説明

鉄骨耐火被覆工法

【課題】乾式の鉄骨耐火被覆工法であって、施工性が良好であり、従来よりも小さな被覆厚みで十分な耐火性能を付与することができる鉄骨耐火被覆工法を提供する。
【解決手段】鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆する鉄骨耐火被覆工法であって、前記吸熱性成型体は、(1)有機樹脂成分と金属水和物とを含み、(2)前記有機樹脂成分は、非水系熱硬化性樹脂を含有し、(3)前記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であり、(4)前記有機樹脂成分と前記金属水和物との重量比が5:95〜90:10であり、(5)密度が0.8〜4g/cmである鉄骨耐火被覆工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨耐火被覆工法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構築物等の構造物が火災によって高温に晒された場合には、構造物の基材(鉄骨、コンクリート等)の機械的強度が急激に低下するという問題がある。これに対し、耐火被覆材を基材に塗布し、火災時の基材の温度上昇を遅延させて、基材の機械的強度の低下を抑制する耐火被覆工法が知られている。
【0003】
上記耐火被覆工法としては、例えば、セメント等の無機質バインダーに、1)ロックウール、ガラス繊維等の無機質繊維状物質、2)パーライト、バーミキュライト等の軽量骨材、3)結晶水を含有する無機質粉体等を適宜混合し、水と混練し、ペースト状又はスラリー状とした混合組成物を基材表面に厚付けする湿式耐火被覆工法が知られている(特許文献1、2等)。
【0004】
しかしながら、従来の湿式耐火被覆工法では、使用する材料の種類にもよるが、例えば、鉄骨鉄筋コンクリート構造物の柱、梁等に対する1時間耐火性能を得るために、20〜40mm程度のかなりの被覆厚みが必要となる。よって、施工時には大量の塗材を要するために取扱い面やコスト面から非常に不利である。また、厚付けのために施工部が基材表面から大幅に突出して外観上の圧迫感を与えることにもなる。更に、施工後に塗膜の剥離、脱離等が生じるおそれがある。
【0005】
上記湿式耐火被覆工法に代えて、乾式材料による耐火被覆工法も知られている。これは、予め用意された乾式成型体(例えば、乾式シート)を基材に被覆する方法である。乾式シートとしては、例えば、無機繊維混合マット、ロックウール、耐火ボード等が挙げられる(特許文献3等)。しかしながら、このような乾式材料を被覆する工法でも、従来、十分な耐火性を得るためには、被覆厚みを大きくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−96662号公報
【特許文献2】特開平10−147993号公報
【特許文献3】特開平6−136853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乾式の鉄骨耐火被覆工法であって、施工性が良好であり、従来よりも小さな被覆厚みで十分な耐火性能を付与することができる鉄骨耐火被覆工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定成分を有する吸熱性成型体を鉄骨基材に被覆する工法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の鉄骨耐火被覆工法に関する。
1.鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆する鉄骨耐火被覆工法であって、
前記吸熱性成型体は、
(1)有機樹脂成分と金属水和物とを含み、
(2)前記有機樹脂成分は、非水系熱硬化性樹脂を含有し、
(3)前記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であり、
(4)前記有機樹脂成分と前記金属水和物との重量比が5:95〜90:10であり、
(5)密度が0.8〜4g/cmである、
ことを特徴とする鉄骨耐火被覆工法。
2.前記吸熱性成型体はシート状及び/又はボード状である、上記項1に記載の鉄骨耐火被覆工法。
3.前記吸熱性成型体の片面には、前記鉄骨基材を被覆する側に補強層が積層されている、上記項2に記載の鉄骨耐火被覆工法。
4.前記吸熱性成型体の片面には、前記鉄骨基材を被覆する側とは反対側に熱反射層が積層されている、上記項2又は3に記載の鉄骨耐火被覆工法。
5.前記鉄骨基材の表面の一部又は全部に、前記吸熱性成型体を直接に又は空気層を介して間接に被覆する、上記項1〜4のいずれかに記載の鉄骨耐火被覆工法。
6.前記鉄骨基材は、H型、I型、角型及び丸型からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜5のいずれかに記載の鉄骨耐火被覆工法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鉄骨耐火被覆工法は、鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆する工法であって、
前記吸熱性成型体は、
(1)有機樹脂成分と金属水和物とを含み、
(2)前記有機樹脂成分は、非水系熱硬化性樹脂を含有し、
(3)前記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であり、
(4)前記有機樹脂成分と前記金属水和物との重量比が5:95〜90:10であり、
(5)密度が0.8〜4g/cmである、
ことを特徴とする。上記工法で用いる吸熱性成型体は、例えば、シート状又はボード状の形態で鉄骨基材を直接又は間接に被覆する態様で用いられる。この吸熱性成型体は、火災時に燃焼熱に晒された際に金属水和物の結晶水が脱水し、蒸発潜熱により被覆対象の鉄骨基材の温度上昇を抑制し、鉄骨基材に優れた耐火性能を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】角型鉄骨基材及び丸型鉄骨基材に対する耐火被覆態様のバリエーションを示す図である。
【図2】H型鉄骨基材に対する耐火被覆態様のバリエーションを示す図である。
【図3】壁パネルに近接して設けられた柱(角型鉄骨基材、丸型鉄骨基材及びH型鉄骨基材)に対する耐火被覆態様のバリエーションを示す図である。
【図4】天井に設けられた梁又は床板に設けられた支持基材(H型鉄骨基材)に対する耐火被覆態様のバリエーションを示す図である。
【図5】実施例1〜6の耐火被覆工法で用いた鉄骨基材を示す図である。実施例1〜2では図5−1で示される角型鉄骨基材を使用し、実施例3〜6では図5−2で示されるH型鉄骨基材を使用した。
【符号の説明】
【0012】
a:鉄骨基材(鉄骨鋼材)
b:吸熱性成型体
c:突合せ部分
d:重なり部分
e:耐火コーキング剤
f:ワッシャー
g:固定ピン
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の鉄骨耐火被覆工法は、鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆する工法であって、
前記吸熱性成型体は、
(1)有機樹脂成分と金属水和物とを含み、
(2)前記有機樹脂成分は、非水系熱硬化性樹脂を含有し、
(3)前記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であり、
(4)前記有機樹脂成分と前記金属水和物との重量比が5:95〜90:10であり、
(5)密度が0.8〜4g/cmであることを特徴とする。
【0015】
上記吸熱性成型体は、例えば、シート状又はボード状の形態で鉄骨基材を直接又は間接に被覆する態様で用いられる。特に、特定の有機樹脂成分と金属水和物を含むことにより、火災時に燃焼熱に晒された際に金属水和物の結晶水が脱水し、蒸発潜熱により被覆対象の鉄骨基材の温度上昇を抑制し、鉄骨基材に優れた耐火性能を付与する。
【0016】
上記吸熱性成型体は、吸熱性組成物を所望の形態に成型することにより得られる。即ち、上記(1)〜(4)の要件を満たす吸熱性組成物を用意し、上記(5)の要件を満たすように所望の形態(例えば、シート状やボード状)に成型することによって得られる。
【0017】
以下、吸熱性組成物及び吸熱性成型体、並びに当該吸熱性成型体を用いた鉄骨耐火被覆工法について説明する。
(吸熱性組成物及び吸熱性成型体)
本発明で用いる吸熱性組成物は、
(1)有機樹脂成分と金属水和物とを含み、
(2)前記有機樹脂成分は、非水系熱硬化性樹脂を含有し、
