説明

鉄道車両構体およびその製作方法

【課題】鉄道車両構体においては、鉄道車両の高速化に伴い、軌道への衝撃や走行時に発生する騒音、運転動力費等の増大に対処するために、強度や剛性を損なうことなく鉄道車両の構体を軽量化を図ることができる鉄道車両用台枠構造を提供する。
【解決手段】台枠、側構体、屋根構体及び妻構体を組合せて接合して構成される鉄道車両構体を台車に載せている鉄道車両において、鉄道車両構体の台枠の床部材は、鉄道車両構体の走行方向の一端側の前記台車と他端側の台車との間の中間台枠の床構造体13の上床パネル材13a、下床パネル材13b、上下パネル材13a,13bを斜めに接続する斜めパネル材13c、上下パネル材13a,13bを縦に接続する垂直パネル材13dは、難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材と、当該芯材の両表面に配置した繊維強化樹脂複合材料からなる表皮材と、を有する複合パネル材で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両構体に係り、特に高速で走行する鉄道車両に好適な鉄道車両構体およびその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄系材料よりなる鉄道車両構体は、骨部材の外側に外板を接合して構成されている。また、ステンレス鋼の鉄道車両構体は、各骨部材間と外板接合の強度向上のために、三次元立体継手で構成されている。また、軽合金製のアルミニウム合金材料による鉄道車両構体は、外板と骨部材を一体に成形した押出形材を用いて構成されている。この他、客室の床面を構成する床板の軽量化を図るために、床板自体をアルミニウムハニカムサンドイッチパネルとした構造が知られている。
【0003】
近年では、炭素繊維強化樹脂複合材料と構造用鋼製材料あるいは炭素繊維強化樹脂複合材料と軽合金材料を組合せた例もあるが、従来の車両では、新幹線車両の先頭カバー等への適用(特許文献1)や、軌道系交通車両の上部構体への適用に限定されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−20685号公報
【特許文献2】特開2010−254122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道車両構体を構成する材料の製造技術の進歩に伴い、従来の鉄製の鉄道車両構体からアルミ製またはステンレス製の鉄道車両構体へ移行しつつある。生産性、リサイクル性等の検討に合わせて、軽量化に関する研究開発も継続されている。高速で走行する鉄道車両が軌道に与える衝撃に伴う保守コストを抑制するとともに、高速走行に起因する環境対策費用を低減するために、鉄道車両構体のさらなる軽量化が望まれている。
【0006】
現状では、鉄道車両構体の軽量化のため、アルミニウム合金のような軽合金製の押出形材を採用しており、更には外板部分も押出形材によって構成している。しかし、押出形材の板厚をさらに薄くするには技術的な限界がある。
さらに、鉄道車両構体には相当な重量物となる床下機器を備えることから、板厚を薄くすることにより面外の曲げ剛性が低下するため、多数の補強材を設置する必要が生じ、部品点数の増加、並びに製作工数及び製作コストが増大するという課題があった。
また、鉄道車両の電装品組立は、構体完成後に行われるものであり、断熱材、遮音材、内装材などが必要で、それらの取り付けに多大な費用と時間が費やされるものであった。
【0007】
ところで、鉄道車両が高速でトンネル内を走行する場合、車外圧力が急激に変化することが知られている。特に、車両同士がトンネル内ですれ違う場合に大きな圧力変動が短時間に発生する。このような圧力変動が車内に伝播すると乗客に不快感を与えるので、圧力変動が車内に伝播しないようにするために、構体全体を気密構造としている。
【0008】
したがって、構体には、乗客及び各種機器の荷重、該構体の自重及び前記車外圧力変動による圧力が作用する。このため、構体の剛性向上及び圧力荷重に対する強度向上を図らなければならない。ところが、構体の剛性向上及び強度向上を図ることと軽量化を図ることは相反する関係にあり、同時に実現するのが困難な状況にある。
【0009】
そこで、強度及び剛性を損なうことなく、断熱性を備える鉄道車両構体の重量を低減する点で解決すべき課題がある。
