説明

鉄道車両用軸受の評価試験装置

【課題】クイル式駆動装置の車軸を支持する転がり軸受の性能を的確に評価試験することと、この評価試験を高い作業効率で行なえるようにすることである。
【解決手段】評価試験される試験軸受を、回転軸3の拡径段差部3aに両側へ張り出すように外嵌されるスリーブ5に、実機のクイルと同様の張り出し部位で外嵌することにより、試験軸受の性能を実機の使用状態に近い試験条件で的確に評価試験できるようにするとともに、スリーブ5が外挿される回転軸3の拡径段差部3aの手前側に、拡径段差部3aよりも外径がわずかに小径のパイロットスリーブ10を外嵌し、このパイロットスリーブ10の外径面で、外挿されるスリーブ5を回転軸3の拡径段差部3aにスムーズに案内して外嵌できるようにすることにより、評価試験を高い作業効率で行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸を支持する転がり軸受の評価試験を行う鉄道車両用軸受の評価試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、車輪21の車軸22に取り付けられた大歯車23に、回転駆動源から駆動力を伝達される小歯車24を噛み合わせて、車軸22を回転駆動する鉄道車両用駆動装置には、車軸22に拡径段差部22aを設け、この拡径段差部22aに、大歯車23が取り付けられる中空のクイル25を、拡径段差部22aの両側へ張り出すように外嵌して、クイル25の拡径段差部22aから両側へ張り出す部位を、一対の転がり軸受26によって支持し、車軸22と駆動装置との間を緩衝するようにしたクイル式駆動装置がある。
【0003】
一方、鉄道車両用駆動装置の車軸を支持する転がり軸受は優れた安全性と耐久性が要求され、これらの性能を評価試験するために、評価試験される試験軸受を、車軸に相当し、回転駆動される回転軸に外嵌して、アキシアル荷重やラジアル荷重を負荷する評価試験装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−181666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、鉄道車両の車軸を支持する転がり軸受にはより高い安全性が要求され、その評価試験も、実機での使用状態に近い試験条件で行うことが求められている。クイル式駆動装置の車軸を支持する転がり軸受は、車軸の拡径段差部の両側で車軸から浮き上がったクイルの張り出し部に外嵌され、このクイルの張り出し部の撓み変形に伴って、軸方向で傾斜したり、振動したりするので、特許文献1に記載されたように、車軸に相当する回転軸に試験軸受を直接外嵌する評価試験装置では、その性能を的確に評価試験できない問題がある。
【0006】
前記評価試験装置での試験条件を実機での使用状態に近づけるために、車軸に相当する回転軸に拡径段差部を設けて、この拡径段差部にクイルに相当するスリーブを両側へ張り出すように外嵌するものとすると、局所的に段違いとなった回転軸の拡径段差部にスリーブをスムーズに外嵌することができず、評価試験毎の作業効率が著しく低下する問題がある。
【0007】
また、評価試験毎にスリーブを回転軸の拡径段差部に外嵌するときに、スリーブを外挿する側で拡径段差部の外径肩部やスリーブの内径肩部にかじりが生じたり、拡径段差部の外径面とスリーブの内径面との間で凝着が生じたりする恐れもある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、クイル式駆動装置の車軸を支持する転がり軸受の性能を的確に評価試験することと、この評価試験を高い作業効率で行なえるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、鉄道車両の車軸の拡径段差部に両側へ張り出すように外嵌されるクイルを介して、このクイルの拡径段差部から両側へ張り出す部位で車軸を支持する一対の転がり軸受の評価試験を行う鉄道車両用軸受の評価試験装置であって、前記車軸に相当し、拡径段差部を有する回転軸と、この回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記クイルに相当し、前記回転軸の拡径段差部に両側へ張り出すように外嵌されるスリーブと、このスリーブの前記拡径段差部から両側へ張り出す部位に外嵌される前記評価試験用の一対の転がり軸受を収納する軸受箱と、この評価試験用の転がり軸受に荷重を負荷する負荷手段とからなり、前記スリーブが外嵌用に外挿される前記回転軸の拡径段差部の手前側に、この拡径段差部よりも外径がわずかに小径のパイロットスリーブを外嵌し、このパイロットスリーブの外径面で前記外挿されるスリーブを案内して、前記回転軸の拡径段差部に外嵌するようにした構成を採用した。
