説明

鉛酸蓄電池の正極格子のための鉛−錫−銀−ビスマス含有合金

鉛に加えて、少なくとも約0.500%である濃度の錫と、0.006%より大きい濃度の銀と、少なくとも約0.005%である濃度のビスマスと、鉛ベース合金内にカルシウムが存在する場合、約0.010%以下である濃度のカルシウムとを含有する鉛ベース合金から作られる鉛酸蓄電池格子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛酸蓄電池の正極格子において使用するための、鉛と錫と銀とビスマスとを含む合金に関する。特に、本発明の合金は、エキスパンデッド金属処理およびブックモールド鋳造を含む任意の方法によって薄い格子を形成するのに使用され得る。本発明の合金は、以下の特性、格子が特別な処置に頼ることなく形成され得ること、比較的急速に硬化し得ること、比較的安定性があり得ること(すなわち、鉛と錫と銀とビスマスとを含有する蓄電池が比較的長い期間の使用を提供することを可能にすること)、および、再利用可能性が比較的容易であり得ること、の1つまたは複数を提供し得る。
【背景技術】
【0002】
最新の蓄電池は、比較的多数の格子を必要とし、それにより格子が特に薄いことが必要とされる。これらの高性能蓄電池は、比較的高い電圧、比較的高いアンペア数、急速再充電またはその組合せを可能にし、それにより、自動車始動蓄電池、完全電気自動車およびハイブリッド電気自動車、ならびに、無停電電力サービスまたは電気通信サービスのための据置用蓄電池にとって特に有用である。
【0003】
従来のブックモールド鋳造であれ、連続鋳造であれ、エキスパンションを伴う連続鋳造ストリップであれ、圧延を伴う直接連続鋳造であれ、薄い格子の生産は、通常、比較的高温で格子またはストリップをハンドリングすることを必要とする。格子またはストリップが薄くなればなるほど、こうした温度で格子またはストリップをハンドリングすることが難しくなる。通常の生産プロセスは、プロセスに応じて、空冷、水冷または水冷式トリムダイおよびプラテンによって格子またはストリップの温度を急速に低下させる。温度低下の増進は、鉛−カルシウム合金格子に使用されている。それは、鉛−カルシウム合金格子が、高温で弱くなる傾向があり、また、不適切な硬度による変形または厚さ変化を、急速な温度低下が妨げる傾向があるからである。室温まで急速冷却するにもかかわらず、低カルシウム鉛ベース合金から生産される多くの格子材料は、たとえ室温でも不適切な硬度のために、ハンドリングするのが難しい傾向がある。
【0004】
硬度に加えて、格子/ストリップの物理的寸法はまた、格子/ストリップが許容可能に耐えることができるハンドリング/処理量に影響を及ぼす。一般に、少なくとも0.060インチ(1.524mm)の厚さを有する格子は、通常、十分な質量を有するため、機械的特性が低くても、ハンドリング/処理によく耐えることができる。そのため、こうした「厚い(thick)」格子は、通常、0.060インチ(1.524mm)より小さい厚さを有する格子(すなわち、「薄い(thin)」格子)に比べてゆっくりと室温まで冷却されてもよい。同様に、厚い格子は、通常、薄い格子に比べて容易にペースティングに関連するハンドリングに耐える。
【0005】
鉛−カルシウム格子合金のいくつかの機械的特性は、温度だけでなく、エージングにも依存する。具体的には、室温まで低下した後、こうした合金の硬度は、最初に室温に達したときに比べて、ある期間が経過した後に大きくなる傾向がある。
【0006】
鉛−カルシウムベース合金は、種々の理由で、自動車用鉛酸蓄電池と据置用鉛酸蓄電池の両方の正極格子についての最上の材料として鉛−アンチモンベース合金を大幅に置換えた。鉛−アンチモン合金は、主に、鉛−カルシウム合金と比べて急速に腐食する傾向があるため、置換えられた。この腐食は、アンチモンの放出をもたらす傾向があるため有害であり、アンチモンは、再充電プロセス中に、負極板に移動する傾向があり、負極板で、アンチモンは、特に比較的熱い環境にさらされると、電解質からの水分損失をもたらす。対照的に、鉛−カルシウム合金は、使用中の水分損失に対してかなりの耐性を持つ傾向があり、結果として、鉛−カルシウム合金は、「メンテナンスフリーの(maintenance−free)」または密封型鉛酸(sealed lead−acid)(SLA)蓄電池用の格子を作るのに広く使用される。
【0007】
鉛−カルシウム合金はまた、通常、非常に低い凍結範囲を有し、また、従来のブックモールド鋳造、圧延およびエキスパンディング、エキスパンションまたはパンチングを伴う連続鋳造、連続格子鋳造ならびに圧延を伴う連続格子鋳造などの、種々の格子製造プロセスによって、正極および負極格子に処理されることができるため、広く利用されてきた。連続格子製造プロセスは、通常、蓄電池格子および板生産に関連する生産コストを低減するため、特に望ましい。