本発明の目的は、鉄道車両構体に搭載される各種機器等の荷重および車外圧力変動に起因する圧力荷重に堪え得る充分な強度と剛性を備えるとともに、断熱性を備え且つ軽量な鉄道車両構体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による鉄道車両構体は、台枠、側構体、屋根構体及び妻構体を備えており、前記台枠は、前記台枠の長手方向の中央部に配設される中間台枠と、前記中間台枠に接続されるとともに前記中間台枠の長手方向の両端部に配設される端台枠とから成っており、前記中間台枠は、難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材と、前記芯材の両表面に配置した繊維強化樹脂複合材料からなる表皮材とを有する複合パネル材で構成される床構造体を備えることを特徴としている。
【0011】
中間台枠の床構造体をこのように構成することにより、複合パネル材の芯材が難燃性及び断熱性を有する材料からなることから、床構造をダクト構造に利用しても必要な断熱性が確保される。また、複合パネル材の芯材の両表面に配置した表皮材が繊維強化樹脂複合材料から成っていることから、繊維強化樹脂複合材料が引っ張り力曲げの応力に対抗し、床構造体として必要な強度と剛性を確保することができる。更に、複合パネル材は軽量であり、台枠構造を軽量化し、延いては鉄道車両を軽量化することができる。
【0012】
この鉄道車両構体において、前記床構造体は、対向する上床パネル材と、下床パネル材、前記上床パネル材と前記下床パネル材とを接続する接続パネル材とから構成されており、前記床構造体は、前記上床パネル材と前記下床パネル材と前記接続パネル材とによって構成されるとともに前記床構造体の長手方向に沿う複数個の空隙部を備えるトラス構造を成すことができる。このようなトラス構造により、床構造体の内部を断熱性のあるダクト構造としても用いることができる。
【0013】
この鉄道車両構体において、前記床構造体は、前記鉄道車両構体の幅方向両端部に前記鉄道車両構体の長手方向に沿って配置される側梁の間に配置されており、前記床構造体の幅方向の両端部が、前記側梁から前記鉄道車両構体の幅方向の中央部に向かって略水平に突出す態様で備えられた部材に結合部材を併用して取り付けることができる。
また、前記側梁と前記上床パネル材とを平板部材によって接合し、前記平板部材と前記床構造体の前記両側梁に近接した前記複合パネル材とに、鉄道車両構体長手方向へ離散的に孔加工をし、前記側梁と前記床構造体に覆われた空間において、少なくとも前記側梁の表面を発泡樹脂等の断熱材によって覆うことができる。
【0014】
また、本発明による鉄道車両構体は、側梁を所定の間隔で離置し、端梁、中梁、枕梁、横梁を接合して台枠の骨格部を製作し、難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材と、この芯材の両表面に配置される繊維強化樹脂複合材料からなる表皮とを有する複合パネルからなる上床パネル材と、下床パネル材と接続パネル材とから構成される床構造体を準備し、前記床構造体を前記台枠の前記骨格部の所定の場所に載置し、前記側梁に備えられる上床接続用フランジと下床接続用フランジのそれぞれに、前記床構造体を構成する上床パネル材と下床パネル材の幅方向の端部を載置し、前記上床接続用フランジと前記上床パネル材とを結合部材で結合するとともに、前記下床接続用フランジと前記下床パネル材とを結合部材で結合することを特徴とする製作方法によって製作できる。
【発明の効果】
【0015】
2枚の表面材と中間材から成る複合パネル材で構成された床構造体は、面外曲げ剛性が高く、特に高速で走行する車両のように、トンネル内で大きな変動圧力が作用した場合でも十分耐えることができる。したがって、耐圧性を備えるとともに、軽量であり且つ高い断熱性を備える鉄道車両構体を提供することができる。
【0016】
また、前記床構造体を構成する複合パネル部材は、従来の軽合金材量よりも比重が小さい、繊維樹脂複合材製の薄板からなる表皮材と断熱性が高い芯材によって構成されているため軽量である。また、芯材の熱貫入率が小さいため板厚方向への断熱性が高く、後工程における断熱材の取り付けや、床構造体内部へのダクトの敷設が不要となる。したがって、該複合パネル材を用いて製作される鉄道車両構体は軽量なものとなり、さらに製作工数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】鉄道車両構体の斜視図である。
【図2】本発明を適用した鉄道車両構体の台枠部分を示す平面図である。
【図3】本発明による一実施例の床構造体の断面斜視図である。
