説明

銀、バナジウム及びリン族の元素を含有する多金属酸化物及びこの使用

一般式(I):Aga-cbc12d*eH2O[前記式中、aは3〜10の値を有し、Qは、P、As、Sb、及び/又はBiから選択された元素であり、bは、0.2〜3の値を有し、Mは、金属であり、cは、0〜3の値を有し、但し(a−c)≧0.1であるとの条件付きである、dは、式(I)中の酸素とは相違する元素の原子価及び頻度により決定される数を表し、かつeは、0〜20の値を有する]の新規の多金属酸化物であって、粉末X線回折図が、少なくとも5つの、d=7.13;5.52;5.14;3.57;3.25;2.83;2.79;2.73;2.23及び1.71Å(±0.04Å)から選択される格子面間隔での回折反射により特徴付けられる結晶構造にある、多金属酸化物が記載される。 前記多金属酸化物は、芳香族炭化水素の気相部分酸化のためのプレ触媒及び触媒の製造のために使用される。前記多金属酸化物は、銀−バナジウム酸化物−ブロンズに熱処理により変換され、これは前記触媒の触媒活性成分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、銀、バナジウム、及びリン族の元素を含有する多金属酸化物、芳香族炭化水素の気相部分酸化のためのプレ触媒及び触媒の製造のためのこの使用、このようにして得られたプレ触媒及び前記多金属酸化物又は前記触媒の製造方法に関する。
【0002】
公知のように、複数のアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物は工業的に、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、又はp−キシレン、ナフタレン、トルエン、ズロール(1,2,4,5−テトラメチルベンゼン)、又はピコリンの接触気相酸化により、固定層反応器、有利には管束型反応器中で製造される。この際、それぞれの出発材料、例えばベンズアルデヒド、安息香酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリト酸無水物、又はニコチン酸により得られる。このために、一般的には分子酸素含有ガスからの混合物、例えば空気、及び酸化すべき出発材料を、反応器中に配置した複数の管中に導通し、この中には少なくとも1つの触媒の充填剤が存在する。
【0003】
WO00/27753、WO01/85337及び先の出願DE−A−10334132には、銀及びバナジウム酸化物含有多金属酸化物及び芳香族炭化水素の部分酸化のための触媒の製造のためのこの使用が記載されている。係る触媒の触媒活性のある材料の触媒活性成分として、いわゆる銀−バナジウム酸化物−ブロンズ(Silber−Vanadiumuoxid Bronze)が作用する。前記刊行物中に開示された、前記多金属酸化物の製造は、バナジウム五酸化物の懸濁物から出発して行われ、前記懸濁物を、銀化合物の溶液及び場合により更なる成分と反応させる。産業的プロセスにおいて、固体懸濁物の取り扱いはしかしながら望ましいものではなく、というのも前記懸濁物は、不均質性、前記固体の沈殿、管路及びポンプの閉塞等を引き起こし易いからである。
【0004】
本発明に基づく課題は、芳香族炭化水素の部分酸化のための触媒の製造のための新規の容易に入手可能である多金属酸化物を提供することである。前記多金属酸化物から製造可能である触媒は、公知技術により製造された触媒と比べて、類似の又はより良好な活性及び選択性を有することが望ましい。
【0005】
本発明の課題は、本発明により、一般式I
【化1】

[前記式中、
aは3〜10の値を有し、
Qは、P、As、Sb、及び/又はBiから選択された元素であり、
bは、0.2〜3の値を有し、
Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、Tl、Mg、Ca、Sr、Ba、Cu、Zn、Cd、Pb、Cr、Au、Al、Fe、Co、Ni、Ce、Mn、Nb、W、Ta及び/又はMoから選択された金属であり、
cは、0〜3の値を有し、但し(a−c)≧0.1であるとの条件付きである、
dは、式(I)中の酸素とは相違する元素の原子価及び頻度により決定される数を表し、かつ
eは、0〜20の値を有する]の多金属酸化物であって、
粉末X線回折図が、少なくとも5つ、有利には少なくとも7つ、特に少なくとも9つの、d=7.13;5.52;5.14;3.57;3.25;2.83;2.79;2.73;2.23及び1.71Å(±0.04Å)から選択される格子面間隔での回折反射により特徴付けられる結晶構造にある、多金属酸化物により解決される。最も有利には、前記粉末X線回折図は、上記した全ての格子面間隔での回折反射により特徴付けられる。
