説明

鉛蓄電池用負極活物質合剤

【課題】著しく高い導電性を有し、それ故に、負極の電気二重層容量を増大させ得るばかりではなく、炭素材料の漏出による短絡を防止し得、従って、著しく長い電池寿命を付与し得るところの鉛蓄電池用負極活物質合剤、並びに、該負極活物質合剤の脱落を有効に防止し得、簡便かつ安価に製造し得る基板を備える鉛蓄電池用負極板を提供する。
【解決手段】(A)負極活物質100質量部、(B)耐硫酸性を有する導電性繊維(成分(C)及び(D)を除く)1〜2質量部、(C)活性炭1〜5質量部、及び(D)1種類以上の炭素材料(成分(C)を除く)各1〜5質量部(ここで、成分(C)と成分(D)との合計量が2〜10質量部である)を含む鉛蓄電池用負極活物質合剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用負極活物質合剤及びそれを備えた鉛蓄電池用負極板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する意識の高まりを背景に、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しないクリーンな発電方式として、風力又は太陽光を使用する発電方式への関心が高まっている。しかし、これらの発電方式は、自然条件の影響を受け易く、風力及び太陽光発電の発電状態によって様々な充電状態(以下、PSOCと言う)で使用されるため、系統連係時に周波数変動及び電圧低下等のトラブルを引き起こす可能性がある。
【0003】
系統に対して急激に発電電流が流れ込むことを防ぐために、風力及び太陽光発電に電力貯蔵用の蓄電設備が併設されることがある。該蓄電設備としては、安価であるとともに安定した性能からくる高い信頼性の故に、現在でも鉛蓄電池が主流を占めている。しかし、鉛蓄電池は、急速な充放電や様々なPSOCで使用されると、鉛蓄電池の負極は正極と比較して表面積が小さいため、電解液の拡散が律速となり、分極が増大する。そのため、従来の鉛蓄電池では大型化が必要となっている。また、鉛蓄電池は様々なPSOCで充放電を繰り返すと、溶解析出反応で負極に放電物質である硫酸鉛が生成され、該硫酸鉛の生成により導電性が低下し、分極が増大することになる。この問題を解決するため、鉛蓄電池用負極板の導電剤として粒状のカーボン粉末を添加することが提案されているが、これだけではPSOCで優れた充放電性能を発揮する鉛蓄電池は得られなかった。
【0004】
かかる問題を解決するために、負極活物質に対し、所定量の導電性カーボン及び活性炭を添加して得た活物質合剤ペーストを鉛蓄電池用負極に使用する試みがなされている(特許文献1)。該試みによれば、負極の分極を減少させると共に、放電開始直後の電池電圧を高く維持することができる。
【0005】
しかし、該試みでは、導電性カーボン及び活性炭の添加量を、負極活物質100質量部に対し合計8質量部以上にした負極活物質を用いた鉛蓄電池と、風力又は太陽光発電とを併設し、様々なPSOCで使用すると、負極での海綿状鉛の成長が阻害され、負極活物質粒子間の結合強度が低下する。従って、導電性低下を招いて高率放電性能が低下し、かつ活物質が脱落して電池寿命が短くなると言う問題が生ずる。このように負極内部に含めることができる導電性カーボン及び活性炭量には制限があり、それ故、負極の電気二重層容量増加にも限界があった。加えて、充放電による負極板の膨張及び収縮により、活物質中に電解液が通る通路ができ、活物質中の導電性カーボン及び活性炭、とりわけ、粒子径の小さい導電性カーボンが電解液に漏出しセパレータに侵入して短絡が生ずることがある。
【0006】
一方、電池性能の低下の原因として、電池の充放電により、極板を構成する基板から活物質が脱落すると言う問題がある。該問題を解決すべく、打ち抜きによって活物質を充填すべき空隙を形成せしめた格子体の骨を機械的に捻り変形させた格子体を、極板を構成する基板として使用する試みがある(特許文献2)。
【0007】
しかし、捻り変形により格子の強度が低下し、ときには格子が破損してしまう等の問題を生ずる。従って、捻り変形を慎重に行う必要があり、製造に多大な労力と時間を必要としていた。
【0008】
【特許文献1】特開2003−51306号公報