【図4】図3のD部を拡大した断面図である。
【図5】図2のA−A部断面図である。
【図6】図5のF部を拡大した断面図である。
【図7】図2のB−B部断面図である。
【図8】図3のE部を拡大した断面図である。
【図9】本発明における床構造体の他の実施例の断面図である。
【図10】図9のC−C部断面図である。
【図11】図5のG部に相当する部位の拡大図である。
【図12】本発明における床構造体の他の実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明による鉄道車両構体の実施例について説明する。
本発明が適用される鉄道車両構体1(以下、「構体1」と略す。)は、図1に示すように、台枠2、側構体3、妻構体4及び屋根構体5を備えており、側構体3には乗客が出入りする出入口部6が設けられている。
【0019】
本実施例における構体1に備わる台枠2の構成について、図2〜図8を参照して説明する。図2に示す台枠2は、鉄道車両構体の長手方向両端部に配置されている端台枠2a,2aと、端台枠2a,2a間に配置された中間台枠2bとから構成されている。各端台枠2aは、軽合金製材料によって形成されている。中間台枠2bは、複合パネル材からなる床構造体13と側梁7,7とを接合して構成されている。中間台枠2bの長手方向の両端部に端台枠2a,2aが接合されて、鉄道車両構体の床部をなす台枠2が構成されている。
【0020】
各端台枠2aは、側梁7,7、端梁8、中梁9,9、枕梁10、横梁11、及び床板12から構成されている。二つの側梁7,7は、中空部分を持つような断面形状を有する軽合金製、即ちアルミニウム合金製の押出形材である。側梁7,7は、台枠2の鉄道車両構体幅方向両端部において鉄道車両構体長手方向に延びて配置され、それらの端部は二つの端台枠2aの端梁8,8によって連結される。
【0021】
各端台枠2aにおいて、枕梁10は、二つの側梁7,7の間において端梁8に平行に配置されており、枕梁10の端部は側梁7,7に接合されている。枕梁10は、端梁8よりも台枠2の長手方向の中央寄りの位置に、台車の中心に対応して配置されている。二つの中梁9,9は、台枠2の長手方向の端部の端梁8と枕梁10の間において側梁7,7に平行に配置されており、それらの各端部は端梁8と枕梁10とに接合されている。横梁11は、枕梁10よりも台枠2の長手方向中央寄りの位置に配置されている。床板12は二つの側梁7,7に設置されている中梁9、枕梁10、横梁11の上面を覆うように設置されており、横梁11に設けられた床受け部において、床板12と床構造体13の上床パネル材13a(図3参照)とが接合手段によって接合されている。
【0022】
図3は、本発明による床構造体の一実施例を示す断面斜視図であり、図4は図3のD部を拡大した断面図である。図3において、床構造体13を構成する13a乃至13dの複合パネル材21(図4参照)は、繊維強化樹脂複合材からなる表皮材21a,21a及び芯材21bとからなる。
複合パネル材21を構成する表皮材21aの第一の部材の樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることが一般的であるが、成形品の剛性、強度に優れる熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、レゾール型フェノール、ユリア・メラミン、ポリイミドがあり、これらの共重合体、変性体、及び、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂がある。耐衝撃性向上のために、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていてもよい。特に、エポキシ樹脂は成形品の機械的特性の観点から好ましい。
【0023】
複合パネル部材21を構成する第一の部材の強化繊維群の繊維素材としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維;ガラス繊維;ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リクニン系、ピッチ系の炭素繊維や黒鉛繊維;芳香材ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、PBO繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等の有機繊維;又はシリコンカーバイド繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維等を用いることができる。これらは、単独又は2種以上併用して用いられる。これらの繊維素材は、表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。繊維素材としては、比重が小さく、高強度、高弾性率である炭素繊維が、好ましく使用される。
