説明

鉱物からの金属の回収方法

【課題】 塩化浴で硫化銅鉱を浸出し特別な酸化剤を使用することなく空気の使用のみで、硫化銅鉱中の銅及び金を高い浸出率で浸出する。
【解決手段】
(1) 銅浸出工程(CL):原料を、塩化第2銅、塩化第2鉄、塩酸を7g/L、臭化ナトリウムを含有する第1の酸性水溶液に添加し、第1銅イオン及び第2銅イオンを含有する浸出液を得る、
(2)固液分離を施す固液分離工程、
(3)空気酸化工程(OX):固液分離後液に空気を吹き込み、第1銅イオンを第2銅イオンに酸化し、かつ工程(1)で浸出された鉄を酸化すると同時に工程(2)で原料から浸出された不純物を共沈させる、
(4)銅抽出工程(CEX):工程(3)の後液から銅を回収する。
(5)金回収工程(AL):工程(2)で分離された残渣を、工程(1)と同様の滲出液に添加し、金を浸出する。(1)及び(5)は大気圧下、沸点以下の条件で空気の吹込みを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石に含有される有価金属の回収方法に関するものであり、さらに詳しく述べるならば、鉱石を水溶液中に浸出溶解して目的金属を回収する方法において、一連の工程の中で銅と金を浸出し分離回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱石のうち硫化銅鉱は、通常、1000℃を超える温度で溶融処理し、鉄をはじめとする不純物をスラグとして固定し、分離する乾式処理と呼ばれる方法で処理して銅を回収している。乾式プロセスでは溶融処理によって製造する銅マットと呼ばれる硫化銅精製物(Cu2S)に貴金属は濃縮され回収される。このような方法では硫化銅鉱中の硫黄は二酸化硫黄としてガス化するため排ガス処理が必要であり、溶融後の精製過程も高温を必要とし大量の燃料を消費する。さらに、原料中の不純物品位が高くなると繰り返し物が増えて処理の効率が低下するとか、原料中の硫黄と銅の比率に制限があり低銅品位の原料についても処理効率が低下する等の問題点がある。
【0003】
このような排ガス処理や大量の燃料消費、原料の不純物や銅の品位に対する制限を解決するために、硫化銅鉱を水溶液中で処理する湿式法と呼ばれる種々のプロセスも開発されてきた。
銅鉱石等からの銅回収に関する湿式製錬技術は、硫酸による浸出技術が確立され溶媒抽出と電解採取を組み合わせたSX-EW法など商業規模のプラントとして建設され操業を行っている。
【0004】
しかし、硫酸浴による銅の浸出は、一般に酸化鉱主体の鉱石に用いられ、硫化鉱の浸出は反応が遅いとか貴金属の回収ができない等問題点が多いため一部の硫化鉱に適用されているにすぎない。さらに、選鉱等により銅品位を高くした銅精鉱においては、反応速度が遅いだけでなく銅浸出率が低いことや貴金属の回収が困難なことから実用化されていない。
【0005】
このような湿式処理プロセスは、銅浸出率を高くするために高温高圧を必要とする、高温高圧での操作を回避しようとすると塩化物溶液を使用して銅浸出率を高くするといった方法も考えられている。しかしながら、回収した電着銅の品質が悪くなるあるいは回収のための電解槽の構造が複雑になるといった問題点がある。
【0006】
乾式処理プロセスと湿式処理プロセスを比較した場合に、特に問題となるのが貴金属の挙動であり、湿式プロセスでは貴金属の回収が困難である。このため、銅を溶液中に溶解して回収した後に残る浸出残渣とよばれるものを再度処理する必要があった。
浸出残渣は大量に発生するが貴金属品位は高くても数十g/tという微量であるうえに数千g/tに相当する銅や大量の鉄が残留し、貴金属を回収するための薬品を大量に消費することになる。たとえば、シアンは金と安定な錯体を形成するため金浸出に通常使用される薬品であるが、銅や鉄とも錯体を形成するため、このような残渣に使用すると莫大な消費量となる。また、シアン自身有毒であり、通常は安定なシアン化ナトリウムとして使用するが、酸濃度の上昇によって容易にシアンガスを発生するため厳重な注意が必要であり、使用できる地域も制限されつつある。
【0007】
高温高圧処理を行わない方法として、硫化物鉱石を塩化物水溶液を使用した塩化浴により浸出し、かつ金を回収する方法が提案されている(特許文献1、2)。特許文献1の方法は、銅の電解採取工程から繰り返された酸化還元電位が高く、かつCu2+を含むCl−Br系酸性電解液で空気導入下で硫化物鉱石から銅をCu+として浸出し、1価銅の電解採取を行うというものである。
しかし、この方法では、浸出の際に取り扱いが困難で有害なハロゲン化合物(ハレックス、典型的にはBrCl2-)を取り扱い、金の浸出率を高めるために酸素や、塩素ガスのようなハロゲンガス等の特別な酸化剤を要する。また、銅の電解採取を塩化浴で行うため、得られる銅の品位が低く精製が必要であるためコストがかかり、電解採取設備が複雑であり管理が困難等の問題点がある。
【0008】
塩化浴で銅精鉱を浸出し、溶媒抽出により塩化浴より銅イオンを有機溶媒中に抽出して有機相と水相を分離後、有機相を硫酸と接触させることで有機溶媒中に抽出した銅を硫酸銅に変換し従来の硫酸浴での銅の電解採取を行うことで品位の高い銅を得る方法が提案された。(特許文献3)。この方法では、カルコパイライトを浸出する段階と空気吹込みにより1価銅を2価銅に酸化する段階とが逐次行なわれ、酸化段階の液は浸出段階に繰り返されている。この方法では銅の浸出はできるが、金を含む精鉱から金を回収できないという問題があった。更に、現在のところ、上述した塩化浴での銅湿式製錬プロセスは、他の鉱山開発プロセスに比べ、コスト面、管理面で採算が合わず、大規模な鉱石処理プロセスが困難である問題もある。
【0009】
一般的に商業規模の金浸出方法は青化製錬法が主体である。この方法は、金を含む鉱石や処理残渣に対してシアン化ナトリウムを散布し、原料中の金をシアン錯体として溶液中に浸出して回収する方法である。
この方法では、浸出試薬として使用するシアンから生成するシアン化水素が猛毒であるため使用に制限を受けることがある。また、毒性をなくすために液処理にコストがかかることや、金以外の金属が存在する場合その金属にもシアンが消費されるためシアン使用量が甚大になること等がありコストが増大するといった問題もある。
