説明

鉄道車両用空気ばね及び鉄道車両の高さ調節方法

【課題】車輪摩耗時における前述した高さ調節の作業の簡単化や効率化が可能となるように構造工夫された鉄道車両用空気ばねを提供する。また、その空気ばねを用いて、高さ調節作業の簡単化や効率化が可能となる鉄道車両の高さ調節方法も得る。
【解決手段】車体側の外筒1と、その下方に配置されて台車Dの枠体4に支持される内筒2と、これら外筒1と内筒2とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラム3と、を有して成る鉄道車両用空気ばねにおいて、内筒2と枠体4との間に、内筒2及びダイヤフラム3の下部を含む空気ばねとしてのばね下質量側に相当する部分Cを枠体4に対して所定量浮上可能とする弾性手段7が介装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外筒と内筒とダイヤフラムとを有して成る鉄道車両用空気ばね及び鉄道車両の高さ調節方法に係り、詳しくは、車輪の摩耗に伴う車両の高さ調節作業の簡単化や効率化が可能となるように工夫された鉄道車両用空気ばね並びに鉄道車両の高さ調節方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用空気ばねは、車体側の外筒と、その下方に配置されて台車の枠体に支持される内筒と、これら外筒と内筒とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラムと、を有して構成されている。この種の鉄道車両用空気ばねは、特許文献1等において開示されるように、内筒に一体的に構成される積層ゴムを介して台車に枢支されるものも多い。
【0003】
上記空気ばねの代表的な装着例としては、特許文献2の図5や特許文献3の図1及び2において開示されるように、内筒から下方突出する軸が台車の枠体に形成される穴に内嵌されて載置され、かつ、外筒から上方突出する支軸が車体の枠体に嵌め込まれる構造により、台車と車体との上下間に左右一対使いで装備される。
【0004】
ところで、鉄道車両においては長年の使用によって車輪が摩耗するが、車体の位置が明確に下がってしまう程度に摩耗し、かつ、まだ車輪としての摩耗限度範囲内である場合には、メンテナンス時に暫定処理として空気ばねを摩耗分に見合った高さ分持上げる対策が行われる。即ち、具体的には、内筒と台車との間に板状のスペーサを介装させることにより、車輪摩耗による低下分を補い、車体を元の高さ位置に戻すという高さ調節である。
【0005】
従来における上記高さ調節は、まず、ブレーキホースや電気配線等の車体と台車との接続部品を取外す前処理工程を行い、次いで車体をジャッキアップして空気ばねと車体との干渉を解くジャッキアップ工程を行い、それから空気ばねが搭載されている台車を移動させて車体から取出す台車取出し工程を行う。そして、空気ばねを台車に対して少し持上げる吊上げ工程を行ってから、板状スペーサを内筒と台車とに間に介装するスペーサ装着工程を行い、その後は以上の工程を逆順に行い、高さ調節の作業が完了となる。
【0006】
つまり、図5に示すように、従来の高さ調節作業は、前処理工程→ジャッキアップ工程→台車取出し工程→吊上げ工程→スペーサ装着工程→吊下げ工程(吊上げ工程の逆)→台車戻し工程(台車取出し工程の逆)→ジャッキダウン工程(ジャッキアップ工程の逆)→後処理工程(前処理工程の逆)という具合である。この高さ調節作業は頻度は多くないが、従来では非常に多くの工程及び時間を要するものであり、改善の余地が残されているものであった。
【特許文献1】特開2007−046718号公報
【特許文献2】特開2005−289286号公報
【特許文献3】特開2002−264806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、車輪摩耗時における前述した高さ調節の作業の簡単化や効率化を可能となるように、構造工夫された鉄道車両用空気ばねを提供する点にある。