【0024】
複合パネル材21を構成する芯材21bは、断熱性や遮音性に優れる木質材料や硬質発泡樹脂材料の他、ハニカム形状を有する芯材を用いても良い。
本実施例における床構造体13は、木質材料からなる芯材21bの両表面に、炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料からなる表皮材21aと、図示しない接着材を表皮材21aと芯材21bの間に挿入し、オートクレーブ法によって接着積層して成形した板部材から構成される。
【0025】
図5は図2のA−A部断面図である。図3、図5において、床構造体13は複合パネル材21からなる。床構造体13は、対向する2枚の上床パネル材13aと下床パネル材13bと、上床パネル材13aと下床パネル材13bとを接続する接続パネル材である斜めパネル材13cおよび垂直パネル材13dから構成される2重床構造である。床構造体13は、上床パネル材13aと下床パネル材13bと斜めパネル材13cあるいは垂直パネル材13dとで囲まれるとともに鉄道車両構体の長手方向に連続した複数個の空隙部29を有すトラス構造を成している。
【0026】
床構造体13は、図5左側の側梁7と図示しない右側の側梁7の間に配置される。側梁7は、側梁上部7aと側梁下部7bとからなり、側梁上部7aと側梁下部7bは溶接によって接合されている。側梁上部7aと側梁下部7bは、それぞれ鉄道車両構体幅方向に向かって、略水平に突出した平板部材である上床接続用フランジ7cと、下床接続用フランジ7dとを備えている。側梁7は側梁上部7aと側梁下部7bとを一体の押出成型部品として構成しても良い。さらに、側梁7、あるいは、側梁上部7aと側梁下部7bの各々に、押出成形によって一体に備えてもよい。
【0027】
床構造体13の上床パネル材13a及び下床パネル材13bは、その車幅方向の端部近傍において、上床接続用フランジ7c及び下床接続用フランジ7dに、接着剤を併用して、ボルトとナットから成る結合部材19あるいはリベットなどの結合部材19によって接合される。このような構成を採ることによって、鉄道車両構体の中間台枠2bに供えられていた横梁を省くことができるとともに、客室内の気密性を損なうことなく、圧力変動や機器重量による荷重に対する強度信頼性の向上を図ることができる。また、床構造体13において、床構造体13の長手方向に沿う態様の空隙部20(20a,20b)は複合パネル材21によって囲まれた閉空間になっていることから、断熱性、耐結露性及び気密性が高く、中間台枠2bの領域に従来のようなダクト敷設や断熱材を配置する工程が不要となる。
【0028】
側梁7と上床パネル材13aとを接合するために備えられた上床接続用フランジ7c及び床構造体13の側梁7に近接して配置された垂直パネル材13dには、鉄道車両構体長手方向に離散的に孔17,171が備えられている。側梁7と床構造体13との接合部は、結合部材19と接着剤によって接合されることから、側梁7と垂直パネル材13dによって挟まれて形成されている空隙部20bは気密が確保され、また、側梁7の表面を発泡樹脂等の断熱材によって覆うことで断熱性を確保することができる。このような構成を採ることによって、別途ダクトなどを設けなくとも、空隙部20aを通風路として流れる冷却空気を、孔171から空隙部20bを通じて更に孔17を通過させて、客室内へ流すことができる。
【0029】
床構造体13を構成する下床パネル材13bの下面には、複数の機器吊りレール15が鉄道車両構体の長手方向に沿って配置されている。機器吊りレール15の下面中央にはスリット15aが刻まれており、該機器吊りレール15にて図示しない各種の床下機器を吊り下げるようにしている。機器吊りレール15と下床パネル材13bとが接する面は接着材によって固定されると共に、床構造体13の空隙部20に設けた機器吊りレール保持金具15bと、結合部材19を組合せて接合することによって、空隙部20の空間を確保し、かつ床下機器の吊り下げに耐え得る充分な強度と剛性を保持することが可能となる。機器吊りレール保持金具15bにはウエルドナットあるいは板ナットを設けることが好ましい。なお、図5では鉄道車両構体の長手方向に沿って機器吊りレール15を配設しているが、機器吊りレール15は鉄道車両構体の幅方向に沿って配設してもよい。
