説明

鉛溶出を防止した絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブル

【課題】安定剤として鉛化合物を用いることで絶縁被覆材料の長期信頼性を容易に確保でき、且つ、鉛化合物を用いた場合の鉛流出の問題を解決できる、鉛溶出を防止した絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルを提供すること。
【解決手段】導体2の周上にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁被覆層3を設けた絶縁被覆電線1であって、絶縁被覆層3が鉛化合物を含む層5と鉛化合物を含まない層4、6の複数層からなると共に、少なくとも最外層6が鉛化合物を含まない層からなり、最外層6の層厚が0.02mm以上である、鉛溶出を防止した絶縁被覆電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛溶出を防止した絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブル関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線・ケーブル分野においては、代表的な絶縁被覆材料として、一方でノンハロゲン化の動きがあるものの、総合的信頼性の観点から、耐熱性や難燃性に優れ長期使用実績のあるポリ塩化ビニル樹脂組成物が、まだまだ使用されている状況にある。
【0003】
このポリ塩化ビニル樹脂組成物の中には、ポリ塩化ビニル樹脂のほかに熱、光等に対する安定剤が含まれており、この安定剤としては一般に鉛化合物が用いられている。このため、電線・ケーブルの使用環境によっては、あるいはその廃棄物の処分方法によっては、絶縁被覆材料が地中に埋設されることがあり、この場合、経年後に安定剤を構成する鉛化合物の鉛が溶出し土中、水中に流出される懸念がある。
【0004】
現在、環境対策の面から、鉛化合物を主成分とする鉛系安定剤の使用が、例えばカルシウムや亜鉛化合物を主成分とする非鉛系安定剤の使用に置き換わりつつあるが、ポリ塩化ビニル樹脂組成物に使用する安定剤としては、長期信頼性と共に長期使用実績のある鉛系安定剤が依然として用いられている状況にある。
【0005】
一方、先行技術文献の特許文献1には、電線の絶縁被覆材料を構成する組成物として、ポリ塩化ビニル樹脂を用いると共に非鉛系安定剤としてカルシウム−亜鉛系安定剤を用い、カルシウム−亜鉛系安定剤をハイドロタルサイトと併用することにより、絶縁被覆材料の熱安定性や耐候性を向上させた絶縁被覆電線が記載されている。
【0006】
また、先行技術文献の特許文献2には、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、酸化カルシウム0.1〜15重量部、ハイドロタルサイト類を含むカルシウム−亜鉛系安定剤2〜20重量部、酸化防止剤0.2〜3重量部、可塑剤4〜60重量部からなる、吸湿による発泡がない押出加工性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−276953号公報
【特許文献2】特開2000−226485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の絶縁被覆電線・絶縁被覆ケーブルによれば、絶縁被覆材料を構成する組成物として、ポリ塩化ビニル樹脂を用いると共に安定剤として鉛化合物を主成分とする鉛系安定剤を未だ用いる現状では、鉛化合物の鉛が土中、水中に流出される懸念が払拭されず、環境対策上の課題があるといえる。
【0009】
一方、特許文献1に記載の絶縁被覆電線は、絶縁被覆材料を構成する組成物として、ポリ塩化ビニル樹脂を用いると共に安定剤としてカルシウム−亜鉛化合物からなる非鉛系安定剤を用いるものであり、カルシウム−亜鉛系安定剤をハイドロタルサイトと併用することにより、絶縁被覆材料の熱安定性や耐候性を向上させたものである。しかしながら、この絶縁被覆電線は、鉛系安定剤を用いる従来の絶縁被覆電線・絶縁被覆ケーブルと比較すると、絶縁被覆材料の長期信頼性、品質保証の点で、未だ十分であるとはいい難い。
【0010】