(3)前記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であり、
(4)前記有機樹脂成分と前記金属水和物との重量比が5:95〜90:10である、
ことを特徴とする。
【0018】
上記有機樹脂成分は、本明細書では、有機樹脂単独又は有機樹脂に必要に応じて可塑剤、触媒を添加した成分を言う。本発明では、有機樹脂として非水系熱硬化性樹脂を含有することにより、耐火性能等に優れる吸熱性組成物及び吸熱性成型体(本明細書では、単に「成型体」とも言う)が得られる。
【0019】
上記非水系熱硬化性樹脂の含有量は、有機樹脂成分中20〜100重量%が好ましく、40〜80重量%がより好ましい。
【0020】
上記非水系熱硬化性樹脂としては、公知のプラスチック製品、シート、塗料等の分野でバインダーとして採用されている非水系熱硬化性樹脂を使用する。非水系熱硬化性樹脂は、水に溶解及び分散しない熱硬化性樹脂を意味し、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等の1種以上が挙げられる。
【0021】
上記非水系熱硬化性樹脂は、吸熱性組成物を調製する混練時に液状であればよく、常温(5〜35℃)で液状のものが好ましい。この場合、常温(5〜35℃)で金属水和物との混合・混練が可能であり、吸熱性組成物中に金属水和物を均一に分散させ、金属水和物を有機樹脂成分で覆うことができる。よって、吸熱性組成物及び吸熱性成型体の耐火性能(吸熱性)、耐水性を向上させることができる。
【0022】
非水系熱硬化性樹脂としては、上記の中でもウレタン樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、特に吸熱性成型体に柔軟性が必要な場合は、ウレタン樹脂が好適である。また、これらの樹脂の付加物や改質樹脂も使用することができる。
【0023】
ウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール類とイソシアネート類とを組み合わせたものが挙げられる。
【0024】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、グルコース、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコールの1種又は2種以上にプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等の1種又は2種以上を付加して得られるポリオール類、及び、前記多価アルコールにテトラヒドロフランを開環重合により付加して得られるポリオキシテトラメチレンポリオールが挙げられる。
【0025】
ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン又はその他の低分子ポリオールの1種又は2種以上とグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸又はその他の低分子ジカルボン酸やオリゴマー酸の1種又は2種以上との縮合重合体;及びプロピオラクトン、カプロラクトン、バレロラクトン等の環状エステル類の開環重合体であるポリオール類が挙げられる。また、複数のエポキシ基を含有するエポキシ化合物によってポリオールを変性したエポキシ変性ポリオールも使用できる。
【0026】
上記ポリオール類の中では、ポリエステルポリオールが好ましく、活性水素原子を有する官能基が2つ以上のポリエステルポリオール類が好ましい。更に、活性水素原子を有する官能基が3つ以上のポリエステルポリオール類が好ましい。活性水素原子を有する官能基が3つ以上の場合、金属水和物との混合・混練時、及び成型時に気泡が生じ難くなるため、容易に混練することができ、強度の高い均一な厚みの成型体を安定して製造することができる。このため、優れた耐水性を発揮することができる。
【0027】
なお、活性水素原子を有する官能基としては水酸基が挙げられる。また、ポリエステルポリオールの分子量としては、好ましくは500〜10000、より好ましくは1000〜5000である。
【0028】
上記ポリオール類と組み合わせて使用できるイソシアネート類としては、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、1,3−キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)等が挙げられる。また、上記イソシアネート類を水や低級1価又は多価アルコールで変性したもの;イソシアネート類とポリオール類とを反応させた末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー;末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水や低級1価又は多価アルコールで変性したもの;並びに、末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとイソシアネート類の一種又は二種以上の混合物が使用可能である。
【0029】
上記イソシアネート類の中でも、特にヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)が好ましい。この場合、金属水和物との混合・混練時、及び成型時に気泡が生じ難く、圧延性にも優れるため強度の高い均一な厚みの成型体を安定して製造することができる。また、成型体の柔軟性、可撓性にも優れる。
【0030】
ウレタン樹脂を用いる場合には、硬化触媒を併用することができる。硬化触媒は、イソシアネート基が反応して硬化を促進させる物質である。硬化触媒としては、アミン系触媒、有機金属系触媒、無機系触媒等が挙げられる。例えば、アミン系触媒としては、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらのアミンの誘導体や溶剤との混合物も挙げられる。より具体的には、有機金属系触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、酢酸カリウム等が挙げられる。無機系触媒としては、塩化スズ等が挙げられる。
【0031】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリン等の縮合反応により得られるエピ−ビス型のビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が一般的に用いられる。また、その他にフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0032】
その他、特殊なものとして、β−メチルエピクロ型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、ポリグリコールエーテル型、グリコールエーテル型、ウレタン変性エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂も使用できる。また、稀釈剤としてn−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド、ジグリシジルエーテル等を併用することができる。エポキシ樹脂の分子量は、好ましくは100〜2000、より好ましくは200〜1000である。
【0033】
エポキシ樹脂は、硬化剤と組み合わせて使用できる。硬化剤としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン(ジプロピレントリアミン)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、アミノエチルエタノールアミン等の脂肪族アミン類;メンセンジアミン、イソホロジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジン、メタキシリレンジアミン等の脂環族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン等の芳香族アミン類;ポリアミンエポキシ樹脂アダクト、ポリアミン−エチレンオキシドアダクト、ポリアミン−プロピレンオキシドアダクト、シアノエチル化ポリアミン、ケチミン、芳香族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、脂肪族酸無水物、ハロゲン化酸無水物;ダイマー酸とポリアミンの縮合によって生成するポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0034】
