説明

鉛蓄電池

【課題】 サイクル寿命性能の向上に寄与できる鉛蓄電池を得る。
【解決手段】 本発明の鉛蓄電池は、カルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有した、鉛を主成分とする正極活物質原料を正極板に用いてカルシウムの溶出を防止するとともに、こカルシウムイオン又はマグネシウムイオンの少なくとも一方を含有させた電解液を備えたことで、その効果を高めることができる。なお、正極活物質原料には0.10質量%以上、1.20質量%以下のカルシウムと0.10質量%以上、2.00質量%以下の亜鉛を含み、電解液中には1リットル当たり0.10g以上、10.00g以下のカルシウムイオン又はマグネシウムイオンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関するもので、さらに詳しく言えば、そのサイクル寿命特性を向上させ、長寿命化が図れる鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、低価格で安定した性能を有することから、自動車のエンジン始動用を中心とした需要が高く、近年は、放電容量が大きく、長寿命、放置時の性能向上といった高性能なものが求められており、種々の検討がなされている。
【0003】
たとえば、正極板では負極板に比べて充放電サイクルの経過とともに活物質粒子間の結着性が低下しやすく、その結果として活物質の軟化、脱落が生じて寿命に至ることが知られていることから、鉛粉から作製したペーストを格子体に充填し、熟成、乾燥の工程を経て得られる未化成の正極活物質の主成分である三塩基性硫酸鉛を四塩基性硫酸鉛にしたものがある。このように、三塩基性硫酸鉛を四塩基性硫酸鉛にしたものでは、四塩基性硫酸鉛は粒子径が三塩基性硫酸鉛より大きく、四塩基性硫酸鉛の化成によって得られる二酸化鉛も、その粒子径が大きくなって活物質の軟化、脱落を抑制することができる。このことは特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平5−13081号公報
【0004】
また、特許文献2には、鉛粉を主成分とする正極用ペースト状活物質中に該鉛粉に対して酸化カルシウムを0.001〜0.5質量%添加したことで、鉛蓄電池の長寿命化を図ることが開示されており、特許文献3には、カルシウムまたはカルシウムとスズを含む正極活物質を用いた正極とアルミニウムイオンを含む電解液とを組み合わせることで、活物質の導電性と密着性の向上および活物質粒子間の結着性の向上を図った鉛蓄電池が開示されている。
【特許文献2】特開2003−109595号公報
【特許文献3】特開2006−4636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、鉛を主成分とする正極活物質原料にカルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を添加することで、電槽化成時に正極活物質中からのカルシウムの溶出を抑制するようにしたものである。すなわち、特許文献3によれば、カルシウムを含む正極活物質は基板−活物質界面のα−PbO2を安定化させることができ、そこにスズを併存させることで、その導電性が向上できるとあるが、電槽化成時に正極活物質中からのカルシウムが溶出するということは開示されておらず、スズにカルシウムの溶出防止の効果があることも開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る鉛蓄電池は、カルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有した、鉛を主成分とする正極活物質原料を含む正極板を用いたことを特徴(請求項1)とし、前記正極活物質原料は、0.10質量%以上、1.20質量%以下のカルシウムと、0.10質量%以上、2.00質量%以下の亜鉛を含むことを特徴(請求項2)とし、さらに前記各鉛蓄電池が、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの少なくとも一方を電解液中に含有することを特徴(請求項3)とし、電解液中のカルシウムイオン又はマグネシウムイオンは、1リットル当たりの電解液量に対して0.10g以上、10.00g以下であることを特徴(請求項4)とする。
【発明の効果】
【0007】
鉛を主成分とする正極活物質原料に、カルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有させることで、活物質中からのカルシウムの溶出を抑制することが可能となり、サイクル寿命特性の低下を抑制することができ、さらに電解液中にカルシウムイオン又はマグネシウムイオンの少なくとも一方を含有させることで、その効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、その実施形態に基づいて説明する。
【0009】
本発明の鉛蓄電池は、カルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有した、鉛を主成分とする正極活物質原料を正極板に用い、また前記鉛蓄電池が、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの少なくとも一方を含有させた電解液を備えてなる。
【0010】
鉛を主成分とする正極活物質原料としてはPbOと金属鉛を含む、公知の方法で得られるものが使用されるが、必要に応じて、さらに、有機短繊維などの添加物が添加されることを妨げるものではない。なお、公知の方法で得られる正極活物質原料中のPbOと金属鉛との比率はPbOが60〜90質量%、金属鉛が40〜10質量%のものである。
【0011】
そして、上記正極活物質原料中に含有させる、カルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物は、カルシウムが0.10質量%以上、1.20質量%以下であるのが好ましく、亜鉛が0.10質量%以上、2.00質量%以下であるのが好ましい。カルシウムの含有量が1.20質量%を超えると、溶出するカルシウムの量が増大してサイクル寿命性能の低下の原因となるからである。本発明では、カルシウムの含有量をサイクル寿命性能が低下しない程度に抑え、亜鉛を含有させることで、カルシウムの溶出を抑制するようにしている。
【0012】
また、本発明では、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの少なくとも一方を含有させた電解液を用いることで、カルシウムの溶出抑制の効果をさらに向上させている。電解液中に含有させるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンは1リットル当たりの電解液量に対して0.10g以上、10.00g以下であるのが好ましい。カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの量が1リットル当たりの電解液量に対して10.00gを超えると、正極活物質からのカルシウムの溶出抑制の効果よりも電解液中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンの増大によるサイクル寿命性能の低下の方が大きくなるからである。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を、具体的な実施例に基づいて説明する。
【0014】