【特許文献1】AU Patent No669906「Production of metals from minerals」
【特許文献2】AU App 2003287781「Recovering Metals from Sulfidic Materials」
【特許文献3】CA Patent 1105410「Method of obtaining copper from sulphurized concentrates」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような問題を解決するためにINTEC法と呼ばれる塩化浴での湿式プロセスが提案されている(特許文献1)。このプロセスは銅回収と同時に金回収ができる特徴を備えているが、塩化浴で電解するために電着銅の形状と品質に懸念がある、さらに金浸出のためには高い酸化力を必要とし、このために高い酸化還元電位を示すハロゲン化物(ハレックス)を必要とする、このハレックスを銅の電着回収と同じ装置内で製造するため複雑な操作を必要とすることから、管理方法が複雑であり大規模な処理ができない等の問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決したもので、塩化浴で硫化銅鉱を浸出し特別な酸化剤を使用することなく空気の使用のみで、硫化銅鉱中の銅及び金を高い浸出率で浸出し、回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するものであり次の方法を提供する。
(1)金を含む硫化鉱または金を含む珪酸鉱を含有する硫化鉱(以下「原料」という)を処理して銅と金を回収する方法おいて、
原料を、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩化物および臭化物と、銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む第1の酸性水溶液に添加し、大気圧下かつ沸点以下の条件で前記第1の酸性水溶液に、少なくとも一時期、空気を吹込むことにより、第1銅イオン及び第2銅イオンを含有する浸出液を得る銅浸出工程と、
銅浸出処理された原料に固液分離を施す固液分離工程と、
固液分離後液に空気を吹き込み、該後液に含有される第1銅イオンの少なくとも一部を第2銅イオンに酸化し、かつ銅浸出工程で浸出された鉄を酸化すると同時に銅浸出工程で原料から浸出された不純物を共沈させ、続いて沈殿分離を行う空気酸化工程と、
空気酸化工程の沈澱分離後液から銅を抽出する銅抽出工程と、
固液分離工程で分離された残渣を、アルカリ金属ないしはアルカリ土類金属の塩化物および臭化物と銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む第2の酸性水溶液に添加し、大気圧下、沸点以下及び鉄の存在下において空気を吹込むことにより前記残渣より金を浸出する金回収工程と、を有することを特徴とする鉱物からの銅及び金の回収方法。
(2) 第2の酸性水溶液中の金濃度を1.5mg/L以下に維持することを特徴とする請求項1記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(3) 前記銅浸出工程が、前段の浸出残渣を次段に順次移行する複数段からなり、浸出液供給工程からの浸出液を複数段の各段へ分配することを特徴とする(1)又は(2)の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(4) 前記複数段の浸出後液をそれぞれ各段から抜出した後全てを混合し、引続いて、空気酸化工程へ給液する(3)の銅及び金の回収方法。
(5) 第1及び第2の酸性水溶液中の塩化物イオンと臭化物イオンの濃度の合計が、120g/L〜200g/Lであることを特徴とする(1)から(4)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(6) 銅浸出工程における浸出温度が70℃以上である(1)から(5)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(7) 銅抽出工程が、溶媒抽出、イオン交換、電解採取または置換のいずれかもしくはそれらの組合せからなる(1)から(6)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(8) 空気酸化工程において実質的全部の第1銅を第2銅に酸化し、かつ銅抽出工程を溶媒抽出で行う(7)記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(9) 溶媒抽出された銅を硫酸溶液に逆抽出する(8)記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(10) 金回収工程において、浸出温度が60℃以上である(1)から(9)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(11) 金回収工程において、第2の酸性水溶液に活性炭あるいは活性炭と硝酸鉛を投入することを特徴とする(1)から(10)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(12) 金回収工程後に、活性炭吸着、溶媒抽出、イオン交換または置換の何れかもしくはそれらの組合せからなる処理工程を行う(1)から(10)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(13) 原料を粉砕摩鉱し全体の80%以上が粒径40μm以下にする粉砕摩鉱工程を有することを特徴とする(1)から(12)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