また、特許文献2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物は、安定剤としてハイドロタルサイト類を含むカルシウム−亜鉛系安定剤を用いるものであり、これはハイドロタルサイト類を大量に含む場合の吸湿による発泡を抑えるため、ハイドロタルサイト類を含むカルシウム−亜鉛系安定剤の添加量を調整することにより、発泡を抑え押出加工性を向上させたものである。ハイドロタルサイト類を含むカルシウム−亜鉛系安定剤の安定剤としての性能が、特に電気的絶縁性能が鉛系安定剤よりも向上するというものではない。そもそも、特許文献2は、鉛流出の課題や、絶縁被覆電線・絶縁被覆ケーブルについて記載したものではない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、安定剤として鉛化合物を用いることにより絶縁被覆材料の長期信頼性を容易に確保でき、且つ、鉛化合物を用いた場合の鉛流出の問題を解決できる、鉛溶出を防止した絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、導体の周上にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁被覆層を設けた絶縁被覆電線であって、前記絶縁被覆層が鉛化合物を含む層と鉛化合物を含まない層の複数層からなると共に、少なくとも最外層が鉛化合物を含まない層からなり、前記最外層の層厚が0.02mm以上であることを特徴とする鉛溶出を防止した絶縁被覆電線を提供する。
【0013】
この絶縁被覆電線によれば、上記構成の採用により、特に絶縁被覆層が鉛化合物を含む層と鉛化合物を含まない層の複数層からなると共に、少なくとも最外層が鉛化合物を含まない層からなり、この最外層の層厚が0.02mm以上であることにより、鉛化合物を含む層を設けることで絶縁被覆層の長期信頼性を容易に確保できると共に、鉛化合物を含む層を絶縁被覆層の内方に閉じ込めることにより鉛流出の問題を効果的に解決できる。
【0014】
請求項2の発明は、前記鉛化合物を含まない層が、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対しハイドロタルサイトを0.3wt%以上含有させた組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆電線を提供する。
【0015】
この絶縁被覆電線によれば、上記効果に加えて、鉛化合物を含まない層にハイドロタルサイトを適量含有させた組成物を用いることにより必要な絶縁性能を容易に確保できる。
【0016】
請求項3の発明は、前記絶縁被覆層が、3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆電線を提供する。
【0017】
この絶縁被覆電線によれば、上記効果に加えて、絶縁被覆層が、3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることにより、鉛化合物を含む層を絶縁被覆層の内部に閉じ込めることで電線の端末等露出断面からの鉛流出を効果的に防止できる。
【0018】
請求項4の発明は、絶縁線心の周囲にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁シースを設けた絶縁被覆ケーブルであって、前記絶縁シースが鉛化合物を含む層と鉛化合物を含まない層の複数層からなると共に、少なくとも最外層が鉛化合物を含まない層からなり、前記最外層の層厚が0.02mm以上であることを特徴とする鉛溶出を防止した絶縁被覆ケーブルを提供する。
【0019】
この絶縁被覆ケーブルによれば、上記構成の採用により、特に絶縁シースが鉛化合物を含む層と鉛化合物を含まない層の複数層からなると共に、少なくとも最外層が鉛化合物を含まない層からなり、この最外層の層厚が0.02mm以上であることにより、鉛化合物を含む層を設けることで絶縁シースの長期信頼性を容易に確保できると共に、鉛化合物を含む層を絶縁シースの内方に閉じ込めることにより鉛流出の問題を効果的に解決できる。
【0020】
請求項5の発明は、前記鉛化合物を含まない層が、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対しハイドロタルサイトを0.3wt%以上含有させた組成物からなることを特徴とする請求項4に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆ケーブルを提供する。
【0021】
この絶縁被覆ケーブルによれば、上記効果に加えて、鉛化合物を含まない層にハイドロタルサイトを適量含有させた組成物を用いることにより必要な絶縁性能を容易に確保できる。
【0022】
請求項6の発明は、前記絶縁シースが、3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることを特徴とする請求項4又は5に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆ケーブルを提供する。