上記可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル、オレイン酸ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;ペンタエリスリトールエステル等のアルコールエステル類;リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらの可塑剤は、単独又は2種以上で使用することができる。
【0035】
有機樹脂成分に上記可塑剤を含むことにより、有機樹脂成分の粘度を最適化することができる。このため、金属水和物と混練が容易となる。更には、混合・混練時、及び成型時に、気泡が混入及び発生し難くなり、成型体の耐水性を向上させることができる。
【0036】
可塑剤の添加量は、有機樹脂100重量部に対し、通常300重量部以下、好ましくは5重量部〜300重量部、より好ましくは10重量部〜150重量部である。300重量部を超える場合、成型体表面のタック性が高く、強度が低下し易い。
【0037】
上記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であるものを用いる。なお、本発明で用いる金属水和物は、一般式MX・nHO等で表される無機化合物の水和物である。
【0038】
このような化合物MX・nHOは、Mが少なくとも1種以上の金属陽イオンを含み、Xが1種又は2種以上の陰イオンからなる化合物である。これらの金属水和物の含水量は、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは30〜50重量%である。その含水量は、示差熱分析(TG−DTA)によって求めることができる。含水量が6重量%未満の場合、火災等に必要な吸熱性を発揮することができない。また、含水量が70重量%を超える場合、耐久性、耐水性が低下する場合がある。
【0039】
本発明で用いる金属水和物としては、金属水和物の脱水又は分解温度が50〜200℃であればよいが、80〜150℃が好ましい。脱水温度又は分解温度が50℃未満の場合、常温で脱水するおそれがあり、200℃を超える場合、火災初期の吸熱性が発揮できない。なお、脱水又は分解温度は、「化学便覧 基礎編 改訂5版」(日本化学会編)で規定されている温度である。
【0040】
本発明では、特に金属水和物の含水量が30〜50重量%であり、脱水又は分解温度が80〜150℃である場合、火災時に金属水和物の吸熱作用により100℃付近における基材の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0041】
上記金属水和物としては、例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物、硫酸アルミニウム27水和物、硫酸アルミニウム18水和物、硫酸アルミニウム16水和物、硫酸アルミニウム10水和物、硫酸アルミニウム6水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸鉄9水和物、硫酸カリウム鉄12水和物、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル6水和物、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ベリリウム4水和物、硫酸ジルコニウム4水和物等の硫酸塩;亜硫酸亜鉛2水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物等の亜硫酸塩;リン酸アルミニウム2水和物、リン酸コバルト8水和物、リン酸マグネシウム8水和物、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物、リン酸水素マグネシウム3水和物、リン酸水素マグネシウム7水和物、リン酸亜鉛4水和物、リン酸二水素亜鉛2水和物等のリン酸塩;硝酸アルミニウム9水和物、硝酸亜鉛6水和物、硝酸カルシウム4水和物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ビスマス5水和物、硝酸ジルコニウム5水和物、硝酸セリウム6水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸鉄9水和物、硝酸ニッケル6水和物、硝酸マグネシウム6水和物等の硝酸塩;酢酸亜鉛2水和物、酢酸コバルト4水和物等の酢酸塩;塩化コバルト6水和物、塩化鉄4水和物等の塩化物塩、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム5水和物、四ホウ酸ナトリウム10水和物)、八ホウ酸二ナトリウム四水物、ホウ酸亜鉛3.5水和物等のホウ酸塩等の金属水和塩等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上で使用することができる。
【0042】
上記金属水和物の中では硫酸塩が好ましく、その中でも硫酸アルミニウムの水和物が好ましい。詳細な作用機構は明らかでないが、硫酸アルミニウムの水和物の場合、脱水又は分解反応と同時に硫酸アルミニウムが中空粒子を形成し、更に高温になると粒子どうしが融着し断熱層を形成するため、高温での温度上昇を抑制することができると推察される。
【0043】
硫酸塩とホウ酸塩を混合して使用することにより、更に成型体の耐水性を向上させることができる。また、ホウ酸化合物は、燃焼時に脱水又は分解反応と同時に溶解し、燃焼残渣がガラス状に固化するため、成型体の割れや脱落の発生を抑制する働きがある。なお、硫酸塩とホウ酸塩の混合比(重量比)は、99:1〜30:70が好ましい。
【0044】
金属水和物が上記の条件を満たす場合、例えば基材が火災時に燃焼熱に晒されると、吸熱性を有する組成物中の金属水和物が脱水し、その吸熱作用により、基材の温度上昇が抑制される。
【0045】
有機樹脂成分と金属水和物の混合比は、重量比で5:95〜90:10とする。その中でも10:90〜60:40が好ましく、15:85〜50:50がより好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、15:85〜35:65が最も好ましい。重量比で10:90より有機樹脂成分が少ない場合には、充分な耐久性、耐水性が得られない場合がある。重量比で60:40より有機樹脂成分が多い場合は、耐火性能が不十分となる場合がある。
【0046】
これらの成分以外にも、必要に応じて、繊維材料、着色顔料、分散剤、難燃剤、撥水剤、充填材、骨材等を適宜配合できる。これらは、1種又は2種以上で使用できる。
【0047】
繊維材料としては、ロックウール、ガラス繊維、アルミニウム繊維、ステンレス繊維、シリカ−アルミナ繊維、カーボン繊維等の無機繊維;パルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニル繊維、アラミド繊維等の有機繊維が挙げられる。繊維材料を配合することにより、成型体を補強するとともに、柔軟性を向上することができる。
【0048】
着色顔料としては、一般の塗料用顔料(有機顔料・無機顔料)が使用できる。特に、二酸化チタン、炭化ケイ素、アルミナ、ベンガラ、黄色酸化鉄、チタンイエロー、クロムグリーン、群青、コバルトブルー等の無機顔料が好ましい。更に、耐火性能をより高めるために膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等を配合してもよい。
【0049】
難燃剤は、一般に、火災時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、バインダー炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、バインダーの燃焼を防止又は抑制する。本発明において、難燃剤としては、公知の耐火塗料及び/又はシートで用いる難燃剤と同じものが使用できる。
【0050】