【0008】
初期の鉛−カルシウム合金は、通常、比較的高いカルシウム含量(たとえば、0.08%以上)および比較的低い錫含量(たとえば、0.35−0.5%)を含んだ。有利には、これらの合金から生産される正極格子は、急速に硬化し、容易にハンドリングされ板にペーストされ得る。具体的には、これらの合金は、カルシウム含量が高いため、SnCa析出物の上にPbCa析出物を形成する傾向があり、そして、PbCa析出物は、合金を硬化させる傾向があるが、高温用途(たとえば、空気流による蓄電池の冷却が低い、新しいより空気力学的な自動車)における正極格子の腐食および成長の増加をもたらす傾向がある。この問題に対処するために、低いカルシウム濃度および合金に添加される他の金属を含む鉛−カルシウム合金が開発された(たとえば、US5,298,350、US5,434,025、US5,691,087、US5,834,141、US5,874,186ならびにDE2,758,940)。しかし、これらの合金から生産される格子は、問題がないわけではない。格子合金において一般に利用される非常に低いカルシウム含量(0.02−0.05%)は、非常に軟質で、ハンドリングするのが難しく、非常にゆっくり硬化する格子を生産する。これらの合金から生産される格子を利用するために、鋳造材料は、ペースティングまたはエキスパンダ/ペースタ機においてハンドリングされるのに十分に高い機械的特性にされるために、通常、長い期間にわたって室温で貯蔵されるか、または、高温で人工的にエージングさせられる。
【0009】
低カルシウム合金はまた、通常、比較的低い量の錫および比較的高い量の銀を含有し、これらの合金は、耐腐食性が高い傾向がある。それでも、上述したハンドリング問題に加えて、これらの合金はまた、通常、蓄電池板にされるために、特別な処置を必要とする。具体的には、格子は、通常、酸化鉛、硫酸、水およびいくつかの添加剤の混合物をペーストされる。ペーストした後、格子と活性材料との間に十分な電気接触が存在するようにペースト(蓄電池の活性材料)が蓄電池格子にしっかりと付着することを可能にするために、板が硬化される。残念ながら、板を硬化させるために、ペーストが格子に付着するように、格子が腐食されなければならず、そのことは、耐腐食性格子を腐食させるために、製造業者がかなりの労力とコストに頼ることを要求する。こうした労力の例は、格子表面上に腐食膜を生成するために、熱い蒸気環境で長い期間にわたって格子を処理すること、格子の表面をアルカリ性試薬、ペルオキシドまたは過硫酸で処理すること、および、最大5日の間の、高温かつ高湿度での長い硬化時間を含む。これらの労力にもかかわらず、こうした合金を使用する蓄電池の最も一般的な故障メカニズムは、正極格子の腐食ではなく、正極格子からの活性材料の離脱である。
【0010】
こうした低Ca−低Sn−高Ag鉛ベース合金は、主に比較的低い錫含量(たとえば、0.3−0.6%)によるさらなる別の問題を有する。具体的には、低錫含量は、蓄電池が放電すると、格子と活性材料との間に非導電性酸化物層の形成を可能にする。これらの酸化生成物の電気抵抗は、蓄電池が放電した場合に、蓄電池の再充電中に適切な電荷受容性を妨げ、そのため、早期故障をもたらす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,298,350号明細書
【特許文献2】米国特許第5,434,025号明細書
【特許文献3】米国特許第5,691,087号明細書
【特許文献4】米国特許第5,834,141号明細書
【特許文献5】米国特許第5,874,186号明細書
【特許文献6】独国特許第2,758,940号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Prengaman、The Metallurgy and Performance of Cast and Rolled Lead Alloys for Battery Grids、Journal of Power Sources、67(1997)267−278
【非特許文献2】Investigation Report ET/IR526R、ALABC Project N3.1、Influence of Residual Elements in Lead on the Oxygen−and/or Hydrogen−Gassing Rates of Lead−Acid Batteries、June 2002