【0023】
この絶縁被覆ケーブルによれば、上記効果に加えて、絶縁シースが、3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることにより、鉛化合物を含む層を絶縁シースの内部に閉じ込めることでケーブルの端末等露出断面からの鉛流出を効果的に防止できる。
【0024】
上記において、鉛化合物を含む層の鉛化合物の含有量については、当該層を構成する絶縁被覆層もしくは絶縁シースがいずれも必要な絶縁性能を得る程度に含まれていればよく、特に制限されるものではないが、製造上の観点からその含有量については、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対し鉛化合物を1〜10wt%とすることが好ましい。
【0025】
また、上記において、最外層の鉛化合物を含まない層の層厚を0.02mm以上としたのは、それが0.02mm未満の場合だと、押出しにより成形される絶縁被覆層もしくは絶縁シースの肉厚にムラが生じたり、押出ヘッド部での差圧や発熱により絶縁被覆層もしくは絶縁シースの一部が焼けを起こし、この結果絶縁抵抗値が低下すると共に鉛流出の危険性が高まるからである。
【0026】
また、上記において、絶縁被覆層もしくは絶縁シースを構成ずるポリ塩化ビニル樹脂組成物の中には、いずれもポリ塩化ビニル樹脂のほかに可塑剤、安定剤、滑剤、充填剤等が含まれるのが普通である。
【0027】
また、上記において、鉛化合物を含まない層は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対し安定剤と共にハイドロタルサイトを0.3wt%以上含有させた組成物からなることが好ましく、それが0.3wt%未満の場合だと、絶縁被覆層もしくは絶縁シースを構成する組成物として必要な絶縁性能を確保することができない。ハイドロタルサイトと共に添加して使用される安定剤としては、例えばカルシウム−亜鉛系複合安定剤やカルシウム置換型ゼオライトが用いられるが、これに限定されるものではない。また、この安定剤の含有量についても特に制限はない。
【発明の効果】
【0028】
本発明の絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルによれば、安定剤として鉛化合物を用いることにより絶縁被覆材料の長期信頼性を容易に確保でき、且つ、鉛化合物を用いた場合の鉛流出の問題を構造的に効果的に解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面、表に基づいて詳述する。
【0030】
図1は本発明の一実施の形態に係る絶縁被覆電線の断面構造を示し、図2は同本発明の一実施の形態に係る絶縁被覆ケーブルの断面構造を示す。
【0031】
図1に示される構造の絶縁被覆電線1は、導体2の周上にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁被覆層3を設けてなり、前記絶縁被覆層3が、内側から鉛化合物を含まない層(内層4)、鉛化合物を含む層(中間層5)及び鉛化合物を含まない層(外層6)の3層からなると共に、鉛化合物を含まない層である内層4及び外層6の層厚を夫々0.02mm以上として構成される。
【0032】
また、図2に示される構造の絶縁被覆ケーブル7は、撚り合わせられた複数本の絶縁線心8の周囲にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁シース9を設けてなり、前記絶縁シース9が、内側から鉛化合物を含まない層(内層10)、鉛化合物を含む層(中間層11)及び鉛化合物を含まない層(外層12)の3層からなると共に、鉛化合物を含まない層である内層10及び外層12の層厚を夫々0.02mm以上として構成される。なお、この絶縁被覆ケーブル7において、撚り合わせられた複数本の絶縁線心8と絶縁シース9との間の隙間には、必要に応じて充填材を設けてもよい。
【0033】
図1及び図2に示される構造の絶縁被覆電線1及び絶縁被覆ケーブル7において、夫々鉛化合物を含まない層である内層4、10及び外層6、12は、いずれもポリ塩化ビニル樹脂100wt%に対しハイドロタルサイトを0.3wt%以上含有させた組成物により構成される。ハイドロタルサイトは、鉛化合物を含まない非鉛系安定剤と共に組成物に添加して用いられる。中間層5、11は、鉛化合物を主成分とする安定剤を添加したポリ塩化ビニル樹脂組成物により構成される。ポリ塩化ビニル樹脂組成物の中には、安定剤のほかに可塑剤、滑剤、充填剤等が含有される。
【0034】
また、絶縁被覆電線1の絶縁被覆層3、絶縁被覆ケーブル7の絶縁シース9の夫々形成方法としては、いずれも押出機を用いた押出し成形により被覆形成される。