(14) 銅浸出液、銅浸出残渣、もしくは金浸出残渣から原料中の銅及び金以外の有価金属を分離回収する有価金属回収工程を有することを特徴とする(1)から(13)までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
以下、本発明を詳しく説明する。
【0013】
以下,金を含む銅精鉱からの銅、金の回収プロセスに関して本発明の具体例を、図1を参照して示す。このプロセスを、銅浸出、酸化、銅抽出、銅回収、金回収の四群に分け、銅浸出はCL、酸化はOX、銅抽出はCEX、銅回収はCEW、金回収はALで表示する。
また、銅浸出は4段からなる具体例が示されている。この段数は、処理原料に応じて調節される。
【0014】
銅浸出工程(CL)
原料を塩化第2銅、塩化鉄、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム混合液(第1の酸性水溶液)に添加し、大気圧下70℃以上の温度で空気を溶液中に吹き込みながら反応させ原料中の銅を浸出する。代表的な銅の硫化鉱であるカルコパイライトを例にすると次のような反応式に従って銅は溶出すると考えられる。
CuFeS2+3CuCl2→4CuCl+FeCl2+2S (1)
CuFeS2+3FeCl3→CuCl+4FeCl2+2S (2)
これらの反応により30 〜75%程度の浸出率を達成することができる。
また、 浸出段階の少なくとも一時期、好ましくは後期において、空気の吹込みを行いながら、浸出を行う。この結果、(1)あるいは式(2)の反応が進行することと併行して、これらの浸出反応の結果生成した第一銅および第一鉄が次のような反応でそれぞれ第二銅と第二鉄に酸化される。
CuCl+(1/4)O2+HCl→CuCl2+(1/2)H2O (3)
FeCl2+(1/4)O2+HCl→FeCl3+(1/2)H2O (4)
(3)及び(4)式で生成する化学種は(1)及び(2)式の酸化剤として浸出に再利用できる。この結果、浸出率はさらに高くなる。上記(3)及び (4)式の反応は溶液中に吹込む空気中の酸素で進行するため、浸出反応中に空気を吹込むことで、原料より溶出した塩化第1銅や塩化第一鉄を酸化し塩化第2銅あるいは塩化第二鉄として銅浸出反応を継続できる。
第1の酸性水溶液においては塩化物のみでも反応は進行するが、臭素イオンが存在する場合、浸出反応の酸化還元電位を低下できるため反応速度が速くなり、反応時間が短縮できる特徴があるため、上述の溶解及び反応を高い効率で実現するためには、第1の酸性水溶液中の塩化物イオンと臭化物イオンの濃度の合計が、120g/L〜200g/Lであることが好ましい。
銅浸出を促進するため、粉砕・摩鉱した原料を用いるほうが好ましく、その際の粒度は、原料全体の80%の粒径が40μm以下が好ましい。
また、浸出前液中の塩化第2銅濃度は20g/L以上が好ましい。
浸出温度は70℃以上を必要とするが、銅浸出反応を、より促進させるためには、温度を上げて反応を行うほうが良い。
以上の例では第二銅及び第二鉄の両方が酸化剤として作用しているが、硫化銅鉱のように鉄が不純物レベルでしか存在しない鉱石処理の場合は、第二銅のみを酸化剤として銅の浸出を行うことができる。
【0015】
複数段浸出
銅浸出工程では、原料中の銅の浸出を十分に行うため複数の反応槽を必要とする場合があり、その際の浸出液の流れは紙面で左から右への方向となり、一方浸出残渣の流れは紙面で上から下への方向になるから、これらの流れは図1のように十字流れを取る。
また、複数に分割した銅浸出の各段での反応終了後、フィルタープレスまたはシックナー等により固液分離または濃縮し、得られた残渣または濃縮スラリーは次の銅浸出段へ送られる。
最終銅浸出段からの銅浸出残渣は固液分離後後述の金浸出工程へ送られる。各銅浸出段で分離された浸出後液は、後述の銅抽出工程へ送られる。
【0016】
酸化工程(OX)
浸出後液中の銅を酸化するために、複数段から産出される銅浸出後液を混合し空気を吹き込み、第1銅の少なくとも一部の酸化を行う。式(3)に示すように第二銅の酸化には酸素のほかに酸を消費する。このため、溶液のpHが上昇するが、pHの上昇にともない式(5)で示す反応によって鉄が沈殿し酸を生成する。
FeCl3+2H2O→FeOOH+3HCl (5)
式(5)により生成する酸(HCl)を利用して式(3)の銅の酸化を進行させる。銅の酸化が終了すれば酸が残留することで溶液のpHが低下し式(5)の反応が平衡に達することで酸化は終了する。
なお、銅回収では陽イオン交換型の有機抽出剤あるいは溶媒抽出を使用する場合は、これらの交換反応を円滑に行うために、第1銅及び第2銅が混在する浸出液を前もって酸化することにより実質的に全部が第二銅からなる溶液を作成することが好ましい。
また、一価銅を二価銅に酸化させる際、鉄やその他の不純物の一部が沈殿するため、フィルタープレス等でろ過分離すると、さらに上記した交換反応が円滑に進む。
【0017】
銅回収工程(CEXおよびCEW)
前述の銅浸出工程で得られた、銅浸出後液から銅を回収する。銅の回収は、公知の溶媒抽出、イオン交換、電解採取または置換、あるいはこれらの組合せにより行うことができる。
銅の回収を塩化浴による電解採取で行う場合は,特許文献1に記載されているとおり、アノード側及びカソード側の反応は次のようになる。
アノード側:2Cu+ + 2e → 2Cu (6)
カソード側:2Cl-+ Br- → BrCl2- (ハレックス) + 2e- (7)
本発明においては、浸出液中の銅を選択的に回収するために知られている陽イオン交換型の有機金属抽出剤やイオン交換樹脂を使用することが好ましい。このような抽出剤や樹脂を使用すると、式(8)で示すように銅イオンの抽出と同時に溶液中にプロトンが排出され溶液中に酸を生成する。
2R-H+CuCl2→R2-Cu+2HCl (8)
(ここでRは有機金属抽出剤ないしはイオン交換樹脂の官能基を示す)
【0018】
銅を抽出後、浸出工程へ繰返す溶液中には、原料中の銅を二価の塩化物として溶出させるのに必要な塩素量を、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩酸のいずれかの組合せ、または単独で、供給することができるので、ハレックスは必要としない。なお、この塩酸は(8)式で生成する。
さらに、銅の抽出量は浸出工程で原料から溶出した銅量とし、抽出後の液中に残る銅はそのまま浸出工程に繰返され酸化剤として浸出反応を繰返すことができるため、浸出液中の銅量のバランスをとることができる。この銅抽出後の液を銅浸出工程に繰返し、抽出の結果式(6)により生成する酸と残留する第二銅を次の銅浸出に使用する。
このようにして新たな薬品を添加することなく銅の浸出と回収を繰返すことができる。
【0019】
有機金属抽出剤を使用する場合、銅抽出後の抽出剤は簡単な洗浄を経て、希硫酸で逆抽出することで硫酸銅溶液を得ることができる。この硫酸銅溶液から電気分解することで金属銅を回収できる(式(9))。硫酸浴からの銅の電解採取(CEW)は良く知られた方法であり、容易に品位の高い銅を得ることができる。また、硫酸銅溶液から電気分解により金属銅を回収すると金属銅はカソード側に析出するが、対極のアノード側では水の電気分解が起こり、酸が精製する(式(10))。この酸を抽出剤からの銅の逆抽出に使用できるため、新たな硫酸を添加する必要がなく試薬使用量低減につながる。
CuSO4+2e→Cu+SO42− (カソード側) (9)
H2O→2H++(1/2)O2+2e (アノード側) (10)
【0020】
金浸出工程(AL)
前述の銅浸出工程で銅を浸出した残渣から金を浸出し、回収する工程を行う。
金含有残渣を塩化第二銅、塩化鉄、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム混合液にて大気圧下、60℃以上、空気酸化にて金を溶出させ、溶出した金イオンを直ちに回収する。直ちに金を回収する方法としては、金浸出反応槽内の一部の液を絶えず抜き出し固液分離し、分離後の液を活性炭あるいはイオン交換樹脂に通液するとか溶媒抽出などの操作を施し、金を回収する。回収後の液は再びもとの金浸出反応槽にもどす。あるいは活性炭、イオン交換樹脂、溶媒抽出試薬などを金浸出反応槽にあらかじめ添加しておき、金が溶出すると同時に吸着を行う方法も有効である。
金を回収するためには、金を溶出させ溶液中に安定な形態で存在させる必要がある。塩素や臭素のようなハロゲンイオンが三価の金に配位した錯体は安定であることが知られている。水溶液中ではAu3+/Au(Au3++3e→Auの酸化還元系を示す。以下同じ)の標準酸化電位は1500mVであるが、塩化物を溶解した溶液では1012mVに低下するため低い酸化還元電位での金浸出が可能となり有利である。特許文献1、2に記載の方法では、この酸化還元電位を実現するために、ハレックス、塩素、酸素といった、強い酸化剤を用いる必要があった。
しかし、[Au3+]/Auの酸化還元電位は次のような式で表されるように、溶解した金濃度に依存する。
E=E0+(3F/RT)log[Au3+] (11)
ここでE0は標準酸化還元電位、Fはファラディー定数、Rは気体定数、Tは温度(K)である。
この式より溶液中の金濃度を低く維持すれば低い酸化還元電位で金浸出が可能になる。たとえば、金濃度が1mol/lより10−2mol/lに低下することで酸化還元電位は354mV低下し、塩化浴では646mVとなる。
一方、塩化浴でのFe3+/Fe2+系の酸化還元電位は次の式で表される。
E=E0+(F/RT)log([Fe3+]/ [Fe3+]) (12)
この酸化還元系の標準酸化還元電位は681mVであるため、この鉄の酸化還元反応と組み合わせることで金浸出が可能となる。さらに鉄の酸化還元は空気中の酸素で可能であるため、これらを総合すれば鉄の存在下で溶液中に空気を吹込むことで金浸出が可能となり、溶出した金を活性炭等により回収することで継続的な金浸出が可能となる。
特許文献1では、浸出の際に取扱いが困難で有害なハロゲン化合物(ハレックス、典型的にはBrCl2)を取扱い、高い酸化還元電位700mv(vsAg/AgCl)の下で、金の浸出率を高めているが(実施例4)、本発明では空気の吹込みのみで、酸化還元電位550mv(vsAg/AgCl)で金の高い浸出率を得ることができる。
また、特許文献2では、空気+酸素のみでは金浸出率は59%であり、強い酸化剤で有害な塩素を使用することで金浸出率を95%に高めているが(実施例3)、本発明では、空気の吹き込みのみで95%の金浸出率を得ることができる。
【0021】
また、このプロセスにて銅や金とともに浸出された有価金属(例えば銀、ニッケル、コバルト、亜鉛等)は、銅浸出液もしくは金浸出液に蓄積される。これら有価金属の回収には、塩化浴での有用金属の回収と同様の扱いを行うことができる。つまり、浸出液中の銅・鉄を除去した後、もしくは、浸出液を直接用い、浸出液中の有価金属を置換、溶媒抽出、もしくはイオン交換することにより回収することができる。また、浸出されず残渣に残った有価金属も浸出条件を変え、さらに浸出した後に回収することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以下の効果を有する。
本発明において処理される原料の硫化鉱は銅や貴金属を含み、また珪酸鉱は金を含有している。かかる原料を、特段の前処理を施すことなく、第1の酸性水溶液中で処理し、大気圧下水溶液の沸点以下の温度で反応させることが可能であるため、特別な設備を必要としない。また、空気を溶液中の吹き込み空気中の酸素を利用して酸化された銅及び鉄の塩化物及び/又は臭化物が酸化剤として作用する。このために、特別な酸化剤を使用することなく銅を浸出することができる。上記した銅や鉄は原料中に含まれているために、かかるる銅や鉄も銅浸出や金浸出に利用できるため薬品コストの節約になる。
また、第1の酸性水溶液は上述のような成分系であり、塩化浴で銅の浸出を行うため、硫酸浴浸出の場合のように、浸出物表面の不働態化反応が起こらない。このため、反応時間の短縮により反応槽が小さくなり設備費を小さくできる。
【0023】
第2の酸性水溶液を使用する金の浸出も同様であり、銅や貴金属を効率よく浸出することができる。毒性を持つシアン化合物や塩素ガスなどのような特別な薬品を使用することなく金を効率よく浸出することができる。溶液中の金濃度を低く維持することにより金浸出反応を促進できるため、金を効率よく浸出することができ反応時間の短縮により反応槽が小さくなり設備費を小さくできる。特別な設備やシアン、水銀といった特殊な薬品を使用しない。
【0024】
本発明の銅浸出工程及び金浸出工程は大気圧下で行われるために、オートクレーブのような特別の装置を必要とせず、基本的に反応槽と攪拌機、シクナーあるいはプレスフィルターのような簡便な設備の組み合わせで工程を構築できるため、鉱山近傍での運転維持が容易である。
【0025】
本発明の銅浸出では、ヒ素をはじめとする不純物も浸出される。一旦浸出された不純物は、酸化工程において、沈澱に移行するので、沈澱分離を行うことにより、銅を浸出液から回収するため回収銅に対する不純物の影響を排除でき、高不純物品位の原料を処理できる。本発明方法においては、銅の浸出工程では(5)式の反応を抑制することにより、酸化は銅の浸出工程(CL)と酸化工程(OX)のそれぞれで分けて行うため、残渣中の金の濃度を高く保つことができる。
【0026】
銅抽出後液を原料添加工程に繰り返しているために、塩化物及び臭化物系薬品の消耗がほとんどない。また、薬品の消耗がほとんどなく、酸化剤として腐食性や毒性の高い薬品を使用する必要がない。
【0027】
原料中の銅品位が変動しても浸出液に添加する原料量を変化させることで溶液中に浸出する銅量を一定にでき、原料中の銅品位の変動にも対応できる。低い銅品位の原料でも第1の酸性水溶液量を少なくすることにより、浸出銅濃度を一定にできるため、乾式製錬で対応が困難な低銅品位精鉱を処理できる。本発明方法は、乾式製錬で適用できないような低い銅品位の原料にも対応できることから、従来の方法では採算がとれないような鉱石の処理に適している。たとえば、銅品位16%、金品位90g/t、不純物としてのヒ素品位1250ppmのような精鉱では銅品位が低いため、同一銅量を輸送させるにはグロス量が大きくなり鉱山から製錬所までの陸上および海上の輸送費がかかるため鉱山側の費用が増大する。さらに不純物が高く、金品位が高いにもかかわらず製錬所側での処理も困難となる。さらに、従来の湿式処理法では金を回収することはできず、金品位が高いにもかかわらずその価値を評価することが困難であった。このような鉱石は、当初金鉱山として開発を始めたようなところに見受けられる。
【0028】
本発明における固液分離や抽出などは従来から行われている公知の方法である。したがって、本発明は従来方式を適宜組み込んだプロセスでもあるため、管理が行いやすく、湿式製錬法で成りえなかった大規模鉱山開発が可能である。
【0029】
本発明の方法は、金浸出工程においては金濃度を低く維持することにより、金浸出効率を高くすることができる(請求項2)。
【0030】
多段浸出(請求項3)の場合、銅の浸出反応速度を速くすることができる。
【0031】
処理物の流れを十文字にすることにより、処理物の流れが単純になり、設備を小型化することができる(請求項4)
【0032】
たとえば、温度100℃以下、大気圧下で空気を吹き込み銅浸出率98%以上、金浸出率95%以上を実現できる(請求項6,10)。
【0033】
銅の抽出を公知の方法で行うことにより、操業が容易になる(請求項7)。また硫酸銅溶液を電解採取することにより高品位の電気銅を生産することができる(請求項8)。
【0034】
鉛イオン(硝酸鉛など)を共存させることで、金浸出反応を促進できるため、反応時間の短縮により反応槽が小さくなり、設備費を小さくできる(請求項10、11)。
【0035】
銅や金を含む原料を粉砕することにより、浸出率を促進し回収率を向上できる(請求項12)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
実施例1
塩化第2銅を銅濃度として20g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lの濃度の液を調製し浸出液(第1の酸性水溶液)として使用した。原料として、Cu 22%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ銅精鉱を粉砕し、粒度P80 値で18μmとしたものを用いた。前記整粒精鉱400gを前記浸出液4Lに添加した。
浸出液を85℃に加温後攪拌しながら原料の精鉱を投入し、浸出を実施した。
所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣を再度上記浸出液にて浸出を行った。この浸出を4段行い、浸出残渣中の銅品位の推移を観察した。また、空気の吹き込みは、1・2段反応の際は行わず、3・4段反応の際に1.0L/minの流量で吹き込んだ。表1に、この実施例の結果を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
この例で示すように、銅浸出率は述べ反応時間に伴い増加し、反応段数3段、延べ反応時間14時間で98%、反応段数4段、延べ反応時間19時間で98.7%に達した。この結果4段全体で14.8Lの浸出液が得られ、一価銅の濃度は14.1g/Lであり、二価銅の濃度は12.8g/Lであった。
【0039】
実施例2
塩化第2銅、もしくは塩化第1銅を銅濃度として10g/L、塩素イオン濃度を塩化銅の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として108g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして13g/Lの濃度の液を調製し、抽出前液(銅浸出工程の滲出液)として調製した。
抽出剤として、LIX984をIsoperMで希釈し、体積比20%としたものを調製した。この抽出前液と抽出剤を体積比1:1で混合後、静置し有機相と水相に分離し、水相中の銅濃度を測定した。
表2に抽出条件と結果を示す。

【0040】
【表2】

【0041】
この例で示すように、LIX984はCu+は抽出せず、Cu2+を抽出する。このことから、浸出後液からのLIX984による銅の回収では、浸出後液中のCuをCu2+に酸化する必要があることがわかる。よって、表1の(1)は請求項8の実施例であり、(2)は請求項8範囲外の比較例である。
【0042】
実施例3
銅精鉱の浸出後液を空気酸化して得られた液を抽出前液とし、LIX984をIsoperMで希釈し、体積比20%としたものを抽出剤として、抽出試験を行った。
また、抽出後の有機相を純水で洗浄した後、180g/Lの希硫酸にて逆抽出を行った。さらに、逆抽出後の有機相を純水にて洗浄した。
それぞれ、得られた水相を分析し、銅およびハロゲンの分配を調べた。
表3に試験条件および結果を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
この例で示すように、180g/Lの希硫酸により、有機相中の銅が水相中に逆抽出していることがわかる(請求項9)。
また、抽出後の有機相は塩素の持込があり、純水で洗浄することで、銅のロスがなく塩素の除去が可能である。また、逆抽出後の有機相にも硫酸イオンの持込があり、同様に純水を用い洗浄することで、硫酸イオンの除去が可能である。
【0045】
実施例4
塩化第2銅を銅濃度として5g/L〜20g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/Lもしくは108g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lもしくは13g/Lの濃度の液を調製し浸出液(浸出工程に繰返される沈澱分離後液に相当)として使用した。原料として、Cu 22%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ銅精鉱を粉砕し、P80 値18μmとしたものを用いた。この整粒精鉱600gを前記浸出液4Lに添加した。
浸出液を85℃もしくは70℃に加温後攪拌しながら原料の精鉱を投入し、空気を流量1.0L/minで吹き込みながら浸出を実施した。所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣を再度上記浸出液にて浸出を行った。この浸出を複数段行い、浸出残渣中の銅品位の推移を観察した。
表4にこの実施例の条件と結果を示す。
【0046】
【表4】

【0047】
この例で示すように、銅の浸出速度は塩素濃度および臭素濃度、反応温度に影響され、浸出残渣中の銅品位を短時間で1%以下にするためには、塩素濃度と臭素濃度の合計値を少なくとも120g/L以上、反応温度を少なくとも70℃C以上にする必要がある。また、塩素濃度と臭素濃度の合計値が120g/L、反応温度70℃の両条件で浸出した場合では、浸出残渣中の銅品位は同程度の延べ反応時間で、1%以下には低下しない(請求項5,6)。
また、比較例で示したとおり、反応温度が50℃であれば、反応時間を25時間以上と長くしても、残渣中銅品位は17%、銅浸出率は11.1%にしか到達しない。
これらより、銅浸出の反応速度には塩素濃度と臭素濃度の合計値および反応温度が大きな影響を与えることがわかる。
【0048】
実施例5
塩化第2銅を銅濃度として25g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として5g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭素イオン濃度として22g/Lを混合、溶解した液を調製し、浸出液(第2の酸性水溶液)として使用した。原料として前工程の銅浸出試験で得た4段浸出残渣を使用した。銅浸出残渣は2種類用い、品位はそれぞれ、Cu:0.6%と0.5%、Fe:20%と21%、S:46%と45%であった。この残渣630gを前記浸出液2.5Lに添加した。
浸出液を60、85℃に昇温後、攪拌しながら原料の残渣630gをそれぞれ投入した後、空気を流量0.2L/minで吹き込みながら浸出を実施した。3時間毎に濾過し、残渣を回収し、その際、残渣サンプルを採取し、残渣中の金品位を分析した。3時間反応後に回収した残渣を新しい浸出液中に投入し、再度浸出させた。この方法で浸出を15〜16回、繰返し行った。
表5に試験結果を示す。
【0049】
【表5】



【0050】
表5より、85℃の浸出(請求項10の実施例)では、浸出時間45時間で金浸出率92.4%に達することがわかる。
また、60℃での浸出(請求項10の実施例)では、85℃浸出よりも浸出率、浸出速度は良くないものの浸出時間45時間で、金浸出率88.9%に達した。
このことにより、金浸出の際の温度は、金浸出率に大きな影響を与えることがわかる。
浸出時間3hrsが請求項2の実施例に相当する。
【0051】
実施例6
塩化第二銅を銅濃度として25g/L、塩化第二鉄を鉄濃度として5g/L、塩素イオン濃度を塩化第二銅、塩化第二鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭素イオン濃度として22g/Lの液を調製し、浸出液(第2の酸性水溶液)として使用した。原料は、硫化銅鉱の銅品位を前もって低下させた銅浸出残渣(固液分離工程で得られた残渣に相当)を使用した。銅浸出残渣は2種類用い、銅、鉄、硫黄品位はそれぞれ、Cu 0.1%,Fe 30%, S 32%とCu 0.6%,Fe 21%,S 46%であった。
この銅浸出残渣630gを前記浸出液2.5Lに添加した。
浸出液を85℃に昇温後、攪拌しながら原料の残渣630gをそれぞれ投入した後、空気を流量0.2L/minで吹き込みながら浸出を実施した。
一つは、24時間後に濾過し残渣を回収し、残渣中の金品位を分析した。
もう一つは、3時間毎に濾過し、残渣を回収し、その際、残渣サンプルを採取し、残渣中の金品位を分析した。3時間反応後に回収した残渣を新しい浸出液中に投入し、再度浸出させた。この方法で浸出を8回、繰返し実施した。
表6に試験結果を示す。

