説明

鉛蓄電池

【課題】軽量化された格子を採用しつつ、エンジン始動性能をはじめとした総合特性が高い鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】少なくとも上枠骨と網目状の中骨とで構成された鉛合金からなる格子の中骨に、鉛を主体とした活物質を充填してなる正極および負極を有する鉛蓄電池であって、正極の中骨の断面積が0.585〜0.825mm2であり、正極および負極の少なくとも一方の表面に貼り合わされた紙状体の単位面積当たりの重量が9〜13g/m2であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は自動車のセルスタータに用いられるが、近年の環境配慮型の自動車の普及に伴って、これらの自動車に搭載される鉛蓄電池についても、燃費向上のため軽量化が要求されるようになっている。
【0003】
鉛蓄電池は、鉛合金からなる格子に鉛を主体とした活物質を充填してなる正極および負極を、セパレータを介して交互に組み合わせて極板群を形成し、複数のセル室を有する電槽にこの極板群を挿入し、隣り合うセル室の極板群を直列に接続して電槽の上部を蓋で封口した後、電解液を注入することで構成されている。この格子は形状を保持するための上枠骨および/あるいは下枠骨と、活物質を効率的に充填しつつ活物質と電気的に接続させるための中骨とで構成される。鉛合金シートに切り目を加えつつ幅方向に引っ張って展開するエキスパンド格子の場合、中骨は菱形の網目状に形成される。
【0004】
この格子を軽量化することは、活物質の軽量化による電池容量の減少とは無縁なため、鉛蓄電池全体の軽量化の施策として優れていると考えられる。ところが無作為に格子を軽量化すると、充放電サイクルの繰返しにより格子が伸びて対向する極板に到達して内部短絡を起こし、寿命特性が低下する。そこで鉛蓄電池の寿命特性を低下させずに軽量化を達成するため、例えば特許文献1のように、格子の中央部の中骨の断面積を0.72mm2程度に抑えることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−132895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の構成を採った場合、寿命特性の低下は抑制できるものの、低温下では高率放電特性が低下し、エンジン始動性能が顕著に低下した。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するものであって、軽量化された格子を採用しつつ、エンジン始動性能をはじめとした総合特性が高い鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、少なくとも上枠骨と網目状の中骨とで構成された鉛合金からなる格子の中骨に、鉛を主体とした活物質を充填してなる正極および負極を有する鉛蓄電池であって、正極の中骨の断面積が0.585〜0.825mm2であり、正極および負極の少なくとも一方の表面に貼り合わされた紙状体の単位面積当たりの重量が9〜13g/m2であることを特徴とする。
【0009】
また請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、格子が、鉛合金シートに切り目を加えつつ幅方向に展開するエキスパンド格子であることを特徴とする。
【0010】
エンジン始動性能に代表される高率放電特性は、主に電気抵抗に支配されることが知られていた。今回、軽量化された格子を用いつつ低温下においても十分なエンジン始動性能を確保するために、発明者は電極反応全体のバランスに着目し、正極および負極の少なくとも一方の表面に貼り合わされた紙状体の適正化による反応抵抗の低減に着手した。
【0011】
紙状体はセルロースなどのパルプ繊維を主体としており、鉛を主体としたペースト状の活物質を格子に充填してなる極板(正極および負極)を複数枚重ねて熟成乾燥させる際に、未乾燥状態の極板どうしが付着することを防止するために用いられている。この紙状体は正極および負極の表面に貼り合わされているため、活物質と電解液との接触を部分的に妨げ、僅かながら反応抵抗となる。
【0012】
発明者が鋭意検討した結果、低温下では電解液(硫酸)の粘性が高まるため、格子の中骨の断面積に反比例する電気抵抗に加えて、紙状体(極板の表面を覆うパルプ繊維の存在状態)に依存する反応抵抗も影響することがわかった。すなわち紙状体が厚すぎてパルプ繊維の存在数が増すことも、紙状体が薄すぎてパルプ繊維の粗密にムラがあることも、エンジン始動性能(高率放電特性)の低下を招くことがわかった。
【0013】
本発明は上述した種々の知見を活用し、寿命特性を勘案しつつ十分に軽量化された格子(中骨の断面積が0.585〜0.825mm2)を正極に用いた場合、紙状体の単位面積当たりの重量(以下、坪量と称する)を9〜13g/m2とすることで、十分なエンジン始動性能を有する鉛蓄電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、格子が伸びて内部短絡を起こし寿命特性が低下する不具合を回避しつつ、十分なエンジン始動性能を有する鉛蓄電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明の鉛蓄電池に用いる極板の格子の一例を示す概略図、(b)同部分断面図