【0006】
前記X線回折反射の記載は本出願において、使用したX線の波長には依存しない格子面間隔d[Å]の形において行われ、これは測定した回折角からブラッグの方程式を用いて算出される。
【0007】
通常は、本発明による多金属酸化物の粉末X線回折図は、表1に列記した10つの固有の回折反射を有する。
【0008】
第1表
【表1】

【0009】
前記多金属酸化物の得られた結晶の結晶性の程度及びテキスチャリング(Texturierung)に依存して、粉末X線回折図における回折反射の強度の減弱が生じてよく、この減弱は、個々の強度のより減弱した回折反射が粉末X線回折図においてもはや検出可能でないまでとなってもよい。個々の強度のより減弱した回折反射は従って、欠失するか、又は粉末X線回折図におけるこの強度比は変更されていてよい。表1に列記した回折反射の少なくとも5つ、有利には少なくとも7つ、特に有利には少なくとも9つ、とりわけ最も有利には全てにより、前記式(I)の多金属酸化物が十分に特徴付けられる。全体で10つの回折反射の粉末X線回折図における存在は、本発明による金属酸化物が特に高い結晶性を有することの指標である。
【0010】
当業者には、本発明による多金属酸化物が、前記した固有の回折反射の他に、更なる回折反射を有してよいことが理解される。更に、本発明による多金属酸化物とその他の結晶性の化合物との混合物は、付加的な回折反射を有する。前記多金属酸化物とその他の結晶性の化合物との係る混合物は、前記多金属酸化物と以下の化合物との混合により狙いを定めて製造されてよく、前記化合物は前記多金属酸化物の調製の際に、この出発材料の不完全な反応により生じるか、又は異物から生じる。
【0011】
式(I)の多金属酸化物中では、可変部aは有利には、5〜9、特に有利には6.5〜7.5の値を有する。可変部bの値は、有利には0.5〜1.5、特に有利には0.8〜1.2を有する。可変部cの値は、有利には1より少なく、特に有利には0である。特に有利には、可変部aは5〜9の値、かつ可変部cは値0を有する。
【0012】
特に有利な一実施態様において、aは5〜9の値、bは0.5〜1.5の値、かつcは値0を有する。
【0013】
式(I)において、Qは特に、元素Pである。
【0014】
式(I)の金属Mは、特にNa、K、Rb、Tl、Au、Cu、Ce、Mnから選択され、とりわけMは、Ce又はMnである。
【0015】
BETによる比表面積は、DIN66131により測定されるが、これはIUPAC International Union of Pure and Applied Chemistryの「Recommendations 1984」(s. Pure & Appl. Chem. 57,603 (1985))に基づき、通常は1m2/gを上回り、特に3〜100m2/g、とりわけ10〜80m2/gである。
【0016】
本発明による多金属酸化物の製造は、特に、
(i)少なくとも1つの水溶性バナジウム化合物の水溶液を製造し、かつ
(ii)前記のバナジウム化合物の溶液を、銀塩溶液及び元素Qの供給源、並びに場合により金属Mの供給源と一緒にする方法により行われる。
【0017】
前記式(I)の多金属酸化物の所望の化学的組成に応じて、この製造のために、前記式(I)のa、b、及びcから生じる量のバナジウム化合物、銀塩、及び元素Qの供給源、並びに場合により金属Mの供給源を相互に反応させる。本発明による多金属酸化物は、反応終了後に得られる。
【0018】
水溶性バナジウム化合物として、特にモノバナデート(Mel2HVO4)、ジバナデート(Mel3HV27)、メタバナデート(MelVO3)、デカバナデート(Mel61028、Mel5HV1028及びMel421028)、及びアニオンを有するドデカバナデート[V12324-が考慮され、その際Melはそのつど、一価のカチオン等価物、例えばアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンであり、特にメタバナデート、とりわけNaVO3及び/又は(NH4)VO3が有利である。前記水溶性バナジウム化合物は、市販であるか又は、V25をアルカリ金属水酸化物と反応させることで得られてよい、溶解性のバナジウム化合物はまた、V25と還元剤との反応により得られてよい。
【0019】
前記銀塩溶液は、水中で、又は水と混合可能である有機溶媒、例えばアルコール、例えばメタノール、ポリオール、例えばエチレングリコール、又はポリエーテル、例えばエチレングリコールジメチルエーテル中で調製されてよい。有利には溶媒として水が使用される。銀塩として有利には硝酸銀が使用され、しかしながらその他の溶解性の銀塩、例えば酢酸銀、過塩素酸銀、又はフッ化銀の使用も同様に可能である。
【0020】
群、P、As、Sb、及び/又はBiからの元素は、元素の形で、又は酸化物又は水酸化物として使用されてよい。特にこれらは、その溶解性の化合物の形で、特に有利にはその有機又は無機の水溶性化合物の形で使用される。特に有利には、このなかで、無機の水溶性化合物、特にアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、とりわけ部分中和したか又は遊離の、前記元素の酸、例えばリン酸、ヒ素水素酸(Arsenwasserstoffsaeure)、アンチモン水素酸(Antimonwasserstoffsaeure)であり、アンモニウムヒドロゲンホスファート、アンモニウムヒドロゲンアルセナート、アンモニウムヒドロゲンアンチモナート、及びアンモニウムヒドロゲンビスムタート、及びアルカリ金属ヒドロゲンホスファート、アルカリ金属ヒドロゲンアルセナート、アルカリ金属ヒドロゲンアンチモナート、アルカリ金属ヒドロゲンビスムタートである。特にとりわけ有利には、元素Qとしてリンが自体単独で使用され、特にリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ジアンモニウムヒドロゲンホスファート、アンモニウムジヒドロゲンホスファート、又はリン酸エステルの形で、特にアンモニウムジヒドロゲンホスファート又はリン酸として、特に有利にはリン酸として使用される。
【0021】
併用される場合には、前記金属成分Mの塩として通常は、使用される溶媒中で溶解性である塩、特に水溶性の塩、例えば前記金属成分Mの過塩素酸塩、カルボン酸塩、酢酸塩、及び硝酸塩、特に酢酸塩及び硝酸塩が選択される。
【0022】
式(I)の多金属酸化物の製造のための本発明による方法の実施のために、バナジウム化合物の溶液を前記銀塩溶液及び前記元素Qの供給源、並びに場合により前記金属Mの供給源を一緒にし、かつ反応させる。
【0023】
又は、前記バナジウム化合物の溶液と、前記元素Qの供給源並びに場合により前記金属Mの供給源を反応させ、この得られた溶液を前記銀塩溶液と一緒にする。
【0024】
前記バナジウム化合物と前記元素Qの供給源及び場合により前記金属成分Mの化合物の供給源との反応を、前記銀化合物の存在下又は非存在下で、一般的に室温で、又は高温で実施してよい。通常は、前記反応を20〜375℃、有利には20〜100℃、とりわけ有利には60〜100℃の温度で実施する。前記反応の温度が、この使用される溶媒の融点の温度を上回る場合には、前記反応を目的に応じて、前記反応系の固有の圧力下で、圧力容器中で実施する。有利には、前記反応条件を、この反応が雰囲気圧力で実施できるように選択する。
【0025】
係る反応の期間は、この反応する出発材料の種類及びこの適用される温度条件に依存して、10分間〜3日間であってよい。前記反応の反応時間の延長は、例えば5日間以上が可能である。通常は前記反応は、6〜24時間の期間の間に実施される。
【0026】
このように形成された本発明による多金属酸化物は、この反応混合物から単離され、かつ更なる使用まで保存されてよい。前記多金属酸化物の単離は、例えばこの懸濁物の濾別及びこの得られた固体の乾燥により行われてよく、その際前記乾燥は市販の乾燥器中で、又は例えば凍結乾燥において実施してもよい。特に有利には、この得られた多金属酸化物懸濁物の乾燥をスプレー乾燥を用いて実施する。前記反応の際に得られた多金属酸化物をこの乾燥前に塩不含に洗浄することも有利であってよい。
【0027】
前記スプレー乾燥は一般的に雰囲気圧力又は減圧下で実施される。適用圧力及び使用される溶媒に応じて、前記乾燥ガスの入口温度を決定してよい;一般的には、前記ガスとして空気が使用されるが、しかしながらその他の乾燥ガス、例えば窒素又はアルゴンを使用してもよい。前記乾燥ガスのスプレー乾燥機中での入口温度は有利には、前記溶媒の蒸発により冷却された乾燥ガスの出口温度が、長期間200℃を超えないように選択される。通常は、前記乾燥ガスの出口温度は50〜150℃、有利には80〜140℃に調整される。
【0028】
とりわけ有利な一実施態様において、前記バナジウム化合物の溶液を、前記元素Qの供給源及び場合により前記金属Mの供給源と反応させ、この得られた溶液の流を連続的に前記銀塩溶液の流と混合し、この混合した流をスプレー乾燥する。
【0029】
