説明

鉛蓄電池の電槽化成方法

【課題】 生産性が高く、安全で、安価で、品質の良好な鉛蓄電池の電槽化成方法を提供する。
【解決手段】 低比重の電解液を、低比重電解液タンク9内の水圧を利用して鉛蓄電池1に供給し、電解液排出ライン17、排出ポンプ4b及び電解液回収ライン13を経由して低比重電解液タンク9に循環させる。次に、高比重の電解液を、高比重電解液タンク2内の水圧を利用して鉛蓄電池1に供給し、電解液排出ライン17、排出ポンプ4b及び電解液回収ライン13を経由して高比重電解液タンク2に循環させる。電解液供給ライン14と電解液回収ライン13との間には電解液面監視パイプ11と逆止弁18を設ける。さらに、鉛蓄電池1と排出ポンプ4bとの間の電解液排出ライン17に気液分離槽15を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォークリフトなどの電動車や、自動車用バッテリなどの製造に用いられている鉛蓄電池の電槽化成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は安価で信頼性の高い蓄電池として、フォークリフトなどの電動車や、自動車用バッテリなどとして、さまざまな用途に用いられている。一般的には、これらの用途に用いられている鉛蓄電池は、製造コストが安価であり、大量生産が容易である電槽化成方式によって製造されている。
【0003】
なお、鉛蓄電池の電槽化成方式として、一般的には、2種類の方式が用いられている。すなわち、第1の電槽化成方式は、複数個の鉛蓄電池を、冷却を目的とする水槽等に浸した状態で、希硫酸電解液を注液して充電をする方式である。ここで、鉛蓄電池を電槽化成するには、充電初期には、比重が1.1程度の低比重の希硫酸電解液を用いて充電を開始し、ある程度の充電が進んだ後に、比重が1.3程度の高比重の希硫酸電解液に入れ替えて充電を進めると、活物質の充電効率を高くできるために、電槽化成時の消費電力を低減できることが知られている。
【0004】
しかしながら、水槽に浸した状態で電槽化成をする第1の方式では、鉛蓄電池内部の電解液を、低比重の電解液から高比重の電解液に交換する作業に工数がかかるという問題点がある。すなわち、一般的な電解液交換作業では、鉛蓄電池を倒立させて低比重の電解液を抜き取った後に、高比重の電解液を注液し、再び充電をしているために、電解液を入れ替えるのに多くの工数がかかっていた。
【0005】
加えて、充電時に各鉛蓄電池を均等に冷却することが難しいために、水槽内での設置位置によっては、電池温度にバラツキを生じやすく、その結果、電池寿命にもバラツキが生じやすいという問題点が認められていた。さらに加えて、充電中に発生する酸霧は、工場内に拡散をしていくために、各鉛蓄電池の上方にフードなどを設置したような場合でも、すでに飛散した酸霧を効率よく回収することが難しいという問題点も認められている。
【0006】
そこで、第2の電槽化成方式として、一般的には図4に示されるように、希硫酸電解液を循環させながら充電をする方式が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。この方式は、低比重の電解液を循環させながら充電をした後に、電解液の切換えをして、高比重の電解液を循環させながら充電をする鉛蓄電池の電槽化成方法である。
【0007】
この第2の電槽化成方式では、同時に化成をする鉛蓄電池1の個数や容量(Ah)にも依存するものの、それぞれ一対の5〜20m程度の高比重電解液タンク2と低比重電解液タンク3が用いられている。ここで、高比重電解液タンク2には、比重が1.3程度の希硫酸電解液が、低比重電解液タンク3には比重が1.1程度の希硫酸電解液がそれぞれ充填されている。
【0008】
鉛蓄電池1は、放電容量(Ah)にも依存するが、数10個を1つのブロック21としてブロックごとに並列に接続されており(ただし、図4では、2個の鉛蓄電池1のみが1つのブロック21として示されている。)、これらのブロック21が10〜50個程度並列に、電解液供給ライン14及び電解液回収ライン13、三方弁7a,bを介して、高比重電解液タンク2及び低比重電解液タンク3に接続されている。そして、一つのブロック内の鉛蓄電池1は、電気的には直列に接続され、充電回線を通して、図示されていない充電器に接続される。すなわち、第2の電槽化成方式は、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3には、一度に数百個の鉛蓄電池1を接続し、同時に電槽化成をすることができるために大量生産にも適した方式である。
【0009】
ここで、数10個の鉛蓄電池1が並列に接続されている1つのブロック21(図4では、2個の鉛蓄電池1のみが示されている。)には、それぞれ供給ポンプ4aと排出ポンプ4bとが1個ずつ取り付けられている。まず、三方弁7aを切り替えて、充電初期には、低比重電解液タンク3に蓄積されている比重が1.1程度の低比重の電解液を、供給ポンプ4aを用いて鉛蓄電池1の供給口5から供給し、余分の鉛蓄電池1内の電解液は、排出ポンプ4bを用いて、排出口6から電解液回収ライン13、三方弁7bを通り、再び、低比重電解液タンク3に戻して循環させながら充電をする。
【0010】
その後、使用する鉛蓄電池1の用途にも応じて充電量(Ah)が依存するものの、ある程度の充電が進んだ後には三方弁7aを高比重電解液タンク2側に切り替える。そして、高比重電解液タンク2に蓄積されている比重が1.3程度の高比重の電解液を、供給ポンプ4aを用いて鉛蓄電池1の供給口5から供給し、供給された鉛蓄電池1内の電解液は、排出ポンプ4bを用いて、排出口6から電解液回収ライン13、三方弁7bを通り、再び、高比重電解液タンク2に戻して循環させながら充電する。
【0011】
なお、図4では、ある程度の充電が進んで、低比重の電解液から切り替えた後の、高比重の電解液を循環させながら充電している状態を示している。そして、充電中に発生する酸霧中の硫酸成分は、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3に接続されている図示されていないスクラバー20を用いて回収された後、充電によって生じた酸素ガスや水素ガスなどの気体成分は大気中に放出される。
【0012】
この方式を用いると、
(1)充電状態に応じて、三方弁7a,bを切り替えるのみで、異なった比重の電解液を用いた充電が容易に行えること、
(2)多量の電解液を循環しながら使用しているために、電解液の温度が変化しにくく、充電時において、各鉛蓄電池の温度をほぼ一定にできるために、電池寿命のバラツキも抑えることができること、
(3)充電中に発生する酸霧を一箇所に集めて、図示されていない箇所に設置してあるスクラバー20を用いて、効率よく回収することができるために工場内外の環境にも適合すること、
(4)夏季などの周囲温度が高くなる時期には、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3に蓄積されている希硫酸電解液をチラーなどで冷却して使用することができるために、設備的にも単純な装置にすることができ、季節間における鉛蓄電池1の温度をほぼ一定にできること、
(5)低比重の電解液や高比重の電解液の比重は、それぞれのタンク内の電解液量が多量であるために変化が少なく、比重調整は電槽化成前に行えば十分であることなどの特長が知られている。
【0013】
【特許文献1】特開平5−343051号公報
【特許文献2】特開平7−45302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述したような1つのブロック21ごとに、2台のポンプを用いて鉛蓄電池1に希硫酸電解液を供給・排出をし、循環をさせながら充電する方式では、設備コストが上昇するという問題点や、供給ポンプ4aと排出ポンプ4bとの間のマッチングがとりにくく、それぞれのポンプの運転制御が極めて難しくなるという問題点が認められていた。すなわち、鉛蓄電池1を充電すると、酸素ガスや水素ガスが発生するわけであるが、発生するガスの量は充電末期に特に多くなり、それらの充電状態に応じて鉛蓄電池1内部の圧力を一定の範囲内に抑えられるように、それぞれのポンプを運転制御する必要がある。そして、排出ポンプ4bが故障等で停止をする一方で、供給ポンプ4aがそのまま作動を続けると、鉛蓄電池1内部の圧力が急激に上昇をするために、危険であるという問題点も認められていた。
【0015】
また、各ブロック21に使用されるそれぞれの供給ポンプ4aの送液能力には、必ずバラツキがあるために、各鉛蓄電池1を流れる電解液の流量にもバラツキを生じ、その結果、各鉛蓄電池1の温度にもバラツキが生じるという問題点が認められていた。さらに、何らかの原因で高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3に蓄積されている希硫酸電解液量が減少し、十分な電解液の循環量を確保できなくなったような場合には、鉛蓄電池1の冷却が不十分となり、電池の温度が上昇した状態で化成され、その結果、電池寿命が短くなるという問題点も認められていた。
【0016】
本発明の目的は、上記した課題を解決するものであり、生産性が高く、安全で、安価で、品質の良好な鉛蓄電池の電槽化成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した課題を解決するために、本発明では、鉛蓄電池に希硫酸電解液を供給するに際して、電解液タンク内の希硫酸電解液の水圧を利用して供給することを特徴としている。さらに、各ブロックごとに入り口側の希硫酸電解液の水圧が適正であることを、作業者が目視で確認できる電解液面監視パイプを設けている。加えて、排出ポンプが停電や故障等で作動停止をしたような場合でも、鉛蓄電池内部の圧力が異常に上昇しないように、電解液排出ラインには逆止弁を設けるようにしている。さらに加えて、排出ポンプの作動時において、気体成分を含まず、電解液のみを循環回収させることができるように気液分離槽を設けている。
【0018】
すなわち、請求項1の発明は、低比重の電解液を循環させながら供給して充電をした後に、高比重の電解液を循環させながら供給し、充電して化成をする鉛蓄電池の電槽化成方法において、
前記低比重の電解液は、低比重電解液タンク3に入れられており、
前記高比重の電解液は、高比重電解液タンク2に入れられており、
前記低比重の電解液は、前記低比重電解液タンク3内の水圧を利用して、電解液供給ライン14を経由して鉛蓄電池1に供給され、電解液排出ライン17、排出ポンプ4b及び電解液回収ライン13を経由して前記低比重電解液タンク3に循環され、
前記高比重の電解液は、前記高比重電解液タンク2内の水圧を利用して、前記電解液供給ライン14を経由して鉛蓄電池1に供給され、前記電解液排出ライン17、前記排出ポンプ4b及び前記電解液回収ライン13を経由して前記高比重電解液タンク2に循環されることを特徴とするものである。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記電解液供給ライン14と前記電解液回収ライン13との間には、電解液面監視パイプ11が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記電解液排出ライン17と前記電解液回収ライン13との間の排気パイプ12には、逆止弁18が設けられていることを特徴とするものである。
【0021】
請求項4の発明は、低比重の電解液を循環させながら供給して充電をした後に、高比重の電解液を循環させながら供給し、充電して化成をする鉛蓄電池の電槽化成方法において、
前記低比重の電解液は、低比重電解液タンク3に入れられており、
前記高比重の電解液は、高比重電解液タンク2に入れられており、
前記低比重の電解液は、前記低比重電解液タンク3内の水圧を利用して、電解液供給ライン14を経由して鉛蓄電池1に供給され、電解液排出ライン17、気液分離槽15、排出ポンプ4c及び電解液回収ライン13を経由して前記低比重電解液タンク3に循環され、
前記高比重の電解液は、前記高比重電解液タンク2内の水圧を利用して、前記電解液供給ライン14を経由して前記鉛蓄電池1に供給され、前記電解液排出ライン17、前記気液分離槽15、前記排出ポンプ4c及び前記電解液回収ライン13を経由して前記高比重電解液タンク2に循環されることを特徴とするものである。
【0022】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記電解液供給ライン14と前記電解液回収ライン13との間には、電解液面監視パイプ11が設けられていることを特徴とするものである。
【0023】
請求項6の発明は、請求項4又は請求項5の発明において、前記電解液排出ライン17と前記電解液回収ライン13との間の排気パイプ12には、逆止弁18が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
請求項7の発明は、請求項4、請求項5又は請求項6の発明において、前記鉛蓄電池1と前記気液分離槽15との間にはバルブ22が設けられており、前記電解液排出ライン17と前記電解液回収ライン13との間には、第2の排出ポンプ4bと電解液面調整ライン23とで接続されており、前記バルブ22を開いた状態で、前記第2の排出ポンプ4bを停止させた状態で電槽化成を行い、
電槽化成を終了した後に、前記バルブ22を閉じ、前記第2の排出ポンプ4bを作動させて、前記鉛蓄電池1内の余分な高比重の電解液を、前記電解液排出ライン17、前記電解液回収ライン13を介して排出し、前記鉛蓄電池1内の電解液面を調整することを特徴とするものである。
【0025】
請求項8の発明は、請求項4、請求項5、請求項6又は請求項7の発明において、前記気液分離槽15には、液面レベル計が設置されており、前記気液分離槽15内の電解液面のレベルが高いほど、前記排出ポンプ4cから排出される電解液量を多くすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係わる電槽化成方法を用いると、生産性が高く、安全で、安価で、品質の良好な鉛蓄電池の電槽化成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係わる鉛蓄電池の電槽化成方法では、鉛蓄電池1に希硫酸の電解液を供給するに際して、供給ポンプ4aを使用しないで、高比重電解液タンク2及び低比重電解液タンク3内に蓄積されている電解液の水圧を利用することを特徴としている。さらに、高比重電解液タンク2及び低比重電解液タンク3に十分な希硫酸電解液を保有しており、各ブロック21ごとに、鉛蓄電池1にかかる電解液の水圧が適正であることを、作業者が目視で確認できるような電解液面監視パイプ11を設けている。加えて、排出ポンプ4bが停電や故障等で作動停止をしたような場合でも、鉛蓄電池1内部の圧力が異常に上昇しないように、電解液排出ライン17には逆止弁18を設けるようにしている。さらに加えて、排出ポンプ4bからは、充電中に発生するガスを含まず、電解液のみを循環させることができるように、気液分離槽15を設けるようにしている。これらについて、以下の実施例1〜5において、図1〜図3、図5、図6
を用いて詳細な説明をする。
【0028】
1.実施例1
図1に本発明に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図を示す。この電槽化成装置では、上述したように、鉛蓄電池に低比重と高比重の2種類の希硫酸電解液を循環させながら供給し、充電する方式を用いている。一実施例として、それぞれ一対の約10mの高比重電解液タンク2と低比重電解液タンク3を用いた。ここで、高比重電解液タンク2には、比重が1.28の希硫酸電解液が、低比重電解液タンク3には比重が1.12の希硫酸電解液がそれぞれ入れられている。
【0029】
鉛蓄電池1としては、上述した「特許文献1」と同様に、定格容量が300Ahのフォークリフトなどの電動車用の液式鉛蓄電池を用い、同様の充電条件(充電電流値、充電時間等)で実施をした。以下においては、本発明の特徴部分である低比重と高比重の2種類の比重の希硫酸電解液を循環させながら供給して、電槽化成をする部分についての詳細な説明をする。
【0030】
48個の鉛蓄電池1を1つのブロック21として、電解液供給ライン14と電解液排出ライン17とに並列に接続されている(図1では、2個の鉛蓄電池1のみが1つのブロック21として示されている。)。そして、これらのブロック21が10個(10ブロック)、それぞれ並列に配置されており、電解液回収ライン13、三方弁7a,bを介して、高比重電解液タンク2及び低比重電解液タンク3に接続されている。すなわち、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3には、計480個の鉛蓄電池1が並列に接続されており、同時に電槽化成をすることができる。そして、一つのブロック21内では、電気的に鉛蓄電池1は直列に接続されており、充電回線を通して、図示されていない充電器に接続される。したがって、本実施例の場合では、充電回線も10回線となっている。
【0031】
まず、充電初期には、三方弁7aを切り替えて、低比重電解液タンク3に入れられている比重が1.12の低比重の電解液を、電解液供給ライン14を通して各鉛蓄電池1に供給する。ここで、各鉛蓄電池1に電解液を供給するに際しては、供給ポンプを使用しないで、低比重電解液タンク3に蓄積されている低比重の電解液の水圧を利用して供給することを特徴としている。この方式は、いわゆるパスカルの原理を使用しているために、並列に接続されている10個のブロックの計480個すべての鉛蓄電池1の供給口5に、ほぼ等しい圧力の水圧をかけることができる。
【0032】
電解液供給ライン14、供給口5からの低比重の電解液は、充電中の各鉛蓄電池1の内部を通り排出口6に達する。そして、鉛蓄電池1内から送り出された電解液と充電によって発生したガスとの混合物は排出口6から排出される。電解液とガスとの混合物は、電解液排出ライン17と電解液回収ライン13との間に設置されている排出ポンプ4b(例えば、ダイアフラムポンプ)によって吸引され、電解液回収ライン13、三方弁7bを通って、再び、低比重電解液タンク3に循環される。この状態において、電解液供給ライン14等の配管内の抵抗や排出ポンプ4bの排出容量にも依存するが、各鉛蓄電池1に対して、約1リットル/分の電解液が流れていること、ほぼ均等に電解液が流れていることなどが確認された。
【0033】
その後、ある程度の充電が進んだ後において、三方弁7aを低比重電解液タンク3から高比重電解液タンク2側に切り替えて、比重が1.28の高比重の電解液を各鉛蓄電池1に供給しながら充電をする。この場合にも、各鉛蓄電池1に電解液を供給するに際しては、供給ポンプを使用しないで、高比重電解液タンク2に入れられている高比重の希硫酸電解液の水圧を利用することを特徴としている。
【0034】
電解液供給ライン14、供給口5からの高比重の電解液は、充電中の各鉛蓄電池1の内部を通り排出口6に達する。そして、鉛蓄電池1内から送り出された電解液と充電によって発生したガスとの混合物は排出口6から排出され、電解液排出ライン17と電解液回収ライン13との間に設置されている排出ポンプ4bによって吸引されて、電解液回収ライン13、三方弁7bを通って、再び、高比重電解液タンク2に循環される。
【0035】
ここで、充電中に発生するガス(酸霧)中の硫酸成分は、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3に送り込まれ、それに接続されている図示されていないスクラバー20を用いて回収される。なお、充電によって生じた酸素ガスや水素ガスなどの気体成分は、スクラバー20から大気中に放出される。
【0036】
上述したように、本発明では、各電解液タンクからの水圧を利用して鉛蓄電池1に電解液を供給することを特徴としている。したがって、各鉛蓄電池1に電解液を供給するに際して、供給ポンプを使用しておらず、設備コストを低減できるとともに、供給ポンプを作動させるための電力も不要とすることができる。加えて、上述したような供給ポンプ4a(図4)と排出ポンプ4bとの間のマッチングをさせるための運転制御も不要とすることができる。
【0037】
また、従来の方式では、各ブロック21に使用される供給ポンプ4a(図4)の排出容量には必ずバラツキがあるために、各鉛蓄電池1を流れる電解液の流量にもバラツキを生じ、その結果、鉛蓄電池1の温度にもバラツキが生じるという問題点が認められていた。しかし、本発明を用いると、各鉛蓄電池1に一定の水圧で電解液を供給することができるために、各鉛蓄電池1間の電解液流量のバラツキを極めて少なくすることができる。
【0038】
2.実施例2
図2に、上述した実施例1の内容(図1)に対して、改良を加えた本発明に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図を示す。そこで、以下においては、実施例1に改良を加えた部分についてのみ図2を参照としながら詳細な説明をすることにした。今回、改良を加えた電槽化成装置では、
(1)電解液供給ライン14と電解液回収ライン13との間に電解液面監視パイプ11を設けたこと、及び、
(2)電解液排出ライン17と電解液回収ライン13との間の排気パイプ12には、逆止弁18を設けたことの二点を特徴としている。
【0039】
高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3には、希硫酸電解液が充填されており、強度や耐腐食性などの観点から、その材質としては主にステンレス鋼が使用されており、タンクの外部からは電解液の液面が見えない構造となっている。また、化成中に、いずれかのブロック21への電解液供給ライン14のみが詰まってしまうような場合も起こり得る。そこで、各ブロックごとに、電解液供給ライン14と電解液回収ライン13との間には、電解液面監視パイプ11を設けるようにした。
【0040】
ここで、電解液面監視パイプ11は、例えばガラスなどの透明なチューブで構成されている。そして、図2の場合において、配管が正常な場合には、すべてのブロック21の電解液面監視パイプ11内の液面と、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3内の電解液液面とは、同じ高さの液面となるはずである。したがって、電解液面監視パイプ11の設置によって、高比重電解液タンク2等に十分な電解液を保有しており、各ブロック21においても、実際に十分な電解液の水圧がかかっていることを、作業者が目視で簡単に確認をすることができる。
【0041】
もし、いずれかのブロック21の電解液面監視パイプ11の液面が、他に比べて低いような場合には、作業者は、そのブロック21の電解液供給ライン14が詰まったものと判断することができる。一方、充電によって電解液が電気分解された場合や蒸発をした場合のように、すべてのブロック21の電解液面監視パイプ11の液面が通常値よりも低いような場合には、作業者は、適量の希硫酸電解液をタンクに補給して電解液面の調整をすることができる。なお、低比重の電解液で充電をしているような場合についても、全く同様の手段で、それぞれの電解液面の監視をすることができる。
【0042】
さらに、電解液排出ライン17と電解液回収ライン13との間の排気パイプ12には、逆止弁18を設けることにした。この逆止弁18は、樹脂性のボールを使用したものであり、電解液排出ライン17内の圧力が、電解液回収ライン13内の圧力(すなわち、大気圧)よりも高くなったような場合には、樹脂性のボールが浮き上がることによって弁作動させて、電解液回収ライン13、高比重電解液タンク2又は低比重電解液タンク3、スクラバー20を経由してガスを大気中に放出して安全性を確保するものである。
【0043】
すなわち、逆止弁18を設けることによって、排出ポンプ4bが停電や故障等で作動停止をしたような場合や、鉛蓄電池1の内部で多量のガスが発生したような場合でも、電解液排出ライン17や鉛蓄電池1内部の圧力を大気圧程度に抑えることができる。なお、通常の作動状態では、排出ポンプ4bが作動しているために、電解液排出ライン17内の圧力は大気圧よりも減圧された状態になっており、逆止弁18が作動することはない。
【0044】
3.実施例3
図3に、実施例3として、上述した実施例2の内容(図2)に対して、さらに改良を加えた本発明に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図を示す。そこで、以下においては、実施例2に改良を加えた部分についてのみ図3を参照にしながら詳細な説明をすることにした。今回、改良を加えた電槽化成装置は、排出ポンプ4cとして、例えば、マグネットポンプを使用していること、鉛蓄電池1と排出ポンプ4cとの間の電解液排出ライン17に気液分離槽15を設けるとともに、気液分離槽15には、電解液面レベル計16を設置して、一定範囲内の電解液面レベルにおいて排出ポンプ4cを作動させたことを特徴としている。
【0045】
図3に示すように、鉛蓄電池1の排出口6からの電解液は、供給口5の部分に電解液タンクからの水圧がかかっているために、自然に気液分離槽15に流れ込む。すなわち、高比重電解液タンク2や低比重電解液タンク3内からの電解液は、三方弁7a、電解液供給ライン14、鉛蓄電池1の供給口5及び排出口6を経由して気液分離槽15に流れ込むことになる。一方、充電によって発生したガスによって、電解液排出ライン17内の圧力は電解液回収ライン13内の圧力(すなわち、大気圧)よりも高くなる。したがって、発生したガスは、鉛蓄電池1の排出口6、逆止弁18、電解液回収ライン13、高比重電解液タンク2又は低比重電解液タンク3、スクラバー20を経由して大気中に放出される。
【0046】
気液分離槽15には、一対の電解液面レベル計16を設置して、一定範囲内の電解液面レベルにおいて排出ポンプ4cを作動させるようにした。すなわち、電解液面レベル計16が高レベルの液面を検出すると排出ポンプ4cが作動し、その後に低レベルの液面を検出すると排出ポンプ4cが停止するようにした。したがって、従来は連続して排出ポンプ4bを運転していたが、本発明を用いることによって排出ポンプ4cの間歇運転が可能となり、ポンプの消費電力を低減することができる。
【0047】
従来は、充電末期の高比重の電解液で充電をする段階になると、水の電気分解によって鉛蓄電池1から発生するガスの量が多量となり、排出ポンプ4bは、いわゆる空運転に近い状態で運転されていた。したがって、排出ポンプ4bとしては、液体・気体両用のダイアフラムポンプが使用されていた。そして、排出ポンプ4bを空運転状態で長時間の運転をすると、ダイアフラムポンプの寿命にも悪影響を及ぼすことが知られている。
【0048】
ここで、図示されているように、気液分離槽15の下部には気体は存在せず、液体のみが存在するために、排出ポンプ4cとして、例えば、マグネットポンプの使用が可能となる。したがって、上述した実施例1や実施例2のように排出ポンプ4bとして、ダイアフラムポンプを使用した場合よりも、騒音が少ないことや、送水効率が向上することや、上述したように間歇運転となるために消費電力を低減することができるために排出ポンプ4cの寿命をさらに長くすることができる。
【0049】
4.実施例4
図5に、実施例4として、上述した実施例3の内容(図3)に対して、さらに改良を加えた本発明に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図を示す。そこで、以下においては、実施例3に改良を加えた部分についてのみ図5を参照にしながら詳細な説明をする。
【0050】
なお、実施例3と同様に、本実施例4においても、排出ポンプ4cとして、例えば、マグネットポンプを使用していること、鉛蓄電池1と排出ポンプ4cとの間の電解液排出ライン17に気液分離槽15を設けるとともに、気液分離槽15には、電解液面レベル計16を設置して、一定範囲内の電解液面レベルにおいて排出ポンプ4cを作動させている。
【0051】
本実施例4では、鉛蓄電池1と気液分離槽15との間を遮断できるバルブ22、例えば、ボールバルブを設けている。さらに、鉛蓄電池1とバルブ22の間の電解液排出ライン17と電解液回収ライン13との間には、第2の排出ポンプ4b、例えば、ダイアフラムポンプが設けられ、電解液面調整ライン23で接続されている。すなわち、排出ポンプとして、マグネットポンプなどの第1の排出ポンプ4cと、ダイアフラムポンプなどの第2の排出ポンプ4bの計2個を使用している。後述するように、これらの改良によって、電槽化成終了後の鉛蓄電池1内の電解液面の高さを、ほぼ一定に調整することができる。
【0052】
図5に示すように、電槽化成中は、バルブ22を「開」の状態とし、排出ポンプ4bは「停止」状態にして、上述した実施例3と同じ条件で電槽化成を行う。なお、電槽化成を終了した状態では、一部の鉛蓄電池1内の電解液面の高さが排出口6の高さよりも高くなり、その高さにもバラツキが生ずるような場合が認められた。
【0053】
そこで、電槽化成終了後に、バルブ22を「閉」の状態とし、排出ポンプ4bを作動させて鉛蓄電池1内の余分な高比重の電解液を、電解液排出ライン17、電解液回収ライン13を介して排出し、鉛蓄電池1内の電解液面の高さを排出口6の高さに調整するようにした。したがって、電槽化成を終了した後に、作業者が鉛蓄電池1内から電解液を抜き取る作業を不要にすることができる。
【0054】
5.実施例5
図6に、実施例5として、上述した実施例4の内容(図5)に対して、さらに改良を加えた本発明に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図を示す。以下においては、実施例4に改良を加えた部分についてのみ図6を参照にしながら詳細な説明をする。
【0055】
なお、上述した実施例3及び実施例4と同様に、本実施例5においても、排出ポンプ4cとして、例えば、マグネットポンプを使用しており、鉛蓄電池1と排出ポンプ4cとの間の電解液排出ライン17に気液分離槽15を設けている。なお、マグネットポンプなどの排出ポンプ4cは、間歇的に運転させたり停止させたりすることをを繰り返すと、一般的に寿命が短くなることが知られている。
【0056】
そこで、実施例5では、気液分離槽15には、液面レベル計、例えば、フロート式電解液面レベル計24を設置して電解液面の高さを常時測定し、電解液面の高さに応じて排出ポンプ4cから排出される電解液量を調整できるようにして、特別な場合を除いて停止をさせないようにした。なお、フロート式電解液面レベル計24としては、市販されている抵抗式液面計、例えば、(株)ノーケン社製の抵抗式液面指示警報計を用いた。
【0057】
そして、気液分離槽15の液面レベル(例えば、H,M,Lの各レベル。)に応じて、排出ポンプ4cから排出される電解液量を調整できるようにした。例えば、電解液面が「H」レベルを超えている場合には、排出ポンプ4cに供給する交流周波数として50Hzを用い、電解液面が「H」レベルと「M」レベルの間の場合には、排出ポンプ4cに供給する交流周波数として30Hzを用い、電解液面が「M」レベルと「L」レベルの間の場合には、排出ポンプ4cに供給する交流周波数として10Hzを用い、電解液面が「L」レベル以下の場合には、排出ポンプ4cに電力を供給せずに停止させるようにした。すなわち、電解液面のレベルが高いほど、マグネットポンプの回転数を速くするようにした。そして、通常の運転状態では、気液分離槽15の電解液面が「L」レベル以下にはならないように設計し、排出ポンプ4cとして用いているマグネットポンプが連続して運転されるようにし、短時間でも停止をしないようにした。
【0058】
これらの改良によって、排出ポンプ4cとして用いているマグネットポンプは、気液分離槽15内の電解液面のレベルに応じて、その回転数を変動させながら運転をさせることができ、その結果、排出される電解液量を調整することができる。したがって、排出ポンプ4cは、停止することがなく、常時、連続して運転できるために、長寿命化させることができる。
【0059】
なお、上述した実施例では、フォークリフトなどの電動車用鉛蓄電池の電槽化成方法について詳細な記載をしたが、自動車用バッテリなどの電槽化成方法にも、同様に使用をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、フォークリフトなどの電動車や、自動車用バッテリなどに使用されている鉛蓄電池の電槽化成方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図である。
【図2】実施例2に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図である。
【図3】実施例3に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図である。
【図4】従来の鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図である。
【図5】実施例4に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図である。
【図6】実施例5に係わる鉛蓄電池の電槽化成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0062】
1:鉛蓄電池、2:高比重電解液タンク、3:低比重電解液タンク、4a:供給ポンプ、
4b、c:排出ポンプ、5:供給口、6:排出口、7a、b:三方弁、
8:高比重電解液液面、9:低比重電解液液面、10:鉛蓄電池電解液液面、
11:電解液液面監視パイプ、12:排気パイプ、13:電解液回収ライン、
14:電解液供給ライン、15:気液分離槽、16:電解液面レベル計、
17:電解液排出ライン、18:逆止弁、20:スクラバー、21:ブロック、
22:バルブ、23:電解液面調整ライン、24:フロート式液面レベル計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低比重の電解液を循環させながら供給して充電をした後に、高比重の電解液を循環させながら供給し、充電して化成をする鉛蓄電池の電槽化成方法において、
前記低比重の電解液は、低比重電解液タンク3に入れられており、
前記高比重の電解液は、高比重電解液タンク2に入れられており、
前記低比重の電解液は、前記低比重電解液タンク3内の水圧を利用して、電解液供給ライン14を経由して鉛蓄電池1に供給され、電解液排出ライン17、排出ポンプ4b及び電解液回収ライン13を経由して前記低比重電解液タンク3に循環され、
前記高比重の電解液は、前記高比重電解液タンク2内の水圧を利用して、前記電解液供給ライン14を経由して鉛蓄電池1に供給され、前記電解液排出ライン17、前記排出ポンプ4b及び前記電解液回収ライン13を経由して前記高比重電解液タンク2に循環されることを特徴とする鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項2】
前記電解液供給ライン14と前記電解液回収ライン13との間には、電解液面監視パイプ11が設けられていることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項3】
前記電解液排出ライン17と前記電解液回収ライン13との間の排気パイプ12には、逆止弁18が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項4】
低比重の電解液を循環させながら供給して充電をした後に、高比重の電解液を循環させながら供給し、充電して化成をする鉛蓄電池の電槽化成方法において、
前記低比重の電解液は、低比重電解液タンク3に入れられており、
前記高比重の電解液は、高比重電解液タンク2に入れられており、
前記低比重の電解液は、前記低比重電解液タンク3内の水圧を利用して、電解液供給ライン14を経由して鉛蓄電池1に供給され、電解液排出ライン17、気液分離槽15、排出ポンプ4c及び電解液回収ライン13を経由して前記低比重電解液タンク3に循環され、
前記高比重の電解液は、前記高比重電解液タンク2内の水圧を利用して、前記電解液供給ライン14を経由して前記鉛蓄電池1に供給され、前記電解液排出ライン17、前記気液分離槽15、前記排出ポンプ4c及び前記電解液回収ライン13を経由して前記高比重電解液タンク2に循環されることを特徴とする鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項5】
前記電解液供給ライン14と前記電解液回収ライン13との間には、電解液面監視パイプ11が設けられていることを特徴とする請求項4記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項6】
前記電解液排出ライン17と前記電解液回収ライン13との間の排気パイプ12には、逆止弁18が設けられていることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項7】
前記鉛蓄電池1と前記気液分離槽15との間には、バルブ22が設けられており、前記電解液排出ライン17と前記電解液回収ライン13との間には、第2の排出ポンプ4bと電解液面調整ライン23とで接続されており、前記バルブ22を開いた状態とし、前記第2の排出ポンプ4bを停止させた状態として電槽化成を行い、
電槽化成を終了した後に、前記バルブ22を閉じ、前記第2の排出ポンプ4bを作動させて、前記鉛蓄電池1内の余分な高比重の電解液を、前記電解液排出ライン17、前記電解液回収ライン13を介して排出し、前記鉛蓄電池1内の電解液面を調整することを特徴とする請求項4、請求項5又は請求項6記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項8】
前記気液分離槽15には、液面レベル計が設置されており、前記気液分離槽15内の電解液面のレベルが高いほど、前記排出ポンプ4cから排出される電解液量を多くすることを特徴とする請求項4、請求項5、請求項6又は請求項7記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−210766(P2008−210766A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112612(P2007−112612)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】