説明

銅−錫合金めっき

【課題】ノーシアンタイプのめっき浴で製造した銅−錫合金めっき皮膜の欠点(めっき皮膜厚が2μm以上になると、連続的衝撃に対して非常に早い段階でめっき皮膜が磨耗し、あるいは剥離する)を解消する、及び経時による変色の問題を改善する装飾用、服飾用の用途に適した銅−錫合金めっきの提供。
【解決手段】少なくともη―Cu6.26Sn5相を有する銅―錫合金めっきであって、X線回折によるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)との強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上20以下であり、さらに好ましくはβ―Sn相を有し、X線回折によるβ−Snの(211)面に相当する2θピーク積分強度I(211)とβ−Snの(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)との強度比[I(101)/I(211)]が、1.0以上20以下である銅―錫合金めっき。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用・服飾用の用途に適した耐連続衝撃性、耐変色性に優れた銅−錫合金めっきに関するものである。
【背景技術】
【0002】
装飾用・服飾用の表面処理としては、従来、ニッケルめっきが広く使用されてきたが、ニッケルめっきには、ニッケルめっきに直接接触する人の皮膚に、かぶれや炎症を起こす可能性があるというニッケルアレルギーの問題が指摘されており、これに代わる代替技術が求められてきている。こうした背景の中、ニッケルめっきに替わる技術として銅−錫合金めっきが注目されてきている。
【0003】
工業的に銅−錫合金めっきを行うめっき浴の殆どは、シアン−錫酸浴、シアン−ピロリン酸浴などシアンイオンを含有するめっき浴(以下、シアン浴という)を使用するものであり、排水処理規制が厳しいため処理にコストがかかり、また安全な環境で作業するという見地からも問題があった。したがって、シアンイオンを配合しない(以下、ノーシアンという。)銅−錫合金めっき浴が、特開2004-91882号公報(特許文献1)、特開2001-342592号公報(特許文献2)、特開2002-80993号公報(特許文献3)、特開2002-241987号公報(特許文献4)、特開2004-35980号公報(特許文献5)等に提案されている。
【0004】
しかし、ノーシアンタイプ浴で製造した銅−錫合金めっき皮膜の内、銅及び錫の含有量が、銅/錫(wt%比)=20/80〜80/20の範囲の銅−錫合金めっき皮膜の場合、めっき皮膜厚が2μm以上になると、めっき直後の一次密着性は良好でも、めっきに連続的に衝撃を加えていくと、非常に早い段階でめっき皮膜が磨耗するか、あるいは衝撃により剥離するという問題(以下、これらを総称して「耐連続衝撃性」の問題という)があることが分かった。また、このような現象は、シアン浴を使用して電気めっきにより形成された銅−錫合金めっきよりも、ノーシアン浴を使用して電気めっきにより形成された銅−錫合金めっきで特に顕著にみられることも分かった。
【0005】
さらには、ノーシアン浴中で電気めっきにより形成した銅−錫合金めっきには、経時により変色を生じやすいという問題(以下、「耐変色性」の問題という)もあった。
【特許文献1】特開2004-91882号公報
【特許文献2】特開2001-342592号公報
【特許文献3】特開2002-80993号公報
【特許文献4】特開2002-241987号公報
【特許文献5】特開2004-35980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、上記したようなノーシアンタイプ浴で製造した銅−錫合金めっき皮膜の場合に、めっき皮膜厚が2μm以上になると、めっき直後の一次密着性は良好でも、めっきに連続的に衝撃を加えていくと、非常に早い段階でめっき皮膜が磨耗するか、あるいは衝撃により剥離してしまうという耐連続衝撃性の問題を解決すること、及び経時による変色の問題を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、上記課題を解決するために形成される銅―錫合金めっきの結晶構造と品質特性に関して鋭意研究を行った結果、特定の結晶構造を有する銅―錫合金めっきが耐連続衝撃性及び耐変色性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
