説明

銀系廃棄物の分離方法と装置

【課題】
写真プラントで用いる写真処理液から随時または定期的に銀含有液を流出させ、該銀含有液から銀系廃棄物を分離した後に、清澄化したその流出液を元の写真処理液に戻す方法を提供する。
【解決手段】
一方の電極体である外筒体と、外筒体よりも下方へ延設した邪魔板を有し且つ他方の電極体である中間筒体と、中間筒体の内方に配置する筒形フィルタと、外筒体の下方に位置する廃棄物溜め部とを備え、外筒体と中間筒体との間の荷電路が下方の廃棄物溜め部と連通し、廃棄物溜め部の内径が外筒体の内径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写真プラントで用いる写真処理液から定期的または随時に銀含有液を流出させ、該銀含有液から銀系廃棄物を分離した後に、その流出液を元の写真処理液に戻す銀系廃棄物の分離方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機を含む写真プラントでは、刷版の加工時において写真感光材料を現像・定着する際に水洗することを要する。この水洗水である写真処理液は、ガム液と称する所定の光化学薬品を含み、水洗後にその中に水銀イオンとハロゲン化銀が溶解し、その溶解量が刷版加工機内を通過するとともに次第に増加して大量の写真処理廃液が生じる。従来では、写真処理液が一定量以上の銀イオンとハロゲン化銀とを含有して黒く変色すると、そのまま系外へ排出することが一般的であった。排出する写真処理廃液は、当然、水質を汚染することになるから、近年では、環境保全のために銀の排出基準が厳しく規制され、写真処理廃液である銀含有液を下水道へ排出することが年ごとに困難になっている。
【0003】
厳しい銀の排出基準をクリアするために、特開平7−331350号などのように数多くの銀除去方法が提案されている。これらの方法では、単純に濾過するだけでは銀イオンとハロゲン化銀を殆ど除去できないため、写真処理廃液に高分子キレート剤などの化学薬品を添加することが一般的である。薬品添加の場合には、通常、化学反応の時間が写真処理廃液の増加に比べてかなり遅いことにより、印刷機さらに刷版加工機の高速化に伴う廃液増加とともに排水処理装置の大型化および排水コストの上昇が顕著になり、しかも排出銀を1ppm以下のレベルまで除去することは実質的に不可能である。
【0004】
電気化学的イオン交換方法は、装置の大型化の問題を改善するために提案され、1対の作用電極によって写真処理廃液に直流電圧を加え、該作用電極は樹脂バインダによって粒状のイオン交換樹脂を保有する。特開平7−310195号は、写真処理廃液を流す陽極と陰極との間に電位差を加えるとともに、該処理廃液が陽極の近傍へ移動することを阻止するイオン交換樹脂のバリヤを設けることにより、写真処理廃液は実質的に陰極の近傍を流れていく。また、一般的な濾過技術において、金属イオンである流体中の不純物を除去する際に、流体を電界中において凝集・粗粒化して濾過することは特許第3236570号などから公知である。
【特許文献1】特開平7−331350号公報
【特許文献1】特開平7−310195号公報
【特許文献1】特許第3236570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開平7−310195号は、写真処理廃液が細長い装置を通過すると銀イオンを完全に除去できるように構成し、該処理廃液は、陽極と陰極を有するセルついでフィルタの中を流れる。写真処理廃液中の銀イオンは、その大部分が硫化銀の不溶解粒子の状態でセルを出て行き、フィルタによって写真処理廃液から分離される。この装置では、写真処理廃液を0.1ppm以下の銀イオン含有量に減らすことが可能であるけれども、処理廃液の流路が縦5×横65×長さ340mmにすぎず、写真処理廃液の処理能力が低いためにごく小規模の印刷プラントにおいてのみ実施可能である。また、フィルタ交換のほかに、定期的に陰極に逆電圧を掛けて硫化銀の堆積物を除去する必要があり、多数の装置を設置した場合には非常に煩雑な作業になる。
【0006】
