである。
[数4]
E2=A[kWh/列車]×4[列車]−A/4[kWh/列車]×4[列車]
=3A[kWh]
【0063】
これらの列車は、引き続き電力管理区間(3)に移動する。この区間の混雑度は平均的であり、3本の列車が在線している。各列車の駅間走行時の消費電力量は各々A[kWh]とする。混雑度は平均的であるため、この区間における消費電力量は過大になると判断し、蓄電量増減目標値をLevel_3(Target_SOC_1=3)に設定して、各列車の蓄電装置22を電力管理区間(2)における蓄電量55%から、増減なし(Level_3)として55%を維持する。このときの放電される量は各列車0[kW]である。これより、電力管理区間(3)に在線する全列車の消費電力量、すなわち電力発生手段41cの消費電力量E3は次の通りである。
[数5]
E3=A[kWh/列車]×3[列車]−0[kWh/列車]×3[列車]
=3A[kWh]
【0064】
以上より、電力管理区間(1)〜(3)の消費電力量E1〜E3は、3A[kWh]で等しく制御される。これはすなわち、消費電力の少ない電力管理区間から、消費電力の多い電力管理区間へ、車載の蓄電池により電力を移動することで、各電力管理区間の消費電力を平準化していると見ることができる。
【0065】
すなわち、本発明によれば、車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して変電所の使用電力を平滑にする、鉄道車両の駆動システムを実現できる。
【0066】
図6は、本発明の電気車の駆動システムの蓄電量指令システムの処理を示すブロックである。各電力管理区間の在線本数情報Num_train_1、Num_train_2…Num_train_nは、運行管理システム44で算出され、蓄電量指令システム45に送られる。蓄電量指令システム45は、運行管理システム44より送られる在線本数情報Num_train_1、Num_train_2…Num_train_nのそれぞれに蓄電量増減管理テーブル49a,49b…49nを対応付ける。
【0067】
蓄電量増減管理テーブル49は、在線本数情報(Num_train_n)の入力に対して、蓄電量増減目標値(Target_SOC_n)を決定する。在線本数が基準本数より少ない電力量管理区間では、余剰分の電力量を各列車の蓄電装置22に蓄電し、在線本数が基準本数より多い電力量管理区間では、不足分の電力量を各列車の蓄電装置22から放電して、各列車の消費電力を補足する。このため、在線本数情報(Num_train_n)と、蓄電量増減目標値(Target_SOC_n)の関係は、5段階の蓄電量増減目標値としたとき、在線本数が基準本数のときをLebel_3とすると、以下の関係を満たすように設定する必要がある。
[数6]
Lebel_1−Lebel_2≧Lebel_2−Lebel_3≧Lebel_3−Lebel_4≧Lebel_4−Lebel_5
【0068】
図5に示した蓄電量増減目標値は、その一例である。すなわち、Lebel_1=+30[%]、Lebel_2=+10[%]、Lebel_3=±0[%]、Lebel_4=−5[%]、Lebel_5=−2.5[%]と設定すると、
Lebel_1−Lebel_2=20[%]、
Lebel_2−Lebel_3=10[%]、
Lebel_3−Lebel_4=5[%]、
Lebel_4−Lebel_5=2.5[%]
であり、[数6]を満たす。
【0069】
以上の一例のように、[数6]を満たすように、蓄電量増減管理テーブル49の在線本数情報と、蓄電量増減目標値の関係を設定すれば、電力管理区間毎の在線本数に応じて、蓄電量増減目標値が決定される。具体的には、在線本数が少ない区間では積極的な充電を行なうことで、実際に列車の運行に消費する以上の電力が電力発生手段より供給される。また、在線本数が多い区間では積極的な放電を行なうことで、電力発生手段より供給される電力は実際に列車の運行に消費する電力以下にできる。
【0070】
すなわち、本発明によれば、車両に搭載した蓄電システムの蓄電量を、車両外からの情報に基づいて調整することにより、変電所から車両に供給される電力の一部を補足して変電所の使用電力を平滑にする、鉄道車両の駆動システムを実現できる。なお、本発明では、鉄道車両を対象として説明したが、車両としては、2本のレールから成る線路を走行する車両ばかりでなく、モノレールや新都市交通システム等を含むものであってもよいのは明らかである。
【符号の説明】
【0071】
1…車両 2…車間連結器
3…集電装置 4…台車
5…輪軸 6…インバータ装置
7…蓄電システム
8…蓄電量指令受信装置(指令情報受信装置)
9…システム統括制御装置(情報制御手段)
10…蓄電量指令送信装置(指令情報送信装置)
12…フィルタリアクトル 13…フィルタコンデンサ
14…インバータ装置 15…主電動機
16…電圧センサ 17…電流センサ
18…スイッチング素子 19…ゲートアンプ