前記多金属酸化物の保存が意図されていない場合には、前記の得られた多金属酸化物懸濁物をまた、前記多金属酸化物の事前の単離及び乾燥なしに、更なる使用に供給してもよく、例えば被覆による本発明によるプレ触媒(Praekatalysator)の製造のために供給してよい。
【0030】
本発明による多金属酸化物は、前駆体化合物として、触媒の触媒活性のある材料の製造のために使用され、例えばこれは、芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸、及び/又はカルボン酸無水物への、分子酸素含有ガスを用いた気相酸化のために使用される。
【0031】
また、本発明による多金属酸化物が有利には、いわゆるシェル触媒(Schalenkatalysator)の製造のために使用される場合にも、これは前駆体化合物として、市販の担持触媒又は完全触媒(Vollkatalysator)−即ち担体材料を含有しない−の製造のためにも使用されてよい。
【0032】
本発明による多金属酸化物からの、芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物への部分酸化のための触媒の製造は、目的に応じて、本発明による「プレ触媒」(これはプレ触媒自体として保存及び取り扱いされてよい)の段階を介して行われ、かつ前記プレ触媒から活性のある触媒を、熱処理により製造するか、又はin situで酸化反応器中で、酸化反応の条件下で製造してよい。
【0033】
前記プレ触媒とは従って、前記触媒に変換可能である、触媒の前段階であり、不活性な非多孔性担体材料及び前記担体上に設けられた少なくとも1つの層からなり、前記層は式(I)による多金属酸化物を含有する。前記層は有利には、前記担体材料上にシェル状に設けられ、かつ、前記層の総質量に対して、有利には30〜100質量%、特に50〜100質量%の式(I)による多金属酸化物を含有する。特に有利には前記層は完全に、式(I)による多金属酸化物からなる。
【0034】
式(I)による多金属酸化物の他に前記触媒活性のある層がまだ更なる成分を含有する場合には、前記成分は例えば、不活性材料、例えば炭化ケイ素又はステアタイト、又はバナジウム酸化物/アナターゼベースの芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸、及び/又はカルボン酸無水物への酸化のためのその他の公知の触媒であってもよい。有利には、前記プレ触媒は、前記プレ触媒の総質量に対して、5〜25質量%の多金属酸化物を含有する。
【0035】
本発明によるプレ触媒のための不活性な非多孔性担体材料として、公知技術の実質的に全ての担体材料、例えば有利には、芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸、及び/又はカルボン酸無水物への酸化のためのシェル触媒の製造の際に使用される担体材料が使用され、例えば石英(SiO2)、磁器、酸化マグネシウム、二酸化スズ、炭化ケイ素、ルチル、アルミナ(Al23)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸セリウム、又はこれらの担体材料の混合物が使用される。「非多孔性」との表現はこの際、「技術的に非作用性の孔の量までの非多孔性」の意味合いにおいて理解されるべきであり、というのも技術的に不可避である程のわずかな数の孔が、理想的には全く孔を含まないことが望ましい担体材料に存在する可能性があるからである。有利な担体材料として、特にステアタイト及び炭化ケイ素が有利である。前記担体材料の形は本発明によるプレ触媒にとっては一般的に重要ではない。例えば、球体、リング、タブレット、らせん、管、押出物、又は破砕物の形において触媒担体を使用してよい。前記触媒担体の寸法は、通常は、芳香族炭化水素の気相部分酸化のためのシェル触媒の製造のために使用される触媒担体に相応する。前記担体材料は、粉体の形で、本発明によるシェルプレ触媒の触媒活性のある材料に添加混合してもよい。
【0036】
不活性担体材料の本発明による多金属酸化物を用いたシェル状被覆のために、公知技術の公知である方法が原則的に適用されてよい。例えば、前記バナジウム化合物と前記元素Qの供給源、前記銀化合物及び場合により前記金属成分Mの化合物との反応の際に得られる懸濁物を、DE−A1692938及びDE−A1769998の方法により、加熱したコーティングドラム中で、高温で、不活性担体材料からなる触媒担体に対して、前記プレ触媒の総質量に対する多金属酸化物の所望の量が達成されるまで吹き付ける。コーティングドラムの代わりに、DE−A2106796と同様に流動層コーター(例えばこれは、DE−A1280756に記載されている)をも、本発明による多金属酸化物の前記触媒担体上へのシェル状の設置のために使用してよい。本発明による多金属酸化物の得られた懸濁物の代わりに、特に有利には、本発明による多金属酸化物の単離及び乾燥後に得られた粉体のスラリーを前記被覆方法の際に使用してよい。EP−A744214と同様に、本発明による多金属酸化物の懸濁物(例えばこれは、本発明による多金属酸化物の製造の際に生じる)又は本発明による、乾燥した多金属酸化物の粉体のスラリーを、水、有機溶媒、例えば高級アルコール、多価アルコール、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール又はグリセリン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、又は環式尿素、例えばN,N’−ジメチルエチレン尿素、又はN,N’−ジメチルプロピレン尿素に、又は前記有機溶媒と水との混合物、有機結合剤、有利にはコポリマーに溶解させるか、又は有利には水性分散物の形で添加し、その際一般的には、本発明による多金属酸化物の懸濁物又はスラリーの固体含量に対して10〜20質量%の結合剤含量が適用される。適した結合剤は、例えばビニルアセタート/ビニルラウラート−、ビニルアセタート/アクリラート−、スチレン/アクリラート−、ビニルアセタート/マレアート−、又はビニルアセタート/エチレン−コポリマーである。結合剤として有機溶媒中の溶液中の有機コポリマー−ポリエステル、例えばアクリラート/ジカルボン酸無水物/アルカノールアミンをベースとする有機コポリマー−ポリエステルを、本発明による多金属酸化物のスラリーに添加する場合には、DE−A19823262.4の教示と同様に、結合剤の含量を、前記懸濁物又はスラリーの固体含量に対して、1〜10質量%に減少してよい。
【0037】
前記触媒担体の本発明による多金属酸化物を用いた被覆では、一般的には20〜500℃の被覆温度が適用され、その際この被覆は、前記被覆装置中で、雰囲気圧力下又は減圧下で行われてよい。本発明によるプレ触媒の製造のために、前記被覆を一般的には0〜200℃、有利には20〜150℃、特に室温〜100℃で実施する。前記触媒担体の本発明による多金属酸化物の湿潤懸濁物を用いた被覆の際に、目的に応じて、より高い被覆温度、例えば200〜500℃の温度を適用してよい。前述のより低い温度では、ポリマー結合剤の前記被覆の際の使用の際には、前記結合剤の一部が、前記触媒担体上に設けられた層中に残留する。
【0038】
前記プレ触媒のシェル触媒への、200〜500℃での熱処理による後の変換の際に、前記結合剤は、熱分解及び/又は燃焼により前記の設けられた層から消失する。前記プレ触媒のシェル触媒への変換はまた、500℃を上回る温度、例えば650℃までの温度での熱処理により行われてもよく、有利には前記熱処理は、200〜500℃、特に300〜450℃の温度で実施される。
【0039】
200℃を上回る、特に300℃を上回る温度では、本発明による多金属酸化物は触媒活性のある銀−バナジウム酸化物−ブロンズの形成下で分解する。銀−バナジウム酸化物−ブロンズとは、1よりも少ない原子状Ag:V割合を有する銀−バナジウム酸化物化合物が理解される。一般的に、前記化合物は、半導電性の又は金属導電性の酸化物固体であり、これは有利には層状構造又はトンネル構造に結晶化し、その際[V25]ホスト格子中の前記バナジウムは部分的に、V(IV)へと還元されて存在する。
【0040】
高温の被覆温度では相応して、既に、前記触媒担体上に設けられた多金属酸化物の一部は、触媒活性のある銀−バナジウム酸化物−ブロンズ及び/又はその構造に関して結晶学的に明確にされていない銀−バナジウム酸化物−化合物へと分解してよく、その際前記化合物は前記銀−バナジウム酸化物−ブロンズに変換可能である。300〜500℃の被覆温度では、前記分解は実質的に完全に終了し、従って300〜500℃での被覆では、前記の完成したシェル触媒は、前記プレ触媒の前段階を経ることなく得られてよい。
【0041】