【0010】
すなわち、評価試験される試験軸受を、回転軸の拡径段差部に両側へ張り出すように外嵌されるスリーブに、実機のクイルと同様の張り出し部位で外嵌することにより、試験軸受の性能を実機の使用状態に近い試験条件で的確に評価試験できるようにするとともに、スリーブが外嵌用に外挿される回転軸の拡径段差部の手前側に、この拡径段差部よりも外径がわずかに小径のパイロットスリーブを外嵌し、このパイロットスリーブの外径面で外挿されるスリーブを案内して、回転軸の拡径段差部に外嵌することにより、スリーブを回転軸の拡径段差部にスムーズに外嵌できるようにして、評価試験を高い作業効率で行えるようにした。
【0011】
前記パイロットスリーブの外径面に、前記スリーブが外挿される側へ拡径するテーパを付与することにより、スリーブをよりスムーズに回転軸の拡径段差部へ案内することができる。
【0012】
前記スリーブが外挿される側の前記回転軸の拡径段差部の外径肩部と、この拡径段差部に外挿される側の前記スリーブの内径肩部とに、それぞれR面取りを設けることにより、スリーブを拡径段差部に外嵌するときの拡径段差部の外径肩部やスリーブの内径肩部でのかじりを防止することができる。
【0013】
前記回転軸の拡径段差部の外径面と、この外径面に外嵌される前記スリーブの内径面の少なくともいずれか一方に、硬質めっき皮膜または硬質溶射皮膜を形成することにより、スリーブを拡径段差部に外嵌するときの拡径段差部の外径面とスリーブの内径面との間での凝着を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉄道車両用軸受の評価試験装置は、評価試験される試験軸受を、回転軸の拡径段差部に両側へ張り出すように外嵌されるスリーブに、実機のクイルと同様の張り出し部位で外嵌し、スリーブが外嵌用に外挿される回転軸の拡径段差部の手前側に、この拡径段差部よりも外径がわずかに小径のパイロットスリーブを外嵌して、このパイロットスリーブの外径面で外挿されるスリーブを案内し、回転軸の拡径段差部にスムーズに外嵌できるようにしたので、クイル式駆動装置の車軸を支持する転がり軸受の性能を的確に評価試験することができ、かつ、この評価試験を高い作業効率で行うことができる。
【0015】
前記パイロットスリーブの外径面に、スリーブが外挿される側へ拡径するテーパを付与することにより、スリーブをよりスムーズに回転軸の拡径段差部へ案内することができる。
【0016】
前記スリーブが外挿される側の回転軸の拡径段差部の外径肩部と、この拡径段差部に外挿される側のスリーブの内径肩部とに、それぞれR面取りを設けることにより、スリーブを拡径段差部に外嵌するときの拡径段差部の外径肩部やスリーブの内径肩部でのかじりを防止することができる。
【0017】
前記回転軸の拡径段差部の外径面と、この外径面に外嵌されるスリーブの内径面の少なくともいずれか一方に、硬質めっき皮膜または硬質溶射皮膜を形成することにより、スリーブを拡径段差部に外嵌するときの拡径段差部の外径面とスリーブの内径面との間での凝着を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この鉄道車両用軸受の評価試験装置は、図1に示すように、基台1のフレーム1aに支持軸受2で支持された車軸に相当する回転軸3と、回転軸3に駆動モータ(図示省略)からの回転駆動力を伝達するプーリ4と、回転軸3の拡径段差部3aに両側へ張り出すように外嵌されたクイルに相当するスリーブ5と、スリーブ5の拡径段差部3aから両側へ張り出す部位に外嵌される一対の転がり軸受を試験軸受6として収納する軸受箱7と、軸受箱7を介して試験軸受6にラジアル荷重を負荷する油圧シリンダ8と、回転軸3を介して試験軸受6にアキシアル荷重を負荷する油圧シリンダ9とで基本的に構成されている。この実施形態では、試験軸受6は一対の円錐ころ軸受とされている。
【0019】
前記回転軸3は、別の架台上でスリーブ5を外嵌されるとともに、試験軸受6を収納した軸受箱7を組み付けられたのち、評価試験装置の基台1のフレーム1aに取り付けられる。図2(a)に矢印で示すように、前記スリーブ5は、右方から回転軸3に外挿され、拡径段差部3aの手前側で回転軸3に外嵌された外径が拡径段差部3aよりもわずかに小径のパイロットスリーブ10に案内されながら、拡径段差部3aに外嵌される。パイロットスリーブ10の外径面には、スリーブ5を拡径段差部3aへスムーズに案内できるように、スリーブ5が外挿される右方へ縮径するテーパ10aが付与されている。なお、パイロットスリーブ10は、スリーブ5が拡径段差部3aに外嵌された後、回転軸3から抜き取られる。