【図2】本発明の鉛蓄電池に用いる極板の一例を示す概略図
【図3】本発明の鉛蓄電池に用いる極板の製造工程の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について、図と実施例とを用いて説明する。
【0017】
図1は本発明の鉛蓄電池に用いる極板の格子の一例を示しており、(a)は概略図、(b)は部分断面図である。格子1は、形状を保持するための上枠骨1aおよび下枠骨1bと、活物質を効率的に充填しつつ活物質と電気的に接続させるための中骨1cとで構成される。なお上枠骨1aは、複数の極板を集合溶接する際に用いられる耳部1dと連なっている。なお格子1の形状を強固に保持するためには上枠骨1aと下枠骨1bの双方があることが好ましいが、上枠骨1aだけであっても本発明の構成となり得る。
【0018】
図2は本発明の鉛蓄電池に用いる極板の一例を示す概略図である。極板2は、格子1の中骨1cに鉛を主体とした活物質3を充填し、かつ紙状体4を表面に貼り合わせて構成される。なお活物質3は通常、添加剤を加えた上に希硫酸や水で混練した活物質ペーストの状態で中骨1cに充填されるため、複数枚重ねて熟成乾燥させる際に、未乾燥状態の極板2どうしが付着する虞がある。そのため紙状体4を極板2の表面に貼り合わせて、極板2どうしの付着を防止している。
【0019】
本発明は、正極に用いる格子1の中骨1cの断面積(図1(b)における領域A)が0.585〜0.825mm2であり、正極および負極の少なくとも一方の表面に貼り合わされた紙状体4の単位面積当たりの重量が9〜13g/m2であることを特徴とする。
【0020】
紙状体4はセルロースなどのパルプ繊維を主体としており、鉛を主体としたペースト状の活物質3を格子1に充填して所定寸法に切断してなる極板2を複数枚重ねて熟成乾燥させる際に、未乾燥状態の極板2どうしが付着することを防止するために用いられている。極板2の表面に貼り合わされた紙状体4は活物質3と電解液との接触を部分的に妨げ、僅かながら反応抵抗となる。
【0021】
発明者が鋭意検討した結果、低温下では電解液(硫酸)の粘性が高まるため、格子1の中骨1cの断面積に反比例する電気抵抗に加えて、紙状体4(極板の表面を覆うパルプ繊維の存在状態)に依存する反応抵抗も影響することがわかった。すなわち紙状体4が厚すぎてパルプ繊維の存在数が増すことも、紙状体4が薄すぎてパルプ繊維の粗密にムラがある(極板2の表面の所定箇所のみがパルプ繊維に覆われるために電極反応が不均一化する)ことも、エンジン始動性能(高率放電特性)の低下を招くことがわかった。
【0022】
本発明はこれらの知見を活用したものであって、寿命特性を勘案しつつ十分に軽量化された格子1(中骨1cの断面積が0.585〜0.825mm2)を少なくとも正極に用いた鉛蓄電池において、紙状体4の坪量を9〜13g/m2とすることで、十分なエンジン始動性能を実現するものである。
【0023】
続いて、本発明の鉛蓄電池に用いる極板の製造工程に基づいて、本発明の概要をさらに説明する。
【0024】
図2は本発明の鉛蓄電池に用いる極板の一例を示す概略図であり、エキスパンド工法で格子1を製造する場合を示している。格子1の前駆体である鉛シート5は、エキスパンド加工機7を経ることによって格子1の連続体となる。なおエキスパンド加工機7は、鉛シート5に対して流れ方向と平行になるように切り目を刻む機能と、切り目を刻んだ後の鉛シート5を幅方向に展開し格子1の連続体とする機能とを有する。
【0025】
一方で活物質3の主体である鉛と種々の添加物を水および硫酸で混練し、活物質ペースト6を作製する。そしてホッパー8から格子1の連続体(主に中骨1cの連続体)に活物質ペースト6を供給して充填するのだが、この際に格子1(主に中骨1c)を挟むように紙状体4を連続供給することで、極板2の連続体を作製する。そしてこの極板2の連続体を所定寸法に切断することで、極板2を作製する。
【0026】
さらに、表面に紙状体4を貼り合わせた極板2を複数枚重ねて乾燥する。そして乾燥後の正極と負極とを、セパレータを介して対峙するように組み合わせて極板群を作製し、この極板群を電槽の各セル室に収納し、電解液を加えて化成することで、正極の活物質3は二酸化鉛、負極の活物質3は海綿状鉛へとそれぞれ変化し、本発明の鉛蓄電池が構成される。
【0027】
ここで格子1(鉛シート5)の材料には、鉛−錫や鉛−カルシウムなどの鉛合金を用いることができる。また寿命特性の改善などを目的に、この格子1(鉛シート5)に鉛−錫−アンチモン合金などの箔を貼り付けることもできる。そして格子1の中骨1cの断面積については、極板2の断面を顕微鏡で観察して実寸から求める方法のほかに、エキスパンド工法からなる格子1の場合には鉛シート5の厚み(t)と切り目の幅(W)との積(tW)として求めることもできる。なおエンジン始動性能は正極に支配されるため、公知の負極を適宜用いることができる代わりに、正極は格子1の中骨1cの断面積を0.585〜0.825mm2とする必要がある。
【0028】
