説明

銀微粒子の製造方法

【課題】銀イオン等を還元して銀微粒子を製造する方法において、還元剤の酸化により生じる有機不純物を除去した不純物炭素残量の少ない銀微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させた銀微粒子を含むスラリーを濾過脱水し、乾燥解砕して銀微粒子を製造する方法において、銀微粒子スラリーを酸化剤を含む溶液で薬液洗浄することによって有機酸化物を除去し、炭素含有量を低減することを特徴とする銀微粒子の製造方法であり、好ましくは、溶液中の標準酸化還元電位が0.2V以上である酸化剤を用い、銀微粒子スラリーの炭素含有量が1.5mg/m2以下になるまで薬液洗浄を行う銀微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物残量の少ない銀微粒子の製造方法に関し、より詳しくは、銀イオン等を還元して銀微粒子を製造する方法において、還元剤の酸化による有機不純物を除去した不純物炭素残量の少ない銀微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀含有溶液に還元剤と添加して銀イオン等を還元して球状銀微粒子を製造する方法において、還元剤にピロガロール、ヒドロキノン、ジヒドロキシトルエンなどのベンゼン環にOH基を複数持つものが選択されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、還元剤溶液として亜硫酸アンモニウムとアンモニア水とヒドロキノンとの混合溶液を用い、銀イオンを含む溶液として硝酸銀溶液を用い、還元剤溶液に銀イオンを含む溶液を添加して銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、硝酸銀溶液にアンモニア水を添加して銀アンミン錯体溶液を形成した後に、還元剤を添加する際に、還元剤を20秒以内に混合することによってBET比表面積0.25m2/g以上の微細銀粒子を析出させる方法が記載されている。
【0004】
これら製造方法では、上記還元剤を用いた場合、還元剤の酸化体が有機不純物として銀微粒子に残留する。そこで、特許文献3では、銀イオン溶液に還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させ、固液分離して水洗浄した後に、さらにアルカリ液、水溶液強還元液、またはアミド系溶剤を用いて薬液洗浄することによって、有機物不純物を低減する銀微粒子の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−92612号公報
【特許文献2】特開2001−107101号公報
【特許文献3】特開2008−297589号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Electrochemical Society, 153(1) D1-D9 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銀微粒子に残留する有機不純物を取り除く方法の一つとして、アルカリ等の薬剤洗浄による除去方法が知られている。しかし、アルカリ等の薬剤を用いる洗浄方法では、有機不純物量を粒子単位表面積あたり2.0mg/m2以下に低減することが難しい。これは還元剤の酸化体が水に難溶であることに起因している。
【0008】
本発明は、従来の製造方法における上記問題を解決したものであり、銀イオン等を還元して銀微粒子を製造する方法において、還元剤の酸化による有機不純物を除去した不純物炭素残量の少ない銀微粒子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の構成によって上記課題を解決した銀微粒子の製造方法が提供される。
〔1〕溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させた銀微粒子を含むスラリーを濾過脱水し、乾燥解砕して銀微粒子を製造する方法において、銀微粒子スラリーを酸化剤を含む溶液で薬液洗浄することによって有機酸化物を除去し、炭素含有量を低減することを特徴とする銀微粒子の製造方法。
〔2〕溶液中の標準酸化還元電位が0.2V以上である酸化剤を用いる上記[1]に記載する銀微粒子の製造方法。
〔3〕銀微粒子スラリーに純水を添加して攪拌し、固液分離して上澄み液を除去する水洗浄を上澄み液の着色が消えるまで繰り返し、この水洗後、酸化剤を含む溶液を銀微粒子スラリーに添加して攪拌し、固液分離して上澄み液を除去する薬液洗浄を上澄み液の着色が消えるまで繰り返す上記[1]または上記[2]に記載する銀微粒子の製造方法。
〔4〕銀微粒子スラリーの炭素含有量が1.5mg/m2以下になるまで薬液洗浄を行う上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する銀微粒子の製造方法。
〔5〕炭素含有量が1.5mg/m2以下の銀微粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させた銀微粒子を含むスラリーから銀微粒子を回収する製造方法において、銀微粒子スラリーを酸化剤を含む溶液で薬液洗浄するので、銀の還元に用いたヒドロキノンなどの有機還元剤が酸化物に変化してスラリーに残留している場合でも、これらの有機酸化物が酸化剤によって分解されるので、不純物炭素量の少ない銀微粒子を得ることができる。
【0011】
本発明の方法によれば、具体的には、銀微粒子を水洗浄した後に、酸化剤を含む溶液で薬液洗浄を行うことによって、炭素含有量が1.5mg/m2以下の銀微粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の製造方法は、溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させた銀微粒子を含むスラリーを濾過脱水し、乾燥解砕して銀微粒子を製造する方法において、銀微粒子スラリーを酸化剤を含む溶液で薬液洗浄することによって有機酸化物を除去し、炭素含有量を低減することを特徴とする銀微粒子の製造方法である。
【0013】
〔銀微粒子スラリー〕
溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させた銀微粒子を含むスラリーは、例えば、硝酸銀溶液にアンモニア水を加えて銀アンミン錯体水溶液を調製し、これにヒドロキノンなどの有機還元剤を添加し、銀微粒子を還元析出させ、銀微粒子が分散したスラリーを得ることができる。この銀微粒子スラリーは、例えば、平均粒子径0.1μm〜1.0μmの銀微粒子のスラリーである。
【0014】
本発明の処理方法は、有機還元剤としてヒドロキノン、ピロガロール、3,4-ジヒドロキシルトルエンのようにフェノール基を有する有機還元剤を用いた銀微粒子スラリーに対して特に効果が良い。
【0015】
〔水洗浄〕
溶液中の銀を還元して銀微粒子スラリーを形成した後に、該スラリーを水洗して残留物を除去する。具体的には、銀微粒子スラリーに純水を添加して攪拌し、固液分離して上澄み液を除去する操作を、上澄み液の着色が消えるまで繰り返すのが好ましい。水洗浄の初期には上澄み液に不純物が含まれているので、着色した上澄み液になるが、水洗浄を繰り返すことによって上澄み液に含まれる不純物が少なくなり、着色が薄くなる。上澄み液の着色が消えるまで水洗浄を繰り返すとよい。
【0016】
〔薬液洗浄〕
水洗浄の後に酸化剤を含む溶液で薬液洗浄を行う。溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させる場合、例えば、還元剤としてヒドロキノンを用いると、ヒドロキノン自身は酸化されてベンゾキノンに変化する。このヘンゾキノンは水に溶解し難いので、銀微粒子を含むスラリーの水洗浄を繰り返しても有機酸化物のベンゾキノンを十分に除去するのが難しい。
【0017】
そこで、本発明の処理方法は、酸化剤を含む溶液で薬液洗浄することによって銀微粒子スラリーに残留する有機酸化物を除去する。例えば、ヒドロキノンが酸化して生じたベンゾキノンは酸化剤によって水に溶けやすいカルボン酸類に酸化分解されるので、洗浄効果が向上する。
【0018】
酸化剤は、溶液中の標準酸化還元電位が0.2V以上(25℃、vsNHE)であるものが適当である。具体的には、例えば、過酸化水素、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、過マンガン酸塩、ニクロム酸塩などを用いることができる。
【0019】
溶液中の酸化剤の濃度は、例えば、過酸化水素0.02〜35wt%、次亜塩素酸0.08〜10wt%、次亜塩素酸ナトリウム0.07〜25wt%、過マンガン酸カリウム0.2〜5wt%、ニクロム酸カリウム0.3〜10wt%が好ましい。
【0020】
銀微粒子スラリーの水洗後、上記酸化剤を含む溶液を銀微粒子スラリーに添加して攪拌し、固液分離して上澄み液を除去する。上澄み液の着色が消えるまで薬液洗浄を繰り返すことによって、銀微粒子スラリーの炭素含有量を1.5mg/m2以下に低減することができる。
【0021】
〔脱水乾燥処理〕
薬液洗浄の後に銀微粒子スラリーを濾過脱水し、濾過ケーキを回収する。濾過ケーキを乾燥してさらに脱水する。乾燥処理は熱風乾燥または真空乾燥の何れでもよい。熱風乾燥は30〜100℃の熱風下に凍結物を置けばよい。乾燥時間は処理量に応じて定めればよい。
【0022】
〔銀微粒子〕
本発明の処理方法によれば、有機還元剤としてヒドロキノン、ピロガロール、3,4-ジヒドロキシルトルエンのようにフェノール基を有する有機還元剤を用いて生成した銀微粒子スラリーから炭素含有量1.5mg/m2以下の銀微粒子を回収することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。各例において、銀微粒子スラリーは、アンモニア水を加えた硝酸銀溶液にヒドロキノン液を添加して銀微粒子を還元析出させ、これを回収して洗浄し、含液率14.0%に調製したものを用いた。該スラリーの銀微粒子は体積平均粒径0.8μmであり、残留炭素濃度は2.6mg/m2である。
【0024】
〔実施例1〕
銀微粒子スラリー50gにイオン交換水400mlを加え、3分間攪拌した後に、遠心分離を行って固液分離し、上澄み液を除去した。この水洗浄を上澄み液が無色透明になるまで繰り返した。次いで、表1に示す酸化剤を含有する溶液を用い、該溶液400mlを水洗後の銀微粒子スラリーに加え、3分間攪拌した後に、遠心分離を行って固液分離し、上澄み液を除去した。この水洗浄を上澄み液が無色透明になるまで繰り返した。この薬液洗浄の後に、銀微粒子スラリーを濾過脱水し、50℃の熱風に18時間さらして乾燥した。回収した銀微粒子の炭素残量を表1に示した。
【0025】
〔比較例1〕
酸化剤に代えて、表1に示す化合物を用いたほかは実施例1と同様にして銀微粒子スラリーの洗浄を行った(B2〜B5)。この結果を表2に示した。また、薬液洗浄を行わない例を示す(B1)。
【0026】
表1および表2の上澄みの着色状態は薬液洗浄初期の状態である。表1に示すように、本発明の処理方法では薬液洗浄初期の上澄みは着色を有し、洗浄効果があることを示している。上澄みの着色がなくなるまで薬液洗浄を繰り返す。一方。表2に示すように、比較例では、薬液洗浄しても上澄みの着色は薄く、洗浄効果が乏しい。
【0027】
また、表1に示すように、酸化剤を含む溶液を用いて薬液洗浄を行った本発明の実施例の試料(A1〜A19)は銀微粒子の炭素残留濃度が低減しており、酸化剤の好ましい濃度範囲において、銀微粒子の炭素残留濃度は何れも1.5mg/m2以下である。一方、表2に示すように、比較試料(B1〜B5)は銀微粒子の有機物が殆ど除去されていない。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の銀を有機還元剤によって還元析出させた銀微粒子を含むスラリーを濾過脱水し、乾燥解砕して銀微粒子を製造する方法において、銀微粒子スラリーを酸化剤を含む溶液で薬液洗浄することによって有機酸化物を除去し、炭素含有量を低減することを特徴とする銀微粒子の製造方法。
【請求項2】
溶液中の標準酸化還元電位が0.2V以上である酸化剤を用いる請求項1に記載する銀微粒子の製造方法。
【請求項3】
銀微粒子スラリーに純水を添加して攪拌し、固液分離して上澄み液を除去する水洗浄を上澄み液の着色が消えるまで繰り返し、この水洗後、酸化剤を含む溶液を銀微粒子スラリーに添加して攪拌し、固液分離して上澄み液を除去する薬液洗浄を上澄み液の着色が消えるまで繰り返す請求項1または請求項2に記載する銀微粒子の製造方法。
【請求項4】
銀微粒子スラリーの炭素含有量が1.5mg/m2以下になるまで薬液洗浄を行う請求項1〜請求項3の何れかに記載する銀微粒子の製造方法。
【請求項5】
炭素含有量が1.5mg/m2以下の銀微粒子。