難燃剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、ジフェニルオクチルフォスフェート、トリ(β−クロロエチル)フォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリ(ジブロモプロピル)フォスフェート、クロロフォスフォネート、ブロモフォスフォネート、ジエチル−N, N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルフォスフォネート等の有機リン系化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロル無水フタル酸等の塩素化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン化合物;三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物;その他ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ等の無機質化合物等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上で使用することができる。
【0051】
分散剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、高分子タイプのものを使用できるが、特に、酸価が0〜400mgKOH/g、アミン価が0〜200mgKOH/gであるものが好ましい。特に、本発明では酸価が0〜100mgKOH/g、アミン価が0〜100mgKOH/gであるものが好ましく、酸価が20〜60mgKOH/g、アミン価が20〜60mgKOH/gであるものがより好ましく、酸価が30〜50mgKOH/g、アミン価が30〜50mgKOH/gであるものが最も好ましい(更に好ましくは等量である)。
【0052】
分散剤の作用機構は明確ではないが、有機樹脂成分と金属水和物との混合・混練時の粘度を最適化し、分散性に優れる。このため、金属水和物が均一に分散され、柔軟性、可撓性に優れる組成物及び成型体を製造することができる。
【0053】
分散剤としては、具体的には、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、酸性基を有するコポリマー、水酸基含有カルボン酸エステル、アルキロールアミノアマイド、顔料に親和性のあるアクリル系共重合物、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩、顔料に親和性のある共重合物のリン酸エステル塩、顔料に親和性のあるブロック共重合物、酸基を含むブロック共重合物のアルキルアンモニウム塩、変性アクリル系ブロック共重合物、顔料に親和性のあるアクリル系共重合物、不飽和ポリカルボン酸ポリマー又は不飽和ポリカルボン酸ポリマーとポリシロキサン、不飽和ポリカルボン酸ポリマー、高分子共重合体のアルキルアンモニウム塩、顔料親和性基を有する高分子共重合体、不飽和酸性ポリカルボン酸ポリエステルとポリシロキサン、等が挙げられる。以上のような成分は、それぞれ1種又は2種以上で使用することができる。
【0054】
撥水剤としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アクリル・エチレン共重合体ワックス等のワックス系撥水剤;シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、アルキルアルコキシシラン等のシリコーン系撥水剤;パーフロロアルキルカルボン酸塩、パーフロロアルキルリン酸エステル、パーフロロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のフッ素系撥水剤等が挙げられる。
【0055】
本発明では特に、アルキル基の炭素数が3〜12であるアルキルアルコキシ化合物(以下、単に「アルキルアルコキシシラン化合物」とも言う。)を含むシリコーン系撥水剤を使用することが好ましい。
【0056】
このようなアルキルアルコキシシラン化合物は、珪素原子にアルキル基とアルコキシル基が結合した化合物であり、例えば下記式(1)で示される化合物及び/又はその縮合物を使用することができる。
【0057】
−Si(OR(1)
上記式(1)で示される化合物としては、例えば、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
アルキルアルコキシシラン化合物としては、アルキル基の炭素数が3〜12(好ましくは5〜8)のものを使用する。アルキル基は、その一部がハロゲン等で置換されたものであってもよい。アルキル基の炭素数が上記範囲内であれば、耐水性において優れた性能を発揮することができる。
【0059】
アルキルアルコキシシラン化合物におけるアルコキシル基としては、その炭素数が1〜8(好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2)のものが挙げられ、特に炭素数1のメトキシ基が好適である。アルコキシル基の炭素数が上記範囲であれば、耐水性等の性能において有利な効果を得ることができる。
【0060】
撥水剤は、有機樹脂成分100重量部に対して0.2〜10重量部が好ましく、0.3〜5重量部がより好ましい。0.2重量部よりも少ない場合には、撥水効果が得られ難く、10重量部を超える場合には有機樹脂の硬化を阻害するおそれがある。
【0061】
充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、珪砂、珪石粉、石英粉、アルミナ、ホウ酸亜鉛、硫酸バリウム、マイカガラス粉末等が挙げられる。
【0062】
骨材としては、天然又は人工のいずれでもよく、着色されていてもよい。骨材として、例えば、パーライト、膨張頁岩、膨張バーミキュライト、軽石、シラスバルーン、ガラスバルーン、中空樹脂ビーズ、ALC粉砕物、アルミノシリケート発泡体等の軽量骨材を使用した場合、成型体の耐熱性、柔軟性を向上させることができる。
【0063】
本発明の吸熱性組成物は、上記有機樹脂成分と金属水和物とを必須成分とし、これらと必要に応じて添加剤を加えて混練することにより得られる。また、本発明の吸熱性成型体は、上記吸熱性組成物を成型することにより得られる。
【0064】
吸熱性組成物を調製する際の混練及び成型時の温度は、適宜設定することができるが、通常は常温でよい。但し、加熱する場合は、金属水和物の脱水温度未満とする。また、本発明では混練時に、必要に応じて溶媒を添加できるが、この場合、非水系溶媒が好ましく、水は使用しない。
【0065】
吸熱性成型体を製造するには、例えば、吸熱性組成物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法;吸熱性組成物を塗工機によって離型紙に塗付した後に巻き取る方法;吸熱性組成物をペレット状にした後に押し出し成型機によってシート状又はボード状に加工する方法;バンバリーミキサー、ミキシングロール等で混練した吸熱性組成物を複数の熱ロールからなるカレンダによって圧延してシート状又はボード状に加工する方法等がある。
【0066】
吸熱性成型体をシート状又はボード状で使用する場合の厚みは、耐火性能、適用部位等により適宜設定すれば良いが、通常は1〜20mm程度、好ましくは2〜10mmとする。1mm未満の場合には、充分な耐火性能が得られないことがある。20mmを超える場合は、厚みに相当するだけの耐火性能が十分に得られない場合がある。但し、耐火性能、適用部位等によっては必ずしもこのような厚みに限定されない。
【0067】
また、本発明の吸熱性成型体は、有機樹脂成分中に均一、且つ、緻密に金属水和物が分散した状態となる。このため、火災時の金属水和物の脱水反応が緩やかに進行し、100℃付近の鋼材温度上昇を抑制する効果が高い。本発明では成型体の密度を0.8〜4g/cmに設定し、好ましくは1〜2.4g/cm、より好ましくは1.2〜2g/cmである。かかる密度に設定することにより、高い吸熱性能(耐火性能等)が得られる。
【0068】
成型体の密度が0.8g/cmより小さいフォーム状の成型体のような場合、成型体内部又は外部へ通じる空隙により、火災時に成型体中に含まれる金属水和物の脱水、気化反応が瞬時に起こり、水の蒸発潜熱により得られる吸熱効果が得られ難くなるため、基材の温度上昇抑制を十分に満足できないおそれがある。また、フォーム状の成型体は、空隙により金属水和物の含有量も制限されるため、十分な吸熱性能を得るには成型体の厚みを大きくすることが必要となる。更に、空隙内に容易に水が浸透するため耐水性に劣り、水が接触した場合、金属水和物の溶解、流出、又は他に水溶性の金属塩が共存する場合は、新たな金属塩を生成する可能性があり、著しく吸熱性能を低下させるおそれがある。
【0069】
成型体の密度が4g/cmより大きい場合はそれ自身の重量が大きいため、柱等の垂直面又は梁の下面等へ接着した際に脱落が生じる可能性があり、好ましくない。
【0070】
なお、密度は、成型体の重量をその体積で除した値である。
【0071】