【実施例】
【0035】
(ポリ塩化ビニル樹脂組成物の組成)
図1に示される構造の絶縁被覆電線1の絶縁被覆層3に用いられるポリ塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)の組成を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図2に示される構造の絶縁被覆ケーブル7の絶縁シース9に用いられるポリ塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)の組成を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表1〜表2中、AとFの組成物は、いずれも安定剤として三塩基性硫酸鉛からなる鉛系安定剤を用いたものである。それ以外のB〜E及びG〜Jの組成物は、安定剤として非鉛系安定剤であるカルシウム−亜鉛系複合安定剤もしくはカルシウム置換型ゼオライトを用いたものである。安定剤として非鉛系安定剤を用いたB〜E及びG〜Jの組成物においては、非鉛系安定剤と共にハイドロタルサイトを添加し、このハイドロタルサイトの含有量については、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対しハイドロタルサイトの含有量を0.24wt%〜0.42wt%の間で調整した。
【0040】
(ポリ塩化ビニル樹脂組成物の押出用ペレット作製)
表1〜表2に示される組成に基づき、A〜Jの組成物の夫々各構成材料を合計100kg計量し、250L高速攪拌装置により混合した。混合条件は表3に示される通りである。
【0041】
【表3】

【0042】
次いで、前記により得られた混合物を表4に示される条件で混練・造粒し、押出用ペレットを得た。なお、混練・造粒には、L/D=37の同方向2軸混練押出造粒装置を用いた。この装置では、空冷ホットカット方式で造粒を行い、ペレットを製造した後、冷却装置でペレットを冷却した。
【0043】
【表4】

【0044】
(電線及びケーブルの被覆作業)
多軸ヘッド付90mm単軸押出機を用い、表5に示される条件で絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルの夫々押出被覆作業を行った。
【0045】
【表5】

【0046】
得られた絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルの主な仕様は、夫々次の通りであり、これに対応する絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルのサンプル(導体及び絶縁線心を除去した試料)の主な構成は、夫々表6に示される通りである。
・絶縁被覆電線(品名IV):導体外径1.8mm、絶縁被覆層厚1.2mm、仕上がり外径4.2mm
・絶縁被覆ケーブル(品名CVV):導体外径1.8mm×3本、絶縁シース厚1.5mm、仕上がり外径11.0mm
【0047】
【表6】

【0048】
(鉛流出実験)
実験にあたり、絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルの夫々サンプル(導体及び絶縁線心を除去した試料)を用意した。図3はそのサンプル13の概略形状を示すものである。
【0049】
次に、図4に示されるように、100mlビーカ14を用意し、容積の合計が80mlになるように計量された量のサンプル13をビーカ14の中に入れ、ビーカ14の目盛が100mlを指すところまで純水15を添加した。この後、ビーカ14の開口部をアルミ箔16で密閉し、40℃で30日間放置した。なお、純水15には、鉛濃度0.01mg/Lを確認した純水を用いた。
【0050】
また、図5に示されるように、100mlビーカ14を用意し、容積の合計が80mlになるように計量された量のサンプル13をビーカ14の中に入れ、ビーカ14の目盛が100mlを指すところまで畑土壌からなる表層土17を添加した。この後、ビーカ14の開口部をアルミ箔16で密閉し、40℃で30日間放置した。なお、表層土17を添加する際は、均一な分散を図るため少量ずつ攪拌しながら添加した。
【0051】
このように30日間放置した図4及び図5のビーカ14から夫々試料の水及び土を採取し、水中及び土中の鉛濃度を測定し評価した。測定装置としては、ICP−AES(高周波プラズマ発光分析装置)を用いた。なお、土中の鉛濃度を測定する際は、マイクロウェーブ加圧分解法(EPA3052)により試料の土を前処理した後、鉛濃度を測定した。
【0052】
