説明

銀系無機抗菌剤

【課題】
本発明は、耐熱性や耐薬品性に優れ、且つ樹脂着色性が少なく加工性に優れる銀系無機抗菌剤を提供することである。
【解決手段】
下記一般式〔1〕で示される銀イオン含有のリン酸ジルコニウムにより課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
AgabZrcHfd(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、1.75<(c+d)<2.25、a+b+4(c+d)=9を満たす数であり、nは0または2以下の正数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸ジルコニウムに銀イオンをイオン交換により保持させた物に関するものであり、これは耐熱性、耐薬品性および加工性に優れ、且つプラスチックに配合した際の変色が少ない新規な銀系無機抗菌剤である。
【背景技術】
【0002】
近年、リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体の特徴を活かし、様々な用途に利用されている。リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体には、非晶質のものと、2次元層状構造をとる結晶質のものおよび3次元網目状構造をとる結晶質のものがある。このなかでも3次元網目状構造をとる六方晶リン酸ジルコニウムは、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性および低熱膨張性などに優れており、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、触媒および抗菌剤原料などに応用されている。
【0003】
これまでに様々な六方晶リン酸ジルコニウムが知られている。例えば、AXNH4(1-X)Zr2(PO43・nH2O(例えば、特許文献1参照)、AZr2(PO43・nH2O(例えば、特許文献2参照)、Hn1-nZr2(PO43・mH2O(例えば、特許文献3参照)などである。
また、ZrとPとの比が異なるリン酸ジルコニウムも知られている。例えば、Na1+4xZr2-x(PO43(例えば、非特許文献1参照)、Na1+2xMgxZr2-x(PO43(例えば、非特許文献1、2参照)、Na1+xZr2Six3-x12(例えば、非特許文献2、3参照)などである。
【0004】
これら六方晶リン酸ジルコニウムの合成法には、原料を混合後、焼成炉などを用いて1000℃以上で焼成することにより合成する焼成法、水中または水を含有した状態で原料を混合後加圧加熱して合成する水熱法、および原料を水中で混合後、常圧下で加熱して合成する湿式法などが知られている。
【0005】
これらのなかでも焼成法は、原料を調合し高温で加温するのみで、P/Zr比を適宜調整したリン酸ジルコニウムを合成することが可能である。しかし、焼成法では、この原料の均一な混合が容易ではなく、均質な組成のリン酸ジルコニウムができにくい。更に、焼成後、粒子状にするには粉砕、分級をしなければならないため、品質上および生産性の点で問題があった。また、当然のことながら、焼成法ではアンモニアを含有する結晶質リン酸ジルコニウムを合成することができない。一方、湿式法や水熱法は、均質な微粒子状リン酸ジルコニウムを得ることが可能ではあるが、P/Zr比が1.5および下記式〔3〕で示されるようなP/Zr比が2以外の結晶質リン酸ジルコニウムは知られていなかった。
NH4ZrH(PO42 〔3〕
【0006】
銀、銅、亜鉛、錫、水銀、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、砒素、アンチモン、ビスマス、バリウム、カドミウムおよびクロム等のイオンは、防かび、抗菌性および防藻性を示す金属イオン(以下、抗菌性金属イオンと略称する)として古くから知られている。特に、銀イオンは消毒作用及び殺菌作用を有する硝酸銀水溶液として広く利用されている。しかしながら、上記の防かび、抗菌性又は防藻性を示す金属イオンは、人体に有毒である場合が多く、使用方法、保存方法及び廃棄方法等において種々の制限があり、用途も限定されていた。
【0007】
防かび、抗菌性または防藻性を発揮させるには、適用対象に対して微量の抗菌性金属を作用させれば充分である。このことから、防かび、抗菌性または防藻性を具備する抗菌剤として、抗菌性金属イオンをイオン交換樹脂またはキレート樹脂などに担持させた有機系担持抗菌剤、および抗菌性金属イオンを粘土鉱物、無機イオン交換体または多孔質体に担持させた無機系抗菌剤が提案されている。
【0008】
上記各種抗菌剤において、無機系抗菌剤は有機系担持のものに比べて安全性が高いうえ、抗菌効果の持続性が長く、しかも耐熱性に優れる特長を有している。
無機系抗菌剤の一つとして、モンモリロナイトおよびゼオライトなどの粘土鉱物中のナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンと銀イオンとをイオン交換させた抗菌剤が知られている。これは粘土鉱物自体の骨格構造が耐酸性に劣るため、例えば酸性溶液中では容易に銀イオンが溶出し、抗菌効果の持続性がない。
また、銀イオンは、熱および光の暴露に対して不安定であり、すぐ金属銀に還元されてしまい、着色を起こすなど、長期間の安定性に問題があった。
【0009】
銀イオンの安定性をあげるため、ゼオライトに銀イオンとアンモニウムイオンをイオン交換により共存させて担持したものがある。しかし、このものでも着色の防止は、実用レベルに至らず、根本的な解決には至っていない。
更に、他の無機系抗菌剤として、吸着性を有する活性炭に抗菌性金属を担持させた抗菌剤がある。しかし、これらは溶解性の抗菌性金属塩を物理的に吸着または付着させているため、水分と接触させると抗菌性金属イオンが急速に溶出してしまい、抗菌効果の持続性がない。
【0010】
最近、特殊なリン酸ジルコニウム塩に抗菌性金属イオンを担持させた抗菌剤が提案されている。例えば、下記の式〔4〕のものが知られている(例えば、特許文献4参照)。
12xHyAz(PO42・nH2O 〔4〕
(式〔4〕において、M1は4価金属より選ばれる一種、M2は銀、銅、亜鉛、錫、水銀、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、砒素、アンチモン、ビスマス、バリウム、カドミウム又はクロムより選ばれる一種、Aはアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンより選ばれる一種、nは0≦n≦6を満たす数、x、y及びzは、0<(l)×(x)<2、0<y<2、0<z<0.5及び(l)×(x)+y+z=2の各式を満たす数である。但し、lはM2の価数とする。)