【0030】
図6は図5のF部を拡大した断面図である。図5、図6において、本実施例における側構体3は、木質材料からなる芯材21bの両表面に、炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料からなる表皮材21aと、図示しない接着材を表皮材21aと芯材21bの間に挿入し、オートクレーブ法によって接着積層して成形した板部材から構成されている。側梁7と接合される側の端面は、炭素繊維樹脂複合材料からなる表皮材21aを地面側に突出するとともに、芯材21bの端面を表皮材21aでふさぎ21cを設けた。側梁上部7aから略垂直に突出した側構体接合用フランジ7e,7eと、逆L字になるように備えた突出し片7f,7fとの間に、側構体3の端部から突出した表皮材21aを挿入し、突出し片7f,7fの略水平部と側構体3の端部ふさぎ21cとが密着するように配置し、側構体3の端部を構成する表皮材21a、ふさぎ21cと、側構体接合用フランジ7e,7e及び突出し片14fとは相互に接着剤を用いて接合すると共に、結合部材19を併用して接合される。
【0031】
図6に示すように、結合部材19による結合範囲L1は、側構体の板厚tとの関係が2t≧L1≧tの範囲であり、接着剤による接着範囲L2は、結合部材19による結合範囲L1との関係がL2≧L1となることが好ましい。また、側構体接合用フランジ7e,7eは天井側の端部に向かってテーパ形状をとることがより好ましい。
【0032】
以上の構成を採ることにより、圧力変動や機器重量によって側構体3と側梁7の接合部に作用する曲げ荷重に対する強度を確保することができる。なお、本実施例では側構体3は複合パネル材21で構成されているが、アルミニウムなどの軽合金製の中空形材などで構成されていても良く、その場合は側梁7と側構体3とは溶接により接合される。
【0033】
図7は図2のB−B部断面図である。図7において、横梁11は軽合金製の押出形材で、その両端部は側梁7に溶接によって接合されている。横梁11の上部に、横梁11に沿って配設される床受32が備えられている。床受32は横梁11と一体に押出成型しても良いし、横梁11に沿って離散的に備えても良い。端台枠2aと中間台枠2bとは横梁11を介して接続されている。横梁11は、鉄道車両構体の長手方向に突出する態様の突出し片11a,11bを備える。同様に、床受32も、鉄道車両構体の長手方向に突出する態様の突出し片32aを備える。
【0034】
端台枠2a側に配置される床材12と、床構造体13の上床パネル材13aが略水平となるように配置される。上床パネル材13aの端台枠2a側の端部には、軽合金製の上床パネル材用の結合金具35が配置されており。突出し片32aと結合金具35とは、ボルトとナットあるいはリベットのような結合部材19によって締結されている。このとき、接着剤を併用することが好ましい。また、結合金具35の上部で床材12と上床パネル材13aの表皮材21aとを突き合わせるように配置し、突き合わせ部36に生じた隙間を樹脂等で埋設する。
【0035】
一方、横梁11の上部には、端台枠2aをなす気密床34を受けるための突出し片11bが備えられており、気密床34の端部が突出し片11bに載置されるとともに溶接によって横梁11に固定される。さらに、横梁11の下部には、下床パネル材13bの端部を受けるための突出し片11aが備わっており、地面側から結合部材19及び接着剤によって接合される。このような構成を採ることによって、下床側で客室の気密を確保することができる。横梁11及び床受32に設けられた突出し片32a及び11aにはウエルドナット、板ナットなどを予め設けておくことが好ましい。
【0036】
図6及び図8に示したように、上床パネル材13aあるいは図示しない下床パネル材13bから斜めパネル材13cが分岐して空隙部20が構成される。該分岐部は芯材21bを略床構造体13の形状に加工した後に表皮材21aを積層した後、オートクレーブ等で一体成形する方法や、プルトルージョン成形により同一断面形状で引抜き一体成形する方法がある。
【0037】