20…充放電制御装置 21…平滑リアクトル
22…蓄電装置 24…インバータ装置
31…加減算器 32…比較器
33…論理反転器 34…論理積演算器
35…論理和演算器 36…切替器
37…安定化制御器 38…PWM生成器
39…位相シフト演算器 40…加算器
41…電力発生手段 42…電力供給手段
43…軌道回路群 44…列車運行管理システム
45…列車運行指令システム 46…列車
47…情報伝達手段 48…情報収集手段
49…蓄電量増減管理テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給する電力供給手段と、当該電力供給手段から送られる電力を集電手段で取り込んで走行するとともに電力を蓄える電力蓄積手段を備えた鉄道車両と、地上側に設置されており所定の線路区間毎に列車運行を管理し指令をする運行管理・指令手段とを備えた鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記運行管理・指令手段は、前記鉄道車両の外部からの情報に基づいて、当該所定の線路区間を走行するときの前記鉄道車両の前記電力蓄積手段が蓄積すべき電力の目標値を指令し、当該目標値の指令を受けた前記鉄道車両は前記電力蓄積手段における電力蓄積を前記目標値に基づいて制御すること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記運行管理・指令手段は、前記目標値を指令する際に基づく情報として、前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両の本数を含む情報を用いること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記電力供給手段は、最大使用電力量を定めて使用許可される変電所等の電力供給設備であること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記鉄道車両は、前記電力供給手段から電力を取り込む集電手段と、前記電力に基づく高圧直流電力を交流電力に変換するインバータ手段と、前記インバータ手段により駆動される電動機と、前記高圧直流電力部分と低圧直流電力部分間の通流電流を調整制御するスイッチ手段と、前記通流電流を検出する手段と、前記高圧直流電力及び低圧直流電力の電圧を検出する手段と、これらの各手段を制御する制御手段を備え、前記電力蓄積手段は前記低圧直流電力の供給を受けること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記スイッチ手段の通流電流の調整制御は、地上側に設置されている前記運行管理・指令手段から指令されて、地上側に設置されている情報送信手段より送られ、前記鉄道車両に設備される情報受信手段で受信される蓄積すべき電力としての前記目標値に基づいて行なわれること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記運行管理・指令手段は、前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両の本数に応じて指令すべき前記電力蓄積手段の前記目標値を、前記電力蓄積手段の前記目標値に応じて充電又は放電すべき電力量と前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両の消費電力量との合計が前記所定の線路区間における前記電力供給手段の供給電力に対して平準化されるように、定めること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両が備える前記電力蓄積手段の電力蓄積水準は、前記所定の線路区間に存在する駅の数及び/又は前記鉄道車両の本数が多いほど低い水準に設定されていること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項8】
請求項7に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記所定の線路区間に存在する前記鉄道車両が増加する毎に低下する前記電力蓄積手段の前記電力蓄積水準の低下量は、前記鉄道車両の本数が多くなるにしたがって少なくなること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の鉄道車両の駆動システムにおいて、
前記鉄道車両の前記電力蓄積手段は、前記所定の線路区間に存在する駅の数及び/又は他の前記鉄道車両の本数が少ないほど充電し、前記所定の線路区間に存在する駅の数及び/又は他の前記鉄道車両の本数が多いほど蓄電した電力を放電すること
を特徴とする鉄道車両の駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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