また、その鉄道車両用空気ばねを用いることで、高さ調節作業の簡単化や効率化が可能となる鉄道車両の高さ調節方法を得ることも目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体側の外筒1と、その下方に配置されて台車Dの枠体4に支持される内筒2と、これら外筒1と内筒2とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラム3と、を有して成る鉄道車両用空気ばねにおいて、前記内筒2と前記枠体4との間に、前記内筒2及び前記ダイヤフラム3の下部を含む空気ばねとしてのばね下質量側に相当する部分Cを前記枠体4に対して所定量浮上可能とする弾性手段7が介装されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鉄道車両用空気ばねにおいて、前記内筒2には、前記枠体4に形成される下向きの支持穴17に内嵌される下向き支持突起6が設けられており、前記下向き支持突起6に下面開放状態で形成される上向き穴6aに装備されるコイルバネ19によって前記弾性手段7が構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鉄道車両用空気ばねにおいて、前記支持穴17が平面視で円形を為す円柱状の穴であり、前記下向き支持突起6が底面視で円形を為す中空円柱状の突起であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、鉄道車両の高さ調節方法において、車体Bと台車Dとの上下間に請求項1〜3の何れか一項に記載の鉄道車両用空気ばねAが介装されている鉄道車両を用意し、空気ばねAを介して台車Dで支持されている使用状態の車体Bを下方移動不能に支える車体支持工程aと、前記車体支持工程aの終了後に前記ダイヤフラム3内の空気を抜くエア抜き工程bと、前記エア抜き工程bの終了に伴って前記内筒2と前記枠体4との上下間に形成される間隙kにスペーサSを介装するスペーサ装着工程cと、を有して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、弾性手段によって空気ばねとしてのばね下質量側部分を枠体に対して所定量浮上させることが可能であるから、車体を下がらないように支え、かつ、ダイヤフラムの空気を抜くだけで内筒と台車との上下間に高さ調節用のスペーサを装着して高さ調節することが可能になる。これは、電線やホース類を外す作業、車体を持上げる作業、台車を車体下から取り出す作業、という従来では必要であった面倒で時間の掛る種々の作業が省略できることになる。その結果、車輪摩耗時における高さ調節の作業の簡単化や効率化が可能となるように、構造工夫された鉄道車両用空気ばねを提供することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、空気ばねを台車に支持させる構造として多用される軸支持構造に着目し、空気ばねに構成要素である下向き支持突起に穴を形成してコイルバネを装備して弾性手段とするものであり、空気ばねの構造を用ることで装置の大型化を招くことなく、またコストアップも殆ど生じない合理的な状態で弾性手段を装備できる利点がある。この場合、請求項3のように、下向き支持突起と上向き穴とが縦軸心を有する円柱状どうしの嵌合構造とすれば、作り易くてコイルバネの設置がし易く、かつ、空気ばねと台車との装脱も行い易いという利点が追加される。
【0014】
請求項4の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、車体を下がらないように支え、かつ、ダイヤフラムの空気を抜くだけで内筒と台車との上下間に高さ調節用のスペーサを装着して高さ調節することが可能であって、電線やホース類を外す作業、車体を持上げる作業、台車を車体下から取り出す作業、という従来では必要であった面倒で時間の掛る種々の作業が省略できることになる。従って、請求項1の発明による効果と同等の効果(高さ調節作業の簡単化や効率化が可能)が発揮可能な鉄道車両の高さ調節方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明による鉄道車両用空気ばね及び鉄道車両の高さ調節方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は通常時(使用状態)の空気ばねを示す断面図、図2は高さ調節時の空気ばねを示す断面図、図3はスペーサの平面図と断面図、図4は本発明による高さ調節作業の工程図である。
【0016】
〔実施例1〕
実施例1による鉄道車両用空気ばねAは、図1,図2に示すように、車体B側の外筒1と、その下方に配置されて台車Dの枠体4に支持される内筒2と、これら外筒1と内筒2とに亘って配備されるゴム(弾性材の一例)製のダイヤフラム(ベローズ)3と、積層ゴム5を介して内筒2に固定される枢軸(下向き支持突起の一例)6と、を有して構成されている。そして、車輪が摩耗して外径が明確に小径化した際に行う高さ調節作業時に、その高さ調節作業の簡単化、省力化、効率化の各点で威力を発揮する弾性手段7が、枢軸6に装備されている。
【0017】