評価は、環境基本法における水質環境基準の鉛濃度0.01mg/L以下を「良」とした。評価結果は、表7に示される通りである。
【0053】
(絶縁抵抗測定)
上記により得られた絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルの絶縁抵抗値をJIS C3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に基づいて測定した。評価は、同JIS C3307(600Vビニル絶縁電線)における規格50メガMΩ・km以上を満足するものを「良」とした。評価結果は、表7に示される通りである。
【0054】
(熱老化特性測定)
上記により得られた絶縁被覆電線及び絶縁被覆ケーブルの絶縁抵抗値をJIS C3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に基づいて測定した。評価は、同JIS C3307(600Vビニル絶縁電線)における規格値を満足するものを「良」とした。主な試験条件、主な規格値は次の通りである。評価結果は、表7に示される通りである。
・ 条件:100℃、48時間加熱
・引張強度:加熱前の85%以上
・伸び:加熱前の80%以上
【0055】
(熱安定性試験)
上記により得られた絶縁被覆電線から絶縁被覆層を剥ぎ取り、また絶縁被覆ケーブルから絶縁シースを剥ぎ取り、これにより夫々指定の形状の試料を作製し、JIS K6723(600Vポリ塩化ビニル電線被覆材料)に基づいて熱安定性試験を実施した。評価は、規格値180℃×2時間以上を満足するものを「良」とした。評価結果は、表7に示される通りである。
【0056】
(押出時の肉厚調整と外観)
押出時の肉厚調整の良否判断は、絶縁被覆層及び絶縁シースを夫々横断面が現れるように切断し、切断面を光学顕微鏡により観察した。評価は、上下左右の4点で規定の肉厚の10%以内にあるものを「良」とした。外観の良否判断は、目視により観察し、炭化物(ヤケ)や発泡が見られないものを「良」とした。評価結果は、表7に示される通りである。なお、表7では、肉厚調整と外観のいずれも「良」と評価されるものは「良」と記載し、いずれか一方でも「不良」と評価されるものは「不良」と記載した。
【0057】
【表7】

【0058】
表7より、図1に示される構造の絶縁被覆電線及び図2に示される構造の絶縁被覆ケーブルの夫々絶縁性能について、次の通り考察される。
【0059】
(図1に示される構造の絶縁被覆電線について)
内層及び外層の層厚を夫々0.01mmに調整しようとしたサンプルa、bは、押出時に絶縁被覆層の肉厚にムラが発生し、また、サンプルbは、押出ヘッド部での差圧や発熱により絶縁被覆層の一部が焼けを起こし、絶縁抵抗値、鉛流出性の点で良好な結果が得られなかった。
【0060】
サンプルe、g、c、d、fは、内層及び外層の層厚を夫々0.02mmに調整したものであり、肉厚調整や外観に改善が見られた。しかし、内層及び外層に鉛化合物を含むサンプルcは、鉛流出性が良くなく、ハイドロタルサイトの含有量を夫々0.28%、0.24%に調整したサンプルd、fは、熱老化特性及び熱安定性が良くなかった。これは加熱により絶縁被覆層から発生する塩酸を捕捉するハイドロタルサイトの含有量が不足していることにより、劣化が促進されたものと推測される。これに対し、ハイドロタルサイトの含有量を0.42%、0.3%に調整したサンプルe、gは、熱老化特性及び熱安定性がいずれも良好であった。
【0061】
サンプルi、hは、内層及び外層の層厚を夫々0.05mmに調整したものである。ここでも、ハイドロタルサイトの含有量を0.42%に調整したサンプルiは、良好な耐熱特性を示し、ハイドロタルサイトの含有量を0.28%に調整したサンプルhは、良好な結果が得られなかった。
【0062】
(図2に示される構造の絶縁被覆ケーブルについて)
内層及び外層の層厚を夫々0.01mmに調整しようとしたサンプルj、kは、押出時に絶縁被覆層の肉厚にムラが発生し、また、サンプルkは、押出ヘッド部での差圧や発熱により絶縁被覆層の一部が焼けを起こし、絶縁抵抗値、鉛流出性の点で良好な結果が得られなかった。
【0063】
サンプルn、p、l、m、oは、内層及び外層の層厚を夫々0.02mmに調整したものであり、肉厚調整や外観に改善が見られた。しかし、内層及び外層に鉛化合物を含むサンプルlは、鉛流出性が良くなく、ハイドロタルサイトの含有量を夫々0.28%、0.24%に調整したサンプルm、oは、熱老化特性及び熱安定性が良くなかった。これは加熱により絶縁シースから発生する塩酸を捕捉するハイドロタルサイトの含有量が不足していることにより、劣化が促進されたものと推測される。これに対し、ハイドロタルサイトの含有量を0.42%、0.3%に調整したサンプルn、pは、熱老化特性及び熱安定性がいずれも良好であった。