ノーシアンのめっき浴による銅―錫合金めっきの結晶構造自体を解析した先行技術例としては、例えば、前記特許文献1及び特許文献4において結晶構造解析が行われているが、特許文献1では、図1に比較例と実施例3のX線回折パターンがただ示されているのみであり、また、特許文献4に関しては、銅錫合金のη相とβ―Snとの共晶構造であるということと、β―SnのX線回折線(図4)が示されているのみで、η相(特許文献4中ではCu6Sn5)のX線回折線は記載されていない。このように、従来の研究では、ノーシアンのめっき浴でめっきした銅―錫合金めっきに関して、本発明のような、ノーシアン銅―錫合金の結晶構造に着目し、その結晶構造と品質特性(耐連続衝撃性、耐変色性)に関して記載したものはなく、本発明者等が、銅―錫合金の結晶構造と、品質特性の関係を鋭意検討した結果、始めてノーシアンタイプのめっき浴で電気めっきにより形成させた銅−錫合金めっきの内、特定の結晶構造を有する銅―錫合金めっきが、耐連続衝撃性、耐変色性の向上に有効であることを見出し、本発明を開発するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の構成よりなる銅―錫合金めっきを提供するものである。
[1]少なくともη―Cu6.26Sn5相を有する銅―錫合金めっきであって、X線回折によるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)との強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上20以下である銅―錫合金めっき。
[2]さらにβ―Sn相を有し、X線回折によるβ−Snの(211)面に相当する2θピーク積分強度I(211)とβ−Snの(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)との強度比[I(101)/I(211)]が、1.0以上20以下である請求項1に記載の銅―錫合金めっき。
[3]銅―錫合金めっきがシアンを含有しない銅―錫合金メッキ浴で電気めっきにより製造された銅―錫合金めっきである請求項1または2に記載の銅錫合金めっき。
[4]X線回折により求まるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)との強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上10以下である請求項1〜3のいずれかに記載の銅―錫合金めっき。
[5]銅―錫合金めっき中の銅及び錫の含有量が、銅/錫(重量%比)=20/80〜80/20である請求項1〜4のいずれかに記載の銅―錫合金めっき。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、少なくともη―Cu6.26Sn5相を有する銅―錫合金めっきであって、X線回折によるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)との強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上20以下であり、さらに好ましくはβ―Sn相も有し、X線回折によるβ−Snの(211)面に相当する2θピーク積分強度I(211)とβ−Snの(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)との強度比[I(101)/I(211)]が、1.0以上20以下である銅―錫合金めっきを提供したものである。
本発明によれば、ノーシアンタイプのめっき浴で製造した銅−錫合金めっき皮膜の欠点である、めっき皮膜厚が2μm以上になると、連続的衝撃に対して非常に早い段階でめっき皮膜が磨耗し、あるいは剥離するという問題が解消され、また経時による変色の問題も改善することができる。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、銅―錫合金めっきの結晶構造が、少なくともη―Cu6.26Sn5よりなり、さらには、X線回折によるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピークの積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)の強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上20以下である時、はじめて優れた、耐連続衝撃性及び耐変色性が得られる。
【0012】