まず、公知の方法でPbOと金属鉛を含む正極活物質原料としての鉛粉を作製し、次に、この鉛粉を公知の方法によってペ−ストにして、寸法が100mm×115mmの鋳造極板に充填して正極板を作製し、熟成、乾燥の工程を経た後、この正極板を4枚と公知の方法で作製した負極板を5枚とを交互に積層して極板群を組み立て、この極板群を所定の寸法の電槽の6つのセル内に収納して各極板群を直列に接続して12V、27Ahの鉛蓄電池とし、さらに公知の条件にて電槽化成に供して完成電池とする。このとき、正極活物質原料としての鉛粉には、以下に詳述するように、種々の質量%でカルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有させるが、本実施例ではカルシウムとして酸化カルシウムを含有させ、亜鉛として酸化亜鉛を含有させ、カルシウム量は正極活物質中のCaの質量%で示し、亜鉛量は正極活物質中のZnの質量%で示した。
【0015】
(評価試験1)
鉛粉中にカルシウムのみを0.05質量%、0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、1.20質量%、1.50質量%、2.00質量%添加した正極板を用いた比較例1〜8に係る鉛蓄電池と、カルシウムを添加しない正極板とを用いた従来例に係る鉛蓄電池とを作製し、電槽化成時に電解液中に溶出したカルシウムの量を原子吸光法によって測定することで、正極板中に残存するカルシウムの量を測定するとともに、25℃、5時間率定電流で充放電サイクル寿命試験に供し、従来例に係る鉛蓄電池の寿命時のサイクル数(寿命サイクル比)を1.00として、比較例1〜8に係る鉛蓄電池の寿命サイクル比を求め、結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1から、カルシウムのみを添加すると、正極板中に残存するカルシウムの量が少ない比較例2〜6に係る鉛蓄電池で、僅かに寿命サイクル比の向上が認められることがわかる。この比較例2〜6に係る鉛蓄電池は鉛粉に添加するカルシウムの量が0.10質量%〜1.20質量%であり、公知の条件での電槽化成に供する限りにおいては、カルシウムの添加量を上記した範囲にするのが好ましい。
【0018】
(評価試験2)
評価試験1の比較例1に対し、亜鉛を0.01質量%、0.05質量%、0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%、3.00質量%添加した実施例1、7、13、19、25、31、37、43;同比較例2〜6に対し、亜鉛を0.01質量%、0.05質量%、0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%、3.00質量%添加した実施例2、8、14、20、26、32、38、44;実施例3、9、15、21、27、33、39、45;実施例4、10、16、22、28、34、40、46;実施例5、11、17、23、29、35、41、47;実施例6、12、18、24、30、36、42、48に係る鉛蓄電池を作製し、評価試験1と同様に正極板中に残存するカルシウムの量を測定し、結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表2から、亜鉛の添加量が0.01質量%である実施例1〜6と、それが0.05質量%である実施例7〜12とは、カルシウムのみを添加した比較例1〜6と比較しても、正極板中に残存するカルシウムの量に変化は認められず、亜鉛の添加による効果が認められなかったが、カルシウムの添加量を0.10質量%として亜鉛の添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%とした実施例14、20、26、32、38;カルシウムの添加量を0.20質量%として亜鉛の添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%とした実施例15、21、27、33、39;カルシウムの添加量を0.50質量%として亜鉛の添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%とした実施例16、22、28、34、40;カルシウムの添加量を1.00質量%として亜鉛の添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%とした実施例17、23、29、35、41;カルシウムの添加量を1.20質量%として亜鉛の添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、2.00質量%とした実施例18、24、30、36、42では、電解液中に溶出するカルシウムの量が抑制できて、正極板中に残存するカルシウムの量が増加できることがわかった。なお、亜鉛の添加量を3.00質量%とした実施例43〜48では、カルシウムの添加量が上記した0.10〜1.20質量%の場合であっても、亜鉛の添加量を2.00質量%とした実施例38〜42と比較して効果の差は認められないことがわかった。
【0021】
(評価試験3)
評価試験2で、電解液中に溶出するカルシウムの量の抑制効果が大きかった実施例32〜36と評価試験1の比較例1に対する実施例31とについて、評価試験1と同様に、充放電サイクル寿命試験に供し、従来例に係る鉛蓄電池の寿命時のサイクル数(寿命サイクル比)を1.00として、結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
表3から、電解液中に溶出するカルシウムの量が抑制できた実施例32〜36では寿命サイクル比が向上できたことがわかる。なお、この評価試験3では、亜鉛の添加量を1.00質量%として、カルシウムの添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、1.20質量%としたが、評価試験2で求めた、電解液中に溶出するカルシウムの量から判断して、亜鉛の添加量を0.10〜2.00質量%として、カルシウムの添加量を0.10質量%、0.20質量%、0.50質量%、1.00質量%、1.20質量%としても、同様の効果が得られるものと推定される。
【0024】
(評価試験4)
評価試験3では、カルシウムの添加量が0.10〜1.20質量%で、亜鉛の添加量を1.00質量%とすることで良好な結果が得られることが確認できたが、これらの添加量を多くすることは正極活物質原料の質量%の減少につながるため、この評価試験4では、亜鉛の添加量が少なくてカルシウム添加の効果が得られるものとして、カルシウムの添加量を1.00質量%、亜鉛の添加量を0.20質量%として、電解液中にカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを補うことで、効果を比較した。すなわち、電解液中にカルシウムイオンを0.01g/リットル、0.05g/リットル、0.10g/リットル、0.50g/リットル、1.00g/リットル、5.00g/リットル、10.00g/リットル、15.00g/リットル添加した実施例49〜56と、電解液中にマグネシウムイオンを0.01g/リットル、0.05g/リットル、0.10g/リットル、0.50g/リットル、1.00g/リットル、5.00g/リットル、10.00g/リットル、15.00g/リットル添加した実施例57〜64について、評価試験1と同様に正極板中に残存するカルシウムとマグネシウムの量を測定するとともに寿命サイクル比を求めて、結果を表4に示す。なお、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンは、硫酸カルシウムまたは硫酸マグネシウムを電解液中に添加することで補った。
【0025】
【表4】

【0026】
表4から、電解液中にカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを補うことによる効果が認められたのは0.10〜10.00g/リットルであり、0.10g/リットル未満では効果は認められず、10.00g/リットルを超えると効果が飽和することがわかる。
【0027】
(評価試験5)
評価試験4で良好な結果が得られたカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンの添加量が10.00g/リットルのもののうち、カルシウムイオンの添加量が10.00g/リットルのものについて、正極活物質原料中に添加するカルシウムの添加量を0.50質量%として、亜鉛を0.2質量%とした実施例65について、評価試験1と同様に正極板中に残存するカルシウムの量を測定するとともに寿命サイクル比を求めて、結果を表5に示す。
【0028】
【表5】

【0029】
表5から、カルシウムの添加量を0.50質量%とした実施例65は、それが1.00質量%である実施例63とを比較すると、寿命サイクル比は低下するものの、従来例と比較して2倍以上であることから、カルシウムイオンの添加による効果があると考えられる。なお、マグネシウムイオンについても同様の効果があることが推定される。
【0030】
(評価試験6)
評価試験4で良好な結果が得られたカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンの添加量が10.00g/リットルのもののうち、カルシウムイオンの添加量が10.00g/リットルのものについて、正極活物質原料中に添加するカルシウムを1.00質量%として、亜鉛の添加量を2.0質量%とした実施例66について、評価試験1と同様に正極板中に残存するカルシウムの量を測定するとともに寿命サイクル比を求めて、結果を表6に示す。
【0031】
【表6】

【0032】
表6から、亜鉛の添加量を2.00質量%とした実施例66は、それが0.20質量%である実施例63とを比較すると、寿命サイクル比はほとんど同じであることから、亜鉛の添加量が本発明の範囲内であれば、寿命には悪影響を及ぼさないことがわかる。
【0033】
上記した評価試験では、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを意図的に添加したものであるが、市販の鉛蓄電池では、正極活物質原料中に添加されたカルシウム又はその化合物が電槽化成時に溶出してカルシウムイオンとして存在しているが、本発明における数値は、このような溶出したカルシウムイオンも含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
上述した如く、本発明は、正極活物質原料中にカルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有させることで、カルシウムの溶出が防止でき、サイクル寿命特性の向上に寄与できるから、その産業上の利用可能性は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム又はその化合物と亜鉛又はその化合物を含有した、鉛を主成分とする正極活物質原料を含む正極板を用いたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極活物質原料は、0.10質量%以上、1.20質量%以下のカルシウムと、0.10質量%以上、2.00質量%以下の亜鉛を含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉛蓄電池が、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの少なくとも一方を電解液中に含有することを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項4】
電解液中のカルシウムイオン又はマグネシウムイオンは、1リットル当たりの電解液量に対して0.10g以上、10.00g以下であることを特徴とする請求項3に記載の鉛蓄電池。

【公開番号】特開2009−152132(P2009−152132A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330671(P2007−330671)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】