【0064】
サンプルs、q、rは、内層及び外層の層厚を夫々0.05mmに調整したものである。ここでも、ハイドロタルサイトの含有量を0.3%に調整したサンプルsは、良好な耐熱特性を示し、ハイドロタルサイトの含有量を0.28%に調整したサンプルrは、良好な結果が得られなかった。サンプルqは、サンプルlと同様、内層及び外層に鉛化合物を含むものであり、肉厚に関係なく鉛流出性が良くなかった。
【0065】
上記本実施例より、鉛化合物を含む層を設けることにより絶縁被覆層及び絶縁シースの長期信頼性を容易に確保できると共に、鉛化合物を含む層を絶縁被覆層及び絶縁シースの内方に閉じ込めることにより鉛流出の問題を効果的に解決できることが実験で確認された。また、鉛化合物を含まない層に、ハイドロタルサイトを適量含有させた組成物を用いることにより、絶縁被覆層及び絶縁シースに必要な絶縁性能を容易に確保できることが実験で確認された。
【0066】
また、上記本実施例より、絶縁被覆層が3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることにより、鉛化合物を含む層を絶縁被覆層の内方に閉じ込めることで電線・ケーブルの端末等露出断面からの鉛流出も効果的に防止できることが実験で確認された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に係る絶縁被覆電線の断面構造図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る絶縁被覆ケーブルの断面構造図である。
【図3】サンプルの形状説明図である。
【図4】鉛流出(水中)実験状況説明図である。
【図5】鉛流出(土中)実験状況説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 絶縁被覆電線
2 導体
3 絶縁被覆層
4、10 内層
5、11 中間層
6、12 外層
7 絶縁被覆ケーブル
8 絶縁線心
9 絶縁シース
13 サンプル
14 100mlビーカ
15 純水
16 アルミ箔
17 表層土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周上にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁被覆層を設けた絶縁被覆電線であって、前記絶縁被覆層が鉛化合物を含む層と鉛化合物を含まない層の複数層からなると共に、少なくとも最外層が鉛化合物を含まない層からなり、前記最外層の層厚が0.02mm以上であることを特徴とする鉛溶出を防止した絶縁被覆電線。
【請求項2】
前記鉛化合物を含まない層が、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対しハイドロタルサイトを0.3wt%以上含有させた組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆電線。
【請求項3】
前記絶縁被覆層が、3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆電線。
【請求項4】
絶縁線心の周囲にポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁シースを設けた絶縁被覆ケーブルであって、前記絶縁シースが鉛化合物を含む層と鉛化合物を含まない層の複数層からなると共に、少なくとも最外層が鉛化合物を含まない層からなり、前記最外層の層厚が0.02mm以上であることを特徴とする鉛溶出を防止した絶縁被覆ケーブル。
【請求項5】
前記鉛化合物を含まない層が、ポリ塩化ビニル樹脂組成物100wt%に対しハイドロタルサイトを0.3wt%以上含有させた組成物からなることを特徴とする請求項4に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁シースが、3層からなり、外層及び内層がいずれも鉛化合物を含まない層からなると共に中間層が鉛化合物を含む層からなることを特徴とする請求項4又は5に記載の鉛溶出を防止した絶縁被覆ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−153108(P2010−153108A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327860(P2008−327860)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】