説明

鉄道通信システム

【課題】従来のネットワーク構成では、以下の課題がある。(1)多段構成であるため、中央装置−末端装置間のレスポンスが悪い。(2)中間階層で中継装置,制御装置を経由するため装置数が増え信頼性が下がる。(3)装置数が多い分、保守負荷が高い。(4)各階層毎のプロトコルの違いや異常時の再送処理により、ネットワークの位置,時間によりネットワーク負荷が変動し、システムが安定しない。
【解決手段】論理的に共通プロトコルで階層のない1段構成のネットワークと各装置に分散実装した一定周期で情報収集・配信を繰り返すソフトウェアにより、ネットワーク全域で定常時・異常時によらず一定負荷であり、安定したシステムを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道システムに用いられる制御系ネットワークのアーキテクチャに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道信号システムにおける制御系ネットワークの構成は、図1に示すような構成となっている。制御系ネットワークの構成は、上位ネットワークと下位ネットワークで構成され物理的,論理的に多段構成となっていることが一般的である。ここで上位ネットワークとは、論理部や中央装置とIO統括部や駅装置などの中継装置の間を接続し、例えば光回線を使ったイーサネット(登録商標)をループ状に構成して長距離通信を行うネットワークである。また、下位ネットワークとは、IO統括部や駅装置などの中継装置と軌道周辺機器や信号機や転てつ機や放送装置や発車標といった端末装置の間を接続し、例えばメタル回線を使ったシリアル通信回線をバス接続して短距離通信を行うネットワークである。また、情報収集配信の親局(ネットワークマスタ)を配置することが一般的である。図1では、論理部や中央装置が親局(ネットワークマスタ)となっている。
【0003】
一般に、制御系ネットワークの構成に関する技術としては、例えば、特許文献1や特許文献2等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−94731号公報
【特許文献2】特開2009−118298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1に示すような従来のネットワーク構成では、以下の問題が発生していた。
(1)応答速度の低下
論理層のプロトコル変換を行うため上位と下位ネットワークの間にソフトウェアを実装した中継装置(IO統括部や駅装置等)が必要となり、中央〜末端装置間の応答速度が悪くなる。
(2)装置数増大による信頼性低下
中継装置がある分、装置数が増大し、システム全体の信頼性が低下する。
(3)親局(ネットワークマスタ)による信頼性低下
情報収集配信の親局(ネットワークマスタ)が存在する構成においては、ネットワークマスタが停止した場合に、ネットワーク全体が停止してしまうため、ネットワークの信頼性が低下する。
(4)定常負荷と異常負荷の違い
鉄道信号システムにおいては、安定した稼動を実現するために、定常負荷と異常負荷が同一であることが求められる。しかし、ネットワークが上位と下位のように多段で構成されると、各ネットワーク毎に異なるプロトコルが存在し、各々で異なる伝送周期,異常処理が発生するためネットワーク全体として負荷や伝送周期,異常処理を均一にできず、定常負荷と異常負荷に差異が発生する。
(5)保守負荷の増大
中継装置がある分、装置数が増大し、システム構成が複雑となり、維持保守負荷が高くなる。
【0006】
本発明は、鉄道信号システムに用いられるネットワークのプロトコルを統一して、論理的に1段構成とすることで、中継装置を不要とし、ネットワークの信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鉄道通信システムは、以下の少なくとも1つの特徴を有している。
【0008】
複数の端末装置及び中央装置は、一つの通信ネットワークを介して互いに電文を送受信する。
【0009】
または、通信ネットワークは、共通のプロトコルで構成された一つの通信ネットワークである。
【0010】
または、複数の端末装置及び中央装置は、それぞれ通信ネットワークへ一周期に少なくとも一回電文を送信して、一周期で互いの電文を送受信する。
【0011】
または、端末装置及び中央装置は、それぞれ電文を送信する時刻を管理する送信時刻管理手段を備え、送信時刻管理手段は、自装置が前記通信ネットワークへ一周期に一回の送信を行うように送信時刻を管理する。
【0012】
または、送信時刻管理手段は、電文の送信時刻または電文の受信時刻の情報を用いて、自装置が次に送信を行う時刻を算出する。
【0013】
または、送信時刻管理手段は、自装置が電文を送信した時刻及び他装置から電文を受信した時刻を記憶するための送信時刻管理テーブルを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄道信号システムに用いられるネットワークのプロトコルを統一して、論理的に1段構成とすることで、中継装置を不要とし、ネットワークの信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のネットワーク構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例のネットワーク構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例の情報配信の概念図である。
【図4】本発明の実施例の情報収集の概念図である。
【図5】本発明の実施例の情報収集配信のタイムチャート図(正常時)である。
【図6】本発明の実施例の送信時刻管理テーブルの動きを示す図である。
【図7】本発明の実施例の送信時刻管理テーブルの動きを示す他の図である。
【図8】本発明の実施例の情報収集配信のタイムチャート図(1周期分)である。
【図9】本発明の実施例の情報収集配信のタイムチャート図(異常時)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図2に本発明の鉄道信号システムに用いられるネットワーク構成図の一実施例を示す。鉄道信号システムは、保安系の端末装置3(信号機,軌道周辺機器,転てつ機など)、非保安系の端末装置3(発車標,放送装置など)、制御指令を生成して保安系の端末装置及び非保安系の端末装置に制御指令を送信する中央装置1を備えている。ここでは、端末装置として複数の機器が接続された実施例を説明するが、信号機,軌道周辺機器,転てつ機,発車標,放送装置の少なくとも一つの機器が通信ネットワークに接続されていれば、本発明を適用することは可能である。また、本実施例における中央装置1とは、例えば1つの鉄道信号システムを構成するネットワークにおいて当該ネットワークの最上位に位置する装置である。
【0017】
図2に示すように、中央装置1と末端装置3は、中継装置を介さずに論理的に1段で接続し、共通の通信プロトコルを有する1つのネットワークで接続する。物理層の媒体が異なる場合、メディアコンバータ(物理層の中継器)を用い接続する。
【0018】
図3に図2に示すネットワーク構成を使って情報配信を行った場合の概念図を示す。
【0019】
図3において、仮想の情報収集配信装置(HRT)4を設置し、一定周期で中央装置及び端末装置へ情報配信を行う。例えば共通のイーサネットプロトコルを用いてブロードキャストで中央装置及び端末装置へ情報を配信する。
【0020】
図4に図2に示すネットワーク構成を使って情報収集を行った場合の概念図を示す。
【0021】
図4において、中央装置及び端末装置は、仮想の情報収集配信装置(HRT)4へ、順番に時分割で情報を送信する。例えば共通のイーサネットプロトコルを用いて情報収集配信装置(HRT)4へ送信する。
【0022】
図3,図4の情報配信,収集を一定周期で繰り返すことにより、中央装置及び各端末装置は、1つのネットワークを介して互いにデータ授受を行う。
【0023】
図3,図4において説明した情報収集配信装置(HRT)4は仮想の装置であり、仮想の情報収集配信装置(HRT)4の機能は、実際には中央装置及び端末装置に分散して配置される。つまり、中央装置及び端末装置のそれぞれの装置に、電文を送信する時刻を管理する送信時刻管理手段を備え、この送信時刻管理手段は、自装置が前記通信ネットワークへ一周期に少なくとも一回の送信を行うように送信時刻を管理する。
【0024】
図5〜図9により、仮想の情報収集配信装置(HRT)4の機能を実現するために、中央装置及び端末装置のそれぞれに備えられた送信時刻管理手段の動作について、説明する。
【0025】
本実施例では、同一ネットワークに接続された中央装置及び端末装置に対応する装置として、装置1〜装置5の動作を説明する。
【0026】
情報収集配信装置(HRT)4の機能を実現するため、中央装置及び各端末装置は、送信時刻管理テーブルを有し、当該テーブルに従って情報の送受信を行う。図6〜図8により中央装置及び各端末装置が持つ送信時刻管理テーブルについて説明する。
【0027】
図8は、装置1〜装置5が電文の送受信を行う動作を時系列に示した図である。装置1から装置5の順にΔt間隔で、各装置から電文がブロードキャスト送信される。
【0028】