銅―錫合金めっきの結晶構造が、η―Cu6.26Sn5の構造を有しないか、あるいはX線回折によるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピークの積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)の強度比[I(110)/I(101)]が、0.9未満であるか20を超える時、耐連続衝撃性または耐変色性が劣ったものとなり本発明には適さない。
より、好ましくは、強度比[I(110)/I(101)]が1.7以上10以下、さらに好ましくは、3.0以上7以下である。
【0013】
さらに、本発明の銅―錫合金めっきには、η―Cu6.26Sn5相のほかに、さらに特定のβ―Sn相を有することが好ましい。β―Snの(211)面に相当する2θピークの積分強度I(211)とβ―Snの(101)面に相当する2θピークの積分強度I(101)との強度比[I(101)/I(211)]が、1.0以上20以下であることが耐色性の観点から好ましく、さらに最も好ましくは、2以上10未満である。
【0014】
ここでいうη―Cu6.26Sn5、β−Sn、及びこれら結晶の(hkl)面、2θ等は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のデータ−ベースを用いて、η―Cu6.26Sn5:(ICDD No.47-1575)、β―Sn:(Tin ICDD No.4-673)により同定した。
【0015】
X線回折方法自体は、銅−錫合金のめっき結晶の同定に適した装置及び方法であれば、特に本発明では限定はしないが、本発明では以下の装置および条件で測定し、前述のICDDのデータベースを用い同定した。
装置:Phillips製 X'Pert-MPD、線源:Cu Kα、管電圧×管電流:40kV×50mA。
【0016】
また、本発明における銅−錫合金めっきの銅及び錫の含有量は、銅/錫組成比(wt%比)で、銅/錫=20/80〜80/20とする。組成比がこの範囲から外れると、耐連続衝撃性及び耐変色性への向上効果が得られない。より好ましくは、銅−錫合金めっきの銅/錫組成比が銅/錫(wt%比)=20/80〜60/40である。
【0017】
本発明に適用される銅―錫合金めっき皮膜の厚さ自体は特に限定されないが、本発明の効果が特に顕著に現れるのが、めっき厚が2μm以上35μm未満の場合である。さらに、本発明の効果が最も顕著な膜厚は、3〜15μmである。
【0018】
本発明による特定の結晶構造を有する銅−錫めっきの形成方法は、シアンを含有しない銅―錫合金めっき浴により電気めっきで製造されたものでありさえすればよく、その製造方法は特に限定されない。
【0019】
例えば、少なくとも可溶性銅塩及び可溶性錫塩、有機酸及び/または無機酸及び/またはこれらの可溶性塩、さらに、分子中に炭素原子と窒素原子及び/または硫黄原子とから選ばれる原子を含有する物質よりなる添加剤から構成されるシアンを含有しない銅−錫合金めっき浴であれば、いずれのものも使用することが出来る。これらのノーシアンタイプのめっき浴を使用し電気めっきを行うか、あるいは電気めっき後に、ベーキング処理等を行うことにより製造することが出来る。
【0020】
ここでいう可溶性銅塩としては、銅のシアン塩以外の可溶性銅塩であれば何を利用してもよく、特に限定されない。例えば、第一銅塩としては、酸化第一銅、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅が挙げられ、第2銅塩としては、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、炭酸第二銅、メタンスルホン酸第二銅等の有機スルホン酸第二銅、スルファミン酸第二銅、ピロリン酸第二銅、リン酸第二銅、酢酸第二銅、クエン酸第二銅、グルコン酸第二銅、酒石酸第二銅、乳酸第二銅、コハク酸第二銅、イセチオン酸第二銅、ホウフッ化第二銅、ギ酸第二銅、ケイフッ化第二銅等が挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種の可溶性銅塩が使用できる。
これらの中でも、酸化第一銅、硫酸第二銅、ピロリン酸第二銅、メタンスルホン酸第二銅が特に好ましい。
【0021】
可溶性錫塩としては、錫のシアン塩以外の可溶性錫塩であれば何を利用してもよく、特に限定されない。例えば、第一錫塩としては、メタンスルホン酸第一錫等の有機スルホン酸第一錫、ピロリン酸第一錫、塩化第一錫、硫酸第一錫、酢酸第一錫、スルファミン酸第一錫、グルコン酸第一錫、酒石酸第一錫、酸化第一錫、ホウフッ化第一錫、イセチオン酸第一錫、コハク酸第一錫、乳酸第一錫、クエン酸第一錫、リン酸第一錫、ヨウ化第一錫、ギ酸第一錫、ケイフッ化第一錫が挙げられ、第2錫塩としては、錫酸ナトリウム、錫酸カリウムが挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種の可溶性錫塩が使用できる。