写真処理廃液を特許第3236570号で処理すれば、該処理廃液が電界中を流通することにより、銀イオンが一部凝集して黒い液状粉状物が発生し、写真処理廃液の濾過が一見可能なようである。しかしながら、液状粉状物を含む写真処理廃液をフィルタによって濾過した場合には、緻密なフィルタが数時間足らずで目詰まりを起こしてしまい、煩雑なフィルタ交換作業が激増することにより、実際には濾過処理が不可能であった。一方、写真処理廃液に化学薬品を添加する従来の除去方法は、写真処理液の一部を取り出して循環させるシステムに適用すれば、写真処理液中に高分子キレート剤などの化学薬品が混入することになるので実施できない。
【0007】
本発明は、写真処理液中の銀塩除去に関する前記の問題点を改善するために提案されたものであり、写真処理液の一部である銀含有液を帯電させた後に銀系凝固物を迅速に下方へ落とす銀系廃棄物の分離方法を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、写真処理液の一部を取り出して濾過・循環させることにより、写真処理液の消費量が顕著に減るうえに刷版加工機内部の洗浄が可能になる銀系廃棄物の分離方法を提供することである。本発明の別の目的は、小型で処理能力が高く且つフィルタの交換回数が少なくてよい銀系廃棄物の分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る銀系廃液の分離方法は、写真処理液から流出させる銀含有液の中から銀系廃棄物を分離する方法である。この分離方法では、銀含有液が両電極体間を通過して帯電し、この帯電によって凝集した銀系凝固物を回転作用を与えながら下方の広い廃棄物溜め部へ送り込むとともに、下方へ延びる邪魔板を通過させて銀含有液から銀系凝固物の落下を促進し、さらに銀含有液を濾取によって清澄化する。
【0009】
本発明の銀系廃液の分離方法は、流通する写真処理液から一部を銀含有液として取り出し、該銀含有液が両電極体間を通過して帯電し、この帯電によって凝集した銀系凝固物を下方の広い廃棄物溜め部へ送り込むとともに、下方へ延びる邪魔板を通過させて銀含有液から銀系凝固物の落下を促進することでもある。さらに、銀系凝固物の分離後の銀含有液は、濾過によって清澄化してから元の写真処理液に戻す。
【0010】
本発明の分離方法において、廃棄物溜め部内の銀系廃棄物は、容器内の圧力が上昇すればバルブが開いて自動的に系外へ排出される。また、この銀系廃棄物は、タイマなどの設定により定期的にバルブが開いて自動的に系外へ排出される場合もある。
【0011】
本発明に係る銀系廃棄物の分離装置は、一方の電極体である外筒体と、外筒体よりも下方へ延設した邪魔板を有し且つ他方の電極体である中間筒体と、中間筒体の内方に配置する筒形フィルタと、外筒体の下方に位置する廃棄物溜め部とを備える。外筒体と中間筒体との間の荷電路が下方の廃棄物溜め部と連通することにより、銀含有液は外筒体と中間筒体との間を通過して帯電した後に、邪魔板を経由してフィルタを通過する。
【0012】
本発明の分離装置において、帯電によって凝集した銀系凝固物は、廃棄物溜め部の内径が外筒体の内径よりも大きいことにより、銀含有液の膨張によって下方の廃棄物溜め部への落下を促進する。また、前記の銀系凝固物を下方の廃棄物溜め部へ落下させ、好ましくは該溜め部の下方壁が一方の周壁に向かって傾斜することにより、溜め部内に落下した銀系凝固物が自重によってソレノイドバルブの方へ次第に移動する。
【0013】
本発明を図面によって説明すると、図1に本発明に係る銀系廃棄物の分離装置1を例示し、該分離装置は、ほぼ円筒形の細長い外観を有する。分離装置1には、制御ボックス3、モータ付きポンプ4およびトランス5を設置し、これらの設置個所は任意である。分離装置1は、1対の支持枠2または他の部材によって水平基台(図示しない)に垂直設置しても、印刷機の側壁に取り付けたり、印刷機内部に配置することも可能である。
【0014】