送信時刻管理テーブルは、図6,図7に示すように、自装置からのデータ送信時刻および他装置からのデータ受信時刻を格納するテーブルであり、本実施例では装置1から装置5に対応するブロック1〜ブロック5で構成する。
【0029】
装置1を例にとり、送信時刻管理テーブルの動きを説明する。
【0030】
図6は自装置から他装置へデータを送信する場合の送信時刻管理テーブルの動きを説明する図である。装置1は、自装置からデータを送信する場合に、自装置のブロック1に送信時刻T1を格納する。この送信時刻の格納は、送信結果によらず必ず格納する。また、同時に他ブロック(2〜5)には時刻無しとする(クリアする)。
【0031】
図7は他装置からデータを受信する場合の送信時刻管理テーブルの動きを説明する図である。装置1は、自装置からデータ送信後、他装置(装置2〜装置5)からデータを受信する場合に、当該ブロック(ブロック2〜ブロック5)へ各装置データ受信時刻T2〜T5を格納する。
【0032】
装置1は、他装置からデータを受信する際に図7に示すように送信時刻管理テーブルを記載した後、再び自装置からデータ送信を行い、以降図6と図7に示す処理を繰り返す。
【0033】
装置2から装置5も上述と同様に、自装置からデータを送信する時刻を送信時刻管理テーブルに格納し、他装置からデータを受信した時刻を送信時刻管理テーブルに格納する。
【0034】
図5に、ネットワークが正常である場合の、仮想の情報収集配信装置(HRT)4の機能を実現するための実際のデータの流れを示す。
【0035】
まず、時刻T1に、装置1から他装置(装置2〜装置5)へ電文を送信する。
【0036】
次に、装置2は、1つ前の番号である装置1からのデータ受信時刻T1からΔt秒後である時刻T2に、他の各装置(装置1,3〜5)にブロードキャストで電文を送信する。
【0037】
次に、装置3は、1つ前の番号である装置2からのデータ受信時刻T2からΔt秒後である時刻T3に、他の各装置(装置1,2,4,5)にブロードキャストで電文を送信する。
【0038】
次に、装置4は、1つ前の番号である装置3からのデータ受信時刻T3からΔt秒後である時刻T4に、他の各装置(装置1,2,3,5)にブロードキャストで電文を送信する。
【0039】
次に、装置5は、1つ前の番号である装置4からのデータ受信時刻T4からΔt秒後である時刻T5に、他の各装置(装置1〜4)にブロードキャストで電文を送信する。
【0040】
以降、各装置が上記動作を繰り返す。
【0041】
ここで、装置1における次回の送信時刻T6の算出方法は以下である。
【0042】
(a)T1設定後、 T1+(5×Δt秒)
(b)T2有りの場合、T2+(4×Δt秒)
(c)T3有りの場合、T3+(3×Δt秒)
(d)T4有りの場合、T4+(2×Δt秒)
(e)T5有りの場合、T5+(1×Δt秒)
ネットワークが正常である場合は、装置5から電文を受信可能であり、時刻T5に装置5から電文を受信する(T5有り)ので、装置1は時刻T5からΔt秒後を次回の送信時刻T6として算出し、算出した当該時刻T6に装置1から再びブロードキャストで電文を各装置(本例では装置2〜5)に送信する。
【0043】
装置1が送信することで、装置2以降の各装置はΔt秒の間隔で電文の送信を繰り返す。
【0044】
時刻T1から時刻T6までの時間は、各装置における電文の送信周期である。また、例えば時刻T1から時刻T2までの時間は、各装置における電文の受信周期である。
【0045】
このように、本発明の鉄道信号システムは、当該一定周期で各装置へブロードキャスト送信を行い、前記一定周期を時分割した時間間隔でデータ受信を行うことにより、図3,図4で示したような一定周期の情報収集,配信を実現している。また、本実施例では、送信時刻管理手段(情報収集配信ソフトウェア)を各装置に分散配置することにより、情報収集配信の親局(ネットワークマスタ)を不要とすることができ、ネットワークマスタ停止によるネットワーク全体停止を排除し、ネットワークの信頼性を向上させることができる。
【0046】
また、複数の装置間をメディアコンバータ(信号を相互に中継する装置)で接続し、ネットワーク全体でプロトコルを統一し、ネットワークを論理的に1段構成とすることにより、中継装置が不要となり、中央〜末端装置間のレスポンスを向上させることができ、さらに、中継装置が無い分、装置数が減少し、システム全体の信頼性を向上させることができ、中継装置が無い分、装置数が減少し、システム構成がシンプルとなり、維持保守負荷を軽減することができる。
【0047】
また、ネットワークを1段構成、ネットワーク全域に渡り、一定周期に情報収集配信を繰り返すことで、ネットワーク全体として負荷や伝送周期,異常処理を統一し、定常負荷と異常負荷が同じで安定したシステムを実現できる。