【特許文献2】実公昭40−13472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、著しく高い導電性を有し、それ故に、負極の電気二重層容量を増大させ得るばかりではなく、炭素材料の漏出による短絡を防止し得、従って、著しく長い電池寿命を付与し得るところの鉛蓄電池用負極活物質合剤、並びに、該負極活物質合剤の脱落を有効に防止し得、簡便かつ安価に製造し得る基板を備える鉛蓄電池用負極板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく種々の検討を試みた。その結果、特許文献3記載の負極活物質合剤に導電性繊維を添加することに思い至った。導電性繊維を添加すると、該繊維表面がイオン化し、そして、活性炭、並びにカーボンブラック、グラファイト及び炭素繊維等の炭素材料と結合して、これらが該導電性繊維表面に担持される。従って、活性炭及びこれら炭素材料の添加量を増加しても負極における海綿状鉛の成長を阻害することなく、活物質間の導電性を著しく高め得るばかりではなく、電解液に漏出する炭素材料の量を大幅に減ずることができて、短絡を防止し得ることを見出した。加えて、活物質間の導電性を著しく高め得ることから、活性炭と、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維等の比較的導電性の高い炭素材料とを併用した際、これら導電性の高い炭素材料の量を減じても高い導電性を維持し得、従って、その分、活性炭量を増加することができ、負極の電気二重層容量の増加を図り得ることを見出した。加えて、導電性繊維は、負極活物質内に多数の導電性繊維の微細なマトリックスを形成するため、負極活物質の機械的強度を高め、かつ活性炭量を増加しても活性炭の移動及び凝集による負極活物質合剤の軟化を防止し得て、電池寿命の延長を図ることができる。
【0011】
また、本発明者は、負極板を構成する基板として、所定の構造を有する基板を使用すれば、上記活物質合剤中に含まれる導電性繊維と基板との絡み合いを改善することができ、負極活物質合剤と基板との密着性をより高め得て負極活物質合剤の基板からの脱落を防止して、電池寿命を長くし得ることをも見出した。
【0012】
即ち、本発明は、
(1)(A)負極活物質 100質量部、
(B)耐硫酸性を有する導電性繊維(成分(C)及び(D)を除く) 1〜2質量部、
(C)活性炭 1〜5質量部、及び
(D)1種類以上の炭素材料(成分(C)を除く) 各1〜5質量部
(ここで、成分(C)と成分(D)との合計量が2〜10質量部である)
を含む鉛蓄電池用負極活物質合剤である。
【0013】
好ましい態様として、
(2)成分(C)と成分(D)との合計量が8〜10質量部であるところの上記(1)記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(3)成分(C)と成分(D)との合計量が8質量部を超え10質量部以下であるところの上記(1)記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(4)成分(B)が、金属繊維及び金属で被覆された繊維より成る群から選ばれるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(5)金属繊維が鉛繊維及びスズ繊維であるところの上記(4)記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(6)金属で被覆された繊維がSnO2で被覆されたガラス繊維であるところの上記(4)記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(7)成分(D)が、カーボンブラック、グラファイト及び炭素繊維より成る群から選ばれるところの上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(8)成分(D)が、カーボンブラックであるところの上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤、
(9)上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤を備えた鉛蓄電池用負極板、
(10)鉛蓄電池用負極板を構成する基板が、複数の多角形の活物質合剤充填用空間を有し、かつ該空間を成す多角形の辺の全部又は一部に突出部を有するところの上記(9)記載の鉛蓄電池用負極板、