さらに紙状体4の坪量は、極板2に貼り合わせる前に予め測定または指定するほかに、極板2の表面に付着したパルプ繊維を回収し測定した重量(P)を極板2の面積(D)で除す(P/D)ことで、分解後の鉛蓄電池から求めることもできる。
【0029】
次に実施例を示し、図3の製造工程に従って作製された本発明の鉛蓄電池の効果を説明する。
【実施例】
【0030】
鉛シート5の厚みと切り目の幅とを変更することで、中骨1cの断面積が異なる種々の格子1をエキスパンド工法で作製し、これらに活物質3を充填してから所定寸法に切断し、複数枚重ねて乾燥することで、活物質3の充填量を揃えた種々の正極(縦113.9mm、横137.5mm)を作製した。一方で中骨1cの断面積が0.49mm2である格子1に活物質3と添加物である硫酸バリウムおよびリグニン化合物とを充填して乾燥することで、負極(縦115.0mm、横137.5mm)を作製した。これらの正極および負極の両面には、種々の坪量を有する紙状体4を貼り付けた。そしてこの正極と負極とをセパレータ(材質:ポリエチレン)を介して組み合わせた極板群を電槽の各セル室に収納し、電槽の開口部に蓋を接着してから電解液(硫酸)を注入し、27A×7時間の条件で化成することで、12V55Ahの自動車用鉛蓄電池を作製した。
【0031】
これらの鉛蓄電池について、エンジン始動性能の尺度となる高率放電特性(JIS−D5301に準拠、−15℃下で0.2C放電における5秒目の電圧)と、寿命特性(JIS−D5301の75℃雰囲気下の軽負荷寿命試験に準拠、クランキング電流(582A)放電にて5秒目電圧が7.2Vを下回るか充放電中に極端な温度上昇があるかまでの充放電回数)を評価した。併せて、条件ごとに100個ずつ作製した極板群を電槽の各セル室に収納する際に極板が破損したものを不良としてその個数をカウントした。以上の結果をまとめたものを、(表1)に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
中骨1cの断面積が本発明の好適範囲を下回った場合(比較例3)、十分な寿命特性を得ることができなかった。一方で中骨1cの断面積が本発明の好適範囲を上回った場合(比較例1)、格子1に比例して大きくなる極板2の厚みの和が過剰となって、電槽の各セル室に極板群をスムーズに収納できなくなった。そしてこの不具合を回避するには、格子1(中骨1c)に充填する活物質3を減量する必要が生じるため、電池の理論容量を小さくせざるを得なくなる。したがって中骨1cの断面積は、0.585〜0.825mm2とする必要がある。
【0034】
但し中骨1cの断面積が本発明の好適範囲であっても、紙状体4の坪量が本発明の好適範囲を下回った場合(比較例4)も上回った場合(比較例2)も、ともに十分な高率放電特性を得ることができなかった。比較例2の場合、紙状体4のパルプ繊維が過剰に極板2の表面に存在することで反応抵抗が過剰になったと考えられる。また比較例4の場合、紙状体4のパルプ繊維が均一に拡散できずに分布に粗密ムラが生じ、極板2の表面の所定箇所だけがパルプ繊維に覆われるために電極反応が不均一化し、却って高率放電特性が低下したと考えられる。
【0035】
以上の結果から、十分なエンジン始動性能と寿命特性とを有し、かつ理論容量の大きい鉛蓄電池を安定して製造供給するためには、格子1の中骨1cの断面積を0.585〜0.825mm2とし、かつ極板2の少なくとも一方の表面に貼り合わされた紙状体4の単位面積当たりの重量を9〜13g/m2とする必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、エンジン始動性能と寿命特性とに優れた高容量の鉛蓄電池を安定に供給できるので、産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0037】
1 格子
1a 上枠骨
1b 下枠骨
1c 中骨
2 極板
3 活物質
4 紙状体
5 鉛シート
6 活物質ペースト
7 エキスパンド加工機
8 ホッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも上枠骨と網目状の中骨とで構成された鉛合金からなる格子の中骨に、鉛を主体とした活物質を充填してなる正極および負極を有する鉛蓄電池であって、
前記正極における前記中骨の断面積が0.585〜0.825mm2であり、
前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に貼り合わされた紙状体の単位面積当たりの重量が9〜13g/m2であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記格子が、鉛合金シートに切り目を加えつつ幅方向に展開するエキスパンド格子であることを特徴とする、請求項1に記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−233389(P2011−233389A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103321(P2010−103321)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】