本発明では、吸熱性成型体に、必要に応じ、例えば、織布、不織布、ガラス不織布、セラミックペーパー、合成紙、不燃紙、ガラスクロス、メッシュ等の補強層、アルミニウム箔、アルミニウム箔・合成樹脂積層シート、アルミニウム箔・クラフト紙積層シート、アルミニウム箔・ガラス織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート、アルミニウム板、カラー鋼板、ステンレス鋼板等の熱反射層を積層することができる。積層形態としては、金属水和物の吸熱作用による温度上昇抑制を目的とする、建物の梁、柱等の鉄骨基材と接する面を「成型体裏面」、その反対側を「成型体表面」とすると、
1.成型体裏面に補強層を積層する
2.成型体裏面及び、成型体の内部に補強層を複数積層する
3.成型体表面に熱反射層を積層する
4.上記1.又は2.と上記3.を適宜組み合わせ積層する
等が挙げられる。本発明では特に、上記4.の積層形態が好ましい。
【0072】
成型体裏面に、ガラス不織布、ガラスメッシュ等の補強層を積層することにより、接着剤を介して基材に成型体を貼り付けた際、基材との密着性が向上し、成型体がズレ落ちるのを防止でき、火災時の耐火性が向上する。更に、成型体表面にアルミニウム箔、アルミニウムクロス、アルミニウム箔・ガラス不織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート、アルミニウム箔・合成樹脂積層シート等の熱反射層を積層することにより、火災時、金属水和物の脱水速度を制御でき、基材温度の上昇を抑制することができる。
【0073】
上記の積層体を製造する場合、例えば、吸熱性成型体を製造する際に同時に積層したり、成型体製造後に接着剤や金属製の止め具等を使用して積層したりすることができる。
【0074】
本発明の吸熱性成型体は、建築物の柱、梁等の鉄骨基材への被覆材として使用することができ、100℃付近での温度上昇を効果的に抑制することができる。基材へ被覆する際は、本発明の効果を阻害しない限り、有機樹脂等の接着剤を使用して直接又は間接に被覆することができる。
(鉄骨耐火被覆工法)
本発明の鉄骨耐火被覆工法は、鉄骨基材に上記吸熱性成型体を被覆することにより鉄骨基材に耐火被覆を形成する。
【0075】
鉄骨基材を吸熱性成型体で被覆する態様としては、例えば、鉄骨基材に直接に(密着して)被覆する態様、空気層を介して間接に被覆する態様が挙げられる。空気層を介して耐火被覆する場合には、空気断熱層が形成され、直接に耐火被覆する場合よりも耐火性能をより向上させることができる。また、吸熱性成型体を2層以上(複数層)積層することもできる。
【0076】
以下、被覆態様について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0077】
図1には、角型鉄骨基材(図1-1)及び丸型鉄骨基材(図1-2)に耐火被覆する態様が示されている。図1-1及び図1-2は、いずれも直接に(密着して)耐火被覆する態様を示している。図1-3〜図1-11には、耐火被覆のバリエーションが示されている。ここでは角型鉄骨基材を例にしているが、丸型鉄骨基材に対しても同様に施工できる。
【0078】
図1-3は、シート状の吸熱性成型体を角型鉄骨基材に巻きつけて被覆している。吸熱性成型体の端部は突き合わされており、この突き合わせ部分の耐火性を補強するためには、例えば、アルミテープ等で突き合わせ部分を被覆することが挙げられる。なお、吸熱性成型体を鉄骨基材に直接に被覆する際に、鉄骨基材表面及び/又は吸熱性成型体に接着剤を塗布してもよい。以下の態様でも同様である。
【0079】
図1-4は、シート状の吸熱性成型体を角型鉄骨基材に巻きつけて被覆している。吸熱性成型体の端部は重なり部分となっている。重なり部分は、接着剤や両面テープ等で固定されることが好ましい。図1-4のように吸熱性成型体の端部のみを重ねてもよく、図1-5のように重ね幅を大きくして角型鉄骨基材に複数回巻きつけてもよい。このように重ね幅を大きくすることにより、耐火性をより向上させることができる。
【0080】
図1-6は、シート状の吸熱性成型体を角型鉄骨基材に巻きつけて被覆している。吸熱性成型体の端部どうしは接触せず目地が露出しており、目地を覆うように耐火コーキング剤が充填されている。図1-10及び図1-11は複数の吸熱性成型体を用いた場合であり、複数の目地にはそれぞれ耐火コーキング剤が充填されている。耐火コーキング剤の種類は限定されず、市販品が使用できる。
【0081】
図1-7は、シート状の吸熱性成型体を角型鉄骨基材に巻きつけて被覆している。吸熱性成型体の端部は重なり部分となっておりワッシャー(ビス)、タッカー、固定ピン等の金属製の止め具により固定されている。
【0082】
図1-8は、シート状の吸熱性成型体を角型鉄骨基材に巻きつけて被覆し、一部は空気層を介して被覆している。吸熱性成型体の端部は、金属製の止め具により固定されている。
【0083】
図1-9は、シート状の吸熱性成型体を角型鉄骨基材に巻きつけて被覆している。吸熱性成型体の端部は突き合わされており、突き合わせ部分を覆うように外周に更に吸熱性成型体が被覆されている。内側の突き合わせ部分を覆うように吸熱性成型体を複数回巻きつけることにより、耐火性能をより向上させることができる。
【0084】
図2には、H型鉄骨基材に耐火被覆する態様が示されている。図2-1は、直接に耐火被覆する態様を示しており、図2-2は、空気層を介して間接的に耐火被覆する態様を示している。図2-2のように空気層を介して耐火被覆する場合には、空気断熱層が形成され、直接に耐火被覆する場合よりも耐火性能をより向上させることができる。
【0085】
図2-3〜図2-10には、耐火被覆のバリエーションが示されている。吸熱性成型体の端部の固定方法の説明は、図1の場合と同様である。
【0086】
また、図2-2〜2-10のように空気層を介して耐火被覆する場合、吸熱性成型体が直接接触していないH型鉄骨基材のウェブ部やフランジ部に、本発明の吸熱性成型体や従来の耐火被覆材を塗付又は貼り付けることができる。これにより、耐火性能をより向上させることができる。特に、H型鉄骨基材のウェブ部にこれらを適用した場合、効果的に耐火性能を向上させることができる。
【0087】
図3には、壁パネル中央又は壁パネル端部(コーナー部分)付近に設けられた柱(角型、丸型、H型)の耐火被覆のバリエーション(上面図)が示されている。いずれの態様でも、壁パネルと吸熱性成型体に囲まれる空間に鉄骨基材が収容されて被覆されている。このとき、吸熱性成型体を2層以上(複数層)積層することもできる。吸熱性成型体の端部は、金属製の止め具や溶接によって壁パネルに固定されている。また、鉄骨基材を直接に被覆している部分や吸熱性成型体の積層部分には接着剤を塗布してもよい。
【0088】
また、図3-3、3-5のように空気層を介して耐火被覆する場合、吸熱性成型体が直接接触していないH型鉄骨基材のウェブ部やフランジ部に、本発明の吸熱性成型体や従来の耐火被覆材を塗付又は貼り付けることができる。これにより、耐火性能をより向上させることができる。これにより、耐火性能をより向上させることができる。
【0089】
図4には、天井に設けられた梁(H型)又は床板に設けられた支持基材(H型)の耐火被覆のバリエーションが示されている。いずれの態様でも、天井、壁パネル又は床板と吸熱性成型体に囲まれる空間に鉄骨基材が収容されて被覆されている。このとき、吸熱性成型体を2層以上(複数層)積層することもできる。吸熱性成型体の端部は、金属製の止め具や溶接によって天井、壁パネル又は床板に固定されている。また、鉄骨基材を直接に被覆している部分や吸熱性成型体の積層部分には接着剤を塗布してもよい。また、図4-2、4-4のように空気層を介して耐火被覆する場合、吸熱性成型体が直接接触していないH型鉄骨基材のウェブ部やフランジ部に、本発明の吸熱性成型体や従来の耐火被覆材を塗付又は貼り付けることができる。さらに、下フランジ部に、吸熱性を有する材料(吸熱パック)等を取り付けることもできる。これにより、耐火性能をより向上させることができる。
また、鉄骨基材長手方向において複数の成型体を貼り合わせて被覆する場合、成型体どうしは、突き合わせたり、重なり部分を設けたり、目地を設けたりすることができる。この場合、各成型体どうしの端部は、テープ、接着剤、耐火コーキング剤、金属製の止め具等で固定されていることが好ましい。また、各成型体どうしは予め固定されていてもよいし、鉄骨基材被覆後に固定されてもよい。
【0090】
さらに、鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆する際に、断熱層や難燃層を積層することにより、断熱性、耐火性を向上させることもできる。
【0091】
断熱層としては、例えば、有機樹脂発泡材からなる断熱層(ア)、軽量骨材を含む組成物から形成される断熱層(イ)等が挙げられる。
【0092】
有機樹脂発泡材からなる断熱層(ア)としては、例えば、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、スチレンフォーム等が挙げられる。これらの発泡材の形成方法としては、特に限定されず、公知の装置が使用可能である。例えば、小型ミキサーや、通常のウレタンフォーム等を製造する際に使用する、注入発泡用の低圧又は高圧発泡機、スラブ発泡用の低圧又は高圧発泡機、連続ライン用の低圧又は高圧発泡機、吹き付け工事用のスプレー発泡機等を使用することができる。
【0093】
軽量骨材を含む組成物からなる断熱層(イ)は、結合材と軽量骨材を含む組成物によって形成できる。軽量骨材としては、例えば、上記(ア)の有機樹脂発泡材の粉砕粒子、有機樹脂バルーン等の有機系量骨材、膨張パーライト、膨張頁岩、膨張バーミキュライト、軽石、シラスバルーン等の無機軽量骨材が挙げられる。本発明では特にパーライト、バーミキュライト等が好ましい。また、結合材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム等の有機質結合材が挙げられる。結合材は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。更に、これらの樹脂の形態として、溶媒に溶解させたものあるいはエマルションとして分散させたものも利用できる。また、セメント、石膏、水ガラス、シリコーン樹脂等の無機質結合材を利用することも可能である。
【0094】
軽量骨材を含む組成物は、結合材(固形分)100重量部に対し、軽量骨材の含有量は通常400〜5000重量部(好ましくは1000〜2000重量部)であることが好ましい。このような範囲であることにより、優れた断熱効果を発揮することができる。形成方法としては、特に限定されず、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【0095】
上記(ア)、(イ)の断熱層の厚みは通常1〜10mm程度(好ましくは2〜5mm程度)であることが好ましい。また、上記(ア)、(イ)の断熱層は、吸熱性成型体の裏面(鉄骨基材側)に積層することが好ましく、断熱層の積層方法としては、特に限定されないが、
・鉄骨基材に断熱層を形成した後、吸熱性成型体を積層する方法、
・予め吸熱性成型体を製造する際に断熱層を積層し、鉄骨基材等に被覆する方法、
等が挙げられる。
【0096】
難燃層としては、例えば、難燃剤を含む組成物からなる難燃層(ウ)、水ガラスを含む組成物からなる難燃層(エ)、難燃性を有するシートからなる難燃層(オ)等が挙げられる。
【0097】
難燃層(ウ)は、結合材と難燃剤を含む組成物によって形成できる。難燃剤としては、本発明の吸熱性組成物に配合できる難燃剤の他に、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素、塩素化パラフィン等を使用することができる。また、結合材は、上記断熱層(イ)と同様のものを使用することができる。結合材(固形分)100重量部に対し、上記難燃剤は通常100〜800重量部であることが好ましい。このような範囲であることにより、優れた難燃効果を発揮することができる。難燃層(ウ)には、上記以外にも、耐火性能を付与する目的で、発泡剤、炭化剤、充填剤等を添加することもできる。
【0098】
水ガラスを含む組成物からなる難燃層(エ)は、水ガラスを含む組成物等によって形成できる。水ガラスとしては、一般式Na2 O・nSiO2(n=2〜4)(場合によってはK2O及び/またはLiOを含む)で表されるアルカリ珪酸塩の粉末又は水溶液であり、SiO2 とNa2Oの含有割合の違いによって、1号〜4号に区別されている。本発明ではいずれも使用可能であるが、特に相対的にアルカリ成分の少ない3号、4号等が耐水性の点で有利である。また、必要に応じて、上記(イ)と同様の結合材を使用してもよい。
【0099】
上記(ウ)(エ)の形成方法としては、特に限定されず、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【0100】
難燃性を有するシートからなる難燃層(オ)は、上記(ウ)及び/又は(エ)の組成物を含浸させたシートである。シートとしては、有機繊維、無機繊維を含む紙、クロス、織布または不織布等のシート、または不燃紙等が挙げられる。
【0101】
上記(ウ)、(エ)及び(オ)等の難燃層の厚みは通常0.1〜0.5mm程度であることが好ましい。また、上記(ウ)、(エ)及び(オ)等の難燃層は、吸熱性成型体の表面、裏面(鉄骨基材側)どちらにも積層することができる。さらに、吸熱性成型体を2層以上積層する場合、その成型体の層間に積層することもできる。ただし、吸熱性成型体が熱反射層を有する場合には、熱反射層が最外層(露出面)に位置することが望ましい。
上記難燃層の形成方法としては、特に限定されないが、
・鉄骨基材に吸熱性成型体を積層し、次いで難燃層を積層する方法、
・鉄骨基材に難燃層を形成した後、吸熱性成型体を積層する方法、
・予め吸熱性成型体を製造する際に難燃層を積層し、鉄骨基材等に被覆する方法、
等が挙げられる。吸熱性成型体を複数積層する場合は、上記の方法を繰り返し行えばよい。
上記の断熱層又は難燃層以外に、本発明では、必要に応じ、上記の工法で鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆した耐火被覆最表面に上塗層を積層することもできる。上塗層は、公知の水性型又は溶剤型塗料の塗付、又は、化粧部材のラミネートによって形成することができる。上塗層は、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の塗料を塗付することによって形成することができる。これらの塗装は、公知の塗装方法によれば良く、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【0102】
上記上塗層の形成方法としては、特に限定されないが、
・鉄骨基材に吸熱性成型体を形成し、次いで上塗層を積層する方法、
・予め吸熱性成型体を製造する際に最表面に上塗層を積層し、鉄骨基材等に被覆する方法、等が挙げられる
【実施例】
【0103】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
(シート状吸熱性成型体1〜19の作製及び性能評価)
耐火被覆工法に用いるシート状吸熱性成型体(以下「成型体」)を作製した。
【0104】
成型体の製造においては、以下の原料を使用した。
・ポリオールA:3官能ポリエステルポリオール(分子量:4600、水酸基価:36)
・ポリオールB:2官能ポリエステルポリオール(分子量:1000、水酸基価:110)
・エポキシ樹脂:ビスフェノールA型(分子量:400、エポキシ当量:190)
・分散剤:酸−塩基化合物(酸価/アミン価=40/40)
・ウレタン樹脂硬化触媒:ジブチルスズジラウレート
・変性脂肪族アミン:イソホロジアミン
・イソシアネートA:ポリメリックMDI(NCO%:30.1%)
・イソシアネートB:ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)(NCO%:20.5%)
・撥水剤:シリコーン系撥水剤
成型体1
ポリオールA:12.0重量部、パラフィン(可塑剤):8.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部、分散剤:3.2重量部、イソシアネートA:1.02重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体1を得た。成型体1の厚さは2.5mm、密度は1.50g/cmであった。
【0105】
成型体2
ポリオールA:9.0重量部、ポリオールB:3.0重量部、パラフィン(可塑剤):8.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部、分散剤:3.2重量部、イソシアネートA:1.58重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体2を得た。成型体2の厚さは2.5mm、密度は、1.50g/cmであった。
【0106】
成型体3