【非特許文献3】D.Prengaman、Wrought Lead Calcium Tin Alloys for Tubular Lead−acid Battery Grids、Journal of Power Sources、Vol.53、1995、pp207−214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記を考慮すると、一般に鉛酸蓄電池用の格子、特に正極格子の生産で使用するための、また、以下の特性、能力および/または使用、自動車エンジンコンパートメントにおいて見出されるような、比較的高温での腐食に対する耐性、所望される任意の方法(たとえば、連続鋳造−エキスパンションまたはパンチ式、圧延−エキスパンション、連続鋳造、連続鋳造−圧延または従来のブックモールド鋳造)によって薄い格子を生産するのに使用されることができること、格子が、生産後に比較的短い期間内で蓄電池板の生産で利用されるように、比較的迅速に硬化すること、過度に長いエージング期間がない状態で、または、人工的なエージングに頼ることなく使用されてもよいこと、いくつかのペーストが硬化することなく格子表面に付着すること、格子を含む蓄電池が放電するときの、格子と活性材料との間の非導電性酸化物層の形成に対する耐性、ある程度の耐クリープ性および機械的特性(蓄電池格子が高温作用に耐えることを可能にする)、ならびに、高温の活性材料の腐食の低減および機械的特性の保持の改善をもたらす粒状構造安定性、の1つまたは複数を有する鉛ベース合金についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、鉛と、少なくとも約0.500%である濃度の錫と、0.006%より大きい濃度の銀と、少なくとも約0.005%である濃度のビスマスと、鉛ベース合金内にカルシウムが存在する場合、約0.010%以下である濃度のカルシウムとを含む鉛ベース合金を備える蓄電池格子を対象とする。
【0015】
さらに、本発明は、鉛と、少なくとも約0.900%でかつ約1.100%以下である濃度の錫と、少なくとも約0.018%でかつ約0.022%以下である濃度の銀と、少なくとも約0.015%でかつ約0.020%以下である濃度のビスマスとから本質的になる連続鋳造鉛ベース合金から本質的になる蓄電池正極格子を対象とする。
【0016】
本発明はまた、コンテナと、コンテナ内に、少なくとも1つの正極板、少なくとも1つの負極板およびそれぞれの正極板と負極板を分離する少なくとも1つのセパレータとを備える鉛酸蓄電池を対象とし、正極板が、表面を有する蓄電池格子と、蓄電池格子表面の少なくとも一部分に付着した活性材料とを備え、蓄電池格子が、鉛と、少なくとも約0.500%である濃度の錫と、0.006%より大きい濃度の銀と、少なくとも約0.005%である濃度のビスマスと、鉛ベース合金内にカルシウムが存在する場合、約0.010%以下である濃度のカルシウムとを含む鉛ベース合金を含む。
【0017】
さらに、本発明は、コンテナと、コンテナ内に、少なくとも1つの正極板、少なくとも1つの負極板およびそれぞれの正極板と負極板を分離する少なくとも1つのセパレータとを備える鉛酸蓄電池を対象とし、正極板が、表面を有する蓄電池格子と、蓄電池格子表面の少なくとも一部分に付着した活性材料とを備え、蓄電池格子が、鉛と錫と銀とビスマスとから本質的になる連続鋳造合金から本質的になり、錫が少なくとも約0.900%でかつ約1.100%以下である濃度であり、銀が少なくとも約0.018%でかつ約0.022%以下である濃度であり、ビスマスが少なくとも約0.015%でかつ約0.020%以下である濃度である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、とりわけ、正極格子として特に有用である蓄電池格子を対象としており、前記格子の少なくとも一部、好ましくは全体が、鉛、錫、銀およびビスマスを含む鉛ベース合金を備える。本発明の格子は、鉛酸蓄電池を生産するのに特に有用である。こうした蓄電池は、とりわけ、コンテナと、コンテナ内に、少なくとも1つの正極板、少なくとも1つの負極板およびそれぞれの正極板と負極板を分離する少なくとも1つのセパレータとを備え、正極板が、表面を有する蓄電池格子と、蓄電池格子表面の少なくとも一部分に付着した活性材料とを備え、蓄電池格子が、上述した鉛ベース合金を備える。こうした蓄電池は、起動、照明およびイグニッション(自動車)蓄電池、全電気自動車およびハイブリッド電気自動車、ならびに、無停電電力サービスまたは電気通信サービスのための据置用蓄電池などの本質的に任意の最終用途のために構成されてもよい。セパレータ(複数可)は、たとえば、ゲル、浸透ガラスマット(absorbed glass mat)(AGM)、粒状シリカ、高シリカガラスまたはポリマーであってよい。
【0019】
今までの実験結果は、本発明の鉛ベース合金が、鉛、錫、銀およびビスマスから好ましくは本質的になることを示唆する。より具体的には、鉛、錫、銀およびビスマスならびに0.010%(100ppm)以下の結合した全ての他の元素を含有する、蓄電池格子、特に、正極格子として使用される蓄電池格子は、容易に形成され、本質的に任意の鉛酸蓄電池設計に組み込まれ、こうした蓄電池が、極端な使用状況にさらされるときにより効率的にまたはより長く動作することを可能にすることを、今までの結果は示唆する。全ての他の元素の上記総量に加えて、全ての他の元素についての0.010%という上記総量の中で、それぞれの他の元素が「微量(trace amount)」(通常、約0.001%(10ppm)以下の量であると考えられる)であると考えられる程度であることが、通常、好ましいことが留意されるべきである。通常の微量元素の例は、アンチモン、ヒ素、カドミウム、鉄、ニッケル、セレニウム、テルリウムおよび亜鉛を含む。
【0020】
本明細書における構成要素パーセンテージに対する全ての言及は、重量パーセンテージであることが留意される。量はまた、百万分率で開示されてもよい。さらに、本発明の合金組成は、蓄電池での使用に委ねられる前に、総合的な化学量的またはバルク化学量的である。すなわち、開示される合金組成は、調製される合金の全体容積に対する平均化学量的であり、したがって、局所的な化学量的変動が存在する可能性がある。
【0021】
特に、本発明の合金組成は、任意の適切な方法(たとえば、連続鋳造−エキスパンションまたはパンチ式、圧延−エキスパンション、連続鋳造、連続鋳造−圧延または従来のブックモールド鋳造)によって約0.060インチ以下(約1.5mm以下)の厚さを有する薄い格子を形成することができること、格子が、生産後に比較的短い期間内で蓄電池板の生産で利用されるように、比較的迅速に硬化すること、過度に長いエージング期間がない状態で、または、人工的なエージングに頼ることなく使用されることができること、いくつかのペーストが硬化することなく格子表面に付着する(格子として形成される)こと、格子を含む蓄電池が放電するときの、格子と活性材料との間の非導電性酸化物層の形成に対する耐性があること、蓄電池内にあるときに、自動車エンジンコンパートメントにおいて見出されるような、比較的高温での腐食に対する耐性があること、ある程度の耐クリープ性および機械的特性(蓄電池格子が高温作用に耐えることを可能にする)を有すること、ならびに/または、高温の活性材料の腐食の低減および機械的特性の保持の改善をもたらす粒状構造安定性を有することが発見された。
【0022】
本発明の鉛ベース合金組成は、金属が、一般に格子合金として、また、特に正極格子合金として合金の能力を実施する役割を果たすのに十分である錫、銀およびビスマスの量、および/または、合金の結晶構造を含む。言い換えると、鉛ベース合金内の錫、銀およびビスマスの量は、金属が、不純物または微量と考えられないようなものである。鉛内で錫、銀および/またはビスマスの不純物量であると考えられるものは、鉛の供給に基づいて大幅に変動することが留意されるべきである。それでも、錫の濃度が、少なくとも約0.500%であり、銀の濃度が、約0.006%(60ppm)より大きいことが好ましい。さらに、ビスマスの濃度が、少なくとも約0.005%(50ppm)であることが好ましい。
【0023】

本発明の合金は、鉛ベースであり、したがって、その主要構成要素は鉛である。具体的には、本発明の合金組成は、少なくとも約95%の鉛を含む。通常、合金は、特に、鉛、錫、銀およびビスマスから本質的になる合金組成において、少なくとも約98%の鉛を含む。
【0024】

本発明の合金組成は、通常、少なくとも約0.500%でかつ約2.000%以下である濃度の錫を含む。特に望ましい硬化特性を有する合金は、錫濃度が少なくとも約0.700%でかつ約1.500%以下、好ましくは、少なくとも約0.900%でかつ約1.200%以下であるように、他の構成要素と組合せて、錫濃度を制御することによって達成されることを、今までの実験結果は示す。実際には、硬化率および降伏強度の増加などの機械的特性の改善は、主に上記濃度の錫の存在によると思われる。
【0025】
機械的特性に加えて、本発明の合金組成における錫の存在は、比較的コストがかかるにもかかわらず、錫の含有を保証する他の利益を提供すると思われる。そうは言うものの、約1.500%を超えて錫の濃度を増加させることについての収益率は、通常、従来の商業用途についての付加コストを正当化しない。特定の理論に固執することなく、上述した濃度の錫の1つのこうしたさらなる利益は、蓄電池が放電すると、錫が、格子合金と活性材料との間に腐食生成物層を形成する腐食速度を減少させる傾向があることであると思われる。これは、次に、腐食生成物層が薄くなることをもたらし、再充電を補助する(aid)と思われる。さらに、腐食生成物層におけるSnOの形態の錫の存在は、絶縁層の相対量を減少させる傾向があり、それにより、パッシベーションの減少をもたらす。
【0026】
合金の表面の近くの錫の一部は、正極活性材料に移動し、正極活性材料をドープし、深放電からのより完全な回復を可能にするとも思われる。具体的には、錫の添加は、深放電時に、格子/活性材料界面におけるPbSOまたは立方晶PbOの生成を減少させるのに役立つと思われる。これらの生成物は、自動車オルタネータによって、通常、生成されない非常に高い電位以外では、再充電を抑制する絶縁体として働き得る。
【0027】
Pb−Ca合金の場合と違って、本発明の合金における錫の存在は、格子の浸透性腐食に対する耐性を高めるとは思われないことに留意することが重要である。具体的には、Pb−Sn合金内の錫は、界面障壁を修飾し、合金内に大きな粒状構造を生成し、大きな粒状構造は、特に高い使用温度にさらされると優先的に腐食する粒境界に沿って、合金が浸透性腐食を受け易くさせる傾向があると思われる。対照的に、錫濃度が約1%になるような、高−Ca(たとえば、0.06−0.08%Ca)のPb−Ca合金に対する錫の添加は、低−Ca合金に比べて、酸媒体中での腐食速度が同じかまたは低い高−Ca合金をもたらすことが知られている。たとえば、Prengaman、The Metallurgy and Performance of Cast and Rolled Lead Alloys for Battery Grids、Journal of Power Sources、67(1997)267−278を参照されたい。
【0028】

上述した濃度の錫の存在に関連する浸透性腐食問題は、大部分、銀の存在によって、本発明の合金組成において対処される。浸透性腐食速度の減少に関連する合金内の銀の濃度は、最低約0.005%(50ppm)であってよいが、通常、少なくとも約0.010%(100ppm)であり、好ましくは少なくとも約0.015%(150ppm)である。これらの濃度での銀の存在は、ある程度意外なことであり、また、当業者の経験および理解と逆である。具体的には、正極格子を形成するために圧延されまた従来通り鋳造されたPb−Ca−Sn−Ag合金内での銀の存在は、合金がその中で使用される蓄電池の故障を実際に増大させたと、第三者によって一般に思われている。具体的には、故障の増大は、銀が蓄電池の負極板に移動し、ガス発生をもたらすことによると思われていた。特定の理論に固執することなく、Pb−Ca−Sn−Ag合金内の銀によって引き起こされる、と第三者によって思われているガス発生は、実際には、格子または活性材料からの、セレニウム、テルリウム、マンガニーズ、コバルト、ニッケル、アンチモン、クロミウム、および/または、鉄などの他の有害な不純物の結果であると、本発明者は思っている(Investigation Report ET/IR526R、ALABC Project N3.1、Influence of Residual Elements in Lead on the Oxygen−and/or Hydrogen−Gassing Rates of Lead−Acid Batteries、June 2002)。上記および当技術分野における他の教示を考慮すると、銀は、一般に、特に好ましくない不純物であると、当業者によって考えられている。
【0029】
本発明の合金組成におけるある最小量の銀の存在は、浸透性腐食、それにより、蓄電池の早期故障を低減するのに有効であるが、種々の考慮事項があるため、通常、最大量の銀が存在する。第1は、銀のコストが比較的高いことである。第2に、銀の濃度が増加するにつれて、鉛、錫および銀は、鋳造を難しくし、さらに連続鋳造ストリップのひび割れを生じさせる可能性がある、融点が比較的低い三元共晶材料を形成する傾向がある。第3に、銀が多過ぎると、格子が腐食に対して耐性があり過ぎる可能性があり、それにより、いくつかの活性材料ペーストを、正極格子に対して「硬化させる(cure)」または結合させるのに必要とされる腐食を生じさせるために、特別な処置を必要とする。本発明の合金が、比較的大量(たとえば、最大1.200%)の銀を含有することが可能であるが、これは、先の考慮事項からみると、通常必要ではなく、また、通常好ましくない。むしろ、本発明の合金内の銀の濃度は、通常、約0.050%(500ppm)以下であることが発見された。好ましくは、銀の濃度は、約0.030%(300ppm)以下、より好ましくは、約0.025%(250ppm)以下である。したがって、銀の濃度が、少なくとも約0.005%(50ppm)でかつ約0.050%(500ppm)以下、好ましくは、少なくとも約0.010%(100ppm)でかつ約0.030%(300ppm)以下、より好ましくは、少なくとも約0.015%(150ppm)でかつ約0.025%(250ppm)以下であることが通常である。
【0030】
先の濃度の銀の存在はまた、本発明の合金に対して、とりわけ活性材料が格子の表面によりよく付着することを可能にする耐クリープ性の増大を提供すると思われる。具体的には、銀は、固溶体の強化をもたらし、銀は、特に錫の存在下で、粒境界で分離する傾向があり、樹枝状エリアで析出すると思われる。
【0031】
ビスマス
本発明の合金組成は、通常、少なくとも約0.005%(50ppm)でかつ約0.050%(500ppm)以下である濃度のビスマスを含む。特に望ましい硬化特性および強度特性を有する合金は、ビスマス濃度が少なくとも約0.010%(100ppm)でかつ約0.030%(300ppm)以下、好ましくは、少なくとも約0.015%(150ppm)でかつ約0.025%(250ppm)以下であるように、他の構成要素と組合せて、ビスマス濃度を制御することによって達成されることを、今までの実験結果は示す。
【0032】
先に述べたように、増加した硬化率および降伏強度などの機械的特性は、主に錫の存在によると思われるが、先の濃度のビスマスの存在もまた、機械的特性において重要な役割を果たすことを、今までの実験結果は示す。特定の理論に拘束されることなく、ビスマスの存在によって提供される、小さいが有意な強度の増加は、ビスマスが、鉛内で完全に可溶性であり、また、錫および銀に関して比較的非反応性であり、それにより、ビスマスが固溶体内に大部分留まることが可能になることによると思われる。ビスマス原子は鉛原子より多少大きいため、鉛格子が少し伸張し、合金の強度が高まる。有利には、ビスマスはまた、合金がより迅速に「エージングする(age)」のに役立つことによって、合金の鋳造およびハンドリングを補助すると思われる(すなわち、ビスマスは、鋳造後に、ハンドリングおよび処理についての合金の強度が高まる速度を増す傾向がある)。
【0033】
カルシウム
蓄電池格子合金内にカルシウムが存在することに関連する上述した問題または複雑さを回避するために、本発明の鉛ベース合金組成は、せいぜい(at most)とるに足らない量のカルシウム(すなわち、PbCaおよびSnCa両方のタイプの析出物が腐食速度を増加させる傾向があるため、それらの析出物を形成するのに十分でないカルシウム)を含有する。たとえば、カルシウム濃度が増加するにつれて、腐食速度が増加することを示す表2および表3を含む、D.Prengaman、Wrought Lead Calcium Tin Alloys for Tubular Lead−acid Battery Grids、Journal of Power Sources、Vol.53、1995、pp207−214を参照されたい。たとえば、カルシウムの濃度は、通常、約0.010%(100ppm)未満、好ましくは、約0.005%(50ppm)未満である。より好ましくは、本発明の合金は、カルシウムが本質的にない(たとえば、約0.001%(10ppm)などの不純物レベルであると考えられる量と同程度の量のカルシウムを含有する)。
【0034】
さらなる合金構成要素
本発明の鉛ベース合金組成は、不純物または微量レベルを超える濃度のさらなる元素を含んでもよい。たとえば、カドミウムおよび/または亜鉛は、これらの元素がガス発生を減少させる傾向を有するため含まれてもよい。アルミニウムは、結晶精製物質(grain refiner)として働く傾向を有するため含まれてもよい。さらに、バリウムは、浸透性腐食を減少させる可能性があると思われるため含まれてもよい。
【0035】
実施例
0.005−0.025%銀、0.015−0.025%ビスマス、0.1未満−1.25%錫、および、その差(全部で0.010%(100ppm)を越えない許容可能な不純物を除く)を占める鉛の公称組成範囲内に入る蓄電池格子合金のエージング挙動に対する調査が実施された。この実験では、4つの銀濃度、3つのビスマス濃度および3つの錫濃度が、混合合金として調査された。全因子分析に必要とされる36から実験の総数を最小にするために、タグチメソッド実験計画(Taguchi design)が、JMP6を使用して開発された。以下の表Aは、試験された正確な公称組成を提供する。
【表1】

【0036】
各合金組成について、25lbsの合金が、それぞれが約5”×5”×0.25”の大きさである6つの板に鋳造され、板のうちの3つの板が、水焼入れされ、他の3つの板が空冷された。
【0037】
エミッションスペクトログラフによって確定された実際の合金組成は、以下の表Bに示される。
【表2】

【0038】
各合金組成のエージング硬化特性は、各板に関して大気状態(約72°F)での鋳造後、約1、2、24、48、168、336および720時間で硬度試験を実施することによって評価された。各組成についてのエージング調査の結果は、以下の表に示される。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【0039】
有利には、本発明の鉛−錫−銀−ビスマス含有合金から生産される蓄電池格子は、いくつかの従来のPb−CaおよびPb−Ca−Sn合金の場合に7日を超えることと比較して、最低12時間で、また、確実に24時間でペースティングの準備ができる。さらに、合金の薄い格子は、本発明のPb−Sn−Ag−Bi合金の比較的高い初期硬度のために、容易にハンドリングされ得る。
【0040】
本発明の合金は24時間で使用可能であり、より好ましい合金は、特に水焼入れされる場合、最低2時間で使用可能である。合金は、ブックモールディングプロセスおよび連続ストリップ鋳造プロセスを含む、従来技術の説明で参照した任意の従来の生産方法によって、蓄電池格子に形成されてもよい。本発明の合金は、連続鋳造ストリッププロセスにとって特に望ましい。特に、こうしたストリップが、約0.06インチ(約1.5mm)未満の厚さで形成されるとき。こうして、本発明は、任意の製造法を使用して薄い格子を迅速に製造するのに使用され得る改良型合金を提供する。本発明はまた、格子を製造する改善された方法および改善された耐久性を有する格子を提供する。
【0041】
さらに、限定はせずに、全ての特許、雑誌記事、パンフレット、マニュアル、定期刊行物、テキスト、手書き文書、ウェブサイト出版物ならびに任意のおよび全ての他の出版物を含む、本明細書に引用される全ての他の参考文献は、参照により組み込まれる。本明細書における参考文献の説明は、その著者によって行われる主張を要約することを意図されるに過ぎず、どんな参照も従来技術を構成するということは全く容認されない。出願人は、引用される参考文献の正確さおよび適切さを問題にする権利を留保する。
【0042】
先の説明は、例証的であり、制限的でないことを意図されることが理解される。多くの実施形態は、先の説明を読むことによって当業者に明らかになるであろう。したがって、本発明の範囲は、先の説明を参照して確定されるだけでなく、特許請求の範囲および特許請求の範囲がそれに対して権利を与えられる等価物の全範囲を参照して確定されるべきである。
【0043】
本発明の要素または本発明の実施形態を導入するとき、冠詞「ある(a)」、「ある(an)」、「その(the)」および「前記(said)」は、要素の1つまたは複数が存在することを意味することが意図される。用語「備える(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」は、包含的であり、また、挙げた要素以外のさらなる要素が存在してもよいことを意味することが意図される。さらに、指定された構成要素「から本質的になる(consists essentially of)」または「からなる(consists of)」実施形態はまた、前記構成要素の反応生成物を含んでもよいことが理解される。
【0044】
端点による数値範囲の引用は、その範囲内に包含される全ての数値を含む。たとえば、1と5との間にあるものとして述べられる範囲は、1、1.6、2、2.8、3、3.2、4、4.75および5を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛と、少なくとも約0.500%である濃度の錫と、0.006%より大きい濃度の銀と、少なくとも約0.005%である濃度のビスマスと、鉛ベース合金内にカルシウムが存在する場合、約0.010%以下である濃度のカルシウムとを含む鉛ベース合金を備える、蓄電池格子。
【請求項2】
鉛ベース合金が、カルシウムが本質的にない、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項3】
鉛ベース合金が、鉛、錫、銀およびビスマスから本質的になる、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項4】
鉛ベース合金が、約0.010%以下の総濃度の他の元素を含む、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項5】
錫が約2.000%以下である濃度であり、銀が約0.050%以下である濃度であり、ビスマスが約0.050%以下である濃度である、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項6】
蓄電池格子内の鉛が少なくとも98.000%である濃度である、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項7】
錫が少なくとも約0.700%でかつ約1.500%以下である濃度であり、銀が少なくとも約0.010%でかつ約0.030%以下である濃度であり、ビスマスが少なくとも約0.010%でかつ約0.030%以下である濃度である、請求項6に記載の蓄電池格子。
【請求項8】
錫が少なくとも約0.900%でかつ約1.200%以下である濃度であり、銀の濃度が少なくとも約0.015%でかつ約0.025%以下であり、ビスマスの濃度が少なくとも約0.015%でかつ約0.025%以下である、請求項7に記載の蓄電池格子。
【請求項9】
鉛ベース合金から本質的になる、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項10】
鉛ベース合金が連続して鋳造される、請求項1に記載の蓄電池格子。
【請求項11】
鉛と、少なくとも約0.900%でかつ約1.100%以下である濃度の錫と、少なくとも約0.018%でかつ約0.022%以下である濃度の銀と、少なくとも約0.015%でかつ約0.020%以下である濃度のビスマスから本質的になる連続鋳造鉛ベース合金から本質的になる、蓄電池正極格子。
【請求項12】
コンテナと、コンテナ内に、少なくとも1つの正極板、少なくとも1つの負極板およびそれぞれの正極板と負極板を分離する少なくとも1つのセパレータとを備える鉛酸蓄電池であって、正極板が、表面を有する蓄電池格子と、蓄電池格子表面の少なくとも一部分に付着した活性材料とを備え、蓄電池格子が、鉛と、少なくとも約0.500%である濃度の錫と、0.006%より大きい濃度の銀と、少なくとも約0.005%である濃度のビスマスと、鉛ベース合金内にカルシウムが存在する場合、約0.010%以下である濃度のカルシウムとを含む鉛ベース合金を備える、鉛酸蓄電池。
【請求項13】
鉛ベース合金が、カルシウムが本質的にない、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項14】
鉛ベース合金が、鉛、錫、銀およびビスマスから本質的になる、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項15】
鉛ベース合金が、約0.010%以下の総濃度の他の元素を含む、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項16】
錫が約2.000%以下である濃度であり、銀が約0.050%より大きい濃度であり、ビスマスが約0.050%以下である濃度である、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項17】
蓄電池格子内の鉛が少なくとも98.000%である濃度である、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項18】
錫が少なくとも約0.700%でかつ約1.500%以下である濃度であり、銀が少なくとも約0.010%でかつ約0.030%以下である濃度であり、ビスマスが少なくとも約0.010%でかつ約0.030%以下である濃度である、請求項17に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項19】
錫が少なくとも約0.900%でかつ約1.200%以下である濃度であり、銀の濃度が少なくとも約0.015%でかつ約0.025%以下であり、ビスマスの濃度が少なくとも約0.015%でかつ約0.025%以下である、請求項18に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項20】
蓄電池格子が鉛ベース合金から本質的になる、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項21】
鉛ベース合金が連続して鋳造される、請求項12に記載の鉛酸蓄電池。
【請求項22】
コンテナと、コンテナ内に、少なくとも1つの正極板、少なくとも1つの負極板およびそれぞれの正極板と負極板を分離する少なくとも1つのセパレータとを備える鉛酸蓄電池であって、正極板が、表面を有する蓄電池格子と、蓄電池格子表面の少なくとも一部分に付着した活性材料とを備え、蓄電池格子が、鉛と錫と銀とビスマスとから本質的になる連続鋳造合金から本質的になり、錫が少なくとも約0.900%でかつ約1.100%以下である濃度であり、銀が少なくとも約0.018%でかつ約0.022%以下である濃度であり、ビスマスが少なくとも約0.015%でかつ約0.020%以下である濃度である、鉛酸蓄電池。

【公表番号】特表2010−522275(P2010−522275A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554694(P2009−554694)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/057410
【国際公開番号】WO2008/115943
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509263135)ノーススター・バツテリー・カンパニー・エル・エル・シー (1)
【出願人】(509263102)アール・エス・アール・テクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】