(11)多角形の活物質合剤充填用空間が、三角形、長方形、正方形、五角形又は六角形であるところの上記(10)記載の鉛蓄電池用負極板、
(12)多角形の活物質合剤充填用空間が、略正六角形であるところの上記(10)記載の鉛蓄電池用負極板、
(13)突出部が、活物質合剤充填用空間を成す多角形の辺の全部に設けられているところの上記(9)〜(12)のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極板
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉛蓄電池用負極活物質合剤は、著しく高い導電性を有し、それ故に、負極の電気二重層容量を増大させ得るばかりではなく、炭素材料の漏出による短絡を防止し得、従って、著しく長い電池寿命を付与し得る。また、該負極活物質合剤を備える本発明の負極板は、該負極活物質合剤の脱落を有効に防止し得るばかりではなく、簡便かつ安価に製造し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の成分(B)耐硫酸性を有する導電性繊維は、活物質合剤の導電性を高めるとともに、活物質を支持する支持体として使用される。該導電性繊維の直径の上限は、好ましくは100μm、より好ましくは60μmであり、下限は、好ましくは10μm、より好ましくは20μmである。上記上限を超えては、効果の著しい増大が認められず、上記下限未満では、導電性を十分に高めることができないばかりか、活物質の支持体としても十分に作用しない。また、該導電性繊維の長さの上限は、好ましくは10mm、より好ましくは5mmであり、下限は、好ましくは1mm、より好ましくは3mmである。上記上限を超えては、活物質合剤調製中に導電性繊維が切断されて短くなり、繊維長に見合う十分な効果が得られない。上記下限未満では、導電性を十分に高めることができないばかりか、活物質の支持体としても十分に作用しない。該導電性繊維の直径及び長さは、例えば、20μm及び3mm程度が好ましい。成分(B)耐硫酸性を有する導電性繊維としては、好ましくは、金属繊維及び金属で被覆された繊維が挙げられる。金属繊維としては、例えば、鉛繊維、スズ繊維等が挙げられる。金属で被覆された繊維としては、例えば、SnO2で被覆されたガラス繊維等が挙げられる。
【0016】
上記導電性繊維の配合量の上限は、成分(A)負極活物質100質量部に対して、2質量部であり、下限は1質量部である。上記上限を超えては、効果の著しい増大が認められず、その分、全体として活物質の割合が減少して電池寿命が低下する。一方、上記下限未満では、活性炭及び炭素材料を良好に担持することができず、電池寿命を高めることができない。
【0017】
成分(C)活性炭は、負極の電気二重層容量を増加するために使用される。活性炭としては、比較的比表面積の大きいものが使用される。本発明において使用される活性炭の比表面積の上限は、好ましくは2500m2/g、より好ましくは2400m2/gであり、下限は、好ましくは1000m2/g、より好ましくは1600m2/gである。上記上限を超えては、効果が飽和し、電気二重層容量を顕著に増加させることはできず、一方、上記下限未満では、負極の電気二重層容量の増加を達成することができない。該活性炭の粒子径の上限は、好ましくは50μm、より好ましくは40μmであり、下限は、好ましくは3μm、より好ましくは10μmである。上記範囲外では、負極の電気二重層容量を十分に増加することができない。該活性炭としては、例えば、ヤシガラ、石油ピッチ、石油コークス、コールタールピッチ、フェノール樹脂等から製造されたものが使用され、粒状又は繊維状のいずれであってもよい。
【0018】
上記活性炭の配合量の上限は、成分(A)負極活物質100質量部に対して、5質量部であり、下限は1質量部であり、好ましくは3質量部である。上記上限を超えては、効果の著しい増大が認められず、その分、全体として活物質の割合が減少して電池寿命が低下する。一方、上記下限未満では、負極の電気二重層容量を増大させることができず、電池寿命を高めることができない。
【0019】
成分(D)炭素材料は、活物質合剤の導電性を高めるために使用される。従って、比較的導電性の高い炭素材料、好ましくは、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、粉状又は繊維状グラファイト、及びピッチ系又はPAN系炭素繊維等炭素繊維等が使用される。この中でも、カーボンブラックが特に好ましく使用される。これらは単独で使用してもよく、また二種以上併用してもよい。