ポリオールB:12.0重量部、パラフィン(可塑剤):8.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部、分散剤:3.2重量部、イソシアネートA:3.3重量部、ウレタン樹脂硬化触媒0.1:重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体3を得た。成型体3の厚さは2.5mm、密度は、1.45g/cmであった。
【0107】
成型体4
ポリオールA:20.0重量部、パラフィン(可塑剤):13.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):67重量部、分散剤:2.4重量部、イソシアネートA:1.79重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体4を得た。成型体4の厚さは2.5mm、密度は、1.40g/cmであった。
【0108】
成型体5
エポキシ樹脂:10.0重量部、パラフィン(可塑剤):8.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部、分散剤:3.2重量部、変性脂肪族アミン(エポキシ樹脂硬化剤):3.01重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、硬質なシート状の成型体5を得た。成型体5の厚さは2.5mm、密度は、1.51g/cmであった。
【0109】
成型体6
ポリオールA:24.0重量部、パラフィン(可塑剤):16.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):60重量部、分散剤:2.4重量部、イソシアネートA:2.15重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体6を得た。成型体6の厚さは2.5mm、密度は、1.36g/cmであった。
【0110】
成型体7
ポリオールA:36.0重量部、パラフィン(可塑剤):24.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):40重量部、分散剤:1.6重量部、イソシアネートA:3.23重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体7を得た。成型体7の厚さは2.5mm、密度は、1.22g/cmであった。
【0111】
成型体8
ポリオールA:12.0重量部、パラフィン(可塑剤):8.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部、分散剤3.2重量部、水:5.0重量部、イソシアネートA:1.07重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、フォーム状の成型体8を得た。成型体8の密度は、0.04g/cmであった。この成型体8を厚さ2.5mmに切り出した。
【0112】
成型体9
含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部、分散剤:3.2重量部、水:50重量部、イソシアネートA:100重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、フォーム状の成型体9を得た。成型体9の密度は、0.01g/cmであった。この成型体9を厚さ2.5mmに切り出した。
【0113】
成型体10
ポリオールA:12.0重量部、パラフィン(可塑剤):8.0重量部、含水量約48重量%水酸化アルミニウム(分解温度:300℃):80重量部、分散剤:3.2重量部、イソシアネートA:1.07重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体10を得た。成型体10の厚さは2.5mm、密度は、2.06g/cmであった。
【0114】
成型体11
スチレンアクリル樹脂(熱可塑性樹脂):0.8重量部、エチレンアクリル樹脂(熱可塑性樹脂):3.2重量部、パラフィン(可塑剤):16重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部を予め混合し、加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調製した。圧延ローラーでシート厚みが2.5mmとなるように上記混練物を圧延してシート化した。この場合、85℃の混練温度が必要であった。成型体11の厚さは2.5mm、密度は、1.52g/cmであった。
【0115】
成型体12
スチレンアクリル樹脂(熱可塑性樹脂):3.6重量部、エチレンアクリル樹脂(熱可塑性樹脂):14.4重量部、パラフィン(可塑剤):2.0重量部と、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):80重量部を予め混合し、加圧ニーダーで混練してシート用混練物を調製しようとした。この場合、150℃の混練温度が必要であり、硫酸アルミニウム18水和物中の水分が一気に脱水するため混練が不可能であった。
【0116】
成型体13
型枠内に予めガラス不織布(厚さ0.22mm、質量25g/m)を敷き、成型体1と同じ成型体用混練物を充填し、さらにその上に、前記と同じガラス不織布を積層させ、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、シート状の成型体13を得た。成型体13の厚さは2.5mm、密度は、1.52g/cmであった。
【0117】
成型体14
型枠内に予めガラス不織布(厚さ0.22mm、質量25g/m)を敷き、成型体1と同じ成型体用混練物を充填し、さらにアルミニウム箔・メッシュ積層シート(厚さ0.15mm、質量230g/m)を積層させ、25℃で2時間硬化7日間養生・硬化させ、その後脱型し、シート状の成型体14を得た。成型体14の厚さは2.5mm、密度は、1.53g/cmであった。
【0118】
成型体15
ポリオールA:15.8重量部、パラフィン(可塑剤):12.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):70重量部、分散剤:2.8重量部、イソシアネートB:2.2重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体15を得た。成型体15の厚さは2.5mm、密度は、1.51g/cmであった。
【0119】
成型体16
ポリオールA:15.8重量部、パラフィン(可塑剤):12.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):70重量部、分散剤:2.3重量部、撥水剤:0.5重量部、イソシアネートB:2.2重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体16を得た。成型体16の厚さは2.5mm、密度は、1.50g/cmであった。
【0120】
成型体17
ポリオールA:15.8重量部、パラフィン(可塑剤):12.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):70重量部、分散剤:2.0重量部、撥水剤:0.8重量部、イソシアネートB:2.2重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体17を得た。成型体17の厚さは2.5mm、密度は、1.50g/cmであった。
【0121】
成型体18
ポリオールA:15.8重量部、パラフィン(可塑剤):12.0重量部、含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃):35重量部、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム5水和物、脱水温度:150℃):35重量部、分散剤2.8重量部、イソシアネートB:2.2重量部、ウレタン樹脂硬化触媒:0.1重量部を常温下(25℃)で混合して混練物を得た。混練物を型枠(300mm×300mm)に充填し、25℃で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、柔軟性のあるシート状の成型体18を得た。成型体18の厚さは2.5mm、密度は、1.47g/cmであった。
【0122】
成型体19
型枠内に予めガラス不織布(厚さ0.22mm、質量25g/m)を敷き、成型体15と同じ成型体用混練物を充填し、さらにアルミニウム箔・メッシュ積層シート(厚さ0.15mm、質量230g/m)を積層させ、25℃で2時間、常温で7日間養生・硬化させ、その後脱型し、シート状の成型体19を得た。成型体19の厚さは2.5mm、密度は、1.49g/cmであった。