機器吊りレール15の他の実施例について図9及び図10を用いて説明する。図9は本発明における床構造体の他の実施例の断面図であり、図10は図9のC−C部断面図である。床構造体13を構成する下床パネル材13bの下面には、複数の機器吊りレール15が鉄道車両構体の幅方向に配置されている。機器吊りレール15の下面中央にはスリット15aが備えられており、機器吊りレール15にて図示しない各種の床下機器を吊時するようにしている。機器吊りレール15は、下床パネル13bの表面に当接される基部15eと、基部15eの幅方向の中央部に所定の間隔を設けるとともに対向する態様で立設される垂直片15d,15dと、この垂直片15d,15dの端部から水平方向に延びる垂直片15c,15cとから構成されている。基部15eの幅方向の両端部には機器吊りレール15の長手方向に沿って離散的に固定用の孔を設けて、これらの孔を用いて機器吊りレール15を、下床パネル13bに固定しても良い(図5に示した機器吊りレール15の形態)。
【0038】
機器吊りレール15の基部15e(図11参照)と下床パネル材13bとが接する面は接着材によって固定される。さらに、機器吊りレール15と、床構造体13の空隙部20に設けた機器吊りレール保持金具15bとは、結合部材19によって接合されているので、空隙部20の断面積を確保するとともに床下機器の吊り下げに耐え得る充分な強度と剛性を備える。なお、機器吊りレール保持金具15bには、結合部材19が螺合するウエルドナットあるいは板ナットが設けられることが好ましい。
【0039】
図11は、図5のG部の拡大図であって、機器吊りレール15を備える床構造体13のその他の実施例である。機器吊りレール15は、床構造体13を構成する下床パネル材13bと斜めパネル材13c,13c(接続パネル材)との接続部の下面側に備えられる。斜めパネル材13c,13cは、略V字状の断面形状であるとともに、斜めパネル材13c,13cの頂部の両側にはその頂部の斜面に接触する端部形状を備えた下床パネル材13b,13bが接続されている。斜めパネル材13c,13cと、下床パネル材13b,13bとは、接着剤等で接続されており、一体の床構造体13をなしている。下床パネル材13b,13bと斜めパネル材13c,13cとの接続部には、鉄道車両構体1の長手方向に沿って離散的に貫通穴が設けられており、この貫通穴には複数のパイプ40が備えられる。パイプ40は、必要に応じて、接着剤等で床構造体13に固定してもよい。
【0040】
下床パネル材13b,13bと斜めパネル材13c,13cとの接続部の上側には、鉄道車両構体1の長手方向に沿う態様で座16が備えられ、接続部の下側には機器吊りレール15が備えられる。
座16は、座16の幅方向の中央部の基部16aと、この基部16aの幅方向の両端部から延びる端部16b,16bとからなり、その長手方向に垂直な断面形状は略V字状である。また、座16の基部16aには、床構造体13に離散的に備えられたパイプ40に対応する位置に後述する接続部材19がかみ合うネジ部を有すネジ穴が備えられる。
同様に、機器吊りレール15の基部15aにも、その長手方向に沿って、床構造体13に離散的に備えられるパイプ40に対応する位置に穴が備えられる。床構造体13をなす下床パネル材13b,13bと斜めパネル材13c,13cとの接続部に、座16と機器吊りレール15とを備えた状態で、接合部材19によって、床構造体13をなす斜めパネル材13cと下床パネル材13bとの接続部を挟む態様で機器吊りレール15が床構造体13に固定される。図11に示されるように、接合部材19はパイプ40を貫通する態様で、機器吊りレール15と座16とを締結しており、パイプ40が圧縮される際に接合部材19に十分な軸力が発生するため、接合部材19の緩みを抑制することができるだけでなく、座16の端部16bが斜めパネル材13c,13cに陥没することを抑制できる。
【0041】
座16の断面形状を略V字状にすることによって、座16の端部16b,16bは、同様に略V字状の断面形状を有す斜めパネル材13c,13cに広い面積で接触することができるので、圧力荷重等に耐え得る強固な床構造体13を構成することができる。さらに、床構造体13をなす下床パネル材13bと斜めパネル材13cとの接続部の近傍に機器吊りレール15が備えられるため、床構造体13は、機器吊りレール15に備えられる床下機器42等に起因る大きな荷重に耐え得る強度を備えることができる。
図11には、機器吊りレール15を鉄道車両構体1の長手方向に沿う態様で備えた例を記したが、機器吊りレール15を鉄道車両構体1の長手方向に交差する方向に備え、機器吊りレール15と座16とが交差する態様で床構造体13に備えても良い。また、座16は押出形材で成型したのち、ネジ穴を施工しても良い。
【0042】
図12は、床構造体13の他の実施例を示したものであり、上床パネル材13aあるいは図示しない下床パネル材13bと斜めパネル材13cとを個別に一体成形した後に、面24及び面25にて接着成形することで構成されるものである。なお、図12に示す床構造体13に、図11に記した機器吊りレール15の取付構造を適用しても良い。
【0043】
以上の鉄道車両構体の製造にあたり、まず、側梁7,7を所定の間隔で離置し、端梁8,8、中梁9,9、枕梁10,10、横梁11,11を溶接にて接合して台枠2の骨格部を製作する。次に、難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材21bと、この芯材の両表面に配置した繊維強化樹脂複合材料からなる表皮21a,21aとを有する複合パネルを用いて上床パネル材13aと下床パネル材13bと接続パネル材13cとからなる床構造体を構成する。この床構造体を前記台枠2の長手方向の中央部の固定場所に位置決めするとともに、側梁7に備えられる上床接続用フランジ7c,7cと下床接続用フランジ7d,7dとのそれぞれに、床構造体を構成する上床パネル材13aと下床パネル材13bの幅方向の端部を載置するとともに、結合部材でこれらを結合することによって鉄道車両用台枠構造が製造される。なお、結合部材で結合する際に必要に応じて接着剤を併用しても良い。本実施例における床構造体13を構成する上床パネル材13の幅方向寸法および長手方向寸法は、下床パネル13bのそれらより小さく設計されているので、台枠2を反転しておけば容易に載置できる。
【0044】
以上、説明したように本発明によれば、まず、2枚の表面材と中間材(芯材)から成る複合パネル材で構成された床構造体を有す台枠を備える鉄道車両構体は、面外曲げ剛性が高く、特に高速で走行する車両のようにトンネル内で大きな変動圧力が作用した場合でも十分耐え得る強度を備える。
【0045】
さらに、前記床構造体を構成する複合パネル部材は、従来の軽合金材量よりも比重が小さい、繊維樹脂複合材製の薄板からなる表皮材と断熱性が高い芯材によって構成されているため軽量である。また、芯材の熱貫入率が小さいため板厚方向への断熱性が高く、後工程における断熱材の取り付けや、床構造体内部へのダクトの敷設が不要となる。したがって、複合パネル材を用いて製作される床構造を有す台枠を備える鉄道車両構体は、軽量であり且つ高い断熱性を併せ持つことができる。
【符号の説明】
【0046】
1…鉄道車両構体 2…台枠
2a…端台枠 2b…中間台枠
3…側構体 4…妻構体
5…屋根構体 6…側出入口部
7…側梁
7a…側梁上部 7b…側梁下部
7c…上床接続用フランジ 7d…下床接続用フランジ
7e…側構体接続用フランジ 7f…突出し片
8…端梁 9…中梁
10…枕梁 11…横梁
11a,11b…突出し片 12…床板
13…床構造体 13a…上床パネル材
13b…下床パネル材 13c…斜めパネル材
13d…垂直パネル材 15…機器吊りレール
15a…スリット 15b…機器吊りレール保持金具
15c…水平片 15d…垂直片
15e…基部 16…座
16a…基部(座) 16b…端部(座)
17,171…孔
18…側梁端の接合部 19…結合部材
20…空隙部 21…複合パネル材
21a…表皮材 21b…芯材
21c…ふさぎ 32…床受
32a…突出し片 34…気密床
35…結合金具 36…突き合わせ部
40…パイプ 42…床下機器
t…側構体3の板厚
L1…側構体3と側梁7の結合部材による結合範囲
L2…側構体3と側梁7の接着剤による接着範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台枠、側構体、屋根構体及び妻構体を備える鉄道車両構体において、
前記台枠は、前記台枠の長手方向の中央部に配設される中間台枠と、前記中間台枠に接続されるとともに前記中間台枠の長手方向の両端部に配設される端台枠とから成っており、
前記中間台枠は、難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材と、前記芯材の両表面に配置した繊維強化樹脂複合材料からなる表皮材とを有する複合パネル材で構成される床構造体を備えること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両構体において、
前記床構造体は、上床パネル材と、下床パネル材、前記上床パネル材と前記下床パネル材とを接続する接続パネル材とから構成されており、