本発明によるプレ触媒の200〜650℃、有利には250〜500℃、特に300〜450℃の温度での熱処理の際には、プレ触媒中に含有される多金属酸化物は銀−バナジウム酸化物−ブロンズへと分解する。プレ触媒中に含有される本発明による多金属酸化物の銀−バナジウム酸化物−ブロンズへの変換は、完成したシェル触媒の代わりに本発明によるプレ触媒がこの変換の際に使用される場合には、特に、芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸、及び/又はカルボン酸無水物への気相部分酸化のためのin situ反応器中で、例えばo−キシレン及び/又はナフタレンからの無水フタル酸の製造のための反応器中で、この際一般的な適用温度300〜450℃で行われてもよい。本発明による多金属酸化物の銀−バナジウム酸化物−ブロンズへの前記変換の終了時までに、この際通常はシェル触媒の選択性の一定の上昇が観察されるものである。この際生じる銀−バナジウム酸化物−ブロンズは従って、前記の完成したシェル触媒の触媒活性のある層の触媒活性成分である。
【0042】
前記の本発明による多金属酸化物の銀−バナジウム酸化物−ブロンズへの熱による変換は、一連の還元反応及び酸化反応を経、前記反応は単独では理解されていない。
【0043】
シェル触媒の製造のためのその他の可能性は、本発明による多金属酸化物粉体の200〜650℃の温度での熱処理及び、前記の不活性な非多孔性触媒担体の被覆であって、場合により結合剤の添加下でのこの際得られた銀−バナジウム酸化物−ブロンズを用いた被覆からなる。
【0044】
特に有利には、前記シェル触媒は本発明によるプレ触媒から一工程で、又は場合により、熱処理後に流れにおいて又は前記触媒担体の被覆後に、多工程で、特に一工程で、そのつどin situで酸化反応器中で芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物への酸化の条件下で製造されてよい。
【0045】
本発明の更なる対象は従って、不活性な非多孔性担体及び前記担体上に設けられた少なくとも1つの層からなり、前記層が、触媒活性のある材料として銀−バナジウム酸化物−ブロンズを含有する、芳香族炭化水素の気相部分酸化のための触媒の製造方法であって、本発明によるプレ触媒の熱処理による、触媒の製造方法である。
【0046】
このように得られた触媒は芳香族又は複素芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸、及び/又はカルボン酸無水物の部分酸化のために、特にo−キシレン及び/又はナフタレンから無水フタル酸への、トルエンから安息香酸及び/又はベンズアルデヒドへの、又はメチルピリジン、例えばβ−ピコリン酸からピリジンカルボン酸、例えばニコチン酸への分子酸素含有気体を用いた気相部分酸化のために使用される。前記触媒はこの目的のために単独で又はその他の相違する活性のある触媒、例えばバナジウム酸化物/アナターゼベースの触媒との組み合わせにおいて使用されてよく、その際前記の相違する触媒は一般的には、反応器中で、別個の触媒充填物(前記充填物は1つ又は複数の触媒固定層に配置されていてよい)中に配置されている。
【0047】
本発明による多金属酸化物から製造可能である銀−バナジウム酸化物−ブロンズのBET表面積、結晶学的構造、及びバナジウム−酸化段階は、実質的に公知の銀−バナジウム酸化物−ブロンズのものと比較可能である。
【0048】
実施例
A 多金属酸化物の製造
A.1 Ag0.732x(比較例)60℃の7lの完全脱塩水中に102gのV25(0.56モル)を撹拌下で添加した。この得られた橙色の懸濁物に、更なる撹拌下で1lの水中の69.5gのAgNO3(0.409モル)水溶液を添加した。引き続きこの得られた懸濁物の温度を2時間90℃に加熱し、この混合物をこの温度で24時間撹拌した。この後で、この得られた暗褐色懸濁物を冷却させ、スプレー乾燥した(入口温度(空気)=350℃、出口温度(空気)=110℃)。
【0049】
この得られた粉体はBET比表面積56m2/g、及び5のバナジウム−酸化段階を有した。得られた粉体から、粉末X線回折を、Siemens社の回折装置D5000を用いてCu−Kα−線(40kV、30mA)の適用下で実施した。前記回折装置は、自動の第一開口部系及び第二開口部系、並びに第二モノクロメーター及びシンチレーター検出器を備える。粉末X線回折図から、以下の格子面間隔d[Å]が、これに属する相対強度Irel[%]と共に算出される: 15.04(11.9), 11.99 (8.5), 10.66 (15.1), 5.05 (12.5), 4.35 (23), 3.85 (16.9), 3.41 (62.6), 3.09 (55.1), 3.02 (100), 2.58 (23.8), 2.48 (27.7), 2.42(25.1), 2.36 (34.2), 2.04 (26.4), 1.93 (33.2), 1.80 (35.1), 1.55 (37.8)。
【0050】
A.2 Ag7PV1236・xH2O(本発明による)
30℃の6lの完全脱塩水中に144.4gのメタバナジン酸アンモニウム(1.2モル)を撹拌下で添加し、90℃で溶解させた。この得られた黄色溶液に、更なる撹拌下で11.5gのリン酸(0.1モル、85質量%)及びの118.9gのAgNO3(0.7モル)の水溶液0.2lを添加した。引き続きこの得られた赤褐色の懸濁物の温度を2時間90℃に加熱し、この混合物をこの温度で10時間撹拌した。この後で、この得られた暗褐色懸濁物を冷却させ、スプレー乾燥した(入口温度(空気)=370℃、出口温度(空気)=100℃)。
【0051】
この得られた粉体はBET比表面積14m2/g、及び5のバナジウム−酸化段階を有した。得られた粉体から、粉末X線回折を実施した。粉末X線回折図から、以下の格子面間隔d[ű0.04]が、これに属する相対強度Irel[%]と共に算出される: 7.13 (18.6), 5.52 (19.3), 5.14 (43.7), 3.57 (33.0), 3.25 (73.4), 2.83(64.1 ), 2.79 (100), 2.73(85.1 ), 2.23 (31.4), 1.71 (46.4)。
【0052】
A.3 Ag7PV1236・xH2O(本発明による)
30℃の5lの完全脱塩水中に144.4gのメタバナジン酸アンモニウム(1.20モル)を撹拌下で添加し、90℃で溶解させた。この得られた黄色溶液に更なる撹拌下で11.5gのリン酸(0.1モル、85質量%)を添加した。引き続きこの得られた赤褐色の溶液の温度を2時間90℃に加熱し、この混合物をこの温度で5時間撹拌した。この後で、得られた赤褐色の溶液を冷却した。118.9gのAgNO3(0.7モル)の第二の水溶液5lを別個に調製した。この両方の溶液を、管型混合機(Schlauchmischer)を用いて一緒にスプレー乾燥した(入口温度(空気)=370℃、出口温度(空気)=100℃)。
【0053】
この得られた粉体は、BET比表面積24m2/g及び5のバナジウム−酸化段階を有した。得られた粉体に粉末X線回折を実施した。この粉末X線回折図から、以下の格子面間隔d[ű0.04]が、これに属する相対強度Irel[%]と共に算出される: 7.13 (17.9), 5.53 (15.0), 5.15 (48.4), 3.57 (34.7), 3.25 (80.2), 2.83 (64.2), 2.79 (100), 2.73 (88.8), 2.23 (30.1), 1.72 (53.2)。
【0054】
B プレ触媒の製造
Cで実施する、芳香族炭化水素の部分酸化のための多金属酸化物の使用のために、製造された粉体A1、A2、又はA3を、以下のようにケイ酸マグネシウム球体上に設けた:3.5〜4mmの直径を有する300gのステアタイト球体を、コーティングドラム中で20℃で、20分間、40gのそれぞれの粉体及び4.4gのシュウ酸を用いて、60質量%の水及び40質量%のグリセリンを含有する混合物35.5gの添加下で被覆し、引き続き乾燥させた。この設けられた触媒活性材料の質量は、この得られたプレ触媒の試料に関して測定すると、1時間の400℃での熱処理により、この完成した触媒の総質量に対して10質量%であった。
【0055】
C o−キシレンの無水フタル酸への酸化
16mmの内径を有するそれぞれ80cmの長さの鉄管中に、Bにより製造されたプレ触媒A.1、A.2、又はA.3(被覆されたステアタイト球体)を、66cmの層高さまで充填した。前記鉄管を、温度制御のために電熱マンテルで取り囲んだ。前記管を通じて、上方から下方に、350℃で360Nl/hの空気を60gのo−キシレン/Nm3空気の98.5質量%のo−キシレンの負荷でもって導通した。以下の表2には、この得られた結果がまとめられている。
【0056】
第2表
【表2】

【0057】
1)「COx選択率」は、燃焼生成物(CO、CO2)へと変換されるo−キシレンの割合に相応する;
100%までの残りの選択率は、目的生成物、無水フタル酸、及び中間生成物、o−トリルアルデヒド、o−トリル酸、及びフタリド、並びに副生成物、例えば無水マレイン酸、シトラコン酸無水物、及び安息香酸へと変換されるo−キシレンの割合に相応する。
【0058】
触媒A.1の使用後の試料(Ausbauprobe)に関して、この活性材料のBET表面積6.7m2/g及び4.63のバナジウム−酸化段階が算出された。この粉末X線回折図から、以下の格子面間隔d[Å]が、これに属する相対強度Irel[%]と共に算出される: 4.85 (9.8), 3.50 (14.8), 3.25 (39.9), 2.93 (100), 2.78 (36.2), 2.55 (35.3), 2.43 (18.6), 1.97 (15.2), 1.95 (28.1), 1.86 (16.5), 1.83 (37.5), 1.52 (23.5)。