【0020】
図2(b)に拡大して示すように、前記スリーブ5が外挿される側の拡径段差部3aの外径肩部とこの拡径段差部3aに外挿される側のスリーブ5の内径肩部にはそれぞれR面取り11a、11bが設けられ、スリーブ5を拡径段差部3aに外嵌するときに、これらの肩部でかじりが生じないようになっている。これらのR面取り11a、11bは、2mmR以上とするのが好ましい。また、拡径段差部3aの外径面には、硬質めっき皮膜としての硬質クロムめっき皮膜12が形成され、スリーブ5が外嵌されるときに、スリーブ5の内径面との間で凝着が生じないようになっている。この硬質クロムめっき皮膜12は、他の硬質めっき皮膜や、ステンレス溶射皮膜等の硬質溶射皮膜とすることもでき、これらの硬質めっき皮膜や硬質溶射皮膜は、スリーブ5の内径面、または、拡径段差部3aの外径面とスリーブ5の内径面の両方に形成することもできる。なお、これらの硬質皮膜を両方に形成する場合は、互いに異なる種類のものとするのが好ましい。
【0021】
上述した実施形態では、回転軸がプーリを介して回転駆動されるものとしたが、回転軸はモータで直接、または歯車等を介して回転駆動してもよい。また、試験軸受を円錐ころ軸受としたが、試験軸受は、アンギュラ玉軸受等の他の転がり軸受であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】鉄道車両用軸受の評価試験装置の実施形態を示す縦断面図
【図2】aは図1の車軸の拡径段差部にスリーブを外嵌する状態を示す縦断面図、bはaの要部を拡大して示す断面図
【図3】鉄道車両用クイル式駆動装置を示す縦断面図
【符号の説明】
【0023】
1 基台
1a フレーム
2 支持軸受
3 回転軸
3a 拡径段差部
4 プーリ
5 スリーブ
6 試験軸受
7 軸受箱
8、9 油圧シリンダ
10 パイロットスリーブ
10a テーパ
11a、11b R面取り
12 硬質クロムめっき皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車軸の拡径段差部に両側へ張り出すように外嵌されるクイルを介して、このクイルの拡径段差部から両側へ張り出す部位で車軸を支持する一対の転がり軸受の評価試験を行う鉄道車両用軸受の評価試験装置であって、前記車軸に相当し、拡径段差部を有する回転軸と、この回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記クイルに相当し、前記回転軸の拡径段差部に両側へ張り出すように外嵌されるスリーブと、このスリーブの前記拡径段差部から両側へ張り出す部位に外嵌される前記評価試験用の一対の転がり軸受を収納する軸受箱と、この評価試験用の転がり軸受に荷重を負荷する負荷手段とからなり、前記スリーブが外嵌用に外挿される前記回転軸の拡径段差部の手前側に、この拡径段差部よりも外径がわずかに小径のパイロットスリーブを外嵌し、このパイロットスリーブの外径面で前記外挿されるスリーブを案内して、前記回転軸の拡径段差部に外嵌するようにしたことを特徴とする鉄道車両用軸受の評価試験装置。
【請求項2】
前記パイロットスリーブの外径面に、前記スリーブが外挿される側へ拡径するテーパを付与した請求項1に記載の鉄道車両用軸受の評価試験装置。
【請求項3】
前記スリーブが外挿される側の前記回転軸の拡径段差部の外径肩部と、この拡径段差部に外挿される側の前記スリーブの内径肩部とに、それぞれR面取りを設けた請求項1または2に記載の鉄道車両用軸受の評価試験装置。
【請求項4】
前記回転軸の拡径段差部の外径面と、この外径面に外嵌される前記スリーブの内径面の少なくともいずれか一方に、硬質めっき皮膜または硬質溶射皮膜を形成した請求項1乃至3のいずれかに記載の鉄道車両用軸受の評価試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−26026(P2008−26026A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195842(P2006−195842)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】