【0052】
【表6】

【0053】
表6の例より、液交換をしないと金浸出率が低く、液交換をすると金浸出率が高くなり、金浸出時の液中の金濃度は、金浸出率に大きな影響を与えることがわかる。このことから、金浸出では、液中の金濃度を低く維持することにより、金浸出率の向上が可能と考えられる。
【0054】
実施例7
塩化第2銅を銅濃度として25g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として5g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭素イオン濃度として22g/Lを混合、溶解した液を調製し、浸出液(第2の酸性水溶液)として使用した。原料として前工程の銅浸出試験の際で得た4段浸出残渣を使用した。銅浸出残渣の品位はCu:1.3%、Fe:21%、S:45%であった。この残渣640gを前記浸出液2.5Lに添加した。
浸出液を85℃に昇温後、攪拌しながら原料の残渣およびヤシ殻活性炭を投入した後、空気を流量0.2L/minで吹き込みながら浸出を実施した(請求項11の実施例)。
所定時間毎にサンプルを採取し、残渣中の金品位を分析した。ヤシ殻活性炭は1mm以上のものを用い、サンプル採取時には活性炭と残渣を篩によって分けた後の残渣を分析した。また、ここで投入した活性炭は金吸着能力の限界以上に投入している。
表7に試験結果を示す。
【0055】
【表7】

【0056】
表7より、活性炭を添加した本実施例の浸出率は浸出時間48時間で91.5%に達することがわかる。この結果は液を入れ替えた実施例5の結果とほぼ等しくなっている。
また、図2より液中の金を低く維持したまま、浸出を行うことで金浸出を促進できることがわかる。浸出試験で液を入れ替えずに浸出した場合、液中金濃度が高く、浸出割合が低い。液中金濃度を低く維持するように液を入替える、また活性炭を添加して液中金濃度を低く保つ方が、浸出割合が高くなることがわかる。また、浸出割合が高くなることは浸出時間の短縮を可能にすることができ、結果として、金の浸出を効率よく行うことができる。
【0057】
(実施例8)
塩化第2銅を銅濃度として25g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として5g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭素イオン濃度として22g/Lを混合、溶解した液を調製し、浸出液(第2の酸性水溶液)として使用した。原料として前工程の銅浸出試験の際で得た4段浸出残渣を使用した。銅浸出残渣の品位はCu:0.4%、Fe:25%、S:37%であった。この残渣690gを前記浸出液2.5Lに投入した。
浸出液を85℃に昇温後、攪拌しながら原料の残渣およびヤシ殻活性炭、硝酸鉛を投入した後、空気を流量0.2L/minで吹き込みながら浸出を実施した(請求項11の実施例)。
所定時間毎にサンプルを採取し、未浸出残渣中の金品位を分析した。ヤシ殻活性炭は1mm以上のものを用い、サンプル採取時には活性炭と残渣を篩によって分けた後の残渣を分析した。ここで投入した活性炭は金吸着能力の限界以上に投入している。また、硝酸鉛は青化製錬法で金浸出を促進することが知られているため、青化製錬法をもとに0.21gを添加した。
表8に実施例8の結果を、図2に硝酸鉛を添加した際の残渣中金品位の推移を示す。
【0058】
【表8】

【0059】
表8より、浸出時間24時間で、金浸出率93.2%、48時間で95.1%に達することがわかる。
また、図2より、硝酸鉛を添加したほうが、残渣中金品位が急激に低くなっていることがわかる。このことにより、硝酸鉛の添加が金浸出の促進効果を有していることがわかる。
【0060】
実施例9
塩化第2銅を銅濃度として20g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lの濃度の液を調製し浸出液(第1の酸性水溶液)として使用した。原料として、Cu 23%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ銅精鉱を粉砕し、粒度P80 値で41μmとしたものを用いた。
前記整粒精鉱600gを前記浸出液4Lに添加した。
浸出液を所定温度に加温後攪拌しながら原料の精鉱を投入し、空気を流量1.0L/minで吹き込みながら浸出を実施した。所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣を再度上記浸出液にて浸出を行った(請求項1の銅浸出工程において全時期空気を吹込む実施例)。この浸出を4段行い、浸出残渣中の銅品位の推移を観察した。
浸出温度および時間は1・2段反応でそれぞれ、70℃、2時間とし、3・4段反応においてはそれぞれ、85℃、5時間とした。
表9に銅浸出条件と結果を示す。

【0061】
【表9】

【0062】
この例で示すように、原料粒度がP80値で41μmであっても、反応段数4段、延べ浸出時間14時間で残渣中銅品位0.6%、銅浸出率98.3%に達した。
また、反応段数毎に反応時間、反応温度の設定を変更することで、反応時間の短縮による設備コストの低減と加熱エネルギー低減による操業コストの低減の両立が可能である。
【0063】
実施例10
塩化第2銅を銅濃度として25g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として5g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭素イオン濃度として22g/Lを混合、溶解した液を調製し、浸出液(第2の酸性水溶液)として使用した。原料として前工程の銅浸出試験の際で得た4段浸出残渣を使用した。また、金の浸出は上記浸出組成の液2.5L、パルプ濃度を200g/Lになるように原料を投入後、攪拌、液1Lに対して、空気0.2L/minを常時吹込むことで浸出を行った。
銅浸出前にポットミルで摩鉱した原料(粒度:P80値40μm)と原料出侭(粒度P80値185μm)の原料を使用した。
浸出液を85℃に昇温後、攪拌しながら上記原料の残渣およびヤシ殻活性炭を投入した後、さらに攪拌しながらサンプルを採取し、未浸出残渣中の金品位を分析した。ヤシ殻活性炭は1mm以上のものを用い、分析時には活性炭と残渣を篩によって分けた後の、残渣を分析した(請求項6+11の実施例)。
表10に結果を、図3に残渣中金品位の推移を示す。
【0064】
【表10】