分離装置1は、一方の電極体である外筒体6と、他方の電極体である中間筒体8と、筒形フィルタを嵌装する細長い内筒体10とを有し、前記フィルタは中間筒体8の内側において内筒体10と同軸状に装着する。図3に概略で示すように、電源つまりトランス5から外筒体6および中間筒体8に電気的に接続することにより、外筒体6および中間筒体8へ所定のパルス電流(図4)または直流や交流電流を定常的に流す。直流を流す場合、外筒体6を陽電極および中間筒体を陰電極に帯電させ、両筒体を逆の電極に設定することも可能である。
【0015】
外筒体6は、下方の廃棄物溜め部12と連通させる。外筒体6の上方部には、貫通孔24を設け、該貫通孔を経て銀含有液が装置1内の荷電路41に流入する。また、中間筒体8は、廃棄物溜め部12の貫通孔29を通過して下方へ延び、この通過した下方部が通常円形断面の邪魔板7となる。邪魔板7は、中間筒体8と一体または別個の部材を溶接または接着すればよく、別個の部材であれば金属製以外のプラスチック製でもよい。銀含有液の陽極側となる外筒体6の内周壁または中間筒体8の外周壁は、イオン化が容易な鉄やアルミニウムなどの金属製であっても、またはその壁面に鉄やアルミニウムの筒状シートを溶接したり、アニオン交換樹脂を添加した樹脂を射出成形で積層してもよい。
【0016】
下方の廃棄物溜め部12は、上方壁28の中心貫通孔29の周辺で外筒体6と接続する。溜め部12の直径は、外筒体6の直径の1.5〜2.5倍であればよく、1.5倍未満では滞積膨張による銀系凝固物の落下がスムースに進まない。廃棄物溜め部12の下方壁30は、一方の周壁に向かって傾斜すると好ましく、下方壁30に落下した銀系凝固物は、自重によってソレノイドバルブ32の方へ次第に移動していく。
【0017】
ソレノイドバルブ32は、図3に例示するように、マイコンやリレーなどの制御機器34と電気的に接続し、さらに制御機器34を管路36に介在する圧力計38と接続したりまたは装置1内に取り付けた圧力センサや溜め部12内の濃度センサなどと接続する。マイコン制御により、管路36内の圧力つまり装置内各部の圧力に応じてバルブ32を開閉でき、その測定位置として中間筒体8内、溜め部12内、フィルタ表面などが可能である。また、バルブ32の開閉は、制御機器34内のタイマで定時的に開放するように設定してもよい。
【0018】
細長い内筒体10は、筒上端33より少し下方に固定リング44を取り付け、該リングは外筒体6の下端とほぼ一致する高さであり、該リングから垂直に下方へ延長し、さらに廃棄物溜め部12の下方壁30を貫通させて垂直に固着する。内筒体10の外径は、筒形フィルタであるフィルタカセット14の内径とほぼ等しい。この内筒体は、その上端を中間筒体8とほぼ同じ高さに定め、さらに垂直に下方へ延長して下方壁30を貫通させてもよい。内筒体がフィルタ中心を貫通する形状であれば、該内筒体の周壁には、リング44の取付位置よりも上方において複数個の透孔を形成し、各透孔を経て濾過済み液を流出させる。濾過済み液の流出は、内筒体の上端部に1個の大径の貫通孔を設けたり、または内筒体の上端面を開放することによって可能にしてもよい。この場合には、この内筒体は、筒形フィルタの内径よりも小さい外径を有し、該フィルタを収納した際にフィルタ内周面と内筒体の外周面との間に若干の筒状間隙を設けることを要する。
【0019】
筒形フィルタであるフィルタカセット14は、金属製の外筒56(図5)内に比較的肉厚の円筒フィルタ(図示しない)を収納している。この円筒フィルタは、繊維ウェブ、フェルト、不織布、織布、合成紙などの3〜6層から構成し、各フィルタ層における繊維ウェブ、フェルトまたは不織布は、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、アクリル系、木綿、ビスコース系などの合成繊維からなる。この円筒フィルタとして、ポリプロピレン繊維ウェブ単独、炭素繊維またはその他の導電性繊維ウェブ、MF濾過膜やUF濾過膜のような超精密濾過膜、RO濾過膜などを使用することも可能である。
【0020】
フィルタカセット14は、所望に応じて2段以上に分けて収納することも可能である。このフィルタカセットは、内筒体が装置1の全長に相当する長さであれば、該内筒体に通してリング44上に載置し、押え金具(図示しない)で固定してもよい。フィルタカセット14は、図6に示すような構造でもよく、細かいネット47,48で両面を補強したシート状の繊維フィルタ50を有し、該繊維フィルタが円形平面になるようにジグザク状に折り畳んで接触面積を大きくする。繊維フィルタ50は、ポリプロピレン繊維ウェブの単独層であっても、内層がより細いポリプロピレン繊維ウェブおよび外層がより太いポリプロピレン繊維ウェブで構成する2層構造でもよく、所望に応じてグラスウールを添加してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る銀系廃棄物の分離方法は、印刷機および刷版加工機を含む写真プラントにおいて、写真処理液の原液タンクから液の一部を流出させ、その流出液である銀含有液から銀系凝固物を除去した後に原液タンクに戻す。本発明方法は、銀含有液をまず帯電させ、凝集した黒い液状粉状物を銀含液の膨張および邪魔板の介在によって銀含有液から分離させ、分離した銀系凝固物だけを確実に除去していくため、写真処理廃液の排出量を激減させ、公害発生を未然に防いで環境保全に寄与できる。
【0022】
本発明の分離方法は、汚れた写真処理液をそのまま廃棄するものでなく、多量の写真処理液の一部を取り出して常に循環させることにより、光化学薬品の添加量および写真処理液のオーバーフロー量を減らすことができて非常に経済的である。しかも、本発明方法により、清澄な写真処理液が常に刷版加工機内部を流通することになるから、実質的に刷版加工機の各部品が清澄な写真処理液によって洗浄されることになる。このため、印刷機自体の汚れが少なくなり、該印刷機を含む写真プラントを停止して機器全体を洗浄する回数も減らすとともに、刷版加工機などの機械寿命が長くなる。
【0023】
本発明に係る銀系廃棄物の分離装置は、銀含有液の帯電で銀イオンが凝集して黒い液状粉状物が発生しても、この銀系凝固物を直ちに濾過することなく、銀含有液体積の急膨張と邪魔板の介在によって銀系凝固物の大部分を下方の廃棄物溜め部に落とし、銀イオンが一部残存した銀含有液だけを濾過する。本発明の分離装置は、写真処理液の全量を濾過するものでなく、その一部を迅速に清浄化するから小型であっても処理能力が高く、且つ汚染したフィルタの交換回数が顕著に少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。図1および図2に本発明に係る銀系廃棄物の分離装置1を示す。分離装置1は、通常、ステンレス鋼製であり、ほぼ円筒形の外観を有し、1対の支持枠2,2によって水平基台(図示しない)の上に垂直にボルト止めする。分離装置1では、その前側面に制御盤を含む制御ボックス3を取り付け、後側面の下方にモータ付きポンプ4および上方にトランス5を設置する。
【0025】
分離装置1は、一方の電極体である大径の外筒体6と、他方の電極体であり且つ外筒体6よりも下方に延設した円形断面の邪魔板7を有する中間筒体8と、筒形フィルタを装着し且つ中心に位置する細長い内筒体10とを有し、これら筒体をすべて同軸状に配置する。外筒体6の下方には、より大径の円筒体である廃棄物溜め部12を同軸状に密に連結する。前記のフィルタは、例えば、円筒形のフィルタカセット14であり、中間筒体8の内側において、内筒体10の上方に同軸状に取り付ける。
【0026】
外筒体6は、その下端において、廃棄物溜め部12と同軸状に結合し、該溜め部と連通させる。外筒体6の上周端には、円形蓋16および支持盤18を水平にボルト止めし、さらに環状の帯ベルト20で密に締着するとともに、空気抜き用コック22を円形蓋16に取り付ける。外筒体6の上方部において、エルボ23(図2)と接続する貫通孔24を設け、該エルボを通過して銀含有液が装置1内へ流入する。また、絶縁碍子25を外筒体6および中間筒体8の上方部で連通状に取り付け、電源(図3)つまりトランス5からの電線26,27を碍子25を通して外筒体6または中間筒体8に接続することにより、外筒体6および中間筒体8へ所定のパルス電流(図4)または直流電流を定常的に流す。
【0027】
下方の筒形状の廃棄物溜め部12において、上方壁28の中心貫通孔29の直径は外筒体6の内径とほぼ等しく、該貫通孔の周辺で外筒体6に溶接する。溜め部12の直径は、外筒体6の直径の約2倍であればよく、例えば、外筒体6は直径100mm、溜め部12は直径200mmである。廃棄物溜め部12の下方壁30は、一方の周壁に向かって傾斜し、その下端部においてソレノイドバルブ32を溜め部12の周壁と連通状に取り付ける。このため、溜め部12内に落下した銀系凝固物は、傾斜した下方壁30に沿って、自重によってバルブ32の方へ次第に移動していく。
【0028】
ソレノイドバルブ32は、図3に示すように、マイコンやリレーなどを含む制御機器34と電気的に接続し、該制御機器を管路36に介在する圧力計38と接続してその圧力値を読み取る。圧力計38は外筒体6の側壁に配置し、液晶表示であると好ましい。管路36はエルボ23を経て外筒体6と連通するため、マイコン制御によって、管路内圧力つまり外筒体6内部の設定圧力に応じてバルブ32を開放する。また、マイコン制御によって所定の時間ごとにバルブ開放することもできる。
【0029】
中間筒体8は、図1に示すように、上端に位置する円形の支持盤18によって垂直に保持され、複数本の水平ボルト40で外筒体6に固着する。中間筒体8は、廃棄物溜め部12の貫通孔29を通過して下方へ延び、この通過した下方部が邪魔板7となる。中間筒体8は外筒体6と電気的に接続されて帯電する。外筒体6の内周面と中間筒体8の外周面との間が荷電路41であり、該荷電路は貫通孔29を経て溜め部12と連通する。銀含有液の陽極側となる中間筒体8の外周壁または外筒体6の内周壁は、イオン化が容易な金属例えば鉄やアルミニウム製であると好ましく、その壁面に鉄やアルミニウムの筒状シートを貼着してもよい。
【0030】
細長い内筒体10は、フィルタカセット14の内径と等しい外径であり、筒上端33から少し下方に大径の固定リング44を固着する。固定リング44の上端面には、フィルタ支持用の円形プレート45を貼着し、該プレートはフィルタカセット14を嵌め合わせ可能な浅い皿状を有する。固定リング45の高さ位置は、外筒体6の下端つまり溜め部12の上方壁28とほぼ一致する。一方、支持盤18には、下方の円形プレート45と対応させて同形の円形プレート46を取り付け、該プレート46は、コイルバネ42を嵌装したリンク(図示しない)を介して上下方向に変位可能である。内筒体10は、垂直に下方へ延長して廃棄物溜め部12の下方壁30を貫通・固着してからエルボ43をネジ止めし、さらに該エルボは管路62(図3)と連通する。
【0031】
フィルタカセット14(図5)は、固定リング44の円形プレート45上に載置し、バネ42を介して上方の円形プレート46で押え込み、支持盤18を閉じて水平に固定することによって垂直に取り付ける。フィルタカセット14において、濾過済み液はカセット中心孔を経て内筒体10へ流入する。また、フィルタ外周面と中間筒体8の内周面との間に所定の筒状間隙を設け、邪魔板7を通過した銀含有液の流通路49を構成する。フィルタカセット14は、円形蓋16および支持盤18を開き、円形プレート46を外すと容易に取り出して交換できる。
【0032】
フィルタカセット14は、打ち抜き鋼板製の外筒56(図5)内に比較的肉厚の円筒フィルタ(図示しない)を収納し、該円筒フィルタは、外筒56とドーナツ形の端板55,57とによってカバーされている。この円筒フィルタは孔径0.5または1.0μmであり、繊維ウェブ、フェルト、不織布、合成紙などの5層から構成する。
【0033】
フィルタカセットは、図6に示すような構造でもよい。このフィルタカセットは、孔が7μm程度の細かいネット47,48で両面を補強したシート状の繊維フィルタ50を有し、該繊維フィルタが円形平面になるようにジグザク状に折り畳んで接触面積を大きくする。繊維フィルタ50は、内層が直径3μmのポリプロピレン繊維ウェブおよび外層が直径10μmのポリプロピレン繊維ウェブで構成する2層構造からなり、押圧成形後の厚みが約2mmであり、所望に応じてさらにグラスウールを添加する。
【0034】
モータ付きポンプ4は、図1のように装置1の側壁に設置し、写真プラントにおける写真処理液の原液タンク52(模式的に示す)から銀含有液を管路54を通して取り出し、管路36(図3)を通して外筒体6内へ加圧しながら送り込む。ポンプ4の出入口には、それぞれ手動コック56,58を取り付ける。また、管路36に圧力スイッチ60を取り付け、該管路内の圧力つまり外筒体6内部の圧力に急上昇すれば、圧力スイッチ60を作動させてポンプ4を停止する。
【0035】
印刷機を含む写真プラントは、写真仕上げするために、複数の薬品カートリッジ(図示しない)、写真処理液の原液タンク52、刷版加工機などを備える。写真処理液は、光化学薬品を含む複数の薬品カートリッジから適量ずつ供給され、刷版加工機でハロゲン化銀画像を形成する際に、現像工程と漂白工程において少量の銀イオンとハロゲン化銀が溶解し、さらに定着工程において多量の銀イオンとハロゲン化銀が溶解する。刷版加工機を通過して銀イオンとハロゲン化銀を含んだ写真処理液は、刷版加工機を通過して原液タンク52に復帰する。
【0036】
分離装置1は、管路54を経て原液タンク52から写真処理液の一部を定期的または随時に取り出し、この取出量は写真処理液の汚染度に応じて適正値に自動設定する。タンク52から流出させた銀含有液は、ポンプ4および管路36を経て分離装置1へ流入する。分離装置1において、銀含有液は両電極体である外筒体6と中間筒体8との間を通過して帯電し、この帯電によって銀イオンとハロゲン化銀から多量の銀系凝固物を凝集させる。この銀含有液は、ポンプ4によって加圧され、外筒体6の上方の貫通孔24から装置内へ流入するため、外筒体6と中間筒体8との間つまり荷電路41内で回転しながら下方へ移動する。
【0037】
凝集した銀系凝固物は、銀含有液に回転作用を与えながら下方の広い廃棄物溜め部12へ送り込み、図3の矢印で示すように、回転する銀含有液の体積が急膨張することにより、銀含有液から分離して落下しやすくなる。ついで、銀含有液が下方へ延びる円形の邪魔板7を通過して中間筒体8内へ流入することにより、該銀含有液から銀系凝固物の落下をいっそう促進し、フィルタカセット14へ送り込む銀系凝固物を可能な限り減らす。
【0038】
銀含有液は、フィルタカセット14の外周面から肉厚の筒形フィルタを半径方向に通過する。この結果、銀含有液中に残った少量の銀系凝固物は、筒形フィルタを通過することで濾取され、該銀含有液をいっそう清澄化する。この筒形フィルタについて、多少の銀系凝固物が付着しても濾過能力が低下することが少なく、残存の銀系凝固物自体も少ない。しかも、稼動を続けてフィルタ外周面に銀系凝固物が付着し、ある程度の付着量に達するとこの付着物は筒形フィルタから剥がれて溜め部12内に落下するので、筒形フィルタの目詰まりが解消して使用継続が可能になる。このため、筒形フィルタを備えたフィルタカセット14は、数ヶ月間以上連続使用することが十分に可能である。
【0039】
清澄化した液は、透孔46を通過して内筒体10に流入し、さらに管路62を通って原液タンク52に復帰する。この結果、分離装置1の設置により、タンク52内で銀イオンとハロゲン化銀の含有量が所定値を超えることはなく、原液タンク52内の写真処理液を全量廃棄することは不要になり、印刷機が高速化しても排水処理装置の大型化および排水コストの上昇が発生することはない。
【0040】
一方、下方の廃棄物溜め部12に滞留した銀系凝固物は、該溜め部の下方壁30が一方に傾斜していることにより、自動的に次第にソレノイドバルブ32の方へ集まる。バルブ32は、定時的に開放するように制御され、高濃度の銀系凝固物を徐々に銀除去タンク64へ送り込む。バルブ32からの液排出量は、複数の薬品カートリッジからガム液供給量に合わせて調整すればよい。
【0041】
銀除去タンク64(図3)では、例えば、高分子キレート剤などの化学薬品を添加して銀を化学的に分離すればよい。この化学反応の時間が遅くても、処理すべき銀系凝固物の絶対量が少ないのでタンクの大型化は全く必要なく、1ppm以下のレベルまで下げることも容易である。