外筒1は、上下二枚の鋼板から成る円形等の平面視形状を有する支持座1aと、これの下面に固着される筒部1bと、筒部1bの下端部に固着される下端プレート1c、支軸1d等から構成されており、筒部1bの外径側で、かつ、支持座1aの下面側にはゴム製でリング状の上受座1eが装備されている。軸心Pを有して車体Bの支持穴18に内嵌される支軸1dは、下端プレート1cから支持座1aを貫通して上方突出する状態で取付けられている。上受座1eは、ダイヤフラム3の上部3aを広い面積でもって受け止める機能、及び筒部1bとの協働によってダイヤフラム3の上端ビード部3bを支持する機能を発揮可能に構成されている。下端プレート1cの下側には、ステンレス鋼板製の摺動板8が取付けられている。
【0018】
内筒2は、リング状の基板2aと、これの上面側にボルト止めされる規制板2bとから構成されており、基板2aの外周部に固定される下受座9に、ダイヤフラム3の下端ビード部3cを載せ付けて受け止め支持されるように構成されている。下受座9は、鋼板製の補強部9Aと、これの上に積層されるゴム製の受部材10とから構成されている。そして、規制板2bにはストッパーゴム11が載置固定され、その上には摺動板12が装備されている。
【0019】
積層ゴム5は、基板2aで成る上フランジと、枢軸6を有する下フランジ13との上下間に配備されるゴム層14、及びゴム層14の外周側にて上下二枚で介装されるリング鋼板15,15を設けて構成されている。支軸1dと互いに同じ軸心Pを持つ枢軸6は、下向き開放状の上向き穴6aを有して底面視で円環形を為す中空円柱状の突起に形成されており、枠体4に一体装備されている有底筒状の受部16の下向き支持穴17に内嵌されている。
【0020】
枢軸6に下面開放状態で形成される上向き穴6aにはコイルバネ19が内装されており、このコイルバネ19によって前述の弾性手段7が構成されている。コイルバネ19は、内筒2、積層ゴム5、及びダイヤフラム3の下部を含む空気ばねAとしてのばね下質量側に相当する部分Cを枠体4に対して所定量浮上可能とするばね定数並びに圧縮量が設定されている。空気ばねAのばね下質量は、簡単には空気ばねAの全質量から、外筒1の質量とダイヤフラム3の質量の約半分とを引いた重さと考えて良いが、現実には余裕を見て、空気ばねAの全質量から外筒1の質量を引いた重さとして計算すれば無難である。
【0021】
コイルバネ19による弾性手段7を設けたことにより、図2に示すように、車体Bを下降移動しないように支えた状態でダイヤフラム3から空気を抜くと、圧縮状態で上向き穴6aに装備されて常時作用しているコイルバネ19の伸張方向への弾性復元力、即ち、空気ばねAとしてのばね下部分Cを矢印イで示す上向きの力により、台車Dに対してばね下部分Cが所定量L持上げられて浮上し、間隙kが形成される状態がもたらされる。つまり、弾性手段5の機能により、ダイヤフラム3のエア抜きに伴って自動的に枠体4と下フランジ13との上下間に隙間が生じるようになっている。
【0022】
以上のような構成の空気ばねAを有する鉄道車両における高さ調節作業について説明する。先に、高さ調節に用いるスペーサSについて説明すれば、図3(a),(b)に示すように、切欠き21を有する厚さmの円形鋼板20で構成されている。切欠き21は、円形鋼板20の中心Xを中心とする半径rの孔部22と、その孔部22の径の幅でもって外周まで直線状に延長されて成る直線空隙部23とで成り、孔部22の半径rは、枢軸6の直径より僅かに大きい。円形鋼板20の径は、下フランジ13の径より少し小さいものに設定されているが、これにはこだわらない。
【0023】
さて、車輪(図示省略)が摩耗して車体Bの高さが明確(例:1〜2cm)に低下すると車両メンテナンスの際に高さ調節が行われる。その鉄道車両の高さ調節方法は、図4に示すように、車体支持工程a→エア抜き工程b→スペーサ装着工程c(図2参照)→エア充填工程(エア抜き工程の逆工程)d→車体支持解除工程(車体支持工程の逆工程)e、という具合になる。尚、車体Bの重量が空気ばねAに作用する通常の状態では、コイルバネ19は伸張できず、下フランジ13が枠体4に当接しているのは言うまでもない。
【0024】
車体支持工程aは、例えば、油圧ジャッキ等の支持手段を用いて車体Bを支えるという具合に、空気ばねAを介して台車Dで支持されている使用状態の車体Bを下方移動不能に支える工程である。エア抜き工程bは、車体支持工程aの終了後にダイヤフラム3内の空気を抜く工程である。スペーサ装着工程cは、図3に示すスペーサSを、その切欠き21に枢軸6が入り込む状態で枠体4と下フランジ板13との上下間に差し込む工程である。エア充填工程dはダイヤフラム3にエアを入れる工程であり、車体支持解除工程eは、車体Bを支えている油圧ジャッキ等の支持手段を取り除く工程である。