【0020】
上記炭素材料の配合量の上限は、成分(A)負極活物質100質量部に対して、5質量部であり、下限は1質量部であり、好ましくは3質量部である。上記上限を超えては、効果の著しい増大が認められず、その分、全体として活物質の割合が減少して電池寿命が低下する。一方、上記下限未満では、活物質合剤の導電性を高めることができず、電池寿命を高めることができない。
【0021】
成分(C)と成分(D)との配合量の合計は、その上限が、成分(A)負極活物質100質量部に対して、10質量部である。下限は、成分(A)負極活物質100質量部に対して、2質量部であり、好ましくは8質量部であり、より好ましくは8質量部を超える量である。上記上限を超えては、効果の著しい増大が認められず、その分、全体として活物質の割合が減少して電池寿命が低下する。一方、上記下限未満では、電池寿命を高めることができない。
【0022】
成分(A) 負極活物質としては、鉛蓄電池の負極活物質として公知の物質、即ち、鉛粉、酸化鉛を使用することができる。これらは単独で使用してもよく、また併用してもよい。
【0023】
本発明の鉛蓄電池用負極活物質合剤には、上記の各成分のほか、防縮剤として天然又は合成リグニン及び硫酸バリウムを含めることができる。リグニンは、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜0.5質量部含めることができる。また、硫酸バリウムは、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.5〜3.0質量部含めることができる。これらを含めることにより、負極活物質の凝集を抑えて、充放電の繰り返しによる性能の低下を抑制することができる。
【0024】
本発明の鉛蓄電池用負極活物質合剤は、通常、公知の方法に従って、鉛蓄電池用負極板を構成する基板に塗布ないし充填される。鉛蓄電池用負極板を構成する基板としては、公知のものを使用することができる。好ましくは、複数の多角形の活物質合剤充填用空間を有し、かつ該空間を成す多角形の辺の全部又は一部に突出部を有する基板が使用される。該突出部は、活物質合剤充填用空間を成す多角形の辺の全部に設けられていることが好ましい。該突出部が、活物質合剤に含まれる成分、とりわけ、成分(B)導電性繊維と絡まって活物質合剤の基板からの脱落を効果的に防止することができる。また、活物質合剤充填用空間を成す多角形は、特に制限はなく、好ましくは、三角形、長方形、正方形、五角形又は六角形であり得る。より好ましくは略正六角形の活物質合剤充填用空間が設けられる。該基板の多角形の空間は、好ましくは打ち抜きにより製造することができる。打ち抜きに際して、意図的にパリが形成されるように打ち抜くと、容易に突出部を形成せしめることができる。
【0025】
このようにして得られた本発明の鉛蓄電池用負極板は、公知の方法に従って、鉛蓄電池へと組み立てられ得る。
【実施例】
【0026】
実施例及び比較例で使用した物質及びその他の電池材料、並びに試験方法は下記の通りである。
【0027】
物質
<成分(A)>
鉛粉:粒子径2〜20μm、平均粒子径7.5μm
<成分(B)>
鉛繊維:直径20〜60μm、長さ3〜5mm
<成分(C)>
活性炭:粒子径3〜50μm、比表面積2400 m2/g
<成分(D)>
カーボンブラック:粒子径20〜100μm
<その他の成分>
硫酸バリウム
リグニン:日本製紙ケミカル株式会社製、バニレックスN(商標)
硫酸電解液:硫酸ナトリウム20グラムを水1リットルに溶解して製造した。比重は1.20である。
【0028】
電池材料
<基板>
負極基板として、図1及び2に示した基板(a)及び基板(b)を使用した。いずれの基板も略正六角形の活物質合剤充填用空間(1)を有している。基板(b)においては、空間を成す六角形の辺の全部に図2に示した突出部(2)を有している。基板(a)は該突出部を有していない。基板(a)及び(b)の寸法はいずれも、電極部が40.0×75mmであり、耳部が4×12.0mmであり、電極部及び耳部の厚さがいずれも2.0mmである。また、基板(b)の突出部を含めた厚さは3.0mmである。正六角形の穴の部分は直径6〜12mmである。
正極板の寸法は、電極部が40.0×73.0mmであり、耳部が4×12.0mmであり、電極部の厚さが4.0mmであり、かつ耳部の厚さが3.8mmである。
負極基板及び正極基板の材質は、いずれも鉛‐カルシウム合金である。
<リテーナーマットセパレーター>
日本板硝子株式会社製、FM920N(商標)、平均直径1μm以下の微細なガラス短繊維100質量部にシリカ微粉末10質量部を添加し、抄紙してマット状にしたものである。該リテーナーマットセパレーターは、20kPa加圧時の厚さが0.8mmである。
<電槽>
ABS樹脂製であり、寸法は65.0mm×150mm×85.0mm である。
【0029】
試験方法
<充放電サイクル寿命試験>
充電量/放電量が104%となるように放電電流0.13CA及び充電電流0.14CAとして実施した。該試験は25℃環境温度で実施した。該試験において放電電圧が0Vとなった時点でのサイクル数を電池寿命とした。
【0030】
(実施例1〜9)
表1に示した配合量(質量部)で各成分を混合した。次いで、イオン交換水及び希硫酸(比重:1.4)を、鉛粉100質量部に対して、夫々、15質量部及び6質量部添加して混合し、負極活物質合剤ペーストを製造した。該ペーストを、表1に示した種類の各負極基板に充填し、次いで、40℃、湿度95%で24時間熟成した後、乾燥して未化成の負極板を製造した。
【0031】
一方、正極活物質としての酸化鉛100質量部に対して、イオン交換水及び希硫酸(比重:1.27)を夫々、10質量部及び10質量部添加して混合し、正極活物質ペーストを製造した。該ペーストを正極基板に充填し、次いで、40℃、湿度95%で24時間熟成した後、乾燥して未化成の正極板を製造した。
【0032】
このようにして製造された負極板4枚と正極板3 枚とをリテーナーマットセパレーターを介して積層し、かつ同極性の耳列を溶接して、実施例毎に極板群を組み立てた。各極板群を夫々、ABS樹脂製の電槽に収納して密閉し、次いで、硫酸電解液(比重:1.20)50.0ccを注入した。これを40℃において、理論容量の200%過充電して電槽化成を実施し、電圧2Vの密閉型鉛蓄電池を製造した。各電池の電解液の比重は1.260であった。また、化成後に実施した各電池の容量試験において、5時間率容量は7Ahであった。
【0033】
(比較例1〜9)
表2に示した配合量(質量部)及び負極板の種類を使用した以外は、上記の実施例と同一にして実施した。
【0034】
上記のようにして製造した、実施例及び比較例の各密閉型鉛蓄電池を使用して、充放電サイクル寿命試験を実施した。結果を表1及び表2に示した。表1及び表2において、各成分、硫酸バリウム及びリグニンの単位はいずれも質量部である。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
実施例1は、負極基板として突出部を備えていない従来の基板を使用したものである。電池寿命は比較的短いものの、従来の活物質合剤を使用した比較例1に比べて、より長い電池寿命を示した。実施例2は、負極板として突出部を備えた基板を使用したものである。実施例1と比較して、活物質の脱落量を低減することができ、著しく良好な電池寿命を示した。実施例3は、実施例2に対して、成分(B)鉛繊維の配合量を増やしたものである。更に、電池寿命が増大した。これは、鉛繊維量の増加により、成分(C)活性炭及び成分(D)カーボンブラックの鉛繊維への担持がより進んだためと考えられる。実施例4及び5は、活性炭とカーボンブラックとの合計量を実施例3と同一にして、夫々、活性炭とカーボンブラックの配合量を最大にしたものである。これらの実施例から活性炭の配合量を増加すると、更に、電池寿命を増大させ得ることが分かった。実施例6は、実施例3と鉛繊維の配合量を同じにして、活性炭とカーボンブラックの配合量を最小にしたものである。電池寿命は低下したものの、鉛蓄電池として十分に満足のいくものであった。実施例7は、実施例3と鉛繊維の配合量を同じにして、活性炭とカーボンブラックの配合量を最大にしたものである。鉛蓄電池として十分に満足のいく電池寿命を示した。実施例8は、実施例3に対して、カーボンブラックの配合量を増加したものである。実施例9は、実施例3に対して、活性炭の配合量を増加したものである。いずれも、実施例3と比較して、寿命が15〜20サイクル増加した。
【0038】