【0123】
成型体1〜19について、強度試験、耐水性試験A、B及び耐火性能試験を実施した。各試験方法及び評価基準は下記の通りとした。
(強度試験)
直径10mmの円盤状の軸を取り付けたプッシュプルスケール(株式会社今田製作所製)を用いて、成型体の上方からストローク長2.0mmで押し込み、圧縮強度を測定した。
(耐水性試験A)
成型体を75×75mmに切断し、常温下、水に24時間浸漬させ、浸漬前後の外観を目視で評価した。評価は、10:異常なし〜1:形状崩壊として10段階で行った。
(耐水性試験B)
成型体を75×75mmに切断し、常温下、水に72時間浸漬させ、浸漬前後の外観を目視で評価した。評価は、10:異常なし〜1:形状崩壊として10段階で行った。
(耐火性能試験)
有機系接着剤を用いて成型体を鋼板(150mm×150mm×6mm)に貼り付けて試験体とした。試験体を用いてISO834の標準加熱曲線に従って60分の加熱試験を行い、60分後の鋼材裏面の温度を熱電対にて測定した。評価は、5段階で行った。
A:500℃未満
B:500℃以上、550℃未満
C:550℃以上、600℃未満
D:600℃以上、650℃未満
E:650℃以上、または試験不可
各試験結果を下記表1-1及び1-2に示す。
【0124】
【表1−1】

【0125】
【表1−2】

【0126】
成型体1〜6では、耐火性能試験は概ね良好な結果であった。また、成型体1、2、4、6においては、強度、耐水性に関しても良好な結果であった。成型体7、10では、成型体の強度、耐水性は良好な結果であった。
【0127】
一方、成型体8、9では、成型体がフォーム状となり、強度、耐水性、耐火性能が劣る結果であった。成型体11、12は、熱可塑性樹脂を用いて成型体の作製を試みたが、成型体11では、硫酸アルミニウム18水和物の分解温度以下の温度で混練するために可塑剤が過剰に必要となり、作製した成型体の耐水性、耐火性に劣る結果であった。また、成型体12では、150℃の混練温度が必要であり、硫酸アルミニウム18水和物中の水分が一気に脱水するため混練が不可能であった。
【0128】
また、成型体13、14の積層体では、成型体1〜12と比べて強度、耐水性、耐火性能全てにおいて良好な結果であった。
【0129】
成型体15〜19では、耐火性能試験、強度に関して良好な結果であった。また、可撓性、成型性に優れる結果であった。さらに、成型体16、17、18、19に関しては、耐水性にも優れる結果であった。
(耐火被覆工法の実施例)
上記成型体19を用いて図5に示す鉄骨鋼材(鉄骨基材)に対して耐火被覆工法を実施した。なお、以下の実施例では成型体19を「シート1」と称する。
【0130】
実施例1
シート1の不織布側と角型鉄骨鋼材(□300×300×9mm、長さ1200mm:図5−1)に接着剤を塗付し、角型鉄骨鋼材に3枚のシート1を巻きつけ、突合せて貼り付けた(被覆態様は図1−3に準ずる)。突合せ部分には、アルミニウムテープを貼り付けた。得られた被覆試験体を試験体1とした。
【0131】
実施例2
シート1の不織布側と角型鉄骨鋼材(□300×300×9mm、長さ1200mm:図5−1)に接着剤を塗付し、角型鉄骨鋼材に3枚のシート1を巻きつけ、突合せて貼り付けた(被覆態様は図1−3に準ずる)。次いで、シート1の外側表面にウレタン樹脂溶液を塗付し、突合せ部分が隠れるように、シート1を巻きつけ、突合せて貼り付けた(被覆態様は図1−9に準ずる)。得られた被覆試験体を試験体2とした。
【0132】
実施例3
床板(ALC板)にH型鉄骨鋼材(H400×200×8×13mm、長さ1200mm:図5−2)を設置した。図4−2に準じて、シート1の不織布側がH型鋼材側となるようにシート1を巻きつけ、3枚のシート1を突合せて貼り付けた。なお、シート1は固定ピンにより、ALC板に固定し、さらに、下フランジ部には接着剤を塗付した。さらに、突合せた部分にはアルミテープを貼り付けた。得られた被覆試験体を、試験体3とした。
(試験体1〜3の評価)
試験体1〜3は、いずれも施工性が良好であった。また被覆膜厚が従来のロックウール被覆と比較すると非常に薄く、美観性に優れていた。
【0133】
試験体1〜3について、ISO834の標準加熱曲線に従って60分の加熱試験を行い、60分後の鋼材表面温度を熱電対により測定した。
【0134】
なお、熱電対は、図5−1、図5−2の断面A〜Cにおいて、▲部分に設置した。
【0135】
加熱試験の結果、試験体1〜3は何れも平均550℃以下であり、耐火性能は良好であった。
【0136】
実施例4
床板(ALC板)にH型鉄骨鋼材(H400×200×8×13mm、長さ1200mm:図5−2)を設置した。図4−2に準じて、シート1を不織布側がH型鋼材側となるように巻きつけ、3枚のシート1の端部どうしを重ねて、重なり部が40mmとなるように貼り付けた。なお、シート1は固定ピンにより、ALC板に固定し、さらに、下フランジ部には接着剤を塗付した。次いで、シート1の表面に後記の難燃層用組成物1を塗付し、乾燥させた(乾燥膜厚:0.2mm)。その後、別に用意したシート1の不織布側が前記難燃層側となるように更にシート1を巻きつけ、3枚のシート1の端部どうしを重ねて、重なり部が40mmとなるように貼り付けた。なお、シート1は固定ピンにより、ALC板に固定した。得られた被覆試験体を、試験体4とした。
(難燃層用組成物)
・難燃層用組成物1:アクリル樹脂(不揮発分:50%、溶剤:キシレン)100重量部、塩素化パラフィン400重量部を混合し、キシレンを加えて各成分が均一になるように十分撹拌し難燃層用組成物1を得た。
・難燃層用組成物2:アクリル樹脂(不揮発分:50%、溶剤:キシレン)100重量部、メラミン400重量部を混合し、キシレンを加えて各成分が均一になるように十分撹拌し難燃層用組成物2を得た。
・難燃層用組成物3:アクリル樹脂(不揮発分:50%、溶剤:キシレン)100重量部、メラミン24重量部、ジペンタエリスリトール16重量部、ポリリン酸アンモニウム80重量部、酸化チタン14重量部を混合し、キシレンを加えて各成分が均一になるように十分撹拌し難燃層用組成物3を得た。
【0137】
実施例5
難燃層組成物1に代えて難燃層組成物2を使用した以外は実施例4と同様にして被覆試験体を作製し、試験体5とした。
【0138】
実施例6
難燃層組成物1に代えて難燃層組成物3を使用した以外は実施例4と同様にして被覆試験体を作製し、試験体6とした。
(試験体4〜6の評価)
試験体4〜6について、ISO834の標準加熱曲線に従って60分の加熱試験を行い、60分後の鋼材表面温度を熱電対により測定した。
【0139】
なお、熱電対は、図5−1、図5−2の断面A〜Cにおいて、▲部分に設置した。
【0140】
加熱試験の結果、試験体4〜6は何れも平均450℃以下であり、耐火性能は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨基材に吸熱性成型体を被覆する鉄骨耐火被覆工法であって、
前記吸熱性成型体は、
(1)有機樹脂成分と金属水和物とを含み、
(2)前記有機樹脂成分は、非水系熱硬化性樹脂を含有し、
(3)前記金属水和物は、含水量が6重量%以上であり、且つ、脱水又は分解温度が50〜200℃であり、
(4)前記有機樹脂成分と前記金属水和物との重量比が5:95〜90:10であり、
(5)密度が0.8〜4g/cmである、
ことを特徴とする鉄骨耐火被覆工法。
【請求項2】
前記吸熱性成型体はシート状及び/又はボード状である、請求項1に記載の鉄骨耐火被覆工法。
【請求項3】
前記吸熱性成型体の片面には、前記鉄骨基材を被覆する側に補強層が積層されている、請求項2に記載の鉄骨耐火被覆工法。
【請求項4】
前記吸熱性成型体の片面には、前記鉄骨基材を被覆する側とは反対側に熱反射層が積層されている、請求項2又は3に記載の鉄骨耐火被覆工法。
【請求項5】
前記鉄骨基材の表面の一部又は全部に、前記吸熱性成型体を直接に又は空気層を介して間接に被覆する、請求項1〜4のいずれかに記載の鉄骨耐火被覆工法。
【請求項6】
前記鉄骨基材は、H型、I型、角型及び丸型からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の鉄骨耐火被覆工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−216228(P2010−216228A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32637(P2010−32637)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】