【0025】
つまり、車体Bと台車Dとの上下間に空気ばねAが介装されている鉄道車両を用意し、空気ばねAを介して台車Dで支持されている使用状態の車体Bを下方移動不能に支える車体支持工程aと、車体支持工程aの終了後にダイヤフラム3内の空気を抜くエア抜き工程bと、エア抜き工程bの終了に伴って内筒2と枠体4との上下間に形成される間隙kにスペーサSを介装するスペーサ装着工程cと、を有して成る高さ調節方法である。尚、間隙kの高さLと、スペーサSの厚みmとには、L>mの関係が設定されている。
【0026】
本発明による空気ばねAを装備する鉄道車両において高さ調節する場合、車体Bが下がらないように支持してからダイヤフラム3のエア抜きを行うのみでスペーサSの装着が行えるので、従来の高さ調節(図5参照)では必要であった、前処理工程、ジャッキアップ工程、台車取出し工程、吊上げ工程の各工程が不要になり、工程数削減による大幅な時間短縮、作業の簡単化、作業の効率化が図れるものとなっている。
【0027】
〔別実施例〕
弾性手段7としては、図示は省略するが、1.軸心P回りの均等角度ごとに厚板製下フランジ13に上向き穴を形成して、その上向き穴にコイルバネを入れ込んでおく、という構成も可能である。また、2.枠体4に形成される下向き穴にコイルバネを入れ込んでおく、という構成も可能である。また、3.下フランジ13と枠体4との双方に穴を設けてそれら上下の穴に跨ってコイルバネを入れる構成や、4.下フランジ13の下面側に形成される長溝に板ばねを入れておく、という構成も可能である。尚、3.や4.の構成は、台車Dも構成要件として成立するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】鉄道車両用空気ばねの構造を示す断面図(実施例1)
【図2】ダイヤフラムがエア抜きされた空気ばねの断面図
【図3】スペーサを示し、(a)は平面図、(b)は断面図
【図4】本発明の空気ばねを用いた場合の高さ調節作業に要する工程の一覧図
【図5】従来の空気ばねを用いた場合の高さ調節作業に要する工程の一覧図
【符号の説明】
【0029】
1 外筒
2 内筒
3 ダイヤフラム
4 枠体
6 下向き支持突起
6a 上向き穴
7 弾性手段
17 支持穴
19 コイルバネ
A 空気ばね
B 車体
C 空気ばねとしてのばね下質量側に相当する部分
D 台車
S スペーサ
a 車体支持工程
b エア抜き工程
c スペーサ装着工程
k 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側の外筒と、その下方に配置されて台車の枠体に支持される内筒と、これら外筒と内筒とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラムと、を有して成る鉄道車両用空気ばねであって、
前記内筒と前記枠体との間に、前記内筒及び前記ダイヤフラムの下部を含む空気ばねとしてのばね下質量側に相当する部分を前記枠体に対して所定量浮上可能とする弾性手段が介装されている鉄道車両用空気ばね。
【請求項2】
前記内筒には、前記枠体に形成される下向きの支持穴に内嵌される下向き支持突起が設けられており、前記下向き支持突起に下面開放状態で形成される上向き穴に装備されるコイルバネによって前記弾性手段が構成されている請求項1に記載の鉄道車両用空気ばね。
【請求項3】
前記支持穴が平面視で円形を為す円柱状の穴であり、前記下向き支持突起が底面視で円形を為す中空円柱状の突起である請求項2に記載の鉄道車両用空気ばね。
【請求項4】
車体と台車との上下間に請求項1〜3の何れか一項に記載の鉄道車両用空気ばねが介装されている鉄道車両を用意し、空気ばねを介して台車で支持されている使用状態の車体を下方移動不能に支える車体支持工程と、前記車体支持工程の終了後に前記ダイヤフラム内の空気を抜くエア抜き工程と、前記エア抜き工程の終了に伴って前記内筒と前記枠体との上下間に形成される間隙にスペーサを介装するスペーサ装着工程と、を有して成る鉄道車両の高さ調節方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−76608(P2010−76608A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247446(P2008−247446)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】