これらの中でも、酸化第一錫、ピロリン酸第一錫、硫酸第一錫、メタンスルホン酸第一錫が特に好ましい。
【0022】
有機酸及び/または無機酸及び/またはこれらの可溶性の塩としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、酢酸、グルコン酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、トリカルバル酸、フェニル酢酸、安息香酸、アニス酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ポリリン酸、ヘキサメタリン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、硝酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、クロロプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−スルホ酢酸、2−スルホプロピオン酸、3−スルホプロピオン酸、スルホコハク酸、スルホマレイン酸、スルホフマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホサリチル酸、ベンズアルデヒド酸、p−フェノールスルホン酸、またはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及びモノエチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等から選ばれる有機アミン塩から選ばれる1種または2種以上を使用することが出来る。
これらの中でも、硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、スルホコハク酸、ピロリン酸及びこれらの可溶性塩が好ましく、中でも、硫酸、メタンスルホン酸、ピロ燐酸及びこれらの可溶性塩が特に好ましい。塩としては、これらのナトリウム塩またはマグネシウム塩またはカリウム塩が好ましい。
【0023】
分子中に炭素原子と窒素原子及び/または硫黄原子とから選ばれる原子を含有する物質よりなる添加剤(光沢剤ともいう。)としては、例えば、メチオニン及び/またはメチオニン誘導体、チオ尿素またはその誘導体、2−メルカプト基含有芳香族化合物、アミン誘導体、エピハロヒドリン及びグリシジルエーテル系化合物の混合物及び/またはそれらの一部あるいは全部が反応した反応生成物、ジチオグリコール系添加剤等が挙げられる。
これらの光沢剤のなかでも、分子中に炭素原子と窒素原子を含有する有機物、及び/または分子中に炭素原子と硫黄原子を含有する有機物が特に好ましく、特に炭素原子と窒素原子を含有する有機物が最も好ましい。
【0024】
さらに、上記めっき浴に必要に応じて、その他の添加剤として、既に公知の界面活性剤、応力減少剤、電導性補助剤、酸化防止剤、消泡剤、pH緩衝剤、皮膜改質剤、他の光沢剤も適宜選択して添加することもできる。
【0025】
また、本発明の銅−錫合金めっきの基材となる被めっき物については、特に制限はなく通電可能な物で有ればよい。例えば、鉄、ステンレス、鋼、銅、真鍮等の金属素材、あるいは前記金属素材、またはセラミックあるいはプラスチック素材に予めなんらかの金属めっきが施された物等が挙げられる。
【0026】
前記金属素材、またはセラミックあるいはプラスチック素材に予め行う金属めっきの種類、及びこれを単層でおこなうのか複層で行うかについても、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択できる。
【0027】
ベーキング処理を行う場合のベーキング条件としては、本発明の結晶構造になるように適宜選択すればよいが、例えば、基材がセラミックまたは、金属素材の場合、下記式(1)
【数1】

(式中、KMは雰囲気温度(℃)であって、次式:60℃≦KM≦250℃の条件を満たし、Tはベーキング時間(hour)である。)を満足するベーキング条件が好ましく、プラスチック素材の場合は、下記式(2)
【数2】

(式中、KPは雰囲気温度(℃)であって、次式:60℃≦KP≦150℃の条件を満たし、Tはベーキング時間(hour)である。)を満足するベーキング条件が好ましい。
【0028】
本願発明による銅−錫合金めっきは、服飾品・装飾品用のめっきに好適に使用できるが、電子・電気部品等その他用途への適用も何ら制限するものではない。
【実施例】
【0029】
以下に実施例及び比較例を挙げて本願発明を説明するが、本願発明は以下の記載により限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した添加剤及びノーシアンタイプ銅−錫合金めっき浴は下記の通りである。
【0030】
(1)添加剤(A):
温度計、蛇管冷却機及び撹拌機をセットした密閉式容器に水300mLとピペラジン1モルを投入し、撹拌溶解してピペラジン水溶液(a)を得た。また、エピクロロヒドリン1.0モル、エチレングリコールジグリシジルエーテル1.2モルを予め別容器で混合し混合物(b)を得た。この混合物(b)を撹拌状態で少量ずつピペラジン溶液(a)に投入後冷却し、水を添加し全量を2Lとし、添加剤(A)を得た。
【0031】
(2)ノーシアンタイプ銅−錫合金めっき浴
以下のノーシアンタイプのめっき浴(1)、(2)、(3)を使用した。
【0032】
ノーシアンタイプ銅−錫合金めっき浴(1):
ピロ燐酸カリウム: 350g/L
ピロ燐酸第二銅 : 3.5g/L
ピロ燐酸第一錫 : 30g/L
pH: 7.5
メタンスルホン酸: 60g/L
添加剤(A): 1ml/L
【0033】
ノーシアンタイプ銅−錫合金めっき浴(2):
ピロ燐酸カリウム: 350g/L
ピロ燐酸第二銅 : 2.5g/L
ピロ燐酸第一錫 : 30g/L
pH: 7.5
メタンスルホン酸: 60g/L
添加剤(A): 1ml/L
【0034】
ノーシアンタイプ銅−錫合金めっき浴(3):
ピロ燐酸カリウム: 350g/L
ピロ燐酸第二銅 : 1.5g/L
ピロ燐酸第一錫 : 30g/L
pH: 7.5
メタンスルホン酸: 60g/L
添加剤(A): 1.5ml/L
【0035】
実施例1
予め銅めっき10μm(銅≒100wt%)が施されたプラスチック(ABS樹脂)素材(100mm×650mm)に、浸漬脱脂(エースクリーン5300(奥野製薬工業(株)製):50g/L,50℃,0.5分)を行い、水洗後、さらに電解脱脂(エースクリーン5300(奥野製薬工業(株)製):50g/L,50℃,5V,1分),そして水洗を行った。その後、エッチング処理(硫酸30ml/L、酢酸30ml/L、過酸化水素水40ml/L、室温、15秒)後、さらに3.5%塩酸溶液に室温で1分浸漬後、水洗を行い、めっき浴(1)中で所定皮膜厚になるようにめっき時間を調整し、めっき(26℃、電流密度1.0A/dm2、揺動(8cm/秒))行った後、水洗、乾燥を行った。その後、直ぐにベーキング(80℃(大気雰囲気炉))を8時間行い、実施例1のめっき品を得た。
このめっき品のX線回折による積分強度比、皮膜厚、密着性、耐連続衝撃性、耐変色性を下記評価法により評価し、表1にまとめて示した。
【0036】
[X線回折による積分強度比]
下記装置及び条件でX線回折を行い、図2に示したX線回折パターンを得た。このX線回折パターンより、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のデータ−ベースにある、η―Cu6.26Sn5:(ICDD No.47-1575)の(101)面に相当する積分強度I(101)と(110)面に相当する積分強度I(110)を求め、強度比[I(110)/I(101)]を計算した。
また、β―Sn:(Tin ICDD No.4-673)も同様に、β−Snの(211)面に相当する積分強度I(211)と(101)面に相当する積分強度I(101)を求め、強度比[I(101)/I(211)]を計算した。
【0037】
[X線回折条件]
装置:Phillips製 X’Pert-MPD、
線源:Cu Kα、
管電圧×管電流:40kV×50mA。
【0038】
[皮膜厚]
めっき品の断面を電子顕微鏡で観察し、めっき厚を測定した。
【0039】
[密着性]
めっきの表面を、2mm碁盤目にカットし、その後テープ剥離を行った、その時のめっき剥離の有無を目視で下記の基準により評価した。
◎:めっき剥離無し、
△:わずかなめっき剥離有り、
×:めっき剥離大。
【0040】
[連続衝撃性]
めっき品を30mm×30mmに剪断し、そのめっき面の裏面に約135gの重りを貼り付けたものを6個準備する。直径7mmのセラミックビーズと正4面体(一辺14mm)のセラミックの混合物が容量で50%程度入った水平回転式六角筒状バレル(図1参照)の中に、先ほど準備しためっき品を2個投入した後、1分間に8回転の回転数でバレルを回転させる。観察は、1時間ごとにバレルを停止させ、めっき品を取り出し、めっきの剥離あるいはワレがないか観察し、はじめてワレ及び/または剥離が生じた時間を最大耐久時間として記録する。この試験を3回繰り返し、計6個の最大耐久時間の平均を計算し、その平均時間を評価の対象とし、以下の評価基準により判断した。
◎:12時間以上、
○+:8時間以上12時間未満、
○:6時間以上8時間未満、
△:4時間以上6時間未満、
×:4時間未満。
【0041】
[耐変色性]
室内で3週間放置し、7日後、14日後及び21日後の外観の変色の有無を観察し、下記の基準により評価した。
◎:21日経過後も変色無し、
○+:14日経過後変色無し、21日経過後変色有り、
○:7日経過後変色無し、14日経過後変色有り、
×:7日経過後に変色有り。
【0042】
実施例2
めっき浴(1)を使用し、ベーキング条件を80℃(大気雰囲気)で15分とした以外は、実施例1と同様の手順で、めっきを行い、実施例2のめっき品を得た。
このめっき品のX線回折による積分強度比、皮膜厚、密着性、耐連続衝撃性、耐変色性を実施例1と同様に評価し、表1にまとめて示した。
【0043】
実施例3
めっき浴(2)を使用した以外は、実施例1と同様の手順で、めっきを行い、実施例3のめっき品を得た。
このめっき品のX線回折による積分強度比、皮膜厚、密着性、耐連続衝撃性、耐変色性を実施例1と同様に評価し、表1にまとめて示した。
【0044】
実施例4
めっき浴(2)を使用し、ベーキング条件を80℃(大気雰囲気)で15分とした以外は、実施例1と同様の手順で、めっきを行い、実施例4のめっき品を得た。
このめっき品のX線回折による積分強度比、皮膜厚、密着性、耐連続衝撃性、耐変色性を実施例1と同様に評価し、表1にまとめて示した。
【0045】
実施例5
皮膜厚が20μmとなるようにめっき時間を長くしたこと以外は、実施例1と同様の手順で、めっきを行い、実施例5のめっき品を得た。
このめっき品のX線回折による積分強度比、皮膜厚、密着性、耐連続衝撃性、耐変色性を実施例1と同様に評価し、表1にまとめて示した。
【0046】
比較例1
めっき浴(3)を使用し、かつベーキングを行わなかった以外は、実施例1と同様の手順で、めっきをおこない、比較例1のめっき品を得た。
このめっき品のX線回折による積分強度比、皮膜厚、密着性、耐連続衝撃性、耐変色性を実施例1と同様に評価し、表1にまとめて示した。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例及び比較例で作製されためっき品の耐連続衝撃性評価に用いた水平回転式六角筒状バレルの概念図。
【図2】実施例1で得られためっきのX線回折パターン図であり、図中○はη―Cu6.26Sn5相、△はβ―Sn相、●はCu相、□はα−Sn相のパターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともη―Cu6.26Sn5相を有する銅―錫合金めっきであって、X線回折によるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)との強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上20以下である銅―錫合金めっき。
【請求項2】
さらにβ―Sn相を有し、X線回折によるβ−Snの(211)面に相当する2θピーク積分強度I(211)とβ−Snの(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)との強度比[I(101)/I(211)]が、1.0以上20以下である請求項1に記載の銅―錫合金めっき。
【請求項3】
銅―錫合金めっきがシアンを含有しない銅―錫合金メッキ浴で電気めっきにより製造された銅―錫合金めっきである請求項1または2に記載の銅錫合金めっき。
【請求項4】
X線回折により求まるη―Cu6.26Sn5の(101)面に相当する2θピーク積分強度I(101)とη―Cu6.26Sn5の(110)面に相当する2θピーク積分強度I(110)との強度比[I(110)/I(101)]が、0.9以上10以下である請求項1〜3のいずれかに記載の銅―錫合金めっき。
【請求項5】
銅―錫合金めっき中の銅及び錫の含有量が、銅/錫(重量%比)=20/80〜80/20である請求項1〜4のいずれかに記載の銅―錫合金めっき。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate