説明

鉛蓄電池用活物質原料及びそれを用いた鉛蓄電池

【課題】鉛蓄電池において、正極活物質の化成効率を向上させるとともに、正極活物質の耐軟化性を向上させ、ひいてはサイクル寿命特性を向上させる。
【解決手段】本発明の活物質原料は、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部11の周りに、Pbを主体とする一次粒子12とPbOを主体とする一次粒子13とが混在して凝集することで形成されている二次粒子10からなる。したがって、本発明の活物質原料を添加すると、化成効率が向上する。また、二次粒子10の表面は、完全にPb化されておらずPbOが存在するから、本発明の活物質原料を活物質ペーストの材料と混練すると、二次粒子10中のPbOを含む一次粒子13同士が結合し、二次粒子10の表面に存在するPbOがペースト中のPbOなどとも結合するので、活物質間の結合力が強固となり、鉛丹を添加した公知の技術よりも耐軟化性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用活物質原料及びそれを用いた鉛蓄電池に関する。
通常、「鉛蓄電池用活物質原料(以下、単に活物質原料という)」とは、鉛粉、水、硫酸、鉛丹やその他の添加剤を含み、活物質ペーストを作製する上で必要なすべての原料を意味する語である。しかし、本発明の特許請求の範囲、明細書中においては、「活物質原料」という語を、本発明および比較例に記載されたPbを含む原料のみを示す言葉として用い、「鉛粉」、「水」、「硫酸」、「その他の添加剤」という語については、「活物質原料」と区別した語としてそれぞれ用いる。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の化成効率を改善する方法として、正極活物質材料に鉛丹を含ませるという技術が知られている。しかし、通常、鉛丹を何の工夫もせず添加すると、活物質粒子間のネットワークが破壊され、活物質粒子間の結合が弱くなるために、早期に活物質の軟化脱落が起こってサイクル寿命特性が低下するという問題があった。
【0003】
この問題を解決する手法として、1粒子中にPbを主成分とする部分とPbOを主成分とする部分とが存在する原料(特許文献1を参照)を添加する手法や、金属PbとPbOとを含み表面層がPbである原料(特許文献2を参照)を添加する手法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−44772公報
【特許文献2】特開平10−270029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極活物質ペーストに、特許文献1に記載の原料を含ませて、混練熟成すると、熟成時に、PbO部分が、ペースト中の金属PbやPbOおよび塩基性硫酸鉛と結合することで活物質粒子間の結合が強化されるが、Pb部分はこれら(金属PbやPbOなど)と結合し難い。特許文献1に記載の原料においては、Pbを主成分とする部分とPbOを主成分とする部分とが混在状態ではなく、偏在していることから、この原料を添加して作製した正極活物質ペースト中には、部分的にペースト中の金属PbやPbOおよび塩基性硫酸鉛と結合し難い部分が発生する。
【0005】
また、特許文献2に記載されている原料は、金属PbとPbOを含んでいるが、表面層がPbで形成されているので、正極活物質ペーストに含ませて、混練熟成する際に、ペースト中の金属PbやPbOおよび塩基性硫酸鉛と結合し難い。
【0006】
したがって、特許文献1および特許文献2に記載されている原料を使用した場合には、活物質粒子間の結合力の強化が、通常鉛丹を含ませた場合に比べて改善されるものの、充分とは言えず、充放電の繰り返しによる活物質の軟化脱落を充分に防止できない。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、鉛蓄電池において、正極活物質の化成効率を向上させるとともに、鉛丹を含ませた公知の技術よりも、正極活物質の耐軟化性を向上させ、ひいてはサイクル寿命特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として、本発明は、一次粒子が集合して形成された二次粒子からなる鉛蓄電池用活物質原料であって、前記二次粒子は、図1に示すように、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部11の周りに、Pbを主体とする一次粒子12とPbOを主体とする一次粒子13とが混在して凝集して形成された二次粒子10であり、かつ、その表面が完全にPb化されていないことを特徴とする鉛蓄電池用活物質原料、および、この鉛蓄電池用活物質原料を正極活物質ペーストに用いることを特徴とした鉛蓄電池である。
【0009】
なお、本発明において「主体とする」とは、「過半数量を占める(質量基準)」ということを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鉛蓄電池用活物質原料(以下、単に活物質原料ともいう)は、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部の周りにPbを主体とする一次粒子とPbOを主体とする一次粒子とが混在して凝集して形成される二次粒子からなるので、これを正極活物質ペーストに含ませて熟成すると、二次粒子中に含まれるPbOを含む一次粒子同士が結合する。
【0011】
また本発明の活物質原料は、表面が完全にPb化されていない二次粒子であるから、表面にはPbOが存在し、このPbOがペースト中で周囲にあるPbOや塩基性硫酸鉛とも結合する。
【0012】
その結果、従来の活物質原料を使用した場合よりも、Pbの周辺のPbOが強固に結合するため、活物質間の結合力が強固となり、化成時におこる活物質間のネットワークの破壊を抑制することができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、鉛丹を活物質ペーストに含ませた場合においても、活物質の耐軟化性を向上させ、ひいてはサイクル寿命特性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の活物質原料では、Pbが含まれるから、Pbが電解液中の硫酸と反応してPbSOと導電性の高いPbOとを生成することで、化成効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の活物質原料に含まれる二次粒子10は、図1に示すように、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部11の周りにPbを主体とする一次粒子12及びPbOを主体とする一次粒子13が混在して凝集して形成される。
【0016】
この二次粒子10の表面は、完全にPb化されておらず、表面層にPbOが存在する。完全にPb化されているものを水中で撹拌した後の上澄み液のpHは7,8程度を示し、PbOが残っているとpHは10付近を示す。したがって、本発明の活物質原料を水中で撹拌混合して得られた上澄み液のpHは、10前後である。
【0017】
本発明の活物質原料は、二次粒子状の鉛粉(詳細は後述する)を、通常350〜450℃で焼成することで作製される。この焼成のときの焼成条件(温度、時間など)を調整することで、表面が完全にPb化されていない状態(表面にPbOが残存する状態)とすることができるとともに、活物質原料中のPb含有量を調整することができる。本明細書においてPb含有量とは、活物質原料(鉛粉を焼成してPb化した時の焼成物)中のPbの割合(質量%)をいい、具体的にはPbの質量を鉛粉を焼成してPb化したときの焼成物の質量で除した値に100を乗じた値で表される。
Pb含有量(質量%)は以下の滴定操作にて定量することができる。
まず、活物質原料に酢酸−酢酸アンモニウム溶液と0.1Nのチオ硫酸ナトリウム溶液とを加えて撹拌し、完全に溶解させる。
この試料溶液に、デンプン溶液を指示薬として使用し、0.1Nのヨウ素溶液を滴下して、ヨウ素デンプン反応による紫色の呈色を示した時点を終点として、溶液中に残っているチオ硫酸イオンを滴定する。空実験も同様に行い、滴定に使用したヨウ素溶液の量から次式を用いて、Pb含有量(質量%)を算出した。
Pb含有量(質量%)=[0.3428×(b’−b)×f]/S×
100
b’:空実験で滴定時に消費したヨウ素溶液の使用量(ml)
b:試料の滴定に消費したヨウ素溶液の使用量(ml)
f:ヨウ素溶液のファクター
S:試料の量(g)
【0018】
本発明の活物質原料中のPb含有量は、20〜80質量%であることが好ましい。Pb含有量が20質量%未満では化成効率の向上効果が発揮できず、80質量%を超えると活物質の早期軟化脱落が起こりやすくなる。
【0019】
なお、二次粒子10の表面を完全にPb化されていない状態とするには、表面が完全にPb化した焼成物の表層の一部を削ることで、PbOを露出させてもよい。例えば、粉砕などを行うとPb化した焼成物の表層の一部を削ることができるので、この方法でも可能である。
【0020】
本発明の活物質原料を作製するための二次粒子状の鉛粉としては、金属Pbを主体とする一次粒子の周りにPbOを主体とする一次粒子が凝集して形成されたものを使用することができる。この二次粒子状の鉛粉中の金属Pbの含有量は、鉛粉全体の質量に対して通常10〜30質量%である。
【0021】
本発明の活物質原料を作製するための二次粒子状の鉛粉は、バルトン式鉛粉製造機と比較して細かい粒子を製造することのできるボールミル式鉛粉製造機を使用し、ボールミルの風量と風速を適正な条件に設定することで作製される。
【0022】
具体的に説明すると、一般的なボールミル式鉛粉製造機を使用して、従来の鉛粉を製造するときよりも、送り込む空気の風量を少なくするとともに、風速を遅くすると、平均粒子径の小さい一次粒子状の鉛粉が製造される。この一次粒子状の鉛粉は、平均粒子径が小さいため、凝集して二次粒子状の鉛粉を形成する。
【0023】
また、二次粒子状の鉛粉を形成する一次粒子のうち、外側に配されるものは空気に接触する部分が多いため、PbからPbOへの酸化が進み易い。その結果、金属Pbを主体とする一次粒子が凝集して形成された中心部の周りにPbOを主体とする一次粒子が凝集した二次粒子状の鉛粉が形成されるのである。
【0024】
次に本発明の活物質原料を用いた鉛蓄電池(以下、単に「電池」ともいう)の作製方法について説明する。
まず、本発明の活物質原料を、鉛粉に添加して、常法により混合する。
【0025】
本発明の活物質原料の添加量は、鉛粉と本発明の活物質原料との合計質量に対して10〜30質量%であるのが好ましい。本発明の活物質原料の添加量が10質量%未満では化成効率の向上効果が発揮されにくく、30質量%を超えると活物質の早期軟化脱落が起こりやすくなる。
【0026】
本発明の活物質原料と鉛粉とを混合した後、水と硫酸を加えて混練して、正極活物質ペーストを作製し、このペーストを、鉛蓄電池用鉛合金格子に塗布し、室温の熟成室で熟成後、乾燥して未化成の正極板を作製する。
【0027】
次に、未化成の正極板と常法により作製した未化成の負極板とを、微孔性のポリエチレン等を主体としたセパレータを介して組み合わせて、極板群を作製し、電槽に挿入し蓋を溶着した後、電解液を所定量注入して電槽化成を経ると本発明の鉛蓄電池が得られる。
【0028】
<実施例および比較例>
以下、本発明を具体的に適用した実施例および比較品に関する比較例について説明する。
(1)鉛蓄電池用活物質原料の作製
金属Pbの含有量が10〜30質量%で、Pbを主体とする一次粒子が凝集して形成された中心部の周りにPbOを主体とする一次粒子が凝集した二次粒子状のボールミル式鉛粉を原料として、焼成温度450℃で焼成時間を調整することでPb含有量の異なる本発明の活物質原料を作製した。Pb含有量が20質量%、50質量%、80質量%、90質量%のものを、それぞれ本発明の活物質原料1、2、3、4とする。
【0029】
また、金属Pbの含有量が10〜30質量%で球状粒子の中心部にPbを含み、その周囲がPbOからなる一次粒子状のバルトン式鉛粉を原料として、焼成温度450℃で焼成時間を調整することでPb含有量の異なる比較の活物質原料を作製した。Pb含有量が20質量%、50質量%、80質量%、90質量%、97質量%のものを、それぞれ比較の活物質原料5、6、7、8、9とする。
なお、上記Pb量には±3質量%の誤差が含まれており、いる。
【0030】
(2)活物質原料の断面の観察
上記の方法により作製した本発明の活物質原料1〜4および比較の活物質原料5〜9について断面観察を行った。活物質原料粒子を樹脂に埋めた後、切断面を研磨してレーザー顕微鏡を用いて研磨面を観察した。図2は本発明の活物質原料2の断面の模式図、図3は比較の活物質原料6の断面の模式図である。
【0031】
観察の結果、本発明の活物質原料2は、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部11の周りに、粒子径が0.1〜9.0μmのPbを主体とする一次粒子12及びPbOを主体とする一次粒子13が混在して凝集して形成された二次粒子10であり、この二次粒子10の粒子径は10〜50μmであることが確認された(図2を参照)。本発明の活物質原料1、3、4についても同様であった。
【0032】
比較の活物質原料6については、PbOおよびPbの少なくとも一方からなる部分21の周囲にPbからなる層22が形成された粒子径が0.5μm〜15μmの一次粒子20であることが確認された(図3を参照)。比較の活物質原料5、7、8、9についても同様であった。
【0033】
(3)活物質原料の表面層がPbで覆われているか否かについての確認
次に、本発明の活物質原料1〜4の表面層にはPbOが残存していて、完全にPbで覆われた状態ではないことを以下の方法により確認した。
【0034】
本発明の活物質原料10gをイオン交換水100ml中で撹拌混合した後、30分間静置して上澄み液のpH測定を行った。PbOが存在する場合、pHが10付近となることから、pHが7〜8の場合には表面層が完全にPbで覆われていると判断し、pHが10付近の場合には表面層が完全にPbで覆われていないと判断した。
【0035】
本発明の活物質原料1〜4の全てにおいて、pHが10付近を示したことから、本発明の活物質原料1〜4の表面層は完全にPbで覆われていないことがわかった。
【0036】
(4)鉛蓄電池の作製
本発明の活物質原料1〜4の添加量および比較の活物質原料5〜9の添加量が表1に記載されている量(鉛粉と活物質原料との合計質量に対して10〜30質量%)となるように、ボールミル式鉛粉と混合し、さらに水と硫酸を加えて混練して活物質ペーストを作製した。また、本発明の活物質原料、比較の活物質原料および鉛丹を添加しないもの(すなわちPb成分を含まないもの)についても同様に活物質ペーストを作製した。
【0037】
このようにして作製した活物質ペーストをそれぞれ、鉛合金格子に塗布し、室温の熟成室で40時間熟成後、乾燥して未化成の正極板を作製した。
【0038】
この未化成の正極板と常法により作製した未化成の負極板とを、微孔性のポリエチレンを主体としたセパレータを介して組み合わせて、極板群を作製し、34B19型用電槽に挿入して蓋を溶着し34B19型鉛蓄電池を作製した。
【0039】
この鉛蓄電池に比重1.15(20℃)の希硫酸を所定量注入してから正極の理論容量に対して1.8倍の電気量を8時間通電して電槽化成を行い、公称容量27Ahの鉛蓄電池を得た。本発明の活物質材料1〜4を用いて作製した鉛蓄電池を実施例1〜12、本発明の活物質原料、比較の活物質原料および鉛丹を添加せずに作製した鉛蓄電池を比較例1、比較の活物質原料5〜9を用いて作製した鉛蓄電池を比較例2〜16とした。
【0040】
<試験例>
上記の方法により、各実施例1〜12および比較例1〜16の電池をそれぞれ4個ずつ作製した。作製された電池を2個ずつ、以下に示す化成効率の評価試験と耐軟化性の評価試験に供し、2個の電池の試験結果の平均値を評価試験の結果として採用した。
(1)化成効率の評価試験
鉛蓄電池の正極活物質は化成によってPbOや塩基性硫酸鉛からPbOに変化するため、化成後の正極活物質中のPbO量を比較することで化成効率を評価した。以下、具体的に説明する。
【0041】
まず、電槽化成後の正極活物質を水洗して硫酸を除去し、乾燥後、粉砕する。次に、粉砕した正極活物質(試料)に酢酸−酢酸アンモニウム溶液と0.1Nのチオ硫酸ナトリウム溶液とを加えて撹拌し、完全に溶解させた。
【0042】
この試料溶液に、デンプン溶液を加えて、0.1Nのヨウ素溶液を滴下して、ヨウ素デンプン反応による紫色の呈色を示した時点を終点として、溶液中に残っているチオ硫酸ナトリウムイオンを滴定した。空実験も同様に行い、滴定に使用したヨウ素溶液の量から次式を用いて化成後のPbO量(質量%)を算出した。
PbO量(質量%)=[0.01196×(b’−b)×f]/S×100
b’:空実験で滴定時に消費したヨウ素溶液の使用量(ml)
b:試料の滴定に消費したヨウ素溶液の使用量(ml)
f:ヨウ素溶液のファクター
S:試料の量(g)
【0043】
比較例1の電池の化成後のPbO量を100とした場合の相対値Aを表1に示した。この相対値Aが大きいほどPbO量が多い、すなわち化成効率が向上していることを示す。
【0044】
(2)耐軟化性の評価試験
鉛蓄電池の正極活物質は、充放電の繰り返しによって、PbOが軟化して徐々に脱落し取り出せる容量が減少するため、以下の手順でサイクル寿命試験を行い、試験前後の正極活物質の量を測定して、試験前の正極活物質量に対して試験後にはどの位の正極活物質が残っているかを比較することで耐軟化性を評価した。
【0045】
(サイクル寿命試験)
40℃±2℃の周囲温度で、10Aで30分放電、2.5Aで2時間12分充電を1サイクルとして、充放電を行った。25サイクルごとに完全充電状態から、10Aで終止電圧10.2Vまで判定放電を行い、サイクル終了条件は150サイクルとした。
【0046】
比較例1の電池の活物質残存量を100とした場合の相対値Bを表1に示した。この相対値Bが大きいほど活物質の脱落量が少ない、すなわち耐軟化性が高いことを示す。
【0047】
さらに、表1の右側端には、相対値Aと相対値Bとを乗じたものの平方根値(以下、A×B値という)を示した。このA×B値は、化成効率を向上させ、かつ耐軟化性を向上させることができたかどうかを示すものであり、比較例1の電池のA×B値(100)よりも大きければ、化成効率を向上させるとともに耐軟化性を向上させたと判断した。
なお、表1中、「比較の原料」とは「比較の活物質原料」を示し、「本発明の原料」とは「本発明の活物質原料」を示し、「Pb含有量」とは「活物質原料中のPb含有量(質量%)」を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
<試験結果と考察>
(1)化成効率について
実施例1〜12の鉛蓄電池および比較例2〜16の鉛蓄電池において、化成効率は、比較例1よりも向上した。
【0050】
これは、実施例1〜12および比較例2〜16においては、正極活物質ペースト中にPbが含まれているから、このPbが化成時に電解液中の硫酸と反応して導電性の高いPbOが生成されることで、化成効率が向上したと考えられる。
【0051】
添加した活物質原料が同じで、かつ活物質原料の添加量が同じもの(例えば、実施例5〜8)の化成効率を比較すると、Pb含有量が20〜90質量%の範囲内では、Pb含有量が多くなるにつれ化成効率は高くなったが、Pb含有量が80〜90質量%の範囲では、化成効率は変化が少なかった。
【0052】
このことからPb含有量が80質量%を超えると、Pb含有量を多くすることによる化成効率向上効果が得られにくい範囲であると考えられ、活物質原料中のPb含有量は20〜80質量%であるのが好ましいと考えられる。
【0053】
(2)耐軟化性について
活物質原料中のPb含有量および活物質ペーストへの活物質原料の添加量が同じものを比較すると(例えば比較例2と実施例1)、実施例の電池のほうが比較例の電池よりも耐軟化性が高かった。
【0054】
これは、実施例1〜12の電池において使用した本発明の活物質原料を正極活物質ペーストに含ませると、二次粒子中のPbOを主体とする一次粒子同士が結合し、表面に存在するPbOが他の二次粒子やペースト中のPbOや塩基性硫酸鉛と結合することで、Pb周辺のPbOが強固に結合するため、比較例2〜16の電池よりも、活物質間の結合力が強固となったからではないかと考えられる。
【0055】
活物質原料中のPb含有量と活物質ペーストへの活物質原料の添加量が多いものほど(活物質ペースト中のPb量が多くなるほど)、耐軟化性が低下することがわかった。また、実施例1〜4、5、6、9の電池は、Pb成分を含有しているにもかかわらず、Pb成分を含有していない電池(比較例1)と比較し、微差ではあるが、耐軟化性が向上した。
【0056】
(3)化成効率の向上と耐軟化性の向上(A×B値)について
実施例1〜12の電池は比較例1よりもA×B値が高かったが、比較例2〜16の電池においては比較例1よりもA×B値の高いものはなかった。
【0057】
このことから、本発明の活物質原料を使用した鉛蓄電池は、化成効率を向上させるとともに耐軟化性が向上したと考えられる。
【0058】
<まとめ>
以上より本発明によれば、鉛蓄電池において、正極活物質の化成効率を向上させるとともに、鉛丹を添加した公知の技術よりも正極活物質の耐軟化性を向上させ、ひいてはサイクル寿命特性を向上させることができる。
【0059】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例においては、Pb含有量が20、50、80質量%の活物質原料を、活物質原料全体に対して10質量%、20質量%、30質量%添加したものを示したが、Pb含有量や添加量はこれに限定されず、例えば、Pb含有量が25質量%のものを15質量%添加したものや、Pb含有量が75質量%のものを25質量%添加したものなどであってもよい。
(2)上記実施例においては、液式電池を例示して説明したが、VRLA型電池(制御弁式鉛蓄電池)の活物質に用いても同様の効果が得られるので、本発明の活物質原料は、VRLA型電池の活物質原料として適用することもできる。
(3)上記実施例においては、より好ましいボールミル式鉛粉を原料として本発明の活物質原料を作製する方法を示したが、活物質原料の粒子の状態が、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部の周りに、Pbを主体とする一次粒子とPbOを主体とする一次粒子とが混在して凝集して形成されているものであれば、他の方法で作製されているものであってもよい。
(4)本発明の鉛蓄電池は、添加剤として有機繊維などを含んでいるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の活物質原料の一例の拡大概略図
【図2】本発明の活物質原料の断面の模式図
【図3】比較の活物質原料の断面の模式図
【符号の説明】
【0061】
10…二次粒子
11…中心部
12…Pbを主体とする一次粒子
13…PbOを主体とする一次粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が集合して形成された二次粒子からなる鉛蓄電池用活物質原料であって、
前記二次粒子は、PbOおよびPbの少なくとも一方を含む一次粒子が凝集して形成された中心部の周りに、Pbを主体とする一次粒子とPbOを主体とする一次粒子とが混在して凝集して形成され、
かつ、その表面が完全にPb化されていないことを特徴とする鉛蓄電池用活物質原料。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池用活物質原料を正極活物質ペーストに用いることを特徴とする鉛蓄電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−276980(P2008−276980A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116106(P2007−116106)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】