前記上床パネル材と前記下床パネル材と前記接続パネル材とによって構成されるとともに前記床構造体の長手方向に沿う複数個の空隙部を備えるトラス構造を成していること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両構体において、
前記床構造体は、前記鉄道車両構体の幅方向両端部に前記鉄道車両構体の長手方向に沿って配置される側梁の間に配置されており、
前記床構造体の幅方向の両端部が、前記側梁から前記鉄道車両構体の幅方向の中央部に向かって略水平に突出す態様で備えられた部材に結合部材によって取り付けられていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記側梁と前記上床パネル材とは平板部材によって接合されており、
前記平板部材と前記床構造体の前記両側梁に近接した前記複合パネル材とは、鉄道車両構体長手方向へ離散的に孔加工されており、
前記側梁と前記床構造体に覆われた空間において、少なくとも前記側梁の表面が断熱材によって覆われていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記端台枠及び前記床構造体は、両端部を前記側梁に溶接された横梁を介して接続されており、
前記端台枠を成す気密床は、その押出方向を前記鉄道車両の長手方向に沿って配設された押出形材であるとともに、前記気密床の端部は前記横梁に溶接されており、
前記複合パネル材の端部は、結合部材を用いて前記横梁に接合されていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記床構造体の下面には、機器吊りレールが取り付けられていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記床構造体を構成する前記下床パネル材と前記接続パネル材との接続部の近傍部と、前記鉄道車両構体の床下に配設される機器を支持する機器吊りレールとを、結合部材で結合することによって前記機器吊りレールが前記床構造体の下面に取り付けられていること
を特徴とする鉄道車両用構体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記床構造体は、前記上床パネル材と、前記下床パネル材と、前記接続パネル材とが、一体で成形されていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記側構体は、難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材と、前記芯材の両表面に配置した繊維強化樹脂複合材料からなる表皮材とを有する複合パネル材で構成されており、 前記側梁は、前記側梁の上部に上方向に向けて突出する突出し片を備えており、
前記突出し片は前記側梁に一体成型されており、
前記側構体が、前記側梁に備えられる突出し片に前記結合部材を用いて接合されていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれ一項記載の鉄道車両構体において、
前記床構造体を構成する前記上床パネル材の車両幅方向寸法が、前記下床パネル材の横幅方向寸法よりも小さく、車両幅方向中央部について対称に配置されていること
を特徴とする鉄道車両構体。
【請求項11】
側梁を所定の間隔で離置し、端梁、中梁、枕梁、横梁を接合して台枠の骨格部を製作し、
難燃性及び断熱性を有する材料からなる芯材と、前記芯材の両表面に配置される繊維強化樹脂複合材料からなる表皮とを有する複合パネルからなる上床パネル材と、下床パネル材と接続パネル材とから構成される床構造体を準備し、
前記床構造体を前記台枠の前記骨格部の所定の場所に載置し、
前記側梁に備えられる上床接続用フランジと下床接続用フランジのそれぞれに、前記床構造体を構成する上床パネル材と下床パネル材の幅方向の端部を載置し、
前記上床接続用フランジと前記上床パネル材とを、結合部材で結合し、
前記下床接続用フランジと前記下床パネル材とを、結合部材で結合すること
を特徴とする鉄道車両構体の製作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−71469(P2013−71469A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209545(P2011−209545)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(595116267)株式会社ジーエイチクラフト (5)