この抗菌剤は化学的および物理的に安定であり、長期間、防かびおよび抗菌性を発揮する材料として知られている。しかし、ナイロンなどの合成樹脂に練り込むとき、樹脂全体が着色する場合があり、製品として使用できないことがあった。
【0011】
【特許文献1】特開平6−48713号公報
【特許文献2】特開平5−17112号公報
【特許文献3】特開昭60ー239313号公報
【特許文献4】特開平3−83906号公報
【非特許文献1】C.JAGER、他3名、「31P and 29Si NMR Investigatios of the Structure of NASICON-Strukturtyps」、Expermentelle Technik der Physik、1988年、36巻、4/5号、p339−348
【非特許文献2】C.JAGER、他2名、「31P MAS NMR STUDY OF THE NASICON SYSTEM Na1+4yZr2-y(PO4)3」、Chemical Physics Letters、1988年、150巻、6号,p503−505
【非特許文献3】H.Y-P.HONG,「CRYSTAL STRUCTURE AND CYSTAL CHEMISTRY IN THE SISTEM Na1+xZr2SixP3-xO12」,Mat.Res.Bull.、11巻,p173−182
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、耐熱性や耐薬品性に優れ、且つ樹脂着色性が少なく加工性に優れる銀系無機抗菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記一般式〔1〕で示されるハフニウムを含有している銀イオン含有のリン酸ジルコニウムにより課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
AgabZrcHfd(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、cおよびdは、1.75<(c+d)<2.25であり、a+b+4(c+d)=9を満たす数であり、nは0または2以下の正数である。
【0014】
また、本発明は、下記一般式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウムに銀イオンをイオン交換により保持させた銀系無機抗菌剤である。
b1ZrcHfd(PO43・nH2O 〔2〕
式〔2〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、b1、cおよびdは正数であり、1.75<(c+d)<2.25、b1+4(c+d)=9を満たす数であり、nは2以下の正数である。
【0015】
また、本発明は、湿式合成法または水熱合成法で作製したリン酸ジルコニウムに銀イオンをイオン交換により保持させた銀系無機抗菌剤である。
また、本発明は、上記記載の銀系無機抗菌剤を含有する抗菌製品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハフニウムを含有する銀系無機抗菌剤は、既存のリン酸ジルコニウム系抗菌剤に比較し抗菌活性および耐変色防止性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明について説明する。本発明の銀系無機抗菌剤は、上記一般式〔1〕で示されるものである。
【0018】
式〔1〕において、Mとしては、アルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、アルカリ金属イオンおよび水素イオンを有しているものが銀イオンとのイオン交換性および合成の容易さから更に好ましい。
【0019】
式〔1〕において、Mで示されるアルカリ金属イオンとしては、Li、Na、K、Rb、およびCsが例示され、これらは単独でも複数混合されていてもよい。なかでも好ましいアルカリ金属イオンは、銀イオンとのイオン交換性および合成の容易さなどよりNaイオンまたはKイオンであり、より好ましくはNaイオンである。
【0020】
式〔1〕において、aは、正数であり、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.03以上であり、そしてaは、1以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。式〔1〕においてaが0.01未満では、抗菌性が十分発現しない恐れがあり好ましくない。
【0021】
式〔1〕において、bは、正数であり、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.3以上である。なお、bが0.1未満では、変色しやすくなる場合があるため好ましくない。またbは、好ましくは2未満であり、より好ましくは1.8以下であり、更に好ましくは1.72以下であり、特に好ましくは1.5以下である。
【0022】
式〔1〕において、bは、アルカリ金属イオン、水素イオン、および/またはアンモニウムイオンの合計数である。アンモニウムイオンを有する場合、水素イオンを有しないことも有るが、アルカリ金属イオンと水素イオンとを比べると、水素イオンが多いほうが好ましい。
アンモニウムイオンを有しない場合、水素イオンを有しないことも有るが、アルカリ金属イオンと水素イオンとを比べると、水素イオンが多いほうが好ましい。なお、アンモニウムイオンを有しない場合は、水素イオンを有することが好ましい。
【0023】
本発明においてアルカリ金属イオンは、式〔1〕において2未満が好ましく、1.8未満がより好ましく、1.4未満が更に好ましく、0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が更に好ましい。
本発明において水素イオンは、式〔1〕において2未満が好ましく、1.8未満がより好ましく、1.4未満が更に好ましく、0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が更に好ましい。
本発明においてアンモニウムイオンは、式〔1〕において1未満が好ましく、0.8未満がより好ましく、0.4未満が更に好ましく、0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が更に好ましい。
【0024】
式〔1〕においてcおよびdは、1.75<(c+d)<2.25であり、1.8超が好ましく、1.82以上がより好ましく、1.85以上が更に好ましい。また、cは、2.2未満が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.05以下が更に好ましい。
c+dが1.75以下のものは、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの均質なものが得られ難いことがあるため好ましくない。また、式〔1〕においてdは、0.2以下が好ましく、0.001〜0.15がより好ましく、更に好ましくは0.005〜0.1である。この範囲であると、本発明の抗菌剤が得られるので好ましい。
【0025】
式〔1〕においてnは、1以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5であり、0.03〜0.3の範囲が更に好ましい。nが2超では、本発明の銀系無機抗菌剤に含まれる水分の絶対量が多く、加工時等に発泡や加水分解などを生じる恐れがあり好ましくない。
【0026】
本発明の銀系無機抗菌剤を合成するときに用いるリン酸ジルコニウムとしては、上記式〔2〕のものを用いることが好ましい。
式〔2〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、b1、cおよびdは正数であり、1.75<(c+d)<2.25、b1+4(c+d)=9を満たす数であり、nは2以下の正数である。そして、b1は、b1=a+b(aとbとは式(1)のものである)である。また式〔2〕において、cおよびdは、式(1)のcおよびdと同じである。
【0027】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、各種原料を水溶液中で反応させる湿式法または水熱法である。具体的には、湿式法はジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、アルカリ金属化合物、アンモニアまたはその塩、シュウ酸またはその塩、およびリン酸またはその塩など、所定量含有する水溶液をpH4以下に調整後、70℃以上の温度で常圧下に加熱することで、合成することできる。一方、水熱法は、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、アルカリ金属化合物、アンモニアまたはその塩、シュウ酸またはその塩、およびリン酸またはその塩など、所定量含有する水溶液をpH4以下に調整後、100℃以上の温度で加圧下に加熱することで、合成することできる。なお、水熱法の場合、シュウ酸またはその塩は加えなくてもリン酸ジルコニウムを合成することも可能である。合成後のリン酸ジルコニウムは、さらに濾別し、よく水洗後に乾燥、軽く粉砕することで白色の微粒子リン酸ジルコニウムが得られる。
【0028】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用することができるジルコニウム化合物には、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ塩化ジルコニウムなどが例示され、反応性や経済性などを考慮すると好ましくはオキシ塩化ジルコニウムである。
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用することができるハフニウム原料は、水溶性または酸可溶性のハフニウム塩であり、塩化ハフニウム、オキシ塩化ハフニウム、およびハフニウムエトキシドなどが例示され、ハフニウムを含有するジルコニウム化合物も使用できる。特に、ジルコニウム化合物にハフニウムを含有するものが好ましく、反応性や経済性などを考慮すると好ましくはハフニウムを含有するオキシ塩化ジルコニウムである。本発明において、ハフニウムの含有率は、得られる銀系無機抗菌剤の性能から、ジルコニウムに対して0.2%以上〜5%以下が好ましく、1%以上〜4%以下がより好ましい。
式〔1〕におけるハフニウムの含有率は、合成に用いる式〔2〕の含有率と同等であることが好ましい。
【0029】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるシュウ酸またはその塩としては、シュウ酸2水和物、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素ナトリウム、およびシュウ酸水素アンモニウムなどが例示され、好ましくはシュウ酸2水和物である。
【0030】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるアルカリ金属化合物としては、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウムまたは水酸化カリウムなどが好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるアンモニアまたはその塩としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、アンモニア水、シュウ酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸アンモニウムなどが例示でき、好ましくは塩化アンモニウムまたはアンモニア水である。
【0031】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるリン酸またはその塩としては、可溶性または酸可溶性の塩が好ましく、これらとしてリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸アンモニウムなどが例示され、より好ましくはリン酸である。なお、当該リン酸の濃度としては、60%〜85%程度の濃度のものが好ましい。
【0032】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときのリン酸またはその塩とジルコニウム化合物とのモル比率(ジルコニウム化合物を1として)は、1.3超〜2未満であり、より好ましく1.4〜1.71未満であり、さらに好ましくは1.45〜1.67であり、特に好ましくは1.48〜1.65である。
即ち、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、ジルコニウム化合物1モル当たりリン酸またはその塩のモルが1.3超〜2未満の範囲にある湿式法または水熱法である。
【0033】
また、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときのリン酸またはその塩とアンモニアまたはその塩とのモル比率(アンモニアまたはその塩を1として)は、0.3〜10が好ましく、更に1〜10が好ましく、特に好ましくは2〜5である。
即ち、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、アンモニアまたはその塩を含有する湿式法または水熱法である。
【0034】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムを湿式法で合成するときのリン酸またはその塩とシュウ酸またはその塩とのモル比率(シュウ酸またはその塩を1として)は、1〜6が好ましく、より好ましく1.5〜5であり、更に好ましくは1.51〜4であり、特に好ましくは1.52〜3.5である。水熱法で合成する場合にはシュウ酸またはその塩は必須成分でなく、適宜調製することが可能である。
即ち、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、シュウ酸またはその塩を含有する湿式法または水熱法である。
【0035】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときの反応スラリー中の固形分濃度は、3wt%以上が好ましく、経済性など効率を考慮すると7%〜15%の間がより好ましい。
【0036】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成時のpHは、1以上4以下が好ましく、より好ましくは1.5〜3.5、更に好ましくは2〜3であり、特に好ましくは2.2〜3である。当該pHが4超であると、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。当該pHが1未満であると式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。このpHの調整には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア水などが好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0037】
また、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときの合成温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましく、特に好ましくは95℃以上である。また、合成温度としては、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。当該温度が70℃未満であると、本発明のリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。また当該温度が170℃超であるとエネルギー的に不利であることから好ましくない。
【0038】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成時には原料が均質に混合され、反応が均一に進むように攪拌することが望ましい。
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成時間は、合成温度により異なる。例えば、本発明のリン酸ジルコニウムの合成時間として2時間以上が好ましく、3時間〜72時間がより好ましく、4時間〜48時間が更に好ましい。
【0039】
式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムのメジアン径は、0.1〜5μmの間のものを合成することが可能である。式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムのメジアン径は、0.1〜5μmが好ましく、0.2〜3μmがより好ましく、0.3〜2μmが更に好ましい。なお、各種製品への加工性を考慮すればメジアン径のみでなく、最大粒径も重要である。このことから、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの最大粒径は10μm以下にすることが好ましく、8μm以下にすることが更に好ましく、6μm以下にすることが効果を発揮できることから特に好ましい。
【0040】
本発明の銀系無機抗菌剤の原料として用いることができる式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムとして、下記のものが例示できる。ただし、アンモニウムイオンを有するものはイオン交換性が低いため、高い銀イオン交換率を得たい場合には、必要に応じ焼成などを実施することでアンモニウムイオンを脱離させ、イオン交換性が高いH型としたほうがよい場合もある。
(NH41.4Zr1.88Hf0.02(PO43・0.05H2
(NH41.24Zr1.92Hf0.02(PO43・0.15H2
Na0.6(NH40.84Zr1.87Hf0.02(PO43・0.3H2
Na1(NH40.44Zr1.87Hf0.02(PO43・0.2H2
Na0.60.3(NH40.42Zr1.90Hf0.02(PO43・0.2H2
0.92(NH40.44Zr1.89Hf0.02(PO43・0.1H2
Na0.72(NH4)Zr1.80Hf0.02(PO43・0.2H2
Na0.30.34(NH4)Zr1.82Hf0.02(PO43・0.1H2
Na(NH40.76Zr1.79Hf0.02(PO43・0.1H2
Na0.60.4(NH40.6Zr1.83Hf0.02(PO43・0.3H2
Na1.2Zr1.93Hf0.02(PO43・0.1H2
Na0.241.36Zr1.83Hf0.02(PO43・0.11H2
1.4Zr1.88Hf0.02(PO43・0.15H2
0.60.6Zr1.93Hf0.02(PO43・0.1H2
Na1.12Zr1.95Hf0.02(PO43
NaH0.12Zr1.95Hf0.02(PO43
Na1.48Zr1.86Hf0.02(PO43
Na0.48HZr1.86Hf0.02(PO43
Na0.72HZr1.80Hf0.02(PO43
Na0.61.12Zr1.80Hf0.02(PO43
【0041】
本発明における銀系無機抗菌剤を得るには、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムに対し銀イオンを付加する必要がある。この銀イオンの付加は、イオン交換により行うことができ、この方法は、適切な濃度の銀イオンを含有する水溶液に式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムを浸漬することにより行うことができる。また、当該浸漬時には、攪拌等することで均一に混合される状態をつくることが好ましい。浸漬する量は、水溶液に対し均一に混合できる濃度であればよく、そのためには式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムが30重量%以下が好ましい。銀イオンを含有する水溶液の調整には、イオン交換水に硝酸銀を溶解した水溶液を使用することが好ましい。イオン交換時の水溶液の温度は、0〜100℃で可能であり、好ましくは20〜80℃である。このイオン交換は速やかに行われるので、浸漬時間は5分以内でも可能であるが、均一で高い銀イオン交換率を得るためには30分〜5時間が好ましい。これを5時間以上行っても、銀イオンの交換がそれ以上進まない。
銀イオン交換終了後は、これをイオン交換水などでよく水洗後、乾燥することにより、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムに銀イオンが保持した本発明の銀系無機抗菌剤を得ることができる。
【0042】
本発明の銀系無機抗菌剤の耐変色性を向上させるためには、上記で得た銀系無機抗菌剤を焼成することが好ましい。この耐変色性を向上させるため、銀イオン交換を実施前のものでも可能であるが、十分な耐変色性を得るためには銀イオン交換後に実施することが特に好ましい。当該焼成温度は、550℃〜1000℃が好ましいく、600〜900℃がより好ましく、630〜800℃で焼成することが耐変色性向上のためには更に好ましい。また、焼成時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、耐変色性向上のためには4時間以上が更に好ましい。この焼成時間は、48時間以下が好ましく、36時間以下が更に好ましい。
焼成終了後は、長時間放置すると吸湿する可能性があるため、24時間以内に冷却することが好ましく、18時間以内に冷却することが更に好ましい。また、焼成後、本発明の銀系無機抗菌剤が凝固していることがあるので、粉砕機を用いて凝固したものを砕いても良い。この場合、吸湿性などを考慮して粉砕時間は短いほうがよい。
【0043】
本発明の銀系無機抗菌剤として下記のものが例示できる。
Ag0.21.2Zr1.88Hf0.02(PO43・0.05H2
Ag0.11.14Zr1.92Hf0.02(PO43・0.15H2
Ag0.2Na0.4(NH4)0.84Zr1.87Hf0.02(PO43・0.3H2
Ag0.3Na0.11.04Zr1.87Hf0.02(PO43・0.2H2
Ag0.5Na0.20.3(NH40.32Zr1.90Hf0.02(PO43・0.2H2
Ag0.40.60.36Zr1.89Hf0.02(PO43・0.1H2
【0044】
本発明の銀系無機抗菌剤の使用形態には、特に制限がなく、用途に応じて適宜他の成分と混合したり、他の材料と複合することができる。例えば、粉末、粉末含有分散液、粉末含有粒子、粉末含有塗料、粉末含有繊維、粉末含有紙、粉末含有プラスチック、粉末含有フィルム、粉末含有エアーゾル等の種々の形態で用いることができ、更に必要に応じて、消臭剤、防炎剤、防食、肥料及び建材等の各種の添加剤あるいは材料と併用することもできる。
【0045】
本発明の銀系無機抗菌剤には、樹脂への練り込み加工性やその他の物性を改善するため、必要に応じて種々の添加剤を混合することもできる。具体例としては酸化亜鉛や酸化チタンなどの顔料、リン酸ジルコニウムやゼオライトなどの無機イオン交換体、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸などの滑剤、防湿剤および増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤などがある。
【0046】
本発明の銀系無機抗菌剤を樹脂と配合することにより抗菌性樹脂組成物を容易に得ることができる。用いることができる樹脂の種類は特に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂、半合成樹脂のいずれであってもよく、また熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的な樹脂としては成形用樹脂、繊維用樹脂、ゴム状樹脂のいずれであってもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアセタ−ル、ポリカ−ボネイト、PBT、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマ−、ポリエステルエラストマ−、メラミン、ユリア樹脂、四フッ化エチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、レ−ヨン、アセテ−ト、アクリル、ポリビニルアルコ−ル、キュプラ、トリアセテ−ト、ビニリデンなどの成形用または繊維用樹脂、天然ゴム、シリコ−ンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム、ブタジエンゴム、合成天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどのゴム状樹脂がある。また、本発明の銀系無機抗菌剤を天然繊維の繊維と複合化させて、抗菌繊維を作製することもできる。
【0047】
本発明の銀系無機抗菌剤の抗菌性樹脂組成物における配合割合は、抗菌性樹脂組成物100重量部に対して0.03〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。0.03重量部未満であると抗菌性樹脂組成物の抗菌性が不十分である場合があり、一方、10重量部より多く配合しても抗菌効果の向上がほとんどなく非経済的な上、樹脂物性の低下が著しくなる場合がある。
【0048】
本発明の銀系無機抗菌剤を樹脂へ配合し樹脂成形品とする加工方法は、公知の方法がどれも採用できる。例えば、(1)銀系無機抗菌剤粉末と樹脂とが付着しやすくするための添着剤や抗菌剤粉末の分散性を向上させるための分散剤を使用し、ペレット状樹脂またはパウダー状樹脂をミキサーで直接混合する方法、(2)前記のようにして混合して、押し出し成形機にてペレット状に成形した後、その成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(3)銀系無機抗菌剤をワックスを用いて高濃度のペレット状に成形後、そのペレット状成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(4)銀系無機抗菌剤をポリオ−ルなどの高粘度の液状物に分散混合したペ−スト状組成物を調製後、このペーストをペレット状樹脂に配合する方法などがある。
【0049】
上記の抗菌性樹脂組成物の成形には、各種樹脂の特性に合わせて公知の加工技術と機械が使用可能である。即ち、適当な温度または圧力で、例えば加熱および加圧または減圧しながら混合、混入または混練りの方法によって容易に調製することができる。それらの具体的操作は常法により行えば良く、塊状、スポンジ状、フィルム状、シート状、糸状またはパイプ状或いはこれらの複合体など、種々の形態に成形加工できる。
【0050】
本発明の銀系無機抗菌剤の使用形態には特に制限はなく、樹脂成形品や高分子化合物に配合することに限定されることはない。防黴性、防藻性および抗菌性が必要とされる用途に応じて適宜他の成分と混合したり、他の材料と複合させることができる。例えば、粉末状、粉末分散液状、粒状、エアゾ−ル状、または液状などの種々の形態で用いることができる。
【0051】
○用途
本発明の銀系無機抗菌剤は、防カビ、防藻および抗菌性を必要とされる種々の分野、即ち電化製品、台所製品、繊維製品、住宅建材製品、トイレタリー製品、紙製品、玩具、皮革製品、文具およびその他の製品などとして利用することができる。
さらに具体的用途を例示すると、電化製品としては食器洗浄機、食器乾燥機、冷蔵庫、洗濯機、ポット、テレビ、パソコン、ラジカセ、カメラ、ビデオカメラ、浄水器、炊飯器、野菜カッタ−、レジスタ−、布団乾燥器、FAX、換気扇、エア−コンデショナ−などがあり、台所製品としては、食器、まな板、押し切り、トレ−、箸、給茶器、魔法瓶、包丁、おたまの柄、フライ返し、弁当箱、しゃもじ、ボ−ル、水切り篭、三角コ−ナ−、タワシいれ、ゴミ篭、水切り袋などがある。
【0052】
繊維製品としては、シャワ−カ−テン、布団綿、エアコンフィルタ−、パンスト、靴下、おしぼり、シ−ツ、布団カバー、枕、手袋、エプロン、カ−テン、オムツ、包帯、マスク、スポ−ツウェアなどがあり、住宅・建材製品としては、化粧板、壁紙、床板、窓用フィルム、取っ手、カ−ペット、マット、人工大理石、手摺、目地、タイル、ワックスなどがある。またトイレタリー製品としては、便座、浴槽、タイル、おまる、汚物いれ、トイレブラシ、風呂蓋、軽石、石鹸容器、風呂椅子、衣類篭、シャワ−、洗面台などがあり、紙製品としては、包装紙、薬包紙、薬箱、スケッチブック、カルテ、ノート、折り紙などがあり、玩具としては、人形、ぬいぐるみ、紙粘土、ブロック、パズルなどがある。
【0053】
さらに皮革製品としては、靴、鞄、ベルト、時計バンドなど、内装品、椅子、グロ−ブ、吊革などがあり、文具としては、ボ−ルペン、シャ−プペン、鉛筆、消しゴム、クレヨン、用紙、手帳、フレキシブルディスク、定規、ポストイット、ホッチキスなどがある。
その他の製品としてはインソ−ル、化粧容器、タワシ、化粧用パフ、補聴器、楽器、タバコフィルタ−、掃除用粘着紙シ−ト、吊革握り、スポンジ、キッチンタオル、カ−ド、マイク、理容用品、自販機、カミソリ、電話機、体温計、聴診器、スリッパ、衣装ケ−ス、歯ブラシ、砂場の砂、食品包装フィルム、抗菌スプレ−、塗料などがある。
【0054】
<実施例>
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
メジアン径は、レーザー回折式粒度分布を用いて体積基準により測定した。
ジルコニウム、ハフニウム、リン、ナトリウム、カリウムおよび銀の量は、強酸を用いて検体を溶解後、この液をICP発光分光分析計にて測定し算出した。アンモニアの量は、強酸を用いて検体を溶解後、この液をインドフェノール法にて測定し算出した。
【0055】
<合成例1>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.2モルおよび塩化アンモニウム0.1モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウム化合物を合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na0.6(NH40.4Zr1.98Hf0.02(PO43・0.09H2
であり、メジアン径は、0.65μmであった。
【0056】
<合成例2>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.19モルおよび塩化アンモニウム0.13モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウム化合物を合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na1.0(NH40.6Zr1.83Hf0.02(PO43・0.09H2
であり、メジアン径は、0.68μmであった。
【0057】
<合成例3>
純水300mlに、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルおよび塩化アンモニウム0.1モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、140℃飽和蒸気圧下で4時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウム化合物を合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na0.8(NH40.4Zr1.93Hf0.02(PO43・0.09H2
であり、メジアン径は、0.55μmであった。
【0058】
<合成例4>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルおよび塩化アンモニウム0.11モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.9に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na0.5(NH40.7Zr1.93Hf0.02(PO43・0.1H2
であり、メジアン径は、0.55μmであった。
【0059】
<合成例5>
純水300mlに蓚酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.185モルおよび塩化アンモニウム0.14モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.9に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na0.24(NH41.36Zr1.83Hf0.02(PO43・0.11H2
であり、メジアン径は、0.44μmであった。
【0060】
<合成例6>
純水300mlに蓚酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.19モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を28%アンモニア水を用いてpH2.9に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
(NH41.4Zr1.88Hf0.02(PO43・0.15H2
であり、メジアン径は、0.42μmであった。
【0061】
<合成例7>
純水300mlに蓚酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルおよび塩化アンモニウム0.07モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH2.7に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na0.8(NH40.4Zr1.93Hf0.02(PO43・0.09H2
であり、メジアン径は、0.60μmであった。
【0062】
<合成例8>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH2.7に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na1.2Zr1.93Hf0.02(PO43・0.1H2
であり、メジアン径は、0.64μmであった。
【0063】
<合成例9>
純水300mlに蓚酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.185モルおよび塩化アンモニウム0.14モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH2.9に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥し、さらに700℃で4時間焼成することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
Na0.241.36Zr1.83Hf0.02(PO43・0.11H2
であり、メジアン径は、0.43μmであった。
【0064】
<合成例10>
純水300mlに蓚酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.19モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を28%アンモニア水を用いてpH2.9に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥し、さらに700℃で4時間焼成することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式などを測定したところ、組成式は、
1.4Zr1.88Hf0.02(PO43・0.15H2
であり、メジアン径は、0.34μmであった。
【実施例1】
【0065】
硝酸銀0.004モルを溶解した1N硝酸水溶液450mlに、合成例1で合成したリン酸ジルコニウム0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを720℃で4時間焼成した。焼成後の粉末を軽く粉砕することで、本発明の銀系無機抗菌剤を得た。この銀系無機抗菌体の組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.07Na0.380.55Zr1.98Hf0.02(PO43・0.1H2
であった。そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【実施例2】
【0066】
硝酸銀0.015モルを溶解した1N硝酸水溶液450mlに、合成例2で合成したリン酸ジルコニウム0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを720℃で4時間焼成した。焼成後の粉末を軽く粉砕することで、本発明の銀系無機抗菌剤を得た。
この銀系無機抗菌体の組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.17Na0.071.36Zr1.83Hf0.02(PO43・0.11H2
であった。そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対するMIC(μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【実施例3】
【0067】
硝酸銀0.045モルを溶解した1N硝酸水溶液450mlに、合成例3で合成したリン酸ジルコニウム0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを700℃で4時間焼成した。焼成後の粉末を軽く粉砕することで、本発明の銀系無機抗菌剤を得た。
この銀系無機抗菌体の組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.46Na0.40.34Zr1.93Hf0.02(PO43・0.12H2
であった。そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対するMIC(μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0068】
<実施例4〜10>
合成例1で合成したリン酸ジルコニウムを合成例4、5、6、7、8、9、または10で合成した物に替えた以外は実施例1と同様に操作し、本発明の銀系無機抗菌剤を得た。これらの大腸菌に対するMICは実施例1のものと同等であった。
【0069】
<比較例1>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.2モルおよび塩化アンモニウム0.05モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH2.5に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄後、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
硝酸銀0.004モルを溶解した1N硝酸水溶液450mlに、上記で合成したリン酸ジルコニウム0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥後の粉末を軽く粉砕することで比較銀系無機抗菌剤を得た。この比較銀系無機抗菌体の組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.07Na0.45(NH40.48Zr2(PO43・0.11H2
であった。そして、この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0070】
<比較例2>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.2モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを3.6に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することにリン酸ジルコニウムを合成した。
硝酸銀0.015モルを溶解した1N硝酸水溶液450mlに、上記で合成したリン酸ジルコニウム0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥したものを770℃で4時間焼成した。焼成後の粉末を軽く粉砕することで比較銀系無機抗菌剤を得た。この比較銀系無機抗菌体の組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.17Na0.83Zr2(PO43・0.12H2
であった。そして、この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、メジアン径、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0071】
<比較例3>
純水300mlに、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.2モルおよび塩化アンモニウム0.05モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを3.6に調整後、得られた沈殿物をよく洗浄し、900℃で焼成した。焼成により得られた塊状物をボールミルを用いて粉砕することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
硝酸銀0.045モルを溶解した1N硝酸水溶液450mlに、上記で合成したリン酸ジルコニウム0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥したものを770℃で4時間焼成した。焼成後の粉末を軽く粉砕することで比較銀系無機抗菌剤を得た。この比較銀系無機抗菌体の組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.44Na0.220.34Zr2(PO43・0.11H2
であった。そして、この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0072】
<比較例4>
硝酸銀0.045モルを溶解した水溶液450mlに、市販のA型ゼオライト0.09モルを加え、60℃で2時間攪拌することで銀イオンを保持させた。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥した。乾燥後の粉末を軽く粉砕することで比較銀系無機抗菌剤を得た。ここの比較銀系無機抗菌剤のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
<実施例11:成型加工品での評価>
実施例1で得られた銀系無機抗菌剤を宇部興産製ナイロン6樹脂に0.15%配合し、280℃で厚さ2mmのプレートを射出成型し、成形品aを得た。この成形品aと抗菌剤を添加していないプレートとの色差ΔEを色彩色差計を用いて測定した。この結果を表2に示した。また、この射出成型プレートを用いて、JIS Z2801 5.2プラスチック製品などの試験方法による抗菌性試験を実施した。この得られた抗菌活性値の結果も表2に示した。
同様に、実施例2〜3および比較例1〜4で作製した銀系無機抗菌剤および比較銀系無機抗菌剤を用いて、成形品b〜cおよび比較成形品d〜gを作製した。これらの成形品についても色差および抗菌活性を測定し、これらの結果を表2に示した。
【0075】
【表2】

【0076】
<実施例12:塗膜での評価>
実施例1で得られた銀系無機抗菌剤を水系UV塗料(アクリル系)に対して0.2重量部添加し、良く攪拌して分散させた。この分散液を20cm×10cmのOHPフィルムに5g程度のせ、バーコーダー(#60)を用いて均一な塗膜を作製した。塗膜を50℃、10分乾燥して、80W、10m/minでUVを照射して塗膜を硬化させ、塗膜aを得た。同様に、実施例2〜3および比較例1〜4で作製した銀系無機抗菌剤および比較銀系無機抗菌剤を用いて、塗膜b〜cおよび比較塗膜d〜gを作製した。これらの塗膜の色彩を色彩色差計を用いて測定し、抗菌剤を添加していない塗膜の色彩との色差ΔEの結果を表3に示した。また、これらの塗膜を用いて、JIS Z2801 5.2プラスチック製品などの試験方法による抗菌性試験を実施し、得られた抗菌活性値の結果も表3に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
<実施例13:ナイロンの紡糸試験>
ナイロン樹脂に実施例1で作製した銀系無機抗菌剤を10wt%になるように配合し、マスターバッチを作製した。そして、このマスターバッチとナイロン樹脂ペレットとを混合し、銀系無機抗菌剤が0.3wt%となるように抗菌樹脂を調製した。そして、この抗菌樹脂についてマルチフィラメント紡糸機を用いて、紡糸温度285℃で溶融紡糸し、24フィラメントの抗菌剤含有ナイロン繊維を(繊維a)を得た。同様に、実施例2〜3および比較例1、2および4で作製した銀系無機抗菌剤および比較銀系無機抗菌剤を用いて、繊維b〜cおよび比較繊維d、eおよびgを作製した。なお、比較例3をもちいた場合は繊維が得られなかった。得られた抗菌剤含有ナイロン繊維は精練後および洗濯10回後に、黄色ブドウ球菌を用いたJIS L 1902-1998の定量試験により抗菌性を評価し、それらの結果を表4に示した。
【0079】
【表4】

【0080】
これらの結果から、本発明の銀系無機抗菌剤は、紡糸性などの加工性に優れており、プラスチック製品に配合した際の耐変色性にも優れている。また、本発明の銀系無機抗菌剤は、既存の銀系無機抗菌剤に比べ、抗菌効果の耐久性も認められた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の新規の銀系無機抗菌剤は、均一かつ微粒子であるため加工性に優れており、しかもプラスチック製品の耐変色性および抗菌性にも優れている。従って、細い繊維や塗料などの加工性が重要と成る用途などにも適用性の高い抗菌剤として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式〔1〕で表される銀系無機抗菌剤。
AgabZrcHfd(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、cおよびdは1.75<(c+d)<2.25であり、a+b+4(c+d)=9を満たす数であり、nは0または2以下の正数である。
【請求項2】
下記一般式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウムに銀イオンをイオン交換により保持させた請求項1記載の銀系無機抗菌剤。
b1ZrcHfd(PO43・nH2O 〔2〕
式〔2〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、b1、cおよびdは正数であり、cおよびdは、1.75<(c+d)<2.25であり、b1+4(c+d)=9を満たす数であり、nは2以下の正数である。
【請求項3】
湿式合成法または水熱合成法で作製したものを用いる請求項2記載の一般式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の銀系無機抗菌剤を含有する抗菌製品。

【公開番号】特開2008−74778(P2008−74778A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256806(P2006−256806)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】