【0042】
写真プラントにおいて、複数の薬品カートリッジは、写真処理液の排出量や自然蒸発量などに応じてガム液および水を自動的に供給すればよく、常に一定量の写真処理液を原液タンク52内に保持させる。分離装置1を設置すると、薬品カートリッジを稼動することが少なくなり、光化学薬品であるガム液の使用量が激減する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る分離装置の要部を示す概略断面図である。
【図2】図1の右側から見た分離装置を示す概略側面図である。
【図3】写真プラントの原液タンクから流出した写真処理液が循環する行程を示す説明図である。
【図4】外筒体および中間筒体へ流す電流の一例であるパルス電流のグラフである。
【図5】本発明で用いるフィルタカセットの一例を示す斜視図である。
【図6】フィルタカセットの別の例を一部切り欠いて示す部分平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 分離装置
6 外筒体
7 邪魔板
8 中間筒体
10 内筒体
12 廃棄物溜め部
14 フィルタカセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
写真処理液から流出させる銀含有液の中から銀系廃棄物を分離する方法であって、銀含有液が両電極体間を通過して帯電し、この帯電によって凝集した銀系凝固物を回転作用を与えながら下方の広い廃棄物溜め部へ送り込むとともに、下方へ延びる邪魔板を通過させて銀含有液から銀系凝固物の落下を促進し、さらに銀含有液を濾取によって清澄化する銀系廃液の分離方法。
【請求項2】
写真処理液から流出させる銀含有液の中から銀系廃棄物を分離する方法であって、流通する写真処理液から一部を銀含有液として取り出し、該銀含有液が両電極体間を通過して帯電し、この帯電によって凝集した銀系凝固物を下方の広い廃棄物溜め部へ送り込むとともに、下方へ延びる邪魔板を通過させて銀含有液から銀系凝固物の落下を促進し、さらに銀含有液を濾過によって清澄化してから元の写真処理液に戻す銀系廃液の分離方法。
【請求項3】
廃棄物溜め部内の銀系廃棄物は、容器内の圧力が上昇すればバルブが開いて自動的に系外へ排出される請求項1または2記載の分離方法。
【請求項4】
廃棄物溜め部内の銀系廃棄物は、タイマなどの設定により定期的にバルブが開いて自動的に系外へ排出される請求項1または2記載の分離方法。
【請求項5】
一方の電極体である外筒体と、外筒体よりも下方へ延設した邪魔板を有し且つ他方の電極体である中間筒体と、中間筒体の内方に配置する筒形フィルタと、外筒体の下方に位置する廃棄物溜め部とを備え、外筒体と中間筒体との間の荷電路が下方の廃棄物溜め部と連通することにより、銀含有液が外筒体と中間筒体との間を通過して帯電した後に、邪魔板を経由してからフィルタを通過する銀系廃棄物の分離装置。
【請求項6】
銀含有液は、外筒体と中間筒体との間を通過して帯電し、この帯電によって凝集した銀系凝固物は、廃棄物溜め部の内径が外筒体の内径よりも大きいことにより、銀含有液の膨張によって下方の廃棄物溜め部への落下を促進する請求項5記載の装置。
【請求項7】
銀含有液は、外筒体と中間筒体との間を通過して帯電し、この帯電によって凝集した銀系凝固物を下方の廃棄物溜め部へ落下させ、該溜め部の下方壁が一方の周壁に向かって傾斜することにより、溜め部内に落下した銀系凝固物が自重によってソレノイドバルブの方へ次第に移動する請求項5記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−212560(P2006−212560A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28716(P2005−28716)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(390021566)株式会社サンエツ (7)
【Fターム(参考)】