【0048】
装置2〜5についても、上記した装置1と同様の動作を行う。
【0049】
図9に、ネットワークが異常である場合の、仮想の情報収集配信装置(HRT)4の機能を実現するための実際のデータの流れを示す。
【0050】
本例では、装置5が停止して電文の送受信不可能となった場合を説明する。図9において、最初の装置1から装置4までの動作は正常時(図5)と同様である。装置5は停止しているため、装置1では時刻T5でデータを送信できず、装置1の送信時刻管理テーブルのブロック5は時刻無しのままとなる。
【0051】
装置1は、上述した(d)の算出式により((a)〜(c)も可能)次周期の装置1の送信時刻を算出し、次装置4からの受信時刻T4から2×Δt秒後に各装置へデータを送信する。
【0052】
装置1が時刻T6に電文を送信することで、装置2以降Δt秒間を空けながら送信を繰り返す。ただし、停止している装置5は除く。
【0053】
時刻T1から時刻T6までの時間は、各装置における電文の送信周期である。また、例えば時刻T1から時刻T2までの時間は、各装置における電文の受信周期である。このように、本発明の鉄道信号システムは、当該一定周期で各装置へブロードキャスト送信を行い、前記一定周期を時分割した時間間隔でデータ受信を行うことにより、図3,図4で示したような一定周期の情報収集,配信を実現している。停止している装置を除いて、装置2〜5についても、上記した装置1と同様の動作を行う。
【0054】
本実施例では、一周期の間に各装置が一回の電文送信を行う例を示したが、一周期での送信回数は必ずしも一回である必要はなく、通信ネットワークに接続された一部の装置が、一周期の間に複数回の送信を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 中央装置,論理部
2 中継装置(駅装置またはIO統括部)
3 末端装置
4 仮想の情報収集配信装置(HRT)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号機,転てつ機,放送装置,発車標の少なくともいずれかを含む複数の端末装置と、
前記複数の端末装置の制御指令を生成して送信する中央装置と、
前記複数の端末装置及び中央装置を互いに接続する一つの通信ネットワークと、を備え、
前記複数の端末装置及び中央装置は、前記通信ネットワークを介して互いに電文を送受信することを特徴とする鉄道通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道通信システムにおいて、
前記通信ネットワークは、共通のプロトコルで構成された一つの通信ネットワークであることを特徴とする鉄道通信システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道通信システムにおいて、
前記複数の端末装置及び中央装置は、それぞれ前記通信ネットワークへ一周期に少なくとも一回電文を送信して、一周期で互いの電文を送受信することを特徴とする鉄道通信システム。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道通信システムにおいて、
前記端末装置及び中央装置は、それぞれ電文を送信する時刻を管理する送信時刻管理手段を備え、
前記送信時刻管理手段は、自装置が前記通信ネットワークへ前記一周期に一回の送信を行うように送信時刻を管理することを特徴とする鉄道通信システム。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道通信システムにおいて、
前記送信時刻管理手段は、電文の送信時刻または電文の受信時刻の情報を用いて、自装置が次に送信を行う時刻を算出することを特徴とする鉄道通信システム。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の鉄道通信システムにおいて、
前記送信時刻管理手段は、自装置が電文を送信した時刻及び他装置から電文を受信した時刻を記憶するための送信時刻管理テーブルを備えることを特徴とする鉄道通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−253701(P2012−253701A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126876(P2011−126876)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】