説明

銀粒子分散液およびその製造方法

【課題】シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、煩雑な熱処理工程を必要とせず、300℃以下の比較的低温で焼成しても、ガラス基板や樹脂基板などの基板との密着性が良好な塗膜を形成することができる銀粒子分散液およびその製造方法を提供する。
【解決手段】反応媒体および還元剤としての沸点が80〜200℃のアルコールまたは沸点が150〜300℃のポリオール中において、有機保護剤としての沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物との共存下で、80〜200℃の温度で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粒子分散液およびその製造方法に関し、特に、銀微粒子が液状有機媒体中に分散した銀粒子分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品などの電極や回路を形成する方法として、銀粉などの金属粉末をガラスフリットや無機酸化物とともに有機ビヒクル中に分散させたペーストを印刷やディッピングなどによって基板上に所定のパターンに形成した後、500℃以上の温度で加熱することによって、有機成分を除去し、銀粒子などの金属粒子同士を焼結させて導体(配線)を形成する所謂厚膜ペースト法が広く用いられている。このような厚膜ペースト法によって形成された配線と基板との密着性は、焼成工程において軟化して流動したガラスフリットが基板を濡らすことによって、また、配線を形成する金属の焼結膜中にも軟化して流動したガラスフリットが浸透すること(ガラスボンド)によって確保される。また、アルミナ基板を使用する場合には、酸化銅や酸化カドミウムなどの無機酸化物がアルミナ基板と反応性酸化物を形成すること(ケミカルボンド)によって、配線と基板との密着性が確保される。
【0003】
また、金属粒子の粒径が数nm程度になると、比表面積が非常に大きくなって、融点が劇的に低下する。そのため、数μm程度の粒径の金属粒子を使用して配線を形成する場合と比べて、微細な配線の描画が可能になるだけでなく、低温で焼成することによって金属粒子同士を焼結させることもできる。特に、金属粒子の中でも銀粒子は、低抵抗で且つ高い耐候性を有し、他の貴金属と比べて安価であることから、微細な幅の配線材料として期待されている。
【0004】
従来の厚膜ペースト法で数μm程度の粒径の銀粒子を使用した場合と比べて、数nm程度の粒径の銀粒子を使用した場合には、300℃以下の低温で焼結することができる。300℃より高い温度で焼成することもできるが、高温で焼成する場合には、電極や回路を形成する基板の耐熱性による制約により、使用可能な基板の種類が限定されるだけでなく、数nm程度の粒径の銀粒子を使用することによる利点(低温で焼結させることができるという利点)が得られなくなる。特に、焼成温度を低くすることができる程、使用可能な基板の種類を増やすことができる。
【0005】
また、300℃以下の低い温度で焼成する場合には、従来の厚膜ペースト法と同様にガラスフリットを添加しても、ガラスフリットが軟化・流動しないので、基板を濡らすことがなく、その結果、基板に対する金属薄膜(配線)の密着性が悪くなるという問題がある。特に、ガラス基板やポリイミドフィルムなどの樹脂基板との金属薄膜の密着性が悪くなる。
【0006】
300℃以下の比較的低温で焼結した場合の金属薄膜と基板との密着性を向上させる方法として、有機溶剤に金属微粒子が分散した金属微粒子分散液およびシランカップリング剤を含むペーストをガラス基板上に塗布して、250〜300℃の温度で焼成することによってガラス基板上に金属薄膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、平均粒子径0.5〜20μmの金属フィラーと平均粒子径1〜100nmの金属微粒子を熱硬化性樹脂中に分散させて導電性金属ペーストを形成する方法(例えば、特許文献2参照)、金属元素とこの金属元素より酸化性の高い酸化性金属元素との合金または複合体からなる金属微粒子を含む塗膜を酸化性雰囲気中で熱処理した後に還元性雰囲気で再度熱処理する方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−179125号公報(段落番号0013)
【特許文献2】WO2002/035554号公報(第6−10頁)
【特許文献3】特開2006−210197号公報(段落番号0015−0031)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、ペーストにシランカップリング剤を添加しているので、ペーストの粘度が経時変化するという問題がある。また、特許文献2の方法では、ペーストに熱硬化性樹脂を使用しているので、このペーストを使用して形成した配線上に有機物が残存して誘電体層を形成すると、この配線を真空雰囲気中に配置した場合に、有機成分の脱離による誘電体層の膨れや真空雰囲気の環境汚染などによる回路の信頼性が低下することが懸念され、また、ペーストが樹脂を含んでいるために、ペーストの粘度を低くするのが困難であるという問題がある。さらに、特許文献3の方法では、塗膜を酸化性雰囲気中で熱処理した後に還元性雰囲気中で再度熱処理する必要があるので、操作が煩雑で、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、煩雑な熱処理工程を必要とせず、300℃以下の比較的低温で焼成しても、ガラス基板や樹脂基板などの基板との密着性が良好な塗膜を形成することができる銀粒子分散液およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルコールまたはポリオール中において、沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物の共存下で、80〜200℃の温度で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させることによって、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、煩雑な熱処理工程を必要とせず、300℃以下の比較的低温で焼成しても、ガラス基板や樹脂基板などの基板との密着性が良好な塗膜を形成することができる銀粒子分散液を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による銀粒子分散液の製造方法は、アルコールまたはポリオール中において、沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物の共存下で、80〜200℃の温度で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させることを特徴とする。この銀粒子分散液の製造方法において、アルコールの沸点が80〜200℃であり、ポリオールの沸点が150〜300℃であるのが好ましい。また、脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方が1分子中に1個以上の不飽和結合を有するのが好ましく、脂肪酸化合物およびアミン化合物が分子量100〜1000の化合物であるのが好ましい。さらに、還元処理の際に還元補助剤として第2級アミンおよび第3級アミンの少なくとも一方を添加するのが好ましい。
【0012】
また、本発明による銀粒子分散液は、沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物とからなる有機保護剤を含む銀粒子が液状有機媒体中に分散していることを特徴とする。この銀粒子分散液において、脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方が、1分子中に1個以上の不飽和結合を有するのが好ましい。また、脂肪酸化合物およびアミン化合物が分子量100〜1000の化合物であるのが好ましい。また、銀粒子中の有機保護剤の割合が5〜40質量%であるのが好ましい。さらに、銀粒子の平均粒径(DTEM)が20nm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、煩雑な熱処理工程を必要とせず、300℃以下の比較的低温で焼成しても、ガラス基板や樹脂基板などの基板との密着性が良好な塗膜を形成することができる銀粒子分散液を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による銀粒子分散液の製造方法の実施の形態では、反応媒体および還元剤としての沸点が80〜200℃、好ましくは85〜150℃のアルコールまたは沸点が150〜300℃のポリオール中において、有機保護剤としての沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物との共存下で、80〜200℃、好ましくは85〜150℃の温度で銀化合物を還元処理することにより、粒成長が抑制されて、粒径が小さく揃った球状の銀粒子を得ることができる。なお、有機保護剤としてアミン化合物だけを使用すると、銀焼成膜を形成するために焼成する際に有機保護剤が脱離するため、低抵抗の銀焼成膜を得ることはできるが、焼結粒子間や基板との界面にボイドが発生して、銀焼成膜と基板との密着性が良好ではなくなる。しかし、有機保護剤として脂肪酸化合物とアミン化合物の両方を使用することにより、還元反応において粒成長が抑制されて、粒径の小さい銀粒子が生成し、焼成によって形成される銀焼成膜中のボイドが少なくなり、焼成時に有機保護剤が脱離して、低抵抗で基板との密着性が良好な銀焼成膜を得ることができる。
【0015】
アルコールまたはポリオールは、銀化合物の還元剤として機能するとともに、反応系の液状有機媒体としても機能する。アルコールとしては、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、シクロペンタノールなどを使用することができ、ポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを使用することができる。
【0016】
有機保護剤として使用する脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方は、1分子中に1個以上の不飽和結合を有するのが好ましく、また、脂肪酸化合物およびアミン化合物は、分子量100〜1000の化合物であるのが好ましく、分子量が100〜400であるのがさらに好ましい。このような不飽和結合を有するアミン化合物や脂肪酸化合物を有機保護剤として使用することによって、還元反応において銀核を一斉に発生させるとともに、析出した銀核の成長を素早く抑制する現象が起こると考えられる。分子量が100未満では、粒子の凝集抑制効果が低く、分子量が1000を超えると、凝集抑制効果が高くても、銀粒子分散液を塗布して焼成するときに、粒子間の焼結を阻害して配線の抵抗が高くなってしまい、導電性がなくなる場合もある。脂肪酸化合物としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミトレイン酸、ミリストレイン酸などを使用することができる。また、アミン化合物としては、トリアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミンなどを使用することができる。
【0017】
銀化合物の還元反応は、加熱によって反応媒体および還元剤としてのアルコールまたはポリオールの蒸発と凝縮を繰り返す還流条件下で(蒸発したアルコールまたはポリオールを液相に還流させながら)行われるのが好ましい。銀化合物としては、銀塩または銀酸化物を使用することができ、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などを使用するのが好ましく、工業的観点から硝酸銀を使用するのが好ましい。還元反応時の液中のAgイオン濃度は、50ミリモル/L以上であればよい。
【0018】
また、還元処理は、還元補助剤の共存下で行うのが好ましい。この還元補助剤は、還元反応の終了近くで添加するのが好ましく、還元補助剤の添加量は、Agに対するモル比を0.1〜20にするのが好ましい。還元補助剤として、分子量100〜1000のアミン化合物を使用するのが好ましく、第2級アミンおよび第3級アミンの少なくとも一方を使用するのがさらに好ましく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを使用することができる。
【0019】
還元反応後の銀微粒子の懸濁液(反応直後のスラリー)は、以下のように洗浄、分散、分級などの工程を経て、銀粒子分散液とすることができる。
【0020】
反応終了後のスラリーを遠心分離器によって固液分離し、上澄みを廃棄し、沈殿物に極性の大きい液状有機媒体を加えて超音波分散機で分散させ、この操作を3回繰り返した後、さらに上記の固液分離を行い、上澄み廃棄して沈殿物を得る(洗浄工程)。次に、得られた沈殿物に非極性または極性の小さい液状有機媒体を添加した後、超音波分散機で分散させる(分散工程)。次に、得られた銀粒子を非極性または極性の小さい液状有機媒体に添加し、上記と同様の遠心分離器によって固液分離した後、上澄み液を銀粒子分散液として回収する(分級工程)。
【0021】
本明細書中において、「極性の大きい」とは、25℃における比誘電率が15より大きいことをいう。比誘電率が15以下の場合、銀粒子の分散性が良過ぎるため、洗浄工程における洗浄効率が悪化する。極性の大きい液状有機媒体としては、アルコールまたはケトンを使用することができ、アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどを使用することができ、ケトンとしては、アセトン、アセチルアセトンなどを使用することができる。極性の大きい液状有機媒体として、上記の1種または2種以上の媒体を使用することができ、これらの混合物を使用してもよい。また、本明細書中において、「非極性または極性の小さい」とは、25℃における比誘電率が15以下、好ましく5以下であることをいう。非極性または極性の小さい液状有機媒体として、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリンなどの芳香族炭化水素などを使用することができる。
【0022】
このように、銀粒子を非極性または極性の小さな液状有機媒体に分散させることによって得られた銀粒子分散液から遠心分離などで粗粒子を除くと、粒径のばらつきが少ない銀粒子が単分散した分散液を得ることができ、この銀粒子分散液を基板に塗布して焼成を行なうことによって銀焼成膜を得ることができる。
【0023】
このようにして製造された銀粒子分散液中の銀粒子は、沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物とからなる有機保護剤を含み、脂肪酸化合物およびアミン化合物の少なくとも一方は、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する。
【0024】
透過電子顕微鏡(TEM)観察により測定される銀粒子の平均粒径(DTEM)は、好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。
【0025】
また、銀粒子中の有機保護剤の割合は5〜40質量%であるのが好ましく、10〜20質量%であるのがさらに好ましい。5質量%より低いと、銀焼成膜を作製した際に基板との良好な密着性を得ることができず、40質量%より高いと、銀焼成膜を作製した際に有機保護剤や液状有機媒体に由来する膜中のカーボン残渣が導通を妨げるため、低抵抗にするのが難しくなる。
【0026】
この銀粒子を含む銀焼成膜を形成する基板として、例えば、ガラス基板、フィルム状の有機高分子基板、シリコン基板、セラミックス基板などを使用することができる。ガラス基板は、二酸化ケイ素を主成分とする基板であれば特に限定しない。フィルム状の有機高分子基板としては、厚さは特に限定しないが、ロール・ツー・ロール方式に対応できるだけの可撓性を有し、高耐熱性を有するものが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、アラミド、ポリカーボネートなどの基板を使用することができる。シリコン基板としては、アモルファスシリコン基板、多結晶シリコン基板、単結晶シリコン基板のいずれも使用することができる。セラミックス基板としては、アルミナ基板、窒化珪素基板の他、グリーンシートも使用することができる。
【0027】
この銀焼成膜を形成するために使用する焼成装置は、酸化雰囲気中(常圧の大気雰囲気や、減圧雰囲気または不活性ガス雰囲気にわずかに酸素を導入した雰囲気も含む)、100〜300℃の温度で焼成することができれば、特に限定されず、例えば、熱風循環式乾燥器、ベルト式焼成炉、IR焼成炉などを使用することができる。ポリイミドフィルム基板などのフィルム基板上に配線や電極を形成する場合、生産性を考慮すると、バッチ式でなく、大量生産に適したロール・ツー・ロール方式に対応して連続焼成可能な装置を使用するのが好ましい。塗膜を形成した基板を上記の温度域で保持する焼成時間は、10分間以上であるのが好ましい。但し、焼成時間が長過ぎると生産性が悪くなるので、一般には300分間以下であるのが好ましい。
【0028】
また、銀焼成膜の膜厚は0.1〜3.0μmであるのが好ましい。膜厚が0.1μmより薄くなると、大電流を流すには不向きであり、膜厚が3.0μmより厚くなると、銀焼成膜の厚さのばらつきが非常に大きくなる。また、銀焼成膜の体積抵抗は10μΩ・cm以下であるのが好ましい。
【0029】
また、基板上に形成された銀焼成膜の密着性の良否は、カッターナイフにより(基板を切らないように注意して)銀焼成膜上に1mm角の升目100個を作製し、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522の規定による幅25mm当たりの粘着量が約8Nのセロハン粘着テープ)を手の指により圧着した後に剥離し、残存する升目の数xを数え、(x個/100個)×100から算出される残存率(%)によって評価することができる。このようにして算出された残存率が90%以上であれば、基板上に形成された銀導電膜が実用上十分な耐久性を備え、銀導電膜の基板とは反対側の面に接触する上層との間の十分な密着性も確保することができると考えられるが、残存率が95%以上であるのがさらに好ましく、100%であるのが最も好ましい。一方、残存率が90%を下回ると、基板上に形成された銀焼成膜を長期間使用した後や加速試験を行った際に抵抗値の低下などが起こり、信頼性が低くなる場合がある。
【実施例】
【0030】
以下、本発明による銀粒子分散液およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0031】
[実施例1]
反応媒体および還元剤としてのイソブチルアルコール(和光純薬株式会社製の特級)96.2gに、有機保護剤としてのアミン化合物および脂肪酸化合物としてオクチルアミン(和光純薬株式会社製、沸点170℃、分子量129)79.9gおよびオレイン酸(和光純薬株式会社製、沸点360℃、分子量282)35.0gを添加するとともに、銀化合物として硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)20.6gを添加し、マグネットスターラーで攪拌して硝酸銀を溶解させた。
【0032】
次に、この溶液を還流器付の容器に移し、この容器をマントルヒーターに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/分の流量で吹込みながら、溶液をスターラーにより100rpmの回転速度で撹拌しながら、昇温速度2℃/分で108℃まで加熱した。
【0033】
108℃で5時間還流を行なった後、還元補助剤として2級アミンであるジエタノールアミン(和光純薬株式会社、分子量106)38.6g(Agに対するモル比1.0)を添加し、1時間保持して反応を終了した。
【0034】
反応終了後のスラリー40mLを遠心分離器(日立工機株式会社製のCF7D2)によって3000rpmで30分間固液分離し、上澄みを廃棄し、沈殿物に極性の大きい液状有機媒体としてメタノール40mLを加えて超音波分散機で分散させた。この操作を3回繰り返した後、さらに上記の固液分離を行い、上澄み廃棄して沈殿物を得た。次に、得られた沈殿物に非極性または極性の小さい液状有機媒体としてテトラデカン4.0gを添加し、超音波分散機で分散させた後、上記と同様の遠心分離器によって3000rpmで30分間固液分離し、上澄み液を銀粒子分散液として回収した。
【0035】
なお、カルボニル基、アミノ基、長鎖アルキル基、不飽和結合を確認可能なHおよび13C−NMR測定と、分子量を同定可能な熱分解ガスクロマトグラフ質量分析測定によって、本実施例および後述する実施例2〜4で得られた銀粒子分散液中の銀粒子が有機保護剤を含むことを確認した。
【0036】
得られた銀粒子分散液中の銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を求めたところ、銀粒子の平均粒径(DTEM)は6.1nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は19.8質量%であり、分散性が良好で凝集はなかった。
【0037】
なお、透過電子顕微鏡(TEM)観察により測定される銀粒子の平均粒径(DTEM)は、60万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の直径を測定し、平均値を求めることによって算出した。また、銀粒子中の有機保護剤の割合は、熱重量分析装置(マックサイエンス社製のTG−DTA2000)によって銀粒子分散液を10℃/分で200℃まで昇温した後に1時間保持し、さらに10℃/分で700℃まで昇温し、200℃までに減少した重量を溶媒の重量とし、200〜700℃までに減少した重量を有機保護剤の重量とし、700℃で残っていた重量を銀の重量として、以下の式によって算出した。
有機保護剤の割合(質量%)
={有機保護剤の重量/(有機保護剤の重量+銀の重量)}×100
【0038】
また、得られた銀粒子分散液を、エキシマレーザー(ウシオ電機株式会社製のH001型エキシマレーザー)によって、洗浄したガラス基板にスピンコートで塗布して塗膜を形成し、その後、大気雰囲気中でホットプレートにより200℃で60分間焼成して銀焼成膜を得た。
【0039】
得られた銀焼成膜について、膜厚、体積抵抗および密着性を評価した。膜厚は、蛍光X線膜厚測定器(SII社製の蛍光X線膜厚測定器SFT9200)で測定した。体積抵抗は、四端子法による抵抗測定器(三菱化学製のロレスタHP)で測定した表面抵抗と膜厚測定器で得られた膜厚から計算により求めた。銀焼成膜の密着性の良否は、上述したように、カッターナイフにより(基板を切らないように注意して)銀焼成膜上に1mm角の升目100個を作製し、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522の規定による幅25mm当たりの粘着量が約8Nのセロハン粘着テープ)を手の指により圧着した後に剥離し、残存する升目の数xを数え、(x個/100個)×100から算出される残存率(%)によって評価した。その結果、銀焼成膜の膜厚は0.45μm、体積抵抗は3.9μΩ・cm、密着性は100%であった。
【0040】
[実施例2]
アミン化合物としてラウリルアミン(和光純薬株式会社製、沸点247℃、分子量195)120.8gを使用した以外は、実施例1と同様の方法によって銀粒子分散液および銀焼成膜を得た。得られた銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を実施例1と同様の方法によって求めるとともに、銀焼成膜の膜厚、体積抵抗および密着性を実施例1と同様の方法によって評価した。その結果、平均粒径(DTEM)は3.9nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は28.4質量%であり、分散性が良好で凝集はなかった。また、得られた銀焼成膜の膜厚は0.38μm、体積抵抗は5.9μΩ・cm、密着性は100%であった。
【0041】
[実施例3]
アミン化合物としてテトラデシルアミン(和光純薬株式会社製、沸点291℃、分子量213)132.0gを使用した以外は、実施例1と同様の方法によって銀粒子分散液および銀焼成膜を得た。得られた銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を実施例1と同様の方法によって求めるとともに、銀焼成膜の膜厚、体積抵抗および密着性を実施例1と同様の方法によって評価した。その結果、平均粒径(DTEM)は7.2nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は29.0質量%であり、分散性が良好で凝集はなかった。また、得られた銀焼成膜の膜厚は0.68μm、体積抵抗は9.7μΩ・cm、密着性は100%であった。
【0042】
[実施例4]
アミン化合物としてオレイルアミン(和光純薬株式会社製、沸点348℃、分子量267.5)165.5gを使用した以外は、実施例1と同様の方法によって銀粒子分散液および銀焼成膜を得た。得られた銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を実施例1と同様の方法によって求めるとともに、銀焼成膜の膜厚、体積抵抗および密着性を実施例1と同様の方法によって評価した。その結果、平均粒径(DTEM)は4.1nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は31.1質量%であり、分散性が良好で凝集はなかった。また、得られた銀焼成膜の膜厚は0.32μm、体積抵抗は9.5μΩ・cm、密着性は100%であった。
【0043】
[比較例1]
有機保護膜として、脂肪酸化合物を使用せず、アミン化合物としてオレイルアミン165.5gを使用した以外は、実施例1と同様の方法によって銀粒子分散液および銀焼成膜を得た。得られた銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を実施例1と同様の方法によって求めるとともに、銀焼成膜の膜厚、体積抵抗および密着性を実施例1と同様の方法によって評価した。その結果、平均粒径(DTEM)は8.9nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は3.6質量%であり、分散性が良好で凝集はなかった。また、得られた銀焼成膜の膜厚は0.45μm、体積抵抗は1.9μΩ・cm、密着性は3%であった。
【0044】
[比較例2]
アミン化合物としてヘキシルアミン(和光純薬株式会社製、沸点128℃、分子量101.2)62.6gを使用した以外は、実施例1と同様の方法によって銀粒子分散液および銀焼成膜を得た。得られた銀粒子の平均粒径(DTEM)および銀粒子中の有機保護剤の割合を実施例1と同様の方法によって求めるとともに、銀焼成膜の膜厚、体積抵抗および密着性を実施例1と同様の方法によって評価した。その結果、平均粒径(DTEM)は3.7nm、銀粒子中の有機保護剤の割合は18.9質量%であり、分散性が良好で凝集はなかった。また、得られた銀焼成膜の膜厚は0.36μm、体積抵抗は4.1μΩ・cm、密着性は5%であった。
【0045】
[比較例3]
有機保護剤として、脂肪酸化合物を使用せず、アミン化合物としてラウリルアミン120.8gを使用した以外は、実施例1と同様の方法によって銀粒子分散液を得た。その結果、得られた銀粒子は凝集し、分散した銀粒子が得られなかった。
【0046】
このように、実施例1〜4で得られた銀粒子分散液を使用すれば、シランカップリング剤や熱硬化性樹脂を加えることなく、煩雑な熱処理工程を必要とせず、300℃以下の比較的低温で焼成しても、基板との密着性が良好な銀焼成膜を形成することができるのがわかった。特に、実施例1〜4で得られた銀粒子分散液を使用すれば、膜厚が比較的薄くても基板との密着性が良好な銀焼成膜を形成することができるのがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明による銀粒子分散液は、微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料、例えば、インクジェット法による配線形成用材料や、真空成膜プロセスであるスパッタリングによる成膜の代替としての成膜に使用する膜形成用材料、湿式プロセスであるめっきによる成膜の代替としての成膜に使用する成膜材料などに利用することができる。また、LSI基板の配線、FPD(フラットパネルディスプレイ)の電極や配線、微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込みなどの配線形成材料としても利用することができる。さらに、車の塗装などの色材としても利用することができ、医療、診断、バイオテクノロジーなどの分野において生化学物質などを吸着させるキャリアにも利用することができる。
【0048】
また、本発明による銀粒子分散液は、低温焼成が可能であるため、フレキシブルなフィルム上への電極形成材料として利用することができ、エレクトロニクス実装においては、接合材として利用することもできる。また、導電性皮膜として電磁波シールド膜や、透明導電膜などの分野における光学特性を利用した赤外線反射シールドなどにも利用することができる。さらに、ガラス基板上に印刷して焼成し、自動車ウインドウの防曇用熱線などにも利用することができる。
【0049】
また、本発明による銀粒子分散液は、スピンコート、ディッピング、ブレードコートなど各種の塗布方法にも適用することができ、スクリーン印刷などにも適用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールまたはポリオール中において、沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物の共存下で、80〜200℃の温度で銀化合物を還元処理して生成した銀粒子を液状有機媒体中に分散させることを特徴とする、銀粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記アルコールの沸点が80〜200℃であり、前記ポリオールの沸点が150〜300℃であることを特徴とする、請求項1に記載の銀粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物の少なくとも一方が、1分子中に1個以上の不飽和結合を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の銀粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物が分子量100〜1000の化合物であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の銀粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記還元処理の際に還元補助剤として第2級アミンおよび第3級アミンの少なくとも一方を添加することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の銀粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
沸点が300℃以上の脂肪酸化合物と沸点が150〜350℃のアミン化合物とからなる有機保護剤を含む銀粒子が液状有機媒体中に分散していることを特徴とする、銀粒子分散液。
【請求項7】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物の少なくとも一方が、1分子中に1個以上の不飽和結合を有することを特徴とする、請求項6に記載の銀粒子分散液。
【請求項8】
前記脂肪酸化合物および前記アミン化合物が分子量100〜1000の化合物であることを特徴とする、請求項6または7に記載の銀粒子分散液。
【請求項9】
前記銀粒子中の有機保護剤の割合が5〜40質量%であることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれかに記載の銀粒子分散液。
【請求項10】
前記銀粒子の平均粒径(DTEM)が20nm以下であることを特徴とする、請求項6乃至9のいずれかに記載の銀粒子分散液。

【公開番号】特開2008−169453(P2008−169453A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5756(P2007−5756)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】