【0065】
表10より、原料粒度がP80値40μmの場合は、浸出時間45時間で金浸出率92.4%に達するが、原料粒度がP80値185μmの場合は、45時間で82.1%にしか達しない。
また、図3より、粗粒原料は金の浸出がある時点で停滞するのに対し、細粒原料は浸出が進むことがわかる。このことから、原料粒度が金浸出率に大きな影響を与えることがわかる。
【0066】
実施例11
塩化第2銅を銅濃度として20g/L、塩化第2鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lの濃度の液を調製し浸出液(第2の酸性水溶液)として使用し、Cu 23%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ粉砕銅精鉱を投入し浸出した。銅浸出は4段行い、ろ過後の液を混合した。混合後の液から4L採取し、これを酸化前液とした。
酸化前液を所定温度に加温後、攪拌しながら空気を1.0L/minで吹き込みながら酸化を実施した。所定時間反応後、ろ過し、酸化後液及び酸化残渣の分析を行った。表11に酸化試験の結果を示す(請求項1の空気酸化工程の実施例)。

【0067】
【表11】

【0068】
表11より、酸化前液中に存在した不純物であるAsは、酸化残渣として排出されることがわかる。そのため、不純物が系内に残存することなく、選択的に銅および金を回収できるため、高純度銅、金を得られる。また、今まで処理できなかった高不純物品位の原料の処理が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
鉱石の浸出反応を促進することにより、小設備化、薬品節約が可能であり、また大気圧下、沸点以下浸出によるエネルギー削減等の低コストでプロセスであり、また乾式製錬に不適である原料を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のフローを示す工程図である。
【図2】金浸出での活性炭添加の影響を示すグラフである。
【図3】金浸出での硝酸鉛添加の影響を示すグラフである。
【図4】金浸出での原料粒度の影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
CL-n: n段浸出
CL-NS: n段浸出残渣
CL-nL: n段浸出後液
CLR: 最終浸出残渣
AL: 金浸出
ALR: 金浸出残渣
OX: 酸化
OXR: 酸化残渣
CEX: 銅抽出
CEW: 銅電解採取


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金を含む硫化鉱または金を含む珪酸鉱を含有する硫化鉱(以下「原料」という)を処理して銅と金を回収する方法おいて、
原料を、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩化物および臭化物と、銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む第1の酸性水溶液に添加し、大気圧下かつ沸点以下の条件で、少なくとも一時期、第1の酸性水溶液に空気を吹込むことにより、第1銅イオン及び第2銅イオンを含有する浸出液を得る銅浸出工程と、
銅浸出処理された原料に固液分離を施す固液分離工程と、
固液分離後液に空気を吹き込み、該後液に含有される第1銅イオンの少なくとも一部を第2銅イオンに酸化し、かつ銅浸出工程で浸出された鉄を酸化すると同時に銅浸出工程で原料から浸出された不純物を共沈させ、続いて沈殿分離を行う空気酸化工程と、
空気酸化工程の沈澱分離後液から銅を抽出する銅抽出工程と、
固液分離工程で分離された残渣を、アルカリ金属ないしはアルカリ土類金属の塩化物および臭化物と銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む第2の酸性水溶液に添加し、大気圧下、沸点以下及び鉄の存在下において空気を吹込むことにより、前記残渣より金を浸出する金回収工程と、を有することを特徴とする鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項2】
第2の酸性水溶液中の金濃度を 1.5mg/L以下に維持することを特徴とする請求項1記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項3】
銅浸出工程が、前段の浸出残渣を次段に順次移行する複数段からなり、浸出液供給工程からの浸出液を複数段の各段へ分配することを特徴とする請求項1又は2記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項4】
前記複数段の浸出後液をそれぞれ各段から抜出した後全てを混合し、引続いて、空気酸化工程へ給液する請求項3記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項5】
第1及び第2の酸性水溶液中の塩化物イオンと臭化物イオンの濃度の合計が、120g/L〜200g/Lであることを特徴とする請求項1から4までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項6】
銅浸出工程における浸出温度が70℃以上である請求項1から5までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項7】
銅抽出工程が、溶媒抽出、イオン交換、電解採取または置換のいずれかもしくはそれらの組合せからなる請求項1から6までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項8】
空気酸化工程において実質的全部の第1銅を第2銅に酸化し、かつ銅抽出工程を溶媒抽出で行うことを特徴とする請求項7記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項9】
溶媒抽出された銅を硫酸溶液に逆抽出する請求項8記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項10】
金回収工程において、浸出温度が60℃以上である請求項1から9までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項11】
金回収工程において、第2の酸性水溶液に活性炭あるいは活性炭と硝酸鉛を投入することを特徴とする請求項1から10までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項12】
金回収工程後に、活性炭吸着、溶媒抽出、イオン交換または置換の何れかもしくはそれらの組合せからなる処理工程を行う請求項1から10までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項13】
原料を粉砕摩鉱し全体の80%以上が粒径40μm以下にする粉砕摩鉱工程を有することを特徴とする請求項1から12までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。
【請求項14】
銅浸出液、銅浸出残渣、もしくは金浸出残渣から原料中の銅及び金以外の有価金属を分離回収する有価金属回収工程を有することを特徴とする請求項1から13までの何れか1項記載の鉱物からの銅及び金の回収方法。












【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate