説明

銀超微粒子の製造方法及び銀粉末、銀超微粒子分散液

【課題】比較的低温、望ましくは100℃以下の低い温度で、また比較的高い銀塩/ポリオール濃度で、効率的に銀超微粒子を製造する方法を提供すること、また、これにより平均粒径が1nm〜100nm以下、とりわけ数nm〜数十nmのオーダーで、粒度分布が狭く、かつ保存安定性に優れた銀超微粒子(銀粉末)を提供するとともに、該銀超微粒子を安価に、かつ工業的規模で生産すること。
【解決手段】銀超微粒子の製造方法であって、銀塩と、平均分子量400〜20,000のポリエチレングリコールと、安定化剤とを混合し、加熱して銀超微粒子を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀超微粒子の製造方法及び銀粉末、銀超微粒子分散液に関し、特に安定性の優れた銀超微粒子の製造方法及び銀粉末、分散安定性の良好な銀超微粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が100nm以下、特に数nm〜数十nmオーダーの金属の超微粒子は、高い表面活性を利用した触媒、吸着剤、吸収剤として用いられる。このほか、溶剤や樹脂等の液状分散媒に分散させてフィルム状、ペースト状、塗料状またはインク状とし、各種電子回路や半導体素子の電極、配線などの導体パターンや、透明導電膜、帯電防止膜、電磁波遮蔽膜、カラーフィルタ、機能性フィルム等の、導電性被膜を形成するための材料としても使用される。特に、このようなナノメートルサイズの金属微粒子(ナノ粒子)は、通常厚膜導体ペーストの導電性フィラーとして使用されるマイクロメートルサイズの金属粉末に比べてはるかに低温で焼結するので、100〜300℃程度の低い温度で熱処理することにより、高い導電性を有する導電性被膜が得られる。また、粒子が微細であるため薄く緻密で、微細な導体パターンを形成することができる。このため、エレクトロニクス分野での応用が期待されている。さらには、導体パターンをインクジェット印刷により形成するために用いる、インクジェットインキ用の導電性フィラーとしても適していると考えられる。また、通常の厚膜導体ペーストの添加剤、即ち導電性向上剤、焼結促進剤等としても利用することができる。さらに、抗菌剤、医薬品としての用途も重要である。
【0003】
これらの用途において、特に被膜形成材料に使用したり、担体に担持させて用いたりする場合、金属超微粒子は、均一で、分散媒中で高度に分散した安定な状態で存在することが要求される。さらに分散液の状態でもまた粉末の状態でも、長期保存が可能であることが望まれる。
【0004】
従来、このような金属の超微粒子を製造する方法としては、金属を真空中、若干の不活性ガスの存在下で蒸発、冷却することによって超微粒子を得る不活性ガス中蒸発法、金属塩などの蒸気をガス還元する気相化学反応法などの気相法がある。また金属アルコキシドの加水分解によるゾルゲル法や、金属塩を液相中で水素ガスや還元剤で還元してコロイド粒子分散液を得る方法に代表される、液相法もよく知られている。
【0005】
これらの方法の中で、気相法は、適用する原料に制限があり、また加熱等に特殊な設備が必要でコストが高く、また一度に得られる超微粒子の生成量が少なく大量生産に適していない。
【0006】
この点、液相法は原料や設備についての問題はあまりないものの、例えばゾルゲル法は、製造コストが高く、また粒径が数nmの安定した微粒子を得ることが困難である。また、液相還元で得られる超微粒子は、一般に結晶性が低く、また凝集しやすい。このため、還元剤の選択、反応条件の最適化、還元時に保護コロイドを存在させること等、種々検討がなされている。しかし、一般に、凝集防止のためには希薄溶液系で反応を行う必要があるため、効率が悪く、コストが高い。
【0007】
液相法のうち、金属の酸化物や塩類を、保護剤の存在下又は不存在下で、ポリオール(多価アルコール)中で加熱し、還元して金属微粉末を得るポリオール法は、単分散に近い、形状の揃った金属超微粒子を安価に製造できる方法として注目されている。(例えば非特許文献1及び特許文献1、特許文献2参照。)
【0008】
例えば、非特許文献1は、硝酸銀水溶液をポリビニルピロリドンの存在下、エチレングリコールを用いて加熱還元し、粒径10〜30nm程度の単分散銀超微粒子を得ることを開示している。また、特許文献1には、金属塩をポリオールに溶解し、100〜250℃に加熱して10nm以下の安定な金属粉を生成させること、特許文献2には、ポリビニルピロリドンなどの分散剤(安定化剤)の存在下または不存在下、ポリオールを用いた湿式還元で1〜300nmの超微粒子を製造し、導体ペーストに用いることが記載されている。これらポリオール法で使用されるポリオールは、具体的には液状の脂肪族グリコール又は対応のグリコールのポリエーテル、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等であるが、通常はエチレングリコールが使用される。
【0009】
非特許文献2は、酢酸パラジウムを分子量2000および4000の高分子量ポリエチレングリコールを用い、分散剤等その他の添加剤を使用せずに、80℃および120℃で還元し、パラジウムの超微粒子(ナノ粒子)の透明な溶液を生成させることが記載されている。しかし、これらの従来技術は、銀塩をポリエチレングリコールで還元することについては開示していない。
【特許文献1】特開平11−246901号公報
【特許文献2】特開2001−167631号公報
【非特許文献1】J Matel Chem 7(2) 293(97) Elhsissen et.al
【非特許文献2】Journal of Molecular Catalysis A: Chemical, 229, 7-12 (2005) C. Luo, Y. Zhang, and Y. Wang
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述のポリオール法において通常用いられるエチレングリコールは、揮発性であるため、銀超微粒子の製造時に環境汚染や人体への影響が懸念される。また低分子量ポリオールは、低温では反応性が低いため、実際には沸点近くの高温、例えばエチレングリコールでは180〜190℃で反応させる必要があるが、多量のポリオール蒸気が発生し、安全性に問題が生じる。このため、還流装置等が必要になり、大量生産に適さない。反応温度を低くすると、還元のための反応時間が長くなり、生産性が低下するとともに、凝集して金属の塊状物を生成しやすい。また、凝集を防止して高度に分散した超微粒子を得るためには、低い銀塩濃度で反応させたり、またポリビニルピロリドン等を多量に用いたりする必要があり、効率が悪く、コストが高くなるという問題もある。
【0011】
非特許文献2に記載された高分子量ポリオールを用いる方法では、得られたパラジウム超微粒子はポリエチレングリコール中に分散しており、単離することが困難である。また、この方法において、パラジウムに代えて銀を用いた場合、銀超微粒子は生成するものの安定しておらず、経時的に凝集が進み、また分離、回収する際にも凝集を生じるため、粒度の揃った高分散性の銀超微粒子や銀超微粒子分散液を得ることができない。即ち、この反応において、高分子量ポリエチレングリコールは還元剤および表面保護剤として作用するのであるが、銀超微粒子に対してはナノレベルでの安定化作用が不十分であると考えられる。
【0012】
一方、前記ポリオール法も含め、液相還元法で得られたコロイド分散液は、得られた反応溶液をそのまま使用するか、または生成した超微粒子をいったん捕集した後、これを溶媒や樹脂に再分散させて使用されるが、一般に次のような問題がある。
【0013】
(1)液相中で生成した粉末を捕集する場合、ナノメートルサイズの極めて微細な粒子が単分散していると、反応溶液中からの固液分離が難しく、捕集するために遠心分離等の特殊な操作が必要になり、工程、コストの増大を招いていた。
(2)捕集して得られた粉末は、表面活性が高いため、取扱いが難しく、特に乾燥工程や保存中に粒子同士が融着し、凝集体を作り易い。一旦凝集した超微粒子を、樹脂や溶剤中で再分散させることは困難である。
(3)超微粒子分散液を高い分散性を保ったまま、長期間安定に保つことが難しい。このため、従来は室温で保存することは困難で、通常冷凍保存などの手段が必要であった。
【0014】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、比較的低温、望ましくは100℃以下の低い温度で、また比較的高い銀塩/ポリオール濃度で、効率的に銀超微粒子を製造する方法を提供すること、また、これにより平均粒径が1nm〜100nm、とりわけ数nm〜数十nmのオーダーで、粒度分布が狭く、かつ保存安定性に優れた銀超微粒子(銀粉末)を提供するとともに、該銀超微粒子等を安価に、かつ工業的規模で生産することを目的とする。
また、本発明のさらなる目的としては、銀超微粒子の製造過程において、反応溶液からの分離、回収が容易で、樹脂や溶剤等の分散媒への再分散が優れ、高度に分散した分散液が得られるような銀超微粒子(銀粉末)を提供することであり、特に、分散安定性に優れ、室温でも長期保存が可能な銀超微粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、銀超微粒子の製造方法であって、
銀塩と、平均分子量400〜20,000のポリエチレングリコールと、安定化剤とを混合し、加熱して銀超微粒子を生成させることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の銀超微粒子の製造方法であって、
前記ポリエチレングリコールの平均分子量が600〜6,000であることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の銀超微粒子の製造方法であって、
前記銀超微粒子を塩基の存在下で生成させることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銀超微粒子の製造方法であって、
前記安定化剤が、総炭素数8〜30の飽和または不飽和直鎖脂肪酸、これらの脂肪酸の塩およびこれらの脂肪酸の酸アミドから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、銀粉末であって、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の製造方法で得られた前記銀超微粒子を反応溶液から回収した後、乾燥して得られる粉末であり、平均粒径1〜100nmの銀超微粒子からなることを特徴とする。
【0020】
請求項6記載の発明は、銀粉末であって、
請求項4に記載の製造方法で得られた前記銀超微粒子を反応溶液から回収した後、乾燥して得られる粉末であり、前記安定化剤が自己集合したロッドの表面に平均粒径1〜100nmの銀超微粒子が単分散状態で付着しているナノ複合体粒子からなることを特徴とする。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項5または請求項6で得られた前記銀粉末を、分散媒に再分散させてなる銀超微粒子分散液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、銀塩を高分子量ポリエチレングリコールで還元するに際し、安定化剤を存在させることによって、均一な粒子サイズの銀超微粒子を析出させると共に、析出した銀超微粒子を安定化剤に化学吸着させることによって安定に保持することが特徴である。即ち、高分子量ポリエチレングリコールと安定化剤によって銀超微粒子の凝集が抑制され、均一な粒子サイズになると共に、安定化剤によって安定に保持されると考えられる。これにより、平均粒径が1nm〜100nm、特に数nm〜数十nmのオーダーで、粒径の揃った、高分散性の銀超微粒子を得る。
【0023】
また、比較的低温でも銀塩の還元反応が速やかに進行する。このため従来のエチレングリコール等の低分子量ポリオールで還元する場合に比べて低い反応温度で、しかも短時間で、銀超微粒子を製造することができる。このためポリオールの突沸や急激な反応による危険がなく、また蒸発による減少もなく、効率的である。また不揮発性のポリエチレングリコールを使用するため、安全で還流装置も不要になる。このため、大幅なコストダウンができ、また工業的規模での生産が可能になる。
【0024】
本発明の方法では、原料の銀塩の濃度が高くても凝集を生じにくいので、希薄溶液系で反応を行う必要がなく、効率的である。また、銀濃度の高い分散液が得られるので、各種導電組成物の導電性フィラーや添加剤として好ましく使用されるほか、触媒担体等に高密度に担持させることが可能になるなど、実用上極めて有用である。
【0025】
生成する銀超微粒子は、粉末として容易に捕集することができる。捕集された粉末は、保存安定性が優れ、取り扱いが容易である。またこの粉末は溶剤、樹脂などの分散媒へ容易に再分散させることができる。
【0026】
本発明の銀超微粒子の分散液は、保存安定性が優れており、室温でも高度に分散した状態で長期保存が可能である。
【0027】
特に、ポリエチレングリコールとして平均分子量600〜6,000のものを用いた場合は、取扱いが容易で反応性も高いので好ましい。
【0028】
また、安定化剤として総炭素数8〜30の飽和または不飽和直鎖脂肪酸、その塩、およびその酸アミド(以下「脂肪酸類」ということもある。)を選択することによって、より特性が優れ、取扱いや捕集の容易な銀超微粒子を生成させることができる。これらの安定化剤を用いると、単分散状態の銀超微粒子が安定化剤の表面に付着した構造の銀超微粒子/脂肪酸自己集合複合体粒子が生成するため、固液分離が容易で、遠心分離等の特殊な分離手段を必要とせず、中空糸などを用いて簡単に濾過、捕集することができる。捕集して得られた複合体は、銀超微粒子同士の凝集がおこりにくく、取扱いが容易で、また再分散性も極めて優れている。
【0029】
また、還元反応をアンモニア等の塩基の存在下で行うことにより、速やかに反応を開始、進行させ、銀超微粒子を短時間で生成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る銀超微粒子の製造方法と、その製造方法により製造される銀超微粒子及びこれを用いた銀粉末、銀超微粒子分散液について詳細に説明する。
まず、銀超微粒子の製造方法に用いられる化合物について説明する。
【0031】
(銀塩)
本発明に用いられる銀超微粒子の原料として用いる塩(銀塩)は、特に制限はなく、例えば、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、蓚酸塩などの有機酸塩、塩化物などのハロゲン化物、酸化物、水酸化物、またアンモニウム錯体等の錯化合物などが例示される。特に、硝酸銀、銀アンモニウム錯体などが好ましい。
なお、銀塩と共に銀以外の金属の塩をポリエチレングリコールに溶解させることにより、これらの金属と銀との合金微粒子、または複合金属微粒子を製造することもできる。銀以外の金属としては特に制限はないが、例えば金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銅、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。これらの金属の塩としては、銀と同様、種々の無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、錯化合物などが使用される。
【0032】
(ポリエチレングリコール)
本発明に用いられるポリエチレングリコールは、反応溶媒および還元剤として作用するが、同時に析出する銀超微粒子を保護し一次粒子の凝集を防止するとともに、粘性が高いことによっても凝集を抑制し得るものである。ポリエチレングリコールは、平均分子量400〜20,000である重合度の高いものを使用する。平均分子量が400より小さいと、反応が遅く、また凝集が進むため、安定な超微粒子が得られなくなってしまう。一方、平均分子量が大きくなると、粘度や融点が高くなるため、低温で反応しにくくなったり、あるいは、突沸の危険が生じたりするなど、取扱いが困難になるため、平均分子量が20,000を超えるものは実用的でない。
特に、平均分子量が、600〜6,000のものは、取扱いが容易で反応性も高く、高分散性の超微粒子が得られやすいので好ましい。なお、ポリエチレングリコールは、異なる分子量のものを2種以上混合して用いてもよい。
【0033】
(安定化剤)
本発明に用いられる安定化剤は、反応溶液中に存在させることにより、生成する銀超微粒子を保護して安定化させ、粒成長と凝集を抑制し、また安定化させるものである。安定化剤が存在しない場合、銀超微粒子の生成を示す褐色の透明な溶液を得るが、不安定で、反応中又は経時的に凝集を生じる。
安定化剤としては、例えばポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子でもよいが、特に下記(1)〜(3)の安定化剤から選択される化合物を用いると、安定で分散性が良く、取扱いが容易で、かつ容易に分離、捕集が可能な銀超微粒子が得られるので、好ましい。これらの安定化剤は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
(1)総炭素数8〜30の飽和または不飽和直鎖脂肪酸:例えば、オクチル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、べへン酸、等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸。
(2)総炭素数8〜30の飽和または不飽和直鎖脂肪酸の塩:例えば、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アンモニウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩が好ましい。
(3)総炭素数8〜30の飽和または不飽和直鎖脂肪酸アミド:ノナン酸アミド、カプリン酸アミド、ステアリン酸アミドなど。
【0035】
前記(1)〜(3)の安定化剤は、析出する銀超微粒子と特殊な構造の複合体を形成することにより、安定化に寄与すると考えられる。
例えば、硝酸銀と平均分子量2,000のポリエチレングリコールと、安定化剤としてステアリン酸を使用して製造した銀粒子を、反応溶液から回収し、水およびアルコールで洗浄した後、乾燥して得られた粉末を透過型電子顕微鏡で観察すると、図1(a)に示すように、有機物と見られる微小ロッドが集合したような、大きさが数μm程度の樹枝状物が形成されていた。この樹枝状物の本体は、安定化剤同士が長アルキル鎖を介してロッド状自己集合してできたものであり、その表面には、10〜20nm程度の粒径の揃った球状の銀超微粒子が、互いに融着がない状態で付着していた(図1(b)参照)。これは、安定化剤と銀イオンが反応して一部ステアリン酸銀が生成し、これがアルキル鎖を介した疎水性相互作用(分子間力)により自己集合して、直径が数10〜100nm程度、長さが数μm程度のロッドを作り、同時に、還元析出した銀超微粒子がロッドの表面に均一に付着して複合体粒子を形成したものと考えられる。
【0036】
このように、安定化剤が自己集合したロッドの表面に、平均粒径1〜100nmの銀超微粒子が単分散状態で付着しているナノ複合体粒子を形成することにより、簡単に分離、捕集ができ、また銀超微粒子が極めて小さいにもかかわらず安定で、捕集後の乾燥する工程や、その後の保存過程においても、銀超微粒子同士の融着、凝集がおこりにくく、取扱いが容易になるものと推定される。
【0037】
また、得られた複合体を樹脂、溶剤などに再分散させる際には、安定化剤自身が分散剤として作用し、安定化剤で銀超微粒子の表面が薄く被覆された状態でほぐれ、ナノサイズの超微粒子として分散するため、銀超微粒子を単分散に近い状態で良好に分散させることができる。従って、使用する分散媒の種類等に応じて安定化剤を適宜選択することにより、再分散性等を改善し、目的に合った銀超微粒子分散液を得ることができる。
【0038】
また、側鎖を有する脂肪酸や、鎖長の短い脂肪酸はこのような複合体を形成し難いが、上記(1)〜(3)の側鎖を有しない飽和または不飽和の中鎖〜長鎖脂肪酸や、その塩、酸アミドは、同様な銀超微粒子/安定化剤複合体粒子を容易に形成することが実験的に確認された。なかでも、炭素数9〜20の脂肪酸やその塩、酸アミドが好ましく、特にノナン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸またこれらの塩、酸アミドなどは、比較的安価でポリエチレングリコールに溶解しやすく、かつ、前記複合体を形成しやすいので好ましい。
【0039】
次に、前記化合物を用いた本発明に係る銀超微粒子の製造方法について説明する。
【0040】
まず、銀塩と安定化剤を、前記ポリエチレングリコールとともに加熱し、銀塩を還元してポリエチレングリコール中で銀超微粒子を生成させる。ここで、銀塩は、粉末状、顆粒状など固体の形でもよいが、水溶液やアルコール溶液などの溶液にして用いてもよい。
【0041】
具体的には、例えば、ポリエチレングリコールに安定化剤を混合して溶解させる。ポリエチレングリコールが常温で固体の場合はポリエチレングリコールと安定化剤の混合物を加熱して溶融させる。次いで銀塩を加えて溶解し、攪拌しつつ所定時間加熱反応させ、銀塩を還元して銀超微粒子を生成させる。あるいはポリエチレングリコールに安定化剤と銀塩を混合し、攪拌しつつ溶融し、反応させてもよい。
【0042】
加熱は、50〜150℃程度の温度で行うことが望ましい。50℃より低いと、反応が遅く、効率が悪い。150℃より高い温度で加熱してもよいが、あまり高温になると突沸の危険があり、またコストも高くなる。好ましくは70〜100℃程度である。加熱時間は、ポリエチレングリコールの種類や加熱温度にもよるが、通常およそ1分〜120分程度である。
【0043】
また、ポリエチレングリコールに対する銀塩の量は、銀塩の種類やポリエチレングリコールの分子量などによっても異なるが、ポリエチレングリコール1Lに対し金属換算で、およそ0.01〜10molとすることが望ましい。0.01mol/Lより低濃度では、生産効率が悪い。また10mol/Lより高濃度では、生成粒子が凝集しやすく、超微粒子が得られにくくなる。好ましくは、0.05〜5mol/Lの範囲である。
【0044】
また、安定化剤の添加量は、安定化剤の種類、銀塩の濃度等によって適宜調整されるが、金属銀の重量に対して0.5〜500重量%程度が望ましい。より好ましくは、1.0〜200重量%程度添加される。
【0045】
前記銀塩の還元反応は、反応溶液が酸性であると、開始しないか、進みにくい傾向がある。この場合、反応溶液にアンモニアや水酸化アルカリ等の塩基を添加すると、反応が促進されるので、前記銀塩の還元反応は、塩基の存在下で反応させることが好ましい。また、銀塩として銀アンモニウム錯体を用いるか、安定化剤として、脂肪酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩を用いることによっても、速やかに還元反応を生じさせることができる。この場合には塩基を更に添加する必要はないが、添加することにより反応を促進させることができる。なお、このように反応時に塩基成分が存在していると、脂肪酸銀が生成しやすくなることにより、前記銀超微粒子/脂肪酸のナノ複合体粒子の形成も促進されると考えられる。
【0046】
このような反応を経て得られた銀超微粒子は、反応溶液から分離せずに、分散液としてそのまま使用に供することもできる。この場合、必要に応じてポリエチレングリコールや安定化剤の除去、濃縮、希釈、溶媒置換等の操作を行い、分散液の濃度、組成、粘度特性等を適宜調整する。また樹脂やインク等に添加剤としてそのまま混合することもできる。
【0047】
一方、前記還元反応を経て得られた銀超微粒子を反応溶液から回収する場合には、通常の濾過装置や遠心分離器等を用いて濾過、又は分離して、捕集する。特に前述の銀超微粒子/脂肪酸自己集合複合体が生成する場合は、固液分離が容易になるため、中空糸などを用いても簡単に濾過、捕集することができる。捕集して得られた複合体は、銀超微粒子同士の凝集がおこりにくく、取扱いが容易で、また再分散性も極めて優れている。必要により濾過、分離に先立って、水等で洗浄することにより、ポリエチレングリコールを除去してもよい。銀超微粒子を安定な状態で保存するためには、安定化剤は少なくとも一部は残留させることが望ましいが、過剰の安定化剤はアルコール等で洗浄することにより、除去することができる。捕集した銀超微粒子は、所望により洗浄、乾燥して、粉末状とすることができる。
【0048】
そして、捕集して得られた粒子又は乾燥粉末(銀粉末)は、別の分散媒に分散させて使用することができる。分散媒としては限定はなく、通常使用される水や、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、テルペン系溶剤、石油系溶剤、炭化水素系溶剤などの溶剤類、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂類、これらの混合物などが使用される。用途に応じて適切な分散媒を用いることにより、分散性、安定性、塗布性等諸特性の極めて優れた、ペースト状、塗料状またはインク状分散液を得ることができる。必要により樹脂や可塑剤等により粘度特性を調整したり、他の金属粉末や、ガラス粉末、界面活性剤、その他この種の分散液に通常使用される添加剤を配合してもよい。
【0049】
このような分散液を用いて導電被膜を形成するには、基板にスピンコート、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、転写印刷法、その他種々の方法で前記銀超微粒子分散液を塗布し、加熱して銀超微粒子を焼結させる。本発明により得られる銀超微粒子は極めて焼結し易いので、500℃以下の低温、例えば100〜300℃程度でも、緻密で導電性が高く、しかも微細であるために極めて薄い電極、配線、透明導電膜、カラーフィルタ等を形成することができる。また低温焼成が可能なため、基板としてガラス、樹脂、ITOなどの耐熱性の低い基板に適用することもでき、しかもポリマー系導体ペーストの硬化温度と同程度の低温で、高温焼成タイプの導体ペーストに匹敵する高い導電性を得ることができる。
また、この銀超微粒子は、通常の導電性粉末を用いた厚膜導体ペーストや、導電性接着剤に、導電性向上剤あるいは焼結促進剤として添加することもできる。また、この銀超微粒子を分散媒に分散させた本発明の銀超微粒子分散液を用いると、セラミック、カーボン、有機ポリマー等の担体の表面に、均一に銀超微粒子を担持させることができ、触媒、吸着剤、吸収剤、抗菌剤、医薬品の製造にも有用である。
【0050】
以上により、本発明の製造方法では、比較的低温、望ましくは100℃以下の低い温度で、また比較的高い銀塩/ポリオール濃度で、効率的に銀超微粒子を製造することができ、この方法により、平均粒径が1nm〜100nm以下、とりわけ数nm〜数十nmのオーダーで粒度分布が狭く、かつ保存安定性に優れた銀超微粒子及び銀粉末を得ることができるとともに、この銀超微粒子等を安価に、かつ工業的規模で生産することができる。
また、反応溶液からの分離、回収が容易で、樹脂や溶剤等の分散媒への再分散が優れ、高度に分散した分散液が得られるような銀超微粒子及び銀粉末を得ることができ、特に、分散安定性に優れ、室温でも長期保存が可能な銀超微粒子分散液を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例として銀超微粒子の製造及びその評価を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
まず、平均分子量2,000のポリエチレングリコール(PEG2000)1.0Lに、ステアリン酸を、銀イオンに対してモル比で20%となるように混合し、80℃で溶解させた。
この溶液に硝酸銀の1M水溶液100mLを混合し、80℃で10分間攪拌して溶解させた後、濃アンモニア水10mLを添加して、更に30分間攪拌を続けて還元反応を行わせた。
反応終了後、粘稠な褐色のスラリー状液体が得られ、冷却されると固化した。これを水およびメタノールで洗浄してポリエチレングリコールと脂肪酸類の一部を除去し、中空糸フィルターを用いて固液分離を行い、乾燥して粉末を得た。得られた生成物である粉末について、下記のような解析および評価を行った。
【0053】
[生成物]
得られた粉末について、X線回折計(リガク社製ミニフレックス)により解析を行ったところ、X線回折パターンから、金属銀が生成していることを確認した。また透過型電子顕微鏡(日本電子分光社製TEM)による観察とGCMS(Agilent社製GCMSシステム)分析により、長さ2〜3μmのロッド状に自己集合したステアリン酸の表面に、約10〜20nmの球状銀超微粒子が単分散状態で付着したナノ複合体を形成していることを確認した。TEM像を図1に示すとともに、この粉末の性状について表1に示す。なお、表1中、粉末の性状については、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認されたものについては「ナノ複合体粒子」とし、ナノ複合体粒子は形成しないが、銀超微粒子が得られたものについては「超微粒子」とし、凝集して銀超微粒子が得られなかったものについては「凝集体」として記載した。
[安定性]
また、安定性を調べるための試験(安定性試験)として、得られた粉末を空気中、室温で1ヶ月間放置した後の経時的変化として、前記[生成物]で調べた項目と同じ項目について調べたところ、銀粒子の性状、TEM像などに変化が見られないことが確認された。結果を表1に示す。なお、表1中、経時的変化がみられないものについては「変化なし」とし、凝集が観察されたものについては「凝集」とし、安定性試験の前段階である粉末回収時に、生成物がすでに凝集していたものについては、安定性試験を行わず、「−(不実施)」)として記載した。
[再分散性]
また、再分散性を調べるための試験(再分散性試験)として、得られた粉末0.5gを100mLのブチルカルビトールに添加し、超音波で2分間分散処理を行った。その後、分散処理を行った溶液に対し、粒度分布測定(堀場製作所製LB550)を行ったところ、良好に分散していることを確認した。また、この溶液を室温で1週間放置したところ、変化は見られなかった。結果を表1に示す。なお、表1中、粉末が分散液に良好に分散しているものについては「良好」とし、粉末が分散せず、凝集しているものについては「凝集」として記載した。
【表1】

【0054】
〔実施例2〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、ノナン酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にノナン酸を使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0055】
〔実施例3〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、ラウリン酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にラウリン酸を使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0056】
〔実施例4〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、パルミチン酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にパルミチン酸を使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0057】
〔実施例5〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、オレイン酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にオレイン酸を使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0058】
〔実施例6〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、リノール酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にリノール酸を使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0059】
〔実施例7〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、ステアリン酸ナトリウムを添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にステアリン酸ナトリウムを使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0060】
〔実施例8〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、ステアリン酸に代わる脂肪酸類として、ステアリン酸アミドを添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にステアリン酸アミドを使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0061】
〔実施例9〕
実施例8の製造方法において、攪拌時間を60分間として濃アンモニア水を添加しないで行う以外は同様に行い、得られた粉末についての評価は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、実施例8に比べ、反応速度は遅かったが、濃アンモニア水を添加しないで製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0062】
〔実施例10〕
実施例1の製造方法において、硝酸銀の代わりに、硝酸銀に代わる銀塩として、銀アンモニウム錯体を添加し、また濃アンモニア水を添加しないで行う以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、銀塩に銀アンモニウム錯体を使用して製造された粉末の場合でも、安定化剤のロッドの表面に、銀超微粒子が単分散状態で付着している銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0063】
〔実施例11〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、脂肪酸類以外の安定化剤としてポリビニルピロリドンを銀イオンに対してモル比で27%となるように添加するとともに、粉末を固液分離の代わりに遠心分離により分離させる以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤にポリビニルピロリドンを使用して製造された粉末の場合では、ナノ複合体粒子は形成しないが、銀超微粒子の生成が確認された。また、安定性試験でも、銀粒子の性状、TEM像などに変化は見られなかった。また、再分散性試験でも、良好に分散しており、実施例1と同様、1週間放置した後においても分散液に変化は見られないことを確認した。
【0064】
〔比較例1〕
実施例1の製造方法において、脂肪酸類を添加しないものとして、ステアリン酸を添加しないで行う以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、安定化剤を添加しないで製造された粉末の場合では、ナノ複合体粒子は形成しないが、銀超微粒子の生成が確認された。しかし、安定性試験では、銀粒子の性状、TEM像などに変化が見られ、銀粒子の凝集が観察された。また、再分散性試験でも、銀粒子の凝集が観察された。
【0065】
〔比較例2〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、総炭素数3のプロピオン酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、プロピオン酸を使用して製造された粉末の場合では、銀粒子が凝集して銀超微粒子が確認されなかった。また、再分散性試験でも、銀粒子の凝集が観察された。
【0066】
〔比較例3〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、総炭素数5の吉草酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、吉草酸を使用して製造された粉末の場合でも、銀粒子が凝集して銀超微粒子が確認されなかった。また、再分散性試験でも、銀粒子の凝集が観察された。
【0067】
〔比較例4〕
実施例1の製造方法において、ステアリン酸の代わりに、3級脂肪酸であるネオデカン酸を添加する以外は同様に行い、得られた粉末についての評価も実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
その結果、ネオデカン酸を使用して製造された粉末の場合でも、銀粒子が凝集して銀超微粒子が確認されなかった。また、再分散性試験でも、銀粒子の凝集が観察された。
【0068】
〔実施例12〕
実施例1の製造方法において、PEG2000に代えて、平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)を用い、安定化剤としてステアリン酸を用いて、実施例1と同様に反応を行った。濃アンモニア水を添加した後、20分経過したとき水20mLを添加して、反応を終結させた。このとき銀超微粒子が生成したか否かを調べたところ、銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。
【0069】
〔実施例13〕
実施例12の製造方法において、PEG600に代えて、平均分子量1000のポリエチレングリコール(PEG1000)を用いる以外は同様に行い、実施例12と同様、銀超微粒子が生成したか否かを調べたところ、銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。
【0070】
〔実施例14〕
実施例12の製造方法において、PEG600に代えて、平均分子量4000のポリエチレングリコール(PEG4000)を用いる以外は同様に行い、実施例12と同様、銀超微粒子が生成したか否かを調べたところ、銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子の生成が確認された。
【0071】
〔比較例5〕
実施例12の製造方法において、PEG600に代えて、エチレングリコールを用い、安定化剤としてステアリン酸を使用して、実施例12と同様に反応を行った。濃アンモニア水を添加した後、20分経過してもほとんど反応しなかった。更に加熱を続けると、銀イオンは還元されるものの、凝集して銀超微粒子の安定な分散体は得られなかった。
【0072】
〔比較例6〕
実施例12の製造方法において、PEG600に代えて、平均分子量300のポリエチレングリコール(PEG300)を用い、安定化剤としてステアリン酸を使用して、実施例12と同様に反応を行った。比較例5と同様、濃アンモニア水を添加した後、20分経過してもほとんど反応しなかった。更に加熱を続けると、銀イオンは還元されるものの、凝集して銀超微粒子の安定な分散体は得られなかった。
【0073】
〔実施例15〕
PEG2000 1.0Lにステアリン酸を銀イオンに対してモル比で20%となるように混合し、80℃で溶解させた。この溶液に硝酸銀の3M水溶液500mLを混合し、80℃で10分間攪拌して分散させた後、室温まで放冷した。濃アンモニア水50mLを添加し10分攪拌し、分散させた後、80℃で20分攪拌を続け、粘稠な褐色のスラリー状液体を得た。冷却後、水およびメタノールで洗浄、中空糸フィルターを用いて固液分離を行い、実施例1と同様の銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子を得た。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1において得られた銀超微粒子/安定化剤ナノ複合体粒子のTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀塩と、平均分子量400〜20,000のポリエチレングリコールと、安定化剤とを混合し、加熱して銀超微粒子を生成させることを特徴とする銀超微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールの平均分子量が600〜6,000であることを特徴とする請求項1に記載の銀超微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記銀超微粒子を塩基の存在下で生成させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銀超微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記安定化剤が、総炭素数8〜30の飽和または不飽和直鎖脂肪酸、これらの脂肪酸の塩およびこれらの脂肪酸の酸アミドから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銀超微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の製造方法で得られた前記銀超微粒子を反応溶液から回収した後、乾燥して得られる粉末であり、平均粒径1〜100nmの銀超微粒子からなることを特徴とする銀粉末。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法で得られた前記銀超微粒子を反応溶液から回収した後、乾燥して得られる粉末であり、前記安定化剤が自己集合したロッドの表面に平均粒径1〜100nmの銀超微粒子が単分散状態で付着しているナノ複合体粒子からなることを特徴とする銀粉末。
【請求項7】
請求項5または請求項6で得られた前記銀粉末を、分散媒に再分散させてなることを特徴とする銀超微粒子分散液。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348345(P2006−348345A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176188(P2005−176188)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】