【0059】
触媒A.2及びA.3の使用後の試料は、類似の粉末X線回折図を示し、このBET表面積はそのつど約6m2/g及びバナジウム−酸化段階は4.69であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[前記式中、
aは3〜10の値を有し、
Qは、P、As、Sb、及び/又はBiから選択された元素であり、
bは、0.2〜3の値を有し、
Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、Tl、Mg、Ca、Sr、Ba、Cu、Zn、Cd、Pb、Cr、Au、Al、Fe、Co、Ni、Ce、Mn、Nb、W、Ta及び/又はMoから選択された金属であり、
cは、0〜3の値を有し、但し(a−c)≧0.1であるとの条件付きである、
dは、式(I)中の酸素とは相違する元素の原子価及び頻度により決定される数を表し、かつ
eは、0〜20の値を有する]の多金属酸化物であって、
粉末X線回折図が、少なくとも5つの、d=7.13;5.52;5.14;3.57;3.25;2.83;2.79;2.73;2.23及び1.71Å(±0.04Å)から選択される格子面間隔での回折反射により特徴付けられる結晶構造にある、多金属酸化物。
【請求項2】
aが、5〜9の値を有し、かつcが0の値を有する、請求項1記載の多金属酸化物。
【請求項3】
bが、0.5〜1.5の値を有する、請求項1又は2記載の多金属酸化物。
【請求項4】
QがPである、請求項1から3までのいずれか1項記載の多金属酸化物。
【請求項5】
3〜100m2/gのBETによる比表面積を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の多金属酸化物。
【請求項6】
芳香族炭化水素の気相部分酸化のためのプレ触媒及び触媒の製造のための請求項1から5までのいずれか1項記載の多金属酸化物の使用。
【請求項7】
芳香族炭化水素の気相部分酸化のための触媒に変換可能であるプレ触媒であって、不活性な非多孔性担体及び前記担体上に設けられた少なくとも1つの層からなり、前記層が、請求項1から5までのいずれか1項記載の多金属酸化物を含有する、プレ触媒。
【請求項8】
前記プレ触媒の総質量に対して、5〜25質量%の多金属酸化物を含有する、請求項7記載のプレ触媒。
【請求項9】
不活性な非多孔性担体材料がステアタイトからなる、請求項7又は8記載のプレ触媒。
【請求項10】
請求項1から5までのいずれか1項記載の多金属酸化物の製造方法であって、
(i)少なくとも1つの水溶性バナジウム化合物の水溶液を製造し、かつ
(ii)前記のバナジウム化合物の溶液を、銀塩溶液及び元素Qの供給源、並びに場合により金属Mの供給源と反応させる、
多金属酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記水溶性バナジウム化合物が、NaVO3及び/又は(NH4)VO3を含有する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記のバナジウム化合物の溶液を、前記元素Qの供給源及び場合により前記金属Mの供給源と反応させ、この得られた溶液の流を連続的に前記銀塩溶液の流と混合し、この混合した流をスプレー乾燥する、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
不活性な非多孔性担体及び前記担体上に設けられた少なくとも1つの層からなり、前記層が触媒活性のある材料として銀−バナジウム酸化物−ブロンズを含有する、芳香族炭化水素の気相部分酸化のための触媒の製造方法であって、請求項7から9までのいずれか1項記載のプレ触媒の熱処理による、触媒の製造方法。

【公表番号】特表2008−502567(P2008−502567A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515860(P2007−515860)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006366
【国際公開番号】WO2005/123596
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】