一方、比較例1及び2は、いずれも成分(b)鉛繊維を含まないものである。負極基板の種類に関係なく電池寿命は著しく悪いものであった。充放電サイクル寿命試験の後、これらの電池を解体したところ負極板中のカーボンブラックが流出しセパレータに付着していた。このように、鉛繊維を含まないものでは多量のカーボンブラックの流出が認められた。比較例3は、実施例4に対してカーボンブラックを配合しなかったものである。また、比較例4は、実施例5に対して活性炭を配合しなかったものである。いずれの比較例においても、電池寿命は著しく悪いものであった。比較例5は、活性炭及びカーボンブラックの配合量を、本発明の範囲を超えて増加させたものである。電池寿命は著しく悪いものであった。これは、これら成分を必要以上に増やしても効果が飽和して所期の効果が得られず、その分、全体として活物質量が減少して生じたものと考えられる。比較例6は、実施例3に対して、鉛繊維の配合量を本発明の範囲を超えて増加させたものである。電池寿命は著しく悪いものであった。これは、鉛繊維を必要以上に増やしても効果が飽和して所期の効果が得られず、その分、全体として活物質量が減少して生じたものと考えられる。比較例7及び8は、活性炭とカーボンブラックとの合計量は本発明の範囲内にあるが、いずれかの成分が本発明の範囲を超えたものである。いずれにおいても、電池寿命は著しく悪いものであった。比較例9は、活性炭とカーボンブラックとの合計量は本発明の範囲内にあるが、いずれの成分の配合量も本発明の範囲未満のものである。電池寿命は著しく悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の鉛蓄電池用負極活物質合剤は、負極の電気二重層容量を増大させ得るばかりではなく、鉛蓄電池に著しく長い電池寿命を付与し得る。従って、本発明の鉛蓄電池用負極活物質合剤を備えた鉛蓄電池は、風力発電及び太陽光発電の蓄電設備に有効に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】負極基板(a)の平面図及びa-a’断面図である。
【図2】負極基板(b)の平面図及びb-b’断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 活物質合剤充填用空間
2 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)負極活物質 100質量部、
(B)耐硫酸性を有する導電性繊維(成分(C)及び(D)を除く) 1〜2質量部、
(C)活性炭 1〜5質量部、及び
(D)1種類以上の炭素材料(成分(C)を除く) 各1〜5質量部
(ここで、成分(C)と成分(D)との合計量が2〜10質量部である)
を含む鉛蓄電池用負極活物質合剤。
【請求項2】
成分(C)と成分(D)との合計量が8〜10質量部であるところの請求項1記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤。
【請求項3】
成分(B)が、金属繊維及び金属で被覆された繊維より成る群から選ばれるところの請求項1又は2記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤。
【請求項4】
成分(D)が、カーボンブラック、グラファイト及び炭素繊維より成る群から選ばれるところの請求項1〜3のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤。
【請求項5】
成分(D)が、カーボンブラックであるところの請求項1〜3のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の鉛蓄電池用負極活物質合剤を備えた鉛蓄電池用負極板。
【請求項7】
鉛蓄電池用負極板を構成する基板が、複数の多角形の活物質合剤充填用空間を有し、かつ該空間を成す多角形の辺の全部又は一部に突出部を有するところの請求項6記載の鉛蓄電池用負極板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−289576(P2009−289576A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140635(P2008−140635)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】